ミシンの糸調子装置
【課題】部品点数を減らすことができて、部品の組み付け作業の容易化、応答性の向上、小型化、コストダウンを図る。
【解決手段】糸を挟持する一対の糸調子皿31,32と、一方の糸調子皿31を他方の糸調子皿32に対して接離させるように一方の糸調子皿31に当接して移動可能な皿押さえ33と、一方の糸調子皿31が他方の糸調子皿32に対して接近するように皿押さえ33を駆動させる駆動機構4と、強磁性材料で形成されたミシン頭部フレーム2内に設けられ、駆動機構4を駆動させる駆動源5と、を備え、駆動源5は、永久磁石52,53が設けられた可動子6と、永久磁石52,53の周りに所定間隔をあけて巻回されたコイル55が設けられた固定子7と、を有するミシンの糸調子装置1において、ミシン頭部フレーム2をコイル55のコイルヨークとした。
【解決手段】糸を挟持する一対の糸調子皿31,32と、一方の糸調子皿31を他方の糸調子皿32に対して接離させるように一方の糸調子皿31に当接して移動可能な皿押さえ33と、一方の糸調子皿31が他方の糸調子皿32に対して接近するように皿押さえ33を駆動させる駆動機構4と、強磁性材料で形成されたミシン頭部フレーム2内に設けられ、駆動機構4を駆動させる駆動源5と、を備え、駆動源5は、永久磁石52,53が設けられた可動子6と、永久磁石52,53の周りに所定間隔をあけて巻回されたコイル55が設けられた固定子7と、を有するミシンの糸調子装置1において、ミシン頭部フレーム2をコイル55のコイルヨークとした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンの糸調子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ミシンには、糸のたるみを防止するために、糸に適度な張力を付与する糸調子装置が設けられている。
図7に示すように、糸調子装置100は、ミシン頭部フレーム101の正面側(図7における右側)に配置されている。ミシン頭部フレーム101の正面側には、上下動により糸を締め上げる天秤102が設けられ、糸供給源から針に供給される糸は天秤102に通された後、糸調子装置100を構成する一対の糸調子皿103,104に挟持されて適度な張力が付与される。一方の糸調子皿103を駆動させる駆動源となるソレノイド105は、ミシン頭部フレーム101の背面側に設けられており、糸調子装置100は、ミシン頭部フレーム101の正面側及び背面側から突出している。なお、ミシン頭部フレーム101の内部には、主軸に設けられた偏心カム106や主軸の回転に伴って上下動する針棒107が設けられている。
図8に示すように、糸調子装置100は、一方の糸調子皿103が他方の糸調子皿104に対して接離可能とされ、ソレノイド105により駆動する皿押さえ108が一方の糸調子皿103を他方の糸調子皿104に向けて押すことにより、一方の糸調子皿103と他方の糸調子皿104とで糸を挟持することができる。なお、皿押さえ108には、糸調子皿103,104の軸方向に延びる駆動ロッド109が設けられており、この駆動ロッド109の一端がソレノイド105の出力軸105aの駆動に伴って駆動することで皿押さえ108を駆動させることができる(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
図9に示すように、他のタイプの糸調子装置120は、ソレノイド121に固定されたベース部材122に一対の糸調子皿123,124が可動ピン125により取り付けられている。糸調子装置120は、ソレノイド121に通電する電流を調節することにより、ソレノイド121のプランジャ130が可動ピン125をソレノイド121側に引く力を変化させることができ、この力の変化により糸調子皿123,124で挟持する糸に作用する張力を調節することができるようになっている。
図10に示すように、ソレノイド121は、強磁性材料で形成された機枠126内にコイル用フレーム127が設けられ、このコイル用フレーム127内にコイル128が設けられている。また、機枠126内には、磁性部材129が固着されたプランジャ130が設けられている。プランジャ130は、軸方向に移動可能であり、かつ、回転できないように軸受131,132に支持されている。プランジャ130に固着された磁性部材129は、円筒状に形成されており、その一部には、拡径された段部129aが形成されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
図11は、駆動源としてボイスコイルモータを用いた糸調子装置におけるボイスコイルモータ140の構造を示す図である。
ボイスコイルモータ140には、ミシン頭部フレーム141に形成された装着孔142に円筒状のコイルヨーク143がミシン頭部フレーム141の装着孔142に密着するように設けられている。コイルヨーク143の内面には、コイル144が巻回された円筒状のコイルボビン145が設けられている。コイルボビン145の内側には、周囲に永久磁石146が取り付けられた可動子軸147が設けられている。この可動子軸147は、コイルヨーク143及びコイルボビン145に取り付けられた軸受148によって支持されている。
そして、可動子軸147に取り付けられた永久磁石146によって磁束150が発生し、コイル144に通電することにより、ボイスコイルモータ140には、糸調子皿を移動させる推力が可動子軸147の軸線方向に沿って発生する。
【特許文献1】特開2003−181182号公報
【特許文献2】特開2000−202183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述のソレノイドやボイスコイルモータのような糸調子装置の駆動源においては、磁気回路を形成するために複雑な形状のヨークが必要であり、部品コストがかさむ。また、駆動源から糸調子皿までの駆動の伝達経路における部品点数が多く、各部品間の組み付けの際の公差や仕上げ粗さによって駆動源の応答性が大きく変わり、適切な張力で糸を挟持することができない場合がある。また、部品点数が多くなると、重量も大きくなり応答性が低下するほか、小型化にも限界がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、部品点数を減らすことができて、部品の組み付け作業の容易化、応答性の向上、小型化、コストダウンを図ることができるミシンの糸調子装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、糸を挟持する一対の糸調子皿と、一方の糸調子皿を他方の糸調子皿に対して接離させるように一方の糸調子皿に当接して移動可能な皿押さえと、一方の糸調子皿が他方の糸調子皿に対して接近するように前記皿押さえを駆動させる駆動機構と、強磁性材料で形成されたミシン頭部フレーム内に設けられ、前記駆動機構を駆動させる駆動源と、を備え、前記駆動源は、永久磁石が設けられた可動子と、前記永久磁石の周りに所定間隔をあけて巻回されたコイルが設けられた固定子と、を有するミシンの糸調子装置において、前記ミシン頭部フレームを前記コイルのコイルヨークとしたことを特徴とする。
ここで、強磁性材料とは、鉄、コバルト、ニッケル等の一般に強磁性体と呼ばれる材料をいう。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、駆動源により駆動機構を駆動させると、駆動機構は皿押さえを駆動させ、皿押さえの駆動により、一方の糸調子皿が他方の糸調子皿に対して接近して糸を挟持する。
ここで、固定子にコイルが設けられ、このコイルのコイルヨークをミシン頭部フレームが担っているので、従来のように、コイルのコイルヨークをミシン頭部フレームと別個に設ける必要がなくなる。
これにより、駆動源の部品点数を減らすことができる。また、駆動源は、ミシン頭部フレーム内に設けられるが、部品点数が少なくなることにより、駆動源をミシンフレームに組み付ける際の作業の容易化を図ることができる。また、部品点数を減らすことができることから、駆動源の小型化を図ることができ、小型化を図ることにより軽量化を実現することができ、駆動源の応答性の向上を図ることができる。また、部品点数を減らすことができるので、駆動源の生産にかかるコストダウンを図ることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のミシンの糸調子装置において、前記コイルが収容されるコイルボビンに前記可動子の軸受を設けたことを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、可動子の組み付けの際の公差が、ミシン頭部フレームとコイルボビンとの間の組み付けの際の公差、コイルボビンと軸受との間の組み付けの際の公差の二箇所だけを考慮すればよいので、従来のようにコイルヨークを設ける場合に比べて組み付けの際の公差の影響を受けにくくなる。
よって、駆動源の駆動精度の向上を図ることができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のミシンの糸調子装置において、前記コイルボビンと前記軸受とを一体に形成したことを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、コイルボビンと軸受とを一体に形成することにより、駆動源の部品点数をさらに減らすことができる。また、駆動源の駆動精度のさらなる向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、駆動源の部品点数を減らすことができる。また、駆動源は、ミシン頭部フレーム内に設けられるが、部品点数が少なくなることにより、駆動源をミシンフレームに組み付ける際の作業の容易化を図ることができる。また、部品点数を減らすことができることから、駆動源の小型化を図ることができ、小型化を図ることにより軽量化を実現することができ、駆動源の応答性の向上を図ることができる。また、部品点数を減らすことができるので、駆動源の生産にかかるコストダウンを図ることができる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、駆動源の駆動精度の向上を図ることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、駆動源の部品点数をさらに減らすことができる。また、駆動源の駆動精度のさらなる向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して、ミシンの糸調子装置の最良の形態について詳細に説明する。
<ミシンの糸調子装置の構成>
図1、図2に示すように、ミシンの糸調子装置1は、ミシンモータ(図示略)により駆動する主軸11、この主軸11に設けられた偏心カム12にリンク等を介して連結され、主軸11の回転に同期して上下動する針棒13、縫製中上昇することで糸を締め上げる天秤14等が内蔵される強磁性材料で形成されたミシン頭部フレーム2に設けられている。ここで、強磁性材料とは、鉄、コバルト、ニッケル等の一般に強磁性体と呼ばれる材料をいう。
糸調子装置1は、ミシン頭部フレーム2の顎部近傍に正面から背面に貫通するように設けられており、ミシン頭部フレーム2の正面側で天秤14に通された糸を挟持するようになっている。
【0017】
糸調子装置1は、糸に張力を付与する糸調子器3と、一方の糸調子皿31が他方の糸調子皿32に対して接近するように皿押さえ33を駆動させる駆動機構としての駆動ロッド4と、糸調子器3に駆動力を付与する駆動源としてのボイスコイルモータ5と、を備えている。糸調子器3は、ミシン頭部フレーム2の正面側(縫製時にユーザが対面する側)に当該ミシン頭部フレーム2から突出して設けられている。ボイスコイルモータ5は、主軸11や針棒13等とともにミシン頭部フレーム2の内部に設けられており、外観上視認することはできず、ボイスコイルモータ5に電流を供給するリード線58のみがミシン頭部フレーム2の背面側から出ているだけである。
【0018】
図3に示すように、糸調子器3は、糸を挟持する一対の糸調子皿31,32と、一方の糸調子皿31を他方の糸調子皿32に対して接離させるように移動可能な皿押さえ33と、を備えている。
糸調子皿31,32は、円板状に形成され、ミシン頭部フレーム2の正面側に、一方の糸調子皿31の移動方向に沿って並んで配置されている。糸調子皿31における糸調子皿32に対向する側の反対側には、糸調子皿31を糸調子皿32に向けて移動させるように糸調子皿31を押圧する皿押さえ33が設けられている。
【0019】
皿押さえ33は、例えば、三つの爪部33aを有する板材であり、当該皿押さえ33の軸回りの回転を防止する皿押さえホルダ34に保持されている。また、皿押さえ33は、駆動ロッド4にねじ35aにより位置決めを行う位置決めカラー35により位置決めされている。皿押さえホルダ34は、ねじ34aにより駆動ロッド4に取り付けられている。
皿押さえ33及び皿押さえホルダ34は、保護カバー36によって覆われており、保護カバー36は、ねじ36aにより皿押さえホルダ34に取り付けられている。
駆動ロッド4の一端には、糸調子棒37が糸調子棒台38及びねじ38aにより取り付けられている。糸調子棒37及び糸調子棒台38には、糸取りばね39が設けられている。なお、糸取りばね39は、全体としてねじりコイルばねとなっている。
【0020】
駆動ロッド4は、糸調子器3とボイスコイルモータ5とを連結し、ボイスコイルモータ5の駆動を糸調子器3に伝達して、糸調子皿31を駆動させるものである。
【0021】
図4〜図6に示すように、ボイスコイルモータ5は、駆動ロッド4が挿通され、鉄等の強磁性材料から形成されるとともに当該ボイスコイルモータ5の可動子6として機能する可動子軸51を備えている。この可動子軸51の軸回りには、接着剤等により永久磁石52,53が可動子軸51の軸方向に並んで固定されている。永久磁石52,53は、ネオジウム磁石やサマリウムコバルト磁石等の希土類材料から構成されれ、図5(a)に示すように、円筒状に形成されている。このように、可動子軸51と、この可動子軸51に設けられた永久磁石52,53とを備えることにより、ボイスコイルモータ5の可動子6が構成される。
ここで、永久磁石52は、図5(b)に示すように、径方向に沿って内周面から外周面に向けて着磁され、永久磁石53は、図5(c)に示すように、径方向に沿って外周面から内周面に向けて着磁されている。
【0022】
永久磁石52,53の軸回りには、絶縁のために樹脂材料から形成された円筒状のコイルボビン54が永久磁石52,53の外周面と若干の空隙をあけて設けられている。このコイルボビン54には、軸回りにボイスコイルモータ5の駆動推進力の制御電流を通電するコイル55が巻回されている。すなわち、コイルボビン54により、コイル55は永久磁石52,53に対して所定間隔をあけて配置されている。
ここで、コイル55は、1本の巻線で構成され、永久磁石52の外周面に対向する位置と永久磁石53の外周面に対向する位置に巻回され、永久磁石52の周囲の巻回方向と永久磁石53の周囲の巻回方向が互いに逆となるように巻回されている。このように、コイルボビン54と、このコイルボビン54に巻回されたコイル55とを備えることにより、ボイスコイルモータ5の固定子7が構成される。
このような構成により、図6に示すように、ボイスコイルモータ5には、磁力線8のような磁気回路が形成される。このとき、ミシン頭部フレーム2は強磁性材料で形成されているため、磁気抵抗が小さいので磁束を減らすことがなく、ミシン頭部フレーム2は、従来のようなボイスコイルモータ(図11参照)の機枠126(図11参照)と磁気的に同様の機能を発揮する。
【0023】
コイルボビン54は、ミシン頭部フレーム2に形成されたボイスコイルモータ5の装着孔2aの内面に密着するように設けられている。また、ミシン頭部フレーム2には、この装着孔2aに連続し、ミシン頭部フレーム2の正面から背面に貫通する貫通孔2bが形成されており、この貫通孔2bに駆動ロッド4が配置されることにより、ミシン頭部フレーム2の正面側に配置された糸調子器3と、背面側に配置されたボイスコイルモータ5とを駆動ロッド4が接続するようになっている。また、装着孔2aの開口付近には、コイルボビン54の一端に隣接して略C字状に形成された止め輪59が取り付けられており、コイルボビン54の位置決めを行っている。ここで、コイル55が巻回されたコイルボビン54はコイルヨーク内に収容されておらず、ミシン頭部フレーム2に形成された装着孔2aに直接装着されている。すなわち、ミシン頭部フレーム2がコイルヨークとしても機能する。
【0024】
駆動ロッド4の他端には、オーステナイト系ステンレス等の非磁性材料から形成され、コイルボビン54の内側に収容されて固定され、駆動ロッド4の軸線方向への移動の案内をする軸受56が設けられている。軸受56は、コイルボビン54に形成された嵌合孔と嵌合するように形成されており、軸受56の取り付け後は、駆動ロッド4がその径方向にずれることを防止する。
コイルボビン54の一端には、コイル55の巻線の端部に電気的に接続されたリード線58が引き出され、外部から通電できるようになっている。
【0025】
<作用効果>
電源からリード線58を介してコイル55に通電すると、図6に示すように、コイル55に流れる電流と可動子軸51に設けられた永久磁石52,53の磁界の影響により、フレミングの左手の法則に従って可動子軸51の軸線方向(図6のS方向)に推力が発生する。可動子軸51に推力が発生することにより、可動子軸51はその軸線方向(図6のS方向)に沿って移動し、可動子軸51の移動に伴って可動子軸51に連結された駆動ロッド4も可動子軸51と同じ方向に移動する。駆動ロッド4が移動することにより、駆動ロッド4と連結されている位置決めカラー35を移動させ、移動する位置決めカラー35が皿押さえ33に当接することにより、皿押さえ33を移動させ、皿押さえ33の移動により一方の糸調子皿31を他方の糸調子皿32に向けて移動させる。糸調子皿32の移動により、糸調子皿32は糸調子皿31に当接し、これにより、糸を挟持することができる。なお、コイル55に通電する電流量を変えることにより、可動子軸51の軸線方向に発生する推力も変化するので、一対の糸調子皿31,32で糸を挟持する圧力を変えることができる。縫製中においては、糸を糸供給源から繰り出す際に糸調子皿31,32による糸の挟持力を調節することにより、ユーザが所望する糸張力を発生させることが可能となっている。
【0026】
ここで、ミシン頭部フレーム2に形成された装着孔2aに設けられたボイスコイルモータ5は、可動子6側に永久磁石52,53が配置され、固定子7側にコイル55が設けられているので、コイル55に通電して推力が発生した場合においても、移動するのは可動子軸51だけであり、コイル55はコイルボビン54に固定されたままであるため、断線することがない。
固定子7側となるコイル55は、コイルボビン54に巻回された状態で装着孔2aに装着され、ミシン頭部フレーム2に当接しているため、通電によりコイル55が発生した熱はコイル55やコイルボビン54からミシン頭部フレーム2に直接的に伝達されるので、ボイスコイルモータ5の放熱性を向上させることができる。
【0027】
また、駆動ロッド4は、ミシン頭部フレーム2の正面側から背面側にわたって延在し、軸受56と糸調子棒37によって支持されているので、駆動ロッド4の長さは短くなっても支持間隔自体はそれ程短くならず、軸心ずれの影響が少なくなるので、同軸精度が出しやすく、永久磁石52,53とコイルボビン54との空隙を小さくすることができ、ボイスコイルモータ5の推力を向上させることができる。また、軸受56はコイルボビン54に嵌合されているため、軸受56が可動子軸51の径方向にずれることがなく、取り付けの際の公差を比較的小さくすることができる。また、駆動ロッド4から軸受56までのはめあい部分が減り、各部品間の累積公差が少なくなり、駆動ロッド4と軸受56の軸心精度を向上させることができ、駆動ロッド4の移動時に軸受56との摩擦が小さくなり、糸張力のヒステリシスを小さくすることができる。また、可動子軸51に設けられた永久磁石52,53の外周とコイルボビン54の内周との空隙の管理においても、駆動ロッド4とコイルボビン54を介する部品が軸受56のみであるため、各部品を取り付ける際に生じる取り付けの際の公差を比較的小さくすることができ、ボイスコイルモータ5における累積公差の影響を低減することができる。
【0028】
また、ボイスコイルモータ5は、コイルヨークを別個に設けることなく、ミシン頭部フレーム2で代用しているため、コイルヨークの厚みの分だけコイルボビン54に余分にコイル55を巻回することができる。これにより、ボイスコイルモータ5が出力可能な推力を大きくすることができる。よって、同じ推力を出力するボイスコイルモータ5を生産した場合に本実施形態のボイスコイルモータ5の方が小型化を図ることができる。そして、小型化を図ることにより軽量化を実現することができ、ボイスコイルモータ5の応答性の向上を図ることができる。さらに、ボイスコイルモータ5を小型化することにより、ミシン頭部フレーム2に内蔵することができ、ミシンの小型化を図ることができる。また、ボイスコイルモータ5をミシンの外部に設けるときに行うべき処置(例えば、発熱したボイスコイルモータ5に作業者が触れないようにするための保護カバーの設置等)を省くことができるので、コストの低減を図ることができる。
【0029】
また、コイルヨークをミシン頭部フレーム2で代用することにより、部品点数を減らすことができるので、ボイスコイルモータ5の生産にかかるコストダウンを図ることができる。
また、コイル55は通電により発熱するが、コイルヨークが設けられていない分、熱はミシン頭部フレーム2に早く伝達され、ミシン頭部フレーム2は外気に触れているので、伝達された熱を外気に放出することができ、すぐにミシン頭部フレーム2を冷却することができる。これにより、ボイスコイルモータ5の放熱効率を向上させることができる。
また、ボイスコイルモータ5は、ミシン頭部フレーム2内に設けられるが、部品点数が少なくなることにより、ボイスコイルモータ5をミシン頭部フレーム2に組み付ける際の作業の容易化を図ることができる。
また、糸調子器3とボイスコイルモータ5との間隔を短くすることができ、これらと接続された駆動ロッド4を軸受56で支持しているので、駆動ロッド4に作用する負荷を軽減することができ、駆動ロッド4のたわみ、曲げ等による応答性の低下、移動精度の低下を防止することができる。
【0030】
<その他>
なお、本発明の範囲は上記実施形態に限られるものではない。例えば、コイルボビン54と軸受56を一体成形してもよい。これにより、部品点数をさらに減らすことができ、コストダウン、作業の容易化を図ることができる。また、永久磁石52,53の数、コイル55の巻線の巻数は任意であって自由に変更可能である。
その他、発明の範囲内において、自由に設計変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】ミシンに糸調子装置を備えた状態を示す図。
【図2】(a)は糸調子装置を備えたミシンの一部の正面図、(b)は(a)のA−A断面図。
【図3】糸調子器を示す分解斜視図。
【図4】ボイスコイルモータを示す分解斜視図。
【図5】(a)は永久磁石の形状、(b)は一方の永久磁石の着磁方向を示す図、(c)は他方の永久磁石の着磁方向を示す図。
【図6】ボイスコイルモータの内部構造を示す断面図。
【図7】従来技術におけるミシンに糸調子装置を備えた状態を示す図。
【図8】図7における糸調子装置の構造を示す図。
【図9】他の従来技術における糸調子装置を示す図。
【図10】図9におけるソレノイドの内部構造を示す断面図。
【図11】従来技術におけるボイスコイルモータの内部構造を示す断面図。
【符号の説明】
【0032】
1 糸調子装置
2 ミシン頭部フレーム
31 糸調子皿(一方の糸調子皿)
32 糸調子皿(他方の糸調子皿)
33 皿押さえ
4 駆動ロッド(駆動機構)
5 ボイスコイルモータ(駆動源)
52 永久磁石
53 永久磁石
6 可動子
7 固定子
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンの糸調子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ミシンには、糸のたるみを防止するために、糸に適度な張力を付与する糸調子装置が設けられている。
図7に示すように、糸調子装置100は、ミシン頭部フレーム101の正面側(図7における右側)に配置されている。ミシン頭部フレーム101の正面側には、上下動により糸を締め上げる天秤102が設けられ、糸供給源から針に供給される糸は天秤102に通された後、糸調子装置100を構成する一対の糸調子皿103,104に挟持されて適度な張力が付与される。一方の糸調子皿103を駆動させる駆動源となるソレノイド105は、ミシン頭部フレーム101の背面側に設けられており、糸調子装置100は、ミシン頭部フレーム101の正面側及び背面側から突出している。なお、ミシン頭部フレーム101の内部には、主軸に設けられた偏心カム106や主軸の回転に伴って上下動する針棒107が設けられている。
図8に示すように、糸調子装置100は、一方の糸調子皿103が他方の糸調子皿104に対して接離可能とされ、ソレノイド105により駆動する皿押さえ108が一方の糸調子皿103を他方の糸調子皿104に向けて押すことにより、一方の糸調子皿103と他方の糸調子皿104とで糸を挟持することができる。なお、皿押さえ108には、糸調子皿103,104の軸方向に延びる駆動ロッド109が設けられており、この駆動ロッド109の一端がソレノイド105の出力軸105aの駆動に伴って駆動することで皿押さえ108を駆動させることができる(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
図9に示すように、他のタイプの糸調子装置120は、ソレノイド121に固定されたベース部材122に一対の糸調子皿123,124が可動ピン125により取り付けられている。糸調子装置120は、ソレノイド121に通電する電流を調節することにより、ソレノイド121のプランジャ130が可動ピン125をソレノイド121側に引く力を変化させることができ、この力の変化により糸調子皿123,124で挟持する糸に作用する張力を調節することができるようになっている。
図10に示すように、ソレノイド121は、強磁性材料で形成された機枠126内にコイル用フレーム127が設けられ、このコイル用フレーム127内にコイル128が設けられている。また、機枠126内には、磁性部材129が固着されたプランジャ130が設けられている。プランジャ130は、軸方向に移動可能であり、かつ、回転できないように軸受131,132に支持されている。プランジャ130に固着された磁性部材129は、円筒状に形成されており、その一部には、拡径された段部129aが形成されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
図11は、駆動源としてボイスコイルモータを用いた糸調子装置におけるボイスコイルモータ140の構造を示す図である。
ボイスコイルモータ140には、ミシン頭部フレーム141に形成された装着孔142に円筒状のコイルヨーク143がミシン頭部フレーム141の装着孔142に密着するように設けられている。コイルヨーク143の内面には、コイル144が巻回された円筒状のコイルボビン145が設けられている。コイルボビン145の内側には、周囲に永久磁石146が取り付けられた可動子軸147が設けられている。この可動子軸147は、コイルヨーク143及びコイルボビン145に取り付けられた軸受148によって支持されている。
そして、可動子軸147に取り付けられた永久磁石146によって磁束150が発生し、コイル144に通電することにより、ボイスコイルモータ140には、糸調子皿を移動させる推力が可動子軸147の軸線方向に沿って発生する。
【特許文献1】特開2003−181182号公報
【特許文献2】特開2000−202183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述のソレノイドやボイスコイルモータのような糸調子装置の駆動源においては、磁気回路を形成するために複雑な形状のヨークが必要であり、部品コストがかさむ。また、駆動源から糸調子皿までの駆動の伝達経路における部品点数が多く、各部品間の組み付けの際の公差や仕上げ粗さによって駆動源の応答性が大きく変わり、適切な張力で糸を挟持することができない場合がある。また、部品点数が多くなると、重量も大きくなり応答性が低下するほか、小型化にも限界がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、部品点数を減らすことができて、部品の組み付け作業の容易化、応答性の向上、小型化、コストダウンを図ることができるミシンの糸調子装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、糸を挟持する一対の糸調子皿と、一方の糸調子皿を他方の糸調子皿に対して接離させるように一方の糸調子皿に当接して移動可能な皿押さえと、一方の糸調子皿が他方の糸調子皿に対して接近するように前記皿押さえを駆動させる駆動機構と、強磁性材料で形成されたミシン頭部フレーム内に設けられ、前記駆動機構を駆動させる駆動源と、を備え、前記駆動源は、永久磁石が設けられた可動子と、前記永久磁石の周りに所定間隔をあけて巻回されたコイルが設けられた固定子と、を有するミシンの糸調子装置において、前記ミシン頭部フレームを前記コイルのコイルヨークとしたことを特徴とする。
ここで、強磁性材料とは、鉄、コバルト、ニッケル等の一般に強磁性体と呼ばれる材料をいう。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、駆動源により駆動機構を駆動させると、駆動機構は皿押さえを駆動させ、皿押さえの駆動により、一方の糸調子皿が他方の糸調子皿に対して接近して糸を挟持する。
ここで、固定子にコイルが設けられ、このコイルのコイルヨークをミシン頭部フレームが担っているので、従来のように、コイルのコイルヨークをミシン頭部フレームと別個に設ける必要がなくなる。
これにより、駆動源の部品点数を減らすことができる。また、駆動源は、ミシン頭部フレーム内に設けられるが、部品点数が少なくなることにより、駆動源をミシンフレームに組み付ける際の作業の容易化を図ることができる。また、部品点数を減らすことができることから、駆動源の小型化を図ることができ、小型化を図ることにより軽量化を実現することができ、駆動源の応答性の向上を図ることができる。また、部品点数を減らすことができるので、駆動源の生産にかかるコストダウンを図ることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のミシンの糸調子装置において、前記コイルが収容されるコイルボビンに前記可動子の軸受を設けたことを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、可動子の組み付けの際の公差が、ミシン頭部フレームとコイルボビンとの間の組み付けの際の公差、コイルボビンと軸受との間の組み付けの際の公差の二箇所だけを考慮すればよいので、従来のようにコイルヨークを設ける場合に比べて組み付けの際の公差の影響を受けにくくなる。
よって、駆動源の駆動精度の向上を図ることができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のミシンの糸調子装置において、前記コイルボビンと前記軸受とを一体に形成したことを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、コイルボビンと軸受とを一体に形成することにより、駆動源の部品点数をさらに減らすことができる。また、駆動源の駆動精度のさらなる向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、駆動源の部品点数を減らすことができる。また、駆動源は、ミシン頭部フレーム内に設けられるが、部品点数が少なくなることにより、駆動源をミシンフレームに組み付ける際の作業の容易化を図ることができる。また、部品点数を減らすことができることから、駆動源の小型化を図ることができ、小型化を図ることにより軽量化を実現することができ、駆動源の応答性の向上を図ることができる。また、部品点数を減らすことができるので、駆動源の生産にかかるコストダウンを図ることができる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、駆動源の駆動精度の向上を図ることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、駆動源の部品点数をさらに減らすことができる。また、駆動源の駆動精度のさらなる向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して、ミシンの糸調子装置の最良の形態について詳細に説明する。
<ミシンの糸調子装置の構成>
図1、図2に示すように、ミシンの糸調子装置1は、ミシンモータ(図示略)により駆動する主軸11、この主軸11に設けられた偏心カム12にリンク等を介して連結され、主軸11の回転に同期して上下動する針棒13、縫製中上昇することで糸を締め上げる天秤14等が内蔵される強磁性材料で形成されたミシン頭部フレーム2に設けられている。ここで、強磁性材料とは、鉄、コバルト、ニッケル等の一般に強磁性体と呼ばれる材料をいう。
糸調子装置1は、ミシン頭部フレーム2の顎部近傍に正面から背面に貫通するように設けられており、ミシン頭部フレーム2の正面側で天秤14に通された糸を挟持するようになっている。
【0017】
糸調子装置1は、糸に張力を付与する糸調子器3と、一方の糸調子皿31が他方の糸調子皿32に対して接近するように皿押さえ33を駆動させる駆動機構としての駆動ロッド4と、糸調子器3に駆動力を付与する駆動源としてのボイスコイルモータ5と、を備えている。糸調子器3は、ミシン頭部フレーム2の正面側(縫製時にユーザが対面する側)に当該ミシン頭部フレーム2から突出して設けられている。ボイスコイルモータ5は、主軸11や針棒13等とともにミシン頭部フレーム2の内部に設けられており、外観上視認することはできず、ボイスコイルモータ5に電流を供給するリード線58のみがミシン頭部フレーム2の背面側から出ているだけである。
【0018】
図3に示すように、糸調子器3は、糸を挟持する一対の糸調子皿31,32と、一方の糸調子皿31を他方の糸調子皿32に対して接離させるように移動可能な皿押さえ33と、を備えている。
糸調子皿31,32は、円板状に形成され、ミシン頭部フレーム2の正面側に、一方の糸調子皿31の移動方向に沿って並んで配置されている。糸調子皿31における糸調子皿32に対向する側の反対側には、糸調子皿31を糸調子皿32に向けて移動させるように糸調子皿31を押圧する皿押さえ33が設けられている。
【0019】
皿押さえ33は、例えば、三つの爪部33aを有する板材であり、当該皿押さえ33の軸回りの回転を防止する皿押さえホルダ34に保持されている。また、皿押さえ33は、駆動ロッド4にねじ35aにより位置決めを行う位置決めカラー35により位置決めされている。皿押さえホルダ34は、ねじ34aにより駆動ロッド4に取り付けられている。
皿押さえ33及び皿押さえホルダ34は、保護カバー36によって覆われており、保護カバー36は、ねじ36aにより皿押さえホルダ34に取り付けられている。
駆動ロッド4の一端には、糸調子棒37が糸調子棒台38及びねじ38aにより取り付けられている。糸調子棒37及び糸調子棒台38には、糸取りばね39が設けられている。なお、糸取りばね39は、全体としてねじりコイルばねとなっている。
【0020】
駆動ロッド4は、糸調子器3とボイスコイルモータ5とを連結し、ボイスコイルモータ5の駆動を糸調子器3に伝達して、糸調子皿31を駆動させるものである。
【0021】
図4〜図6に示すように、ボイスコイルモータ5は、駆動ロッド4が挿通され、鉄等の強磁性材料から形成されるとともに当該ボイスコイルモータ5の可動子6として機能する可動子軸51を備えている。この可動子軸51の軸回りには、接着剤等により永久磁石52,53が可動子軸51の軸方向に並んで固定されている。永久磁石52,53は、ネオジウム磁石やサマリウムコバルト磁石等の希土類材料から構成されれ、図5(a)に示すように、円筒状に形成されている。このように、可動子軸51と、この可動子軸51に設けられた永久磁石52,53とを備えることにより、ボイスコイルモータ5の可動子6が構成される。
ここで、永久磁石52は、図5(b)に示すように、径方向に沿って内周面から外周面に向けて着磁され、永久磁石53は、図5(c)に示すように、径方向に沿って外周面から内周面に向けて着磁されている。
【0022】
永久磁石52,53の軸回りには、絶縁のために樹脂材料から形成された円筒状のコイルボビン54が永久磁石52,53の外周面と若干の空隙をあけて設けられている。このコイルボビン54には、軸回りにボイスコイルモータ5の駆動推進力の制御電流を通電するコイル55が巻回されている。すなわち、コイルボビン54により、コイル55は永久磁石52,53に対して所定間隔をあけて配置されている。
ここで、コイル55は、1本の巻線で構成され、永久磁石52の外周面に対向する位置と永久磁石53の外周面に対向する位置に巻回され、永久磁石52の周囲の巻回方向と永久磁石53の周囲の巻回方向が互いに逆となるように巻回されている。このように、コイルボビン54と、このコイルボビン54に巻回されたコイル55とを備えることにより、ボイスコイルモータ5の固定子7が構成される。
このような構成により、図6に示すように、ボイスコイルモータ5には、磁力線8のような磁気回路が形成される。このとき、ミシン頭部フレーム2は強磁性材料で形成されているため、磁気抵抗が小さいので磁束を減らすことがなく、ミシン頭部フレーム2は、従来のようなボイスコイルモータ(図11参照)の機枠126(図11参照)と磁気的に同様の機能を発揮する。
【0023】
コイルボビン54は、ミシン頭部フレーム2に形成されたボイスコイルモータ5の装着孔2aの内面に密着するように設けられている。また、ミシン頭部フレーム2には、この装着孔2aに連続し、ミシン頭部フレーム2の正面から背面に貫通する貫通孔2bが形成されており、この貫通孔2bに駆動ロッド4が配置されることにより、ミシン頭部フレーム2の正面側に配置された糸調子器3と、背面側に配置されたボイスコイルモータ5とを駆動ロッド4が接続するようになっている。また、装着孔2aの開口付近には、コイルボビン54の一端に隣接して略C字状に形成された止め輪59が取り付けられており、コイルボビン54の位置決めを行っている。ここで、コイル55が巻回されたコイルボビン54はコイルヨーク内に収容されておらず、ミシン頭部フレーム2に形成された装着孔2aに直接装着されている。すなわち、ミシン頭部フレーム2がコイルヨークとしても機能する。
【0024】
駆動ロッド4の他端には、オーステナイト系ステンレス等の非磁性材料から形成され、コイルボビン54の内側に収容されて固定され、駆動ロッド4の軸線方向への移動の案内をする軸受56が設けられている。軸受56は、コイルボビン54に形成された嵌合孔と嵌合するように形成されており、軸受56の取り付け後は、駆動ロッド4がその径方向にずれることを防止する。
コイルボビン54の一端には、コイル55の巻線の端部に電気的に接続されたリード線58が引き出され、外部から通電できるようになっている。
【0025】
<作用効果>
電源からリード線58を介してコイル55に通電すると、図6に示すように、コイル55に流れる電流と可動子軸51に設けられた永久磁石52,53の磁界の影響により、フレミングの左手の法則に従って可動子軸51の軸線方向(図6のS方向)に推力が発生する。可動子軸51に推力が発生することにより、可動子軸51はその軸線方向(図6のS方向)に沿って移動し、可動子軸51の移動に伴って可動子軸51に連結された駆動ロッド4も可動子軸51と同じ方向に移動する。駆動ロッド4が移動することにより、駆動ロッド4と連結されている位置決めカラー35を移動させ、移動する位置決めカラー35が皿押さえ33に当接することにより、皿押さえ33を移動させ、皿押さえ33の移動により一方の糸調子皿31を他方の糸調子皿32に向けて移動させる。糸調子皿32の移動により、糸調子皿32は糸調子皿31に当接し、これにより、糸を挟持することができる。なお、コイル55に通電する電流量を変えることにより、可動子軸51の軸線方向に発生する推力も変化するので、一対の糸調子皿31,32で糸を挟持する圧力を変えることができる。縫製中においては、糸を糸供給源から繰り出す際に糸調子皿31,32による糸の挟持力を調節することにより、ユーザが所望する糸張力を発生させることが可能となっている。
【0026】
ここで、ミシン頭部フレーム2に形成された装着孔2aに設けられたボイスコイルモータ5は、可動子6側に永久磁石52,53が配置され、固定子7側にコイル55が設けられているので、コイル55に通電して推力が発生した場合においても、移動するのは可動子軸51だけであり、コイル55はコイルボビン54に固定されたままであるため、断線することがない。
固定子7側となるコイル55は、コイルボビン54に巻回された状態で装着孔2aに装着され、ミシン頭部フレーム2に当接しているため、通電によりコイル55が発生した熱はコイル55やコイルボビン54からミシン頭部フレーム2に直接的に伝達されるので、ボイスコイルモータ5の放熱性を向上させることができる。
【0027】
また、駆動ロッド4は、ミシン頭部フレーム2の正面側から背面側にわたって延在し、軸受56と糸調子棒37によって支持されているので、駆動ロッド4の長さは短くなっても支持間隔自体はそれ程短くならず、軸心ずれの影響が少なくなるので、同軸精度が出しやすく、永久磁石52,53とコイルボビン54との空隙を小さくすることができ、ボイスコイルモータ5の推力を向上させることができる。また、軸受56はコイルボビン54に嵌合されているため、軸受56が可動子軸51の径方向にずれることがなく、取り付けの際の公差を比較的小さくすることができる。また、駆動ロッド4から軸受56までのはめあい部分が減り、各部品間の累積公差が少なくなり、駆動ロッド4と軸受56の軸心精度を向上させることができ、駆動ロッド4の移動時に軸受56との摩擦が小さくなり、糸張力のヒステリシスを小さくすることができる。また、可動子軸51に設けられた永久磁石52,53の外周とコイルボビン54の内周との空隙の管理においても、駆動ロッド4とコイルボビン54を介する部品が軸受56のみであるため、各部品を取り付ける際に生じる取り付けの際の公差を比較的小さくすることができ、ボイスコイルモータ5における累積公差の影響を低減することができる。
【0028】
また、ボイスコイルモータ5は、コイルヨークを別個に設けることなく、ミシン頭部フレーム2で代用しているため、コイルヨークの厚みの分だけコイルボビン54に余分にコイル55を巻回することができる。これにより、ボイスコイルモータ5が出力可能な推力を大きくすることができる。よって、同じ推力を出力するボイスコイルモータ5を生産した場合に本実施形態のボイスコイルモータ5の方が小型化を図ることができる。そして、小型化を図ることにより軽量化を実現することができ、ボイスコイルモータ5の応答性の向上を図ることができる。さらに、ボイスコイルモータ5を小型化することにより、ミシン頭部フレーム2に内蔵することができ、ミシンの小型化を図ることができる。また、ボイスコイルモータ5をミシンの外部に設けるときに行うべき処置(例えば、発熱したボイスコイルモータ5に作業者が触れないようにするための保護カバーの設置等)を省くことができるので、コストの低減を図ることができる。
【0029】
また、コイルヨークをミシン頭部フレーム2で代用することにより、部品点数を減らすことができるので、ボイスコイルモータ5の生産にかかるコストダウンを図ることができる。
また、コイル55は通電により発熱するが、コイルヨークが設けられていない分、熱はミシン頭部フレーム2に早く伝達され、ミシン頭部フレーム2は外気に触れているので、伝達された熱を外気に放出することができ、すぐにミシン頭部フレーム2を冷却することができる。これにより、ボイスコイルモータ5の放熱効率を向上させることができる。
また、ボイスコイルモータ5は、ミシン頭部フレーム2内に設けられるが、部品点数が少なくなることにより、ボイスコイルモータ5をミシン頭部フレーム2に組み付ける際の作業の容易化を図ることができる。
また、糸調子器3とボイスコイルモータ5との間隔を短くすることができ、これらと接続された駆動ロッド4を軸受56で支持しているので、駆動ロッド4に作用する負荷を軽減することができ、駆動ロッド4のたわみ、曲げ等による応答性の低下、移動精度の低下を防止することができる。
【0030】
<その他>
なお、本発明の範囲は上記実施形態に限られるものではない。例えば、コイルボビン54と軸受56を一体成形してもよい。これにより、部品点数をさらに減らすことができ、コストダウン、作業の容易化を図ることができる。また、永久磁石52,53の数、コイル55の巻線の巻数は任意であって自由に変更可能である。
その他、発明の範囲内において、自由に設計変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】ミシンに糸調子装置を備えた状態を示す図。
【図2】(a)は糸調子装置を備えたミシンの一部の正面図、(b)は(a)のA−A断面図。
【図3】糸調子器を示す分解斜視図。
【図4】ボイスコイルモータを示す分解斜視図。
【図5】(a)は永久磁石の形状、(b)は一方の永久磁石の着磁方向を示す図、(c)は他方の永久磁石の着磁方向を示す図。
【図6】ボイスコイルモータの内部構造を示す断面図。
【図7】従来技術におけるミシンに糸調子装置を備えた状態を示す図。
【図8】図7における糸調子装置の構造を示す図。
【図9】他の従来技術における糸調子装置を示す図。
【図10】図9におけるソレノイドの内部構造を示す断面図。
【図11】従来技術におけるボイスコイルモータの内部構造を示す断面図。
【符号の説明】
【0032】
1 糸調子装置
2 ミシン頭部フレーム
31 糸調子皿(一方の糸調子皿)
32 糸調子皿(他方の糸調子皿)
33 皿押さえ
4 駆動ロッド(駆動機構)
5 ボイスコイルモータ(駆動源)
52 永久磁石
53 永久磁石
6 可動子
7 固定子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸を挟持する一対の糸調子皿と、一方の糸調子皿を他方の糸調子皿に対して接離させるように一方の糸調子皿に当接して移動可能な皿押さえと、一方の糸調子皿が他方の糸調子皿に対して接近するように前記皿押さえを駆動させる駆動機構と、強磁性材料で形成されたミシン頭部フレーム内に設けられ、前記駆動機構を駆動させる駆動源と、を備え、
前記駆動源は、永久磁石が設けられた可動子と、前記永久磁石の周りに所定間隔をあけて巻回されたコイルが設けられた固定子と、を有するミシンの糸調子装置において、
前記ミシン頭部フレームを前記コイルのコイルヨークとしたことを特徴とするミシンの糸調子装置。
【請求項2】
前記コイルが収容されるコイルボビンに前記可動子の軸受を設けたことを特徴とする請求項1に記載のミシンの糸調子装置。
【請求項3】
前記コイルボビンと前記軸受とを一体に形成したことを特徴とする請求項2に記載のミシンの糸調子装置。
【請求項1】
糸を挟持する一対の糸調子皿と、一方の糸調子皿を他方の糸調子皿に対して接離させるように一方の糸調子皿に当接して移動可能な皿押さえと、一方の糸調子皿が他方の糸調子皿に対して接近するように前記皿押さえを駆動させる駆動機構と、強磁性材料で形成されたミシン頭部フレーム内に設けられ、前記駆動機構を駆動させる駆動源と、を備え、
前記駆動源は、永久磁石が設けられた可動子と、前記永久磁石の周りに所定間隔をあけて巻回されたコイルが設けられた固定子と、を有するミシンの糸調子装置において、
前記ミシン頭部フレームを前記コイルのコイルヨークとしたことを特徴とするミシンの糸調子装置。
【請求項2】
前記コイルが収容されるコイルボビンに前記可動子の軸受を設けたことを特徴とする請求項1に記載のミシンの糸調子装置。
【請求項3】
前記コイルボビンと前記軸受とを一体に形成したことを特徴とする請求項2に記載のミシンの糸調子装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−202679(P2007−202679A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−23107(P2006−23107)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】
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