説明

マイクロ共振器システム及びその製造方法

本発明の様々な態様は、レーザ、モジュレータ及び光検出器として使用することができるマイクロ共振器システム、並びにこのマイクロ共振器システムを製造する方法に関する。一態様では、マイクロ共振器システム(100)は、上表面層(104)を有する基板(106)、基板(106)内に埋め込まれた少なくとも1つの導波路(114、116)、並びに上層(118)、中間層(122)、底層(120)、電流分離領域(128)及び周辺環状領域(124、126)を有するマイクロディスク(102)を備えている。マイクロディスク(102)の底層(120)は、基板(106)の上表面層(104)と電気的に連絡しており、周辺環状領域(124、126)の少なくとも一部が、少なくとも1つの導波路(114、116)の上に配置されるように位置する。電流分離領域(128)は、マイクロディスクの中央領域の少なくとも一部を占有し、周辺環状領域よりも低い屈折率及び大きなバンドギャップを有するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の態様は、マイクロ共振器システム、特に、レーザ、モジュレータ(変調器)及び光検出器として使用できるマイクロ共振器システム、並びにこのようなシステムを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロ電子デバイスの集積回路上の密度は増大しているが、このことは、前記デバイスを相互接続するために使用できる金属製の信号線の密度に関連する技術的障害を招いている。加えて、金属製の信号線の使用によって、電力消費は著しく増大し、ほとんどの回路上に位置する最も長いリンクに同期させることへの困難を招く。信号線を介して電気信号としての情報を伝達するのではなく、この同じ情報を電磁放射線(「ER」)で符号化して、導波路、例えば光ファイバ、リッジ導波路及びフォトニックフォトニック結晶導波路を介して伝達することができる。ERで符号化された情報を導波路を介して伝達することは、信号線を介して電気信号を伝達することに比べ、多数の利点をもたらす。まず、劣化又は損失は、導波路を介して伝達されたERの方が、信号線を介して伝達された電気信号よりもずっと小さい。次に、導波路は、信号線よりもずっと大きなバンド幅(帯域幅)を有するように製造することができる。例えば、単一のCu又はAlワイヤは単一の電気信号しか伝達できないが、単一の光ファイバは、約100以上に異なって符号化されたERを伝達するように構成することができる。
【0003】
最近では、材料科学及び半導体製造技術の進歩により、電子デバイス、例えばCMOS回路と共に集積してフォトニック集積回路(「PIC」)を形成できるフォトニックデバイスを構築することが可能となった。「フォトニック」という用語は、古典的に特徴付けられるER又は電磁スペクトルにわたる周波数で量子化されたERによって動作可能なデバイスを指す。PICは、電子集積回路のフォトニック等価物(photonic equivalent)であり、半導体材料のウェハ上で実行することができる。PICを効果的に実行するためには、受動的及び能動的なフォトニック素子が必要となる。導波路及び減衰器は、典型的に従来のエピタキシャル法及びリソグラフィック法を利用して製造することができ且つマイクロ電子デバイス間でのERの伝搬を方向付けるために使用することのできる受動フォトニック素子の例である。物理学者及び技術者は、PICで使用可能な能動フォトニック素子の必要性を認識している。
【発明の概要】
【0004】
様々な本発明の態様は、レーザ、モジュレータ及び光検出器として使用可能なマイクロディスクを備えているマイクロ共振器システム、並びにこのマイクロ共振器システムを製造する方法に関する。本発明の一態様では、マイクロ共振器システムは、上表面層を有する基板、基板内に埋め込まれ且つ基板の上表面層に隣接して位置する少なくとも1つの導波路、並びに上層、中間層、底層、電流分離領域及び周辺環状領域を有するマイクロディスクを備えている。マイクロディスクの底層は、基板の上表面層に装着され且つそれと電気的に連絡しており、周辺環状領域の少なくとも一部が少なくとも1つの導波路上に配置されるように位置している。電流分離領域は、マイクロディスクの中央領域の少なくとも一部を占有するよう構成されており、周辺環状領域よりも低い屈折率及び周辺環状領域よりも大きなバンドギャップを有している。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1A】本発明の態様による、第1のマイクロ共振器システムの等角図を示す。
【図1B】本発明の態様による、第1のマイクロ共振器システムの図1Aに示す線1B−1Bに沿った断面図を示す。
【図2】本発明の態様による、例示的なマイクロディスクを有する層の断面図を示す。
【図3A】図1に示すマイクロディスクの周辺領域の、電子バンドギャップエネルギーの仮想プロットを示す。
【図3B】図1に示すマイクロディスクの電流分離領域の、電子バンドギャップエネルギーの仮想プロットを示す。
【図4A】本発明の態様による、図1に示す第1のマイクロ共振器システムのマイクロディスクにおける電流の経路を示す。
【図4B】本発明の態様による、図1に示す第1のマイクロ共振器システムのマイクロディスクの周辺領域へのウィスパリングギャラリーモード(whispering gallery mode)の実質的な閉じ込めを示す。
【図5A】本発明の態様による、第2のマイクロ共振器システムの等角図を示す。
【図5B】本発明の態様による、図5Aに示す第2のマイクロ共振器システムの線5B−5Bに沿った断面図を示す。
【図6A】本発明の態様による、図5に示す第2のマイクロ共振器システムのマイクロディスクにおける電流の経路を示す。
【図6B】本発明の態様による、図5に示す第2のマイクロ共振器システムのマイクロディスクの周辺領域へのウィスパリングギャラリーモードの実質的な閉じ込めを示す。
【図7A】量子井戸ベースの利得媒質の量子化された電子エネルギー状態に関連するエネルギーレベル線図を示す。
【図7B】レーザ本発明の態様による、レーザとして動作する、図1に示す第1のマイクロ共振器システムの概略図を示す。
【図8A】本発明の態様による、モジュレータとして動作する、図1に示す第1のマイクロ共振器システムの概略図を示す。
【図8B】符号化されていない電磁放射線の強度対時間のプロットを示す。
【図8C】データ符号化された電磁放射線の強度対時間のプロットを示す。
【図9】本発明の態様による、光検出器として動作する、図1に示す第1のマイクロ共振器システムの概略図を示す。
【図10A】本発明の態様による、図1に示す第1のマイクロ共振器システムの製造方法に関連する等角図を示す。
【図10B】本発明の態様による、図1に示す第1のマイクロ共振器システムの製造方法に関連する断面図を示す。
【図10C】本発明の態様による、図1に示す第1のマイクロ共振器システムの製造方法に関連する断面図を示す。
【図10D】本発明の態様による、図1に示す第1のマイクロ共振器システムの製造方法に関連する等角図を示す。
【図10E】本発明の態様による、図1に示す第1のマイクロ共振器システムの製造方法に関連する断面図を示す。
【図10F】本発明の態様による、図1に示す第1のマイクロ共振器システムの製造方法に関連する断面図を示す。
【図10G】本発明の態様による、図1に示す第1のマイクロ共振器システムの製造方法に関連する等角図を示す。
【図10H】本発明の態様による、図1に示す第1のマイクロ共振器システムの製造方法に関連する等角図を示す。
【図10I】本発明の態様による、図1に示す第1のマイクロ共振器システムの製造方法に関連する等角図を示す。
【図10J】本発明の態様による、図1に示す第1のマイクロ共振器システムの製造方法に関連する断面図を示す。
【図10K】本発明の態様による、図1に示す第1のマイクロ共振器システムの製造方法に関連する断面図を示す。
【図11A】本発明の態様による、図5に示す第2のマイクロ共振器システムの製造方法に関連する断面図を示す。
【図11B】本発明の態様による、図5に示す第2のマイクロ共振器システムの製造方法に関連する断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0006】
様々な本発明の態様は、レーザ、モジュレータ及び光検出器として使用可能なマイクロディスクを備えているマイクロスケールの共振器(microscale resonator)(「マイクロ共振器」)システム、並びにそのマイクロ共振器システムを製造する方法に関する。以下に説明する様々なマイクロ共振器システムの態様では、同じ材料を有する構造的に類似の複数の構成要素には同じ参照番号を付与しており、記述を簡潔にするために、それらの構造及び機能の説明の繰り返しは避けている。
【0007】
図1Aに、本発明の態様による、マイクロ共振器システム100の等角図を示す。マイクロ共振器システム100は、基板106の上表面層104に装着されたマイクロディスク102、マイクロディスク102の上表面110に装着された第1の電極108、及び上表面層104に装着され且つマイクロディスク102に隣接して位置する第2の電極112を備えている。マイクロディスク102は、マイクロ共振器システム100のマイクロ共振器であって、特定のWGMを支持(助成)するように構成することができる。基板106は、基板106を通って延び且つ上表面層104に隣接して位置する2つの導波路114及び116を含む。導波路114及び116は、マイクロディスク102の周辺環状領域の少なくとも一部の下に配置されている。マイクロディスク102は、上層118、底層120、及び上層118と底層120との間に挟まれた中間層122を備えている。底層120は、図1Bを参照して後述するように、上表面層104と同じ材料からなっていてよい。マイクロディスク102の層118、120及び122は、図2を参照して以下により詳細に説明する。
【0008】
図1Bに、本発明の態様によるマイクロ共振器システム100の、図1Aに示す線1B−1Bに沿った断面図を示す。図1Bに示すように、導波路114及び116は、マイクロディスク102の周辺環状領域の部分124及び126の下に配置されている。マイクロディスク102は、マイクロディスク102の中央領域の少なくとも一部を占有するように構成された電流分離領域128を有する。第2の電極112は、上表面層104を介して底層120と電気的に連絡している。ここでは、単一の第2の電極112が基板106の上表面層104上に配置されているだけだが、本発明の別の態様では、2つ以上の電極が、上表面層104上に位置していてよい。
【0009】
本発明のマイクロ共振器システムの態様のマイクロ共振器が、マイクロディスク102のような円形のマイクロディスクに限定されないことに留意されたい。本発明の他の態様では、マイクロディスク102は、円形、楕円形であってもよいし、WGMを支持し且つ共振ERを作り出すために適した他の任意の形状であってもよい。
【0010】
上層118は、「p型半導体」と呼ばれる、電子アクセプタドーパントでドープされたIII−V半導体であってよく、底層120は、「n型半導体」と呼ばれる、電子ドナードーパントでドープされたIII−V半導体であってよく、ここで、ローマ数字のIII及びVは、元素周期表の第3及び第5カラムの元素を指す。中間層122は、1つ以上の量子井戸を含む。各量子井戸は、異なる種類のIII−V半導体の2つの層間に挟まれた比較的薄いIII−V半導体層であってよい。図2に、本発明の態様によるマイクロディスク102を含む複数の層の断面図を示す。図2では、上層118は、Znがドーパントとして使用されていてよいp型InPであってよく、底層120は、Siがドーパントとして使用されていてよいn型InPであってよい。中間層122は、InGa1−xAs1−yの3つの量子井戸201〜203を含み、式中、x及びyは0〜1である。中間層122は、バリア層InGa1−xAs1−y205〜208も含み、式中、x及びyは0〜1である。パラメータx及びyの選択は、隣接する層と格子整合するように行い、それは当分野で公知である。例えば、InP層118及び120に格子整合する層では、xの値が0.47になるよう選択される。yの選択によって、量子井戸のバンドギャップエネルギーが決定される。量子井戸の動作については、図7Aを参照して以下に説明する。量子井戸201〜203は、所望の波長λでERを放出するように構成されていてよく、一方、バリア層205〜208は、量子井戸内に注入されたキャリア(つまり電子及び正孔)を閉じ込めるように比較的大きなバンドギャップを有するように構成されていてよい。層205及び206は、量子井戸201〜203を分離し、層207及び208は、量子井戸201及び203を層118及び120からそれぞれ分離する比較的厚い2つの層である。基板106は、SiO、Si又は他の適切な誘電絶縁材料からなっていてよい。導波路114及び116は、第IV族元素、例えばSi及びGeからなっていてよい。本発明の他の態様では、他の適切なIII−V半導体、例えばGaAs、GaP又はGaNを使用することができる。
【0011】
電流分離領域128は、マイクロディスク102の周辺環状領域に関連する(周辺環状領域の)量子井戸電子バンドギャップよりも大きな電子バンドギャップを有する。図3Aに、マイクロディスク102の周辺領域の3つの量子井戸に関する、電子バンドギャップエネルギーとマイクロディスク102の高さzとの関係のプロット(グラフ)を示す。底層120及び上層118の電子バンドギャップエネルギーは、それぞれΔE及びΔEで表す。中間層122中の量子井戸は、バンドギャップエネルギーΔEQWを有し、量子井戸層に隣接するバリア層は、より大きなバンドギャップエネルギーΔEBarを有する。バンドギャップエネルギーΔE及びΔEは、バンドギャップエネルギーΔEBarより大きく、電子及び正孔を中間層122へ閉じ込めるための二重ヘテロ接合バリアを形成する層118及び120に対応することに留意されたい。図3Bに、マイクロディスク102の電流分離領域128に関する、電子バンドギャップエネルギーとマイクロディスク102の高さzとの関係のプロット(グラフ)を示す。図3Bに示すように、電流分離領域128では、点線のエネルギーレベル302及び304で表されるように、中間層122の量子井戸層及びバリア層のバンドギャップエネルギーが消失しているか又は不確定となっている。
【0012】
電圧を電極108及び112に印加した時の、マイクロディスク102の電流分離領域128と周辺領域とでの上記の電子バンドギャップエネルギーの差を、周辺領域内の経路に電流を実質的に閉じ込めるために利用することができる。図4Aに、本発明の態様による、電極108及び112間の電流の流れを示す経路402を示す。経路402は、より大きなバンドギャップの電流分離領域128の周りを通って曲がり、電極108及び112を接続している。電流は、後述のように、マイクロディスク102の周辺領域、例えば周辺領域126に実質的に閉じ込めることができる。周辺環状領域の電子バンドギャップエネルギーより大きいが、電流分離領域128の電子バンドギャップエネルギーを超過することはない電圧を電極108及び112へ印加することを考える。電圧は十分に大きいので、電流は、周辺領域126を通って流れることができるが、電流分離領域128を通って流れることはできない。言い換えれば、電流が電流分離領域128を通って流れるのに必要な電圧より低い電圧を使用して、電流を周辺領域126に実質的に閉じ込めることができる。電流分離領域128を避けて通る電流経路、例えば経路402は、電極108及び112間で、電流がそれに沿って流れるためのより低エネルギーの経路を表している。
【0013】
一般に、マイクロ共振器は、その周囲よりも大きな全体の屈折率を有しているので、マイクロディスクの周面付近で全反射が起こる結果、マイクロディスク内で伝達されるERは、典型的には捕捉される。マイクロディスクの周面付近で捕捉されるERのモードは、「ウィスパリングギャラリーモード(『WGM』)」と呼ばれる。WGMは、マイクロディスクの直径に関係する特定の共振波長λを有する。しかし、典型的なマイクロディスクでは、WGMの形態の、周面付近でERを閉じ込めない他のモードも存在している。
【0014】
本発明のマイクロディスク102の態様は、マイクロディスク102の周辺領域にERを実質的に閉じ込めるために使用することができ、それは、バンドギャップが広くなるほど、電流分離領域128が、マイクロディスク102の周辺領域よりも低い屈折率を有するようになるからである。図4Bに、本発明の態様によるマイクロディスク102の周辺領域へのWGMの実質的な閉じ込めを示す。図4Bに示すように、マイクロディスク102の上面図404は、マイクロディスク102の周面に沿って描かれた方向矢印を含む。この方向矢印は、マイクロディスク102の周面付近で伝搬する仮想のWGMの伝搬方向を表し、方向矢印の長さは、WGMの波長λに対応する。強度のプロット406に、WGMの強度分布と上面図404の線A−Aに沿った距離との関係を示す。点線の強度曲線408及び410は、マイクロディスク102の周面付近で実質的に閉じ込められたWGMを示す。マイクロディスク102の直径を越えて延びる曲線408及び410の部分は、マイクロディスク102の周面に沿ったWGMのエバネッセントを表す。断面図412は、WGMによって占有されている周辺環状領域の部分124及び126を示す。点線の楕円414及び416は、WGMの、導波路114及び116内へのエバネッセント結合を表す。よって、ERは、より高い屈折率の領域に閉じ込められるので、電流分離領域128は、電流及び光の両方の分離を提供する。
【0015】
図5Aに、本発明の態様による、第2のマイクロ共振器システム500の等角図を示す。マイクロ共振器システム500は、図1に示すマイクロ共振器システム100と同一であるが、第1の電極108が、マイクロリング電極(microring electrode)502に置き換えられており、第3の電極(図示せず)が、マイクロディスク102に隣接する基板106の上表面層104上に位置する点が異なる。図5Bに、本発明の態様によるマイクロ共振器システム500の、図5Aに示す線5B−5Bに沿った断面図を示す。図5Bに示すように、マイクロリング電極502は、マイクロディスク102の上表面の少なくとも一部上に位置し、それを覆っている。第3の電極504は、マイクロディスク102に隣接して位置し、上表面層104を介して底層120と電気的に連絡している。
【0016】
マイクロリング電極502は、マイクロディスク102の周辺領域の一部上に配置されているので、マイクロリング電極502と電極112及び504との間の電流の流れは、図4Aに示す経路402より直接的な(直線的な)経路を取る。図6Aに、本発明の態様による、マイクロリング電極502と電極112及び504との間の電流の流れを表す経路602及び604を示す。経路602及び604は、マイクロリング電極502と第2の電極112及び第3の電極504との間に電流を流すための、経路402よりも直接的な又は低抵抗のルートを表す。図6Bに示すように、WGMの、マイクロディスク102の周辺領域への実質的な閉じ込め、並びに導波路114及び116内へのWGMのエバネッセント結合は、上述の図4Bを参照して行った説明と同じである。
【0017】
マイクロディスク102は、導波路114及び116内で伝達されるコヒーレントERを生成するレーザとして使用することができる。レーザは、3つの基本的な要素、つまり利得媒質又は増幅器、ポンプ及び光キャビティ内でのERのフィードバック(feedback)を備えている。中間層122の量子井戸は利得媒質を含み、電極108及び112に印加される電流又は電圧がポンプであり、フィードバックは、中間層122の量子井戸をポンピングすることによって生成したWGMが、マイクロディスク102の周面付近を伝搬する際に、全内部反射によって作られる。
【0018】
利得媒質は、適切なバンドギャップを有する少なくとも1つの量子井戸からなってていよい。量子井戸のサイズ及び量子井戸を囲んでいるバルク材料は、量子井戸における電子状態のエネルギーレベルの間隔を決定する。典型的には、量子井戸は、価電子帯で比較的小さな数の量子化電子エネルギーレベルを、伝導帯でいくつかの量子化正孔エネルギーレベルを有するように構成されている。伝導帯での最も低いエネルギーレベルから価電子帯でのエネルギーレベルへの電子の遷移が、利得媒質の放出波長λを決定する。図7Aに、幅aの量子井戸ベースの利得媒質の量子化電子エネルギー状態に関連するエネルギーレベル線図700を示す。バンドギャップエネルギーEを有するより狭い領域702は量子井戸に対応しており、バンドギャップエネルギーE(−)(Eバー)を有する比較的広い領域704及び706は、量子井戸を囲むバルク材料に対応している。図7Aに示すように、量子井戸は、伝導帯での正孔エネルギーレベル708及び価電子帯での3つの電子エネルギーレベル710〜712を有する。利得媒質は半導体材料を含んでいるので、適切な電子的刺激(誘導)、例えば電気的ポンプによって、電子は価電子帯から伝導帯での量子化されたレベル、例えば正孔エネルギーレベル708へと押し上げられる。価電子帯中の正孔と伝導帯中の電子との自然の(自発的な)再結合によって、hc/λで表されるエネルギーを有する光子が放出され、前記式中、hはプランク定数であり、cは真空中でのERの速度である。誘導(励起)放出は、WGM中の光子によって起こり、それは、利得媒質を励起させ、同じエネルギー又は波長でより多くの光子を生じさせる。自然の及び誘導の照射放出(放射)の両方において、放出されるERのエネルギーは、
【式1】
【0019】

【0020】
であり、式中、Eは、伝導帯へとポンピングされた電子のエネルギーレベル708であり、Eは、伝導帯からの電子と結合する価電子帯の正孔と関連したエネルギーレベル710である。電気的ポンプが利得媒質に適用される場合、マイクロディスク102内で全内部反射によって起こるフィードバックにより、WGMの強度が増大する。レーザ発振は、マイクロディスク102内で利得が損失に等しくなった時に起こる。マイクロディスク102は、利得を有する光キャビティを形成し、導波路114及び116はマイクロディスク102のERを結合する。
【0021】
図7Bに、本発明の態様による、レーザとして動作する図1に示した第1のマイクロ共振器システムの概略図を示す。図7Bに示すように、電極108及び112は、電流源710に接続されている。マイクロディスク102の量子井戸層は、図7Aを参照して上述したように、電流源710によって供給された適切な大きさの電流でマイクロディスク102をポンピングすることによって、利得媒質として動作させることができる。その結果、波長λを有するWGMがマイクロディスク102内で生成し、WGMの強度が増加すると、全内部反射によってWGMはマイクロディスク102の周面付近を伝搬する。WGMは、導波路114及び116へとエバネッセント結合し、導波路114及び116内を伝搬する波長λを有するERが得られる。
【0022】
図8Aに、本発明の態様による、モジュレータとして動作する図1に示したマイクロ共振器システム100の概略図を示す。電流源710は、データ源802に接続されており、このデータ源802は、中央処理装置、メモリ又は他のデータ生成デバイスであってよい。ER源804は、導波路116に接続されており、図8Bに示すように、時間に対して実質的に一定の強度を有するERを放出する。図8Aを参照すると、マイクロディスク102に結合するERの量は、マイクロディスク102内での損失、離調、結合係数に依存する。源804によって放出されたERの波長λが、マイクロディスク102の共振から離調している場合には、ERは、導波路116からマイクロディスク102へ結合をしない。ERの波長λがマイクロディスク102と共振する場合には、ERがマイクロディスク102内へとエバネッセンス結合してWGMが作り出されるので、導波路116内を伝搬するERの伝達は減少する。導波路116内へ伝達されたERの一部は、導波路116上に配置されたマイクロディスク102の周辺領域へとエバネッセンス結合し、波長λを有するWGMとして周辺領域中を伝搬する。データ源802は、電流源710によって生じる電流の強度を調節することによって、WGM中のデータを符号化する。電極108及び112間で伝達される電流の強度を調節することによって、マイクロディスク102の屈折率は相応して変化する。マイクロディスク102の屈折率が変化すると、マイクロディスク102の共振波長が変化し、導波路116中で伝達されるERの共振波長から離調する。これによって、さらに、導波路116からマイクロディスク102内へのERの伝達が調節され、続いて、導波路116内で伝達されるERの強度が調節される。導波路114が存在する場合には、ERは、インプット導波路116からマイクロディスク102を介して導波路114へと伝送することができる。導波路114から送られるERの量は、結合強さに依存する。マイクロディスク102の屈折率を調節することによって、導波路114へと伝達されるERの強度が低下する。マイクロリング102内での損失を調整することによっても、導波路116中のERの強度を調節することもできる。これは、印加される電圧の適用によって量子井戸のバンドギャップを調節する量子閉じ込めシュタルク効果を利用することによって達成される。マイクロディスク102中の損失を増大させることによって、マイクロディスク102を通過して導波路114及び116で伝達される強度が調節される。
【0023】
図8Cに、調節されたERの強度と時間との関係を示し、ここでは、比較的低い強度領域806及び808は、マイクロディスク102上に誘導された比較的高い屈折率に対応している。情報を符号化するために相対強度を使用でき、それは、2進数を相対強度に割り当てることによって行う。例えば、2進数の「0」は、フォトニック信号で、低い強度、例えば強度領域806及び808で表すことができ、2進数の「1」は、同じフォトニック信号で、比較的高い強度、例えば強度領域810及び812で表すことができる。
【0024】
図9に、本発明の態様による光検出器として動作する図1に示す第1のマイクロ共振器システムの概略図を示す。この構成では、量子井戸のバンドギャップは、導波路116中で伝達される入力ERの放射源より小さくなるように選択される。電界がマイクロ共振器内に存在するように、逆バイアスを電極に印加することもできる。マイクロ共振器に結合した入射ERは、量子井戸内で吸収され、電子、正孔の対を生成する。マイクロリング内の電界は、電子及び正孔が分離され且つ電流が電極108及び112で発生するようになっている。情報を符号化する、調節されたER波長λ(−)(ラムダバー)は、導波路116中を伝達される。ERは、マイクロディスク102の周辺領域へとエバネッセント結合し、対応する調節されたWGMを生成する。周辺領域中を伝搬するWGMの強度の変動は、これに対応する電極108及び112間の電流の変動を誘導する。変動する電流は、調節されたERにおいて符号化された同じデータを符号化する電気信号であり、電子計算装置902によって処理される。
【0025】
図10A〜10Kに、本発明の態様による、図1に示すマイクロ共振器システム100の製造方法に関連する等角図及び断面図を示す。図10Aに、上層1002、中間層1004、底層1006及びリンベースのウェハ1010によって支持されたエッチ停止層1008を含む第1の構造1000の等角図を示す。層1002及び1006は、n型及びp型III−V半導体、例えばそれぞれSi及びZnでドープされたInP又はGaPからなっていてよい。中間層1004は、図2を参照して上述したように、少なくとも1つの量子井戸を含む。エッチ停止層1008は、格子整合したIn0.53Ga0.47Asの薄層であってよい。層1002、1004及び1006は、分子線エピタキシ(「MBE」)、液相エピタキシ(「LPE」)、ハイブリッド気相エピタキシ(「HVPE」)、有機金属気相エピタキシ(「MOVPE」)、又は他の適切なエピタキシ法を利用して堆積させることができる。図10Bに、層1002、1004、1006、1008及びウェハ1010の断面図を示す。
【0026】
次に、図10Cの断面図に示すように、スパッタリングを使用して、酸化物層1012を上層1002上に堆積させることができる。酸化物層1012は、上層1002の、図10Gを参照して後述する基板106へのウェハ接合を簡単にするために使用することができる。層1012は、SiO、Si、又は基板106へのウェハ接合を実質的に増大させる他の適切な誘電材料であってよい。
【0027】
図10Dに、酸化物基板層1018上にSi層1016を有する、シリコンオンインシュレータ基板(「SOI」)ウェハ1014を示す。シリコン導波路114及び116は、後述のように、Si層1016内に製作することができる。フォトレジストをSi層1016上に堆積することができ、このフォトレジストで導波路114及び116のフォトレジストマスクを、UVリソグラフィを使用してパターニングすることができる。続いて、適切なエッチングシステム、例えば誘導結合型プラズマエッチャ(「ICP」)及びCl/HBr/He/Oをベースとした化学物質による低圧高密度エッチングシステムを使用して、導波路114及び116をSi層1014内に形成することができる。導波路114及び116をSi層1016に形成した後、溶媒を使用してフォトレジストマスクを除去することができ、図10Eに示すように導波路114及び116が残る。基板1018と同じ酸化物材料からなる酸化物層を、液相、化学気相堆積を利用して、導波路114及び116上に堆積させることができる。化学機械研磨(「CMP」)プロセスを使用して、堆積した酸化物を平坦化することができ、これにより、図10Fの基板106の断面図に示すような埋め込まれた導波路114及び116を有する基板106が形成される。
【0028】
次に、図10Gに示すように、第1の構造1000を反転させ、ウェハ接合使用して、酸化物層1012を基板106の上表面へ装着する。選択的湿式エッチングを使用して層1010を除去することができ、これにより、図10Hに示す第2の構造1020が得られる。エッチ停止層1008は、エッチングプロセスが層1006に達することを停止するために設けることができる。塩化水素酸も、InPベースのウェハ1010を除去するために使用することができ、それは、InPとエッチ停止層1008のInGaAsとの間に、エッチング選択性があるからである。
【0029】
次に、反応性イオンエッチング(「RIE」)、化学支援イオンビームエッチング(「CAIBE」)、又は誘導結合型プラズマ(「ICP」)エッチングを使用して、エッチ層1002、1004及び1006を、図10Iに示すようなマイクロディスク102の形態へとエッチングすることができる。上表面層104を形成するために、基板106に隣接する層1002の一部が残される。
【0030】
図10Jに、マイクロディスク102及び基板106の、図10Iに示す線10J−10Jに沿った断面図を示す。電流分離領域128は、不純物誘導不規則化(IID」)及びアニールを使用して、マイクロディスク102の中央領域の少なくとも一部に形成される。IID方法は当分野で公知であり、E. J. Skogenらによる「Quantum-well-intermixing process for wevelength-agile photonic integrated circuit」、IEEE J.*of Selected Topics in Quantum Electronics、Vol. 8、No. 4、2002で説明されている。IIDでは、不純物が導入されると、層118、120及び122の異なる組成が互いに混合される。アニール後、混合された領域のバンドギャップは、より大きなバンドギャップへとシフトする。不純物は、マスキング及び標準的なフォトリソグラフィプロセスの利用によって所望の領域に導入することができる。
【0031】
IIDは、不規則化された領域のドーピングレベルを減少させる傾向もあるため、IID後、ドーパントを上層118内に注入することができ、それにより、p型半導体上層118が形成される。例えば、Znは、InPからなる上層118のためのp型半導体ドーパントとして働く。図10Kに示すように、第1の電極108及び第2の電極112を含む材料を、電子線蒸着によって堆積させ、標準的なフォトリソグラフィックプロセスを使用してパターン化し、電極108及び112を形成する。p型ドーパントを含む金属、例えばAuZnを第1の電極108で使用することができ、それにより、p型コンタクトが得られ、n型ドーパントを含む金属、例えばAuGeを第2の電極112で使用することができ、それにより、n型コンタクト112が得られる。
【0032】
図11A〜11Bに、本発明の態様による、図5に示すフォトニックシステム500の製造方法に関連する断面図を示す。マイクロディスク102の形成及び基板106中の導波路114及び116の形成は、図10A〜10Iを参照して上述したように行うことができる。図11Aに示すように、マイクロリング電極502並びに電極112及び504を含む材料は、図10Kを参照して上述したように堆積させ、パターン化することができる。p型ドーパントを含む金属を第1の電極108に使用して、p型コンタクトを得て、n型ドーパントを含む金属を電極112及び504に使用して、n型コンタクトを得ることができる。次に、マスク層をマイクロリング電極502上に配置し、IIDを使用して、マイクロディスク102内に電流分離領域128を形成することができる。IID後、ドーパントを上層118に注入し、図10Jを参照して上述したようにp型上層118を形成することができる。
【0033】
以上の記述は、説明を目的とするためのものであって、本発明をより深く理解するために具体的な用語を使用している。しかし、本発明を実施するためには、そのような具体的な詳細は必要でないことは、当業者には明らかであろう。本発明の特定の態様の上記記述は、例示及び説明を目的として提示したものである。それらは、開示の正確な形態を全て含む又はそれに限定することを意図していない。明らかに、上記教示に鑑み、多くの変更及び変形が可能である。本発明の原理及びその実用上の応用について最もよく説明するために態様を示し記述したが、それにより、当業者は、行いたい特定の使用に合うよう様々な変更を含め、本発明及び様々な態様を十分に利用することができる。本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲及びそれと同等のものによって規定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上表面層(104)を有する基板(106)、
前記基板(106)内に埋め込まれ且つ前記基板の前記上表面層に隣接して位置する少なくとも1つの導波路(114、116)、並びに
上層(118)、中間層(122)、底層(120)、電流分離領域(128)及び周辺環状領域(124、126)を有するマイクロディスク(102)
を備えているマイクロ共振器システム(100)であって、
前記マイクロディスクの前記底層が、前記基板の前記上表面層に装着され且つ該上表面層に電気的に連絡しており、
前記マイクロディスクが、前記周辺環状領域の少なくとも一部が少なくとも1つの導波路の上に配置されるように位置しており、
前記電流分離領域が、前記マイクロディスクの中央領域の少なくとも一部を占有するように構成され、前記周辺環状領域よりも低い屈折率及び大きなバンドギャップを有する、マイクロ共振器システム。
【請求項2】
前記マイクロディスクの前記上表面層上に配置された第1の電極(108、502)、並びに
前記基板の前記上表面層上に、前記マイクロディスクに隣接して配置された少なくとも1つの第2の電極(112、504)
をさらに備えている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第1の電極が、前記マイクロディスクの前記上表面の前記周辺領域の少なくとも一部を覆うように構成されたマイクロリング電極(502)をさらに含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記マイクロディスクが、
上層、
底層、及び
前記半導体上層と前記半導体底層との間に挟まれた中間の量子井戸層
をさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記上層(118)がp型半導体をさらに含み、前記底層(120)がn型半導体をさらに含む、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記中間層(122)が、少なくとも1つの量子井戸をさらに含む、請求項4に記載のシステム。
【請求項7】
前記マイクロディスク(102)が、さらに、
円形、
楕円形、及び
ウィスパリングギャラリーモードを支持するのに適した他の任意の形状
のうち1つを有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
マイクロディスクであって、
上層(118)、
底層(120)、
少なくとも1つの量子井戸を有し、前記上層と前記底層との間に挟まれている中間層(122)、
前記上層、前記中間層及び前記底層の少なくとも一部を含む周辺環状領域(124、126)、並びに
前記マイクロディスクの中央領域の少なくとも一部を占有し、前記上層、前記中間層及び前記底層の少なくとも一部を含み、前記周辺環状領域より低い屈折率を有するように構成された、電流分離領域(128)
を有する、マイクロディスク。
【請求項9】
前記上層(118)がp型半導体をさらに含み、前記底層(120)がn型半導体をさらに含む、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記マイクロディスクが、さらに、
円形、
楕円形、及び
ウィスパリングギャラリーモードを支持するのに適した他の任意の形状
のうち1つを有する、請求項8に記載のシステム。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図10E】
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【図10F】
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【図10G】
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【図10H】
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【図10I】
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【図10J】
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【図10K】
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【図11A】
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【図11B】
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【公表番号】特表2010−535420(P2010−535420A)
【公表日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−519238(P2010−519238)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【国際出願番号】PCT/US2008/009224
【国際公開番号】WO2009/017769
【国際公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(503003854)ヒューレット−パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー. (1,145)
【Fターム(参考)】