説明

ポンプ、流体噴射装置、医療機器

【課題】効率的に流体を流動可能なポンプを実現する。
【解決手段】ポンプ10は、圧電素子40及びダイアフラム50からなる容積変更手段の駆動により容積が変更可能な流体室60と、流体室60に流体を流入させる入口流路32と、流体室60から流体を流出させる出口流路34と、流体室60と入口流路32との間に設けられる逆止弁70と、入口流路32に設けられる弾性壁35と、を有し、容積変更手段の駆動周波数faと、弾性壁35の振動周波数fbとが、fa=fbである。このような構成のポンプ10は、流体を効率に流動させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ、流体噴射装置、及びこれらポンプと流体噴射装置を用いた医療機器に関する。
【背景技術】
【0002】
ピストンまたはダイアフラム等の容積変更手段によって容積が変更可能な流体室と、流体室に流体を流入させる入口流路と、流体室から流体を流出させる出口流路と、を有するポンプが知られている。このようなポンプでは、入口流路と流体室との間に流体抵抗要素として逆止弁が備えられており、流入動作と流出動作に同期して逆止弁が開閉し、逆止弁から上流側の流体の移動と停止を行っている。つまり、流体の移動と停止の繰り返しにより、流体は脈動している。この脈動による流入効率の低下や、逆止弁より上流側への振動の伝播を防止するために、脈動吸収手段として薄板状の弾性壁が設けられている。(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、上記特許文献1とほぼ同様な構成を有し、容積変更手段によって脈動流を発生させて、流路径が縮小された流体噴射開口部から流体をパルス状に噴射させる流体噴射装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−214034号公報
【特許文献2】特開2005−152127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような特許文献1では、脈動吸収手段により脈動に起因する流入効率の低下や、上流側への振動の伝播を防止することができる、そのため、図10に示すように、容積変更手段の駆動周波数を大きくすれば、ポンプの流出流量を安定的に増やすことができる。
【0006】
しかし、容積変更手段の駆動周波数faで駆動していてポンプの流出流量がQaでは足りず、ポンプの流出流量をQaよりも多いQcにしたい場合、容積変更手段の駆動周波数をfaよりも高いfcに上げる必要がある。その結果、例えば特許文献1のように、容積変更手段として圧電素子を用いる場合、入力する電力が増加してしまう。駆動周波数を上げずに入力する電圧を高くすることでポンプの流出流量をQcまで上げることができるが、同様に入力する電力が増加してしまうということが考えられる。
【0007】
また、特許文献2では、逆止弁を有しており、入口流路内の流体の流れを強制的に繰り返し止めるため、流体の動き出しと静止が円滑に行われないと、受動的な部品である逆止弁の動作が不安定になり、流体の流れを悪くする可能性がある。よって、流体の流れが効率的に行われないことが考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]本適用例に係るポンプは、容積変更手段の駆動によって容積が変更可能な流体室と、前記流体室に流体を流入させる入口流路と、前記流体室から流体を流出させる出口流路と、前記流体室と前記入口流路との間に設けられる逆止弁と、前記入口流にけられる弾性手段と、を有し、前記容積変更手段の駆動周波数と、前記弾性手段の振動周波数と、が、等しいことを特徴とする。
【0010】
本適用例によれば、容積変更手段の一方向の駆動に追従して、逆止弁が閉じ、弾性手段を配置した入口流路で流れていた流体が弾性手段を押しひろげながら入口流路内の体積を増加させる。また、容積変更手段の逆方向の駆動に対して、逆止弁が開き、弾性手段が復元(または縮小)しながら入口流路内の体積を減少させ、流体が逆止弁を通過して流体室内に流入する。このとき、容積変更手段の駆動周波数faと、弾性手段の振動周波数fbと、を、fa=fbとすると、流体室の容積変化と、入口流路の容積変化のタイミングが一致するため、また、流体の流れによどみが起きにくくなるため、流体が流体室内に流れ込みやすくなる。このことから、逆止弁の動作が安定するという効果がある。
このことにより、投入する電力を抑えながら必要とされる流出流量を確保することができる。
【0011】
[適用例2]上記適用例に係るポンプにおいて、前記逆止弁と前記入口流路との間に、弾性壁室がさらに設けられ、前記弾性手段が、前記弾性壁に設けられていることが望ましい。
【0012】
弾性壁室は、流体室の手前の流体貯留室と考えることができ、流体の流動変動に対してバッファーとなり、より円滑に流動させることができる。
【0013】
[適用例3]本適用例に係る流体噴射装置は、容積変更手段の駆動によって容積が変更可能な流体室と、前記流体室に流体を流入させる入口流路と、前記流体室に連通し、先端部に設けられるノズルから流体を噴射させる流体噴射管と、前記流体室と前記入口流路との間に設けられる逆止弁と、前記逆止弁と前記入口流路との間に設けられる弾性壁室と、前記弾性壁室の前記逆止弁と対向する位置に設けられる弾性手段と、を有し、前記容積変更手段の駆動周波数faと、前記弾性手段が配置される前記弾性壁室内における流体の応答の固有振動数fbと、が、おおよそa=fbであることを特徴とする。
【0014】
このように構成される流体噴射装置は、容積変更手段の駆動によって、流体を流路径が縮小されたノズルから高速噴射する。従って、流体室には流体の流出量に必要な流入量がタイミングよく供給されなければならない。そこで、容積変更手段の駆動周波数faと、弾性手段が配置される弾性壁室内における流体の応答の固有振動数fbと、を、fa=fbとすれば、流体の流れに共振が励起して、円滑に流体を流体室内に流入させることができる。また、容積変更手段の駆動と流体の流れに周期性があって、流れによどみが起きにくくなるため逆止弁の動作が安定する。
また、弾性壁室は、流体室の手前の流体貯留室と考えることができ、流体の流動変動に対してバッファーとなり、より円滑に流動させることができる。
【0015】
以上のことから、投入する電力を抑えながら必要とされる流出流量を確保することが可能で、流体噴射装置の小型化にも有効である。
【0016】
[適用例4]本適用例に係る医療機器は、流体供給手段として上記適用例に記載のポンプを用いて供給された流体を、上記適用例に記載の流体噴射装置を用いて噴射させることを有することを特徴とする。
【0017】
上述した流体噴射装置は、流体をパルス状に高速噴射するものであって、生体組織を選択的に切除・切開・破砕することが可能で、血管等の細管組織を温存できるなど手術具として優れた特性を有している。そこで、前述した適用例に記載の流体噴射装置を用いれば、流体室内に円滑に流体を必要な流量で、適切なタイミングで流入させることができるので、手術具として最適な流体噴射を行うことができる。
また、上述したポンプも流体噴射装置と同様に、流体室内に円滑に流体を流入させることができるので、流体噴射装置に対して十分な流入量を供給することができる。
また、流体噴射装置及びポンプ共に、投入電力を小さくできることも含めて、上述した流体噴射装置及びポンプを組み合わせて用いれば、流体噴射装置及びポンプの駆動が同期して流体の流入と流出が行えるので、高効率に流体を供給、噴射できる医療機器を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1に係るポンプを示す断面図。
【図2】圧電素子に印加される駆動波形。
【図3】実施例1に係る容積変更手段と弾性壁の挙動を示す説明図。
【図4】実施例2に係るポンプを示す断面図。
【図5】容積変更手段の駆動周波数と、ポンプの出口流量との関係を示すグラフ。
【図6】流体噴射装置を示す断面図。
【図7】変形例1に係る駆動波形。
【図8】変形例2に係る駆動波形。
【図9】医療機器の概略構成を示す説明図。
【図10】従来技術に係る容積変更手段の駆動周波数とポンプの吐出流量の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
なお、以下の説明で参照する図は、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材ないし部分の縦横の縮尺は実際のものとは異なる模式図である。
(ポンプ・実施例1)
【0020】
図1は、実施例1に係るポンプを示す断面図である。図1において、ポンプ10は、容積変更手段としての圧電素子40及びダイアフラム50の駆動により容積が変更可能な流体室60と、流体室60に流体を流入させる入口流路32と、流体室60から流体を流出させる出口流路34と、流体室60と入口流路32との間に設けられる逆止弁70と、入口流路管31の管壁の一部に設けられる弾性手段としての弾性壁35と、を有して構成されている。
【0021】
圧電素子40は、第1ケース20の底部21に一端が固定されており、他端はダイアフラム50に固定されている。ダイアフラム50は、第1ケース20と第2ケース30との間に密着固定され、第2ケース30との間の空間で流体室60を形成している。
【0022】
入口流路32は、第2ケース30に突設された入口流路管31に形成され、出口流路34は、第2ケース30に突設された出口流路管33に形成されている。入口流路管31には、流体を貯留する容器から流体を入口流路32に流動する接続チューブ(共に、図示せず)が接続されている。
【0023】
逆止弁70は、入口流路32から流体室60に流体を流入させるときに開放され、出口流路34から流体を流出させるときに閉塞するように構成されている。
【0024】
弾性壁35は、入口流路管31の管壁の一部に、プラスチック、ゴム、金属薄板等の弾性を有する材料からなる板状部材である。なお、弾性壁35は、管壁の外周面の一部を周囲よりも薄く加工して弾性をもたせ、入口流路管31と一体形成する構造として実現しても良い。この際、流体の物性と入口流路等の寸法が決まれば、弾性壁35の材質、面積、厚さ等によって、弾性壁35の振動周波数を設計できる。本実施例では、弾性壁35振動周波数をfbとする。
【0025】
次に、圧電素子40の駆動波形と流体室60の内部圧力の関係について説明する。
図2は、圧電素子に印加される駆動波形を示す。横軸に時間、縦軸に駆動電圧を表している。図2に示す例では、駆動波形は、正の電圧方向にオフセットして位相が−90度ずれた周波数faのsin波形である。例えば、容積変更手段に使われている圧電素子40は正の電圧が印加されるとダイアフラム50を押圧する方向の長さが増加するものを使用していると、駆動波形の立ち上りの時間は、流体室60の容積を減らしている時間に相当する。そして、駆動波形の立ち下りの時間は、流体室60の容積を増やしている時間に相当する。よって、駆動波形の周波数は流体室60の容積変化の周波数と同じになる。
【0026】
このことから、流体室60の容積変化の周波数は、駆動波形の周波数faとなる。ここで、流体室60に内部圧力が掛かっている間は逆止弁70が閉じ、流体室60に内部圧力がかかっていない間は逆止弁70が開放するため、流体室60内部に流れ込む流体の周波数はfaとなる。
【0027】
本実施例では、圧電素子40の駆動の繰返し周波数faと弾性壁35を備える入口流路32内における流体の応答の固有振動数fbとの関係をfa=fbとする。
【0028】
続いて、ポンプ10の作用について図3及び表1を参照して説明する。
図3は、実施例1に係る容積変更手段と弾性壁の挙動を示す説明図である。また、表1は、図3の各工程の作用を解説している。図3(a)〜図3(c)は、圧電素子40が伸長して流体室60の容積を縮小する工程、図3(d)〜図3(f)は、圧電素子40が縮小して流体室60の容積が増大する工程を表している。
【0029】
【表1】

【0030】
まず、図3(a)は、圧電素子40が伸長を開始し、流体室60の容積が減少し始める状態であって、このとき、逆止弁70は入口流路32と流体室60の間を閉じており、弾性壁35は僅かに外側に膨張を始めている。従って、流体は、流体室60へ流入せず、出口流路34から流出を開始するが、流出の流れは低速である。
【0031】
図3(b)は、さらに圧電素子40が伸長した状態を表し、(a)の状態よりも、流体室60の容積が減少し、逆止弁70は入口流路32と流体室60の間を流体室60の内部圧力によって強く閉じる。この状態では、流体室60への流体流入はなく、流体のイナータンスによって逆止弁70に近い入口流路32内の内部圧力が高まり、弾性壁35は外側に膨張する。このとき、出口流路34からの流出は中速となる。
【0032】
図3(c)は、圧電素子40の伸長が最大になった状態を表している。この状態では、流体室60の容積はさらに減少して最小となり、逆止弁70は入口流路32と流体室60の間を流体室60の内部圧力によって、より強く閉じる。この状態では、流体室60への流体流入はなく、流体のイナータンスによって逆止弁70に近い入口流路32内の内部圧力が最大となることから、弾性壁35はさらに外側に大きく膨張する。このとき、出口流路34からの流出は高速となる。
【0033】
図3(d)は、圧電素子40が収縮を開始し、流体室60の容積が増大し始める状態であって、弾性壁35は僅かに内側に収縮し始め、逆止弁70は入口流路32と流体室60の間を開放する。このとき、流体は、入口流路32から流体室60への流入を開始し、出口流路34からの流出速度は高速のままである。
【0034】
図3(e)は、さらに圧電素子40が収縮した状態を表し、(d)の状態よりも、流体室60の容積が増大し、逆止弁70は入口流路32と流体室60との間を開放している。この状態では、入口流路32から流体室60へ流体流入が継続し、弾性壁35の収縮量も増加し、出口流路34からの流出は中速となる。
【0035】
図3(f)は、圧電素子40の収縮が最大になった状態を表している。この状態では、流体室60の容積は最大となり、逆止弁70は入口流路32と流体室60の間を開放している。このとき、入口流路32からの流体室60への流体流入は継続しており、弾性壁35の収縮はなくなり初期状態となり、出口流路34からの流出速度は低速となる。
【0036】
図3に示すように、圧電素子40伸長に追従して逆止弁70が閉じ、入口流路32の容積を増加させる。また、圧電素子40の収縮に追従して、逆止弁70が開き、弾性壁35が元の形状に復帰しながら入口流路内の容積を減少させる。このとき、容積変更手段の駆動周波数faと、弾性壁35の振動周波数fbと、を、fa=fbとすると、流体室60の容積変化と、入口流路32の容積変化のタイミングが一致する。言い換えれば、流体室内の脈動と、入口流路内の脈動とのタイミングがほぼ一致することになり、流体の流れによどみが起きにくくなるため、流体が流体室内に流れ込みやすくなる。また、このことから、逆止弁70の動作が安定し、かつ、投入する電力を抑えながら必要とされる流出流量を確保することができる。
(ポンプ・実施例2)
【0037】
続いて、実施例2に係るポンプ10について図面を参照して説明する。実施例2は、前述した実施例1に対して、逆止弁70と入口流路32との間に、弾性壁室61がさらに設けられ、弾性手段としての弾性膜38が、弾性壁室の逆止弁と向かい合う位置に設けられていることが異なる。実施例1と同じ機能要素には同じ符号を附して説明する。
図4は、実施例2に係るポンプを示す断面図である。図4において、本実施例に係るポンプ10は、容積変更手段としての圧電素子40及びダイアフラム50の駆動により容積が変更可能な流体室60と、流体室60に流体を流入させる入口流路32と、流体室60から流体を流出させる出口流路34と、流体室60と入口流路32との間に設けられる逆止弁70とが備えられている。
【0038】
また、逆止弁70と入口流路32との間に、弾性壁室61がさらに設けられ、弾性手段としての弾性膜38が、弾性壁室61の逆止弁70と向かい合う位置に設けられている。
【0039】
入口流路32は、第3ケース36に突設された入口流路管31に形成され、出口流路34は、第2ケース30に突設された出口流路管33に形成されている。入口流路管31には、流体を貯留する容器から流体を入口流路32に流動する接続チューブ(共に、図示せず)が接続されている。
【0040】
第1ケース20と第2ケース30と第3ケース36とは、互いに流路が接続されるように積み重ねて固定されている。第2ケース30と第3ケース36の間には、パッキン75を配して、内部の流路と外部とをシーリングしている。
【0041】
圧電素子40は、第1ケース20の開口部を封鎖する第4ケース37の内面に一端が固定されており、他端は補強板55を介してダイアフラム50に固定されている。
【0042】
逆止弁70は、圧力室内の圧力が弾性壁室内の圧力より低下したときに流路を開放し、圧力室内の圧力が弾性壁室内の圧力より高くなるときに流路を閉塞する。
【0043】
弾性膜38は、第3ケース36に形成された弾性壁室61の開口部を密閉するように固定されている。弾性膜38は、プラスチック、ゴム、金属薄板等の弾性を有する材料をからなる板状部材である。ここで、流体の物性と弾性壁室等の寸法が決まれば、弾性膜38の材質、面積、厚さ等によって、弾性膜38の振動周波数を設計できる。本実施例では、弾性膜38の振動周波数をfbとする。
【0044】
また、弾性壁室61の容積変化の周波数は、前述した実施例1と同じ考え方を踏襲でき、駆動波形の周波数faとなり、流体室60に内部圧力がかかっている間は逆止弁70が閉じ、流体室60に内部圧力がかかっていない間は逆止弁70が開放するため、流体室60内部に流れ込む流体の周波数はfaとなる。
【0045】
容積変更手段(圧電素子40及びダイアフラム50)と弾性膜38の挙動は、実施例1(図3、表1)における「入口流路32の弾性壁35」と「弾性壁室61の弾性膜38」とを置換えて説明することができる。
【0046】
続いて、前述した実施例1及び実施例2における容積変更手段の駆動周波数と、吐出する出口流量との関係について説明する。なお、この関係は、前述した実施例1(図1、参照)及び実施例2(図4、参照)共に同じように表すことができるので、実施例1を参照して説明する。
図5は、容積変更手段の駆動周波数と、ポンプの出口流量との関係を示すグラフであり、横軸に容積変更手段の駆動の周波数、縦軸にポンプ10の出口流量を表している。図中、破線は、fa≠fbの場合、実線はfa=fbの場合を表している。
【0047】
流体室60の容積変化1回に対する出口流量は駆動波形の波高値を変えなければ変わらないので、容積変更手段の駆動周波数が上がれば、破線で示すように、出口流量は駆動周波数にほぼ比例して直線的に増加する。よって、ポンプ10の出口流量Qcを得る為に、容積変更手段の駆動周波数をfcとする必要がある。しかし、fa=fbとすれば、実線で示すように容積変更手段の駆動周波数fcよりも低い駆動周波数fによって、出口流量Qcを得ることができる。
【0048】
なお、図5に示すように、駆動周波数fは、理想的にはf=fa=fbであることが望ましいが、駆動周波数f前後の周波数であれば、破線で示す出口流量以上の流量を流動できれば上記の効果はあるので、fa≒fbとなっていても構わない。
【0049】
実施例1及び実施例2では、流体の流れに脈動が残ってしまう可能性や容積変更手段の駆動周波数fa以外のところで吐出特性は下がってしまう可能性があるが、多少の脈動があっても投入する電力をできるだけ抑えて、ポンプ10の出口流量を希望する所定の量を少なくとも流したい用途であれば効果的である。
【0050】
また、実施例2に記載の弾性壁室61は、流体室60の手前の流体貯留室と考えることができ、流体の流動変動に対してバッファーとなり、より円滑に流動させることができるという効果がある。
(流体噴射装置)
【0051】
続いて、前述したポンプ10のように、入口流路側に弾性手段を用いた流体噴射装置について図面を参照して説明する。
図6は、流体噴射装置を示す断面図である。図6において、流体噴射装置100は、大きくは、脈動発生部120と、脈動発生部120内に流体を流入させる入口流路管121と、脈動発生部120から流体を噴射させる流体噴射管200とから構成されている。
【0052】
脈動発生部120は、容積変更手段としての圧電素子151及びダイアフラム131の駆動により容積が変更可能な流体室132と、流体室132に流体を流入させる入口流路122と、流体室132から流体を流出させる出口流路301と、流体室132と入口流路122との間に設けられる逆止弁125とを有して構成されている。
【0053】
また、逆止弁125と入口流路122との間に、弾性壁室123がさらに設けられ、弾性手段としての弾性膜124が、弾性壁室123の逆止弁125と向かい合う開口部を封止しており、弾性壁室123の一部を構成している。
【0054】
入口流路122は、第3ケース154に突設された入口流路管121に形成され、出口流路301は、第2ケース153に突設された出口流路管300に形成されている。入口流路管121には、流体を貯留する容器から流体を入口流路122に供給する流体供給手段(例えば、ポンプ等)と接続される接続チューブ(共に、図示せず)が接続されている。
【0055】
圧電素子151は、第1ケース152の開口部を封止する第4ケース156の内面に一端が固定されており、他端は補強板160を介してダイアフラム131に固定されている。
【0056】
逆止弁125は、入口流路122(弾性壁室123)から流体室132に流体を流入させるときに開放され、出口流路301から流体を流出させるときに閉じるように構成されている。
【0057】
出口流路管300には、流体噴射管200が接続されており、流体噴射管200の先端部にはノズル210が設けられ、先端部に至るまでの流路よりも流路径が縮小された流体噴射開口部211が設けられている。
【0058】
第1ケース152と第2ケース153と第3ケース154とは、互いの流路が接続されるように積み重ねて固定されている。そして、第2ケース153と第3ケース154の間には、パッキン133を配して、内部の流路と外部とをシーリングしている。
【0059】
弾性膜124は、第3ケース154に形成された凹部の開口部を密閉するように固定されている。弾性膜124は、プラスチック、ゴム、金属薄板等の弾性を有する材料をからなる板状部材である。ここで、流体の物性と弾性壁室等の寸法が決まれば、弾性膜124の材質、面積、厚さ等によって、弾性膜124の振動周波数fbを設計できる。
【0060】
また、圧電素子151の駆動波形と流体室132の内部圧力の関係は、前述したポンプ10の実施例1と同様に説明できる。つまり、圧電素子151は、図2で表される駆動波形が入力され、駆動波形の立ち上りの時間は、流体室132の容積を減らしている時間に相当する。そして、駆動波形の立ち下りの時間は、流体室132の容積を増やしている時間に相当する。よって、駆動波形の周波数は流体室132の容積変化の周波数と同じであり、容積変更手段(圧電素子151)の駆動周波数faと一致する。本実施例では、fa=fbの関係にある。
【0061】
次に、本実施例に係る流体噴射装置100の流体噴射作用について説明する。脈動発生部120には、一定の流速で流体供給手段(図示せず)から入口流路122に流体が供給される。脈動発生部120では、圧電素子151を駆動して流体室132内において脈流を発生させ、流体噴射管200に設けられる流体噴射開口部211から流体をパルス状に高速噴射する。
【0062】
ここで脈流とは、流体の流れる方向が一定で、流体の流量または流速が周期的または不定期な変動を伴った流体の流動を意味する。脈流には、流体の流動と停止とを繰り返す間欠流も含むが、流体の流量または流速が周期的または不定期な変動をしていればよいため、必ずしも間欠流である必要はない。
【0063】
また、脈動発生部120における弾性膜124の機能は、前述した実施例1に記載の弾性壁35、または実施例2に記載の弾性膜38と同様に説明できる。このように構成される流体噴射装置100は、容積変更手段(圧電素子151及びダイアフラム131)の駆動により、流体が、流路径が縮小された流体噴射開口部211からパルス流が高速噴射する。
【0064】
圧電素子151伸長に追従して逆止弁125が閉じ、流体室132の容積は縮小し、弾性膜124は膨らみ弾性壁室123の容積を増加させる。また、圧電素子151の収縮に追従して、流体室132の容積が増加して、逆止弁125は開き、弾性膜124が元の形状に復帰しながら弾性壁室123の容積を減少させる。このとき、fa=fbとすると、流体室132の容積変化と、弾性壁室123の容積変化のタイミングが一致する。言い換えれば、流体室132内の脈動と、弾性壁室123内の脈動とのタイミングがほぼ一致するため、流体が流体室内に流れ込みやすくなる。また、流体の流れによどみが発生しにくくなる。これらのことから、逆止弁125の動作が安定し、かつ、投入する電力を抑えながら必要とされる流出流量を確保することができる。
【0065】
なお、前述したポンプ10または流体噴射装置100では、駆動波形をsin波としたが、周期性があれば、矩形波や三角波など、sin波に限定されない。以下に駆動波形の変形例について説明する。
図7は変形例1の駆動波形を示し、図8は変形例2の駆動波形を示している。図7、図8は、駆動波形の途中に信号のホールド期間を設けたものである。駆動波形の1周期は、正の電圧方向にオフセットして位相が−90度ずれたsin波形(1周期分)にホールド期間を合わせた時間とする。
【0066】
図7の場合は、出力される波形の間にホールド期間を設けたもので、図8の場合は、駆動電圧のピークでホールド期間を設けたものである。図7及び図8で示すように、駆動波形の周波数を変化させる場合には、ホールド期間の長さを変えることで変化させることが可能である。例えば、容積変更手段に使われている圧電素子は正の電圧が印加されるとダイアフラム131を押圧する方向に圧電素子の長さが増加するものを使用しているとすると、駆動波形の立ち上りの時間は、流体室の容積を減らしている時間に相当する。そして、駆動波形の立ち下りの時間は、流体室の容積を増やしている時間に相当する。よって、駆動波形の周波数はポンプ室の容積変化の周波数と同じになる。
【0067】
よって、流体室の容積変化の周波数は、前述の駆動波形の1周期の逆数となり、ここでは、周波数faとする。流体室に内部圧力が掛かっている間は逆止弁が閉じ、流体室に内部圧力が掛かっていない間は逆止弁が開放するため、流体室内部に流れ込む流体の周波数はfaとなる。このことから、図7または図8に示すような駆動波形としても、前述したポンプ10、流体噴射装置100と同様な効果が得られる。
(医療機器)
【0068】
続いて、流体供給手段として前述したポンプ10を用いて供給された流体を、やはり前述した流体噴射装置100を用いて、流体を噴射させる医療機器について図面を参照して説明する。なお、本実施例の医療機器は、生体組織を選択的に切除・切開・破砕することが可能な手術具である。よって、ここで用いる流体は、生理食塩水などの液体である。
図9は、医療機器の概略構成を示す説明図である。医療機器は、流体噴射装置100に液体を供給する流体供給装置としてのポンプ10を有する。
【0069】
流体噴射装置100は、図6にて説明したものを用いることが可能である。また、ポンプ10は、図1または図4にて説明したものを用いることができる。液体を収容する流体容器2とポンプ10とは、第1接続チューブ3によって接続され、ポンプ10と流体噴射装置100とは第2接続チューブ4によって接続されている。
【0070】
ポンプ10は、流体容器2から液体を吸引して流体噴射装置100の流体室132に供給する。流体噴射装置100では、圧電素子151及びダイアフラム131からなる容積変更手段によって流体室132の容積を急激に変更させることで脈流を発生させ、流体噴射開口部211から、液体をパルス状に高速噴射させる。
【0071】
このように液体をパルス状に高速噴射する場合、生体組織を選択的に切除・切開・破砕することが可能で、血管等の細管組織を温存できるなど手術具として優れた特性を有している。このような流体噴射装置100では、流体室132に噴射量に必要な流量がタイミングよく供給されなければならない。そこで、容積変更手段の駆動周波数faと、弾性膜124が配置される弾性壁室123内における流体の応答の固有振動数fbと、を、fa=fbとしているので、液体の流れに共振が励起して、円滑に液体を流体室132に流入させることができる。また、容積変更手段の駆動と流体の流れに周期性があって、流れによどみが起きにくくなるため逆止弁125の動作が安定する。
【0072】
また、ポンプ10は、流体噴射装置100に対して噴射量に必要な流量をタイミングよく供給しなければならない。実施例1(図1、参照)または実施例2(図4、参照)のポンプ10は、容積変更手段の駆動周波数faと、弾性壁35が配置される入口流路32または弾性壁室61における液体の応答の固有振動数fbと、を、fa=fbとしているので、液体の流れに共振が励起して、円滑に液体を流体室60に流入させることができる。また、容積変更手段の駆動と液体の流れに周期性があって、流れによどみが起きにくくなるため逆止弁70または逆止弁125の動作が安定し、流体噴射装置100の駆動に十分な流量をタイミングよく供給させることができる。
【0073】
従って、本実施例の医療機器は、前述した流体噴射装置100及びポンプ10を組み合わせて用いることにより、高効率に液体を必要な流量で供給し、噴射できる手術具を実現でき、投入電力も小さくできることが可能となる。
なお、実施例で説明したポンプや流体噴射装置や医療機器において、fa=fbとしているが、おおよそfa=fbであっても構わない。つまり、一例である図5は、ポンプや流体噴射装置や医療機器に適応できる。したがって、図5からも分かるように、繰返し周波数fは理想的にf=fa=fbであることが望ましいが、繰返し周波数f前後の周波数のように図5の破線以上に流量が流せれば本発明の効果はあるので、図5の破線以上の範囲となるところで、おおよそfa=fbとなっていても構わない。
【符号の説明】
【0074】
10…ポンプ、32…入口流路、34…出口流路、35…弾性手段としての弾性壁、40…圧電素子、50…ダイアフラム、60…流体室、70…逆止弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容積変更手段の駆動によって容積が変更可能な流体室と、
前記流体室に流体を流入させる入口流路と、
前記流体室から流体を流出させる出口流路と、
前記流体室と前記入口流路との間に設けられる逆止弁と、
前記入口流路に設けられる弾性手段と、
を有し、
前記容積変更手段の駆動周波数と前記弾性手段の振動周波数とが等しいことを特徴とするポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載のポンプにおいて、
前記逆止弁と前記入口流路との間に、弾性壁室がさらに設けられ、
前記弾性手段が、前記弾性壁室に設けられていることを特徴とするポンプ。
【請求項3】
容積変更手段の駆動によって容積が変更可能な流体室と、
前記流体室に流体を流入させる入口流路と、
前記流体室に連通し、先端部に設けられるノズルから流体を噴射させる流体噴射管と、
前記流体室と前記入口流路との間に設けられる逆止弁と、
前記逆止弁と前記入口流路との間に設けられる弾性壁室と、
前記弾性壁室の前記逆止弁と向かい合う位置に設けられる弾性手段と、
を有し、
前記容積変更手段の駆動周波数と前記弾性手段の振動周波数とが等しいことを特徴とする流体噴射装置。
【請求項4】
流体供給手段として請求項1または請求項2に記載のポンプを用いて供給された流体を、請求項3に記載の流体噴射装置を用いて噴射させることを特徴とする医療機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−145031(P2012−145031A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3723(P2011−3723)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】