説明

マルチプローブを用いた変位量測定装置及びそれを用いた変位量測定方法

【課題】 微小試験片に張力を加えた際の変位量を高精度に測定することができる変位量測定装置及び変位量測定方法を提供すること。
【解決手段】先端部にチップ(T)が形成された第1及び第2カンチレバー(11、12)を有するマルチプローブ(1)と、第1及び第2カンチレバー(11、12)の形状変化を検出する検出部と、マルチプローブ(1)を走査させるスキャナと、スキャナを制御する制御部と、試験片(2)に張力を加える引張機構とを備えた変位量測定装置であって、複数の凸部(22)が等間隔に表面に形成された試験片(2)に対して引張機構によって張力を加える前後で、制御部がスキャナを制御し、マルチプローブ(1)を用いて、凸部(22)が配列された方向に沿って試験片(2)の表面を所定距離走査し、検出部が、チップ(T)の位置変位による第1及び第2カンチレバー(11、12)の形状変化から試験片(2)の表面の高さ情報を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小試験片に引張負荷を加えた際の試験片の変位量をマルチプローブを用いて測定する変位量測定装置及びそれを用いた変位量測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロテクノロジ、ナノテクノロジの発達により、マイクロメートル又はナノメートルオーダーの寸法の材料を利用した超小型センサやマイクロマシン、ナノマシンの実現が期待されている。これらの微小寸法の構造体の設計においては、微小寸法の材料の引張特性などの力学特性を高精度で測定、評価することが必要である。
【0003】
下記特許文献1には、微小試験片の力学的特性を評価するためのマイクロ材料試験装置が開示されている。下記特許文献1のマイクロ材料試験装置では、走査型プローブ顕微鏡の試料ステージ部に備えたアクチュエータによって微小試験片に対して引張り又は圧縮荷重を加え、微小試験片の歪み量を走査型プローブ顕微鏡の試料表面観測系を利用して測定することができる。従って、試験片に加えた応力と測定された歪みとを用いて、力学特性を表すヤング率及びポアッソン比を求めることができる。
【特許文献1】特開2003−207432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、変位量の測定精度の向上には、長い距離に関する変位量を測定することが有効である。例えば引張試験の場合、引っ張る方向に沿って比較的離れた2点を試験片上に定めて、その2点間の距離の荷重による変化を測定することが望ましい。上記特許文献1のマイクロ材料試験装置を用いて、試験片上の比較的長い2点間距離を測定対象とする場合、その2点を含む広範囲を1つのプローブで走査しなければならない。実際の試験では、引張荷重を変化させる毎に、この広範囲の走査を繰り返す必要があり、測定に時間がかかる問題がある。
【0005】
また、通常ディジタルデータとして測定されるので、1走査方向の測定データ数(例えば256、512など)が決まっており、走査距離が長くなるほど解像度が低下する問題がある。
【0006】
また、プローブの移動距離が長くなると、繰り返し測定時の移動量の再現性が悪化し、測定精度が低下する問題がある。特に、ピエゾ素子を用いたスキャナでプローブの位置を制御する場合、ピエゾ素子によるクリープやヒステリシスによって、走査距離が長くなるほど再現性がより悪くなる。
【0007】
本発明の目的は、上記の課題を解決すべく、微小試験片に引張負荷を加えた際の試験片の変位量を、マルチプローブを用いて高精度且つ効率的に測定することができる変位量測定装置及びそれを用いた変位量測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、以下の手段によって達成される。
【0009】
即ち、本発明に係る変位量測定方法は、所定の間隔で平行に配置され、各々の先端部にチップが形成された第1カンチレバー及び第2カンチレバーを有するマルチプローブと、各々の前記第1及び第2カンチレバーの形状変化を検出する検出部と、前記マルチプローブを走査させるスキャナと、該スキャナを制御する制御部と、試験片に張力を加える引張機構とを備えた変位量測定装置を用いた変位量測定方法であって、複数の凸部が等間隔に表面に形成された試験片に張力を加えない状態で、前記制御部が前記スキャナを制御し、前記マルチプローブを用いて、前記凸部が配列された方向に沿って前記表面を所定距離走査し、前記検出部が、前記チップの位置変位による前記第1及び第2カンチレバーの形状変化から、前記表面の高さ情報を取得する第1ステップと、前記マルチプローブを前記走査を開始する前の位置に復帰させる第2ステップと、前記試験片に前記引張機構により張力を加えた状態で、前記制御部が前記スキャナを制御し、前記マルチプローブを用いて、前記凸部が配列された方向に沿って前記表面を前記所定距離走査し、前記検出部が、前記チップの位置変位による前記第1及び第2カンチレバーの形状変化から、前記表面の高さ情報を取得する第3ステップと、前記第1及び第3ステップで、前記第1カンチレバーの形状変化によって得られた高さ情報から、対応する凸部のエッジの変位量を第1の値として算出する第4ステップと、前記第1及び第3ステップで、前記第2カンチレバーの形状変化によって得られた高さ情報から、対応する凸部のエッジの変位量を第2の値として算出する第5ステップと、前記第1の値及び前記第2の値の差の絶対値を、試験片の変位量として決定する第6ステップとを含むことを特徴としている。
【0010】
前記第1及び第3ステップにおいて、前記第1及び第2カンチレバーの前記チップが前記試験片の表面に常に接触した状態で走査し、前記第1及び第2カンチレバーの形状変化をAFMの原理によって検出することができる。
【0011】
また、前記第1及び第3ステップにおいて、前記第1及び第2カンチレバーのうち、一方のカンチレバーのチップが前記試験片の表面に接触した状態を維持し、且つ、他方のカンチレバーのチップと前記試験片の表面との間に生じる原子間力による前記他方のカンチレバーの形状変化に応じた検出信号が一定の値になるように、前記試験片の表面の高さ方向に前記マルチプローブの位置を制御しながら、前記走査を行うことができる。
【0012】
また、前記第1及び第2カンチレバーのうち、前記マルチプローブを前記試験片の表面に近づけていった場合に、前記試験片の表面に後から接触するカンチレバーに関して、チップと前記試験片の表面との間に生じる原子間力による形状変化に応じた検出信号が一定の値になるように、前記マルチプローブの位置を制御しながら、前記走査を行うことができる。
【0013】
また、前記マルチプローブを走査させる前記所定距離が、隣接する前記凸部間の距離の1倍以上2倍以下の範囲の距離であり、前記スキャナが、ピエゾ素子を用いて前記マルチプローブを走査させることができる。
【0014】
また、前記検出部が、前記第1及び第2カンチレバーの形状変化を、光てこ及びピエゾ素子の何れか一方を用いて検出することができる。
【0015】
本発明に係る変位量測定装置は、所定の間隔で平行に配置され、各々の先端部にチップが形成された第1カンチレバー及び第2カンチレバーを有するマルチプローブと、各々の前記第1及び第2カンチレバーの形状変化を検出する検出部と、前記マルチプローブを走査させるスキャナと、該スキャナを制御する制御部と、試験片に張力を加える引張機構とを備えた変位量測定装置であって、複数の凸部が等間隔に表面に形成された試験片に対して前記引張機構によって張力を加える前後で、前記制御部が前記スキャナを制御し、前記マルチプローブを用いて、前記凸部が配列された方向に沿って前記表面を所定距離走査し、前記検出部が、前記チップの位置変位による前記第1及び第2カンチレバーの形状変化から、前記表面の高さ情報を取得することを特徴としている。
【0016】
前記第1及び第2カンチレバーの前記チップが前記試験片の表面に常に接触した状態で前記走査を行い、前記第1及び第2カンチレバーの形状変化をAFMの原理によって検出することができる。
【0017】
また、前記第1及び第2カンチレバーのうち、一方のカンチレバーのチップが前記試験片の表面に接触した状態を維持し、且つ、他方のカンチレバーのチップと前記試験片の表面との間に生じる原子間力による前記他方のカンチレバーの形状変化に応じた検出信号が一定の値になるように、前記試験片の表面の高さ方向に前記マルチプローブの位置を制御しながら、前記走査を行うことができる。
【0018】
また、前記第1及び第2カンチレバーのうち、前記マルチプローブを前記試験片の表面に近づけていった場合に、前記試験片の表面に後から接触するカンチレバーに関して、チップと前記試験片の表面との間に生じる原子間力による形状変化に応じた検出信号が一定の値になるように、前記マルチプローブの位置を制御しながら、前記走査を行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、試験片の広い範囲にわたって走査する必要がなく、試験片に形成した複数の凸部の間隔程度の比較的短い距離を走査すればよいので、効率的な測定が可能となる。
【0020】
また、プローブを走査する距離が短いので、ピエゾ素子を用いたスキャナを使用して繰り返し測定を行っても測定精度が低下することがない。
【0021】
また、2つのカンチレバーのうち、一方のカンチレバーのみを位置制御してAFM測定すれば、同時に他方のカンチレバーによってもAFM測定が可能となるので、プローブの制御が簡単になる。
【0022】
また、試験片が傾斜していた場合、測定前に試験片からの距離が大きかった方のカンチレバーを位置制御の対象とするので、他方のカンチレバーのチップを試験片に常に接触させてAFM測定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係る実施の形態を、添付した図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る変位量測定装置の概略構成を示すブロック図である。本変位量測定装置は、走査型プローブ顕微鏡(以下、SPM(Scanning Probe Microscope)と記す)の一種である原子間力顕微鏡(以下、AFM(Atomic Force Microscope))と記す)を基本とする装置であって、先鋭なチップが形成された2つのカンチレバーを有するマルチプローブ1と、ステージ3の上に配置された試験片2を保持し、これに張力を加える引張機構3と、マルチプローブ1が取り付けられた検出部4と、マルチプローブ1及び検出部4の3次元位置を変化させるスキャナ5と、検出部4からの信号に応じてスキャナ5を制御する制御部6とを備えている。
【0024】
図2は、図1に示したマルチプローブ1及び試験片2の形状を示す斜視図である。マルチプローブ1は、先鋭なチップTが形成された2つのカンチレバー11、12を備えている。試験片2は、引張試験の対象であるブリッジ部21と、ブリッジ部21の上に等間隔で、ほぼ同じ高さに形成された複数の凸部22とを備えている。便宜上、凸部22の間を凹部23とする。2つのカンチレバー11、12のチップTは、複数の凸部22が配列された方向に沿って、試験片2の上方に配置される。寸法の一例を示せば、2つのカンチレバー11、12の間隔Lは約0.6mmであり、ブリッジ部21は、長さが約3mm、幅が約0.3mm、厚さが約0.02mmである。また、凸部22は、幅W及び間隔Pが約10〜20μm、長さDが約10〜300μm、高さHが約100〜200nmであり、複数の凸部22が形成されている領域の長さは約100〜1000μmである。
【0025】
本変位量測定装置を用いた測定の概要を説明すれば次の通りである。試験片に張力を加える前後で、AFMの原理に基づいて試験片の表面形状を測定し、得られたAFM画像から張力による試験片の変位量を求める。スキャナ5は、制御部6からの制御信号によって制御され、検出部4に取り付けられたマルチプローブ1の位置を3次元的に変化させる。例えば、制御部6がスキャナ4を制御して、マルチプローブ1を観測対象の試験片表面に近づけると、カンチレバー11、12の先端部の先鋭なチップTが試験片から原子間力による影響を受け、カンチレバー11、12が撓む。このカンチレバー11、12の変形を、検出部4が検出する。そして、制御部6はスキャナ5を制御して、マルチプローブ1のXY座標を変化させながら、検出部4から受信する観測信号が一定レベルになるようにマルチプローブ1のZ軸方向の位置を変化させる。これによって、各XY座標の点に対するZ軸方向の制御量として、試験片表面の3次元形状を得ることができる。AFMによる試験片表面の観測方法には、上記したノンコンタクトモード以外にもコンタクトモード、タッピングモードなど種々の観測方法があるが、周知であるので詳細説明を省略する。
【0026】
次に、本変位量測定装置を用いて、試験片2に張力を加えた場合の変位量を測定する方法を詳細に説明する。ここでは、3次元座標軸を図2に示した方向に取り、カンチレバー11に関する検出信号を用いてマルチプローブのZ軸方向の位置を制御し、AFM測定するとする。
【0027】
まず、試験片2に張力を加えていない状態で、マルチプローブ1を用いて、試験片2の表面、即ち凸部22及び凹部23からなる形状をAFM測定する。具体的には、制御部6がスキャナ5を制御して、マルチプローブ1のZ軸方向(試験片2の高さ方向)の位置を制御しながらX軸方向(ビーム部21の長手方向)に所定距離ΔLだけ走査し、カンチレバー11、12を用いてAFM測定する。マルチプローブ1の位置のZ軸方向の制御には、制御部6が、カンチレバー11のチップTが試験片2に接触することによるカンチレバー11の変形に応じた測定信号を検出部4から受信し、この信号が一定になるように、マルチプローブ1の位置をZ軸方向に制御することで行う。即ち、本変位量測定装置において、カンチレバー11によるノンコンタクトモードでのAFM測定と、カンチレバー12によるコンタクトモードでのAFM測定を同時に行う。このとき、カンチレバー12が常に試験片2に接触してAFM測定可能となるようにすることが必要である。これは、例えば、一定とするカンチレバー11による検出信号の値を適切に設定(即ち、試験片表面とカンチレバー11のチップTとの距離を適切に設定)することや、マルチプローブ1全体をカンチレバー12の方向に所定の角度傾斜させて、カンチレバー12のチップTと試験片との接触を確実にすることによって実現できる。カンチレバー11、12の各々のチップTのZ軸方向の変化の測定は、レーザー光線をカンチレバーに照射してその形状変化を観測する「光てこ」による方法、カンチレバーの変形に応じてピエゾ素子を変形させ、その発生電圧として検出する方法など、周知の種々の方法を使用することができる。
【0028】
図3には、カンチレバー11、12が試験片2の表面を走査するときの位置関係と、AFM測定結果とを示している。図3の(b)は、それぞれのカンチレバー11、12によって得られたAFM測定結果を画像化したものであり、試験片2の表面の凹凸形状(高さ情報)を示している。高さ情報を得ることができる幅は、カンチレバー11、12を走査した距離ΔLと等しく、それらの間の表面情報は得られない。
【0029】
次に、制御部6がスキャナ5を制御してマルチプローブ1を元の位置に復帰させる。
【0030】
その後、試験片2に所定の張力を加えた状態で、上記と同様に、マルチプローブ1を走査してAFM測定を行う。図3の(c)は、張力を受けて試験片2のブリッジ部21がX軸方向に伸長した状態を示す断面図であり、(d)は、この状態で得られたAFM測定結果を画像化したものであり、試験片2の表面の凹凸形状(高さ情報)を示している。
【0031】
以上によって、図3の(b)、(d)に示したように、カンチレバー11、12の間隔Lとほぼ等しい距離だけ離れた2つの第1凸部22a及び第2凸部22bの立ち下りエッジE、Eに関するX軸方法の位置情報が得られる。従って、張力を加える前後の、立ち下りエッジEの変位量Δ及び立ち下りエッジEの変位量Δを用いて、試験片2に張力を加えたときの変位量は|Δ−Δ|で求められる。張力を加える前の立ち下りエッジE、E間の距離をL+αとすると、このときの変位率は、|Δ−Δ|/(L+α)で求められる。ここで、αは、2つのカンチレバー11、12間の距離Lと立ち下りエッジE、E間の距離との差であり、Lに比べて十分に小さいとすれば、|Δ−Δ|/(L+α)≒|Δ−Δ|/Lと近似できる。
【0032】
必要に応じて、試験片2に加える張力を変化させる毎に、スキャナ5によってマルチプローブ1を元の位置に復帰させた後、マルチプローブ1を走査してAFM測定を行い、試験片2の変位量を測定することができる。これによって、試験片上の長い距離(例えばL)を走査することなく、隣接する凸部22(又は凹部23)の間隔程度の距離(ΔL)を走査するだけで、試験片2の変位量及び変位率を高精度に求めることができる。
【0033】
図4は、本変位量測定装置に装着される前の試験片の一例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)の平面図におけるIII−III線に沿った断面図である。図4に示した試験片2は、両側が比較的大きく欠損された幅Wの狭いブリッジ部21が中央付近に形成され、ブリッジ部21の上に、等間隔に配置され、ほぼ同じ高さの複数の凸部22が形成されている。図4の試験片には、2つの孔部24がブリッジ部21の両側に設けられており、これらの孔部24が変位量測定装置の引張機構3のチャック(図示せず)に係合されて、試験片2が変位量測定装置に固定される。また、図4の試験片2は、試験片2の取り扱いを容易にするために、破損防止用フレーム部25を備えているが、試験片2が変位量測定装置に固定された後、計測を行う前に破損防止用フレーム部25は切断される。
【0034】
図4において縮尺は一定ではなく、特に(b)においては、横方向に比較して縦方向を拡大して表示している。図4の試験片2は、例えば、全長Lが約27mm、全幅Wが約13mm、全厚tが約0.5mm、ブリッジ部の長さLが約3mm、幅Wが約0.3mm、厚さtが約0.02mmである。
【0035】
図4に示したマイクロスケールの試験片2は、フォトリソグラフィ、エッチングなどによる周知の半導体プロセスを用いて製造することができる。従って、試験片2は、半導体プロセスで試験片2上に凸部22を等間隔に形成することができる材料であればよく、例えば、シリコン、DLC(Diamond-like Carbon)、パーマロイなど種々の薄膜を試験片とすることができる。
【0036】
上記ではマルチプローブの1つのカンチレバー(例えばカンチレバー11)に関する検出信号を用いてマルチプローブ1のZ軸方向の位置を制御する場合を説明したが、これに限定されない。例えば、マルチプローブ1のZ軸方向の位置を制御せずにX軸方向に走査し、AFM測定してもよい。このとき、カンチレバー11、12のチップTは、AFMにより試験片2の表面形状を測定可能なように、試験片2の表面に常に接触していることが必要である。そのためには、例えば、カンチレバー11、12のチップTが試験片2に対して常に、試験片2を損傷しない程度に十分に微弱な力を加えるように、マルチプローブ1のZ軸方向の位置を設定すればよい。
【0037】
また、機構が複雑になるが、カンチレバー11、12の位置をそれぞれ独立にZ軸方向に制御する機構を備え、カンチレバー11、12によって、例えばタッピングモードまたはノンコンタクトモードでAFM測定してもよい。
【0038】
また、試験片2が図5に示したようにマルチプローブに対して傾斜している場合には、一方のカンチレバー(図5ではカンチレバー11)のチップが試験片2に接していても、他方(カンチレバー12)のチップTが試験片2から離れた状態になる。この場合には、試験片2からチップTがより離れている方のカンチレバー(カンチレバー12)に関する検出信号を用いて、マルチプローブのZ軸方法の位置を制御してAFM測定する。これによって、他方のカンチレバー(カンチレバー11)のチップは常に試験片2に接触することになるので、他方のカンチレバー(カンチレバー11)を用いてコンタクトモードでAFM測定を行うことができる。
【0039】
この場合、最初に、2つのカンチレバー11、12のうち、何れの検出信号をマルチプローブのZ軸方向の位置制御に使用するかを決定することが必要になる。これは、例えば、マルチプローブ1を試験片に近づけながら、カンチレバー11、12の各々に関する検出信号を観測することによって、容易に判断できる。即ち、最初に検出信号が変化した方のカンチレバーが試験片に近く、後から検出信号が変化した方のカンチレバーは試験片から遠かったことが分かる。従って、後から検出信号が変化した方のカンチレバー(図5ではカンチレバー12)からの検出信号を用いてマルチプローブ1のZ軸方向の位置を制御し、カンチレバー11、12を用いてAFM測定を行う。
【0040】
また、何れか一方のカンチレバーに関する検出信号を用いて、マルチプローブのZ軸方向の位置を制御しながらX軸方向に短い距離を走査し、予備的にAFM測定を行うことによっても、何れのカンチレバーが試験片から遠いかを判断することができる。即ち、この予備的なAFM測定の結果、何れか一方のカンチレバーの検出信号に変化が無かった場合、そのカンチレバーが試験表面から離れていることが分かる。従って、実際の測定では、予備的なAFM測定で検出信号の変化がなかった方のカンチレバー(図5ではカンチレバー12)に関する検出信号を用いてマルチプローブのZ軸方向の位置を制御し、カンチレバー11、12を用いてAFM測定を行えばよい。
【0041】
このとき、2つのカンチレバーの変形の検出方法として、周知の光てこを用いる方法、ピエゾ素子を用いる方法などの何れを使用してもよい。2つのカンチレバーの各々の変形をピエゾ素子を用いて検知する方法を採用すれば、上記したカンチレバー11、12と試験片との接触の順序を、それら同じピエゾ素子を用いて検出することができ、装置の構成を簡単にすることができる。また、2つのカンチレバーの各々の変形を光てこによる方法を用いて検出し、それら同じ光てこを用いて試験片との接触順序を判断してもよい。
【0042】
また、上記した試験片の各部の寸法及びX軸方向の走査距離は、一例でありこれらに限定されない。例えば、凸部22の間隔WやX軸方向の走査距離ΔLは、試験片のヤング率及び測定時に試験片に加える張力を考慮して適切に決定すればよい。また、凸部22の高さHは、凸部22を形成する前の試験片2の表面の凹凸に対して、明確に凸部22のエッジをAFMによって観測できる高さであればよい。
【0043】
また、マルチプローブのカンチレバーの数は2つに限定されず、3つ以上のカンチレバーを平行に備えていてもよい。
【0044】
また、上記では、対応する凸部22(凹部23)の立ち下りエッジのX軸方向の変位を測定したが、立ち上がりエッジの変位を測定してもよい。
【0045】
また、上記ではAFMを用いる場合を説明したが、これに限定されず、摩擦力顕微鏡(FFM)、フォースモジュレーション顕微鏡(Force Modulation Microscope、FMM)、静電気力顕微鏡、磁気力顕微鏡(MFM)など種々の走査型プローブ顕微鏡に上記したマルチプローブを適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施の形態に係る変位量測定装置の概要を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る変位量測定装置のマルチプローブ及び試験片を示す斜視図である。
【図3】図1に示した変位量測定装置を用いた測定方法を説明する断面図である。
【図4】試験片の一例を示す平面図(a)及び断面図(b)である。
【図5】試験片が傾斜している場合のマルチプローブの制御方法を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 マルチプローブ
2 試験片
3 引張機構
4 検出部
5 スキャナ
6 制御部
11、12 カンチレバー
21 ブリッジ部
22、22a、22b 凸部
23 凹部
24 孔部
25 破損防止用フレーム部
T チップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔で平行に配置され、各々の先端部にチップが形成された第1カンチレバー及び第2カンチレバーを有するマルチプローブと、
各々の前記第1及び第2カンチレバーの形状変化を検出する検出部と、
前記マルチプローブを走査させるスキャナと、
該スキャナを制御する制御部と、
試験片に張力を加える引張機構とを備えた変位量測定装置を用いた変位量測定方法であって、
複数の凸部が等間隔に表面に形成された試験片に張力を加えない状態で、前記制御部が前記スキャナを制御し、前記マルチプローブを用いて、前記凸部が配列された方向に沿って前記表面を所定距離走査し、前記検出部が、前記チップの位置変位による前記第1及び第2カンチレバーの形状変化から、前記表面の高さ情報を取得する第1ステップと、
前記マルチプローブを前記走査を開始する前の位置に復帰させる第2ステップと、
前記試験片に前記引張機構により張力を加えた状態で、前記制御部が前記スキャナを制御し、前記マルチプローブを用いて、前記凸部が配列された方向に沿って前記表面を前記所定距離走査し、前記検出部が、前記チップの位置変位による前記第1及び第2カンチレバーの形状変化から、前記表面の高さ情報を取得する第3ステップと、
前記第1及び第3ステップで、前記第1カンチレバーの形状変化によって得られた高さ情報から、対応する凸部のエッジの変位量を第1の値として算出する第4ステップと、
前記第1及び第3ステップで、前記第2カンチレバーの形状変化によって得られた高さ情報から、対応する凸部のエッジの変位量を第2の値として算出する第5ステップと、
前記第1の値及び前記第2の値の差の絶対値を、試験片の変位量として決定する第6ステップとを含むことを特徴とする変位量測定方法。
【請求項2】
前記第1及び第3ステップにおいて、前記第1及び第2カンチレバーの前記チップが前記試験片の表面に常に接触した状態で走査し、前記第1及び第2カンチレバーの形状変化をAFMの原理によって検出することを特徴とする請求項1に記載の変位量測定方法。
【請求項3】
前記第1及び第3ステップにおいて、前記第1及び第2カンチレバーのうち、一方のカンチレバーのチップが前記試験片の表面に接触した状態を維持し、且つ、他方のカンチレバーのチップと前記試験片の表面との間に生じる原子間力による前記他方のカンチレバーの形状変化に応じた検出信号が一定の値になるように、前記試験片の表面の高さ方向に前記マルチプローブの位置を制御しながら、前記走査を行うことを特徴とする請求項1に記載の変位量測定方法。
【請求項4】
前記第1及び第2カンチレバーのうち、前記マルチプローブを前記試験片の表面に近づけていった場合に、前記試験片の表面に後から接触するカンチレバーに関して、チップと前記試験片の表面との間に生じる原子間力による形状変化に応じた検出信号が一定の値になるように、前記マルチプローブの位置を制御しながら、前記走査を行うことを特徴とする請求項3に記載の変位量測定方法。
【請求項5】
前記マルチプローブを走査させる前記所定距離が、隣接する前記凸部間の距離の1倍以上2倍以下の範囲の距離であり、
前記スキャナが、ピエゾ素子を用いて前記マルチプローブを走査させることを特徴とする請求項1〜4の何れかの項に記載の変位量測定方法。
【請求項6】
前記検出部が、前記第1及び第2カンチレバーの形状変化を、光てこ及びピエゾ素子の何れか一方を用いて検出することを特徴とする請求項1〜5の何れかの項に記載の変位量測定方法。
【請求項7】
所定の間隔で平行に配置され、各々の先端部にチップが形成された第1カンチレバー及び第2カンチレバーを有するマルチプローブと、
各々の前記第1及び第2カンチレバーの形状変化を検出する検出部と、
前記マルチプローブを走査させるスキャナと、
該スキャナを制御する制御部と、
試験片に張力を加える引張機構とを備えた変位量測定装置であって、
複数の凸部が等間隔に表面に形成された試験片に対して前記引張機構によって張力を加える前後で、前記制御部が前記スキャナを制御し、前記マルチプローブを用いて、前記凸部が配列された方向に沿って前記表面を所定距離走査し、前記検出部が、前記チップの位置変位による前記第1及び第2カンチレバーの形状変化から、前記表面の高さ情報を取得することを特徴とする変位量測定装置。
【請求項8】
前記第1及び第2カンチレバーの前記チップが前記試験片の表面に常に接触した状態で前記走査を行い、前記第1及び第2カンチレバーの形状変化をAFMの原理によって検出することを特徴とする請求項7に記載の変位量測定装置。
【請求項9】
前記第1及び第2カンチレバーのうち、一方のカンチレバーのチップが前記試験片の表面に接触した状態を維持し、且つ、他方のカンチレバーのチップと前記試験片の表面との間に生じる原子間力による前記他方のカンチレバーの形状変化に応じた検出信号が一定の値になるように、前記試験片の表面の高さ方向に前記マルチプローブの位置を制御しながら、前記走査を行うことを特徴とする請求項7に記載の変位量測定装置。
【請求項10】
前記第1及び第2カンチレバーのうち、前記マルチプローブを前記試験片の表面に近づけていった場合に、前記試験片の表面に後から接触するカンチレバーに関して、チップと前記試験片の表面との間に生じる原子間力による形状変化に応じた検出信号が一定の値になるように、前記マルチプローブの位置を制御しながら、前記走査を行うことを特徴とする請求項9に記載の変位量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−46974(P2007−46974A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−230567(P2005−230567)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】