説明

ポリ乳酸樹脂層を含む積層体

【課題】押出コーティング加工が可能であり、更に好ましくは押出コーティング処理等に際し、優れた成形加工性と樹脂層アンカーコート処理等の付加的工程を経ずとも実用可能な層間接着強度を有するポリ乳酸樹脂積層体を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸樹脂からなる層(A)と、エチレンと不飽和カルボン酸エステルを構成単位として含む共重合体又はその共重合体を10重量%以上含む樹脂組成物からなる層(B)を積層してなる積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸樹脂層を含む積層体に関し、特に、ポリ乳酸樹脂層と、エチレンと不飽和カルボン酸エステルを構成単位として含む共重合体又はそれを含む樹脂組成物からなる層が積層されてなり、物品の包装に好適な積層フィルム・シート等の積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸樹脂は乳酸類の重合体であり、乳酸はデンプンや糖類など植物由来の原料を発酵させて得られる所謂再生可能資源であり、然も使用済み樹脂は、土、堆肥中で微生物により生分解されるため、近年、石油などの化石資源を原料とする従来の熱可塑性樹脂に替えて各分野での使用が注目されつつある。
【0003】
然も、比較的臭いが付着しにくい特性を有し、透明性に優れ、且つ比較的高い機械的強度を有するものを得ることができることから、食品、飲料、化粧品等の容器、包装フイルム、袋等の用途への使用が特に有望視され、多数の用途発明、改良発明等が提案されると共に一部は既に実用化されている。
例えば、特許文献1には、ポリ乳酸系樹脂を用い、コップ等のような比較的深絞りの容器類を、樹脂本来の透明性や剛性を維持したまま製造できる方法、該方法で得られた成形品の発明が開示されている。
又、特許文献2には、ラベルや包装用の用途に好適な低温収縮性に優れた透明性収縮フィルムの発明が記載されている。
【0004】
更に、ポリ乳酸樹脂に他種樹脂を組合せた積層フィルム等の積層体の発明も既に多数提案され、例えば、特許文献3には、ポリ乳酸系重合体からなる二軸延伸フィルムを基材層としこれに脂肪族−芳香族共重合ポリエステルをヒートシール層として積層してなる積層フィルムの発明が記載されている。
【0005】
各種食品や化粧品容器等の包装に用いる包装用フィルムや袋には、実際はポリ乳酸樹脂の単体樹脂からなるフィルムを用いることはむしろ少なく、該フィルムに対し補強的役割を果たす他種樹脂層を積層したり、ヒートシール性付与のため、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン共重合体(EVA,E(M)AA)、アイオノマー等よりなるヒートシール性樹脂層を積層するのが一般的である。
このような積層フィルムの積層方法には、ドライラミネート法、ウェットラミネート法、押出サンドラミネート法、押出コーティング法等があるが、製造コスト、効率面から押出コーティングが望ましい。
【0006】
ところが、ポリ乳酸樹脂フィルムはポリエステルフィルム等に比較して熱変形温度がやや低く、加熱時収縮率が大きい等に起因して、より低い樹脂温度で積層処理しなければならないため成形加工性に乏しく、アンカーコート剤を塗布してもポリエチレン等との押出コーティング加工は困難であり、然もやや剛性が高いこともあって他樹脂層との層間接着性に問題もあった。
【0007】
従って、従来は、ポリ乳酸樹脂フィルム面に予め溶剤型接着剤を使用し、乾燥後に接着させる、所謂、ドライラミネート法が一般的で、生産性に制限があった。
【0008】
またドライラミネート法を含め、アンカーコート剤を使用する方法では、製造コストが上昇するという問題を有する。
従って、従来必要とされていたアンカーコート剤等を使用することなく、成形加工性に優れ、層間接着性が良好なポリ乳酸樹脂積層フィルム等の積層体を容易且つ安価に押出コーティングによって製造する方法の出現が強く求められていた。
【0009】
【特許文献1】特開2005−319718号公報
【特許文献2】特開2005−220172号公報
【特許文献3】特開2002−273845号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明者等は上記要望を満たすべく鋭意研究を重ねた結果、ポリ乳酸樹脂に適当な成形温度を有する特定のエチレン系共重合体樹脂、又は該樹脂を特定量以上含有する樹脂組成物の層と、ポリ乳酸樹脂からなる層を積層することにより、成形加工性に優れ、アンカーコート処理等を施さずとも層間接着性が良好な積層体を得ることを見出し、この知見に基づき本発明を完成した。
【0011】
従って本発明の目的は、押出コーティング加工が可能であり、更に好ましくは押出コーティング処理等に際し、優れた成形加工性とアンカーコート処理等の付加的工程を経ずとも実用可能な層間接着強度を有するポリ乳酸樹脂積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、ポリ乳酸樹脂からなる層(A)と、エチレンと不飽和カルボン酸エステルを構成単位として含む共重合体又は該共重合体を10重量%以上含む樹脂組成物からなる層(B)を積層してなる積層体が提供される。
【0013】
又、前記エチレンと不飽和カルボン酸エステルを構成単位として含む共重合体の不飽和カルボン酸エステル成分含有量は4〜30重量%であることが好ましい。
【0014】
又、前記エチレンと不飽和カルボン酸エステルを構成単位として含む共重合体はエチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体又はエチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸エステル共重合体であることが好ましい。
【0015】
更に、前記層(B)が樹脂組成物層である場合に於いて、該樹脂組成物に於けるエチレンと不飽和カルボン酸エステルを構成単位として含む共重合体以外の樹脂成分がエチレン・不飽和カルボン酸共重合体、オレフィン系重合体から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0016】
又更に、本発明によれば、前記積層体の層(B)側の表面に更にヒートシール性樹脂層を含む少なくとも1層を積層してなる積層体が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明のポリ乳酸樹脂層を含む積層フィルム、シート等の積層体はポリ乳酸樹脂層に対し良好な接着性を有するのみならず、ヒートシール性樹脂層として用いてもよいポリエチレン等に対しても強い接着力を有するエチレンと不飽和カルボン酸エステルを構成単位として含む共重合体又は該共重合体を含む樹脂組成物の層を接着層に用いるため、成形加工性、特に押出コーティング加工性に優れ、アンカーコート処理等を施さずともポリ乳酸樹脂層との層間接着性に顕著に優れる。
このため、本発明の積層フィルム、シート、袋等の積層体は従来品に比べて高生産効率で且つ低製造コストとなり、食品、化粧品等の包装用フィルム、袋等に好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明に係る実施形態について詳細且つ具体的に説明する。
本発明の積層体に於いて、層(A)の構成樹脂であるポリ乳酸樹脂(PLA)としては、乳酸類の重合体であるポリ乳酸や乳酸類を主たる原料とする乳酸共重合体、例えば、乳酸・ヒドロキシカルボン酸共重合体や乳酸・脂肪族多価アルコール・脂肪族多塩基酸共重合体等を挙げることができる。
【0019】
乳酸類の具体例としては、例えば、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸又はそれらの混合物、或いは、乳酸の環状二量体であるラクチド等を挙げることができる。
【0020】
脂肪族多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1、3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオール等を挙げることができる。
これらは単独で使用しても、二種以上を組合せて使用してもよい。
【0021】
脂肪族多塩基酸としては、例えば、コハク酸、蓚酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族二塩基酸等を挙げることができる。
これらは単独で使用しても、二種以上を組合せて使用してもよい。
【0022】
脂肪族ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、6−ヒドロキシカプロン酸等を挙げることができる。
これらは単独で使用しても、二種以上を組合せて使用してもよい。
【0023】
又、少量のトリメチロールプロパン、グリセリンのような脂肪族多価アルコール、ブタンテトラカルボン酸のような脂肪族多塩基酸、多糖類のような多価アルコール類等を共存させて共重合させても良く、又ジイソシアネート化合物のような結合剤(高分子鎖延長剤)等を用いて分子量を上げても良い。
【0024】
このようなポリ乳酸樹脂の製造方法としては、例えば、1)乳酸又は乳酸と脂肪族ヒドロキシカルボン酸の混合物を原料として、直接脱水重縮合する方法、2)乳酸の環状二量体(ラクチド)を溶融重合する開環重合法、3)乳酸と脂肪族ヒドロキシカルボン酸の環状二量体、例えば、ラクチドやグリコラクチドとε−カプロラクトンを、触媒の存在下、溶融重合する開環重合法、4)乳酸、脂肪族二価アルコールと脂肪族二塩基酸の混合物を、直接脱水重縮合する方法、5)ポリ乳酸と脂肪族二価アルコールと脂肪族二塩基酸とのポリマーを、有機溶媒存在下に縮合する方法、6)乳酸を触媒の存在下、脱水重縮合反応を行うことによりポリエステル重合体を製造するに際し、少なくとも一部の工程で、固相重合を行う方法、等を挙げることができるが、その製造方法は特に限定されるものではない。
重合体はフィルム、シート等積層体に所定強度を付与するに足る分子量を有していることが必要で、重量平均分子量が3万〜100万程度のものが好ましい。
【0025】
本発明に於いては上記ポリ乳酸樹脂層(A)と積層される層(B)の構成樹脂としてエチレンと不飽和カルボン酸エステルを構成単位として含む共重合体(B−1)又は該共重合体(B−1)を10重量%以上含む樹脂組成物(B−2)が使用される。
共重合体(B−1)としては、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体や多元系のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体等を挙げることができる。
前記共重合体(B−1)での不飽和カルボン酸エステル成分としてはアクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、無水マレイン酸等の炭素数1〜20のアルキルエステルを挙げることができ、アルキル基としてより具体的には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、2−エチルヘキシル、イソオクチル等のアルキル基を例示することができる。
これらの内ではアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステル、特にアクリル酸又はメタクリル酸のメチル、エチル、イソブチルエステルが好ましい。
又、多元系のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体を用いる場合、不飽和カルボン酸成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、無水マレイン酸等を例示でき、特にアクリル酸又はメタクリル酸が好ましい。
【0026】
前記エチレンと不飽和カルボン酸エステルを構成単位として含む共重合体(B−1)は190℃、2160g荷重(JIS K7210に準拠)に於けるメルトフローレート(MFR)が0.5〜100g/10分、特に1〜50g/10分であり、不飽和カルボン酸エステル含有量が4〜30重量%、好ましくは9〜25重量%であることが層(B)に好適な接着強度を付与する観点から好ましい。
【0027】
また、前記共重合体(B−1)が更に不飽和カルボン酸単位を含む多元系共重合体である場合、その不飽和カルボン酸含有量は20重量%以下が好ましく、2〜12重量%がより好ましく、2〜6重量%が更に好ましい。
【0028】
尚、本発明では、他種樹脂との樹脂組成物の場合も含め該共重合体は不飽和カルボン酸エステル種や重合組成を異にする複数種を組み合わせたものでも良く、特に、共重合体(B−1)の場合はエステル種の異なる複数種の共重合体からなるものが積層加工時の溶融粘弾性特性や他樹脂との接着性向上の観点から好ましい。
【0029】
本発明に於いては層(B)を構成する樹脂としてエチレンと不飽和カルボン酸エステルを構成単位として含む共重合体(B−1)を10重量%以上含む樹脂組成物(B−2)も使用される。
該樹脂組成物に於いて、エチレンと不飽和カルボン酸エステルを構成単位として含む共重合体(B−1)の含有量が10重量%を下回る場合は、共重合体本来の特性が充分に樹脂組成物に反映されず接着性や柔軟性が低下し、結果として得られる積層体の層間接着性が十分でなくなる。
共重合体(B−1)含有量は10重量%以上、特に15重量%以上であることが好ましい。
【0030】
前記樹脂組成物(B−2)に於いて、エチレンと不飽和カルボン酸エステルを構成単位として含む共重合体(B−1)に組合せ配合される樹脂は、前記エチレンと不飽和カルボン酸エステルを構成単位として含む共重合体(B−1)と適度な温度での溶融等により相溶が可能であって、且つ、得られる組成物層がある程度の柔軟性と強度を有し、組成物としたときポリ乳酸樹脂層やヒートシール材層或いは基材層等に所望の接着性を有すものであれば特に限定されることなく使用することができる。
【0031】
このような樹脂として、例えば、エチレンとアクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸との共重合体であるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体、エチレンと酢酸ビニルやプロピオン酸ビニル等の共重合体であるエチレン・ビニルエステル系共重合体、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、メタロセン触媒重合ポリエチレン等のポリエチレン類やエチレンとプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、4−メチル−1−ペンテン等、炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体であるエチレン系樹脂、ポリプロピレン等のプロピレン系樹脂、ポリブテン等のブテン系樹脂、4−メチル−1−ペンテン系樹脂等のようなオレフィン系重合体樹脂等を挙げることができる。
【0032】
これら樹脂は2種以上配合されて良い。
これらの内では、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体及び、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、メタロセン触媒重合ポリエチレンやエチレン・α−オレフィンとの共重合体等であるエチレン系樹脂が好ましい。
【0033】
上記組成物(B−2)は、前記エチレンと不飽和カルボン酸エステルを構成単位として含む共重合体(B−1)とそれに組合せて配合される樹脂とを、例えば、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、又は当該技術で公知の他の配合装置を用いて押出被覆/積層加工に先立って溶融ブレンドしてもよく、或いは又、前記共重合体と樹脂のペレットを一緒にブレンドして、被覆/積層押出機のホッパー中へ導入することも出来る。
前記層(B)を構成する共重合体(B−1)又は樹脂組成物(B−2)に於いて、(メタ)アクリル酸エステル単位等の不飽和カルボン酸エステル単位は主として樹脂の柔軟性付与とポリ乳酸樹脂層を含む他樹脂層、特に極性基を有する他樹脂層に対する接着親和力を強化する作用を奏する。
本発明では、ポリエチレン等を代表とするヒートシール性樹脂を積層する場合の他、PET(ポリエチレンテレフタレート)やOPP(延伸配向ポリプロピレン)フィルム、ポリエーテルフィルム、ポリカーボネートフィルム等を支持基材として用いる場合を考慮してその接着性強化の観点から、組成物(B−2)中の(メタ)アクリル酸エステル等の不飽和カルボン酸エステル単位は2〜25重量%、より好ましくは5〜20重量%の範囲で含まれるのが好ましい。
【0034】
層(B)を構成する前記共重合体(B−1)は、この種の共重合体樹脂を製造する公知の方法に従って、エチレンと、例えば(メタ)アクリル酸エステル等の不飽和カルボン酸エステルとを、例えば、圧力100〜200MPa、温度150〜300℃等の反応条件下に、高圧フリーラジカル重合で直接共重合させること等によって得ることが出来る。
【0035】
本発明においては、前記共重合体(B−1)はオートクレーブ高圧重合法、チューブラー高圧重合法、いずれの方法によって製造されたものであってもよい。
チューブラー高圧重合法とは、チューブラー反応器を使用し、高圧で遊離基触媒を用いてラジカル重合する方法であり、例えば、特開昭62−273214号公報等に記載されている方法が例示できる。
このチューブラー高圧重合法で得られた共重合体は、不飽和カルボン酸エステル含有量:X(モル%)と共重合体融点:T(℃)(DSC法による融点、JIS K7121に準拠)との関係が下記式(I)、
−3.0X+125≧T≧−3.0X+109…(I)
を満足することが特徴であって、他の重合法で得られた相当組成の共重合体に比べて融点が高く、従ってこのチューブラー高圧重合法で得られた共重合体を用いた樹脂材は耐熱性により優れる。
また、本発明において前記共重合体(B−1)としてチューブラー高圧重合法で得られた共重合体を用いた場合はガラス、ポリエステル樹脂に対する接着性にも優れる。
【0036】
前記共重合体(B−1)又は樹脂組成物(B−2)には、更に、酸化防止剤、熱安定剤等の添加剤を配合することができる。
【0037】
次に、本発明の積層体について、その製造方法を積層フィルム又はシートの製造の場合を例に説明する。
該積層フィルム、シート等の成形方法としてはドライラミネート法、ウェットラミネート法、押出サンドラミネート法、押出コーティング法等があるが、特に製造コスト、生産効率面で、例えば、押出ラミネーター等を用いた共押出コーティング積層法等が好ましい。
この場合、ポリ乳酸樹脂フィルムの積層面にはコロナ処理を施しても良く、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体又はその樹脂組成物層(B)にも積層時に積層面にオゾン処理を施しても良い。
そうすることが層間接着性の向上の観点からは好ましい。
また、ポリ乳酸樹脂フィルムの積層面に少量のアンカーコート処理を施してもよい。
【0038】
以下に、本発明で最も単純な層構成であるポリ乳酸樹脂フィルム層/エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体層からなる二層構造の積層フィルムの押出積層の場合について述べる。
まず、基材フィルム繰り出し部より2軸延伸ポリ乳酸樹脂フィルムを一定速度で繰り出し、ラミネート部に導く。
ラミネート部では、シリンダー内に所定温度に加熱溶融され、連続的にT型ダイスから薄膜状に押出されたコーティング樹脂(エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体樹脂)の溶融薄膜を前記ポリ乳酸樹脂フィルム面上に直接垂らし、冷却ロールと圧縮ロール間で前記ポリ乳酸樹脂フィルムと押出コーティング樹脂とを圧縮及び冷却を同時に行った後に、巻取り部で積層フィルム製品として巻取る。
【0039】
この場合に於いて、既に述べたように、積層時に前記コーティング樹脂の膜面にオゾン処理を施しても良く、そのように接着側表面を酸化しておくことが両層密着性の一層の向上の観点からは好ましい。
【0040】
本発明においては、上記二層の積層フィルムの押出コーティング樹脂層側の表面に、更に、ヒートシール性樹脂を単独あるいはバリア層等をはさんで積層しても良く、又、他の各種基材層を更に積層しても良い。
ヒートシール性樹脂層としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン共重合体、アイオノマー、無延伸ポリプロピレンフィルム(CPP)等を例示することができる。
バリア層としては、アルミニウム箔(AL箔)、アルミニウムやシリカ、アルミナを蒸着したポリエステルフィルム(蒸着PET)、蒸着ポリアミドフィルム(蒸着Ny)、蒸着ポリ乳酸樹脂フィルム(蒸着PLA)等を例示することができる。
各種基材としては、ポリエチレン等のエチレン系樹脂の他に、ポリエステルフィルム(PET)、ポリアミドフィルム(Ny)、ポリプロピレンフィルム(PP)、延伸配向ポリプロピレンフィルム(OPP)、ポリエーテルフィルム、ポリカーボネートフィルム、紙、アルミニウム箔(AL箔)、アルミニウムやシリカ、アルミナを蒸着したポリエステルフィルム(蒸着PET)、蒸着ポリアミドフィルム(蒸着Ny)、蒸着ポリ乳酸樹脂フィルム(蒸着PLA)等を例示することができる。
【0041】
このような積層フィルム・シートの層構成としては、例えば、
(a)PLA(ポリ乳酸樹脂)層(A)/EX(押出コーティング樹脂)層(B)
(b)PLA層(A)/EX層(B)/PE(ポリエチレン)層
(c)PLA層(A)/EX層(B)/EVA(エチレン・酢酸ビニル共重合体)層
(d)PLA層(A)/EX層(B)/蒸着PLA/EX層(B)/PE層
(e)PLA層(A)/EX層(B)/AL箔層/EX層(B)/PE層
(f)PLA層(A)/EX層(B)/蒸着PET層/EX層(B)/PE層
(g)PLA層(A)/EX層(B)/蒸着Ny層/EX層(B)/PE層
(h)PLA層(A)/EX層(B)/PP(ポリプロピレン)層
(i)PLA層(A)/EX層(B)/AL箔層
(j)PLA層(A)/EX層(B)/AL箔層/エチレン共重合体層
等を挙げることができる。
これ等の積層フィルム、シートに於ける層(A)の厚さは特に限定されるものではないが、10〜30μm程度が、又、エチレンと不飽和カルボン酸エステルを構成単位として含む共重合体又はその樹脂組成物からなる層(B)の厚さは、5〜15μm程度が好ましい。
【0042】
上記のような積層フィルム・シートを成形する方法は、例えば、前記押出コーティング法のごとく、ポリ乳酸樹脂フィルムを一定速度で繰り出し、ラミネート部まで送り込み、コーティング樹脂をポリ乳酸樹脂フィルムと積層させると同時に、コーティング樹脂とポリ乳酸樹脂フィルムとの積層面の反対面側からも前記ヒートシール性樹脂フィルムや基材フィルムを送り込み、コーティング樹脂とさらに積層させる、所謂、押出サンドラミネート法により製造することが可能である。
ここでも、適宜、コロナ処理やオゾン処理、少量のアンカーコート処理等を施しても良い。
【0043】
本発明の積層フィルム又はシート等の積層体の主な用途としては、ジュース、酒等の紙容器材、スナック菓子等の各種菓子の包装材、発泡ポリスチレントレー等のラッピング用ストレッチフィルム材、総菜、調理、加工食品等の包装材、入浴剤容器材、湿布薬包装容器材、歯磨きのラミネートチューブ構成材、各種容器の蓋材等を挙げることができる。
【実施例】
【0044】
以下に積層フィルムを例として本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
尚、各実施例に於いて使用したフィルム層構成、各層成分樹脂種、積層方法、積層フィルム評価方法は以下の通りである。
【0045】
「フィルム層構成」
ポリ乳酸樹脂フィルム層(PLA層)/エチレンと不飽和カルボン酸エステルを構成単位として含む共重合体又はそれを含む樹脂組成物層(押出コーティング樹脂層)/線状低密度ポリエチレンフィルム層(LLDPE層)
(各層成分樹脂性状)
i) ポリ乳酸樹脂(PLA)フィルム: 東セロ社製、パルグリーンLC(2軸延伸フィルム、厚さ25μm、片面コロナ処理)
ii) 線状低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルム: 東セロ社製、TUC−FCS(厚さ40μm)
iii) エチレン・アクリル酸メチル共重合体(a−1):アクリル酸メチル含有量20重量%、エチレン残余、融点92℃、MFR8g/10分(JIS K7210に準拠、190℃、2160g荷重、以下viまで同じ)
iv) エチレン・メタクリル酸・アクリル酸イソブチル共重合体(b−1):メタクリル酸含有量4重量%、アクリル酸イソブチル含有量7.5重量%、エチレン残余、MFR14g/10分
v) エチレン・メタクリル酸・アクリル酸イソブチル共重合体(b−2):メタクリル酸含有量2重量%、アクリル酸イソブチル含有量6重量%、エチレン残余、MFR10g/10分
vi) 低密度ポリエチレン(c−1):融点111℃、密度0.923g/cm、MFR=4.5g/10分
(押出積層方法)
押出ラミネート装置(65mmφ、E/C)を用いてPLA樹脂フィルムとLLDPEフィルムとを繰り出し、それらの間にエチレンと不飽和カルボン酸エステルを構成単位として含む共重合体又はそれを含む樹脂組成物層(押出コーティング樹脂層)をダイ下樹脂温度287℃(実施例1〜5)或いは315℃(実施例6〜10)でそれぞれ押出サンドラミネートし積層フィルムを得た。
【0046】
「評価方法」
接着強度の評価
1) PLA/押出コーティング樹脂層間接着強度(N/15mm)
前記積層法で得られたフィルムを下記条件でエージングした後に剥離試験(試料幅15mm、剥離角度90°、引張速度300mm/min.)を実施した。
エージング条件:(1)23℃×1週間、(2)50℃×1日
尚、PLA/押出コーティング樹脂層間接着強度(N/15mm)は平均値で0.8N/15mm程度あれば積層フィルムとして実用可能と考えられる。
このため接着強度0.8N/15mm以上のものを実施例とした。
2)LLDPE層面ヒートシール強度(N/15mm)
積層フィルムのLLDPE面同士を重ねあわせたものをテフロン(登録商標)シートに挟んでヒートシーラーを用いてシール圧力0.2MPa、シール時間0.5秒で、130,140,160℃各温度下にヒートシールし、該シール層の接着強度を剥離試験(試料幅15mm、剥離角度90°、引張速度300mm/分)により測定した。
尚、LLDPE層面ヒートシール強度(N/15mm)は10N/15mmあれば積層フィルムとして実用可能と考えられる。
このためヒートシール強度10N/15mm以上のものを実施例とした。
【0047】
「実施例1」
エチレン・アクリル酸メチル共重合体(a−1)を押出コーティング樹脂としてPLA層/押出コーティング樹脂層(10μm)/LLDPE層の積層フィルムを作製し、PLA層/押出コーティング樹脂層の層間接着強度を測定評価した。
更に、その積層フィルムのLLDPE層面同士のヒートシール強度を上記評価方法( 2)LLDPE層面ヒートシール強度)により測定評価した。
それらの評価結果を表1に示す。
【0048】
「実施例2」
押出コーティング樹脂層のPLA側の面をラミネーションの際にオゾン処理した以外は実施例1と全く同様にして積層フィルムを作製し、その層間接着強度を測定評価した。
又、該積層フィルムのLLDPE層面同士のヒートシール強度を実施例1と同様にして測定評価した。
それらの評価結果を表1に示す。
【0049】
「実施例3」
実施例1において、押出コーティング樹脂層の厚みを15μmにした以外は実施例1と全く同様な積層フィルムを作製し、PLA層/押出コーティング樹脂層の層間接着強度を測定評価した。
更に、その積層フィルムのLLDPE層面同士のヒートシール強度を実施例1と同様にして測定評価した。
それらの評価結果を表1に示す。
【0050】
「実施例4」
実施例3に於ける押出コーティング樹脂層のPLA側の面をラミネーションの際にオゾン処理した以外は実施例3と全く同様の積層フィルムを作製し、その層間接着強度を測定評価した。
又、該積層フィルムのLLDPE層面同士のヒートシール強度を実施例1と同様にして測定評価した。
それらの評価結果を表1に示す。
【0051】
「実施例5」
エチレン・メタクリル酸・アクリル酸イソブチル共重合体(b−1)を押出コーティング樹脂としてPLA層/押出コーティング樹脂層(15μm)/LLDPE層の積層フィルムを作製し、PLA層/押出コーティング樹脂層の層間接着強度を測定評価した。
又、その積層フィルムのLLDPE層面同士のヒートシール強度を測定評価した。
それらの評価結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
「実施例6」
エチレン・アクリル酸メチル共重合体(a−1)30重量%とエチレン・メタクリル酸・アクリル酸イソブチル共重合体(b−1)70重量%からなる共重合体混合物を押出コーティング樹脂としてPLA層/押出コーティング樹脂層(10μm)/LLDPE層の積層フィルムを作製し、PLA層/押出コーティング樹脂層の層間接着強度を測定評価した。
更に、その積層フィルムのLLDPE層面同士のヒートシール強度を実施例1と同様の評価方法で測定評価した。
それらの評価結果を表2に示す。
【0054】
「実施例7」
押出コーティング樹脂層のPLA側の面をラミネーションの際にオゾン処理した以外は実施例6と全く同様にして積層フィルムを作製し、その層間接着強度を測定評価した。
又、該積層フィルムのLLDPE層面同士のヒートシール強度を実施例1と同様にして測定評価した。
それらの評価結果を表2に示す。
【0055】
「実施例8」
押出コーティング樹脂として前記(a−1)20重量%、エチレン・メタクリル酸・アクリル酸イソブチル共重合体(b−2)60重量%、低密度ポリエチレン(c−1)20重量%からなる樹脂組成物を用い実施例6と同様にしてPLA層/押出コーティング樹脂層(7μm)/LLDPE層の積層フィルムを作製し、その層間接着強度を測定評価した。
それらの評価結果を表2に示す。
【0056】
「実施例9」
押出コーティング樹脂層の厚みを10μmにした以外は実施例8と全く同様の積層フィルムを作製し、その層間接着強度を測定評価した。
それらの評価結果を表2に示す。
【0057】
「実施例10」
押出コーティング樹脂層のPLA層側の面をラミネーションの際にオゾン処理した以外は実施例9と同様にして積層フィルムを作製し、その層間接着強度を測定評価した。
又、該積層フィルムのLLDPE層面同士のヒートシール強度を実施例1と同様にして測定評価した。
それらの評価結果を表2に示す。
【0058】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂からなる層(A)と、エチレンと不飽和カルボン酸エステルを構成単位として含む共重合体又は該共重合体を10重量%以上含む樹脂組成物からなる層(B)を積層してなる積層体。
【請求項2】
前記エチレンと不飽和カルボン酸エステルを構成単位として含む共重合体の不飽和カルボン酸エステル成分含有量が4〜30重量%である請求項1記載の積層体。
【請求項3】
前記エチレンと不飽和カルボン酸エステルを構成単位として含む共重合体がエチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体又はエチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸エステル共重合体である請求項1又は2の何れかに記載の積層体。
【請求項4】
前記層(B)が樹脂組成物層である場合に於いて、該樹脂組成物に於けるエチレンと不飽和カルボン酸エステルを構成単位として含む共重合体以外の樹脂成分がオレフィン系重合体樹脂から選ばれた少なくとも1種である請求項1乃至3の何れかに記載の積層体。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の積層体の前記層(B)側の表面に更にヒートシール性樹脂層を含む少なくとも1層を積層してなる積層体。

【公開番号】特開2008−247018(P2008−247018A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−148106(P2007−148106)
【出願日】平成19年6月4日(2007.6.4)
【出願人】(000174862)三井・デュポンポリケミカル株式会社 (174)
【Fターム(参考)】