説明

ミシンの制動機構

【課題】 外部から電気的なエネルギーを何ら供給することなく、小型且つ軽量で、しかも非接触方式で摺動体に制動トルクを容易に作用させること。
【解決手段】 ミシンの往復移動する針棒揺動軸11と、この針棒揺動軸11を摺動自在に支持する摺動軸受け8とを有する摺動機構14において針棒揺動軸11を制動するミシンの制動機構7であって、針棒揺動軸11の所定部位の表面部に装備され、磁界の方向が針棒揺動軸11の軸心に対して半径方向に向く複数の磁石を着磁させた磁石体30と、磁石体30に対して所定の間隔を設けて配置された発電用コイル34とを設け、発電用コイル34の巻き開始端部と巻き終了端部とを短絡させることで、針棒揺動軸11に装備された磁石の往復動作に伴い発電用コイル34に発生する電磁誘導による起電力の発生を阻止し、針棒揺動軸11に対する制動作用を発揮させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンの制動機構に関し、特にミシンの往復移動する摺動軸と、この摺動軸を摺動自在に支持する摺動支持体とを有する摺動機構において、摺動軸に制動トルクを作用させる非接触型の制動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ミシンに設けられた制御手段によりパルスモータを制御することで、縫針と加工布を相対的に移動可能なミシンが提供されている。例えば、ジグザグ縫い等をする為に針棒を揺動させる針棒揺動機構をパルスモータにより駆動するミシンや、刺繍枠が装着された移動枠をパルスモータで移動させるミシン等、種々のミシンが提供されている。
【0003】
ところで、このようにパルスモータにより針棒揺動機構や移動枠を駆動させた場合に、大きな駆動力を有するパルスモータを適用すると、立ち上がり速度は速くなるが、必然的にロータイナーシャが大きくなる。従って、針棒を揺動する為の揺動駆動の両端において、駆動停止が正確な位置で行われないため、針棒の針落ち位置や縫針の揺動幅が安定せず、ジグザグ縫目が不揃いになる等の問題や、駆動停止直後に反転させることで脱調を起こす等の問題が生じる。
【0004】
そこで、パルスモータの駆動力に制動力を作用させるようにしたミシンの制動機構が種々提案されている。例えば、特許文献1のミシンの制動機構は、縫針と加工布を相対的に移動させるパルスモータと、パルスモータの駆動力を制動するための制動機構と、ミシンの制御全般を司る制御手段とを備え、制動機構は磁束を発生させるためのコイルを有するヒステリシスブレーキ、又はパウダーブレーキからなり、制御手段は制動機構を制御してパルスモータの駆動力を制動するようにしてある。
【0005】
【特許文献1】特開2004−255161号公報(第8〜10頁、図2,図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したように、特許文献1に記載のミシンの制動機構においては、ヒステリシスブレーキは、パルスモータの後側の駆動軸にカップ状の回転子を固着するとともに、磁束を発生させる為の励磁コイルと、励磁された磁束を回転子に導く為の円筒状の1対の磁性体と、軸部材を受ける為の1対の球軸受けと、磁性体や励磁コイル等を支持する本体部とを設けたものである。
【0007】
一方、パウダーブレーキは、パウダ室を形成した本体部と、本体部に内包された励磁コイルと、軸部材にスプライン結合された磁性体の回転体と、軸部材を受ける1対の脱軸受けとを設けてある。それ故、これらヒステリシスブレーキやパウダーブレーキが大型化するとともに、これらブレーキの組み付け作業が複雑化し、組み付け性やコスト的に非常に不利であること、しかも制動に際して励磁コイルに通電させるため、余分な電力を消費すること、等の問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1のミシンの制動機構は、ミシンの往復移動する摺動軸と、この摺動軸を摺動自在に支持する摺動支持体とを有する摺動機構において摺動軸を制動するミシンの制動機構であって、摺動軸の所定部位の表面部に装備され、磁界の方向が摺動軸の軸心に対して半径方向に向く1又は複数の磁石と、磁石に対して所定の間隔を設けて配置されたコイルと、摺動軸に装備された磁石の往復動作に伴いコイルに発生する電磁誘導による起電力の発生を阻止する起電力発生阻止部とを備えたものである。
【0009】
摺動軸の所定部位の表面部に磁界の方向が摺動軸の軸心に対して半径方向に向く1又は複数の磁石が装備され、しかもその磁石に対して所定の間隔を設けてコイルが配置されているので、摺動軸が往復移動した場合、つまり磁石の往復動作に伴って、コイルに作用する磁界(磁束)が変化し、電磁誘導による起電力がコイルに発生する。しかし、その起電力の発生が起電力発生阻止部で阻止される為、摺動軸に対して制動トルクが作用する。
【0010】
請求項2のミシンの制動機構は、ミシンの往復移動する摺動軸と、この摺動軸を摺動自在に支持する摺動支持体とを有する摺動機構において摺動軸を制動するミシンの制動機構であって、摺動軸に外装されたコイルと、コイルに対して所定の間隔を設けて配置され、磁界の方向が摺動軸の軸心に対して半径方向に向く1又は複数の磁石と、摺動軸に外装されたコイルの往復動作に伴い前記コイルに発生する電磁誘導による起電力の発生を阻止する起電力発生阻止部とを備えたものである。
【0011】
摺動軸にコイルが外装され、しかもそのコイルに対して所定の間隔を設けて、磁界の方向が摺動軸の軸心に対して半径方向に向く1又は複数の磁石が配置されているので、摺動軸が往復移動した場合、つまりコイルの往復動作に伴って、コイルに作用する磁界(磁束)が変化し、電磁誘導による起電力がコイルに発生する。しかし、その起電力の発生が起電力発生阻止部で阻止される為、摺動軸に対して制動トルクが作用する。
【0012】
請求項3のミシンの制動機構は、請求項1又は2の発明において、前記起電力発生阻止部は、コイルを閉ループに接続した接続部で構成されたものである。
【0013】
請求項4のミシンの制動機構は、ミシンの往復移動する摺動軸と、この摺動軸を摺動自在に支持する摺動支持体とを有する摺動機構において摺動軸を制動するミシンの制動機構であって、摺動軸の所定部位に装備され、磁界の方向が摺動軸の軸心に対して半径方向に向く磁石と、摺動支持体側に装備され摺動軸の磁石の磁界と協働して制動作用を発揮する制動用磁石とを備え、非接触方式で前記摺動軸を制動するものである。
【0014】
摺動軸の所定部位に装備された磁石と、摺動支持体側に装備された制動用磁石とが相互に吸引することで、制動用磁石は摺動軸の磁石と協働して制動作用を発揮する。結果的に、非接触方式で摺動軸に対して制動トルクが作用する。
【0015】
請求項5のミシンの制動機構は、請求項3の発明において、前記コイルは、磁石に接近させた端部を有する鉄芯枠に巻装されたものである。
【0016】
請求項6のミシンの制動機構は、請求項5の発明において、前記摺動軸又は摺動支持体に装備された磁石は、円筒状の磁性体に複数のN極と複数のS極とを所定幅に亙って交互に着磁形成されたものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によれば、ミシンの往復移動する摺動軸と、この摺動軸を摺動自在に支持する摺動支持体とを有する摺動機構において摺動軸を制動するミシンの制動機構であって、摺動軸の所定部位の表面部に装備され、磁界の方向が摺動軸の軸心に対して半径方向に向く1又は複数の磁石と、磁石に対して所定の間隔を設けて配置されたコイルと、摺動軸に装備された磁石の往復動作に伴いコイルに発生する電磁誘導による起電力の発生を阻止する起電力発生阻止部とを設けたので、摺動軸に装備された磁石が往復動作した場合、コイルに発生する電磁誘導による起電力の発生が起電力発生阻止部により阻止され、これにより逆向きの負荷抵抗が生じることにより、摺動軸に対する制動作用を十分に発揮させることができる。
【0018】
加えて、制動機構の小型化且つ軽量化、更には低コスト化を図ることができるとともに、外部から電気的なエネルギーを何ら供給することなく、しかも非接触方式による制動トルクを摺動体に容易に且つ効果的に作用させることができる。
【0019】
請求項2の発明によれば、ミシンの往復移動する摺動軸と、この摺動軸を摺動自在に支持する摺動支持体とを有する摺動機構において摺動軸を制動するミシンの制動機構であって、摺動軸に外装されたコイルと、コイルに対して所定の間隔を設けて配置され、磁界の方向が摺動軸の軸心に対して半径方向に向く1又は複数の磁石と、摺動軸に外装されたコイルの往復動作に伴い前記コイルに発生する電磁誘導による起電力の発生を阻止する起電力発生阻止部とを設けたので、摺動軸に装備されたコイルが往復動作した場合でも、コイルに発生する電磁誘導による起電力の発生が起電力発生阻止部により阻止され、これにより逆向きの負荷抵抗が生じることにより、摺動軸に対する制動作用を十分に発揮させることができる。
【0020】
加えて、制動機構の小型化且つ軽量化、更には低コスト化を図ることができるとともに、外部から電気的なエネルギーを何ら供給することなく、しかも非接触方式による制動トルクを摺動体に容易に且つ効果的に作用させることができる。
【0021】
請求項3の発明によれば、前記起電力発生阻止部は、コイルを閉ループに接続した接続部で構成されたので、コイルの巻き開始端部と巻き終了端部とを短絡させて閉ループにするだけで、起電力発生阻止部を容易に作成することができる。その他請求項1又は2と同様の効果を奏する。
【0022】
請求項4の発明によれば、ミシンの往復移動する摺動軸と、この摺動軸を摺動自在に支持する摺動支持体とを有する摺動機構において摺動軸を制動するミシンの制動機構であって、摺動軸の所定部位に装備された磁石と、摺動支持体側に装備された制動用磁石とを設けたので、摺動軸の磁石と摺動支持体側の制動用磁石とが常に相互に吸引し合うようになり、摺動軸に対する制動作用を十分に発揮させることができる。
【0023】
加えて、制動機構の小型化且つ軽量化、更には低コスト化を図ることができるとともに、外部から電気的なエネルギーを何ら供給することなく、しかも非接触方式による制動トルクを摺動体に容易に且つ効果的に作用させることができる。
【0024】
請求項5の発明によれば、前記コイルは、磁石に接近させた端部を有する鉄芯枠に巻装されたので、その鉄芯枠により、コイルによる発電効率、つまり制動効率を格段に高めることができる。その他請求項3と同様の効果を奏する。
【0025】
請求項6の発明によれば、前記摺動軸又は摺動支持体に装備された磁石は、円筒状の磁性体に複数のN極と複数のS極とを所定幅に亙って交互に着磁形成されたので、摺動体が僅かに移動した場合であっても、円筒状の磁性体に形成された複数の磁石により、コイルによる発電効率、つまり制動効率を格段に高めることができる。その他請求項5と同様の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本実施形態のミシンの制動機構は、複数の永久磁石を有する磁石体を摺動支持体に装備するとともに、鉄芯枠に発電用コイルを巻装した電磁制御機構を摺動支持体に装備し、その発電用コイルを閉ループにすることで、電磁制御機構により摺動軸を制動する制動作用を発揮するようにしてある。
【実施例】
【0027】
図1に示すように、ミシン1は、針棒3を上下動可能に支持してその針棒3に揺動駆動を伝達するためにヘッド部2に設けられた針棒揺動機構4と、パルスモータ5を有し針棒揺動機構4を介して針棒3を加工布に対して相対的に揺動させるためにアーム部10の右部に設けられた揺動駆動機構6と、針棒揺動軸11に制動トルクを作用たせるための制動機構7等を備えている。
【0028】
先ず、針棒揺動機構4について説明する。ミシン1のアーム部10のヘッド部2には、揺動駆動機構6の揺動駆動を伝達する針棒揺動軸11(これが摺動軸に相当する)の先端部に連結された正面視略コ字状の針棒支持枠12が配設され、その針棒支持枠12の左端部に針棒3が上下動可能に支持され、針棒3の下端部には縫針13が装着されている。
【0029】
揺動駆動機構6から伝達された揺動駆動は、機枠に固着された1対の摺動軸受け8, 9に夫々摺動可能に支持された針棒揺動軸11を介して針棒支持枠12に伝達されて、縫針13と共に針棒3を左右方向に揺動させる。但し、これら摺動軸受け8, 9は耐磨耗性に優れた合成樹脂からなっている。ここで、これら針棒揺動軸11と摺動軸受け8等から摺動機構14が構成されている。
【0030】
更に、針棒3と縫針13は、図示を省略するが、ミシンモータを含む針棒上下動機構により上下駆動されて、ミシンベッド部に設けられた糸輪捕捉用釜との協動により加工布にジグザグ縫目を縫製する。ここで、摺動軸受け8が摺動支持体に相当する。
【0031】
次に、揺動駆動機構6について説明する。揺動駆動機構6は、パルスモータからなる揺動モータ5の回転駆動を揺動駆動に変換して針棒揺動機構4に伝達する為のものである。揺動駆動機構6は、前方に延びる出力軸15を有する揺動モータ5と、出力軸15に固定された駆動レバー17と、中央部よりやや上方で駆動レバー17にピン18を介して回動可能に連結されたリンク部材19と、右端部をリンク部材19の上端にピン20を介して回動可能に連結され且つ左端部が針棒揺動軸11に連結された連結部材21にピン22を介して回動可能に連結された連結レバー23と、ベースプレート24に固定された枢支軸部材25とを備えている。
【0032】
リンク部材19の下端部には、二股部26が形成され、その二股部26は、前方に延びる枢支軸部材25の枢支部27を摺動可能に嵌合している。
【0033】
揺動駆動機構6は、揺動モータ5が所定角度だけ回動すると、駆動レバー17が出力軸15の軸心の周りを揺動し、その駆動レバー17の揺動駆動によりリンク部材19が、二股部26で枢支部27に摺動されつつ、枢支部27を軸心としてその上端部において揺動駆動する。
【0034】
その為、その揺動駆動がリンク部材19の上端部に連結された連結レバー23及び針棒揺動軸11が左右方向に揺動し、針棒揺動機構4により、針棒3及び縫針13は図1の実線で示す針棒3の原点位置から、左方に位置する左揺動位置3Lと、原点位置の右方に位置する右揺動位置3Rとの間を往復揺動する。
【0035】
次に、制動機構7について説明する。制動機構7は、針棒揺動軸11に装備された磁石体30と、摺動軸受け8に装備された発電用コイルを備えて制動作用を発揮する電磁制動機構31(これが電磁制動手段に相当する)等を有している。
【0036】
図2に示すように、針棒揺動軸11は、アルミニウム製であり、その途中部から左方が段落ち状態に細く形成され、その段落ち部に円筒状の磁石体30(これが磁性体に相当する)が外嵌され、接着剤により針棒揺動軸11に固着されている。但し、その段落ち部を補足するように、アルミニウム製で筒状のスペーサ部材32が抜け止めの為に嵌め込まれ、接着固定されている。
【0037】
磁石体30は、所定の厚さを有するフェライト等の磁性材料からなり、磁石体30には、図示のように、所定幅を有する5個のN極と、所定幅を有する5個のS極とからなる10個の磁石(永久磁石)が交互に配列されている。即ち、針棒揺動軸11の所定部位の表面部の周方向の一部に磁石が形成されている。
【0038】
この場合、これら5個のN極と5個のS極とは、周知の着磁処理により所定幅ずつ形成されたものである。それ故、N極の磁界の方向は軸心に対して半径方向外側であり、S極の磁界の方向は軸心に対して半径方向内側である。
【0039】
次に、摺動軸受け8の一部の上側に設けられた電磁制動機構31について図2に基づいて説明する。
【0040】
摺動軸受け8の一部に、正面視にて門形状の1対の鉄芯枠33が、微小隙間tを空けて左右に並べるように設けられている。これら鉄芯枠33の各々には、発電用コイル34が巻装されている。この場合、鉄芯枠33の下端部は、磁石体30の各磁石に対して微小間隔を設けて近接状に位置している。即ち、発電用コイル34が磁石体30に対して所定の間隔を設けて配置されている。
【0041】
但し、これら鉄芯枠33の発電用コイル34の巻き方向は異ならせてあり、しかもこれら発電用コイル34は、その巻き開始端と巻き終了端とを短絡させた閉ループになっている。ここで、これら発電用コイル34の巻き開始端と巻き終了端とを短絡させて閉ループに接続した接続部が起電力発生阻止部に相当する。
【0042】
更に、N極とS極のマグネット対長さをλとした場合に、これら鉄芯枠33の間には、λ/2に相当する微小隙間tが設けられ、発電用コイル34による発電効率を高めるようになっている。この場合、各発電用コイル34には鉄芯枠33を介して、N極の磁石及びS極の磁石による磁力が作用している。
【0043】
次に、このように構成された制動機構7の作用について説明する。
前述したように、ジクザグ縫いに際して、揺動駆動機構6により針棒揺動軸11が左右方向に揺動し、針棒揺動機構4により、針棒3が中央の原点位置から左揺動位置3Lと右揺動位置3Rとに往復揺動する。即ち、磁石体30を有する針棒揺動軸11が1対の鉄芯枠33を有する摺動軸受け8に対して高速で往復移動する。
【0044】
このとき、前述したように、鉄芯枠33に作用しているN極及びS極の磁石による磁界が時間的に変化する、つまり発電用コイル34に対する磁束が変化する為、各発電用コイル34には電磁誘導による誘導起電力が夫々発生して発電しようとする。しかし、各発電用コイル34は閉ループになっているため発電することができず、逆に発電しない状態を維持する為に逆向きの力が発生する。即ち、針棒揺動軸11に対して電磁制動機構31により大きな制動作用が働くことになる。
【0045】
それ故、揺動駆動機構6による揺動駆動が停止されたとき、針棒揺動軸11の揺動運動はその制動作用により強制的に停止されるので、針棒3は所定の揺動停止位置3L,3Rにて正確に停止することになる。
【0046】
このように、針棒揺動軸11の所定部位の表面部に装備され、磁界の方向が摺動軸の軸心に対して半径方向に向く複数の磁石が着磁形成された磁石体30と、磁石体30に対して所定の間隔を設けて配置された発電用コイル34と、針棒揺動軸11に装備された磁石体30の往復動作に伴い発電用コイル34に発生する電磁誘導による起電力の発生を阻止するように、発電用コイル34は閉ループになっているため、針棒揺動軸11に装備された磁石体30が往復動作した場合、発電用コイル34に発生する電磁誘導による起電力の発生が阻止され、これにより逆向きの負荷抵抗が生じることにより、針棒揺動軸11に対する制動作用を十分に発揮させることができる。
【0047】
それ故、制動機構7の小型化且つ軽量化、更には低コスト化を図ることができるとともに、外部から電気的なエネルギーを何ら供給することなく、しかも非接触方式による制動トルクを針棒揺動軸11に容易に且つ効果的に作用させることができる。
【0048】
但し、電磁制動機構31は、摺動軸受け8に一体的に装備されたので、電磁制動機構31の組み付け性を高めることができるが、摺動軸受け8とは別体に設けるようにしてもよい。この場合、摺動軸受け8の小型化を図ることができる。
【0049】
また、電磁制動機構31は、針棒揺動軸11に設けた磁石体30の磁石(N極又はS極)に接近状に端部を有する鉄芯枠33を有し、この鉄芯枠33に発電用コイル34が巻装されたので、発電用コイル34による発電効率、つまり制動効率を格段に高めることができる。
【0050】
更に、針棒揺動軸11に装備された複数の磁石は、円筒状の磁石体30に複数のN極と複数のS極とを所定幅に亙って交互に着磁形成されたので、針棒揺動軸11が僅かに移動した場合であっても、発電用コイル34による発電効率、つまり制動効率を格段に高めることができる。
【0051】
次に、前記実施の形態の変更形態について説明する。
【0052】
1〕磁石体30に着磁させる磁石の数は10個よりも多くてもよく、少なくてもよい。また、電磁制動機構31に設ける鉄芯枠33及び発電用コイル34の数は、1個でもよく、或いは3個以上であってもよい。
【0053】
2〕図3に示すように、制動機構7Aは、摺動軸受け8Aの針棒揺動軸11Aに臨む所定部位内周部の周方向の一部に装備された複数の磁石(N極とS極)を有する磁石体30Aと、針棒揺動軸11Aに外装された1対の発電用コイル34Aを備えて制動作用を発揮する電磁制動機構31A(これが電磁制動手段に相当する)等で構成するようにしてもよい。
【0054】
磁石体30Aは、摺動軸受け8Aの内周側に形成された円筒状の収納部に内嵌されて接着剤により接着固定されており、前記実施例で用いた磁石体30と同様に、5個のN極と5個のS極とを交互に配列したものである。
【0055】
次に、電磁制動機構31Aについて説明する。針棒揺動軸11Aは鉄製で構成され、磁石体30Aに対応する部分において、1対の発電用コイル34Aを巻装するための環状のコイル溝8aと、各コイル溝8aの左右両側の1対の鉄芯枠部8b〜8eと、直径を小さくして段落ちさせた連結部8f,8gが夫々形成されている。
【0056】
各コイル溝8aには発電用コイル34Aが夫々巻装されている。但し、これら発電用コイル34Aの巻き方向は異ならせてあり、しかもこれら発電用コイル34Aは、その巻き開始端と巻き終了端とを短絡させた閉ループになっている。ここで、これら発電用コイル34Aの巻き開始端と巻き終了端とを短絡させて閉ループに接続した接続部が起電力発生阻止部に相当する。
【0057】
この場合、左側の発電用コイル34Aを巻装した左右両側の鉄芯枠部8b,8cが鉄芯枠としての機能を有し、右側の発電用コイル34を巻装した左右両側の鉄芯枠部8d,8eが鉄芯枠としての機能を有し、これら4つの鉄芯枠部8b〜8eは磁石体30Aに非常に接近している。即ち、磁石体30Aが発電用コイル34Aに対して所定の間隔を設けて配置されている。
【0058】
次に、このように構成された制動機構7Aの作用について説明する。前述したように、ジクザグ縫いに際して、磁石体30Aを有する針棒揺動軸11Aが1対の発電用コイル34Aを有する摺動軸受け8Aに対して高速で往復移動する。
【0059】
このとき、前述したように、磁石体30Aに形成されたN極及びS極の磁石により各鉄芯枠部8b〜8e(鉄芯枠)に作用している磁界が時間的に変化し、各発電用コイル34Aには電磁誘導による誘導起電力が発生して発電しようとする。しかし、各発電用コイル34Aは閉ループになっているため、発電することができず、逆に発電しない状態を維持する為に逆向きの力が発生する。即ち、針棒揺動軸11に対して電磁制動機構31Aにより大きな制動作用が働くことになる。
【0060】
このように、針棒揺動軸11に外装された発電用コイル34Aと、発電用コイル34Aに対して所定の間隔を設けて配置され、磁界の方向が針棒揺動軸11の軸心に対して半径方向に向く複数の磁石が形成された磁石体30Aと、針棒揺動軸11に外装された発電用コイル34Aの往復動作に伴い発電用コイル34Aに発生する電磁誘導による起電力の発生を阻止するように、発電用コイル34Aは閉ループになっているため、針棒揺動軸11に装備された発電用コイル34Aが往復動作した場合、発電用コイル34Aに発生す電磁誘導による起電力の発生が阻止され、これにより逆向きの負荷抵抗が生じることにより、摺動軸に対する制動作用を十分に発揮させることができる。
【0061】
それ故、制動機構7Aの小型化且つ軽量化、更には低コスト化を図ることができるとともに、外部から電気的なエネルギーを何ら供給することなく、しかも非接触方式による制動トルクを摺動体に容易に且つ効果的に作用させることができる。
【0062】
3〕図4に示すように、制動機構7Bは、針棒揺動軸11Bに組み込まれた1つの内部磁石36と、摺動軸受け8Bに組み込まれた複数の外部磁石等で構成するようにしてもよい。ここで、針棒揺動軸11Bはアルミニウム製であり、摺動軸受け8Bは耐磨耗性に優れた合成樹脂からなっている。
【0063】
内部磁石36は、断面円形又は角状で所定長さを有する磁石からなっており、針棒揺動軸11Bに上下向きに形成された貫通穴内に組み込まれ、接着固定されている。この場合、内部磁石36の上側がN極であり、下側がS極である。但し、内部磁石36の上端と下端とは、針棒揺動軸11Bの外周面よりも夫々内部側に段落ちしており、内部磁石36が摺動軸受け8Bに接触しないようになっている。
【0064】
一方、摺動軸受け8Bには、針棒揺動軸11Bよりも上側の上半部分に、内部磁石36に対して左右方向に分散させて、針棒揺動軸11に接近するように、棒状又はブロック状の4つの上側外部磁石37が左右方向に一列状に均等配設されるとともに、針棒揺動軸11Bよりも下側の下半部分にも、同様に、棒状又はブロック状の4つの下側外部磁石38が左右方向に一列状に均等配設されている。
【0065】
ここで、これら上側外部磁石37及び下側外部磁石38が制動用磁石に相当する。上側外部磁石37の各々は、その上側がN極であり、その下側がS極であるように配設され、下側外部磁石38の各々は、その上側がN極であり、その下側がS極であるように配設されている。即ち、針棒揺動軸11Bがジグザグ縫いに際して左右方向に揺動した場合でも、内部磁石36は上側外部磁石37と下側外部磁石38の何れかに対応するようになっている。
【0066】
それ故、針棒揺動軸11Bが揺動状態であっても静止状態であっても、内部磁石36の上側のN極と上側外部磁石37の下側のS極とが、夫々の磁界の影響を受けて常に引き合う吸引状態であり、しかも、内部磁石36の下側のS極と下側外部磁石38の上側のN極とが、夫々の磁界の影響を受けて常に引き合う吸引状態である。
【0067】
次に、この制動機構7Bの制動作用について説明する。ミシン1により加工布に対する縫製が開始され、ジグザグ縫いを行う場合、針棒揺動軸11Bが左右に揺動する。このとき、前述したように、内部磁石36と上側外部磁石37とが相互に引き合う吸引状態であり、しかも内部磁石36と下側外部磁石38とも相互に引き合う吸引状態である。その為、針棒揺動軸11Bには、これら内部磁石36と上下両側外部磁石の吸引力により、左右への揺動を阻止するようにな制動作用を発揮するので、針棒揺動軸11Bの不必要なオーバーランを確実に解消することができる。
【0068】
その結果、針棒3の揺動後の駆動停止が正確な位置で行われるため、針棒3の針落ち位置や縫針13の揺動幅が安定し、ジグザグ縫目が綺麗に揃うようになる。
【0069】
このように、針棒揺動軸11Bの所定部位に装備された内部磁石36(永久磁石)と、摺動軸受け8Bに装備された上側外部磁石37及び下側外部磁石38とを有する制動用磁石を設けたので、針棒揺動軸11Bの内部磁石36と摺動軸受け8Bの外部磁石36,37とが常に相互に吸引し合うことから、制動機構7Bにより針棒揺動軸11Bに対する制動作用を十分に発揮させることができる。
【0070】
それ故、制動機構7Bの小型化且つ軽量化、更には低コスト化を図ることができるとともに、外部から電気的なエネルギーを何ら供給することなく、しかも非接触方式による制動トルクを針棒揺動軸11に容易に且つ効果的に作用させることができる。
【0071】
4〕制動機構7Bにおいて、内部磁石36は複数設けるようにしてもよく、また上側外部磁石37及び下側外部磁石38は、4個に限られることなく、それ以下であってもよく、それ以上であってもよい。更に、上側外部磁石37と下側外部磁石38の何れか一方だけを設けるようにしてもよい。
【0072】
5〕本発明は以上説明した実施例に限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、前記実施例に種々の変更を付加して実施することができ、本発明はそれらの変更形態をも包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施例に係るミシンの正面図である。
【図2】摺動軸受け及び針棒揺動軸の要部縦断正面図である。
【図3】変更形態に係る図2相当図である。
【図4】変更形態に係る図2相当図である。
【符号の説明】
【0074】
1 ミシン
8 摺動軸受け
8A 摺動軸受け
8B 摺動軸受け
7 制動機構
7A 制動機構
7B 制動機構
11 針棒揺動軸
11A 針棒揺動軸
11B 針棒揺動軸
14 摺動機構
30 磁石体(磁石)
31 電磁制動機構
31A 電磁制動機構
33 鉄芯枠
34 発電用コイル
36 内部磁石
37 上側外部磁石
38 下側外部磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンの往復移動する摺動軸と、この摺動軸を摺動自在に支持する摺動支持体とを有する摺動機構において前記摺動軸を制動するミシンの制動機構であって、
前記摺動軸の所定部位の表面部に装備され、磁界の方向が摺動軸の軸心に対して半径方向に向く1又は複数の磁石と、
前記磁石に対して所定の間隔を設けて配置されたコイルと、
前記摺動軸に装備された前記磁石の往復動作に伴い前記コイルに発生する電磁誘導による起電力の発生を阻止する起電力発生阻止部と、
を備えたことを特徴とするミシンの制動機構。
【請求項2】
ミシンの往復移動する摺動軸と、この摺動軸を摺動自在に支持する摺動支持体とを有する摺動機構において前記摺動軸を制動するミシンの制動機構であって、
前記摺動軸に外装されたコイルと、
前記コイルに対して所定の間隔を設けて配置され、磁界の方向が摺動軸の軸心に対して半径方向に向く1又は複数の磁石と、
前記摺動軸に外装されたコイルの往復動作に伴い前記コイルに発生する電磁誘導による起電力の発生を阻止する起電力発生阻止部と、
を備えたことを特徴とするミシンの制動機構。
【請求項3】
前記起電力発生阻止部は、前記コイルを閉ループに接続した接続部であることを特徴とする請求項1又は2に記載のミシンの制動機構。
【請求項4】
ミシンの往復移動する摺動軸と、この摺動軸を摺動自在に支持する摺動支持体とを有する摺動機構において前記摺動軸を制動するミシンの制動機構であって、
前記摺動軸の所定部位に装備され、磁界の方向が摺動軸の軸心に対して半径方向に向く磁石と、
前記摺動支持体側に装備され前記摺動軸の磁石の磁界と協働して制動作用を発揮する制動用磁石と、
を備え、非接触方式で前記摺動軸を制動することを特徴とするミシンの制動機構。
【請求項5】
前記コイルは、前記磁石に接近させた端部を有する鉄芯枠に巻装されたことを特徴とする請求項3に記載のミシンの制動機構。
【請求項6】
前記摺動軸又は摺動支持体に装備された磁石は、円筒状の磁性体に複数のN極と複数のS極とを所定幅に亙って交互に着磁形成されたことを特徴とする請求項5に記載のミシンの制動機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−263163(P2006−263163A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85780(P2005−85780)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】