説明

マッサージ機

【課題】被施療者のある部位に対する力の印加方向を変えて、より効果的なマッサージを行うことができるものとする。。
【解決手段】少なくとも3つ以上の回転または並進可能な関節30を備えた多関節型アーム31の先端にマッサージ用施療子32を配したマッサージ機である。各関節を独立に駆動するアクチュエータと、各関節の回転または並進の変位を検知する変位センサと、上記アクチュエータを駆動する制御回路とを具備する。制御回路は三次元的に任意な向きに設定されたベクトルでアーム先端の施療子を駆動する。人体のある部位に対して施療子を介して力を加える方向を任意とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マッサージ機、殊に多関節型のアームの先端に施療子を配したマッサージ機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
椅子の背もたれなどにマッサージ機構を配したマッサージ機が従来から提供されているが、これらマッサージ機においては上記背もたれなどのフレーム上にマッサージ機構を組み込んで、フレーム面と直交する方向に施療子の力制御を行い、フレーム面と平行な方向に施療子の位置制御を行うものとして構成されている。
【0003】
一方、マッサージ機構における施療子を通じて力が加えられることでマッサージを受ける被施療者にしてみれば、施療子が当接する部位によって力が加えられる方向が異なっている方が、より効果的なマッサージとなることが多いのに対して、上記のような従来のマッサージ機ではこのような要望に応えることができなかった。
【0004】
また、被施療者の姿勢は固定されているわけではないために、上記要望に常に応えることができるようにすることも困難である。
【特許文献1】特許第3402723号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の従来の問題点に鑑みて発明したものであって、被施療者のある部位に対する力の印加方向を変えて、より効果的なマッサージを行うことができるマッサージ機を提供することを課題とするものであり、更に被施療者の姿勢がどうであれ、上記マッサージを行うことができるマッサージ機を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明に係るマッサージ機は、少なくとも3つ以上の回転または並進可能な関節で形成された多関節型アームの先端にマッサージ用施療子を配したマッサージ機であり、各関節を独立に駆動するアクチュエータと、各関節の回転または並進の変位を検知する変位センサと、上記アクチュエータを駆動する制御回路とを具備するとともに、上記制御回路は三次元的に任意な向きに設定されたベクトルでアーム先端の施療子を駆動するものであることに特徴を有している。人体のある部位に対して施療子を介して力を加える方向を任意とすることができるようにしたものである。
【0007】
上記制御回路は、アーム先端または各関節品位の目標値と、変位センサによって検出された現在変位もしくは変位センサによって検出された現在変位から算出されるアーム先端の現在位置との偏差に基づいて各アクチュエータを制御する位置制御手段を備えたものとすることが好ましく、また、アームはその先端に力センサを備えており、制御回路は予め設定された力の向き及び力の目標値と、上記力センサによって検出された力の現在値との偏差に基づいて各アクチュエータを制御する力制御手段を備えていることが好ましい。
【0008】
上記目標値を記憶する記憶手段を備えたものとすれば、予め設定しておいた揉みマッサージや指圧マッサージ等のマッサージ動作を得ることができる。
【0009】
アーム先端が被施療者に接している時の変位センサから出力される各関節変位情報と、アームにおける関節で連結されたリンクの予め与えられた長さ情報とから幾何学的に算出されるアーム先端位置情報からマッサージ対象である人体の体形ラインを検知する体形ライン検知手段を備えているものでは、人体の各部位に対して夫々有効な方向に力を加えることを容易に行うことができる。
【0010】
この場合、アーム先端の施療子を駆動するベクトルの向きは人体の体形ライン検知手段で検知された体形ラインの接線または法線に対して設定されたものであることが好ましい。
【0011】
そして、アーム先端の施療子を駆動するベクトルの向き及び大きさの調整用の操作部を備えていると、被施療者の好みに応じた方向と大きさの力を加えることができる。
【0012】
位置制御手段はアーム先端の目標軌跡を体形ラインの接線方向に逐次変更する手段を備えていると、人体の凹凸形状に依存せず、常に目標軌跡を維持することができる。
【0013】
また位置制御手段による位置制御での目標軌跡を含む面に対して力を加える方向を直交関係とするとともに、体形ライン接面に平行な面とアームにおける関節変位のヤコビアンから、力印加方向を除いた上記面上に目標をセットしたフィードバック位置制御をアーム先端の施療子に対して行うと、位置制御の変位誤差が力制御誤差となって現れてしまうことがない。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、三次元的に任意な向きに設定されたベクトルでアーム先端の施療子を駆動するものであるために、人体のある部位に対して施療子を介して力を加える方向を任意とすることができ、各部位に対して夫々より効果的なマッサージを行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基いて説明すると、図2は本発明に係るマッサージ機の一例を示すもので、椅子1の背もたれ2に左右一対のマッサージ機構3,3を配している。これらマッサージ機構3,3は、少なくとも3つ以上の回転または並進可能な関節30で形成された多関節型アーム31の先端を人体に接触する施療子32としたもので、ここでは人体の手指を模したものとするために上記アーム31を複数併設している。そして各アーム31における各関節30には個別に駆動されるアクチュエータ(モータ)と、各関節30の回転または並進の変位を検知するロータリエンコーダ等からなる変位センサとが配されている。
【0016】
関節30の構成は多関節型のアーム31の先端の施療子32を三次元的に動かすことができるものであれば、どのようなものでもよいが、図3に示したものでは、Z軸回りの回転を行う第1関節30と、Z軸を含む面内の回転を行う第2,第3関節30,30の総計3つの関節30で構成している。
【0017】
上記の各モータは、図4に示すように、モータドライバ及びD/Aコンバータを介して制御回路に接続され、変位センサ(ロータリエンコーダ)はカウンタを介して制御回路に接続されている。図4中の力センサは、アーム31の先端の施療子32に配されて施療子31と人体との接触及び施療子32が人体を押圧する時の反力を計測するものであり、A/Dコンバータを介して制御回路に接続されている。また、図4中の記憶装置は、力センサの出力と、上記変位センサの出力とを基に算出した人体の体形ラインや、施療子32の駆動時の変位や力の目標値を記憶するものである。
【0018】
上記制御回路は図5に示す位置及び力のフィードバック制御を行って多関節型アーム31を駆動している。すなわち、位置ゲインをKp、速度ゲインをKv、力の比例ゲインをKfp、目標変位をqd、位置センサから得られる現在の変位をq、位置偏差(qd−q)をe1、目標の力をfd、力センサから得られる現在の力をf、力偏差(fd−f)をe2、アーム先端の力を各モータ出力に変換する行列をJとする時、モータ指令値uは
【0019】
【数1】

【0020】
で決定している。
【0021】
ちなみに、アーム31の先端の施療子32の位置(座標x,y,z)は、図3に示すように、各関節30の角度をq1,q2,q3、アーム31における各リンクの長さをl1,l2,l3とする時、次の式
【0022】
【数2】

【0023】
で得ることができる。
【0024】
そして、力センサの出力から施療子32が人体に接していると判断される時の施療子32の位置情報を人体における異なるところに施療子32を接触させることで複数集めることで、人体の体形ラインを知ることができる。この場合、3点での位置情報を体形面の方程式z=ax+by+cに代入して体形面パラメータa,b,cを決定するとよい。また上記3点の座標を逐次更新することによって、被施療者の姿勢変化などにも対応することができる。
【0025】
ここにおいて、多関節型のアーム31の先端に施療子32を設けたマッサージ機1では、図1に示すように、被施療者のある部位に対して任意の方向の力ベクトルを加えることができる。また、上記のように体形ラインを検知していれば、上記部位が変わったり被施療者の姿勢が変化しても、体形ラインの法線方向あるいは体形ラインに対してある角度をなす方向に力を加えることができる。
【0026】
このための制御について説明すると、前記体形面方程式z=ax+by+cより、手先の幾何拘束条件φ(χ)は、次式で与えられる。ただし、χはアーム先端の三次元位置ベクトル(χ=(x,y,z)T)である(Tは転置を示す)。
【0027】
φ(χ)=z−ax−by−c=0
従って体形面の法線ベクトルφxは、
φx=(∂φ(χ)/∂χ)T
=(∂φ(χ)/∂x,∂φ(χ)/∂y,∂φ(χ)/∂z)T
と表される。
【0028】
ここでアーム先端位置χ=(x,y,z)Tと関節座標系q=(q1,q2,q3)Tとのヤコビアンを
【0029】
【数3】

【0030】
と定義すると、体形面法線方向へ力を発揮するための各関節力(各モータ指令値)への変換ベクトルJφを、上記2式から
φ(q)T=J(q)T(∂φ/∂χ)/|φx|
で定義することができる。
【0031】
この式は、上述のように体形面に対して法線方向に力を発揮するための各関節30への変換ベクトルであるが、体形面パラメータa,b,cを変更することにより、任意の方向へ力を発揮するための各関節への変換ベクトルを得ることができる。また、体形面情報を逐次更新することにより、体形ラインに対して常に指定の方向に力の向きをセットすることができる。
【0032】
また、前記椅子1の肘掛け上などに図9に示すような操作部4を設けて、この操作部4を用いて被施療者が与えた向き及び大きさの力をアーム31が出力するようにしてもよい。図示例の操作部4は、被施療者が指で操作面40を押す時の向き及び強さを3軸力センサ41を用いて検出し、検出された強さを前記フィードバック制御に際しての目標の力とするとともに、検出された向きで上記の力が得られるように各関節30を制御することで、被施療者が望む方向及び強さのマッサージを得られるものとなる。
【0033】
ところで、位置フィードバック制御及び力フィードバック制御を行う時の制御則は次のように表される。
【0034】
【数4】

【0035】
この時、揉みマッサージなどのために人体に対して押し込むだけでなく、人体の体表面に沿って移動させる動きを行わせる時、その目標とする軌跡を設定して、施療子32はこの軌跡に沿って移動するように位置制御することになるが、この軌跡(図6では楕円軌跡t)を含む平面を目標軌跡面Tと定義すると、体形ラインLに対して目標軌跡面Tが常に接線方向となるように逐次変更しつつ位置制御を行う。図中Mは目標軌跡面Tと体形ラインLとの接触線であり、体形ラインLの曲面に沿って目標軌跡tを逐次変更することになる。
【0036】
逐次変更に際しては体形ラインの情報が必要となるが、法線方向が前記法線ベクトルφxにより求まるために、体形ライン上に座標系を定義することができる上に、この座標系はアーム31の先端の施療子32と被施療者の接触点により定義されるために逐次変更される。そして目標軌跡面Tをこの座標系に定義することで、目標軌跡tは常に体形ラインLの接線方向となるようにすることができる。この結果、人体表面の凹凸形状の影響を受けることなく、常に目標軌跡tを維持することができることを意味する。
【0037】
また、図7に示すように、軌跡を制御したい面(体形ライン接面(x,y平面)に平行な面)Pに対して直交する方向の力を制御する場合、上記の面Pと関節変位のヤコビアン(接面ヤコビアン)は次式で与えられる。
【0038】
【数5】

【0039】
この時、目標軌跡はxy方向にのみ与えて、xdxy=(xd,yd)Tと表すことができ、アーム31先端のxyに関する位置xxy=(x,y)Tを位置制御する。変換ベクトルJφを求めての力制御を同時に行うことから、制御入力は次式で与えられる(ただし、Kpxyは位置ゲイン、Kvxyは速度ゲイン)。
【0040】
【数6】

【0041】
体形ラインの奥行き方向には位置の目標値を一切与えていないのは、位置制御の変位誤差が力制御に影響を及ぼすことを避けたためである。図8に体形ラインを検出しながら位置と力の制御を行う際のフローチャートを示す。
【0042】
なお、力センサによるところの力フィードバックも含めるならば、制御入力は次式のものとする。
【0043】
【数7】

【0044】
力センサや体形ライン検知手段は必ずしも必要としない。予め与えられた体形ラインを前提として多関節型のアーム31を駆動しても、人体のある部位に対して施療子を介して力を加える方向を任意とすることができるからである。図10はこの場合のブロック回路図を示している。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態の一例における動作説明図である。
【図2】(a)は同上の斜視図、(b)は同上の要部拡大斜視図である。
【図3】同上のアームの説明図である。
【図4】同上のブロック回路図である。
【図5】同上の制御系のブロック図である。
【図6】目標軌跡面の説明図である。
【図7】同上の位置制御及び力制御の説明図である。
【図8】同上のフローチャートである。
【図9】同上の操作部の概略図である。
【図10】他例のブロック回路図である。
【符号の説明】
【0046】
1 椅子
2 背もたれ
3 マッサージ機構
30 関節
31 アーム
32 施療子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3つ以上の回転または並進可能な関節で形成された多関節型アームの先端にマッサージ用施療子を配したマッサージ機であって、各関節を独立に駆動するアクチュエータと、各関節の回転または並進の変位を検知する変位センサと、上記アクチュエータを駆動する制御回路とを具備するとともに、上記制御回路は三次元的に任意な向きに設定されたベクトルでアーム先端の施療子を駆動するものであることを特徴とするマッサージ機。
【請求項2】
制御回路は、アーム先端または各関節品位の目標値と、変位センサによって検出された現在変位もしくは変位センサによって検出された現在変位から算出されるアーム先端の現在位置との偏差に基づいて各アクチュエータを制御する位置制御手段を備えていることを特徴とする請求項1記載のマッサージ機。
【請求項3】
アームはその先端に力センサを備えており、制御回路は予め設定された力の向き及び力の目標値と、上記力センサによって検出された力の現在値との偏差に基づいて各アクチュエータを制御する力制御手段を備えていることを特徴とする請求項1または2記載のマッサージ機。
【請求項4】
目標値を記憶する記憶手段を備えていることを特徴とする請求項2または3記載のマッサージ機。
【請求項5】
アーム先端が被施療者に接している時の変位センサから出力される各関節変位情報と、アームにおける関節で連結されたリンクの予め与えられた長さ情報とから幾何学的に算出されるアーム先端位置情報からマッサージ対象である人体の体形ラインを検知する体形ライン検知手段を備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のマッサージ機。
【請求項6】
アーム先端の施療子を駆動するベクトルの向きは人体の体形ライン検知手段で検知された体形ラインの接線または法線に対して設定されたものであることを特徴とする請求項5記載のマッサージ機。
【請求項7】
アーム先端の施療子を駆動するベクトルの向き及び大きさの調整用の操作部を備えていることを特徴とする請求項6記載のマッサージ機。
【請求項8】
位置制御手段はアーム先端の目標軌跡を体形ラインの接線方向に逐次変更する手段を備えていることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載のマッサージ機。
【請求項9】
位置制御手段による位置制御での目標軌跡を含む面に対して力を加える方向を直交関係とするとともに、体形ライン接面に平行な面とアームにおける関節変位のヤコビアンから、力印加方向を除いた上記面上に目標をセットしたフィードバック位置制御をアーム先端の施療子に対して行っていることを特徴とする請求項8記載のマッサージ機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−54543(P2007−54543A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−246773(P2005−246773)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】