説明

ミシン及びミシンの制御方法

【課題】主軸と布送り機構を別のモータで駆動する場合に、主軸と布送り機構の同期が乱れた状態で縫製を行うことを防止できるミシン及びミシンの制御方法を提供する。
【解決手段】ミシンは、主軸を駆動するメインモータと布送り機構を駆動する布送りモータを備える。ミシンはメインモータ及び布送りモータの出力軸の回転角を取得する(S51、S56)。ミシンは、メインモータの回転角と布送りモータの回転角が同期するように2つのモータを駆動する。ミシンは、メインモータの回転角に対応して布送りモータの出力軸が位置すべき目標回転角を、メインモータの回転角から算出する(S57)。ミシンは、算出した目標回転角と、実際の布送りモータの回転角の偏差を算出する(S58)。算出した偏差が閾値よりも大きい場合(S59:NO)、ミシンは2つのモータが同期していないことを報知する(S61)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主軸と布送り機構を別のモータで駆動するミシン及び該ミシンの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主軸と布送り機構を別のモータで駆動するミシンがある。該ミシンは布送り量を自由に制御することができる為、種々の模様を容易に縫製できる。該ミシンは主軸の回転に同期して布送り機構を駆動する必要がある。特許文献1が開示するミシンは、主軸の回転速度と回転位相に基づいて、布送りを開始するタイミングを決定する。更に、該ミシンは、布送りを開始するタイミングを布送り量及び主軸の加速度に基づいて補正する。故に、布送りは適切なタイミングで開始し、且つ縫針と布が接触するまでに終了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−228276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のミシンでは、布送りを開始するタイミングは布送り量及び主軸の加速度に応じて変化する。従来のミシンは、布送り量に応じて布送りに要する時間(送り時間)が決まっている。故に、布送り動作の途中で作業者がペダル等を操作して主軸の回転速度を変える場合、布送りの速度は主軸の回転速度の変化に追従できなかった。布送りの速度が主軸の回転速度の変化に追従できないと、布送り機構と主軸の同期は乱れる場合がある。同期が乱れた状態であることを作業者が知らずに縫製を行うと、布送り量は作業者の意図しない量となる場合がある。故に、縫製の品質は悪化する。
【0005】
本発明の目的は、主軸と布送り機構を別のモータで駆動する場合に、主軸と布送り機構の同期が乱れた状態で縫製を行うことを防止できるミシン及びミシンの制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一態様のミシンは、縫針を上下動する主軸を駆動するメインモータと、布を送る布送り機構を駆動する布送りモータとを備えたミシンにおいて、前記メインモータの出力軸の回転角である主回転角を検出する主回転角検出部と、前記主回転角検出部が検出した前記主回転角の検出結果を取得する主回転角取得部と、前記布送りモータの出力軸の回転角である布送り回転角を検出する布送り回転角検出部と、前記布送り回転角検出部が検出した前記布送り回転角の検出結果を取得する布送り回転角取得部と、前記主回転角取得部が取得する前記主回転角と前記布送り回転角取得部が取得する前記布送り回転角が縫製プログラムに従って同期するように、前記メインモータ及び前記布送りモータを駆動する駆動制御部と、前記メインモータ及び前記布送りモータの動作状態を確認する動作確認部とを備え、前記動作確認部は、前記駆動制御部が前記メインモータ及び前記布送りモータを駆動している場合に、主回転角に対応して前記布送りモータの出力軸が位置すべき目標回転角を、前記主回転角取得部が取得した前記主回転角から算出する布送り目標角算出部と、前記布送り目標角算出部が算出した前記目標回転角と、前記布送り回転角取得部が取得した前記布送り回転角の偏差を算出する布送り偏差算出部と、前記布送り偏差算出部が算出した前記偏差が閾値よりも大きいか否かを判断する偏差判断部と、前記偏差が前記閾値よりも大きいと前記偏差判断部が判断した場合に、前記メインモータと前記布送りモータが同期していないことを作業者に報知するエラー制御部とを備える。
【0007】
第一態様のミシンは、メインモータの回転角(主回転角)から、布送りモータの出力軸がメインモータの出力軸に対応して位置すべき目標回転角を算出する。ミシンは、算出した目標回転角と、実際の布送りモータの回転角の偏差を算出する。算出した偏差が閾値よりも大きくなると、ミシンはエラー報知を行う。故に、作業者は2つのモータが同期していないことを容易に把握して適切な対処を行うことができる。
【0008】
本発明の第二態様のミシンは、縫針を上下動する主軸を駆動するメインモータと、布を送る布送り機構を駆動する布送りモータとを備えたミシンにおいて、前記メインモータの出力軸の回転角である主回転角を検出する主回転角検出部と、前記主回転角検出部が検出した前記主回転角の検出結果を取得する主回転角取得部と、前記布送りモータの出力軸の回転角である布送り回転角を検出する布送り回転角検出部と、前記布送り回転角検出部が検出した前記布送り回転角の検出結果を取得する布送り回転角取得部と、前記主回転角取得部が取得する前記主回転角と前記布送り回転角取得部が取得する前記布送り回転角が縫製プログラムに従って同期するように、前記メインモータ及び前記布送りモータを駆動する駆動制御部と、前記メインモータ及び前記布送りモータの動作状態を確認する動作確認部とを備え、前記動作確認部は、前記駆動制御部が前記メインモータ及び前記布送りモータを駆動している場合に、布送り回転角に対応して前記メインモータの出力軸が位置すべき目標回転角を、前記布送り回転角取得部が取得した前記布送り回転角から算出する主目標角算出部と、前記主目標角算出部が算出した前記目標回転角と、前記主回転角取得部が取得した前記主回転角の偏差を算出する主偏差算出部と、前記主偏差算出部が算出した前記偏差が閾値よりも大きいか否かを判断する偏差判断部と、前記偏差が前記閾値よりも大きいと前記偏差判断部が判断した場合に、前記メインモータと前記布送りモータが同期していないことを作業者に報知するエラー制御部とを備える。
【0009】
第二態様のミシンは、布送りモータの回転角(布送り回転角)から、メインモータの出力軸が布送りモータの出力軸に対応して位置すべき目標回転角を算出する。ミシンは、算出した目標回転角と、実際のメインモータの回転角の偏差を算出する。算出した偏差が閾値よりも大きくなると、ミシンはエラー報知を行う。故に、作業者は2つのモータが同期していないことを容易に把握して適切な対処を行うことができる。
【0010】
前記エラー制御部は、前記偏差が前記閾値よりも大きいと前記偏差判断部が判断した場合に、前記駆動制御部による前記メインモータ及び前記布送りモータの駆動を停止してもよい。ミシンはメインモータと布送りモータの同期が乱れた状態で縫製を行うことを防止できる。
【0011】
前記ミシンは、前記布送り機構の所定位置を設定可能な設定部と、前記布送り機構が前記設定部により設定した前記所定位置に到達したか否かを判断する到達判断部とを更に備えてもよい。前記動作確認部は、前記布送り機構が前記所定位置に到達したと前記到達判断部が判断した場合に、前記メインモータ及び前記布送りモータの動作状態を確認してもよい。ミシンは、同期をとる必要性が高い布送り機構の位置を所定位置として設定することで、重要なタイミングで効率よく動作確認を行うことができる。
【0012】
前記ミシンは、前記縫針の上下動に同期して前記布送り機構を針板の上方と下方の間で上下動する布送り機構上下動部を更に備えてもよい。前記設定部は、前記布送り機構が前記布送り機構上下動部により前記針板の板面から上昇する上昇位置、及び前記針板の板面から下降する下降位置の少なくともいずれかの位置を前記所定位置に設定してもよい。布送り機構は、針板よりも上方にある状態で移動して布送りを行う。故に、布送り機構が針板の板面から上昇する上昇位置、及び板面から下降する下降位置に到達した時点の2つのモータの同期は、特に重要である。ミシンは、布送り機構が上昇位置及び下降位置の少なくともいずれかに到達した場合に動作確認を行うことで、重要なタイミングで効率よく動作確認を行うことができる。
【0013】
前記動作確認部は所定間隔毎に前記メインモータ及び前記布送りモータの動作を確認してもよい。該ミシンは、布送り機構の位置に関わらず所定間隔毎に2つのモータの動作確認を行うことで、正確に動作確認を行うことができる。
【0014】
本発明の第三態様のミシンの制御方法は、縫針を上下動する主軸を駆動するメインモータと、前記メインモータの出力軸の回転角である主回転角を検出する主回転角検出部と、布を送る布送り機構を駆動する布送りモータと、前記布送りモータの出力軸の回転角である布送り回転角を検出する布送り回転角検出部とを備えたミシンが実行する制御方法において、前記主回転角検出部が検出した前記主回転角の検出結果を取得する主回転角取得ステップと、前記布送り回転角検出部が検出した前記布送り回転角の検出結果を取得する布送り回転角取得ステップと、前記主回転角取得ステップで取得する前記主回転角と前記布送り回転角取得ステップで取得する前記布送り回転角が縫製プログラムに従って同期するように、前記メインモータ及び前記布送りモータを駆動する駆動制御ステップと、前記メインモータ及び前記布送りモータの動作状態を確認する動作確認ステップとを備え、前記動作確認ステップは、前記駆動制御ステップで前記メインモータ及び前記布送りモータを駆動している場合に、主回転角に対応して前記布送りモータの出力軸が位置すべき目標回転角を、前記主回転角取得ステップで取得した前記主回転角から算出する布送り目標角算出ステップと、前記布送り目標角算出ステップで算出した前記目標回転角と、前記布送り回転角取得ステップで取得した前記布送り回転角の偏差を算出する布送り偏差算出ステップと、前記布送り偏差算出ステップで算出した前記偏差が閾値よりも大きいか否かを判断する偏差判断ステップと、前記偏差が前記閾値よりも大きいと前記偏差判断ステップで判断した場合に、前記メインモータと前記布送りモータが同期していないことを作業者に報知するエラー制御ステップとを含む。
【0015】
第三態様のミシンの制御方法によると、ミシンはメインモータの回転角(主回転角)から、布送りモータの出力軸がメインモータの出力軸に対応して位置すべき目標回転角を算出する。ミシンは、算出した目標回転角と、実際の布送りモータの回転角の偏差を算出する。算出した偏差が閾値よりも大きくなると、ミシンはエラー報知を行う。故に、作業者は2つのモータが同期していないことを容易に把握して適切な対処を行うことができる。
【0016】
本発明の第四態様のミシンの制御方法は、縫針を上下動する主軸を駆動するメインモータと、前記メインモータの出力軸の回転角である主回転角を検出する主回転角検出部と、布を送る布送り機構を駆動する布送りモータと、前記布送りモータの出力軸の回転角である布送り回転角を検出する布送り回転角検出部とを備えたミシンが実行する制御方法において、前記主回転角検出部が検出した前記主回転角の検出結果を取得する主回転角取得ステップと、前記布送り回転角検出部が検出した前記布送り回転角の検出結果を取得する布送り回転角取得ステップと、前記主回転角取得ステップで取得する前記主回転角と前記布送り回転角取得ステップで取得する前記布送り回転角が縫製プログラムに従って同期するように、前記メインモータ及び前記布送りモータを駆動する駆動制御ステップと、前記メインモータ及び前記布送りモータの動作状態を確認する動作確認ステップとを備え、前記動作確認ステップは、前記駆動制御ステップで前記メインモータ及び前記布送りモータを駆動している場合に、布送り回転角に対応して前記メインモータの出力軸が位置すべき目標回転角を、前記布送り回転角取得ステップで取得した前記布送り回転角から算出する主目標角算出ステップと、前記主目標角算出ステップで算出した前記目標回転角と、前記主回転角取得ステップで取得した前記主回転角の偏差を算出する主偏差算出ステップと、前記主偏差算出ステップで算出した前記偏差が閾値よりも大きいか否かを判断する偏差判断ステップと、前記偏差が前記閾値よりも大きいと前記偏差判断ステップで判断した場合に、前記メインモータと前記布送りモータが同期していないことを作業者に報知するエラー制御ステップとを含む。
【0017】
第四態様のミシンの制御方法によると、ミシンは布送りモータの回転角(布送り回転角)から、メインモータの出力軸が布送りモータの出力軸に対応して位置すべき目標回転角を算出する。ミシンは、算出した目標回転角と、実際のメインモータの回転角の偏差を算出する。算出した偏差が閾値よりも大きくなると、ミシンはエラー報知を行う。故に、作業者は2つのモータが同期していないことを容易に把握して適切な対処を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ミシン1の斜視図。
【図2】縫針8及び針板15近傍の拡大斜視図。
【図3】布送り機構32の左側面図。
【図4】ミシン1の電気的構成を示すブロック図。
【図5】ミシン1が実行する動作確認設定処理のフローチャート。
【図6】ミシン1が実行する速度制御処理のフローチャート。
【図7】ミシン1が実行する動作確認処理のフローチャート。
【図8】変形例のミシン1が実行する動作確認処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態のミシンについて図面を参照して説明する。図1〜図3を参照しミシン1の構成について説明する。図1の紙面上側、下側、右側、左側、表側、背面側は夫々ミシン1の上側、下側、右側、左側、前側、後側である。
【0020】
ミシン1はベッド部2、脚柱部3、アーム部4を備える。ベッド部2はミシン1の土台となる。ベッド部2はテーブル20上面の凹部(図示略)に上方から嵌めてミシン1をテーブル20に装着する。脚柱部3はベッド部2右端から鉛直上方に延びる。アーム部4は脚柱部3上端から左方に延びる。アーム部4はベッド部2上面に対向する。アーム部4は左端部下方に押え足17を装着する。アーム部4は内部に針棒7を保持する。針棒7は下端に縫針8(図2、図3参照)を装着する。針棒7と縫針8はメインモータ13の駆動に従って上下に往復移動する。アーム部4は左端部前方に天秤9を備える。天秤9は針棒7に従って上下動する。アーム部4は上面に操作部10を固定する。操作部10は前面に液晶パネル11を備える。作業者は液晶パネル11を見ながら操作部10を操作し各種指示をミシン1に入力する。
【0021】
ミシン1はテーブル20下面に制御装置30を備える。制御装置30はロッド21を介して踏み込み式のペダル22に接続する。作業者はペダル22をつま先側又は踵側に操作する。制御装置30はペダル22の操作方向及び操作量に応じてミシン1の動作を制御する。
【0022】
脚柱部3は右側面上部にメインモータ13を備える。アーム部4は内部に主軸14を備える。主軸14は回転可能な状態でアーム部4内部を左右方向に延びる。主軸14の右端はメインモータ13に接続する。主軸14の左端は針棒上下動機構(図示略)に接続する。メインモータ13は主軸14を駆動して針棒7と天秤9を上下動する。詳細は後述するが、本実施形態のミシン1では、メインモータ13は布送り機構32(図3参照)の上下動も行う。
【0023】
図2に示すように、ベッド部2は上面左端に針板15を備える。針板15は略中央部に針穴18を有する。縫針8は下降時に下端が針穴18を通過する。針板15は、針穴18の左方、後方、右方の夫々に送り歯穴19を備える。送り歯穴19は前後方向に長い長方形状の穴である。ベッド部2は針板15の下部に釜機構(図示略)と布送り機構32(図3参照)を備える。
【0024】
図3に示すように、布送り機構32は送り台33、送り歯34、揺動リンク36、中間リンク38、連結リンク39を備える。送り台33は針板15と平行な状態で針板15の下方に配置してある。送り台33は上面に3つの送り歯34(図3では1つの送り歯34のみを図示)を固定する。送り歯34の夫々は送り歯穴19の位置に対応する。送り歯34の夫々は前後方向(図3の左右方向)に長い。送り歯34は布を強固に挟む為の凹凸を上部に備える。
【0025】
送り台33の前端部は揺動リンク36の一端に揺動可能に接続する。揺動リンク36の中央は、左右方向に延びる支持軸37により回動可能に支持してある。揺動リンク36の他端は中間リンク38に接続する。布送りモータ23の出力軸24は連結リンク39に接続する。中間リンク38は揺動リンク36と連結リンク39を連結する。布送りモータ23が回転すると、布送りモータ23の動力は連結リンク39、中間リンク38、揺動リンク36の順に伝わる。揺動リンク36は支持軸37を中心に回動する。送り台33は揺動リンク36の回動によって揺動する。故に、送り台33は布送りモータ23の動力で前後方向に移動する。
【0026】
送り台33は後部に二股部35を備える。二股部35は、送り台33の後端よりもやや前方から下方へ延び、後方へ屈曲する。二股部35は、送り台33の後端部との間で上下送りカム40を挟む。上下送りカム40は駆動軸41により回転する偏心カムである。駆動軸41が回転すると上下送りカム40が回転し、送り台33は上下動する。本実施形態のミシン1では、駆動軸41は伝達機構(図示略)に接続している。該伝達機構は主軸14(図1参照)に接続している。主軸14の回転は伝達機構を介して駆動軸41に伝わる。駆動軸41の回転と主軸14の回転は同期する。針棒7と縫針8が上下に一往復する間に送り台33と送り歯34は上下に一往復する。つまり、本実施形態では縫針8の上下動と送り歯34の上下動は機械的に同期する。
【0027】
送り台33が上昇すると、送り歯34は送り歯穴19から針板15の上方に突出し、押え足17との間に布29を挟む。布29が所定の厚み以下であれば、送り歯34が針板15の上方に位置している間、縫針8は布29に刺さらない。縫製の実行中、ミシン1はメインモータ13と布送りモータ23の回転角位相を監視する。詳細は後述するが、ミシン1はメインモータ13と布送りモータ23の同期をとり、送り歯34が針板15の上方に位置している間に、縫製プログラムで規定してある量だけ布送りモータ23を駆動する。故に、布29は縫針8が刺さっていない状態で前後方向に移動する。送り台33が下降すると、送り歯34は針板15の下方に位置する。送り歯34が針板15の下方に位置すれば、送り歯34が前後方向に移動しても布29は移動しない。縫針8は、送り歯34が針板15の下方に位置している間に布29に縫い目を形成する。以上のように、ミシン1は、布送り機構32の水平方向(本実施形態では前後方向)の駆動と針棒7の駆動を別のモータで実行する。故に、ミシン1は縫製中に送り歯34の水平方向の移動量を自由に制御することができる。
【0028】
図4を参照しミシン1の電気的構成について説明する。ミシン1の制御装置30はCPU44を備える。CPU44はミシン1の制御を司る。CPU44はROM45、RAM46、EEPROM(登録商標)47、I/Oインターフェース(以下I/Oという)48とバスを介して接続する。ROM45は後述する動作確認設定処理(図5参照)、速度制御処理(図6参照)、動作確認処理(図7、8参照)を実行する為のプログラム等を記憶する。RAM46はプログラムを実行する為に必要な各種値を一時的に記憶する。EEPROM47は各種値を記憶する不揮発性の記憶装置である。
【0029】
I/O48はペダル22、操作部10に接続する。CPU44はペダル22の操作方向及び操作量を入力する。CPU44は操作部10から作業者による操作指示を入力する。作業者は操作部10を操作することで、後述する動作確認の設定値等を入力できる。I/O48は駆動回路51〜53に接続する。駆動回路51は液晶パネル11を駆動する。駆動回路52は、CPU44から入力するトルク指令信号に応じてメインモータ13を駆動する。ミシン1はメインモータ13の回転角位相及び回転速度を検出する為のメインエンコーダ55を備える。メインエンコーダ55はメインモータ13の回転角位相及び回転速度の検出結果をI/O48に出力する。駆動回路53は、CPU44から入力する布送り駆動信号に応じて布送りモータ23を駆動する。布送りモータ23はパルスモータである。布送りモータ23の布送り駆動信号はパルス信号である。ミシン1は布送りモータ23の回転角位相及び回転速度を検出する為の布送りエンコーダ56を備える。布送りエンコーダ56は布送りモータ23の回転角位相及び回転速度の検出結果をI/O48に出力する。
【0030】
図5〜図7を参照し、本実施形態のミシン1が実行する処理について説明する。ミシン1のCPU44はROM45に記憶しているプログラムに従って、図5に示す動作確認設定処理、図6に示す速度制御処理、図7に示す動作確認処理を実行する。ミシン1は上記3つの処理を並行して実行できる。
【0031】
図5を参照し動作確認設定処理について説明する。動作確認設定処理では、ミシン1は、メインモータ13及び布送りモータ23の動作状態を確認するタイミングを、作業者による操作部10の操作に応じて設定する。ミシン1の電源がオンとなると、CPU44は動作確認設定処理を開始する。
【0032】
CPU44は、動作確認タイミングの設定開始指示を作業者が操作部10から入力したか否かを判断する(S1)。入力していなければ(S1:NO)、CPU44は設定開始指示があるまでS1の判断を繰り返す。作業者が操作部10を操作して設定開始指示を入力すると(S1:YES)、CPU44は作業者が常時確認を設定したか否か判断する(S2)。
【0033】
動作確認タイミングには常時確認と所定位置確認がある。常時確認は、所定間隔(例えば、CPU44が図7のS51〜S59の処理を行う間隔、又はCPU44のクロック数に応じた所定間隔)毎に動作確認を行う。常時確認では、ミシン1はより正確に動作確認を行うことができる。所定位置確認は、布送り機構32の送り歯34が所定の動作確認位置に到達したタイミングで動作確認を行う。所定位置確認では、ミシン1は必要なタイミングで効率よく動作確認を行うことができ、CPU44の処理負担は低下する。
【0034】
作業者が常時確認を設定した場合(S2:YES)、CPU44は常時確認の設定をEEPROM47に記憶し(S3)、動作確認設定処理を終了する。作業者が所定位置確認を設定した場合(S2:NO)、CPU44は所定位置確認の設定をEEPROM47に記憶する(S4)。CPU44は作業者がデフォルト位置を設定したか否か判断する(S5)。
【0035】
本実施形態では、作業者は所定位置確認を設定した場合に、デフォルト位置及び任意位置の何れかの動作確認位置を設定できる。作業者が所定確認位置をデフォルト位置に設定した場合、動作確認位置は布送り機構32の送り歯34が針板15の板面から上昇する位置及び下降する位置である。布送り機構32は送り歯34が針板15よりも上方にある状態で布29を送る。故に、送り歯34が針板15から上昇、下降する位置では、2つのモータ13、23の同期は特に重要である。作業者が所定確認位置をデフォルト位置に設定することで、ミシン1は特に重要なタイミングで効率よく動作確認を行うことができる。
【0036】
作業者は所定確認位置を任意位置に設定した場合に、操作部10を操作して動作確認位置を任意に設定する。作業者が任意に設定可能な位置は、後述する布送り機構32(詳細には送り歯34)の布送り開始位置「STPos」と終端位置「ENPos」の間の位置である。例えば、布29が厚い場合、縫針8は布29が薄い場合よりも早いタイミングで布29に刺さる。布29が厚い場合に所定確認位置をデフォルト位置に設定すると、布送り機構32の送り歯34が針板15の板面から下降する位置に到達する前に縫針8が布29に刺さる場合がある。故に、2つのモータ13、23の同期がずれ、送り歯34の下降が遅れると、布29は縫針8が刺さった状態で移動する。布29に刺さった状態で布29が移動すると、縫針8は曲がる。曲がった縫針8は針穴18を通過せず針板15上面に接触して破損する場合がある。動作確認位置を送り歯34が針板15から下降する位置よりも早いタイミングとなる位置に任意に設定することで、ミシン1は布厚に応じてタイミングを変えて動作確認を行うことができる。所定確認位置を任意位置に設定することで、ミシン1は作業者が所望の確認位置で動作確認を行うことができる。
【0037】
作業者がデフォルト位置を設定した場合(S5:YES)、CPU44は、送り歯34が針板15の板面から上昇する位置及び下降する位置を動作確認位置に設定する(S6)。CPU44は動作確認設定処理を終了する。S6では、CPU44は上昇位置及び下降位置の何れか一方を動作確認位置に設定してもよい。作業者が任意位置を設定した場合(S5:NO)、CPU44は、動作確認位置の入力を作業者に要求する為の画面を液晶パネル11に表示する(S7)。作業者は操作部10を操作し、1又は複数の動作確認位置を入力する。CPU44は入力が完了するまで待機する(S8:NO)。
【0038】
動作確認位置の入力が完了すると(S8:YES)、CPU44は作業者が入力した位置が後述する布送り開始位置「STPos」と終端位置「ENPos」の間か否かを判断する(S9)。布送り開始位置「STPos」と終端位置「ENPos」の間でなければ(S9:NO)、CPU44は作業者が入力した位置が設定可能な位置でないことを示すエラー画面を液晶パネル11に表示し(S11)、処理をS7に戻す。布送り開始位置「STPos」と終端位置「ENPos」の間であれば(S9:YES)、CPU44は作業者が入力した位置を動作確認位置としてEEPROM47に記憶する(S10)。CPU44は動作確認設定処理を終了する。
【0039】
図6を参照し速度制御処理について説明する。速度制御処理では、ミシン1はメインモータ13と同期して布送りモータ23を駆動する為の布送りモータ23の回転速度を算出する。ミシン1は算出した回転速度で布送りモータ23を駆動する。詳細には、ミシン1は布送りモータ23の出力軸の目標回転角と実際の回転角の偏差から回転速度「SP1」を算出する。ミシン1は、メインモータ13の回転速度に基づいて回転速度「SP2」を算出する。ミシン1はメインモータ13の回転速度に応じたより適切な制御方法で布送りモータ23を制御することができる。ミシン1の電源がオンとなると、CPU44は速度制御処理を開始する。
【0040】
CPU44は、メインモータ13の出力軸の回転角である主回転角「DDPOS」をメインエンコーダ55から取得する(S21)。CPU44は、S21で取得した主回転角「DDPOS」が後述する開始角「FeedStart」と終端角「FeedEnd」の間にあるか否かを判断する(S22)。主回転角「DDPOS」が開始角「FeedStart」と終端角「FeedEnd」の間にない場合(S22:NO)、CPU44は処理をS21に戻す。主回転角「DDPOS」が開始角「FeedStart」と終端角「FeedEnd」の間にある場合(S22:YES)、CPU44は、布送りモータ23の出力軸の回転角である布送り回転角「RELPOS」を布送りエンコーダ56から取得する(S23)。CPU44は、S21で取得したメインモータ13の主回転角「DDPOS」に対応する布送りモータ23の出力軸が位置すべき布送り回転角である目標回転角「POS1」を設定する(S24)。前述したように、ミシン1ではメインモータ13と布送りモータ23は同期する。故に、布送りモータ23の目標回転角は「DDPOS」から一意に定まる。
【0041】
目標回転角「POS1」の設定方法について詳細に説明する。ミシン1は、布送り機構32(詳細には送り歯34)の布送り開始位置「STPos」、終端位置「ENPos」を予めEEPROM47に記憶している。本実施形態では、「STPos」及び「ENPos」は布送りモータ23の出力軸の角度で表す。布29を1回移動する際に布送りモータ23が回転する角度「Pitch」は、「ENPos−STPos」となる。ミシン1は、開始角「FeedStart」、終端角「FeedEnd」をEEPROM47に記憶している。開始角「FeedStart」は、布送り開始位置「STPos」から一意に定まる送り開始時のメインモータ13の出力軸の回転角である。終端角「FeedEnd」は、布送りの終端位置「ENPos」から一意に定まるメインモータ13の出力軸の回転角である。終端角「FeedEnd」は、布送り機構32が布送りの終端位置「ENPos」に達する時点でメインモータ13の出力軸が位置すべき主回転角である。以上の値は、作業者が操作部10を操作することで設定できる。
【0042】
CPU44は、送り歯34が前後方向に移動して布を1回送る間にメインモータ13の出力軸が回転する角度である送り角度「FeedDeg」を、以下の式で算出する。
FeedDeg=FeedEnd−FeedStart
送り角度「FeedDeg」のうち、既に回転が終了した角度の割合は、
(DDPOS−FeedStart)/FeedDeg
となる。故に、CPU44は目標回転角「POS1」を以下の式で算出できる。
POS1=STPos+Pitch(DDPOS−FeedStart)/FeedDeg
【0043】
CPU44は、設定した目標回転角「POS1」と、布送りエンコーダ56から取得した布送り回転角「RELPOS」の偏差を算出する(S25)。CPU44は、算出した偏差に基づいて、布送りモータ23の回転速度「SP1」を算出する(S26)。具体的には、CPU44は予め設定してある固定値の計数Nを偏差に乗じることで回転速度「SP1」を算出する。CPU44は、その時点のメインモータ13の回転速度「DDSpeed(単位:rpm)」を取得する(S27)。メインモータ13の回転速度は、速度制御処理と並行して実行する回転速度検出処理(図示略)で、メインエンコーダ55から取得した主回転角の変化量(単位:回転数)をサンプリング時間(単位:分)で割ることで算出している。
【0044】
CPU44は回転速度「DDSpeed」が閾値である300(rpm)以下であるか否かを判断する(S28)。閾値の値は300に限られない。閾値の値は、作業者が操作部10を操作することで変更可能であってもよい。回転速度「DDSpeed」が300以下であれば(S28:YES)、CPU44は回転速度「SP1」で布送りモータ23を駆動する(S29)。CPU44は処理をS21へ戻す。回転速度「SP1」は、メインモータ13の回転速度を用いずに算出できる。故に、メインモータ13が停止した場合又は作業者が手動で主軸14を回転した場合等でも算出できる。ミシン1は、メインモータ13の回転速度「DDSpeed」が閾値以下である場合に回転速度「SP1」で布送りモータ23を駆動することで、布送りモータ23とメインモータ13の同期を適切に保つことができる。
【0045】
回転速度「DDSpeed」が300より大きければ(S28:NO)、CPU44は、布送り機構32が終端位置に達する時点のメインモータ13の主回転角である終端角「FeedEnd」をEEPROM47から取得する(S31)。CPU44は、終端角「FeedEnd」から現在の主回転角「DDPOS」を減算することで、メインモータ13の出力軸が終端角に達するまでの残り回転角「RemM」を算出する(S32)。CPU44は、メインモータ13の出力軸が終端角「FeedEnd」に達するまでの所要時間T(単位:分)を以下の式で算出する(S33)。
T=RemM/360・DDSpeed
【0046】
CPU44は、布送りの終端位置「ENPos」から現在の布送り回転角「RELPOS」を減算することで、布送りモータ23の出力軸が終端位置に達するまでの残り回転角「RemF」を算出する(S34)。CPU44は、布送りモータ23が残り回転角「RemF」を所要時間Tで回転する為に必要な回転速度「SP2」を以下の式で算出する(S35)。
SP2=RemF/(360・T)
【0047】
CPU44は、回転速度「DDSpeed」が閾値である3000(rpm)より小さいか否かを判断する(S36)。該閾値の値は3000に限られないが、S28の判断で用いる閾値よりも大きい必要がある。回転速度「DDSpeed」が3000以上であれば(S36:NO)、CPU44はSP2で布送りモータ23を駆動し(S41)、処理をS21へ戻す。回転速度「SP2」は、2つのモータ13、23の出力軸の位置の偏差を用いずに算出できる。故に、メインモータ13の回転速度「DDSpeed」が増大して位置の偏差が増大しても、回転速度「SP2」で布送りモータ23を駆動することで、メインモータ13と布送りモータ23の同期を適切に保つことができる。
【0048】
回転速度「DDSpeed」が300より大きく、且つ3000より小さければ(S36:YES)、CPU44は、回転速度「SP1」と「SP2」から特定の比率により布送りモータ23の回転速度「SP3」を算出する(S37、S38)。具体的には、CPU44は、SP3に占めるSP1の割合「rt」を以下の式で算出する(S37)。
rt=(3000−DDSpeed)/2700
CPU44は、布送りモータ23に指示する回転速度「SP3」を以下の式で算出する(S38)。
SP3=rt・SP1+(1−rt)・SP2
回転速度「SP3」は、回転速度「DDSpeed」が3000に近づく程、SP3に占めるSP1の割合が小さくなり、SP2の割合が大きくなる。CPU44は算出した回転速度「SP3」で布送りモータ23を駆動し(S39)、処理をS21へ戻す。以上のように、ミシン1は、回転速度「DDSpeed」が中間の速度(本実施形態では300〜3000)である場合、SP1とSP2を適切に考慮してSP3を算出できる。故に、ミシン1は回転速度「DDSpeed」に適した回転速度で布送りモータ23を駆動することができる。
【0049】
図7を参照し動作確認処理について説明する。動作確認処理では、ミシン1はメインモータ13と布送りモータ23が同期しているか否かを確認し、同期していない場合にエラー処理を行う。ミシン1の電源がオンとなると、CPU44は動作確認処理を開始する。
【0050】
CPU44はメインモータ13の出力軸の回転角である主回転角「DDPOS」をメインエンコーダ55から取得する(S51)。CPU44は、S51で取得した主回転角「DDPOS」が開始角「FeedStart」と終端角「FeedEnd」の間にあるか否かを判断する(S52)。主回転角「DDPOS」が開始角「FeedStart」と終端角「FeedEnd」の間にない場合(S52:NO)、布送り機構32の送り歯34は針板15の下方に位置する為、不具合は生じない。故に、CPU44は処理をS51に戻す。
【0051】
主回転角「DDPOS」が開始角「FeedStart」と終端角「FeedEnd」の間にある場合(S52:YES)、CPU44は、動作確認設定処理(図5参照)で設定した動作確認タイミングの設定内容を判断する(S53〜S55)。具体的には、CPU44は動作確認タイミングの設定が常時確認であるか否かを判断する(S53)。常時確認であれば(S53:YES)、CPU44は処理をS56へ移行する。常時確認でない場合(S53:NO)、所定位置確認であるので、CPU44は、設定してある動作確認位置をEEPROM47から取得する(S54)。前述したように、作業者がデフォルト位置を設定していれば、動作確認位置は、布送り機構32の送り歯34が針板15の板面から上昇する位置及び下降する位置に設定してある。作業者が任意位置を設定していれば、動作確認位置は作業者が入力した位置に設定してある。
【0052】
CPU44は、布送り機構32の位置が所定の動作確認位置であるか否かをメインモータ13の主回転角「DDPOS」から判断する(S55)。前述したように、ミシン1は、布送りモータ23の布送り回転角「RELPOS」がメインモータ13の主回転角「DDPOS」に同期するように布送りモータ23を駆動する(図6参照)。布送り機構32の位置は布送り回転角「RELPOS」から定まる。故に、ミシン1は布送り機構32が存在すべき位置をメインモータ13の主回転角「DDPOS」から判断できる。布送り機構32の位置が所定の動作確認位置になければ(S55:NO)、CPU44は処理をS51へ戻す。
【0053】
動作確認タイミングの設定が常時確認である場合(S53:YES)、又は布送り機構32の位置が所定の動作確認位置にある場合(S55:YES)、CPU44は、その時点の布送り回転角「RELPOS」を布送りエンコーダ56から取得する(S56)。CPU44は、S52で取得した主回転角「DDPOS」に対応する布送りモータ23の出力軸が位置すべき布送り回転角である目標回転角「POS1」を設定する(S57)。「POS1」の設定方法は前述したS24(図6参照)と同様である。CPU44は、設定した目標回転角「POS1」と、S56で取得した布送り回転角「RELPOS」の偏差を算出する(S58)。
【0054】
CPU44は、算出した偏差が閾値以下であるか否かを判断する(S59)。閾値は任意に設定できる。閾値は、作業者が操作部10を操作して変更できる値であってもよい。偏差が閾値以下であれば(S59:YES)、CPU44はメインモータ13と布送りモータ23が同期していると判断し、処理をS51へ戻す。偏差が閾値よりも大きければ(S59:NO)、CPU44は、2つのモータ13、23の同期がずれたことを示すエラー画面を液晶パネル11に表示する(S61)。S61ではCPU44はエラー音をスピーカから出力してエラーを報知してもよい。CPU44は、メインモータ13と布送りモータ23の駆動を停止し(S62)、動作確認処理を終了する。
【0055】
以上のように、本実施形態のミシン1は、メインモータ13の主回転角「DDPOS」から、布送りモータ23の出力軸が位置すべき目標回転角「POS1」を算出する。ミシン1は、算出した目標回転角「POS1」と実際の布送りモータ23の回転角「RELPOS」の偏差を算出する。算出した偏差が閾値よりも大きくなると、ミシン1は2つのモータ13、23の同期がずれたことを示すエラー報知を行う。故に、作業者は2つのモータ13、23が同期していないことを容易に把握して適切な対処を行うことができる。
【0056】
ミシン1は、算出した偏差が閾値よりも大きくなると2つのモータ13、23を停止する。故に、ミシン1は2つのモータ13、23の同期がずれた状態で縫製を行うことを防止できる。ミシン1は、同期をとる必要性が高い布送り機構32の位置を所定の動作確認位置として設定することで、重要なタイミングで効率よく動作確認を行うことができる。ミシン1は、所定確認位置をデフォルト位置とすることで、布送り機構32が針板15の板面から上昇及び下降する際に動作確認位置を行う。故に、ミシン1は、同期を保持することが特に重要な位置で効率よく動作確認を行うことができる。ミシン1は、所定確認位置を任意位置とすることで、作業者が所望の確認位置で動作確認を行うことができる。ミシン1は、布送り機構32の位置に関わらず常時監視を行い、動作確認の正確性を向上することもできる。
【0057】
本実施形態においてメインエンコーダ55は本発明の主回転角検出部に相当する。布送りエンコーダ56は布送り回転角検出部に相当する。図6のS21及び図7のS51で主回転角を取得するCPU44は主回転角取得部として機能する。図6のS23及び図7のS56で布送り回転角を取得するCPU44は布送り回転角取得部として機能する。図6の速度制御処理を実行するCPU44は駆動制御部として機能する。図7の動作確認処理を実行するCPU44は動作確認部として機能する。図7のS57で目標回転角を算出するCPU44は布送り目標角算出部として機能する。図7のS58で偏差を算出するCPU44は布送り偏差算出部として機能する。図7のS59で偏差が閾値よりも大きいか否かを判断するCPU44は偏差判断部として機能する。図7のS61、S62でエラー処理を行うCPU44はエラー制御部として機能する。図5のS6、S9で動作確認位置を設定するCPU44は設定部として機能する。図7のS55で布送り機構32が動作確認位置に到達したか否かを判断するCPU44は到達判断部として機能する。上下送りカム40及び駆動軸41は布送り機構上下動部に相当する。
【0058】
図6のS21及び図7のS51で主回転角を取得する処理は主回転角取得ステップに相当する。図6のS23及び図7のS56で布送り回転角を取得する処理は布送り回転角取得ステップに相当する。図6の速度制御処理は駆動制御ステップに相当する。図7の動作確認処理は動作確認ステップに相当する。図7のS57で目標回転角を算出する処理は布送り目標角算出ステップに相当する。図7のS58で偏差を算出する処理は布送り偏差算出ステップに相当する。図7のS59で偏差が閾値よりも大きいか否かを判断する処理は偏差判断ステップに相当する。図7のS61、S62に示すエラー処理はエラー制御ステップに相当する。
【0059】
上記実施形態は様々な変形が可能である。図8を参照し、上記実施形態の一変形例について説明する。変形例のミシン1は、メインモータ13の出力軸の目標回転角を、布送りモータ23の出力軸の回転角から算出する。該ミシン1は、算出した目標回転角と実際の回転角の偏差を用いて動作確認を行う。前述した実施形態のミシン1は、布送りモータ23の目標回転角と実際の回転角の偏差を用いて動作確認を行う。変形例のミシン1は、メインモータ13の回転角の偏差を用いて動作確認を行う点が上記実施形態のミシン1と異なるのみであり、機械的構成、電気的構成、動作確認設定処理(図5参照)、速度制御処理(図6参照)等は上記実施形態と同一である。故に、以下の説明では、上記実施形態のミシン1と同一の構成及び処理には同一の番号を付し、説明を省略又は簡略化する。
【0060】
ミシン1の電源がオンとなると、CPU44は動作確認処理を開始する。CPU44はメインモータ13の主回転角「DDPOS」を取得する(S51)。CPU44は、S51で取得した主回転角「DDPOS」が開始角「FeedStart」と終端角「FeedEnd」の間にあるか否かを判断する(S52)。主回転角「DDPOS」が開始角「FeedStart」と終端角「FeedEnd」の間にない場合(S52:NO)、CPU44は処理をS51に戻す。
【0061】
主回転角「DDPOS」が開始角「FeedStart」と終端角「FeedEnd」の間にある場合(S52:YES)、CPU44は、動作確認タイミングの設定が常時確認であるか否かを判断する(S53)。常時確認であれば(S53:YES)、CPU44は処理をS56へ移行する。常時確認でない場合(S53:NO)、所定位置確認であるので、CPU44は設定してある動作確認位置を取得する(S54)。CPU44は、布送り機構32の位置が所定の動作確認位置であるか否かをメインモータ13の主回転角「DDPOS」から判断する(S55)。布送り機構32の位置が所定の動作確認位置になければ(S55:NO)、CPU44は処理をS51へ戻す。
【0062】
動作確認タイミングの設定が常時確認である場合(S53:YES)、又は布送り機構32の位置が所定の動作確認位置にある場合(S55:YES)、CPU44は、その時点の布送り回転角「RELPOS」を取得する(S56)。CPU44は、S56で取得した布送り回転角「RELPOS」に対応するメインモータ13の出力軸が位置すべき主回転角である目標回転角「POS2」を設定する(S157)。目標回転角「POS2」の設定方法について詳細に説明する。送り歯34が前後方向に移動して布を1回送る間に布送りモータ23の出力軸が回転する角度は、布送り量「Pitch(ENPos−STPos)」となる。布送り開始位置「STPos」及び終端位置「STPos」はあらかじめEEPROM47に記憶してある。布送り量「Pitch」のうち、既に回転が終了した角度の割合は、(RELPOS−STPos)/Pitchとなる。CPU44は目標回転角「POS2」を以下の式で算出できる。
POS2=FeedStart+FeedDeg(RELPOS−STPos)/Pitch
【0063】
CPU44は、設定した目標回転角「POS2」と、S51で取得した主回転角「DDPOS」の偏差を算出する(S158)。偏差が閾値以下であれば(S59:YES)、CPU44はメインモータ13と布送りモータ23が同期していると判断し、処理をS51へ戻す。偏差が閾値よりも大きければ(S59:NO)、CPU44は、2つのモータ13、23の同期がずれたことを示すエラー画面を液晶パネル11に表示する(S61)。CPU44は、メインモータ13と布送りモータ23の駆動を停止し(S62)、動作確認処理を終了する。
【0064】
以上のように、変形例のミシン1は、布送りモータ23の布送り回転角「RELPOS」から、メインモータ13の出力軸が位置すべき目標回転角「POS2」を算出する。ミシン1は、算出した目標回転角「POS2」と実際のメインモータ13の回転角「DDPOS」の偏差を算出する。算出した偏差が閾値よりも大きくなると、ミシン1は2つのモータ13、23の同期がずれたことを示すエラー報知を行う。故に、作業者は2つのモータ13、23が同期していないことを容易に把握して適切な対処を行うことができる。
【0065】
上記変形例において、図8のS157で目標回転角を算出するCPU44は本発明の主目標角算出部として機能する。図8のS158で偏差を算出するCPU44は主偏差算出部として機能する。図8のS157で目標回転角を算出する処理は主目標角算出ステップに相当する。図8のS158で偏差を算出する処理は主偏差算出ステップに相当する。
【0066】
上記実施形態はその他の変形も可能である。図6に示す速度制御処理は変更できる。例えば、CPU44は、回転角の偏差から算出する回転速度「SP1」のみを用いて布送りモータ23を駆動してもよい。CPU44は、メインモータ13の回転速度から算出する回転速度「SP2」のみを用いて布送りモータ23を駆動してもよい。CPU44は、S24、S25の代わりに前述した図8のS157、S158の処理を実行し、目標回転角「POS2」と主回転角「DDPOS」の偏差に基づいて布送りモータ23の回転速度「SP1」を算出してもよい。
【0067】
回転速度SP1、SP2、SP3の具体的な算出方法は変更できる。例えば、上記実施形態のミシン1は、回転速度「DDSpeed」の値に比例してSP2の割合が増加するようにSP3を算出する(図6のS37、S38参照)。「DDSpeed」の値とSP2の割合は比例しなくてもよい。ミシン1は、「DDSpeed」の値とSP1、SP2の割合とを対応付けるテーブルをROM45等に記憶し、「DDSpeed」の値に対応する割合をテーブルから取得してSP3を算出してもよい。図6のS26で偏差からSP1を算出する方法は変更できる。ミシン1は偏差とSP1の値を対応付けるテーブルを用いてSP1を算出してもよい。
【0068】
図6に示す速度制御処理の処理順は変更できる。例えば、ミシン1は速度制御処理の開始直後にメインモータ13の回転速度「DDSpeed」を取得し、SP1、SP2、SP3の何れを使用して布送りモータ23を駆動するかを判断してもよい。ミシン1は、使用すると判断した回転速度を以後の処理で算出し、布送りモータ23を駆動してもよい。
【0069】
上記実施形態のミシン1はメインモータ13で布送り機構32を上下に移動する。故に、布送り機構32の上下動と縫針8の上下動は機械的に同期する。本発明は、布送り機構32を上下動するモータ(具体的には、図3の駆動軸41を回転するモータ)をメインモータ13とは別に備えたミシンにも適用できる。該ミシンは、布送り機構32を上下動するモータと、水平方向に移動する布送りモータ23の少なくとも一方の動作確認に本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0070】
1 ミシン
7 針棒
8 縫針
10 操作部
11 液晶パネル
13 メインモータ
14 主軸
15 針板
22 ペダル
23 布送りモータ
32 布送り機構
34 送り歯
40 上下送りカム
41 駆動軸
44 CPU
45 ROM
47 EEPROM
55 メインエンコーダ
56 布送りエンコーダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縫針を上下動する主軸を駆動するメインモータと、布を送る布送り機構を駆動する布送りモータとを備えたミシンにおいて、
前記メインモータの出力軸の回転角である主回転角を検出する主回転角検出部と、
前記主回転角検出部が検出した前記主回転角の検出結果を取得する主回転角取得部と、
前記布送りモータの出力軸の回転角である布送り回転角を検出する布送り回転角検出部と、
前記布送り回転角検出部が検出した前記布送り回転角の検出結果を取得する布送り回転角取得部と、
前記主回転角取得部が取得する前記主回転角と前記布送り回転角取得部が取得する前記布送り回転角が縫製プログラムに従って同期するように、前記メインモータ及び前記布送りモータを駆動する駆動制御部と、
前記メインモータ及び前記布送りモータの動作状態を確認する動作確認部とを備え、
前記動作確認部は、
前記駆動制御部が前記メインモータ及び前記布送りモータを駆動している場合に、主回転角に対応して前記布送りモータの出力軸が位置すべき目標回転角を、前記主回転角取得部が取得した前記主回転角から算出する布送り目標角算出部と、
前記布送り目標角算出部が算出した前記目標回転角と、前記布送り回転角取得部が取得した前記布送り回転角の偏差を算出する布送り偏差算出部と、
前記布送り偏差算出部が算出した前記偏差が閾値よりも大きいか否かを判断する偏差判断部と、
前記偏差が前記閾値よりも大きいと前記偏差判断部が判断した場合に、前記メインモータと前記布送りモータが同期していないことを作業者に報知するエラー制御部と
を備えたミシン。
【請求項2】
縫針を上下動する主軸を駆動するメインモータと、布を送る布送り機構を駆動する布送りモータとを備えたミシンにおいて、
前記メインモータの出力軸の回転角である主回転角を検出する主回転角検出部と、
前記主回転角検出部が検出した前記主回転角の検出結果を取得する主回転角取得部と、
前記布送りモータの出力軸の回転角である布送り回転角を検出する布送り回転角検出部と、
前記布送り回転角検出部が検出した前記布送り回転角の検出結果を取得する布送り回転角取得部と、
前記主回転角取得部が取得する前記主回転角と前記布送り回転角取得部が取得する前記布送り回転角が縫製プログラムに従って同期するように、前記メインモータ及び前記布送りモータを駆動する駆動制御部と、
前記メインモータ及び前記布送りモータの動作状態を確認する動作確認部とを備え、
前記動作確認部は、
前記駆動制御部が前記メインモータ及び前記布送りモータを駆動している場合に、布送り回転角に対応して前記メインモータの出力軸が位置すべき目標回転角を、前記布送り回転角取得部が取得した前記布送り回転角から算出する主目標角算出部と、
前記主目標角算出部が算出した前記目標回転角と、前記主回転角取得部が取得した前記主回転角の偏差を算出する主偏差算出部と、
前記主偏差算出部が算出した前記偏差が閾値よりも大きいか否かを判断する偏差判断部と、
前記偏差が前記閾値よりも大きいと前記偏差判断部が判断した場合に、前記メインモータと前記布送りモータが同期していないことを作業者に報知するエラー制御部と
を備えたミシン。
【請求項3】
前記エラー制御部は、前記偏差が前記閾値よりも大きいと前記偏差判断部が判断した場合に、前記駆動制御部による前記メインモータ及び前記布送りモータの駆動を停止する請求項1又は2に記載のミシン。
【請求項4】
前記布送り機構の所定位置を設定可能な設定部と、
前記布送り機構が前記設定部により設定した前記所定位置に到達したか否かを判断する到達判断部とを更に備え、
前記動作確認部は、前記布送り機構が前記所定位置に到達したと前記到達判断部が判断した場合に、前記メインモータ及び前記布送りモータの動作状態を確認する請求項1乃至3の何れかに記載のミシン。
【請求項5】
前記縫針の上下動に同期して前記布送り機構を針板の上方と下方の間で上下動する布送り機構上下動部を更に備え、
前記設定部は、前記布送り機構が前記布送り機構上下動部により前記針板の板面から上昇する上昇位置、及び前記針板の板面から下降する下降位置の少なくともいずれかの位置を前記所定位置に設定する請求項4に記載のミシン。
【請求項6】
前記動作確認部は所定間隔毎に前記メインモータ及び前記布送りモータの動作を確認する請求項1乃至3の何れかに記載のミシン。
【請求項7】
縫針を上下動する主軸を駆動するメインモータと、前記メインモータの出力軸の回転角である主回転角を検出する主回転角検出部と、布を送る布送り機構を駆動する布送りモータと、前記布送りモータの出力軸の回転角である布送り回転角を検出する布送り回転角検出部とを備えたミシンが実行する制御方法において、
前記主回転角検出部が検出した前記主回転角の検出結果を取得する主回転角取得ステップと、
前記布送り回転角検出部が検出した前記布送り回転角の検出結果を取得する布送り回転角取得ステップと、
前記主回転角取得ステップで取得する前記主回転角と前記布送り回転角取得ステップで取得する前記布送り回転角が縫製プログラムに従って同期するように、前記メインモータ及び前記布送りモータを駆動する駆動制御ステップと、
前記メインモータ及び前記布送りモータの動作状態を確認する動作確認ステップとを備え、
前記動作確認ステップは、
前記駆動制御ステップで前記メインモータ及び前記布送りモータを駆動している場合に、主回転角に対応して前記布送りモータの出力軸が位置すべき目標回転角を、前記主回転角取得ステップで取得した前記主回転角から算出する布送り目標角算出ステップと、
前記布送り目標角算出ステップで算出した前記目標回転角と、前記布送り回転角取得ステップで取得した前記布送り回転角の偏差を算出する布送り偏差算出ステップと、
前記布送り偏差算出ステップで算出した前記偏差が閾値よりも大きいか否かを判断する偏差判断ステップと、
前記偏差が前記閾値よりも大きいと前記偏差判断ステップで判断した場合に、前記メインモータと前記布送りモータが同期していないことを作業者に報知するエラー制御ステップと
を含むミシンの制御方法。
【請求項8】
縫針を上下動する主軸を駆動するメインモータと、前記メインモータの出力軸の回転角である主回転角を検出する主回転角検出部と、布を送る布送り機構を駆動する布送りモータと、前記布送りモータの出力軸の回転角である布送り回転角を検出する布送り回転角検出部とを備えたミシンが実行する制御方法において、
前記主回転角検出部が検出した前記主回転角の検出結果を取得する主回転角取得ステップと、
前記布送り回転角検出部が検出した前記布送り回転角の検出結果を取得する布送り回転角取得ステップと、
前記主回転角取得ステップで取得する前記主回転角と前記布送り回転角取得ステップで取得する前記布送り回転角が縫製プログラムに従って同期するように、前記メインモータ及び前記布送りモータを駆動する駆動制御ステップと、
前記メインモータ及び前記布送りモータの動作状態を確認する動作確認ステップとを備え、
前記動作確認ステップは、
前記駆動制御ステップで前記メインモータ及び前記布送りモータを駆動している場合に、布送り回転角に対応して前記メインモータの出力軸が位置すべき目標回転角を、前記布送り回転角取得ステップで取得した前記布送り回転角から算出する主目標角算出ステップと、
前記主目標角算出ステップで算出した前記目標回転角と、前記主回転角取得ステップで取得した前記主回転角の偏差を算出する主偏差算出ステップと、
前記主偏差算出ステップで算出した前記偏差が閾値よりも大きいか否かを判断する偏差判断ステップと、
前記偏差が前記閾値よりも大きいと前記偏差判断ステップで判断した場合に、前記メインモータと前記布送りモータが同期していないことを作業者に報知するエラー制御ステップと
を含むミシンの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−205840(P2012−205840A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75388(P2011−75388)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】