説明

ミシンおよび刺繍縫製プログラム

【課題】刺繍枠の形状が略矩形形状であって、その角部が円弧状に形成されている場合でも、適正な縫製可能領域を設定可能なミシンおよび刺繍縫製プログラムを提供する。
【解決手段】ミシンでは、刺繍枠を前後方向に移送させることで、プローブの可倒レバーの接触球が刺繍枠と接触する2つのY座標が特定される(S13)。刺繍枠を左右方向に移送させることで、プローブの可倒レバーの接触球が刺繍枠と接触する2つのX座標が特定される(S15)。これらのX座標とY座標とから求められる仮想矩形の対角線方向である4つの移送点が決定される。刺繍枠を各移送点の方向に移送させることで、プローブの可倒レバーの接触球が刺繍枠と接触する4つの座標が特定される(S17)。特定された4つの座標から求められる仮想矩形が縫製可能領域に設定される(S19)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工布を保持する刺繍枠を移送させて刺繍模様を縫製するミシン、およびミシンに刺繍模様を縫製させる刺繍縫製プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、刺繍模様を縫製可能なミシンにおいて、縫製時に使用される刺繍枠のサイズを検出することができるミシンが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のミシンは、刺繍枠を装着してX軸及びY軸方向に移送する刺繍機と、刺繍枠のサイズを検出する可倒式レバーとを備えている。刺繍枠の形状は、略矩形形状である。このミシンでは、可倒式レバーを下方にスライドさせた状態で、刺繍枠の前部が可倒式レバーに接触するまで刺繍枠をX軸の正方向に駆動することで、刺繍枠の前部の位置を検出する。さらに、刺繍枠の後部が可倒レバーに接触するまで刺繍枠をX軸の負方向に駆動することで、刺繍枠の後部の位置を検出する。検出された刺繍枠の前部および後部の位置に基づいて、刺繍枠のサイズが判別される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−319880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
所定の刺繍枠に対して、刺繍模様が縫製可能な領域(以下、縫製可能領域という。)を設定する場合、縫製中に刺繍枠が移動したときに、押え足に接触しないようにする必要がある。つまり、押え足の大きさを考慮して、縫製可能領域を刺繍枠のサイズよりも若干小さく設定することが必要である。ここで、刺繍枠の形状が略矩形形状である場合には、通常、矩形形状の4箇所の角部(四隅)は円弧状に形成されている。この為、角部の丸み(角R)を考慮すると、縫製可能領域を更に小さく設定する必要がある。
【0005】
特許文献1に記載のミシンでは、略矩形形状の刺繍枠の前部および後部の位置に基づいて、刺繍枠の前後方向の長さを枠サイズとして特定できる。そして、刺繍枠の左右方向についても同様に、夫々の位置を検出して、枠サイズを特定することができるとする。しかしながら、略矩形形状の刺繍枠の角部の丸み(角R)の大きさを特定することはできない。従って、角部の丸み(角R)を考慮して縫製可能領域を設定することができず、この刺繍枠が使用された場合、縫製中に刺繍枠が移動して、押え足が刺繍枠の角部に接触するおそれがあった。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、刺繍枠の形状が略矩形状であって、その角部が円弧状に形成されている場合でも、適正な縫製可能領域を設定可能なミシンおよび刺繍縫製プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1態様に係るミシンは、刺繍縫製に供する加工布を保持する刺繍枠を移送可能な移送手段と、前記刺繍枠の内周側に配置され、前記移送手段によって移送される前記刺繍枠との接触を検知する接触検知手段と、前記移送手段によって前記刺繍枠を第1の方向に移送させ、且つ、前記接触検知手段によって前記刺繍枠との接触が検出される第1位置を特定する第1位置特定手段と、前記移送手段によって前記刺繍枠を前記第1の方向と直交する第2の方向に移送させ、且つ、前記接触検知手段によって前記刺繍枠との接触が検出される第2位置を特定する第2位置特定手段と、前記第1位置特定手段によって特定された前記第1位置と、前記第2位置特定手段によって特定された前記第2位置とから求められる仮想矩形の対角線方向である第3の方向を決定する方向決定手段と、前記方向決定手段によって決定された前記第3の方向に、前記移送手段によって前記刺繍枠を移送させ、且つ、前記接触検知手段によって前記刺繍枠との接触が検出される第3位置を特定する第3位置特定手段と、前記第3位置特定手段によって特定された前記第3位置から求められる仮想矩形を、前記刺繍枠内において所望の刺繍模様を縫製可能な領域である縫製可能領域に設定する領域設定手段と、を備えている。
【0008】
第1態様に係るミシンによれば、刺繍枠を第1の方向に移送させることで、接触検知手段が刺繍枠と接触する第1位置が特定される。刺繍枠を第2の方向に移送させることで、接触検知手段が刺繍枠と接触する第2位置が特定される。第1位置と第2位置とから求められる仮想矩形の対角線方向である第3の方向が決定される。刺繍枠を第3の方向に移送させることで、接触検知手段が刺繍枠と接触する第3位置が特定される。第3位置から求められる仮想矩形が縫製可能領域に設定される。つまり、刺繍枠を仮想矩形の対角線方向に移送させることで刺繍枠の角部が検出され、検出された角部に基づいて縫製可能領域が設定される。したがって、刺繍枠の形状が略矩形形状であって、その角部が円弧状に形成されている場合でも、適正な縫製可能領域を設定することができる。
【0009】
第1態様に係るミシンにおいて、前記縫製可能領域を増加または減少させる補正値を設定可能なマージン設定手段を備え、前記領域設定手段は、前記第3位置から求められる仮想矩形から、前記マージン設定手段によって設定された前記補正値に応じて補正した大きさの仮想矩形を、前記縫製可能領域に設定してもよい。この場合、縫製可能領域が補正値に応じて増加または減少されるので、縫製可能領域をユーザのニーズに応じて最適化することができる。
【0010】
第1態様に係るミシンにおいて、前記加工布に縫製される前記刺繍模様が、前記領域設定手段によって設定された前記縫製可能領域内に収まるか否かを判断する縫製可能判断手段と、前記縫製可能判断手段による判断結果を報知する報知手段と、を備えてもよい。この場合、刺繍模様が縫製可能領域内に収まるか否かが報知されるので、ユーザは刺繍模様が縫製できるか否かを容易に知ることができる。
【0011】
第1態様に係るミシンにおいて、前記領域設定手段によって設定された前記縫製可能領域を記憶装置に保存する記憶制御手段を備え、前記領域設定手段は、前記第3位置に基づいて前記縫製可能領域を設定するのに代えて、前記記憶装置に保存されている前記縫製可能領域を読み出して設定可能であってもよい。この場合、記憶装置に縫製可能領域が保存されている刺繍枠を使用する場合には、再度、縫製可能領域を設定する必要はないので、利便性が向上する。
【0012】
第1態様に係るミシンにおいて、前記第1位置特定手段は、前記接触検知手段と前記刺繍枠との接触が検出された2つの座標位置を、前記第1位置として特定し、前記第2位置特定手段は、前記接触検知手段と前記刺繍枠との接触が検出された2つの座標位置を、前記第2位置として特定し、前記仮想矩形は、前記第1の方向に平行に延び、且つ前記第2位置が示す2つの座標位置をそれぞれ通る2辺と、前記第2方向に平行に延び、且つ前記第1位置が示す2つの座標位置をそれぞれ通る2辺とから成り、前記方向決定手段は、前記接触検知手段の座標位置から前記仮想矩形の4つの頂点に向かう4つの方向を、前記第3の方向として特定し、前記第3位置特定手段は、前記接触検知手段と前記刺繍枠との接触が検出された4つの座標位置を、前記第3位置として特定し、前記領域設定手段は、前記第3位置が示す4つの座標位置を頂点とする仮想矩形を、前記縫製可能領域に設定してもよい。
【0013】
この場合、第1位置として特定した2つの座標位置と、第2位置として特定した2つの座標位置と頂点とする仮想矩形が特定される。刺繍枠を仮想矩形の4つの頂点へ向けて移送させた場合に、接触検知手段が刺繍枠と接触する4つの座標位置が、第3位置として特定される。第3位置が示す4つの座標位置を頂点とする仮想矩形が、縫製可能領域に設定される。これにより、刺繍枠の形状が略矩形形状であって、その角部が円弧状に形成されている場合でも、縫製可能領域を正確に設定することができる。
【0014】
第1態様に係るミシンにおいて、前記移送手段によって前記刺繍枠を前記第1の方向に移送させ、且つ、前記接触検知手段によって前記刺繍枠との接触が検出される前記第1の位置を特定し、前記第1の位置が示す2つの座標位置に基づいて前記刺繍枠における前記第1の方向の中心座標を特定する第1座標特定手段と、前記移送手段によって前記刺繍枠を前記第2の方向に移送させ、且つ、前記接触検知手段によって前記刺繍枠との接触が検出される前記第2の位置を特定し、前記第2の位置が示す2つの座標位置に基づいて前記刺繍枠における前記第2の方向の中心座標を特定する第2座標特定手段と、前記第1位置特定手段、前記第2位置特定手段、および前記第3位置特定手段によって位置特定がそれぞれ実行される前に、前記第1座標特定手段によって特定された前記第1の方向の中心座標と、前記第2座標特定手段によって特定された前記第2の方向の中心座標とが、前記接触検知手段の位置座標と一致する位置に、前記移送手段によって前記刺繍枠を移送させる位置合せ手段と、を備えてもよい。
【0015】
この場合、第1位置として特定した2つの座標位置に基づいて、刺繍枠における第1の方向の中心座標が特定される。第2位置として特定した2つの座標位置に基づいて、刺繍枠における第2の方向の中心座標が特定される。各位置特定手段によって位置特定がそれぞれ実行される前に、刺繍枠が第1の方向および第2の方向の各中心座標に移送される。これにより、刺繍枠の中心位置を基準として各位置特定手段による位置特定が実行されるので、例えば、略矩形形状である刺繍枠の長辺又は短辺に相当する部分が円弧形状であるような場合や、刺繍枠の全体形状が略楕円形状であるような場合にも、縫製可能領域をより正確に設定することができる。
【0016】
本発明の第2態様に係る刺繍縫製プログラムは、刺繍縫製に供する加工布を保持する刺繍枠を移送可能な移送手段と、前記刺繍枠の内周側に配置され、前記移送手段によって移送される前記刺繍枠との接触を検知する接触検知手段とを備えたミシンのコンピュータに、前記移送手段によって前記刺繍枠を第1の方向に移送させ、且つ、前記接触検知手段によって前記刺繍枠との接触が検出される第1位置を特定する第1位置特定ステップと、前記移送手段によって前記刺繍枠を前記第1の方向と直交する第2の方向に移送させ、且つ、前記接触検知手段によって前記刺繍枠との接触が検出される第2位置を特定する第2位置特定ステップと、前記第1位置特定ステップによって特定された前記第1位置と、前記第2位置特定ステップによって特定された前記第2位置とから求められる仮想矩形の対角線方向である第3の方向を決定する方向決定ステップと、前記方向決定ステップによって決定された前記第3の方向に、前記移送手段によって前記刺繍枠を移送させ、且つ、前記接触検知手段によって前記刺繍枠との接触が検出される第3位置を特定する第3位置特定ステップと、前記第3位置特定ステップによって特定された前記第3位置から求められる仮想矩形を、前記刺繍枠内において所望の刺繍模様を縫製可能な領域である縫製可能領域に設定する領域設定ステップと、を実行させる。
【0017】
第2態様に係る刺繍縫製プログラムをミシンのコンピュータに実行させることにより、ミシンは、刺繍枠を第1の方向に移送させることで、接触検知手段が刺繍枠と接触する第1位置が特定される。刺繍枠を第2の方向に移送させることで、接触検知手段が刺繍枠と接触する第2位置が特定される。第1位置と第2位置とから求められる仮想矩形の対角線方向である第3の方向が決定される。刺繍枠を第3の方向に移送させることで、接触検知手段が刺繍枠と接触する第3位置が特定される。第3位置から求められる仮想矩形が縫製可能領域に設定される。つまり、刺繍枠を対角線方向に移送させることで刺繍枠の角部が検出され、検出された角部に基づいて縫製可能領域が設定される。したがって、刺繍枠の形状が略矩形形状であって、その角部が円弧状に形成されている場合でも、適正な縫製可能領域を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ミシン1を左斜め前から見た斜視図である。
【図2】針棒6、縫針7、押え棒45、および押え足47の近傍を拡大した左側面図である。
【図3】ミシン1の電気的構成を示すブロック図である。
【図4】領域設定処理のフローチャートである。
【図5】枠原点検出処理(S11)のフローチャートである。
【図6】Y方向検出処理(S31)のフローチャートである。
【図7】X方向検出処理(S33)のフローチャートである。
【図8】枠原点算出処理(S35)のフローチャートである。
【図9】初期原点O1および枠原点O2を示す、刺繍枠34の平面図である。
【図10】Y座標検出処理(S13)のフローチャートである。
【図11】X座標検出処理(S15)のフローチャートである。
【図12】斜め方向検出処理(S17)のフローチャートである。
【図13】座標J1〜J4および座標K1〜K4を示す、刺繍枠34の平面図である。
【図14】領域算出処理(S19)のフローチャートである。
【図15】座標K1〜K4および座標H1〜H4を示す、刺繍枠34の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を具体化した実施の形態について、図面を参照して説明する。参照する図面は、本発明が採用しうる技術的特徴を説明するために用いられるものであり、単なる説明例である。
【0020】
図1および図2を参照して、ミシン1の物理的構成について説明する。以下の説明では、図1において、紙面の手前側をミシン1の前方、紙面の奥行き側を後方と言い、紙面の上下方向をミシン1の左右方向と言う。
【0021】
図1に示すように、ミシン1は、左右方向に長いミシンベッド11を備える。ミシンベッド11の右端部には、上方へ立設された脚柱部12が設けられている。脚柱部12の上端には、左方へ延びるアーム部13が設けられている。アーム部13の左先端部には、頭部14が設けられている。ミシンベッド11の上面には、針板(図示外)が配設されている。針板の下側(つまり、ミシンベッド11内)には、図示外の送り歯、送り機構、釜機構、および送り量調整用パルスモータ78(図3参照)が設けられている。送り歯は、送り機構によって駆動されて、加工布を所定の送り量で移送する。送り歯の送り量は、送り量調整用パルスモータ78によって調整される。
【0022】
ミシンベッド11の上側には、加工布100を保持する刺繍枠34が配置されている。刺繍枠34は、内枠と外枠とで加工布100を挟持して保持する周知の構成を有する。刺繍枠34の内側の領域は、刺繍模様の縫目を形成可能な領域である。本実施形態の刺繍枠34は、図9にも示すように、平面視にて前後方向に長い略矩形形状に形成され、長辺部34A,34B、及び短辺部34C,34Dは略直線状であり、4箇所の角部34E〜34Hは円弧形状に形成されている。ここで、図9に示す刺繍枠34は、説明の便宜上、図1に示す刺繍枠34の形状を簡略化して示している。なお、図13、図15も同様である。
【0023】
刺繍枠34を移送する刺繍枠移送装置92は、周知の構成であるので簡単に説明する。刺繍枠移送装置92は、ミシンベッド11に対して着脱可能である。刺繍枠移送装置92の上部には、前後方向に延びるキャリッジカバー35が設けられる。キャリッジカバー35の内部には、刺繍枠34を着脱可能なキャリッジ(図示外)と、このキャリッジを前後方向(Y方向)に移送するY軸移送機構(図示外)とが設けられている。Y軸移送機構は、Y軸モータ84(図3参照)により駆動される。
【0024】
刺繍枠移送装置92の本体内には、キャリッジ、Y軸移送機構、およびキャリッジカバー35を左右方向(X方向)に移送するX軸移送機構(図示外)が設けられている。X軸移送機構は、X軸モータ83(図3参照)により駆動される。キャリッジ、Y軸移送機構、およびキャリッジカバー35が左右方向(X方向)に移送されるのに伴って、刺繍枠34が左右方向(X方向)に移送される。ここで、前後方向(Y方向)が本発明の特許請求範囲の「第1の方向」に相当し、左右方向(X方向)が本発明の特許請求範囲の「第2の方向」に相当する。
【0025】
このように、刺繍枠34を左右方向(X方向)および前後方向(Y方向)に移送させながら針棒6(図2参照)や釜機構(図示外)を駆動させることにより、刺繍枠34に保持された加工布100に対して縫製動作が実行され、刺繍模様が縫製される。また、刺繍模様ではない通常模様の縫製時には、ミシンベッド11から刺繍枠移送装置92が取外された状態で、送り歯により加工布が移動されながら通常縫製が行われる。
【0026】
脚柱部12の前面には、縦長の長方形状の液晶ディスプレイ15が設けられている。液晶ディスプレイ15には、各種のコマンド、イラスト、設定値、メッセージなどが表示される。液晶ディスプレイ15は、ユーザが指やペンなどを用いて押圧操作するためのタッチパネル26を備えている。以下、タッチパネル26の押圧操作を「パネル操作」と言う。例えば、ユーザはパネル操作によって、ミシン1に実行させるコマンドを選択したり、加工布100に縫製する刺繍模様を選択したり、刺繍模様の編集などを実行可能である。
【0027】
アーム部13内の略中央部には、糸駒20が収容される凹部である糸収容部18が設けられている。アーム部13は、アーム部13の上部側を開閉する開閉カバー16を備えている。開閉カバー16の開閉に応じて、糸収容部18が開放または隠蔽される。糸収容部18の脚柱部12側の内壁面には、頭部14に向かって突出する糸立棒19が設けられている。糸駒20は、その挿入孔(図示外)に糸立棒19が挿入された状態で、糸収容部18に装着される。
【0028】
糸駒20から延びる上糸(図示外)は、頭部14に設けられた糸掛部(図示外)を経由して、針棒6に装着された縫針7(図2参照)に供給される。針棒6は、頭部14内に設けられた針棒上下動機構(図示外)により、上下動するように駆動される。針棒上下動機構は、ミシンモータ79(図3参照)により回転駆動する主軸(図示外)によって駆動される。
【0029】
アーム部13の前面下部には、複数の操作スイッチ21が設けられている。複数の操作スイッチ21は、例えば、縫製開始・停止スイッチ、返し縫いスイッチ、針上下スイッチ等を含む。さらに、アーム部13の前面下部の中央には、速度調整摘み32が設けられている。速度調整摘み32は、ユーザが、主軸の回転速度を調整するための操作部材である。
【0030】
図2を参照して、針棒6、縫針7、押え棒45、および押え足47について説明する。なお、図2では、説明の都合上、刺繍枠34及び刺繍枠移送装置92は図示を省略している。頭部14の下側には、針棒6と押え棒45とが設けられている。針棒6の下端部には縫針7が固定されている。押え棒45は、押え上げレバー(図示外)によって上昇位置と下降位置に亙って昇降操作される。押え棒45の下端部には、押え足47が締めネジ48によって固定されている。押え足47は、加工布100を押える為の周知の刺繍縫製用の押え足である。さらに、頭部14の下側における、押え棒45および押え足47の後ろ側(図2では左側)には、プローブ50が設けられている。プローブ50は、頭部14内に収納される上方位置と、頭部14から下方に突出する下方位置とに切替え可能に頭部14の機枠(図示外)に支持されている。また、プローブ50の近傍には、プローブ50が上方位置から下方位置に切替えられたことを検出する位置センサ58(図3参照)が設けられている。
【0031】
プローブ50は、可倒レバー51と本体部53とを備えている。可倒レバー51は、本体部53から鉛直下方に伸長する棒状部材である。可倒レバー51は、任意の方向に傾斜することが可能なように本体部53に支持されている。可倒レバー51の下端部には接触球52が設けられている。本体部53には、図示はしないが、可倒レバー51を保持する保持機構と、可倒レバー51の傾斜を検出する検出器とを備えている。保持機構は、可倒レバー51又は接触球52に外力が作用していない状態のとき、可倒レバー51を鉛直下方に伸びる姿勢(中立姿勢)に保持する。可倒レバー51又は接触球52に対して横方向から外力が作用すると、可倒レバー51は外力が作用した方向に傾斜する。検出器は、可倒レバー51が傾斜したことを検出し、検出信号を出力する。外力が作用しなくなると、可倒レバー51は保持機構により中立姿勢に戻る。
【0032】
本実施形態では、ユーザは、後述の縫製可能領域を設定する際に、プローブ50を上方位置から下方位置に移動させる。下方位置は、可倒レバー51の下端部の接触球52が刺繍枠34の内壁(内枠の内周面)に接触可能な位置である。但しこのとき、接触球52は加工布100の上面には接触しない位置にある。なお、図9に示す刺繍枠34では、長辺部34A,34B、短辺部34C,34D、及び角部34E〜34Hにおける内周面が、それぞれ内壁341〜348である。また、ユーザは、押え上げレバーを操作して押え棒45を上昇位置に移動させると共に、刺繍枠34が移送されたときに押え足47に接触しないように、締めネジ48を緩めて押え棒45から押え足37を取り外す。
【0033】
図3を参照して、ミシン1の電気的構成について説明する。ミシン1の制御部60は、CPU61,ROM62,RAM63,EEPROM64,カードスロット17,外部アクセスRAM68,入力インターフェイス65,出力インターフェイス66を含み、これらはバス67により相互に接続されている。入力インターフェイス65には、複数の操作スイッチ21、タッチパネル26、プローブ50、装着センサ59、および位置センサ58が接続されている。装着センサ59は、刺繍枠移送装置92のキャリッジに設けられ、刺繍枠34がキャリッジに装着されたことを検出するセンサである。CPU61は、ROM62に記憶された制御プログラムに従って、各種演算および処理を実行する。また、CPU61は、プローブ50の検出器から出力される検出信号に基づいて、可倒レバー51が傾斜しているか否かを判別する。
【0034】
出力インターフェイス66には、駆動回路71,72,74,75,85および86が電気的に接続されている。駆動回路71は、送り量調整用パルスモータ78を駆動させる。駆動回路72は、ミシンモータ79を駆動させる。駆動回路74は、針棒6を揺動駆動する針振りパルスモータ80を駆動させる。ただし、刺繍模様の縫製時には、送り量調整用パルスモータ78及び針振りパルスモータ80は駆動されない。駆動回路75は、液晶ディスプレイ15を駆動させる。駆動回路85および86は、刺繍枠34を移送させるX軸モータ83およびY軸モータ84を夫々駆動する。
【0035】
図4〜図15を参照して、ミシン1が行う領域設定処理について、フローチャートを参照して説明する。ユーザがパネル操作によって複数の刺繍模様の中から加工布100に縫製する刺繍模様を選択すると、CPU61はROM62に記憶されたプログラムに従って、刺繍枠34の縫製可能領域を設定する領域設定処理(図4)を実行する。縫製可能領域は、刺繍枠34の刺繍領域のうちで、刺繍枠34の角部34E〜34Hの丸み(角R)を考慮して設定された領域である。
【0036】
図4に示すように、領域設定処理では、オフセット値の入力ありか否かが判断される(S1)。オフセット値は、縫製可能領域を増加または減少させる補正値である。ユーザはパネル操作によって、任意のオフセット値(OX、OY)を入力できる。本実施形態では、縫製可能領域を左右方向(X方向)に拡大又は縮小させるサイズを示すオフセット値(OX)と、縫製可能領域の前後方向(Y方向)に拡大又は縮小させるサイズを示すオフセット値(OY)とを入力可能である。
【0037】
オフセット値の入力があった場合(S1:YES)、入力されたオフセット値がEEPROM64に記憶される(S3)。ステップS3の実行後、またはオフセット値の入力がない場合(S1:NO)、領域設定キーがONであるか否かが判断される(S5)。領域設定キーは、刺繍枠34の刺繍可能領域を設定するコマンドを入力するためのキーである。具体的には、ユーザがパネル操作によって、液晶ディスプレイ15に表示されている領域設定キーを押圧した場合、領域設定キーがONであると判断される(S5:YES)。
【0038】
次に、装着センサ59からの信号により、刺繍枠34が刺繍枠移送装置92のキャリッジに装着されているか否かが判断される(S7)。刺繍枠34がキャリッジに装着されていない場合(S7:NO)、刺繍枠34が刺繍枠移送装置92のキャリッジに装着されていない旨のエラーメッセージが、液晶ディスプレイ15に表示される(S23)。ステップS23の実行後、処理はステップS1に戻る。
【0039】
刺繍枠34が刺繍枠移送装置92のキャリッジに装着されている場合(S7:YES)、位置センサ58からの信号により、プローブ50が下方位置にあるか否か、即ち、可倒レバー51の接触球52が刺繍枠34の内壁(内枠の内周面)に接触可能な位置にあるか否かが判断される(S9)。プローブ50が下方位置にない場合(S9:NO)、プローブ50が下方位置にない旨のエラーメッセージが、液晶ディスプレイ15に表示される(S23)。ステップS23の実行後、処理はステップS1に戻る。
【0040】
プローブ50が下方位置にある場合(S9:YES)、枠原点検出処理(S11)、Y座標検出処理(S13)、X座標検出処理(S15)、斜め方向検出処理(S17)、および領域算出処理(S19)が順次実行される。以下、各処理の詳細を個別に説明する。
【0041】
図5に示すように、枠原点検出処理(S11)では、図6に示すY方向検出処理(S31)が実行される。Y方向検出処理(S31)では、まず、刺繍枠移送装置92の初期位置にキャリッジが移送されることにより、キャリッジに装着されている刺繍枠34も初期位置に移送される(S51)。ここで、初期位置とは、刺繍枠移送装置92が通電されたときのキャリッジの基準位置のことをいう。刺繍枠34が初期位置にあるとき、可倒レバー51は中立姿勢であり、接触球52の中心位置の平面視における位置座標が、図9に示す初期原点O1(0,0)にある。
【0042】
ステップS51の実行後、刺繍枠34の初期原点O1からの後方向の距離の測定を実行済みであるか否かが判断される(S53)。後方向の距離の測定を実行済みでない場合(S53:NO)、刺繍枠34の移送方向として「前」が設定される(S55)。その理由は、平面視にて、プローブ50が固定され、それに対して刺繍枠34が移動する構成(移送される構成)であるので、刺繍枠34の後方向の距離を測定するときには、刺繍枠34を前方向に移送することになるからである。
【0043】
ステップS55の実行後、刺繍枠34が刺繍枠移送装置92によって設定方向へ移送される(S57)。そして、プローブ50がONであるか否かが判断される(S59)。具体的には、プローブ50の検出器から出力される検出信号に基づいて、可倒レバー51が傾斜したか否かが判断される。可倒レバー51が傾斜した場合に、プローブ50がONであると判断される(S59:YES)。
【0044】
この場合、刺繍枠34の移送が停止されて、初期原点O1から停止位置までの移送距離が特定されて、RAM63に記憶される(S61)。ステップS61の実行後、処理はステップS51に戻る。一方、プローブ50がOFFである場合(S59:NO)、処理はステップS57に戻る。そのため、プローブ50がONになるまで、刺繍枠34は設定方向に移送される。
【0045】
本実施形態では、刺繍枠34の移送方向として「前」が設定されている場合(S55)、初期原点O1にある刺繍枠34が前方向に移送される(S57)。刺繍枠34が前方向に移送されるのに伴って、刺繍枠34の内側に配置された接触球52と刺繍枠34の後方の内壁343(図9参照)との距離が徐々に小さくなって、接触球52が内壁343に接触する。このとき、可倒レバー51が傾斜するため、プローブ50がONであると判断される(S59:YES)。この場合、刺繍枠34が前方向に移送された距離B1(図9参照)が、RAM63に記憶される(S61)。
【0046】
ステップS51の実行後、初期原点O1からの後方向の距離の測定を実行済みである場合(S53:YES)、初期原点O1からの前方向の距離の測定を実行済みであるか否かが判断される(S63)。前方向の距離の測定を実行済みでない場合(S63:NO)、刺繍枠34の移送方向として「後」が設定される(S65)。ステップS65の実行後、先述のステップS57〜S61が実行されて、処理はステップS51に戻る。
【0047】
本実施形態では、刺繍枠34の移送方向として「後」が設定されている場合(S65)、初期原点O1にある刺繍枠34が後方向に移送される(S57)。刺繍枠34が後方向に移送されるのに伴って、接触球52が前方の内壁344(図9参照)に接触し、プローブ50がONになる(S59:YES)。この場合、刺繍枠34が後方向に移送された距離B2(図9参照)が、RAM63に記憶される(S61)。
【0048】
ステップS51の実行後、初期原点O1からの後方向および前方向の距離の測定をいずれも実行済みである場合(S53:YES、S63:YES)、処理が枠原点検出処理(図5)に戻る。図5に示すように、ステップS31の実行後、X方向検出処理(S33)が実行される。
【0049】
図7に示すように、X方向検出処理(S33)では、刺繍枠34が初期原点O1まで移送される(S71)。ステップS71の実行後、刺繍枠34における右方向の距離の測定を実行済みであるか否かが判断される(S73)。右方向の距離の測定を実行済みでない場合(S73:NO)、刺繍枠34の移送方向として「左」が設定される(S75)。その理由は、刺繍枠34を前後方向に移送する場合と同様である。
【0050】
ステップS75の実行後、刺繍枠34が刺繍枠移送装置92によって設定方向へ移送される(S77)。そして、プローブ50がONであるか否かが判断される(S79)。プローブ50がONである場合(S79:YES)、初期原点O1から停止位置までの移送距離が記憶される(S81)。ステップS81の実行後、処理はS71に戻る。一方、プローブ50がOFFである場合(S79:NO)、処理はステップS77に戻る。
【0051】
本実施形態では、刺繍枠34の移送方向として「左」が設定されている場合(S75)、初期原点O1にある刺繍枠34が左方向に移送される(S77)。刺繍枠34が左方向に移送されて、接触球52が右側の内壁341(図9参照)に接触し、プローブ50がONになる(S79:YES)。この場合、刺繍枠34が左方向に移送された距離A1(図9参照)が、RAM63に記憶される(S81)。
【0052】
ステップS71の実行後、右方向の距離の測定を実行済みである場合(S73:YES)、刺繍枠34における左方向の距離の測定を実行済みであるか否かが判断される(S83)。左方向の距離の測定を実行済みでない場合(S83:NO)、刺繍枠34の移送方向として「右」が設定される(S85)。ステップS85の実行後、先述のステップS77〜S81が実行されて、処理はステップS71に戻る。
【0053】
本実施形態では、刺繍枠34の移送方向として「右」が設定されている場合(S85)、初期原点O1にある刺繍枠34が右方向に移送される(S77)。刺繍枠34が右方向に移送されて、接触球52が左側の内壁342(図9参照)に接触し、プローブ50がONになる(S79:YES)。この場合、刺繍枠34が右方向に移送された距離A2(図9参照)が、RAM63に記憶される(S81)。
【0054】
ステップS71の実行後、右方向および左方向の距離の測定をいずれも実行済みである場合(S73:YES、S83:YES)、処理が枠原点検出処理(図5)に戻る。図5に示すように、ステップS33の実行後、枠原点算出処理(S35)が実行される。
【0055】
図8に示すように、枠原点算出処理(S35)では、刺繍枠34の前後方向の中点Qが算出される(S91)。中点Qは、RAM63に記憶されている距離B1、B2に基づいて、以下のように算出される。
Q=(B1+B2)/2
【0056】
ステップS91の実行後、刺繍枠34の左右方向の中点Pが算出される(S93)。中点Pは、RAM63に記憶されている距離A1、A2に基づいて、以下のように算出される。
P=(A1+A2)/2
【0057】
ステップS91で算出された中点Qと、ステップS93で算出された中点Pとが、枠原点O2の座標(P,Q)に設定される(S95)。枠原点O2は、刺繍枠34の前後方向(Y方向)および左右方向(X方向)の中央位置である(図9参照)。ステップS95の実行後、処理が枠原点検出処理(図5)に戻り、さらに処理が領域設定処理(図4)に戻る。
【0058】
図10に示すように、Y座標検出処理(S13)では、接触球52の位置と枠原点O2が一致するまで、刺繍枠34が移送される(S101)。つまり、ステップS101では、接触球52の中心位置の平面視における位置座標が、図9、図13に示す枠原点O2(P,Q)に一致するまで刺繍枠34が移送される。ステップS101の実行後、Y方向検出処理(図6)のステップS53〜S65と同様の処理が実行される(S103〜S115)。
【0059】
本実施形態では、ステップS105〜S111によって、刺繍枠34が枠原点O2を基点として前方向に移送された距離Y1(図13参照)が検出されて、RAM63に記憶される。ステップS115、S107〜S111によって、刺繍枠34が枠原点O2を基点として後方向に移送された距離Y2(図13参照)が検出されて、RAM63に記憶される。距離Y1、Y2は、それぞれ、プローブ50の可倒レバー51の接触球52が刺繍枠34の内壁343,344と接触したときのY座標を示す。
【0060】
図11に示すように、X座標検出処理(S15)では、接触球52の中心位置の平面視における位置座標が、図9、図13に示す枠原点O2(P,Q)に一致するまで刺繍枠34が移送される(S121)。ステップS121の実行後、X方向検出処理(図7)のステップS73〜S85と同様の処理が実行される(S123〜S135)。
【0061】
本実施形態では、ステップS125〜S131によって、刺繍枠34が枠原点O2を基点として左方向に移送された距離X1(図13参照)が検出されて、RAM63に記憶される。ステップS135、S127〜S131によって、刺繍枠34が枠原点O2を基点として右方向に移送された距離X2(図13参照)が検出されて、RAM63に記憶される。距離X1、X2は、それぞれ、接触球52が刺繍枠34の内壁341,342と接触したときのX座標を示す。
【0062】
図12に示すように、斜め方向検出処理(S17)では、接触球52の中心位置の平面視における位置座標が、図9、図13に示す枠原点O2(P,Q)に一致するまで刺繍枠34が移送される(S141)。ステップS141の実行後、RAM63に記憶されているカウンタが「0」にリセットされる(S143)。ステップS143の実行後、カウンタが「0」であるか否かが判断される(S145)。カウンタが「0」である場合(S145:YES)、RAM63に記憶されている移送点に座標J1(X1、Y1)が設定される(S147)。座標J1のX座標およびY座標は、それぞれ、RAM63に記憶されている距離X1および距離Y1である(図13参照)。
【0063】
移送点は、Y座標検出処理(S13)で検出された距離Y1、Y2と、X座標検出処理(S15)で検出された距離X1、X2とから求められる仮想矩形200(図13参照)の頂点である。したがって、枠原点O2から移送点に向かう方向は、仮想矩形200の対角線方向に等しい。ここで、仮想矩形200の対角線方向が、本発明の特許請求範囲の「第3の方向」に相当する。
【0064】
ステップS147の実行後、刺繍枠34が刺繍枠移送装置92によって、RAM63に記憶されている移送点へ移送される(S149)。そして、プローブ50がONであるか否かが判断される(S151)。プローブ50がONである場合(S151:YES)、枠原点O2から停止位置までの移送距離に基づいて、カウンタに対応する座標K1〜K4のいずれかが設定され、RAM63に記憶される(S153)。ステップS153の実行後、カウンタがインクリメントされて(S155)、処理はステップS145に戻る。一方、プローブ50がOFFである場合(S151:NO)、処理はステップS149に戻って、プローブ50がONになるまで刺繍枠34が移送点に向けて移送される。
【0065】
本実施形態では、X座標検出処理(S15)の開始直後は、カウンタに「0」が設定される(S143、S145:YES)。この場合、刺繍枠34が枠原点O2から座標J1(X1,Y1)に向けて、つまり左前方向に移送される(S147、S149)。接触球52が角部34Eの内壁345(図13参照)に接触すると(S151:YES)、刺繍枠34が移送された距離(つまり、枠原点O2を基点としたX方向およびY方向の移送距離)に基づいて、カウンタ「0」に対応する座標K1(X3,Y3)が設定される(S153)。
【0066】
カウンタが「0」でない場合(S145:NO)、カウンタが「1」であるか否かが判断される(S157)。カウンタが「1」である場合(S157:YES)、RAM63に記憶されている移送点に座標J2(−X2,Y1)が設定される(S159)。座標J2のX座標およびY座標は、それぞれ、RAM63に記憶されている距離X2のマイナス値および距離Y1である(図13参照)。ステップS159の実行後、ステップS149〜S155が実行されて、処理はステップS145に戻る。
【0067】
本実施形態では、座標K1(X3,Y3)が設定されたのち、カウンタが「1」にセットされる(S155)。この場合、刺繍枠34が枠原点O2から座標J2(−X2,Y1)に向けて、つまり右前方向に移送される(S147、S149)。接触腕52が角部34Fの内壁346(図13参照)に接触すると(S151:YES)、刺繍枠34が移送された距離に基づいて、カウンタ「1」に対応する座標K2(X4,Y4)が設定される(S153)。
【0068】
カウンタが「1」でない場合(S157:NO)、カウンタが「2」であるか否かが判断される(S161)。カウンタが「2」である場合(S161:YES)、RAM63に記憶されている移送点に座標J3(−X2,−Y2)が設定される(S163)。座標J3のX座標およびY座標は、それぞれ、RAM63に記憶されている距離X2のマイナス値および距離Y2のマイナス値である(図13参照)。ステップS163の実行後、ステップS149〜S155が実行されて、処理はステップS145に戻る。
【0069】
本実施形態では、座標K2(X4,Y4)が設定されたのち、カウンタが「2」にセットされる(S155)。この場合、刺繍枠34が枠原点O2から座標J3(−X2,−Y2)に向けて、つまり右後方向に移送される(S147、S149)。接触腕52が角部34Gの内壁347(図13参照)に接触すると(S151:YES)、刺繍枠34が移送された距離に基づいて、カウンタ「2」に対応する座標K3(X5,Y5)が設定される(S153)。
【0070】
カウンタが「2」でない場合(S161:NO)、カウンタが「3」であるか否かが判断される(S165)。カウンタが「3」である場合(S165:YES)、RAM63に記憶されている移送点に座標J4(X1,−Y2)が設定される(S167)。座標J4のX座標およびY座標は、それぞれ、RAM63に記憶されている距離X1および距離Y2のマイナス値である(図13参照)。ステップS167の実行後、ステップS149〜S155が実行されて、処理はステップS145に戻る。
【0071】
本実施形態では、座標K3(X5,Y5)が設定されたのち、カウンタが「3」にセットされる(S155)。この場合、刺繍枠34が枠原点O2から座標J4(X1,−Y2)に向けて、つまり左後方向に移送される(S147、S149)。接触腕52が角部34Hの内壁348(図13参照)に接触すると(S151:YES)、刺繍枠34が移送された距離に基づいて、カウンタ「3」に対応する座標K4(X6,Y6)が設定される(S153)。
【0072】
カウンタが「3」でない場合(S165:NO)、処理が領域設定処理(図4)に戻る。本実施形態では、座標K4(X6,Y6)が設定されたのち、カウンタが「4」にセットされるため(S155)、カウンタが「3」でないと判断される(S165:NO)。つまり、座標K1〜K4の全てが設定されると、斜め方向検出処理(S17)が終了される。
【0073】
図14に示すように、領域算出処理(S19)では、RAM63に記憶されている座標K1、K2、K3、K4が取得される(S171)。なお、座標K1、K2、K3、K4を頂点とする仮想矩形が、オフセット値に基づいて拡大または縮小する前の縫製可能領域(つまり、補正前の縫製可能領域201)である(図15参照)。
【0074】
EEPROM64に記憶されているオフセット値(OX,OY)が取得される(S173)。座標K1〜K4およびオフセット値(OX,OY)に基づいて、縫製可能領域のサイズが算出される(S175)。縫製可能領域のサイズのうち、左右方向サイズT1は以下のように算出される。
T1=|X3+OX|+|X6−OX|(または、T1=|X4+OX|+|X5−OX|)
縫製可能領域のサイズのうち、前後方向サイズT2は以下のように算出される。
T2=|Y3+OY|+|Y4−OY|(または、T2=|Y5−OY|+|Y6+OY|)
【0075】
座標K1〜K4およびオフセット値(OX,OY)に基づいて、縫製可能領域を形成する4つの頂点の座標H1〜H4が算出される(S177)。具体的には、座標K1(X3,Y3)とオフセット値(OX,OY)とに基づいて、座標H1(X3+OX,Y3+OY)を算出する。座標K2(X4,Y4)とオフセット値(OX,OY)とに基づいて、座標H2(X4−OX,Y4+OY)を算出する。座標K3(X5,Y5)とオフセット値(OX,OY)とに基づいて、座標H3(X5−OX,Y5−OY)を算出する。座標K4(X6,Y6)とオフセット値(OX,OY)とに基づいて、座標H4(X6−OX,Y6−OY)を算出する。
【0076】
座標H1、H2、H3、H4を頂点とする仮想矩形が、縫製可能領域に設定される(S179)。ステップS179で設定された縫製可能領域は、刺繍枠34の種別や部品名などと対応付けて、EEPROM64に記憶される。ステップS179の実行後、処理が領域設定処理(図4)に戻る。
【0077】
例えば、ユーザがオフセット値(−3mm,−5mm)を設定したとする(S1:YES、S3)。この場合、図15に示すように、補正後の縫製可能領域202のサイズとして、上下方向に3mmずつ、左右方向に5mmずつ、補正前の縫製可能領域201を縮小したサイズが算出される(S175)。また、補正後の縫製可能領域202の座標H1〜H4として、座標K1〜K4にそれぞれオフセット値(−3mm,−5mm)が反映された値が算出される(S177)。つまり、補正後の縫製可能領域202は、補正前の縫製可能領域201の内側方向に縮小された長方形状に設定される。
【0078】
なお、ユーザがオフセット値を設定していない場合(S1:NO)、ステップS173ではオフセット値(OX,OY)として(0,0)が取得される。この場合、補正前の縫製可能領域201が、ステップS179で縫製可能領域に設定される。
【0079】
図4に示すように、ステップS19の実行後、ユーザが選択した刺繍模様が、ステップS179で設定された縫製可能領域内に収まるか否かが判断される(S21)。具体的には、刺繍模様のサイズ(詳細には、前後方向サイズおよび左右方向サイズの少なくとも一方)が縫製可能領域のサイズよりも大きい場合、刺繍模様が縫製可能領域内に収まらないと判断される(S21:NO)。刺繍模様のサイズが縫製可能領域のサイズ以下であっても、刺繍模様の少なくとも一部が縫製可能領域内から外れる位置に配置される場合にも、刺繍模様が縫製可能領域内に収まらないと判断される(S21:NO)。
【0080】
このような場合、刺繍模様が縫製可能領域内に収まらない旨のエラーメッセージが、液晶ディスプレイ15に表示される(S23)。なお、ユーザは、パネル操作で刺繍模様のサイズや位置の変更を行うことで、刺繍模様を縫製可能領域内に収めることができる。刺繍模様が縫製可能領域内に収まっている場合(S21:YES)、またはステップS23の実行後、処理はステップS1に戻る。
【0081】
このように、ユーザは、刺繍枠34の縫製可能領域を設定し、且つ縫製可能領域内に刺繍模様が配置することができる。この状態で、ユーザは、押え足47を押え棒45に取り付けて締めネジ48で固定し、複数の操作スイッチ21から縫製開始・停止スイッチを押すと、ミシン1が刺繍模様の縫製動作を開始する。この縫製動作では、刺繍枠34の縫製可能領域内に収まるように、加工布100に刺繍模様が縫製される。したがって、押え足47が刺繍枠34の角部34E〜34Hに接触することが防止され、加工布100に正確な刺繍模様が縫製される。
【0082】
以上説明したように、本実施形態のミシン1によれば、刺繍枠34を前後方向に移送させることで、プローブ50の可倒レバー51の接触球52が刺繍枠34と接触するY座標が特定される。刺繍枠を左右方向に移送させることで、プローブ50の可倒レバー51の接触球52が刺繍枠34と接触するX座標が特定される。これらのX座標とY座標とから求められる仮想矩形の対角線方向である移送点(座標J1〜J4)の方向が決定される。刺繍枠34を移送点の方向に移送させることで、プローブ50の可倒レバー51の接触球52が刺繍枠34と接触する座標K1〜K4が特定される。座標K1〜K4から求められる仮想矩形が縫製可能領域に設定される。
【0083】
つまり、刺繍枠34を移送点(座標J1〜J4)の方向に移送させることで刺繍枠34の角部34E〜34Hが検出され、検出された角部34E〜34Hに基づいて縫製可能領域が設定される。したがって、刺繍枠34の角部34E〜34Hが円弧状である場合でも、適正な縫製可能領域を設定することができる。また、縫製可能領域がオフセット値(OX,OY)に応じて増加または減少されるので、縫製可能領域をユーザのニーズに応じて最適化することができる。さらに、刺繍模様が縫製可能領域内に収まるか否かが報知されるので、ユーザは加工布100に正確な刺繍模様が縫製できるか否かを容易に知ることができる。
【0084】
上記実施形態において、刺繍枠移送装置92が、本発明の「移送手段」に相当する。プローブ50が、本発明の「接触検知手段」に相当する。ステップS13を実行するCPU61が、本発明の「第1位置特定手段」に相当する。ステップS15を実行するCPU61が、本発明の「第2位置特定手段」に相当する。ステップS147、S159、S163、S167を実行するCPU61が、本発明の「方向決定手段」にそれぞれ相当する。ステップS149〜S153を実行するCPU61が、本発明の「第3位置特定手段」に相当する。ステップS19を実行するCPU61が、本発明の「領域設定手段」に相当する。
【0085】
ステップS1、S3を実行するCPU61が、本発明の「マージン設定手段」に相当する。ステップS21を実行するCPU61が、本発明の「縫製可能判断手段」に相当する。ステップS23を実行するCPU61が、本発明の「報知手段」に相当する。ステップS31を実行するCPU61が、本発明の「第1座標特定手段」に相当する。ステップS33を実行するCPU61が、本発明の「第2座標特定手段」に相当する。ステップS101、S121、S141を実行するCPU61が、本発明の「位置合せ手段」に相当する。
【0086】
ステップS13が、本発明の「第1位置特定ステップ」に相当する。ステップS15が、本発明の「第2位置特定ステップ」に相当する。ステップS147、S159、S163、S167が、本発明の「方向決定ステップ」にそれぞれ相当する。ステップS149〜S153が、本発明の「第3位置特定ステップ」に相当する。ステップS19が、本発明の「領域設定ステップ」に相当する。
【0087】
なお、本発明は、前述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0088】
例えば、上記実施形態では、領域設定処理(図4)において刺繍枠34の縫製可能領域を算出しているが、これに代えて既に算出されている縫製可能領域を取得してもよい。例えば、ミシン1に標準で装備されている刺繍枠34に対応する縫製可能領域がEEPROM64に保存されている場合、ステップS11〜S17をスキップする。ステップS19では、刺繍枠34に対応する縫製可能領域を、EEPROM64から読み出して設定する。これにより、領域設定処理(図4)を簡易にして処理負担を軽減できる。
【0089】
また、上記実施形態では、オフセット値(OX,OY)に応じて、補正後の縫製可能領域202を補正前の縫製可能領域201よりも縮小させる場合を例示したが、刺繍模様の図柄(外形輪郭の形状)によっては、補正後の縫製可能領域202を補正前の縫製可能領域201よりも拡大してもよい。この場合、ユーザは、オフセット値(OX,OY)としてプラス値を設定すればよい。また、上記実施形態では、ユーザが縫製可能領域のオフセット値を、X方向およびY方向の2方向について設定しているが、2方向以上の方向についてオフセット値をそれぞれ設定してもよい。例えば、ユーザは上下左右の4方向についてオフセット値をそれぞれ設定してもよい。
【0090】
また、上記実施形態の刺繍枠34は略矩形形状であったが、略矩形形状の長辺又は短辺に相当する部分が円弧形状であるような形状の刺繍枠や、全体形状が略楕円形状であるような場合にも本発明を適用することが可能である。このような形状の刺繍枠であっても、縫製可能領域をより正確に設定することができる。
【符号の説明】
【0091】
1 ミシン
34 刺繍枠
50 プローブ
51 可倒レバー
52 接触球
60 制御部
61 CPU
62 ROM
63 RAM
64 EEPROM
92 刺繍枠移送装置
100 加工布
200 仮想矩形
201 補正前の縫製可能領域
202 補正後の縫製可能領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刺繍縫製に供する加工布を保持する刺繍枠を移送可能な移送手段と、
前記刺繍枠の内周側に配置され、前記移送手段によって移送される前記刺繍枠との接触を検知する接触検知手段と、
前記移送手段によって前記刺繍枠を第1の方向に移送させ、且つ、前記接触検知手段によって前記刺繍枠との接触が検出される第1位置を特定する第1位置特定手段と、
前記移送手段によって前記刺繍枠を前記第1の方向と直交する第2の方向に移送させ、且つ、前記接触検知手段によって前記刺繍枠との接触が検出される第2位置を特定する第2位置特定手段と、
前記第1位置特定手段によって特定された前記第1位置と、前記第2位置特定手段によって特定された前記第2位置とから求められる仮想矩形の対角線方向である第3の方向を決定する方向決定手段と、
前記方向決定手段によって決定された前記第3の方向に、前記移送手段によって前記刺繍枠を移送させ、且つ、前記接触検知手段によって前記刺繍枠との接触が検出される第3位置を特定する第3位置特定手段と、
前記第3位置特定手段によって特定された前記第3位置から求められる仮想矩形を、前記刺繍枠内において所望の刺繍模様を縫製可能な領域である縫製可能領域に設定する領域設定手段と、
を備えたことを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記縫製可能領域を増加または減少させる補正値を設定可能なマージン設定手段を備え、
前記領域設定手段は、前記第3位置から求められる仮想矩形から、前記マージン設定手段によって設定された前記補正値に応じて補正した大きさの仮想矩形を、前記縫製可能領域に設定することを特徴する請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記加工布に縫製される前記刺繍模様が、前記領域設定手段によって設定された前記縫製可能領域内に収まるか否かを判断する縫製可能判断手段と、
前記縫製可能判断手段による判断結果を報知する報知手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のミシン。
【請求項4】
前記領域設定手段によって設定された前記縫製可能領域を記憶装置に保存する記憶制御手段を備え、
前記領域設定手段は、前記第3位置に基づいて前記縫製可能領域を設定するのに代えて、前記記憶装置に保存されている前記縫製可能領域を読み出して設定可能であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のミシン。
【請求項5】
前記第1位置特定手段は、前記接触検知手段と前記刺繍枠との接触が検出された2つの座標位置を、前記第1位置として特定し、
前記第2位置特定手段は、前記接触検知手段と前記刺繍枠との接触が検出された2つの座標位置を、前記第2位置として特定し、
前記仮想矩形は、前記第1の方向に平行に延び、且つ前記第2位置が示す2つの座標位置をそれぞれ通る2辺と、前記第2方向に平行に延び、且つ前記第1位置が示す2つの座標位置をそれぞれ通る2辺とから成り、
前記方向決定手段は、前記接触検知手段の座標位置から前記仮想矩形の4つの頂点に向かう4つの方向を、前記第3の方向として特定し、
前記第3位置特定手段は、前記接触検知手段と前記刺繍枠との接触が検出された4つの座標位置を、前記第3位置として特定し、
前記領域設定手段は、前記第3位置が示す4つの座標位置を頂点とする仮想矩形を、前記縫製可能領域に設定することを特徴する請求項1乃至4のいずれかに記載のミシン。
【請求項6】
前記移送手段によって前記刺繍枠を前記第1の方向に移送させ、且つ、前記接触検知手段によって前記刺繍枠との接触が検出される前記第1の位置を特定し、前記第1の位置が示す2つの座標位置に基づいて前記刺繍枠における前記第1の方向の中心座標を特定する第1座標特定手段と、
前記移送手段によって前記刺繍枠を前記第2の方向に移送させ、且つ、前記接触検知手段によって前記刺繍枠との接触が検出される前記第2の位置を特定し、前記第2の位置が示す2つの座標位置に基づいて前記刺繍枠における前記第2の方向の中心座標を特定する第2座標特定手段と、
前記第1位置特定手段、前記第2位置特定手段、および前記第3位置特定手段によって位置特定がそれぞれ実行される前に、前記第1座標特定手段によって特定された前記第1の方向の中心座標と、前記第2座標特定手段によって特定された前記第2の方向の中心座標とが、前記接触検知手段の位置座標と一致する位置に、前記移送手段によって前記刺繍枠を移送させる位置合せ手段と、
を備えたことを特徴とする請求項5に記載のミシン。
【請求項7】
刺繍縫製に供する加工布を保持する刺繍枠を移送可能な移送手段と、
前記刺繍枠の内周側に配置され、前記移送手段によって移送される前記刺繍枠との接触を検知する接触検知手段とを備えたミシンのコンピュータに、
前記移送手段によって前記刺繍枠を第1の方向に移送させ、且つ、前記接触検知手段によって前記刺繍枠との接触が検出される第1位置を特定する第1位置特定ステップと、
前記移送手段によって前記刺繍枠を前記第1の方向と直交する第2の方向に移送させ、且つ、前記接触検知手段によって前記刺繍枠との接触が検出される第2位置を特定する第2位置特定ステップと、
前記第1位置特定ステップによって特定された前記第1位置と、前記第2位置特定ステップによって特定された前記第2位置とから求められる仮想矩形の対角線方向である第3の方向を決定する方向決定ステップと、
前記方向決定ステップによって決定された前記第3の方向に、前記移送手段によって前記刺繍枠を移送させ、且つ、前記接触検知手段によって前記刺繍枠との接触が検出される第3位置を特定する第3位置特定ステップと、
前記第3位置特定ステップによって特定された前記第3位置から求められる仮想矩形を、前記刺繍枠内において所望の刺繍模様を縫製可能な領域である縫製可能領域に設定する領域設定ステップと、
を実行させることを特徴とする刺繍縫製プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−40317(P2012−40317A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186563(P2010−186563)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】