説明

ポンプの軸封部のシール構造

【課題】軸スリーブに非接触でシールする軸封部を設け、軸スリーブを磨耗させずその交換を不要とする。
【解決手段】ポンプのインペラ軸2に外嵌した軸スリーブ6の外周面と、注水供給装置に注水管7を介して接続されたパッキン箱5の内周面との間に、注水管口7aに望む様に配置されるランタンリング8と、内周面に軸線方向で所定間隔置きに環状溝9a、10aを並設したラビリンスパッキン9、10を装填し、ランタンリング8とラビリンスパッキン9、10は半円弧状に二分割に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプの軸封部のシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スラリーポンプや渦巻きポンプにあっては、そのケーシング内で回転駆動するインペラ軸のケーシング貫通箇所において、外部への液漏れや空気の吸い込みを防止する軸封部を設けている。
軸封部は、インペラ軸に外嵌した軸スリーブの外周面と、注水管に接続されたパッキン箱の内周面との空間に形成されるものにして、複数のグランドパッキンと、注水管口に望む様にグランドパッキン間に介装配置されたランタンリングとを装填し、これらをパッキン箱のパッキン装填口からパッキン押さえにて押圧し、グランドパッキンを圧迫してパッキン箱と軸スリーブとの間を塞いで軸封すると共に、注水供給装置から注水管を経てランタンリングの空所にケーシング内の圧力以上の圧力にて注水し、グランドパッキンと軸スリーブとの間に通水してこれらを冷却及び潤滑している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−65288号公報(特に、図5、6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そして、グランドパッキンの磨耗等により漏洩量が増加したときは、パッキン押さえを更に押し込んでグランドパッキンを増し締めして漏洩量を低減させられるが、グランドパッキンを締め付け過ぎると、グランドパッキンと軸スリーブがその摩擦力の増加により発熱し、共に磨耗する。
グランドパッキンの磨耗は交換によって解消されるものにして、グランドパッキンは軸スリーブに環状に巻付けているので、その交換作業は比較的簡単に行われるが、インペラ軸に外嵌した軸スリーブを交換することになると、ポンプ全体を分解せねばならず、その作業は甚だ時間を要し面倒であるといった課題を有している。
そこで、本発明では、軸スリーブに非接触でシールする軸封部を設け、軸スリーブを磨耗させずその交換を不要とすることを主な目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題に鑑み、ポンプのインペラ軸に外嵌した軸スリーブの外周面と、注水供給装置に注水管を介して接続されたパッキン箱の内周面との間に、注水管口に望む様に配置されるランタンリングと、内周面に軸線方向で所定間隔置きに環状溝を並設したラビリンスパッキンを装填したことを特徴とする。
又、ランタンリングとラビリンスパッキンは半円弧状に二分割に形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
要するに本発明は、ポンプのインペラ軸に外嵌した軸スリーブの外周面と、注水供給装置に注水管を介して接続されたパッキン箱の内周面との間に、注水管口に望む様に配置されるランタンリングと、内周面に軸線方向で所定間隔置きに環状溝を並設したラビリンスパッキンを装填したので、軸スリーブの外周面とラビリンスパッキンの内周面間に、ランタンリングへ注水供給装置から供給される注水が流動する狭小な流路が形成され、該流路はラビリンスパッキンの環状溝により軸スリーブの軸線方向に断面積が大小異なる広い隙間と狭い隙間が交互に繰り返しており、この広い隙間と狭い隙間を流体が交互に流れるうちに、その絞り効果によって圧力が低下し、これにより流体の流動抵抗が大きくなり、軸スリーブとの隙間をシールする液パッキンを形成して漏れを抑えることができる。
この様に、ラビリンスパッキンによって、軸スリーブ外周を非接触にてシールできるので、軸スリーブは磨耗することがなく、磨耗による軸スリーブの交換が不要で軸スリーブの恒久的な使用が可能となる。
【0007】
ランタンリングとラビリンスパッキンは半円弧状に二分割に形成したので、ランタンリングとラビリンスパッキンの各分割体をインペラ軸を包み込む様に合わせて装着したり、又はインペラ軸から分離する様に離脱することにより、ポンプ自体を分解することなく、インペラ軸への着脱並びにパッキン箱への挿脱が容易に行える等その実用的効果甚だ大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明の実施の一形態例を図面に基づいて説明する。
図1は本発明に係るポンプの軸封部のシール構造を示す断面図である。
上記軸封部1は、スラリーポンプ又は渦巻きポンプにおいて、図示しないインペラ(羽根車)を回転させるインペラ軸2のケーシング3の貫通箇所4に設けられている。
【0009】
上記貫通箇所4は、ケーシング3内側寄りに小径部4aを形成し、該小径部4aに同心円状に連続して大径部4bを形成している。
又、貫通箇所4には、これに大径部4bと同径の中空部5aが連通する筒状のパッキン箱5をケーシング3に外方突設し、パッキン箱5には軸スリーブ6を外嵌したインペラ軸2を挿通している。
【0010】
パッキン箱5は図示しない注水供給装置に注水管7を介して接続されている。
尚、パッキン箱5は、ボルト挿通穴を有する一対の鍔部5b(図1では便宜上一方のみ表示)を外方突設し、該鍔部5bはケーシング3に基端を螺着した植込みボルトBを挿通し、該ボルトB先端を高ナットNで螺着することにより、ケーシング3に固定している。
【0011】
軸スリーブ6は、その外径が貫通箇所4の小径部4aより小径に形成され、軸スリーブ6の外周面と、パッキン箱5の内周面との間に、軸封部1を装填している。
軸封部1は、注水管口7aに望む様にパッキン箱5内で配置されるランタンリング8と、内周面に軸線方向で所定間隔置きに環状溝9a、10aを並設したラビリンスパッキン9、10とから成る。
ランタンリング8とラビリンスパッキン9、10は、硬質合成樹脂、金属などの同一硬質材料から形成されている。
【0012】
本実施例において軸封部1は、その前方部1aと後方部1bに二分割されている(図2〜5参照)。
前方部1aは、その前端から順にラビリンスパッキン9とランタンリング8を一体的に連続形成している。
ラビリンスパッキン9は、その外周形状が貫通箇所4(小径部4a、大径部4b)に合致し、大径部4bに対応するフランジ9bの前端面が大径部4bの前端面に当接掛止することで貫通箇所4からケーシング3内側への抜出を防止し、軸スリーブ6を極めて微細な隙間を介して回転自在に挿通している。
ランタンリング8は、その外径がフランジ9bの外径より小径で、内径がラビリンスパッキン9の内径より大径な薄肉リングであり、その円周方向に等間隔置きに通水穴8aを複数穿設しており、ランタンリング8前端をラビリンスパッキン9後端に連結している。
【0013】
後方部1bはラビリンスパッキン10のみから成り、該ラビリンスパッキン10は、フランジ9bと同一外径にして、且つラビリンスパッキン9と同一内径の円筒形状に形成され、その前後端面には、ランタンリング8の後端内周に挿嵌可能にして、ランタンリング8の後端を支持する支持リング10bを突設し、ラビリンスパッキン9と同様に軸スリーブ6を極めて微細な隙間を介して回転自在に挿通している。
又、前方部1a(ランタンリング8とラビリンスパッキン9)と後方部1b(ラビリンスパッキン10)とは、いずれも半円弧状に二分割に形成している。
【0014】
尚、本実施例にあっては、前方部1aはラビリンスパッキン9とランタンリング8とが連結したものを示したが、夫れに分離したものであっても良い(図示せず)。
この場合ランタンリング8は従前の如く内周側と外周側の夫々に凹溝を有する断面H型のリングに形成される。
更に、図6に示す様に、軸封部1は前後に分割することなく、ランタンリング8、ラビリンスパッキン9、10を一体形成しても良い。
そして、上記いずれの形態の軸封部1にあっても半円弧状に二分割に形成している。
【0015】
軸封部1を装填したパッキン箱5には、これのパッキン装填口5cから密栓用のグランドパッキン11を介してパッキン押さえ13で軸封部1(後方部1b)をパッキン箱5内方へ押圧している。
グランドパッキン11は、断面角形の紐状パッキンを軸スリーブ6に巻き付け、パッキン装填口5cを密栓している。
【0016】
パッキン押さえ12は、軸スリーブ6の外周面と、パッキン箱5の内周面との間に、先端方が進退自在に挿入される円筒形の本体12aと、該本体12a基端の一直径方向に外方突出した一対の突片12bとからなる(図1、7参照)。
そして、パッキン押さえ12は、突片12bを二等分する本体12aの一直径線上で二分割に形成され、パッキン押さえ12の分割体は、該分割体の突片12b先端側方に夫々に設けた挿通穴にボルトB1を通してナットN1で締結することにより、一体的に接合する様に成している。
【0017】
そして、インペラ軸2を本体12a内に挿通する様にしてボルトB1とナットN1にて上記の如く分割体を接合したパッキン押さえ12は、その本体12a先端をパッキン装填口5cに挿入し、本体12aの軸線と平行に突片12bに穿設したボルト挿通穴に長ねじボルトB2を挿通し、該ボルトB2先端を高ナットNに螺着し、基端を突片12b背面に配したナットN2にて螺着している。尚、ボルトB2の先端方には、ロックナットN3を螺着している。
これにより、ナットN2を締めつけると、パッキン押さえ12は、その本体12a先端がパッキン箱5内の奥へ前進し、グランドパッキン11を介して軸封部1における前後方部1a、1bの連結状態を維持している。
【0018】
上記の様に構成された軸封部1にあっては、ポンプ起動時に所定圧力の注水を注水供給装置から注水管7を介してランタンリング8へ供給する。
そして、インペラ軸2をこれに連結した電動機(図示せず)により回転させてポンプを起動すると、スラリーはポンプの吸込口からケーシング3内部へ吸い込まれ吐出口から圧送される。
【0019】
上記の様に圧送するとき、ケーシング3内のスラリーは昇圧されて軸封部1から外部へ漏れようとするが、軸スリーブ6の外周面とラビリンスパッキン9、10の内周面間に、ランタンリング8へ供給された注水が流動する微細な流路が形成され、該流路はラビリンスパッキン9、10の環状溝9a、10aにより軸スリーブ6(インペラ軸2)の軸線方向に断面積が大小異なる広い隙間と狭い隙間が交互に繰り返しており、この広い隙間と狭い隙間を注水が交互に流れるうちに、その絞り効果によって圧力が低下し、これにより注水の流動抵抗が大きくなり、軸スリーブ6との隙間をシールする液パッキン(シーリング水)を形成して外部へのスラリー漏れを抑える。
【0020】
この様に、ラビリンスパッキン9、10により、軸スリーブ6外周を非接触にてシールできると共に、軸スリーブ6とラビリンスパッキン9、10間に形成されたシーリング水によって両者6、9、10が冷却・潤滑され、軸スリーブ6は磨耗しない。
尚、軸封部1をパッキン箱5のパッキン装填口5cから密栓用のグランドパッキン11を介してパッキン押さえ12で押圧したので、ラビリンスパッキン9、10外周から注水の漏洩を抑えることができる。
【0021】
又、軸封部1を主に構成しているランタンリング8とラビリンスパッキン9から成る前方部1aと、ラビリンスパッキン9の単独から成る後方部1bとは、半円弧状に二分割して成るから、前方部1aと後方部1bの各分割体をインペラ軸2を包み込む様に合わせて装着したり、又はインペラ軸2から分離する様に離脱することにより、ポンプ自体を分解することなく、インペラ軸2への着脱、並びにパッキン箱5への挿脱が容易に行える。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ポンプの軸封部のシール構造を示す断面図である。
【図2】軸封部の前方部を示す正面図である。
【図3】同上前方部の一方の分割体の内側を示す図である。
【図4】軸封部の後方部を示す正面図である。
【図5】同上後方部の一方の分割体の内側を示す図である。
【図6】軸封部の他例であってその分割状態を示す図である。
【図7】パッキン箱に挿入した状態でのパッキン押さえの正面図である。
【符号の説明】
【0023】
2 インペラ軸
5 パッキン箱
6 軸スリーブ
7 注水管
7a 注水管口
8 ランタンリング
9 ラビリンスパッキン
9a 環状溝
10 ラビリンスパッキン
10a 環状溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプのインペラ軸に外嵌した軸スリーブの外周面と、注水供給装置に注水管を介して接続されたパッキン箱の内周面との間に、注水管口に望む様に配置されるランタンリングと、内周面に軸線方向で所定間隔置きに環状溝を並設したラビリンスパッキンを装填したことを特徴とするポンプの軸封部のシール構造。
【請求項2】
ランタンリングとラビリンスパッキンは半円弧状に二分割に形成したことを特徴とする請求項1記載のポンプの軸封部のシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−59868(P2010−59868A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−226571(P2008−226571)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(000139805)株式会社伊藤製作所 (11)
【Fターム(参考)】