説明

マスキング用剥離性粘着テープ

【課題】耐薬品性に優れており、薬液処理に対するマスキング効果を発揮することができ、しかも剥離後の被着体への粘着剤の残渣のないマスキング用剥離性粘着テープを提供すること。
【解決手段】本発明のマスキング用剥離性粘着テープは、基材フィルムの片面に粘着層を設けてなるマスキング用剥離性粘着テープであって、前記粘着層を構成する粘着剤が、(A)常温で固体のゴム材料と、(B)末端に架橋基点を持つ液状物質と、(C)前記液状物質を架橋するための硬化剤と、を含有し、前記ゴム材料のバルク体中に、架橋後の液状物質が0.2μm〜20μmの径で分散していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光発電装置を製造する工程や、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を用いた装置を製造する工程、回路基板を製造する工程などにおいて使用する粘着テープに関し、被着体を薬液処理する際、薬液処理の不要部分を保護するために使用されるマスキング用の剥離性粘着テープに関する。
【背景技術】
【0002】
多結晶型や単結晶型のバルクタイプのセル(シリコンウエハ)を有する太陽光発電装置の製造工程においては、セルであるシリコンウエハ上に、例えばピラミッド型四角錐のような凹凸(テクスチャ)を設けることが一般的に用いられている。このテクスチャの目的は、入射する太陽光の反射を防止して、セル内部入光量を増加させるとともに、セル内光を斜めに導入して、セル内通過距離を長くすることである。
【0003】
テクスチャ形成プロセスを始め、表面安定化プロセスや破砕層除去プロセスにおいては、薬液処理が用いられており、テクスチャ形成プロセスでは薬液としてアルカリ溶液が用いられ、表面安定化プロセスや破砕層除去プロセスなどでは、薬液として酸溶液及びアルカリ溶液が用いられている(特許文献1)。例えば、エッチング速度の面方位依存性を調整するために、1%〜40%の種々の濃度のNaOH水溶液で約10分の薬液処理が行われる。このような薬液処理においては、セル全体を薬液に浸して行われているためにマスキングテープは不要であった。
【0004】
しかしながら、セル構造の開発動向は、薄いウエハを用いたセルで高い変換効率の達成であり、従来は受光面にも形成されていた電極を裏面だけに形成するなど高効率化の取り組みがなされている。その際に、いままで薬液にセル全体を浸してきたプロセスではなく、各々の面を異なるプロセスにて薬液処理する必要性が生じてきた。すなわち、薬液処理を行わない領域をマスキングする必要性が生じてきた。
【特許文献1】特開2008−251726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように薬液処理時にマスキングを行う方法として、レジストを塗布する方法や、市販のシリコーン系粘着層を有するマスキングテープを用いる方法がある。レジストを用いる方法においては、レジスト塗布、プリベーク、薬液処理、レジスト剥離処理などの工程が必要となり工程が複雑化する。一方、市販のシリコーン系粘着層を有するマスキングテープを用いる方法については、本発明者らがNaOH水溶液の1%〜40%にいたる様々な濃度にて確認したところ、1〜10%近傍の濃度においては、浸漬中に被着体であるシリコンウエハからテープが剥がれてしまい、1%〜40%の濃度範囲すべてにおいてマスキングができていなかった。また、マスキングテープには、剥離後に被着体に粘着剤が残存する、いわゆる糊残りがないことも望まれる。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、耐薬品性に優れており、薬液処理に対するマスキング効果を発揮することができ、しかも剥離後の被着体への粘着剤の残渣のないマスキング用剥離性粘着テープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のマスキング用剥離性粘着テープは、基材フィルムの片面に粘着層を設けてなるマスキング用剥離性粘着テープであって、前記粘着層を構成する粘着剤が、(A)常温で固体のゴム材料と、(B)末端に架橋基点を持つ液状物質と、(C)前記液状物質を架橋するための硬化剤と、を含有し、前記ゴム材料のバルク体中に、架橋後の液状物質が0.2μm〜20μmの径で分散していることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、ゴム材料のバルク体中に、架橋後の液状物質が0.2μm〜20μmの径で分散していることにより、アルカリの浸入経路となりうる架橋後の液状物質が分断される。つまり、本来耐薬品性の優れているバルク体が分断されずに連続体の状態で、粘着剤全体の粘弾性を制御できるため、粘弾性調整後でも耐薬品性が維持できる。また、粘着層の表層は凝集性の高いバルク体であるために、剥離後の被着体への粘着剤を残存させない。
【0009】
本発明のマスキング用剥離性粘着テープにおいては、前記粘着剤は、周波数1Hzで測定した動的粘弾性スペクトルについて、25℃における貯蔵弾性率G’が4.5×10Pa〜6.9×10Paであり、損失正接tanδが0.40〜0.43であって、90℃における貯蔵弾性率G’が7×10Pa〜9×10Paであり、損失正接tanδが0.70〜0.82であることが好ましい。
【0010】
本発明のマスキング用剥離性粘着テープにおいては、前記ゴム材料が、クロロプレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム(CSMゴム)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、マレイン酸変性エチレン−プロピレン−ジエンゴム、及びこれらの混合物からなる群より選ばれたものであることが好ましい。あるいは、前記液状物質が、ポリイソプレン骨格、ポリブタジエン骨格、及びポリブテン骨格からなる群より選ばれた少なくとも一つを有する物質であることが好ましい。
【0011】
本発明のマスキング用剥離性粘着テープにおいては、前記ゴム材料が、分子中に極性の強い原子2重量%〜40重量%含有した平均分子量10,000〜50,000の化合物であることが好ましい。あるいは、前記液状物質が、末端にOHを持ち、平均分子量が1,000〜5,000の化合物であり、前記硬化剤がイソシアネート系架橋剤であることが好ましい。
【0012】
本発明のマスキング用剥離性粘着テープにおいては、前記ゴム材料が前記粘着剤の70重量%〜99重量%であり、前記液状物質が前記粘着剤の1重量%〜30重量%であり、前記硬化剤が前記粘着剤の30重量%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のマスキング用剥離性粘着テープは、基材フィルムの片面に粘着層を設けてなり、前記粘着層を構成する粘着剤が、(A)常温で固体のゴム材料と、(B)末端に架橋基点を持つ液状物質と、(C)前記液状物質を架橋するための硬化剤と、を含有し、前記ゴム材料のバルク体中に、架橋後の液状物質が0.2μm〜20μmの径で分散しているので、耐薬品性に優れており、薬液処理に対するマスキング効果を発揮することができ、しかも剥離後の被着体への粘着剤の残渣のないものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明のマスキング用剥離性粘着テープは、基材フィルムの片面に粘着層を設けてなるマスキング用剥離性粘着テープであって、前記粘着層を構成する粘着剤が、(A)常温で固体のゴム材料と、(B)末端に架橋基点を持つ液状物質と、(C)前記液状物質を架橋するための硬化剤と、を含有し、前記ゴム材料のバルク体中に、架橋後の液状物質が0.2μm〜20μmの径で分散していることを特徴とする。
【0015】
まず、基材フィルムの片面に設ける粘着層を構成する粘着剤の材料について説明する。
(A)ゴム材料
ゴム材料としては、常温で固体のゴム材料を用いる。また、ゴム材料としては、分子中に極性の強い原子が結合したゴム材料であることが好ましい。ここで、極性の強い原子としては、窒素(N)、酸素(O)、塩素(Cl)、硫黄(S)などが挙げられる。また、極性の強い原子は、ゴム材料中に2重量%〜40重量%で含まれていることが好ましい。
【0016】
また、ゴム材料の平均分子量は、可撓性、被着体への密着性や、凝集力による被着体への残渣を考慮すると、10,000〜50,000であることが好ましい。
【0017】
具体的には、ゴム材料としては、クロロプレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム(CSMゴム)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、マレイン酸変性エチレン−プロピレン−ジエンゴム、、又はこれらの混合物であることが好ましい。
【0018】
ゴム材料の配合量は、本ゴム材料の極性に起因する強い凝集性によって発現される耐薬品性を活用して、粘着剤全体の耐薬品性の確保および、本ゴム材料の凝集力による弾性率の確保を考慮すると、粘着剤の70重量%〜99重量%であることが好ましいと考える。
【0019】
(B)液状物質
液状物質としては、末端に架橋基点を持つ物質を用いる。架橋基点としては、OH基などを挙げることができる。この末端のOH基は2つ程度であることが好ましい。液状物質において、末端以外の部分は、一般に炭素(C)と水素(H)でできており、分子は極性がないか、あっても非常に小さいことが好ましい。この特長により、相対的に極性の強いゴム材料に対して混ざりにくくなり、ゴム材料中に架橋後の液状物質を分散体として存在させることができる。
【0020】
液状物質は、架橋後の粘性がゴム材料の粘性よりも低いことが好ましい。このような関係にすることにより、架橋後の液状物質がゴム材料のバルク中で分散体として残存し易くなる。分散体としての液状物質(架橋後の液状物質)の大きさは、テープ剥離後の被着体への残渣(被着体への汚染)や、粘着剤の流動性を考慮すると、0.2μm〜20μm径であることが好ましく、特に0.5μm〜5μm径であることが好ましい。
【0021】
このように、ゴム材料のバルク体中に、架橋後の液状物質が0.2μm〜20μmの径で分散していることにより、アルカリの浸入経路となりうる架橋後の液状物質が分断される。つまり、本来耐薬品性の優れているバルク体が分断されずに連続体の状態で、粘着剤全体の粘弾性を制御できるため、耐薬品性が向上する。また、粘着層の表層は凝集性の高いバルク体であるために、剥離後の被着体への粘着剤を残存させない。なお、ゴム材料のバルク体中に、架橋後の液状物質が0.2μm〜20μmの径で分散していることは、走査型電子顕微鏡(SEM)により確認することができる。
【0022】
液状物質の平均分子量は、テープ剥離後の被着体への残渣(被着体への汚染)や、テープの可撓性の低下による被着体に対する密着性の低下を考慮すると、1,000〜5,000であることが好ましい。
【0023】
具体的には、液状物質は、ポリイソプレン骨格、ポリブタジエン骨格、及び/又はポリブテン骨格を有する物質であることが好ましい。
【0024】
液状物質の配合量は、本液状物質が分散体として、維持できる量であり、分散体間でアルカリの浸入経路とならない十分な距離を確保できる量、さらには、被着体汚染の原因となりやすい架橋後の液状物質が、粘着剤の表面に存在する確率を低減させること、さらに粘弾性の調整などを考慮すると、粘着剤の1重量%〜30重量%、好ましくは2.5重量%〜25重量%であることが好ましい。なお、液状物質は硬化剤により架橋されるが、架橋されたものであってもゴム材料に対して可塑剤として働くので、液状物質の量により粘着剤全体の流動性を調節することができる。
【0025】
(C)硬化剤
硬化剤は、液状物質を硬化させるものである。具体的には、硬化剤としては、イソシアネート系架橋剤であることが好ましい。また、硬化剤の配合量は、テープ剥離後の被着体への残渣(被着体への汚染)を考慮すると、粘着剤の30重量%以下であることが好ましい。特に、液状物質との理論上の当量に対して0.5倍〜2倍の割合が好ましい。
【0026】
また、粘着剤は、被着体への投錨効果や、被着体の凹凸吸収を考慮すると、周波数1Hzで測定した動的粘弾性スペクトルについて、25℃における貯蔵弾性率G’が4.5×10Pa〜6.9×10Paであり、損失正接tanδが0.40〜0.43であって、90℃における貯蔵弾性率G’が7×10Pa〜9×10Paであり、損失正接tanδが0.70〜0.82であることが好ましい。
【0027】
また、粘着剤には、必要に応じて、本発明の効果を発揮させる量的、質的範囲内で粘着付与剤、粘着調製剤、界面活性剤など、あるいはその他の改質剤及び慣用成分を配合することができる。
【0028】
溶媒に溶けた粘着剤を基材フィルムに塗布し乾燥して粘着層を形成する場合の乾燥条件としては、温度70℃〜130℃で、1分〜10分であることが好ましい。また、このようにして得られた粘着層の厚さは、特に制限されるものではないが、通常2μm〜50μmであることが好ましい。
【0029】
本発明に係るマスキング用剥離性粘着テープにおける基材フィルムとしては、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンナフタレートなどを用いることができる。
【0030】
本発明のマスキング用剥離性粘着テープは、上記(A)〜(C)を含有する粘着剤で構成された粘着層において、ゴム材料のバルク体中に、架橋後の液状物質が0.2μm〜20μmの径で分散している。このため、薬液処理に対するマスキング効果を発揮することができる。例えば、本発明のマスキング用剥離性粘着テープを2μmの突起が点在するほぼ平坦なシリコンウエハや高さ10μmのピラミッド状突起をもつシリコンウエハの薬液処理に対するマスキングに用いた場合、1%〜40%にわたる様々な濃度での約10分浸漬、あるいは、弱酸〜強酸の酸溶液での約3分浸漬に供しても、浸漬中のテープ剥がれや、テープ剥離後の糊残りを生じることのなくシリコンウエハを保護することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの片面に粘着層を設けてなるマスキング用剥離性粘着テープであって、前記粘着層を構成する粘着剤が、(A)常温で固体のゴム材料と、(B)末端に架橋基点を持つ液状物質と、(C)前記液状物質を架橋するための硬化剤と、を含有し、前記ゴム材料のバルク体中に、架橋後の液状物質が0.2μm〜20μmの径で分散していることを特徴とするマスキング用剥離性粘着テープ。
【請求項2】
前記粘着剤は、周波数1Hzで測定した動的粘弾性スペクトルについて、25℃における貯蔵弾性率G’が4.5×10Pa〜6.9×10Paであり、損失正接tanδが0.40〜0.43であって、90℃における貯蔵弾性率G’ が7×10Pa〜9×10Paであり、損失正接tanδが0.70〜0.82であることを特徴とする請求項1のマスキング用剥離性粘着テープ。
【請求項3】
前記ゴム材料が、クロロプレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム(CSMゴム)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、マレイン酸変性エチレン−プロピレン−ジエンゴム、及びこれらの混合物からなる群より選ばれたものであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のマスキング用剥離性粘着テープ。
【請求項4】
前記ゴム材料が、分子中に極性の強い原子2重量%〜40重量%含有した平均分子量10,000〜50,000の化合物であることを特徴とする請求項1又は請求項2、又は請求項3記載のマスキング用剥離性粘着テープ。
【請求項5】
前記液状物質が、ポリイソプレン骨格、ポリブタジエン骨格、及びポリブテン骨格からなる群より選ばれた少なくとも一つを有する物質であることを特徴とする請求項1または、請求項2にいずれかに記載のマスキング用剥離性粘着テープ。
【請求項6】
前記液状物質が、末端にOHを持ち、分子量が1,000〜5,000の化合物であり、前記硬化剤がイソシアネート系架橋剤であることを特徴とする請求項1又は請求項2、又は請求項5のいずれかに記載のマスキング用剥離性粘着テープ。
【請求項7】
前記ゴム材料が前記粘着剤の70重量%〜99重量%であり、前記液状物質が前記粘着剤の1重量%〜30重量%であり、前記硬化剤が前記粘着剤の30重量%以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のマスキング用剥離性粘着テープ。

【公開番号】特開2010−126698(P2010−126698A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−305649(P2008−305649)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】