説明

ポルフィリン錯体、光電変換素子および色素増感太陽電池

【課題】広域の波長領域での吸収能および高い光電変換効率を有し、中心金属として安価な金属を使用し、色素増感型の光電変換素子や太陽電池などの増感色素として使用することが可能なポリフィリン錯体を提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表されるポルフィリン錯体。


[式(1)において、1〜3つのRがカルボキシルであり、その他のRがトリメチルシリルである。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感型の光電変換素子および太陽電池において、増感色素として好適に用いることができるポルフィリン錯体、ならびに該ポルフィリン錯体を用いた光電変換素子および太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、クリーンな再生可能エネルギー源の発電装置として大きく期待されており、単結晶シリコン系、多結晶シリコン系、アモルファスシリコン系の太陽電池;テルル化カドミウム、セレン化インジウム銅などの化合物半導体からなる太陽電池が主に研究されている。しかしながら、家庭用電源として普及させるためには、いずれの太陽電池も製造コストが高い点や、原材料の確保が困難である点など、多くの問題を抱えている。
【0003】
こうした状況の中、色素増感太陽電池は、製造コスト、大面積化、原材料が豊富な点で非常に低コストな発電が可能であると言われている。
上記色素増感太陽電池は、導電性支持体上に形成された色素を吸着した酸化物半導体微粒子含有層からなる酸化物半導体電極、電荷移動層、および対電極から構成される光電変換素子を含む。例えば、非特許文献1および特許文献1には、色素増感された酸化物半導体微粒子を用いた光電変換素子および該光電変換素子を含む太陽電池、ならびにこれらを作製するための材料および製造技術が開示されている。
【0004】
ここで上記酸化物半導体として用いられる二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズなどの金属酸化物半導体は、光や熱に対して安定で無害であるが、バンドギャップが3.0eVと大きいため、地球上にもっとも強く照射される可視光や近赤外光の太陽光を吸収できないという問題がある。この問題に対しては、上記の非特許文献1および特許文献1に記載されているように、可視光や近赤外光を吸収する有機物や金属錯体などの増感色素を、上記酸化物半導体の表面に吸着または被覆させ、酸化物半導体電極が光電変換する波長領域を可視光・近赤外領域まで拡大させることが研究されている。
【0005】
しかしながら、平滑な酸化物半導体電極に増感色素を吸着させた場合、通常は該電極表面に単分子層が形成されるに過ぎず、光の利用効率は1%程度であり、太陽電池としての光電変換効率が低い。したがって、酸化物半導体電極の光の利用効率を高めるためには、光照射面積に対して、増感色素が該電極に吸着した表面積をできるだけ大きくする必要がある。
【0006】
上記問題に対しては、酸化物半導体電極として、大きな比表面積を有する二酸化チタン(例えば、特許文献2参照)または表面に細孔を有する二酸化チタンの薄膜(例えば、特許文献3参照)を用いることが提案されている。しかしながら、その光の利用効率は充分に改善されてはいない。
【0007】
一方、増感色素を改良することにより光の利用効率を高めることも研究されており、キサンテン系有機色素、シアニン系色素、塩基性染料、フタロシアニン系化合物、アゾ染料、ルテニウム金属錯体などの多くの化合物が知られている(例えば、特許文献4〜8参照)。
【0008】
現在、光電変換効率の点から、増感色素としてはルテニウム金属錯体が一番優位であるとされているが、ルテニウムは高価な金属であり、また該色素が吸収する太陽光の波長領域は300〜900nm程度である。したがって、さらなる高光電変換効率を目指すため
には、全波長領域にわたって太陽光を吸収する増感色素の開発が必要不可欠であり、また、色素増感太陽電池の低コストというメリットをさらに強調するには、安価な増感色素を用いることが必要である。
【0009】
上記の安価な増感色素として、ポルフィリンを用いることが検討されている。しかしながら、光電変換素子を構成する酸化物半導体電極の表面に、前記ポルフィリンを充分に吸着させることができず、実用に供することは困難である。
【0010】
上記問題に対しては、例えば、特許文献9には広域の波長領域での吸収能を有し、高価な金属を中心金属として必要としない特定の置換基を有するポルフィリンが、増感色素として有用であることが記載されている。具体的には、スルホ(−SO3H)、アミノ(−
NH2)、ピリジル(C54N)などの置換基を有するポルフィリンは、酸化物半導体電
極に対する吸着性が充分ではないが、カルボキシルを有するポルフィリンを用いると、該電極に対する吸着性が改善されることが記載されている。
【0011】
しかしながら、上記特許文献9に開示されているポルフィリンをそのまま増感色素として用いた場合、該ポルフィリンは電子供与性が低く、該ポルフィリンから酸化物半導体電極への電子移動を充分に生じさせることは困難である。
【非特許文献1】Nature(第353巻、737〜740頁、1991年)
【特許文献1】米国特許4927721号公報
【特許文献2】特開平01−220380号公報
【特許文献3】特開平08−099041号公報
【特許文献4】特表平07−500630号公報
【特許文献5】特開平11−144772号公報
【特許文献6】特開2001−059062号公報
【特許文献7】特開2001−253894号公報
【特許文献8】特開2001−247546号公報
【特許文献9】特開2007−055978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、広域の波長領域での吸収能および高い光電変換効率を有し、中心金属として安価な金属を使用し、色素増感型の光電変換素子や太陽電池などの増感色素として使用することが可能なポルフィリン錯体を提供すること、該ポルフィリン錯体を用いた光電変換素子を提供すること、ならびに該光電変換素子を含む色素増感太陽電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、増感色素として中心金属に亜鉛を用いた特定の分子構造を有するポルフィリン錯体を用いることによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[5]に関する。
[1]下記式(1)で表されるポルフィリン錯体。
【0015】
【化1】

[式(1)において、1〜3つのRがカルボキシルであり、その他のRがトリメチルシリルである。]
[2]上記式(1)において、1つのRがカルボキシルであり、3つのRがトリメチルシリルである上記[1]に記載のポルフィリン錯体。
【0016】
[3]上記[1]または[2]に記載のポルフィリン錯体からなる増感色素を、酸化物半導体に吸着させた酸化物半導体電極を含む光電変換素子。
[4]上記酸化物半導体が、酸化チタン、酸化亜鉛および酸化ジルコニウムから選ばれる少なくとも1種である上記[3]に記載の光電変換素子。
【0017】
[5]上記[3]または[4]に記載の光電変換素子を含む色素増感太陽電池。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポルフィリン錯体は、広域の波長領域での吸収能を有することから、色素増感型の光電変換素子や太陽電池などの増感色素として好適に使用することができる。また、中心金属として安価な亜鉛を用いることにより、低コストで製造することができる。さらに、本発明のポルフィリン錯体を用いることで、色素増感型の光電変換素子および太陽電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明のポルフィリン錯体、ならびに該ポルフィリン錯体を用いた光電変換素子および色素増感太陽電池について詳細に説明する。
〔ポルフィリン錯体〕
本発明のポルフィリン錯体は、下記式(1)で表される。
【0020】
【化2】

式(1)において、1〜3つのRがカルボキシル(−COOH)であり、その他のRがトリメチルシリル(−Si(CH33)である。好ましくは1つのRがカルボキシルであり、3つのRがトリメチルシリルである。
【0021】
上記のように、ポルフィリンにカルボキシルを少なくとも1つ導入することで、光電変換素子を構成する酸化物半導体電極に対するポルフィリンの吸着性を充分に向上させることができる。また、ポルフィリンにトリメチルシリルを少なくとも1つ導入することで、酸化物半導体電極に対するポルフィリンの電子供与性を向上させることができる。さらに、中心金属として亜鉛(Zn)を導入して錯体とすることにより、さらに電子供与性を向上させることができ、ポルフィリン錯体から酸化物半導体電極への電子移動を充分に生じさせることができる。
【0022】
上記式(1)において、1つのRがカルボキシルであり、3つのRがトリメチルシリルである、下記式(2)で表される(5−(4−カルボキシフェニル)−10,15,20−トリス(4−トリメチルシリルフェニル)ポルフィリナト)亜鉛(II)は、カルボキシルによって、光電変換素子を構成する酸化物半導体電極との吸着性が充分に確保されるとともに、3つのトリメチルシリルによって、該電極に対する電子供与性を充分に増大させることができるようになる。この結果、上記ポルフィリン錯体を増感色素として用いた光電変換素子の光電変換効率を充分に増大させることができるようになる。
【0023】
【化3】

本発明のポルフィリン錯体は、まず特開2007−55978号公報に記載されたポルフィリンを合成し、次いで公知の方法を用いて該ポルフィリンと亜鉛(Zn)とを錯形成することによって得られる。
【0024】
本発明のポルフィリン錯体は、以下に説明するように色素増感型の光電変換素子および太陽電池などの増感色素として好適に用いることができる。
〔光電変換素子〕
本発明の光電変換素子は、上述したポルフィリン錯体からなる増感色素を、酸化物半導体に吸着させた酸化物半導体電極を含む。前記酸化物半導体は、多孔質であることが好ましい。前記酸化物半導体が多孔質であると、該半導体の実質的な表面積を増大させることができるため、該半導体への増感色素の吸着量を増大させて光電変換素子の光電変換効率を改善することができる。なお、多孔質の酸化物半導体は、微細な酸化物半導体微粒子が集積して形成されることが好ましい。
【0025】
図1は、本発明の光電変換素子の一例を示す構成図であり、図2は、図1に示す光電変換素子の酸化物半導体電極近傍の拡大図である。図1に示すように、光電変換素子100は、光電極101、該光電極101と対向するように配置された対電極109、両電極間に設けられた隔壁120、ならびに光電極101および対電極109と隔壁120とで形成される空間内に注入された電解質108から構成されている。
【0026】
<光電極101>
図2に示すように、光電極101は、透明基板104および該透明基板104上に形成された透明導電層105からなる透明導電性基板102、ならびに該透明導電層105上に形成された酸化物半導体電極103から構成されている。
【0027】
(透明導電性基板102)
透明導電性基板102は、透明基板104および該透明基板104上に形成された透明導電層105から構成されている。
【0028】
透明基板104としては、汎用のガラス基板および石英基板や、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレンなどの透明プラスチック基板などが用いられる。具体的には、安定性、加工性、軽量性およびフレキシビリティーなどを考慮して、適宜に選択することができる。
【0029】
透明導電層105は、酸化スズ、フッ素ドープ酸化スズ、インジウム含有酸化スズ(ITO)、アンチモン含有酸化スズ(ATO)、酸化亜鉛、アルミドープ酸化亜鉛、またはこれらの表面に酸化スズもしくはフッ素ドープ酸化スズの皮膜を設けた光透過性の透明導電層から構成することができる。
【0030】
(酸化物半導体電極103)
酸化物半導体電極103は、酸化物半導体微粒子106および該酸化物半導体微粒子106に吸着した増感色素107から構成されている。
【0031】
増感色素107は、上述したポルフィリン錯体から構成される。前記ポルフィリン錯体が有するカルボキシルは、酸化物半導体微粒子106に対して高い吸着性を示すため、前記ポルフィリン錯体からなる増感色素107は酸化物半導体微粒子106に対して安定的に吸着するようになる。また、前記ポルフィリン錯体は、ポルフィリン骨格にトリメチルシリルを有し、さらに中心金属としてZnを有するので、酸化物半導体微粒子106に対して高い電子供与性を呈するようになる。
【0032】
酸化物半導体電極103を構成する酸化物半導体微粒子106としては、例えば単金属酸化物やペロブスカイト構造を有する化合物などが用いられる。前記単金属酸化物としては、チタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、タンタルの酸化物が好ましい。また、前記ペロブスカイト構造を有する化合物としては、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウムが好ましい。
【0033】
これらの中では、増感色素107として上述したポルフィリン錯体を用いること、該増感色素107との吸着性および電子供与性を考慮すると、酸化チタン、酸化亜鉛および酸化ジルコニウムから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0034】
酸化物半導体微粒子106の平均粒径は、好ましくは5〜500nm、さらには好ましくは10〜300nm、特に好ましくは15〜200nmである。なお、本発明における平均粒径は、透過型電子顕微鏡法によって測定される値である。
【0035】
<対電極109>
対電極109は、光電極101と対向するように配置されている。
対電極109は、例えば、Al、SUSなどの金属、ガラス、およびプラスチックなどから構成される基板と、該基板上に形成されるPt、C、Ni、Cr、ステンレス、フッ素ドープ酸化スズ、ITOなどの導電層とから構成される。この場合、導電層は、電解質
108に面した側に形成される。
【0036】
なお、対電極109は、白金または炭素などの触媒層を有してもよい。これによって、対電極109と電解質108との電子授受をより簡易に行なうことができるようになる。
<隔壁120>
隔壁120は、光電極101と対電極109との間に設けられている。隔壁120の材料としては、通常の色素増感太陽電池に用いられているプラスチック製の材料であれば特に限定されず、具体的には、ポリエチレン、エチレン系アイオノマー樹脂、エポキシ樹脂などの材料が挙げられる。
【0037】
<電解質108>
電解質108は、光電極101および対電極109と隔壁120とで形成される空間内に注入されている。電解質108としては、固体状および液体状の電解質が用いられる。具体的には、ヨウ素系電解質、臭素系電解質、セレン系電解質、硫黄系電解質など各種の電解質が用いられ、特にI2、LiI、ジメチルプロピルイミダゾリウムアイオダイド、
t−ブチルピリジン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイドなどを、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、3−メトキシプロピオニルなどの電気的に不活性な有機溶剤に溶かした溶液などが好適に用いられる。
【0038】
また、上記電解質の揮発を低減する目的で、電解質へゲル化剤、ポリマー架橋モノマーなどのゲルマトリックスを溶解させたゲル状電解質を電解質108として用いることも可能である。なお、電解質の割合が多すぎると、光電変換素子のイオン導電率は高くなるが、機械的強度が低下することがある。また、逆に電解質の割合が少なすぎると、光電変換素子の機械的強度は高くなるが、イオン導電率が低下することがある。このため、上記電解質の配合割合は、ゲル状電解質(電解質108)に対して50〜99重量%が好ましく、80〜97重量%がより好ましい。
【0039】
さらに、上記電解質と可塑剤とをポリマーに溶解させ、該可塑剤を揮発除去した電解質108を用いることで、全固体型の光電変換素子を実現することも可能である。
〔光電変換素子の製造方法〕
本発明の光電変換素子の製造方法について説明する。説明を明確化すべく、以下においては、図1および図2に示す光電変換素子100に基づいてその製造方法を説明する。
【0040】
まず、透明基板104を準備し、該透明基板104上に透明導電層105を形成して、透明導電性基板102を作製する。透明導電層105はスパッタリング法やCVD法、または塗布法など公知の成膜技術を用いて形成することができる。また、透明導電層105が形成された市販の透明基板104を、透明導電性基板102として直接的に用いてもよい。
【0041】
次いで、透明導電性基板102を構成する透明導電層105上に、湿式塗布法または湿式印刷法を用いて、酸化物半導体微粒子106を含む酸化物半導体インキまたはペーストの塗膜を形成する。前記湿式塗布法および湿式印刷法などの湿式成膜法は、形成された膜物性、利便性、製造コストなどを考慮した有利な方法である。前記湿式塗布法としては、具体的にはスピンコート法、ローラーコート法、ディップ法、スプレー法、ワイヤーバー法、ブレードコート法、グラビアコート法などが挙げられる。また、前記湿式印刷法としては、凸版、オフセット、グラビア、凹版、ゴム版、スクリーン印刷などが挙げられる。ここで、スピンコート法とは、高速回転する基板上に薄膜にしたい試料の溶液またはゾルを垂らし、遠心力によって引き伸ばして基板上に均一な薄膜を形成する方法である。
【0042】
なお、酸化物半導体微粒子106として市販の粉末を用いる場合には、予め粒子の二次凝集を解消することが好ましい。また、塗布液調製時に乳鉢やボールミルなどを用いて、粒子の粉砕を行なうことが好ましい。このとき、二次凝集が解かれた粒子が再凝集することを防ぐため、アセチルアセトン、塩酸、硝酸、酢酸、界面活性剤、キレート剤などを添加することが好ましい。また、増粘の目的でポリエチレンオキシドやポリビニルアルコールなどの高分子、セルロース系の増粘剤などの各種増粘剤を添加してもよい。
【0043】
次いで、上記塗膜を焼成して酸化物半導体微粒子106以外の成分を除去することによって、透明導電性基板102を構成する透明導電層105上に、酸化物半導体微粒子含有層を形成する。
【0044】
上記焼成温度は、通常250〜600℃、好ましくは400〜550℃である。焼成温度が前記範囲内であれば、良好な結晶状態となるため、低抵抗な酸化物半導体微粒子含有層が得られる。また、焼成温度が600℃以下であれば、結晶子の成長が顕著にならず、酸化物半導体微粒子106の比表面積が低下しないため好ましい。
【0045】
次いで、所定の溶媒中に増感色素107を溶解させて増感色素溶液を調製し、該溶液中に酸化物半導体微粒子含有層を透明導電性基板102ごと浸漬させることによって、増感色素107を酸化物半導体微粒子106に吸着・担持させる。これにより、光電極101を製造することができる。
【0046】
上記溶媒としては、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、t
−ブタノールなどのアルコール類;アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、3−メトキシプロピオニトリルなどのニトリル類;ベンゼン、トルエンなどの芳香族化合物類;またはこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0047】
なお、増感色素107は上述した本発明のポルフィリン錯体から構成される。前記ポルフィリン錯体は、通常は粉末の状態で存在するため、ポルフィリン錯体の粉末が上記溶媒中に均一に分散・溶解するように溶液を調製することが好ましい。また、増感色素107の濃度、吸着量および浸漬条件は、適宜に設定することができる。
【0048】
次いで、必要に応じて触媒層を有する対電極109を光電極101と対向させて配置し、両電極間に隔壁120を設け、光電極101および対電極109と隔壁120とで形成される空間内に電解質108を注入する。これにより、目的とする光電変換素子100を製造することができる。
【0049】
〔色素増感太陽電池〕
本発明の色素増感太陽電池は、図1に示す光電変換素子100をモジュール化するとともに、所定の電気配線を設けることによって製造することができる。
【0050】
例えば、光電極101および対電極109を、はんだによって固定された電流取り出し用の図示せぬ銅線によって外部に導通する。これによって、光電極101側から入射した光hνによって酸化物半導体電極103内の増感色素107であるポルフィリン錯体が励起され、励起電子が酸化物半導体微粒子106に供与され、さらに該電子は酸化物半導体微粒子106から透明導電層105に供与される。次いで、透明導電層105に供与された電子は前記銅線によって外部回路に供与され、対電極109、電解質108の順に通じて増感色素107に戻る。このようにして電流を取り出すことができる。
【実施例】
【0051】
以下、具体例を挙げながら本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例の内容に
限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。
【0052】
<ポルフィリン化合物の合成>
特開2007−55978号公報の記載に従って、5−(4−カルボキシフェニル)−10,15,20−トリス(4−トリメチルシリルフェニル)ポルフィリン(以下、単に「ポルフィリン化合物」ともいう。)を合成した。
【0053】
[実施例A1]
<ポルフィリン亜鉛錯体の合成>
ポルフィリン化合物(35.8mg、40.9μmol)をクロロホルム(10mL)に溶かし、これに酢酸亜鉛・二水和物(37.5mg、171μmol)をメタノール(1.4mL)に溶かした溶液を加えた。これを2時間加熱還流し、紫外・可視吸収スペクトルにより反応を追跡した。原料であるポルフィリン化合物に帰属される吸収極大(518nm、647nm)の消失を確認し、反応終了とした。
【0054】
次いで、反応混合物に水を加えて分液し、有機相をエバポレートした。残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル;溶媒は容量%で、クロロホルム:メタノール=95:5の混合液)で分離した。得られた紫色の固体を再びカラムクロマトグラフィー(シリカゲル;溶媒は容量%で、ジクロロメタン:クロロホルム:酢酸エチル:メタノール=50:40:7:3の混合液)で分離すると、(5−(4−カルボキシフェニル)−10,15,20−トリス(4−トリメチルシリルフェニル)ポルフィリナト)亜鉛(II)が紫色の固体として13mg得られた。収率は34%であった。
【0055】
<ポルフィリン亜鉛錯体の同定の結果>
(5−(4−カルボキシフェニル)−10,15,20−トリス(4−トリメチルシリルフェニル)ポルフィリナト)亜鉛(II)の構造は、次のスペクトルによって同定した。
【0056】
1H NMR(CDCl3):δ−0.49(s、27H)、7.84(d、6H、J
=7.7Hz)、8.17(d、6H、J=7.7Hz)、8.28(d、2H、J=8.2Hz)、8.40(d、2H、J=8.2Hz)、8.80(d、2H、J=4.8Hz)、8.88(s、4H)、8.90(d、2H、J=4.8Hz)。
【0057】
紫外・可視吸収スペクトル(λmax(ε)、CHCl3):425nm(370000)、552nm(15000)、597nm(5100)。
[比較例A1]
特開2007−55978号公報記載の5−(4−カルボキシフェニル)−10,15,20−トリフェニルポルフィリンの合成法において、ベンズアルデヒドを4−t−ブチルベンズアルデヒドに変えることにより、5−(4−カルボキシフェニル)−10,15,20−トリス(4−t−ブチルフェニル)ポルフィリンを合成し、次いで実施例A1の記載に従って、(5−(4−カルボキシフェニル)−10,15,20−トリス(4−t−ブチルフェニル)ポルフィリナト)亜鉛(II)を合成した。
【0058】
[比較例A2]
特開2007−55978号公報の記載に従って、5−(4−カルボキシフェニル)−10,15,20−トリフェニルポルフィリンを合成し、次いで実施例A1の記載に従って、(5−(4−カルボキシフェニル)−10,15,20−トリフェニルポルフィリナト)亜鉛(II)を合成した。
【0059】
[比較例A3]
<ポルフィリン銅錯体の合成>
ポルフィリン化合物(200.0mg、0.23mmol)をクロロホルム(80mL)に溶かし、これに酢酸銅(II)水和物のメタノール飽和溶液(20mL)を加えた。これを6時間加熱還流し、紫外・可視吸収スペクトルにより反応を追跡した。原料であるポルフィリン化合物に帰属される吸収極大(518nm、647nm)の消失を確認し、反応終了とした。
【0060】
次いで、反応混合物に水を加えて分液し、有機相をエバポレートした。残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル;溶媒は容量%で、クロロホルム:メタノール=95:5の混合液)で分離すると、(5−(4−カルボキシフェニル)−10,15,20−トリス(4−トリメチルシリルフェニル)ポルフィリナト)銅(II)が紫色の固体として、122mg得られた。収率は57%であった。
【0061】
<ポルフィリン銅錯体の同定の結果>
(5−(4−カルボキシフェニル)−10,15,20−トリス(4−トリメチルシリルフェニル)ポルフィリナト)銅(II)の構造は、次のスペクトルによって同定した。
【0062】
MALDI−TOF MS: M/z 935.34。
[比較例A4]
<ポルフィリンコバルト錯体の合成>
ポルフィリン化合物(105mg、0.12mmol)をクロロホルム(50mL)に溶かし、これに酢酸コバルト(II)水和物のメタノール飽和溶液(15mL)を加えた。これを6時間加熱還流し、紫外・可視吸収スペクトルにより反応を追跡した。原料であるポルフィリン化合物に帰属される吸収極大(518nm、647nm)の消失を確認し、反応終了とした。
【0063】
次いで、反応混合物に水を加えて分液し、有機相をエバポレートした。残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル;溶媒は容量%で、クロロホルム:メタノール=95:5の混合液)で分離すると、(5−(4−カルボキシフェニル)−10,15,20−トリス(4−トリメチルシリルフェニル)ポルフィリナト)コバルト(II)が紫色の固体として、122mg得られた。収率は57%であった。
【0064】
<ポルフィリンコバルト錯体の同定の結果>
(5−(4−カルボキシフェニル)−10,15,20−トリス(4−トリメチルシリルフェニル)ポルフィリナト)コバルト(II)の構造は、次のスペクトルによって同定した。
【0065】
MALDI−TOF MS: M/z 931.38。
[実施例B1]
以下、図1および図2に示す記号を参照しながら説明する。
【0066】
<TiO2ゾルの調製>
酸化物半導体微粒子106として、平均粒径21nmのTiO2粉末(P−25、日本
アエロジル(株)製;ルチル:アナタ−ゼ=3:7)を用いた。前記TiO2粉末3.0
gに、アセチルアセトン(99.5%、関東化学)0.1mLとイオン交換水0.1mLとを加え、メノウ乳鉢で10分間撹拌混合し、さらにイオン交換水1.0mLを加えて30分間撹拌混合する操作を7回繰り返した。これにTriton X−100(ICN Biomedicals Inc.)0.1mLとイオン交換水1.0mLとを加えて5分間撹拌混合した後に、イオン交換水7mLを加え、超音波洗浄器を用いて1時間の超音波処理を施し、TiO2ゾルを得た。
【0067】
<光電極101の作製>
透明導電性基板102として、ガラス基板104および酸化スズからなる透明導電層105からなる酸化スズコート透明導電性ガラス(15〜20Ω/□、25×50×1.1mm3、旭硝子(株)製)を用いた。
【0068】
酸化物半導体電極103を構成する酸化物半導体微粒子106からなる多孔質TiO2
薄膜の具体的な製造方法として、均質な多孔質TiO2薄膜を効率的に作製するために、
本実施例では以下のようにスピンコート法を用いた。
【0069】
まず、上記酸化スズコート透明導電性ガラスをスピンコーター(ACTIVE ACT−300A)中央の試料台の上に固定し、TiO2ゾルを均質に広げるため、該ガラス上
に水溶液(容量%で、Triton X−100:水=1:99の混合液)を5滴垂らし、0.1秒で2000rpmまで上昇させ、3秒間2000rpmで回転させた。
【0070】
次いで、酸化スズコート透明導電性ガラス上に、一定の位置からピペットでメタノールを満遍なく垂らし、3秒間2000rpmで回転させた後、酸化スズコート透明導電性ガラス上に、一定の位置からピペットでTiO2ゾルを満遍なく垂らし、同様の回転数、時
間で回転させ、TiO2薄膜を形成した。
【0071】
これを室温で風乾し、電気炉中で450℃まで昇温(10℃/分)し、450℃に30分間保持し、室温に降温(10℃/分)することで、酸化スズコート透明導電性ガラス上に多孔質TiO2薄膜を形成した。
【0072】
上記多孔質TiO2薄膜の膜厚は、表面形状測定装置(KEYENCE、VF−750
0)を用いて測定した結果、約1μmであった。
次いで、多孔質TiO2薄膜を有する酸化スズコート透明導電性ガラスを200℃で1
時間加熱乾燥後、75℃まで冷却した。
【0073】
次いで、上記酸化スズコート透明導電性ガラスを実施例A1で得られた(5−(4−カルボキシフェニル)−10,15,20−トリス(4−トリメチルシリルフェニル)ポルフィリナト)亜鉛(II)のトルエン溶液(3×10-4M)に、15時間、95℃で加熱浸漬し、光電極101を作製した。
【0074】
<モジュール化による色素増感太陽電池の作製>
上述のようにして得た光電極101を用いて色素増感太陽電池を組み立てた。なお、隔壁120はポリエチレン製とし、電解質108としてLiI(0.3M)−I2(0.0
15M)のアセトニトリル:エチレンカーボネート=20:80の溶液(容量%)を用い、対電極109として酸化スズコート透明導電性ガラス表面にスパッタリング法により白金の薄膜が形成された基板を用いた。
【0075】
[比較例B1〜B5]
増感色素として、表1に記載の色素を用いたこと以外は実施例B1と同様にして色素増感太陽電池を作製した。
【0076】
[参考例B1]
増感色素として、シス−ジ(チオシアナト)−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸)−ルテニウム(II)(Solaronix社製 Ru535)を用いたこと以外は実施例B1と同様にして色素増感太陽電池を作製した。
【0077】
〔評価〕
実施例B1、比較例B1〜B5、および参考例B1で得られた色素増感太陽電池の評価(光電変換特性の測定)は、色素増感太陽電池の光電極101側から擬似太陽光を照射し、該擬似太陽光照射時の酸化物半導体電極103と対電極109との間の電圧および電流を測定することにより実施した。擬似太陽光の光源としては、OTENTO−SUNIII
型(分光計器(株)製)を用い、擬似太陽光としては、エアマス(AM)1.5の波長分布特性(JIS C8911)を有する光(強度100mW・cm-2)を用いた。
【0078】
電圧および電流の測定には、パーソナルコンピュータとGPIBインターフェースとを介して接続されたアドバンテストR6240電圧/電流発生器を用い、電圧を掃印しながら、電圧値および電流値をパーソナルコンピュータに記録した。測定結果を表1に示す。なお、VOCは開放電圧(いわゆる電流値が0のときの電圧)であり、JSCは短絡電流密度(いわゆる電圧値が0のときの電流密度)である。曲線因子FFは、電力最大値/(開放電圧×短絡電流)で求まる値である(ここで、短絡電流はいわゆる電圧値が0のときの電流である)。変換効率は、電力最大値/照射強度で求まる値である。
【0079】
【表1】

表1より明らかなように、増感色素として(5−(4−カルボキシフェニル)−10,
15,20−トリス(4−トリメチルシリルフェニル)ポルフィリナト)亜鉛(II)を用いた実施例B1の色素増感太陽電池は、表1に示す増感色素を用いた比較例B1〜B5の色素増感太陽電池と比較して、変換効率が大きな値を示し、光電変換効率が優れていることが分かる。
【0080】
増感色素として(5−(4−カルボキシフェニル)−10,15,20−トリス(4−トリメチルシリルフェニル)ポルフィリナト)亜鉛(II)を用いた場合に光電変換効率が向上した理由は、ポルフィリン骨格にトリメチルシリルが導入され、中心金属として亜鉛を用いたことの相乗効果により、該増感色素から酸化物半導体微粒子106への電子移動が効率よく実現したためと考えられる。
【0081】
また、表1に示すように、増感色素として(5−(4−カルボキシフェニル)−10,15,20−トリス(4−トリメチルシリルフェニル)ポルフィリナト)亜鉛(II)を用いた実施例B1の色素増感太陽電池は、高価なルテニウムを中心金属として有するシス−ジ(チオシアナト)−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸)−ルテニウム(II)を用いた参考例B1の色素増感太陽電池と同等の光電変換効率を示している。このことは、安価な本発明のポルフィリン錯体が、増感色素として好適に使用可能であることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の光電変換素子の一例を概略的に示す構成図である。
【図2】図1に示す光電変換素子の酸化物半導体電極近傍の拡大図である。
【符号の説明】
【0083】
100 光電変換素子
101 光電極
102 透明導電性基板
103 酸化物半導体電極
104 透明基板
105 透明導電層
106 酸化物半導体微粒子
107 増感色素
108 電解質
109 対電極
120 隔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるポルフィリン錯体。
【化1】

[式(1)において、1〜3つのRがカルボキシルであり、その他のRがトリメチルシリルである。]
【請求項2】
前記式(1)において、1つのRがカルボキシルであり、3つのRがトリメチルシリルである請求項1に記載のポルフィリン錯体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポルフィリン錯体からなる増感色素を、酸化物半導体に吸着させた酸化物半導体電極を含む光電変換素子。
【請求項4】
前記酸化物半導体が、酸化チタン、酸化亜鉛および酸化ジルコニウムから選ばれる少なくとも1種である請求項3に記載の光電変換素子。
【請求項5】
請求項3または4に記載の光電変換素子を含む色素増感太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−280702(P2009−280702A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134228(P2008−134228)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】