説明

マット材、排気ガス処理装置およびマット材を製造する方法

【課題】本発明では、圧縮/復元の繰り返し負荷を受けた後にも、比較的良好な保持力を維持することが可能なマット材を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明では、複数の無機繊維を含むマット材であって、前記無機繊維の少なくとも一部は、コア部と該コア部を取り囲む表層とを有し、前記表層には、前記コア部よりも多くのシリカ(SiO)が含まれていることを特徴とするマット材が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機繊維を含むマット材に関し、特に、車両等の排気ガス処理装置に使用されるマット材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の台数は、今世紀に入って飛躍的に増加しており、それに比例して、自動車の内燃機関から排出される排気ガスの量も急激な増大の一途を辿っている。特にディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる種々の物質は、汚染を引き起こす原因となるため、現在では、世界環境にとって深刻な影響を与えつつある。
【0003】
このような事情の下、各種排気ガス処理装置が提案され、実用化されている。一般的な排気ガス処理装置は、エンジンの排気ガスマニホールドに連結された排気管の途上に筒状部材(ケーシング)を設け、その中に、排気ガスの入口および出口用の開口面を有し、内部に微細な気孔を多数有する排気ガス処理体を配置した構造となっている。排気ガス処理体の一例としては、触媒担持体、およびディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)等の排気ガスフィルタがある。例えばDPFの場合、上述の構造により、排気ガスが排気ガス処理体の入口開口面から出口開口面を通って排出される間に、気孔の周囲の壁に微粒子がトラップされ、排気ガス中から微粒子を除去することができる。
【0004】
このような排気ガス処理体とケーシングの間には、通常保持シール材が設置される。保持シール材は、車両走行中等における排気ガス処理体とケーシングの当接による破損を防ぎ、さらにケーシングと排気ガス処理体との隙間から排気ガスがリークすることを防止するために用いられる。また、保持シール材は、排気ガスの排圧により排気ガス処理体が脱落することを防止する役割を有する。さらに排気ガス処理体は、反応性を維持するため高温に保持する必要があり、保持シール材には断熱性能も要求される。これらの要件を満たす部材としては、無機繊維を含むマット材がある。
【0005】
このマット材は、排気ガス処理体の開口面を除く外周面の少なくとも一部に巻き付けられ、テーピング等によって排気ガス処理体と一体固定化されることにより、保持シール材として機能する。その後、この一体品は、ケーシング内に圧入されて排気ガス処理装置が構成される。
【0006】
一般に、マット材は、無機繊維と、有機バインダ等とを含み、ニードル処理法または抄造法等により製作される。最近、有機バインダの含有量を抑制するため、マット材に含まれる無機繊維として、E−ガラスのようなガラス繊維を使用することが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2006−516043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述のようなガラス繊維を使用したマット材は、比較的耐熱性が低いという問題がある。
【0009】
また、一般に、排気ガス処理装置内の排気ガス処理体は、排気ガスの流通/停止による温度上昇/低下に伴い、膨脹/収縮の繰り返しサイクルを受ける。従って、保持シール材は、使用時に、この排気ガス処理体の膨脹/収縮挙動に対応して、圧縮/復元の繰り返し負荷を受ける。しかしながら、ガラス繊維を使用したマット材では、このような圧縮/復元サイクルを繰り返すと、マット材の保持力が大きく低下してしまう。またこのようなマット材の保持力の低下は、該マット材に保持される排気ガス処理体の脱落につながるおそれがあるという問題がある。
【0010】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、本発明では、圧縮/復元の繰り返し負荷を受けた後にも、比較的良好な保持力を維持することが可能なマット材、およびそのようなマット材を製造する方法を提供することを目的とする。また、そのようなマット材を保持シール材として備える排気ガス処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、複数の無機繊維を含むマット材であって、
前記無機繊維の少なくとも一部は、コア部と該コア部を取り囲む表層とを有し、
前記表層には、前記コア部よりも多くのシリカ(SiO)が含まれていることを特徴とするマット材が提供される。
【0012】
ここで、本発明によるマット材において、前記表層には、90wt%以上のシリカ(SiO)が含まれていても良い。
【0013】
また、本発明によるマット材において、前記コア部と表層とにより構成された無機繊維全体に含まれるシリカ(SiO)の含有量は、60%以上100%未満であっても良い。
【0014】
また、本発明によるマット材において、前記コア部と表層とにより構成された無機繊維の平均直径は、8μm〜12μmの範囲であっても良い。
【0015】
また、本発明によるマット材において、前記コア部は、シリカ(SiO)を52wt%〜56wt%、酸化アルミニウム(Al)を12wt%〜16wt%、酸化マグネシウム(MgO)を最大6wt%、酸化ホウ素(B)を5wt%〜10wt%、酸化カルシウム(CaO)を16wt%〜25wt%含んでも良い。
【0016】
また、本発明によるマット材は、さらに、有機バインダを有しても良い。
【0017】
また、本発明では、
排気ガスの流通する2つの開口面を有する排気ガス処理体と、
前記排気ガス処理体の開口面を除く外周面の少なくとも一部に巻き付けて使用される保持シール材と、
該保持シール材が巻き回された前記排気ガス処理体を収容する筒状部材と、
で構成される排気ガス処理装置であって、
前記保持シール材は、前述のいずれかの特徴を有するマット材で構成されることを特徴とする排気ガス処理装置が提供される。
【0018】
ここで、前記排気ガス処理体は、触媒担持体または排気ガスフィルタであっても良い。
【0019】
さらに本発明では、
無機繊維を含むマット材を製造する方法であって、
(A)コア部と該コア部を取り囲む表層とを有する無機繊維を形成するステップであって、前記表層には、前記コア部よりも多くのシリカ(SiO)が含まれるステップと、
(B)前記ステップ(A)の無機繊維を用いて、積層シートを調製するステップと、
(C)前記積層シートから、ニードリング法によりマット材を形成するステップと、
を有することを特徴とする方法が提供される。
【0020】
この本発明による方法は、さらに、
(D1)前記ステップ(A)の後であって、前記ステップ(B)の前に、前記ステップ(A)の無機繊維を400℃〜800℃の温度範囲で加熱処理するステップ、または
(D2)前記ステップ(C)の後に、前記マット材を400℃〜800℃の温度範囲で加熱処理するステップ
を有しても良い。
【0021】
また、本発明による方法において、前記ステップ(B)において使用される無機繊維は、50mm〜100mmの平均長さを有しても良い。
【0022】
また、本発明による方法において、前記ステップ(A)は、シリカ(SiO)を含むガラス繊維を酸処理するステップを有しても良い。
【0023】
また、本発明による方法において、前記ガラス繊維は、シリカ(SiO)を52wt%〜56wt%、酸化アルミニウム(Al)を12wt%〜16wt%、酸化マグネシウム(MgO)を最大6wt%、酸化ホウ素(B)を5wt%〜10wt%、酸化カルシウム(CaO)を16wt%〜25wt%含んでも良い。
【0024】
さらに本発明では、
無機繊維を含むマット材を製造する方法であって、
(A)コア部と該コア部を取り囲む表層とを含む無機繊維を形成するステップであって、前記表層には、前記コア部よりも多くのシリカ(SiO)が含まれるステップと、
(B)ステップ(A)の無機繊維を用いて、スラリーを調製するステップと、
(C)前記スラリーから、抄造法によりマット材を形成するステップと、
を有することを特徴とする方法が提供される。
【0025】
この本発明による方法は、さらに、
(D1)前記ステップ(A)の後であってステップ(B)の前に、前記ステップ(A)の無機繊維を400℃〜800℃の温度範囲で加熱処理を実施するステップ、または
(D2)前記ステップ(C)の後に、前記マット材を400℃〜800℃の温度範囲で加熱処理を実施するステップ
を有しても良い。
【0026】
また、本発明による方法において、前記ステップ(B)において使用される無機繊維は、3mm〜15mmの平均長さを有しても良い。
【0027】
また、本発明による方法において、前記ステップ(A)は、シリカ(SiO)を含むガラス繊維を酸処理するステップを有しても良い。
【0028】
また、本発明による方法において、前記ガラス繊維は、シリカ(SiO)を52wt%〜56wt%、酸化アルミニウム(Al)を12wt%〜16wt%、酸化マグネシウム(MgO)を最大6wt%、酸化ホウ素(B)を5wt%〜10wt%、酸化カルシウム(CaO)を16wt%〜25wt%含んでも良い。
【発明の効果】
【0029】
本発明では、圧縮/復元の繰り返し負荷を受けた後にも、比較的良好な保持力を維持することが可能な保マット材、およびそのようなマット材を製造する方法を提供することが可能となる。また、そのようなマット材を保持シール材として備える排気ガス処理装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明によるマット材の一例を模式的に示した斜視図である。
【図2】本発明によるマット材を使用して、排気ガス処理装置を構成するときの一構成図である。
【図3】本発明によるマット材に含まれる無機繊維の断面構造を模式的に示した図である。
【図4】本発明による排気ガス処理装置の一構成例を示す図である。
【図5】本発明によるマット材の製造方法のフローの一例を概略的に示した図である。
【図6】本発明によるマット材の別の製造方法のフローの一例を概略的に示した図である。
【図7】サイクル試験装置の概略的な構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して、本発明をより詳しく説明する。図1には、本発明によるマット材の概略的な斜視図を示す。また図2には、図1に示したマット材を保持シール材として使用し、排気ガス処理装置を構成する際の概略的な組立図を示す。
【0032】
図1に示すように、本発明によるマット材30は、長辺(X方向に平行な辺)と短辺(Y方向に平行な辺)を有し、実質的に矩形状となるように形成される。短辺70および71には、それぞれ嵌合凸部50および嵌合凹部60が設置されている。また、短辺71の嵌合凹部60に隣接する位置には、2つの凸部61が形成されている。ただし本発明のマット材の短辺70、71は、図1の形状に限られるものではなく、例えば、図1のような嵌合部を全く有さないものや、各短辺が、それぞれ、嵌合凸部50および嵌合凹部60を複数有するもの等も使用できる。なお、本願において、「実質的に矩形状」とは、図1に示すような、短辺に1組の嵌合凸部50と嵌合凹部60を有する矩形を含む概念である。さらに、「実質的に矩形状」には、長辺と短辺の交差するコーナー部が、90゜以外の角度を有する形状(例えば、曲率を有するもの)も含まれる。
【0033】
このマット材30は、保持シール材24として使用する場合、長辺方向が巻回方向(図1のX方向)となるようにして使用される。またマット材30が、保持シール材24として触媒担持体等の排気ガス処理体20に巻き付けられた際には、図2に示すように、マット材30の嵌合凸部50と嵌合凹部60が嵌合され、マット材30が排気ガス処理体20に固定される。その後、保持シール材24が巻き回された排気ガス処理体20は、圧入等により、金属等で構成された筒状のケーシング12内に圧入され、装着される。
【0034】
一般に、マット材は、無機繊維と有機バインダとを含む。例えば、前述の特許文献1には、無機繊維として、ガラス繊維(例えば、E−ガラス)が使用されることが記載されている。
【0035】
しかしながら、そのようなガラス繊維を使用したマット材は、比較的耐熱性が低いという問題がある。
【0036】
また、排気ガス処理装置内の排気ガス処理体は、排気ガスの流通/停止による温度上昇/低下に伴い、膨脹/収縮の繰り返しサイクルを受ける。従って、保持シール材は、使用時に、この排気ガス処理体の膨脹/収縮挙動に対応して、圧縮/復元の繰り返し負荷を受ける。しかしながら、ガラス繊維を使用したマット材では、このような圧縮/復元サイクルを繰り返すと、マット材の保持力が大きく低下してしまう。またこのようなマット材の保持力の低下は、該マット材に保持される排気ガス処理体の脱落につながるおそれがあるという問題がある。
【0037】
これに対して、本発明によるマット材30では、無機繊維として、シリカ(SiO)を含むコア部と、このコア部を取り囲むように設置され、コア部よりもシリカ(SiO)の含有量が多い表層との、少なくとも2層で構成された無機繊維が使用される。
【0038】
図3には、本発明に使用される無機繊維(以下、「2層構造無機繊維」と称する)300の概略的な断面図を示す。
【0039】
この図の例では、本発明のマット材30に使用される2層構造無機繊維300は、シリカ(SiO)を含むコア部310と、このコア部310よりもシリカ(SiO)の含有量が多い表層320とを有する。
【0040】
ここで、表層320に含まれるシリカ(SiO)含有量は、90wt%以上であることが好ましい。また、2層構造無機繊維300全体に含まれるシリカ(SiO)の平均的な含有量(すなわち、コア部と表層とを区別しない場合のシリカ(SiO)の含有量)は、60wt%以上、100%未満であることが好ましい。
【0041】
なお、多くの場合、2層構造無機繊維300は、8〜12μm程度の直径を有する。従って、このような微細な2層構造無機繊維において、断面構造が図3に示すような形態となっていることを把握することは、実際上、極めて困難である。そこで、本願では、無機繊維に2層構造が形成されていることは、2層構造無機繊維の断面に対するEPMAライン分析結果により確認した。すなわち、得られた分析結果において、無機繊維の表面に相当する部分(両端側)のシリカ(SiO)の濃度が、その他の領域に比べて、相対的に高くなっている場合、図3に示すような2層構造が形成されているものと判定とした。
【0042】
また、表層320に含まれるシリカ(SiO)含有量については、無機繊維の外側から、プローブ線(電子線、X線等)を照射する方法により測定した。
【0043】
さらに、2層構造無機繊維300全体に含まれるシリカ(SiO)の平均的な含有量は、従来の分析法、例えば、蛍光X線法、または所定量の無機繊維の全体を一旦溶解した後、酸化剤を加えてシリカ(SiO)のみを析出させて、この重量を測定する方法により把握した。
【0044】
次に、このような構成を有する本発明のマット材の特徴的効果について説明する。
【0045】
一般に、シリカ(SiO)は、前述のE−ガラスのようなガラスに比べて、良好な耐熱性を有する材料として知られている。本発明の2層構造無機繊維300を含むマット材30では、そのような耐熱性の良好なシリカ(SiO)を多く含む表層320によって、無機繊維表面が被覆されている。従って、本発明によるマット材30では、従来のガラス繊維を使用したマット材に比べて、耐熱性が有意に向上する。
【0046】
また、本発明による2層構造無機繊維300を含むマット材30では、後述するように、高温下においても、圧縮/復元の繰り返し後の保持力の低下率が低いという特徴を有する。
【0047】
この原因については、現時点では、十分に把握されていないが、例えば、以下のように推察することができる。
【0048】
シリカ(SiO)は、他のセラミックス材料に比べて、熱膨張率が比較的低いという特徴がある。従って、本発明に使用される2層構造無機繊維300では、コア部310の方が、表層部320に比べて熱膨張率が大きくなる可能性が高くなる。例えば、コア部310がE−ガラスで構成され、表層320がシリカ(SiO)で構成されると仮定した場合、コア部310の熱膨張係数は、5.5×10−6/℃程度であるのに対して、表層320の熱膨張係数は、0.5×10−6/℃程度)となる。
【0049】
この場合、高温環境下では、2層構造無機繊維300の表層320側には、圧縮応力が生じ、コア部側310には、引張応力が生じることになる。このような状態では、高温の繰り返し応力負荷環境において、無機繊維が損壊したり割れたりすることが生じにくくなり、これにより、2層構造無機繊維300では、圧縮/復元の繰り返し後の保持力の低下率が低く抑えられると考えられる。
【0050】
なお、この推察は、一例であって、本発明は、必ずしもこのような挙動が生じる材料系に限定されるものではない。すなわち、他の原理によって、本発明による効果(圧縮/復元の繰り返し後の保持力の低下率が低く抑えられるという効果)が得られても良い。
【0051】
このような特徴により、本発明によるマット材は、高温の圧縮/復元の繰り返し負荷を受ける環境においても、保持力の低下が抑制され、長時間安定な保持力を発揮することができる。
【0052】
なお、一般に、シリカ(SiO)繊維は、他の無機材料の繊維に比べて、強度(引張強度)が比較的低いという欠点がある。しかしながら、本発明では、シリカ(SiO)の含有量の高い部分は、無機繊維の表層320側に限られ、コア部310に含まれるシリカ(SiO)の含有量は、表層320に比べて低く抑えられている。従って、本発明では、シリカ(SiO)を使用することによる無機繊維の強度(引張強度)低下の影響は、最小限に抑制される。
【0053】
次に、本発明によるマット材30に含まれる各構成物について、より詳しく説明する。
【0054】
(無機繊維)
本発明のマット材30に含まれる2層構造無機繊維300において、コア部310は、該コア部310に含まれるシリカ(SiO)の含有量が、表層320のシリカ(SiO)含有量よりも少なくなっている限り、いかなる材料で構成されても良い。コア部310は、例えば、E−ガラス、S−ガラス、およびS2−ガラス等のガラスで構成されても良い。ここで、E−ガラスは、シリカ(SiO)を52wt%〜56wt%、酸化アルミニウム(Al)を12wt%〜16wt%、酸化マグネシウム(MgO)を最大6wt%、酸化ホウ素(B)を5wt%〜10wt%、酸化カルシウム(CaO)を16wt%〜25wt%含むガラスの総称である。また、S−ガラスは、シリカ(SiO)を65wt%、酸化アルミニウム(Al)を25wt%、酸化マグネシウム(MgO)を10wt%含むガラスの総称である。
【0055】
一方、表層320は、コア部310に比べて多くのシリカ(SiO)を含む。シリカ(SiO)の含有量は、例えば、90wt%以上であっても良い。表層320は、さらに、酸化アルミニウム(Al)等を含んでも良い。
【0056】
(有機バインダ)
本発明のマット材30は、さらに有機バインダを含んでも良い。有機バインダとしては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ゴム系樹脂、スチレン系樹脂などが使用できる。有機バインダには、例えば、アクリル系(ACM)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)樹脂等を用いることができる。有機バインダの含有量(マット材の総重量に対する有機バインダの重量)は、例えば、1.0〜10.0重量%の範囲である。ただし、マット材に含浸される有機バインダは、そのようなマット材を備える排気ガス処理装置を使用した際に、装置から排出される有機成分量を増加させる一因となる。従って、有機バインダは、マット材に含浸しない方がより好ましいといえる。
【0057】
このような本発明によるマット材30は、例えば、排気ガス処理装置10の保持シール材として使用することができる。図4には、本発明による排気ガス処理装置10の一構成例を示す。
【0058】
排気ガス処理装置10は、保持シール材24が外周面に巻き回された排気ガス処理体20と、該排気ガス処理体を収容するケーシング12と、該ケーシングの入口側および出口側のそれぞれに接続された、排気ガスの入口管2および出口管4とを有する。入口管2および出口管4は、ケーシング12と接続される位置で径が拡張されるように、テーパ形状となっている。この図の例では、排気ガス処理体20は、排気ガスの入口と出口用の開口面を有し、ガス流と平行な方向に多数の貫通孔を有する触媒担持体である。触媒担持体は、例えばハニカム状の多孔質炭化珪素等で構成される。ただし、本発明の排気ガス処理装置10は、このような構成に限られるものではない。例えば、排気ガス処理体20を貫通孔の一部が目封じされたDPFとすることも可能である。
【0059】
ここで、保持シール材24は、本発明による2層構造無機繊維300を含むマット材30で構成されている。従って、このような排気ガス処理装置10では、保持シール材24の耐熱性が向上し、例えば、200℃〜600℃のような幅広い排気ガス温度環境において、排気ガス処理装置10を使用することが可能になる。
【0060】
また、このような排気ガス処理装置10では、排気ガスの流通/停止の繰り返しによって、保持シール材24に圧縮/復元の繰り返し負荷が加わっても、保持シール材24の保持力の低下率が有意に抑制される。従って、長時間使用後に、排気ガス処理体20が所定の位置からずれたり、脱落したりすることが抑制され、排気ガス処理装置10の信頼性が向上する。
【0061】
(本発明によるマット材の製造方法)
次に、図5を参照して、本発明によるマット材の製造方法の一例について説明する。
【0062】
図5は、本発明によるマット材の製造フローの一例を概略的に示した図である。
【0063】
本発明によるマット材の製造方法は、
(A)前述のような特徴を有する2層構造無機繊維を形成するステップ(S110)と、
(B)2層構造無機繊維を用いて、積層シートを調製するステップ(S120)と、
(C)前記積層シートから、ニードリング法によりマット材を形成するステップ(S130)と、
を有する。なお、必要な場合、ステップS110とステップS120の間、またはステップS130の後、さらに、
(D)得られた2層構造無機繊維(ステップS110とステップS120の間に実施する場合)、または得られたマット材を加熱処理するステップ(ステップS130の後に実施する場合)(S140)を実施しても良い。
【0064】
この方法では、いわゆる「ニードリング法」により、マット材が製作される。「ニードリング法」とは、無機繊維を含む積層シートにニードルを抜き差しして、マット材を製作する方法の総称である。
【0065】
以下、各ステップについて、詳しく説明する。
【0066】
(ステップS110)
ステップS110では、前述のような構成の2層構造無機繊維が製作される。2層構造無機繊維の製作方法は、特に限られないが、ここでは、シリカ(SiO)を含むガラス繊維をベースとして、2層構造無機繊維を作製する方法について説明する。
【0067】
まず、シリカ(SiO)を含むガラス繊維を準備する。ガラス繊維としては、例えば、前述のような組成を有するE−ガラス、S−ガラス、S2−ガラス等が使用できる。
【0068】
ガラス繊維の長さは、特に限られないが、後のニードリング処理の際に、繊維同士が容易に絡み合うよう、ガラス繊維は、比較的長いものが好ましい。ガラス繊維の「平均長さ」は、例えば、50mm〜100mmの範囲である。なお、「平均長さ」は、ランダムに採取した100本の繊維の全長を平均した値である。
【0069】
ガラス繊維の直径は、特に限られず、平均直径は、例えば、8μm〜12μmの範囲である。この「平均直径」は、ランダムに採取した300本の繊維の直径をSEMにより測定し、これらを平均した値である。
【0070】
次に、このガラス繊維を酸処理する。この酸処理により、ガラス繊維に含まれるシリカ(SiO)以外の成分が選択的に溶解し、表層には、中心部分に比べて、シリカ(SiO)の含有量の多い層が形成される。すなわち、この酸処理により、ガラス繊維をコア部とし、残留シリカ(SiO)を表層とする2層構造無機繊維が得られる。
【0071】
酸処理は、例えば、酸を含む溶液中に、ガラス繊維を浸漬させることにより行われる。酸処理に使用される酸は、例えば塩酸等であっても良い。酸処理の温度および時間は、ガラス繊維からなるコア部と、シリカ(SiO)含有量の高い表層とを有する、少なくとも2層の構造の無機繊維が得られる限り、特に限られない。例えば、酸処理の温度は、室温〜90℃の範囲であっても良く、酸処理の時間は、例えば、1時間〜24時間の範囲であっても良い。
【0072】
その後、得られた2層構造無機繊維を水洗し、乾燥処理を行う。乾燥処理は、2層構造無機繊維を、例えば100℃〜200℃の温度に保持することにより、行われても良い。
【0073】
(ステップS120)
次に、前述の2層構造無機繊維を用いて開繊処理が行われ、これにより、綿状の積層シートが形成される。開繊処理は、例えば、カーディング法により、実施されても良い。この方法では、ウェブと呼ばれる不織布が形成され、これが多数積層されることにより、積層シートが形成される。
【0074】
(ステップS130)
次に、前記積層シートから、「ニードリング法」により、マット材が形成される。
【0075】
通常の場合、ニードリング法には、ニードリング装置が用いられる。
【0076】
通常、ニードリング装置は、突き刺し方向(通常は上下方向)に往復移動可能なニードルボードと、積層シートの表面および裏面の両面側に設置された一対の支持板とで構成される。ニードルボードには、積層シートに突き刺すための多数のニードルが、例えば約25〜5000個/100cmの密度で取り付けられている。また各支持板には、ニードル用の多数の貫通孔が設けられている。従って、一対の支持板によって積層シートを両面から押さえつけた状態で、ニードルボードを積層シートの方に近づけたり遠ざけたりすることにより、ニードルが積層シートに抜き差しされ、無機繊維が交絡されたマット材が形成される。
【0077】
また、別の構成として、ニードリング装置は、2組のニードルボードを備えても良い。各ニードルボードは、それぞれの支持板を有する。2組のニードルボードを、それぞれ、積層シートの表面および裏面に配設して、各支持板で積層シートを両面から固定する。ここで、一方のニードルボードには、ニードリング処理時に他方のニードルボードのニードル群と位置が重ならないように、ニードルが配置されている。また、それぞれの支持板には、両方のニードルボードのニードル配置を考慮して、積層シートの両面側からのニードリング処理時に、ニードルが支持板に当接しないように、多数の貫通孔が設けられている。このような装置を用いて、2組の支持板で積層シートを両面側から挟み、2組のニードリングボードで積層シートの両側からニードリング処理が行われても良い。このような方法でニードリング処理を行うことにより、処理時間が短縮される。
【0078】
(ステップS140)
次に、必要に応じて、マット材の加熱処理が実施されても良い。前述のような、ガラス繊維を酸処理することにより2層構造無機繊維を形成する方法の場合、得られた2層構造無機繊維を加熱処理することにより、2層構造無機繊維、さらには、最終的に得られるマット材の耐薬品性が向上する。これは、加熱処理により、2層構造無機繊維の表層の緻密性が向上するためである。
【0079】
加熱処理は、例えば、400℃〜800℃の温度で実施される。
【0080】
なお、マット材の加熱処理は、必ずしもこの段階で実施する必要はない。例えば、マット材の加熱処理は、前述のステップS110とステップS120の間に実施されても良い。
【0081】
一般に、マット材のハンドリング性を向上させるため、得られたマット材には、樹脂のような有機バインダが含浸される。有機バインダとしては、前述のようなものが使用される。なお、有機バインダは、必ずしも添加する必要はない。
【0082】
最後に、このようにして製造されたマット材が所定の形状に裁断され(例えば図1に示す形状)、本発明によるマット材が製作される。
【0083】
(本発明によるマット材の別の製造方法)
次に、図6を参照して、本発明によるマット材の別の製造方法(第2の方法)の一例について説明する。
【0084】
図6は、本発明によるマット材の別の製造フローの一例を概略的に示した図である。
【0085】
この第2の製造方法は、
(A)前述のような特徴を有する2層構造無機繊維を形成するステップ(S210)と、
(B)2層構造無機繊維を用いて、スラリーを調製するステップ(S220)と、
(C)前記スラリーから、抄造法によりマット材を形成するステップ(S230)と、
を有する。なお、必要な場合、さらにステップS210とステップS220の間、またはステップS230の後に、
(D)得られた2層構造無機繊維(ステップS210とステップS220の間に実施する場合)、または得られたマット材(ステップS230の後に実施する場合)を加熱処理するステップ(S240)を実施しても良い。
【0086】
この方法では、いわゆる「抄造法」により、マット材が製作される。「抄造法」とは、抄造型に無機繊維のスラリーを流し込み、この抄造型を吸引脱水してマット材を得る方法の総称である。
【0087】
以下、各ステップについて、詳しく説明する。
【0088】
(ステップS210)
この2層構造無機繊維を形成するステップは、前述のニードリング法におけるステップS110の工程と実質的に等しいため、説明は省略する。
【0089】
なお、ガラス繊維の長さは、特に限られないが、この方法の場合、ガラス繊維は、比較的短いものが好ましい。ガラス繊維の「平均長さ」は、例えば、3mm〜15mmの範囲である。ガラス繊維の直径は、特に限られず、「平均直径」は、例えば、8μm〜12μmの範囲である。
【0090】
(ステップS220)
次に、ステップS210で得られた2層構造無機繊維を用いて、以下の方法により、スラリーが調製される。
【0091】
まず、前述の方法で調製した所定量の2層構造無機繊維と、有機バインダとを水に入れて、混合する。さらに、これに、無機バインダおよび/または凝集剤を添加しても良い。
【0092】
無機バインダとしては、例えばアルミナゾルおよびシリカゾル等が使用される。また有機バインダとしては、ラテックス等が使用される。有機バインダの含有量は、20重量%以内であることが好ましい。20重量%よりも多くなると、排気ガス処理装置から排出される有機成分の量が有意に増加する。
【0093】
次に、得られた混合物を抄紙器等の混合器内で撹拌し、開繊されたスラリーを調製する。通常、撹拌は、20秒〜120秒程度行われる。
【0094】
(ステップS230)
次に、得られたスラリーを用いて、抄造法により、マット材が製作される。
【0095】
まず、スラリーが、例えば底部に微細な孔の開いた成形器に導入される。さらに、例えば、成形器の下側から、吸引装置等により、水分を吸引し、脱水処理を行うことにより、所定の形状の原料マットが得られる。
【0096】
次に、この原料マットをプレス器等を用いて圧縮し、所定の温度で加熱、乾燥させることにより、マット材が製作される。圧縮処理は、通常圧縮後のシート密度が0.10g/cm〜0.40g/cm程度となるように行われる。加熱乾燥処理は、原料マットをオーブン等の熱処理器内に設置し、例えば90〜180℃の温度で、5〜60分程度行われる。
【0097】
(ステップS240)
以上の工程により、本発明によるマット材を製造することができるが、ステップS210と、ステップS220の間に、さらに、2層構造無機繊維の加熱処理を実施しても良い。これにより、前述のように、2層構造無機繊維、さらには最終的に得られるマット材の耐薬品性をさらに高めることができる。
【0098】
なお前述のように、第2の方法の場合、加熱処理は、必ずしもこの段階で実施する必要はない。例えば、加熱処理は、ステップS230の後に実施されても良い。
【実施例】
【0099】
以下、本発明の効果を実施例により説明する。
【0100】
(実施例1)
平均直径9μmφ、平均長さが75mmのE−ガラス製繊維を準備し、これを酸処理した。酸処理は、E−ガラス製繊維を、60℃の1N塩酸中に20分間浸漬させることにより実施した。これにより、シリカ(SiO)の含有量が高い表層と、E−ガラス製コア部とを有する2層構造無機繊維が得られた。
【0101】
なお、2層構造無機繊維が形成されていることは、EPMAライン分析により確認した。また、2層構造無機繊維の表層に含まれるシリカ(SiO)の含有量をEDS(Energy Dispersive X−ray Spectrometry)分析により測定したところ、シリカ(SiO)の含有量は、94.48wt%であった。
【0102】
さらに、2層構造無機繊維全体に含まれる代表的な成分の平均的な含有量(すなわち、コア部と表層とを区別しない場合の含有量)を分析した。SiO、Al、MgOおよびCaOは、2層構造無機繊維全体を、フラックス(Li)を用いて溶融固化させた後、蛍光X線法により分析した。Bは、ICP発光分析法により分析した。
【0103】
表1には、測定結果を示す。この表には、参考のため、酸処理前のE−ガラス製繊維の代表的な成分の含有量についても示した。
【0104】
【表1】

この結果から、2層構造無機繊維全体には、65.6wt%のシリカ(SiO)が含まれており、この量は、酸処理前のE−ガラス製繊維に含まれるシリカ(SiO)の含有量(54.5wt%)よりも高いことがわかる。
【0105】
次に、この2層構造無機繊維を大気炉内に設置し、700℃で20分間の加熱処理を実施した。
【0106】
次に、得られた2層構造無機繊維を用いて、前述の「抄造法」により、マット材を製作した。
【0107】
まず、2層構造無機繊維、有機バインダ(ラテックス)、および無機バインダ(アルミナゾル)を水に入れて、混合する。次に、得られた混合物を混合器内で、60秒間撹拌し、開繊されたスラリーを調製した。次に、得られたスラリーを底部に微細な孔の開いた成形器に注入した。成形器の下側から、吸引装置を用いて水分を吸引することにより、原料マットを得た。
【0108】
次に、得られた原料マットをプレス器を用いて圧縮した。さらに、この原料マットを、オーブン内に設置し、150℃で、60分間保持することにより、実施例1に係るマット材が得られた。
【0109】
(実施例2)
実施例1と同様の方法により、実施例2に係るマット材を製作した。ただし、実施例2では、酸処理後に、2層構造無機繊維の加熱処理は、実施しなかった。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0110】
(比較例1)
実施例1と同様の方法により、比較例1に係るマット材を製作した。ただし、比較例1では、E−ガラス製繊維の酸処理および加熱処理は、行わなかった。すなわち、比較例1では、E−ガラス製繊維をそのまま用いて、マット材を製作した。
【0111】
(比較例2)
実施例1と同様の方法により、比較例2に係るマット材を製作した。ただし、比較例2では、酸処理は、E−ガラス製繊維を、60℃の1N塩酸中に24時間浸漬させることにより実施した。この酸処理後には、E−ガラス製繊維は、シリカ(SiO)の単相状態となった。
【0112】
その後、得られた酸処理繊維に対して、700℃で20分間の加熱処理を実施した。
【0113】
その他のマット材の製作条件は、実施例1の場合と同様である。
【0114】
(サイクル試験)
各マット材の圧縮/復元の繰り返し負荷後の保持力の変化を把握するため、実施例1、比較例1、および比較例2の各サンプルを用いて、サイクル試験を行った。
【0115】
サイクル試験は、サイクル試験装置を用いて実施した。図7には、サイクル試験装置の概略を示す。
【0116】
サイクル試験装置700は、下台710と、該下台710の上部に配置される上台720と、を備える。下台710および上台720は、同一の形状および寸法を有し、鉛直方向に揃うように配置される。また下台710および上台720は、いずれも内蔵ヒータ(図示されていない)を有しており、下台710および上台720のそれぞれを、所定の温度まで昇温することができる。下台710は、該下台710の下面で支持体730と接続されている。支持体730は、非可動式であり、このため、下台710も固定されている。一方、上台720は、該上台720の上面で支持体740と接続されている。支持体740は、鉛直方向に移動することが可能であり、このため、上台720も上下に可動である。また、上台720は、ロードセルとなっており、上台720と下台710が接触された状態では、上台720の下面に加わる荷重を測定することができる。
【0117】
このようなサイクル試験装置を用いて、以下の手順により、各サンプルの圧縮/復元繰り返し負荷後の保持力の変化を測定した。
【0118】
まず、サイクル試験装置700において、下台710の上面に、前述のいずれかのサンプル750(56.42mmφ)が設置される。次に、支持体740を下降させることにより、上台720が下降される。上台720は、サンプル750の見かけの密度GBDが0.38g/cmとなるまで下降される。なお、GBDは、(サンプル750の質量/サンプル750の面積/サンプル750の厚さ)で求められる指標値である。
【0119】
次に、下台710および上台720の温度がそれぞれ、300℃および500℃となるように(すなわち、サンプル750の下面側の温度が300℃となり、上面側の温度が500となるように)、下台710および上台720内のヒータを加熱する。
【0120】
昇温中は、上台720を徐々に上昇させ、サンプル750がこれらの所定の温度に昇温された際に、サンプルの見かけの密度GBDが0.35g/cmとなるように、サンプルの圧縮を徐々に開放する。
【0121】
下台710および上台720の温度がそれぞれ、300℃および500℃となった状態で、見かけの密度GBDを0.35g/cmに維持したまま、サンプル750を5分間保持する。その後、サンプルの見かけの密度GBDが0.38g/cmとなるまで、上台720を下降させた後、上台720を見かけの密度GBDが0.35g/cmとなるまで上昇させる。このときの荷重をロードセルで測定し、これを1サイクル後のサンプルの保持力(P)(単位kPa)とする。
【0122】
このような操作を1000回繰り返す。1000回目に、サンプルの見かけの密度GBDが0.35g/cmとなるまで、上台720を上昇させたときのロードセルの荷重(P1000)(単位kPa)を測定する。
【0123】
得られた結果から、以下の式により、サンプルの保持力の低下率を測定した。

保持力の低下率D(%)
={(P−P1000)/(P)}×100 (1)式

表2には、各サンプルのサイクル試験によって得られた1サイクル後のサンプルの保持力(P)、1000サイクル後のサンプルの保持力(P1000)、および保持力の低下率D(%)をまとめて示す。
【0124】
【表2】

この結果から、実施例1のサンプルは、比較例1および比較例2のサンプルに比べて、保持力の低下率D(%)が有意に小さくなっていることがわかる。
【0125】
(加熱処理の効果について(参考))
実際の排気ガス処理装置において使用される保持シール材は、排気ガスに含まれる各種化学成分に晒される。そのため、マット材に含まれる無機繊維は、良好な耐薬品性を有することが好ましい。
【0126】
このような観点から、参考のため、実施例1および2において使用した2層構造無機繊維を使用して、耐薬品性の評価試験を行った。
【0127】
試験は、2層構造無機繊維(1g)を90℃の3N塩酸中に3時間浸漬し、浸漬前後の2層構造無機繊維の重量変化を測定することにより実施した。
【0128】
実施例1で使用した2層構造無機繊維の場合、重量変化量は、4.8%であった。一方、実施例2で使用した2層構造無機繊維の場合、重量変化量は、10.1%であった。
【0129】
この結果から、ガラス繊維の酸処理によって2層構造無機繊維を形成した場合、2層構造無機繊維の加熱処理を実施することにより、耐薬品性が向上することがわかった。
【0130】
これは、以下のように推察される。酸処理直後の2層構造無機繊維に含まれる表層は、酸処理の際に、シリカ(SiO)を除く他のガラス繊維構成成分が除去されることにより形成された、多数の微細なポアを有するものと考えられる。このようなポアが多数存在すると、2層構造無機繊維が酸などの化学成分に晒される領域が増し、その結果、無機繊維の劣化が加速される。一方、加熱処理を実施した場合、このような微細なポアが消滅し、表層が緻密化する。そのため、2層構造無機繊維が化学成分に晒される領域が相対的に減り、耐薬品性が向上するものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明のマット材は、車両等に使用される排気ガス処理装置の保持シール材に適用することができる。
【符号の説明】
【0132】
10 排気ガス処理装置
12 金属ケーシング
20 排気ガス処理体
24 保持シール材
30 マット材
50 嵌合凸部
60 嵌合凹部
300 2層構造無機繊維
310 コア部
320 表層
700 サイクル試験装置
750 サンプル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の無機繊維を含むマット材であって、
前記無機繊維の少なくとも一部は、コア部と該コア部を取り囲む表層とを有し、
前記表層には、前記コア部よりも多くのシリカ(SiO)が含まれていることを特徴とするマット材。
【請求項2】
前記表層には、90wt%以上のシリカ(SiO)が含まれていることを特徴とする請求項1に記載のマット材。
【請求項3】
前記コア部と表層とにより構成された無機繊維全体に含まれるシリカ(SiO)の含有量は、60%以上100%未満であることを特徴とする請求項1または2に記載のマット材。
【請求項4】
前記コア部と表層とにより構成された無機繊維の平均直径は、8μm〜12μmの範囲であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載のマット材。
【請求項5】
前記コア部は、シリカ(SiO)を52wt%〜56wt%、酸化アルミニウム(Al)を12wt%〜16wt%、酸化マグネシウム(MgO)を最大6wt%、酸化ホウ素(B)を5wt%〜10wt%、酸化カルシウム(CaO)を16wt%〜25wt%含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載のマット材。
【請求項6】
さらに、有機バインダを有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載のマット材。
【請求項7】
排気ガスの流通する2つの開口面を有する排気ガス処理体と、
前記排気ガス処理体の開口面を除く外周面の少なくとも一部に巻き付けて使用される保持シール材と、
該保持シール材が巻き回された前記排気ガス処理体を収容する筒状部材と、
で構成される排気ガス処理装置であって、
前記保持シール材は、請求項1乃至6のいずれか一つに記載のマット材で構成されることを特徴とする排気ガス処理装置。
【請求項8】
前記排気ガス処理体は、触媒担持体または排気ガスフィルタであることを特徴とする請求項7に記載の排気ガス処理装置。
【請求項9】
無機繊維を含むマット材を製造する方法であって、
(A)コア部と該コア部を取り囲む表層とを有する無機繊維を形成するステップであって、前記表層には、前記コア部よりも多くのシリカ(SiO)が含まれるステップと、
(B)前記ステップ(A)の無機繊維を用いて、積層シートを調製するステップと、
(C)前記積層シートから、ニードリング法によりマット材を形成するステップと、
を有することを特徴とする方法。
【請求項10】
さらに、
(D1)前記ステップ(A)の後であって、前記ステップ(B)の前に、前記ステップ(A)の無機繊維を400℃〜800℃の温度範囲で加熱処理するステップ、または
(D2)前記ステップ(C)の後に、前記マット材を400℃〜800℃の温度範囲で加熱処理するステップ
を有することを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ステップ(B)において使用される無機繊維は、50mm〜100mmの平均長さを有することを特徴とする請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記ステップ(A)は、シリカ(SiO)を含むガラス繊維を酸処理するステップを有することを特徴とする請求項9乃至11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
前記ガラス繊維は、シリカ(SiO)を52wt%〜56wt%、酸化アルミニウム(Al)を12wt%〜16wt%、酸化マグネシウム(MgO)を最大6wt%、酸化ホウ素(B)を5wt%〜10wt%、酸化カルシウム(CaO)を16wt%〜25wt%含むことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
無機繊維を含むマット材を製造する方法であって、
(A)コア部と該コア部を取り囲む表層とを含む無機繊維を形成するステップであって、前記表層には、前記コア部よりも多くのシリカ(SiO)が含まれるステップと、
(B)ステップ(A)の無機繊維を用いて、スラリーを調製するステップと、
(C)前記スラリーから、抄造法によりマット材を形成するステップと、
を有することを特徴とする方法。
【請求項15】
さらに、
(D1)前記ステップ(A)の後であってステップ(B)の前に、前記ステップ(A)の無機繊維を400℃〜800℃の温度範囲で加熱処理を実施するステップ、または
(D2)前記ステップ(C)の後に、前記マット材を400℃〜800℃の温度範囲で加熱処理を実施するステップ
を有することを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ステップ(B)において使用される無機繊維は、3mm〜15mmの平均長さを有することを特徴とする請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記ステップ(A)は、シリカ(SiO)を含むガラス繊維を酸処理するステップを有することを特徴とする請求項14乃至16のいずれか一つに記載の方法。
【請求項18】
前記ガラス繊維は、シリカ(SiO)を52wt%〜56wt%、酸化アルミニウム(Al)を12wt%〜16wt%、酸化マグネシウム(MgO)を最大6wt%、酸化ホウ素(B)を5wt%〜10wt%、酸化カルシウム(CaO)を16wt%〜25wt%含むことを特徴とする請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−168706(P2010−168706A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14186(P2009−14186)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】