説明

ミトコンドリアアルデヒドデヒドロゲナーゼ−2を調節するための方法および組成物

本発明は、ミトコンドリアアルデヒドデヒドロゲナーゼ-2(AldDH2)の活性を調節する因子を同定するためのスクリーニング方法、ならびにスクリーニング方法により同定される因子を提供する。本発明はさらに器官における虚血組織損傷またはフリーラジカル誘導損傷を縮小する方法を提供し、本方法は概してAldDH2レベルおよび/または活性を増加する因子を器官に接触させる段階を含む。本発明はさらに固形腫瘍を治療する方法を提供し、本方法は概してAldDH2レベルおよび/または活性を低減する因子を投与する段階を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、虚血性組織損傷の分野、特に虚血事象による組織損傷を調節するミトコンドリアアルデヒドデヒドロゲナーゼ−2の調節因子の利用についてである。
【背景技術】
【0002】
相互参照
本願は、全体の内容が参照として本明細書に組み入れられている、2003年12月9日提出の米国仮特許出願第60/528,441号の恩典を主張する。
【0003】
連邦政府委託研究に関する表明
国立衛生研究所により与えられたグラント第AAA11147号に準じて、米国政府は本発明において一定の権利を有しうる。
【0004】
発明の背景
血液および酸素を奪われた組織は、不可逆的な器官損傷の可能性を伴う虚血性壊死または梗塞うける。例えば手術中のような、いくつかの状況では、いくつかの器官の虚血をもたらす血流の遮断は避けられない。加えて、固形腫瘍の場合、血流を遮断し、実際に虚血を誘導することが望ましい。いったん、血流および酸素が器官または組織に戻しても(再かん流)、器官は通常の虚血前の状態にすぐには戻らない。例えば、虚血心筋の場合、再かん流された虚血後非壊死性心筋は収縮性が乏しくなり、高エネルギー核酸の濃度の減少、細胞内小器官機能の低下および緩やかにしか解消しない膜損傷を有する。
【0005】
当技術分野において、本技術領域で虚血による組織損傷の低減方法および固形腫瘍の治療方法が必要である。本発明はこれらの必要性に対応する。
【0006】
文献
米国特許第6,165,977号; 米国特許公報第20020168354号および同第20020150984号; Inagaki et al. (2003) Circulation 108:869-875; Mackay and Mochly-Rosen (2001) Cardiovasc. Res. 50:65-74。
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
本発明は、ミトコンドリアアルデヒドデヒドロゲナーゼ-2(AldDH2)の活性を調節する因子を同定するためのスクリーニング方法、ならびに本スクリーニング方法により同定される因子を提供する。本発明はさらに器官における虚血性組織損傷またはフリーラジカル誘導損傷を低減する方法を提供し、本方法は概してAldDH2のレベルおよび/または活性を増加する因子を器官に接触させる段階を含む。本発明はさらに固形腫瘍を治療する方法を提供し、本方法は概してAldDH2のレベルおよび/または活性を低減する因子を投与する段階を含む。
【0008】
定義
「因子」という用語は、任意の物質、分子、要素、化合物、存在物(entity)、またはそれらの組合せを含む。「因子」という用語は、例えば有機低分子、無機低分子、および多糖類、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、糖タンパク質、リポタンパク質などのような高分子を含むが、これに限定されるわけではない。「因子」は天然物、合成化合物、半合成化合物、もしくは化学化合物、または2つ以上の物質の組合せである。特に定めのない限り、「因子」、「候補因子」、「試験因子」、「物質」、および「化合物」という用語は互換的に用いられる。
【0009】
「類似体」という用語は本明細書では、対象の分子と構造的に類似するが、参照分子の特定の置換基を代わりの置換基へ変更することにより目標とされた制御された挙動に修飾されている分子を指すときに使われる。出発分子と比較して、類似体は同様の、類似の、または改良された有用性を示す可能性がある。改良された特性(例えば、特定の受容体種類でのより高い有効性、または標的受容体種類での高い選択性およびその他の受容体種類での低い活性レベル)を持つ周知化合物の変異体を同定するための類似体の合成およびスクリーニングは薬化学ではよく知られた研究方法である。
【0010】
「個体」、「宿主」、「被験体」、および「患者」という用語は、本明細書で互換的に用いられ、マウス、ネコ、サル、ヒト、哺乳類の家畜、哺乳類の競技動物、および哺乳類の愛玩動物を含むがこれに限定されない哺乳類を指す。
【0011】
本明細書で用いられるように、「治療」および「処置」などの用語は、望ましい薬理的および/または生理的効果を得ることを指す。本効果は 完全にまたは部分的に疾患またはその症状を防止するという点ではで予防的である場合があり、および/または、疾患をおよび/または疾患に起因する悪影響を部分的または完全に治癒するという観点では治療的である場合がある。本明細書で使用される「処置」は、特にヒトである哺乳動物における疾患の任意の処置に及び、(a)疾患にかかりやすい可能性があるがまだ診断されていない被験者の疾患の発症を予防すること、(b)疾患を阻害することすなわちその進行を阻むこと、および(c)疾患を緩和するこちすなわち疾患の退行をもたらすことを含む。
【0012】
本発明をさらに説明する前に、本発明が記載される特定の態様に限定されず、このようなものは当然のことながら異なってもよいことが理解されるべきである。本発明の範囲は添付の請求の範囲のみによって限定され、本明細書において用いられる用語は特定の態様を説明することのみを目的としており、本発明の範囲を限定することを意図したものではないこともまた理解されるべきである。
【0013】
数値範囲が提供される場合、文脈が別に明確に定めている場合を除き下限値の単位の10分の1でその範囲の上下限の間のそれぞれ数値、およびその範囲中の任意のその他の規定されたまたは間の数値が本発明内に包含される。これらより小さな範囲の上下限は、単独でより小さな範囲に含まれてもよく、また指定された範囲で明確に排除される限界に従って本発明内に包含される。指定された範囲が一つまたは両方の限界を含む場合、含まれる限界の一方または両方を除いた範囲もまた本発明に含まれる。
【0014】
別に定義する場合を除き、本明細書において用いられる全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を持つ。本発明の実施または検討のために本明細書に記載したものと類似または同等の任意の方法および材料もまた用いることができるが、好ましい方法および材料を以下に記載する。本明細書において言及する全ての刊行物は、その参考文献が引用される元となった方法および/または材料を説明および開示する目的で参照として本明細書に組み入れられる。
【0015】
本明細書および添付する特許請求の範囲において用いられるように、単数形(「a」、「an」、および「the」)は、その文脈で明らかに別の指示がなされない限り、複数のものに関する言及も含む。したがって、例えば、「因子」という言及は複数のそのような因子を含み、「AldDH2ポリペプチド」という言及は一つ以上のAldDH2ポリペプチドおよび当業者に周知のその同等物に対する言及も含み、その他も同様である。
【0016】
本明細書で論ずる刊行物は、本出願の提出日の以前にさかのぼってそれらの開示を提供する目的のみで提供される。本明細書中のいかなる記載も、本発明が先行発明によるこのような刊行物に先行する権利を持たないことを認めたものとみなされるべきではない。さらに、提供される刊行物の日付は実際の刊行日と異なる可能性があり、個別に確認する必要がある可能性がある。
【0017】
発明の詳細な説明
本発明は、ミトコンドリアアルデヒドデヒドロゲナーゼ-2(AldDH2)の活性を調節する因子を同定するためのスクリーニング方法、ならびにスクリーニング方法により同定される因子を提供する。本発明はさらに器官における虚血性組織損傷またはフリーラジカル誘導損傷を低減する方法を提供し、本方法は概してAldDH2のレベルおよび/または活性を増加する因子に器官を接触させる段階を含む。本発明はさらに固形腫瘍を治療する方法を提供し、本方法は概してAldDH2のレベルおよび/または活性を低減させる因子を投与する段階を含む。
【0018】
本発明は、部分的に、低レベルエタノールへの器官の曝露またはイプシロンプロテインキナーゼC(εPKC)の直接的活性化によるミトコンドリアAldDH2が介在する心保護の観察に基づいている。ミトコンドリアAldDH2がエタノールおよびεPKC活性化により活性化され、ミトコンドリアAldDH2触媒活性の増加は梗塞サイズと逆相関性があることが観察された。本データはミトコンドリアAldDH2が心臓の虚血および再かん流からの心保護の重要な伝達物質であることを示唆している。
【0019】
スクリーニング方法
本発明は、ミトコンドリアアルデヒドデヒドロゲナーゼ-2(AldDH2)のレベルおよび/または活性を調節する因子を同定するための方法を提供する。「調節する」という用語は「増加する」および「低減する」を含む。いくつかの態様で特に対象となる態様は、AldDH2活性および/またはレベルを増加する因子の同定方法である。AldDH2活性および/またはレベルを増加する因子は、虚血の治療に有用であることが予想される。特に対象となる態様はAldDH2活性および/またはレベルを低減する因子である。AldDH2活性を阻害する因子は抗固形腫瘍治療として有用であることが予想される。
【0020】
いくつかの様態では、本発明はAldDH2酵素活性を調節する因子を同定するための方法を提供する。本方法は概して、AldDH2を含むサンプルを試験因子に接触させる段階、および試験因子のAldDH2活性に対する効果がある場合は測定する段階を含む。通常は、サンプルはAldDH2の基質も含む。
【0021】
本明細書において用いられる「測定する」という用語は定量的および定性的測定の両方を言及し、そのようなものとして、「測定する」という用語は本明細書において「検定する」および「計測する」などと互換的に用いられる。
【0022】
いくつかの態様では、本発明はAldDH2のmRNAおよび/またはタンパク質のレベルを増加または低減する因子を同定するための方法を提供する。本方法は概して、AldDH2をコードするヌクレオチド配列を含む核酸配列を含む細胞に接触させる段階、および試験因子のAldDH2のmRNAおよび/またはポリペプチドレベルに対する効果がある場合は測定する段階を含む。
【0023】
「候補因子」、「試験因子」、「因子」、「物質」および「化合物」は本明細書において互換的に用いられる。候補因子は、典型的には合成、半合成、または天然由来の無機もしくは有機分子である多数の化学的分類を包含する。候補因子は、合成または天然化合物の多数のライブラリから入手できるものも含む。例えば、合成化合物のライブラリは、Maybridge Chemical Co.(Trevillet、Cornwall、UK)、ComGenex(South San Francisco、CA)、およびMicroSource(New Milford、CT)から市販されている。希少な化合物ライブラリはAldrich(Milwaukee、Wis)から入手可能である。または、バクテリア、菌類、植物および動物の抽出物の形態での天然化合物のライブラリはPan Labs(Bothell、WA)から入手可能であり、または容易に生成できる。
【0024】
候補因子は、50ダルトンより大きく約10,000ダルトン未満の分子量を持つ有機または無機の低分子化合物であってよく、例えば、候補因子は約50ダルトンから約100ダルトン、約100ダルトンから約200ダルトン、約200ダルトンから約500ダルトン、約500ダルトンから約1,000ダルトン、約1,000ダルトンから約2,500ダルトン、約2,500ダルトンから約5,000ダルトン、約5,000ダルトンから約7,500ダルトン、または約7,500ダルトンから約10,000ダルトンの分子量であってよい。候補因子は、タンパク質との構造的相互作用、特に水素結合に必要な官能基を含んでもよく、少なくとも1つのアミン基、カルボニル基、水酸基、またはカルボキシル基を含んでもよく、少なくとも2つの官能基を含んでもよい。候補因子は、一つ以上の前記官能基で置換された環状炭素もしくは複素環構造および/または芳香族もしくは多環芳香族構造を含んでもよい。候補因子はまたペプチド、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン類、ピリミジン類、誘導体、構造的類似体、またはそれらの組合せを含む生体分子中から見出される。
【0025】
本発明の検定は対照も含み、適当な対照はサンプル(例えば、試験因子非存在下でAldDH2および基質を含むサンプル、試験因子非存在下で細胞を含むサンプル、試験因子非存在下の細胞サンプルなど)を含む。一般に、複数の測定混合物が様々な濃度に対する異なる反応を得るために異なる因子濃度で平行して実施される。典型的には、これらの濃度の一つは陰性の対照としての機能を果たす、すなわち、0濃度または検出レベル以下である。
【0026】
様々なその他の試薬がスクリーニング検定に含まれてもよい。これらは、酵素活性最適化を容易にし、および/または非特異的またはバックグラウンド活性を低減するのに用いられる因子を含む、塩類、例えばアルブミンである中性のタンパク質、界面活性剤等のような試薬を含む。プロテアーゼ阻害剤、ヌクレアーゼ阻害剤、抗菌剤などのような検定の効果を改善する試薬が用いられてもよい。検定混合物の構成要素は必要な活性が与えられるような任意の順序で加えられる。培養は任意の適した温度、典型的には4℃から40℃の間で行われる。培養期間は最適活性で選択されるが、ハイスループットスクリーニングを容易にするよう最適化されてもよい。典型的には、0.1から1時間の間で十分である。
【0027】
スクリーニング方法は、いくつかの異なる方法で設計されてもよく、そしてそこで当技術分野で周知の様々な検定形態および手順が用いられてもよい。例えば、構成要素のひとつが固体の支持体に結合され、構成要素が結合した支持体に残りの構成要素が接触してもよい。本方法の上記構成要素を実質的に同時にまたは異なる時間に混合してもよい。
【0028】
AldDH2
本明細書において用いられる「ミトコンドリアAldDH2」という用語は、NAD依存性反応でその相当する酸へのアルデヒドの酸化を触媒する酵素を言及する。様々な種由来のミトコンドリアAldDH2のアミノ酸配列は公的に入手可能である。例えば、ヒトミトコンドリアAldDH2アミノ酸配列はGenBankアクセッション番号AAH02967およびNP_000681で見出され、マウスミトコンドリアAldDH2アミノ酸配列はGenBankアクセッション番号NP_033786で見出され、ラットミトコンドリアAldDH2アミノ酸配列はGenBankアクセッション番号NP_115792で見出される。本明細書において用いられる「ミトコンドリアAldDH2」という用語は、従って、AldDH2酵素活性を保持する断片、融合タンパク質、および変異体(例えば、一つ以上のアミノ酸の置換、付加、欠失、および/または挿入を有する変異体)もまた包含する。特定の酵素的に活性なAldDH2変異体、断片、融合タンパク質などは本明細書において説明する方法を適合することにより検証することができる。
【0029】
被験体スクリーニング方法に適した変異体タンパク質は酵素活性を保持している。保存残基、突然変異された場合酵素活性低減をもたらす残基、および実質的に酵素活性に影響を与えず突然変異させることが可能な残基が当技術分野で周知されており、および/または当業者によりたやすく同定される。保存残基、突然変異された場合に酵素活性の低減をもたらす残基、および実質的に酵素活性に影響を与えず突然変異させることが可能な残基について論じている刊行物としては、例えば、Sheikh et al. ((1997) J. Biol. Chem. 272:18817-18822)およびFarres et al. ((1994) J. Biol. Chem. 269:13854-13860)が挙げられる。
【0030】
ミトコンドリアAldDH2融合タンパク質は、AldDH2および異種ポリペプチド(「融合パートナー」)を含み、そしてそこで融合パートナーはAldDH2ポリペプチドのアミノ末端またはカルボキシル末端に結合される。適した融合パートナーは、血球凝集素およびFLAGなどを含むがこれに限定されるわけではないエピトープタグのような免疫タグ、蛍光タンパク質および酵素(例えば、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼなど)などを含むがこれに限定されるわけではない検出可能なシグナルを与えるタンパク質、6Hisタグ(例えば、AldDH2/6His)およびグルタチオン-S-トランスフェラーゼなどのような例えば金属イオン結合ポリペプチドである融合タンパク質の精製または単離を容易にするポリペプチド、細胞内局在性を与えるポリペプチド、および細胞からの分泌能を与えるポリペプチドを含む。
【0031】
本発明の検定で用いられるミトコンドリアAldDH2は酵素の供給源(例えば、天然にAldDH2を産生する細胞から)から、合成法または組換え技術により単離することができ、それぞれの方法は当技術分野で周知である。
【0032】
AldDH2酵素活性調節因子の同定
いくつかの態様において、本発明はAldDH2酵素活性を増加または低減する因子を同定するための方法を提供する。多くの態様において、そのような検定法は無細胞インビトロ検定である。本方法は概して、AldDH2を含むサンプル(例えば、無細胞サンプル)を試験因子とインビトロで接触させる段階、およびもしあれば試験因子のAldDH2活性に対する効果を測定する段階を含む。典型的には、サンプルはAldDH2の基質および補因子NADも含む。
【0033】
ミトコンドリアAldDH2の検定法は当技術分野で周知であり、任意の周知の検定法を本スクリーニング方法で用いることができる。検定法の例は、例えばSheikh et al. ((1997) J. Biol. Chem. 272:18817-18822)およびFarres et al. ((1994) J. Biol. Chem. 269:13854-13860)を含む、様々な刊行物で見出される。例えば、ミトコンドリアAldDH2は25℃で50mMピロリン酸ナトリウムHCl緩衝液、pH9.0、100mMリン酸ナトリウム緩衝液pH7.4、または50mMリン酸ナトリウム緩衝液pH7.4で検定され、そしてそこで緩衝液はNAD(例えば0.8mMまたはより高いNAD、例えば1mM、2mM、または5mMのNAD)および14μMのプロピオンアルデヒドのような基質を含む。NADの還元は、分光光度計を用いて340nmで、または蛍光マイクロ光度計を用いた蛍光増加によって観察される。
【0034】
ミトコンドリアAldDH2酵素活性は標準分光光度法を用いて、例えば図9で図式的に示すようにニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の酸化型の還元型NADHへの還元反応を340nmで測定することにより、検定することができる。典型的な検定では、25℃、0.1NaPPi緩衝液、pH9.5、2.4mMのNADおよび基質として10mMのアセトアルデヒドで反応が行われる。酵素活性は図9で表すように(読み出しA)NADのNADHへの還元反応により340nmで計測される。または、NADHの生成は、NADHを消費し、検出可能なシグナルを与えるもう一つの酵素反応を伴うことができる。そのような酵素反応の一つの例は、ジアフォラーゼを基本にした反応で、そしてそれは図9で図式的に表すようにレザズリン(resazurin)をその酸化蛍光化合物レゾルフィン(resorufin)に還元する。590nmでの蛍光レゾルフィンの検出が、ミトコンドリアAldDH2酵素活性における任意の変化(図9読み出しB)のための増幅したより感度のよいシグナルを提供する。
【0035】
限定されない一つの例として、ミトコンドリアAldDH2酵素活性のための120μl反応混合液は次の構成要素を含む:
【0036】
43μl 150mM ピロリン酸ナトリウム(NaPPi)緩衝液、pH9.0、
【0037】
30μl 10mM NAD
【0038】
15μl 80mM アセトアルデヒド、
【0039】
1μl レザズリン(0.2mg/ml in H2O)、
【0040】
1μl ジアフォラーゼ(1unit、例えば、Clostridium kluyveriから)、
【0041】
2μl AldDH2(例えば、2μl 0.5〜2μg/μl 組換えヒトミトコンドリアAldDH2)および、
【0042】
28μl 適当な溶媒(例えば水溶液、DMSOなど)に再懸濁された試験される因子を含む溶液(化学化合物ライブラリコレクションより)。
【0043】
表1で記載のとおり、上記記載の反応の蛍光検出:
【0044】
【表1】

【0045】
本反応は96穴、384穴、1536穴のマイクロウェルプレートなどでおわれる、または他のスクリーニング形式へ適合させることができる。
【0046】
いくつかの態様において、インビトロ無細胞検定は精製ミトコンドリアAldDH2を用い、ここで「精製」は、混入物質またはその他の望ましくない要素がないことを意味する。本スクリーニング方法に適している精製ミトコンドリアAldDH2は、少なくとも約70%純粋、少なくとも約75%純粋、少なくとも約80%純粋、少なくとも約85%純粋、少なくとも約90%純粋、少なくとも約95%純粋、少なくとも約98%純粋、少なくとも約99%純粋、または99%を超えて純粋である。
【0047】
精製ミトコンドリアAldDH2は、いくつかの態様において酵素活性を維持するために一つ以上の安定化剤の添加により安定化される。いくつかの態様において、精製ミトコンドリアAldDH2の溶液はミトコンドリアAldDH2の水溶液および約10%から約50%のグリセロール、例えば約10%から約15%、約15%から約20%、約20%から約25%、約25%から約30%、約30%から約35%、約35%から約40%、約40%から約45%、または約45%から約50%のグリセロールを含む。いくつかの態様において、ミトコンドリアAldDH2の溶液は一つ以上のキレート剤(例えば、EDTAまたはEGTA)、NaCl、MgCl2、およびKClなどのような塩類、トリス緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水、およびピロリン酸ナトリウム緩衝液などのような緩衝液、および一つ以上のプロテアーゼ阻害剤などをさらに含む。
【0048】
いくつかの態様において、インビトロ無細胞検定は組換えミトコンドリアAldDH2を用いる。組換えミトコンドリアAldDH2は単細胞微生物、または単細胞の存在物としてインビトロ培養液内で成長する多細胞生物体の細胞のような様々な宿主細胞から容易に調製される。適している宿主細胞は、Escherichia coliのような細菌細胞、Saccharomyces cerevisiae、Pichia pastoris、Hansenula polymorpha、Kluyveromyces lactis、Yarrowia lipolytica、Candida utilis、およびSchizosaccharomyces pombeなどのような酵母細胞、Drosophila melanogaster細胞のような昆虫細胞、ツメガエル(xenopus)細胞のような両生類細胞、ならびにCHO細胞、3T3細胞のような哺乳類細胞などを含む。いくつかの態様において、インビトロ無細胞検定はヒトミトコンドリアAldDH2を用いる。いくつかの態様において、インビトロ無細胞検定はE. coli細胞で組換え技術によって産生されるミトコンドリアAldDH2を用いる。
【0049】
いくつかの態様において、インビトロ無細胞検定は、融合パートナーと読み枠内(in-frame)で融合するミトコンドリアAldDH2を含む融合タンパク質を用いる。いくつかの態様において、融合パートナーはエピトープタグである。いくつかの態様において、融合パートナーは金属キレートペプチドである。いくつかの態様において、金属キレートペプチドはヒスチジン多量体、例えば(His)6である。いくつかの態様において、(His)6多量体はミトコンドリアAldDH2のアミノ末端と融合し、その他の態様において、(His)6多量体はミトコンドリアAldDH2のカルボキシル末端と融合する。(His)6-ミトコンドリアAldDH2融合タンパク質は任意の様々な入手可能なニッケル親和性カラム(例えば、His結合樹脂、Novagen)を用いて精製される。
【0050】
いくつかの態様において、対象の試験因子は、試験因子を含まない対照と比較した際に、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約2倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約20倍、少なくとも約50倍、または少なくとも約100倍、またはそれ以上、AldDH2酵素活性を増加する。
【0051】
いくつかの態様において、対象の試験因子は、試験因子を含まない対照と比較した際に、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約2倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約20倍、少なくとも約50倍、または少なくとも約100倍、またはそれ以上、AldDH2酵素活性を低減する。
【0052】
ミトコンドリアAldDH2のmRNAおよび/またはポリペプチドレベルを調節する因子の同定
いくつかの態様において、本発明はAldDH2 mRNAおよび/またはAldDH2ポリペプチドのレベルを増加または低減する因子を同定するための方法を提供する。本方法は概して、AldDH2をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を含む細胞を接触させる段階、およびもしあればAldDH2 mRNAおよび/またはポリペプチドレベルに対する試験因子の効果を測定する段階を含む。多くの態様において、本検定はインビトロでの細胞に基づいた検定である。
【0053】
候補因子は、検定で用いられる細胞に対して示す可能性がある任意の細胞毒性について、トリパンブルー色素排除法およびMTT(3-(4,5-ジメチルチアゾル-2-イル)-2,5-ジフェニル-2-H-テトラゾリウムブロミド)検定などのような周知の検定法を用いて評価される。細胞毒性を示さない因子が、候補因子と見なされる。
【0054】
多種多様の細胞に基づいた検定法が、真核細胞においてAldDH2 mRNAのレベルを増加または低減する因子の同定のために用いられてもよく、例えば通常にAldDH2 mRNAを生成する真核性の細胞、cDNAを過剰発現するようなAldDH2コードcDNAを含む構築物で形質転換された哺乳類細胞、またはレポーター遺伝子に機能的に結合されたAldDH2プロモーターを含む構築物で遺伝的に修飾された細胞を用いる。検定がインビトロ細胞に基づいた検定である場合、任意の様々な細胞を用いることができる。
【0055】
本検定で用いられる細胞は、通常真核細胞であり、齧歯類細胞、ヒト細胞および酵母細胞を含むがこれらに制限されるわけではない。細胞は初代培養細胞であってもよく、不死化細胞株であってもよい。細胞は「組換え体」であってもよく、例えばAldDH2ポリヌクレオチドをコードするヌクレオチド配列を含む、またはレポーター遺伝子に機能的に結合されたAldDH2プロモーターを含むヌクレオチド配列を含む構築物(例えば、プラスミド、組換えウイルスベクター、またはその他適したベクター)を一過性または安定的に挿入した細胞であってもよい。
【0056】
従って、本発明は、特に生理活性因子である、細胞におけるAldDH2発現レベルを増加または低減する因子を同定するための方法を提供し、本方法は、試験する候補因子をAldDH2ポリペプチドをコードする核酸またはレポーター遺伝子と機能的に結合しているAldDH2プロモーターを含む構築物を含む細胞と混合する段階、および該因子のAldDH2発現に対する効果を測定する段階を含む。
【0057】
試験される候補因子の細胞への接触に続いて、因子を添加しなかった対照と比較して、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、またはそれ以上のAldDH2 mRNAおよび/またはポリペプチドのレベル(すなわち、量)の増加が、因子がAldDH2発現を増加することを表す。
【0058】
試験される候補因子の細胞への接触に続いて、因子を添加しなかった対照と比較して、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、またはそれ以上のAldDH2 mRNAおよび/またはポリペプチドのレベル(すなわち、量)の低減が、因子がAldDH2発現を低減することを表す。
【0059】
そのレベルが計測されるAldDH2 mRNAおよび/またはポリペプチドは内因性のAldDH2ポリヌクレオチドによりコードされてもよく、またはAldDH2 mRNAおよび/またはポリペプチドをコードするAldDH2ポリヌクレオチドは組換えベクターの中に含まれ細胞内に導入することができる、すなわちAldDH2 mRNAおよび/またはポリペプチドは外因性AldDH2ポリヌクレオチドによりコードされていてもよい。例えば、組換えベクターは、AldDH2コード領域に機能的に結合しているプロモーター配列のようなAldDH2転写制御配列を含んでもよい。
【0060】
または、いくつかの態様において、組換えベクターはレポーター遺伝子(例えば、β-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコール・アセチル・トランスフェラーゼ、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、または発現を容易に検定できるその他の遺伝子)に機能的に結合しているAldDH2転写制御配列を含んでもよく、そしてレポーター遺伝子のレベルが検定される。これらの態様において、細胞でのAldDH2発現のレベルを調節する因子同定のための方法は、試験すべき候補因子とレポーター遺伝子と機能的に結合しているAldDH2遺伝子転写調節要素を含む核酸を含んでいる細胞とを混合する段階、および該因子のレポーター遺伝子発現に対する効果を測定する段階を含む。
【0061】
組換えベクターは、プロモーター配列のようなAldDH2ポリペプチドをコードする配列に機能的に結合された孤立したAldDH2調節配列、または検出を容易にするポリペプチドと融合したAldDH2ポリペプチドを含むAldDH2融合タンパク質をコードする配列と機能的に結合することができる転写制御配列を含んでもよい。これらの態様において、方法は、試験すべき候補因子とAldDH2ポリペプチドコード配列と機能的に結合しているAldDH2遺伝子転写調節要素を含む核酸を含んでいる細胞とを混合する段階、および該因子のAldDH2遺伝子発現に対する効果を測定する段階を含み、その測定は細胞から産生されるAldDH2 mRNA、AldDH2ポリペプチドまたはAldDH2融合タンパク質量の計測により行うことができる。
【0062】
細胞に基づく検定は一般に、細胞を試験すべき因子に接触させる段階、試験サンプルを形成する段階、および適当な時間後にAldDH2発現に対する因子の効果を評価する段階を含む。対照サンプルは候補因子の添加なしで、同一の細胞を含む。AldDH2発現レベルは試験サンプルおよび対照サンプル両方で測定される。試験サンプルと対照サンプル間におけるAldDH2発現レベルの比較が行われる。AldDH2発現は従来の検定法を用いて評価できる。例えば、哺乳類細胞株がAldDH2の発現を生じる構築物で形質転換された場合、AldDH2 mRNAレベルが検出および計測可能で、またはAldDH2ポリペプチドレベルが検出および計測可能である。因子を細胞に接触させる適した時間は実験的に測定することができ、一般的に細胞の中へ因子を侵入させ、因子がAldDH2 mRNAおよび/またはポリペプチドのレベルに対して計測可能な効果を有するのに十分な時間である。一般に適した時間は10分から24時間の間、または約1時間から約8時間である。
【0063】
AldDH2 mRNAレベルの検出
AldDH2 mRNAレベルの測定方法は当技術分野において周知であり、任意のこれらの方法は本発明の方法において細胞でAldDH2 mRNAを調節する因子を同定するために用いることができ、検出可能な標識オリゴヌクレオチドプライマーを用いるPCRのようなポリメーラーゼ連鎖反応(PCR)、および任意の様々なハイブリダイゼーション検定法を含むがこれらに限定されるわけではない。AldDH2 mRNAは直接または分析のためにcDNAに逆転写され、検定されてもよい。mRNAは精製されてもよいが、必須ではない。mRNAはいくつかの態様において細胞から単離される。他の態様において、計量は細胞溶解物で行われる。
【0064】
AldDH2 mRNAは、分析に十分な量を提供するために、PCR法のような従来の技術により増幅させてもよい。PCRの利用は、Saiki, et al. (1985)、Science 239:487で説明されおり、技術の概説はSambrook, et al. Molecular Cloning: A Laboratory Manual, CSH Press 1989、pp.14.2-14.33に見出されうる。定量PCR技術は文献で十分に説明されており、本方法での利用に適している。例えば、Quantitative PCR Protocols (Methods in Molecular Medicine, Vol. 26), B. Kochanowski and U. Reischl, eds., (1999) Humana Press、およびThe PCR Technique: Quantitative PCR (Bio Techniques Update series), J.W. Larrick, ed. (1997) Eaton Publ. Co.を参照のこと。
【0065】
検出可能な標識は、増幅反応例えばPCR反応で取り込まれてもよい。適した標識は蛍光色素、例えばフルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、テキサスレッド、フィコエリトリン、アロフィコシアニン、6-カルボキシフルオレセイン(6-FAM)、2',7'-ジメトキシ-4',5'-ジクロロ-6-カルボキシフルオレセイン(JOE)、6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、6-カルボキシ-2',4',7',4,7,-ヘキサクロロフルオレセイン(HEX)、5-カルボキシフルオレセイン(5-FAM)またはN,N,N',N'-テトラメチル-6-カルボキシローダミン(TAMRA)、および放射性標識、例えば32P、35S、3Hなどを含む。標識は二段階のシステムでもよく、増幅したDNAは、高親和性結合パートナー、例えばアビジン、特定の抗体などを有するビオチン、ハプテンなどと結合し、この結合パートナーが検出可能な標識と結合する。標識は片側または両側のプライマーに結合してもよい。または、増幅産物の中に標識が取り込まれるように、増幅で用いられるヌクレオチドのプールが標識化される。
【0066】
以下は典型例であり、本方法の利用に適しているPCR反応の限定されない例である。PCR反応混合物は以下の構成要素を含むように調整される: DNA 100ng、10X緩衝液(100mMトリス、pH8.3、500mM KCl)5μl、25mM dNTPs 4μl、25mM MgCl2 3μl、フォワードプライマー(10μM)2μl、リバースプライマー(10μM)2μl、Taqポリメラーゼ(5U/μl)0.2μl、総量50μl。適したPCRパラメーターは次の通りである: 95℃3分間鋳型の変性、続いて94℃1分、55℃1分、および72℃1.5分を35サイクル。35サイクルに引き続き、72℃10分間反応がさらに行われる。当業者であれば、その他の適したPCR構成要素および条件を容易に決めることができる。
【0067】
サンプル中の核酸存在量を測定する様々なその他の方法は当業者に周知であり、特に関心対象となる方法はPietu et al., Genome Res. (June 1996) 6:492-503、Zhao et al., Gene (April 24, 1995) 156:207-213、Soares, Curr. Opin. Biotechnol. (October 1997) 8:542-546、Raval, J. Pharmacol Toxicol Methods (November 1994) 32:125-127、Chalifour et al., Anal. Biochem (February 1, 1994) 216:299-304、Stolz & Tuan, Mol. Biotechnol. (December 1996) 6:225-230、Hong et al., Bioscience Reports (1982) 2:907、およびMcGraw, Anal. Biochem. (1984) 143:298で説明する方法を含む。WO97/27317に開示されている方法も関心対象であり、その開示内容は本明細書に参照として組み入れられる。
【0068】
AldDH2ポリペプチドレベルの検出
同様に、AldDH2ポリペプチドレベルが任意の標準的な方法を用いて計測が可能であり、いくつかの方法は本明細書において説明され、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)のような免疫学的検定法、例えばミトコンドリアAldDH2ポリペプチドに対して特異的な検出可能な標識化抗体を用いたELISAを含むがそれに限定されるわけではない。
【0069】
AldDH2ポリペプチドレベルはまた、AldDH2融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む組換え構築物を内部に持つ細胞でも計測することができ、そしてそこでは融合パートナーが検出可能なシグナルを提供し、または別の方法で検出することができる。例えば、融合パートナーが免疫学的に認識可能なエピトープ(「エピトープタグ」)を提供する場合、融合パートナーのエピトープに対して特異的な抗体をAldDH2のレベルの検出および定量のために用いることができる。いくつかの態様において、融合パートナーは検出可能なシグナルを与え、これらの態様において検出方法は融合パートナーによって生じるシグナルの種類に基づいて選ばれる。例えば、融合パートナーが蛍光タンパク質の場合、蛍光発光を計測する。蛍光タンパク質は、例えば自然発生のヌクレオチド配列のコドンがヒトコドンの傾向により近く合うよう変更されているGFPの「ヒト化」版、Aequoria victoria由来のGFPまたは例えばClontech, Inc.から市販されているEnhanced GFPのようなヒト化誘導体であるその誘導体、例えばWO99/49019およびPeelle et al. (2001) J. Protein Chem. 20:507-519で説明されているようなRenilla reniformis、Renilla mulleri、またはPtilosarcus guernyiのような他の種からのGFP、「ヒト化」組換えGFP(hrGFP)(Stratagene)、および例えばMatz et al. (1999) Nature Biotechnol. 17:969-973などに記載されているような花虫綱(Anthozoa)の種からの様々な蛍光および有色タンパク質などを含むが、これらに限定されるわけではない緑色蛍光タンパク質(GFP)を含むが、これに限定されるわけではない。融合パートナーが検出可能生成物を生じる酵素である場合、生成物を適当な手段を用いて検出することができる、例えば、β-ガラクトシダーゼは基質にもよるが分光光度法で検出される有色物質または蛍光物質を生じることができ、ルシフェラーゼは照度計で検出可能な発光性の物質を生じることができる。
【0070】
多くの方法が特定のサンプルにおけるタンパク質のレベル測定で利用可能である。例えば、検出は、慣習的な方法に従って行われる、細胞または組織切片の標識抗体での染色を利用してもよい。細胞は細胞質分子を染色するために透過される。対象の抗体は、細胞サンプルに添加され、エピトープに結合するのに十分な期間、通常少なくとも約10分間、培養される。抗体は、放射性同位体、酵素、蛍光体(fluorescer)、化学発光体、または直接検出のためのその他の標識で、標識化されてもよい。または、第二段階の抗体または試薬はシグナルの増幅に用いられる。このような試薬は当技術分野において周知である。例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ結合アビジンが第二段階の試薬として添加されるのであれば、第一の抗体をビオチンと結合させてもよい。最終的な検出はペルオキシダーゼの存在下で色変化を受ける基質を用いる。または、第二の抗体は蛍光化合物、例えばフルオレセイン、ローダミン、テキサスレッドなどと結合される。抗体結合の非存在または存在は、解離細胞のフローサイトメトリー、顕微鏡法、X線撮影、シンチレーション計測などを含む様々な方法により測定されてもよい。
【0071】
因子
本発明はさらに、個体の細胞においてミトコンドリアAldDH2のレベルおよび/または活性を増加する活性因子を提供する。因子は個体における虚血の治療、および器官の虚血性組織損傷の縮小に有用である。本発明はさらに、本因子を含んでいる医薬品組成物を含む組成物を提供する。
【0072】
いくつかの態様において、「活性」因子は、AldDH2のレベルおよび/または活性を増加し、活性因子の非存在下での損傷レベルと比較した場合、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、虚血性組織損傷を縮小するのに効果的な因子である。
【0073】
いくつかの態様において、「活性」因子は、AldDH2のレベルおよび/または活性を低減し、活性因子が非存在下での損傷レベルと比較した場合、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、虚血性組織損傷を増大するのに効果的な因子である。
【0074】
多くの態様において、因子は低分子であり、例えば50より大きく約10,000ダルトン未満の分子量を持つ有機または無機の低分子化合物である。因子は特に水素結合であるタンパク質との構造的相互作用に必要な官能基を含んでもよく、少なくとも1つのアミン基、カルボニル基、水酸基、またはカルボキシル基を含んでもよく、少なくとも2つの官能基を含んでもよい。因子は、一つ以上の前記官能基で置換された環状炭素もしくは複素環構造および/または芳香族もしくは多環芳香族構造を含んでもよい。因子はまたペプチド、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン類、ピリミジン類、誘導体、構造的類似体、またはそれらの組合せを含む生体分子中から見出される。
【0075】
いくつかの態様において、AldDH2のレベルまたは活性を低減する活性因子は、AldDH2のドミナントネガティブ突然変異体、細胞内発現抗体、ペプチドアプタマー、AldDH2レベルを減ずるアンチセンス、AldDH2レベルを低減するリボザイム、およびAldDH2レベルを低減するsiRNAなどである。
【0076】
ペプチドアプタマーはタンパク質機能の優性な阻害剤として作用するペプチドまたは小さなポリペプチドである。ペプチドアプタマーは作用能力を阻害する標的タンパク質に特異的に結合する。Kolonin and Finley, PNAS (1998) 95:14266-14271。ペプチドアプタマーの高い選択的性質のために、特定のタンパク質を標的とするだけではなく、任意のタンパク質の特定の作用(例えば、シグナル伝達機能)を標的とするのに用いられてもよい。さらに、ペプチドアプタマーは、一時的な、空間的なまたは誘導可能な方法で発現を調節するプロモーターの利用により制御された形で発現させる場合がある。ペプチドアプタマーは優性に作用する、そのために、機能消失変異体が入手できないタンパク質の分析で用いることができる。
【0077】
標的タンパク質に対して高い親和性および特異性で結合するペプチドアプタマーは、当技術分野において周知の様々な技術により単離されてもよい。ペプチドアプタマーはランダムペプチドライブラリから酵母2-ハイブリッドスクリーン法(Xu et al., PNAS (1997) 94:12473-12478)によって、単離することができる。それらはファージライブラリ(Hoogenboom et al., Immunotechnology (1998) 4:1-20)または化学的に生じさせるペプチド/ライブラリからも単離することができる。
【0078】
細胞内に発現した抗体、または細胞内発現抗体は、細胞内の標的分子と特異的に結合および相互作用するよう設計された一本鎖抗体分子である。細胞内発現抗体は細胞検定および生物体全体で用いられている。Chen et al., Hum. Gen. Ther. (1994) 5:595-601、Hassanzadeh et al., Febs Lett. (1998) 16(1,2):75-80および81-86。誘導可能な発現ベクターを、AldDH2タンパク質に特異的に反応する細胞内発現抗体で構築することができる。
【0079】
いくつかの態様において、活性因子は宿主中でAldDH2をコードする遺伝子の発現を調節する、おおむねは低減または下方制御する因子である。このような因子はアンチセンスRNA、干渉RNA(低分子干渉RNA「siRNA」を含む)、およびリボザイムなどを含むが、これに限定されるわけではない。
【0080】
いくつかの態様において、活性因子は干渉RNA(RNAi)である。RNAiは二本鎖RNA干渉(dsRNAi)を含む。特定のmRNAおよび/またはタンパク質のレベルを減ずるRNAiの利用は、遺伝子のコード領域に由来する二本鎖RNAの干渉特性に基づいている。本方法の一例において、AldDH2遺伝子の実質部分に由来する相補的センスおよびアンチセンスRNAはインビトロで合成される。その結果生じるセンスおよびアンチセンスRNAは注入緩衝液中でアニールされ、そして二本鎖RNAは被験体の中に注射または別の方法で導入される(例えば、飼料中または、RNAを含む緩衝液中に浸すことにより)。例えば、WO99/32619を参照のこと。もう一つの態様において、AldDH2遺伝子に由来するdsRNAは、センスおよびアンチセンスの両方向でAldDH2コード配列に機能的に結合し適切に位置しているプロモーターからのセンスおよびアンチセンスRNA両方の同時発現によりインビボで生じる。
【0081】
当技術分野において周知の一つのアプローチは、AldDH2遺伝子の発現産物が5'非翻訳(UT)領域、ORF、または3'UT領域を含むAldDH2遺伝子遺伝子転写物の少なくとも19〜25nt長断片(例えば、20〜21ヌクレオチド配列)に相補的な特定の二本鎖AldDH2由来siRNAヌクレオチド配列により標的とされる遺伝子抑制により媒介される、低分子干渉RNA(siRNA)である。いくつかの態様において、低分子干渉RNAは約19〜25ntの長さである。例えば、PCT出願WO0/44895、WO99/32619、WO01/75164、WO01/92513、WO01/29058、WO01/89304、WO02/16620、およびWO02/29858のsiRNA技術の説明部分を参照のこと。
【0082】
アンチセンス分子は細胞中のAldDH2をコードする遺伝子の発現を下方制御するために用いることができる。アンチセンス化合物は、リボザイム、外部ガイド配列(EGS)、オリゴヌクレオチド(オリゴザイム)、および標的核酸にハイブリダイズしその発現を調整するその他の低分子触媒RNAまたは触媒オリゴヌクレオチドを含む。
【0083】
アンチセンス試薬はアンチセンスオリゴヌクレオチド(ODN)、特に元の核酸からの化学的修飾を有する合成ODN、またはRNAのようなアンチセンス分子を発現する核酸構築物であってもよい。アンチセンス配列は標的遺伝子のmRNAに相補的であり、標的遺伝子産物の発現を阻害する。アンチセンス分子は様々なメカニズムを通じて、例えばRNAse Hの活性化または立体障害を通じて転写に使用可能なmRNAの量を減ずることにより、遺伝子の発現を阻害する。アンチセンス分子の一つまたは組合せを投与してもよく、組合せは複数の異なる配列を含んでもよい。
【0084】
アンチセンス分子は適切なベクター中で標的遺伝子配列の全部または一部分の発現により産生されてもよく、そこで転写開始はアンチセンス鎖がRNA分子として生成されるよう方向付けられる。または、アンチセンス分子は合成オリゴヌクレオチドである。アンチセンスオリゴヌクレオチドは一般に、少なくとも約7、通常は少なくとも約12、さらに通常は少なくとも約20ヌクレオチドの長さで、約500以下、通常約50以下、より通常は約35ヌクレオチド以下の長さであり、その長さは阻害の効果、および交差反応性が見られないことを含む特異性などにより決定される。7〜8塩基の長さの短いオリゴヌクレオチドが遺伝子発現の強力かつ選択的な阻害剤となりうることが見出されている(Wagner et al. (1996), Nature Biotechnol. 14:840-844を参照のこと)。
【0085】
内因性のセンス鎖mRNA配列の特定の一つまたは複数の領域がアンチセンス配列により相補されるように選ばれる。オリゴヌクレオチドの特定配列の選択は経験による方法が用いられてもよく、そしてそこで候補配列はインビトロまたは動物モデルで標的遺伝子の発現抑制が検定される。配列の組合せもまた用いられてもよい、そしてそこでmRNA配列のいくつかの領域がアンチセンス相補のために選ばれる。
【0086】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは当技術分野において周知である方法によって化学的に合成されてもよい(Wagner et al. (1996)、上記を参照)。好ましいオリゴヌクレオチドは、細胞内安定性および結合親和性を増すように、天然型のホスホジエステル構造から化学的に修飾されている。多くのこのような修飾は文献に記載されており、その修飾は、骨格、糖類、または複素環塩基の化学的性質を変更する。
【0087】
骨格中の有用な変更のなかで、化合物はホスホロチオエート、非架橋酸素の両方が硫黄で置換されているホスホロジチオエート、ホスホロアミダイト、アルキルホスホトリエステルおよびボラノホスフェートである。アキラルホスフェート誘導体は3'-O'-5'-S-ホスホロチオエート、3'-S-5'-O-ホスホロチオエート、3'-CH2-5'-O-ホスホネートおよび3'-NH-5'-O-ホスホロアミデートを含む。ペプチド核酸はリボースのホスホジエステル骨格全体をペプチド結合に置き換える。糖の修飾もまた安定性および親和性促進のために用いられる。デオキシリボースのβ-アノマーが用いられてもよく、そこでその塩基は天然のα-アノマーに対して反転している。リボース糖の2'-OHは、親和性を損なうことなしに分解対する抵抗性を供する抵抗性2'-O-メチルまたは2'-O-アリル形の糖に変更してもよい。複素環塩基の修飾は適当な塩基対合を維持しなければならない。いくつかの有用な置換はデオキシチミジンに対するデオキシウリジン、デオキシシチジンに対する5-メチル-2'-デオキシシチジンおよび5-ブロモ-2'-デオキシシチジンを含む。5-プロピニル-2'-デオキシウリジンおよび5-プロピニル-2'-デオキシシチジンは、それぞれデオキシチミジンおよびデオキシシチジンと置換された場合、親和性と生物活性が増加することが示されている。
【0088】
その中にリン原子を含まない典型的な修飾されたオリゴヌクレオチド骨格は、アルキルもしくはシクロアルキルのヌクレオシド内結合短鎖、混合したヘテロ原子とアルキルもしくはシクロアルキルのヌクレオシド内結合、または一つ以上のヘテロ原子または複素環ヌクレオシド内結合短鎖により形成される骨格を持つ。これらは、モルホリノ結合(ヌクレオチドの糖部分から一部形成される)、シロキサン骨格、硫化物、スルホキシドおよびスルホン骨格、ホルムアセチル(formacetyl)およびチオホルムアセチル骨格、メチレンホルムアセチルおよびチオホルムアセチル骨格、リボアセチル骨格、アルケン含有骨格、スルファミン酸骨格、メチレンイミノおよびメチレンヒドラジノ骨格、スルホン酸およびスルホンアミド骨格、アミド骨格、ならびにN、O、SおよびCH2構成要素混合物を有する他のものを持つものを含む。
【0089】
モルホリノ骨格構造を持つオリゴヌクレオチド(Summerton, J.E.およびWeller D.D.、米国特許第5,034,506号)またはペプチド核酸(PNA)骨格(P.E. Nielson, M.Egholm, R.H. Berg, O. Buchardt, Science 1991, 254:1497)もまた用いることができる。モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは文献で詳細に記述されている。例えば、Partridge et al. (1996) Antisense Nucl. Acid Drug Dev. 6:169-175、およびSummerton (1999) Biochem. Biophys. Acta 1489:141-158を参照のこと。
【0090】
アンチセンス阻害剤、触媒核酸化合物、例えばリボザイム、アンチセンス複合体などは、遺伝子発現阻害で用いられてもよい。リボザイムはインビトロで合成され、患者に投与されてもよく、または発現ベクター上にコードされ、リボザイムが標的細胞中で合成されてもよい(例えば、国際特許出願WO9523225、およびBeigelman et al. (1995), Nucl. Acids Res. 23:4434-42を参照のこと)。触媒活性を伴うオリゴヌクレオチドの例はWO9506764に記載されている。mRNA加水分解媒介能があり、金属複合体、例えばテルピリジルCu(II)を伴うアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド複合体は、Bashkin et al. (1995), Appl. Biochem. Biotechnol. 54:43-56で説明されている。
【0091】
いくつかの態様において、本因子は一つ以上の薬学的に許容される賦形剤を伴い製剤化される。多種多様な薬学的に許容される賦形剤が当技術分野において周知であり、本明細書において詳細に説明する必要はない。薬学的に許容される賦形剤は、例えばA. Gennaro (2000)“Remington: The Science and Practice of Pharmacy”20th edition, Lippincott, Williams, & Wilkins、Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems (1999) H.C. Ansel et al., eds., 7th ed., Lippincott, Williams, & Wilkins、およびHandbook of Pharmaceutical Excipients (2000) A.H. Kibbe et al., eds., 3rd ed. Amer. Pharmaceutical Assoc.を含む様々な刊行物で詳細に記載されている。
【0092】
輸送剤、アジュバント、担体または希釈剤のような薬学的に許容される賦形剤が一般に容易に入手可能である。
【0093】
製剤、用量、および投与経路
本発明はミトコンドリアAldDH2のレベルおよび/または活性を増加または低減する活性因子を含む、薬学的製剤を含む、製剤を提供する。概して、製剤はAldDH2のレベルおよび/または活性を増加または低減する因子の有効量を含む。いくつかの態様において、「有効量」は望ましい結果、例えばAldDH2のレベルおよび/または活性を増加、虚血性組織損傷の縮小、器官機能の増加を生じるのに十分な用量を意味する。多くの態様において、望ましい結果は少なくとも対照と比較してAldDH2のレベルおよび/または活性の増加である。その他の態様において、「有効量」は望ましい結果、例えばAldDH2のレベルおよび/または活性の低減、固形腫瘍増殖の減少、固形腫瘍質量の縮小などを生じるのに十分な用量を意味する。多くの態様において、望ましい結果は、少なくとも対照と比較してAldDH2レベルおよび/または活性の低減である。
【0094】
製剤
本方法において、活性因子はAldDH2のレベルおよび/または活性の望ましい増加または低減を結果として生じることができる任意の簡便な手段を用いて、宿主に投与してもよい。したがって、因子は治療のための投与の様々な製剤に組み込むことができる。さらに詳細には、本発明の因子は、適当な薬学的に許容される担体または希釈剤との組合せにより薬学的組成物に製剤化することができ、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、軟膏、液剤、座薬、注射剤、吸入剤、およびエアロゾルのような、固体、半固体、液体、または気体の調製剤で製剤化されてもよい。
【0095】
薬学的投与形態において、因子は薬学的に許容される塩の形で投与されてもよく、またはそれらの塩は単剤もしくは他の薬学的に活性のある化合物との適当な合剤ならびに配合剤でも用いられてもよい。次の方法および賦形剤は例示的なだけであり、限定するものではない。
【0096】
経口調製剤用に、因子は単剤または錠剤、粉末、顆粒、またはカプセルを作るための適当なとの組合せにより用いることができ、例えば、ラクトース、マンニトール、コーンスターチ、またはジャガイモデンプンのような典型的な添加物、結晶セルロース、セルロース誘導体、アカシア、コーンスターチ、またはゼラチンのような結合剤、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、またはカルボキシメチルセルロースナトリウムのような崩壊剤、タルクまたはステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ならびに、所望であれば、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、防腐剤、および香料である。
【0097】
因子は、植物性または他の類似の油、合成脂肪酸グリセリド、高脂肪酸またはプロピレングリコールのエステル、ならびに、所望であれば、可溶化剤、等張剤、懸濁化剤、乳化剤、安定剤、および防腐剤のような典型的な添加剤を伴う、水性または非水性の溶媒での溶解、懸濁または乳化により、注射剤のための調製剤に製剤化することができる。
【0098】
因子は吸入を介した投与のためのエアロゾル製剤で利用することもできる。本発明の化合物は、ジクロロジフルオロメタン、プロパンおよび窒素などのような加圧許容型の噴射剤で製剤化することができる。
【0099】
因子が舌下投与に適した手法、例えば、錠剤、カプセル、および溶解性ストリップ(strip)などに製剤化されることにより、活性因子を実質的に舌下投与することができる。
【0100】
さらに、因子は、乳化基剤または水溶性基剤のような様々な基剤との混合により座剤とすることも可能である。本発明の化合物は座剤を介して直腸内に投与することもできる。座剤は、室温では凝固しているが体温では融解する、ココアバター、カーボワックス(carbowax)、およびポリエチレングリコールのような輸送剤を含むことができる。
【0101】
シロップ、エリキシル、および懸濁液のような経口または直腸投与のための剤形単位が提供されてもよく、その中で例えば、茶さじ一杯、大さじ一杯、錠剤、座剤というそれぞれの用量単位は、一つ以上の阻害剤を含むあらかじめ決められた量の組成物を含む。同様に、注射剤または静脈内投与のための剤形単位は、滅菌水、生理食塩水またはその他の薬学的に許容される担体での溶液として組成物中に阻害剤を含んでもよい。
【0102】
本明細書において用いられる「剤形単位」という用語は、ヒトおよび動物被験体のための投薬単位に適した物質的に個別の単位を言及し、それぞれの単位は薬学的に許容される希釈剤、担体または輸送剤と関係して望ましい効果を生じるのに十分な量で計算されたあらかじめ決められた本発明の化合物量を含む。本発明の新規剤形単位のための詳述は、用いられる特定の化合物および達成される効果、宿主におけるそれぞれの化合物と関係する薬力学による。
【0103】
投与のその他の様式も、本発明の利用で見出される。例えば、本発明の因子は座剤、いくつかの場合では、エアロゾルおよび鼻腔内投与組成物に製剤化することができる。座剤用に、輸送剤化合物は、ポリアルキレン・グリコールまたはトリグリセリドのような典型的な結合剤および担体を含む。このようや座剤は、約0.5%から約10%(w/w)、好ましくは約1%から約2%の範囲の活性成分を含む混合物から形成されてもよい。
【0104】
鼻腔内投与製剤は、通常、鼻粘膜への刺激を引き起こさず、線毛機能を著しく阻害しない担体を含む。水、水性生理食塩水またはその他の周知の物質のような希釈剤を本発明で用いることができる。鼻腔投与製剤はまた、それらに限定されるものではないが、クロロブタノールおよび塩化ベンザルコニウムのような防腐剤を含んでもよい。界面活性剤は、鼻粘膜による本タンパク質の吸収を促進するために存在してもよい。
【0105】
本発明の因子は注射可能薬物として投与することができる。典型的には、注射可能な組成物は液体溶液または懸濁液として調製され、注射に先立ち液体輸送剤で溶液化または懸濁液化に適した固形で調製してもよい。調製剤は乳化剤、またはリポソーム輸送剤でカプセル化された活性成分であってもよい。
【0106】
いくつかの態様において、本因子は持続的な送達システムにより、送達される。「持続的な送達システム」という用語は、本明細書において「制御された送達システム」と互換的に用いられ、カテーテルおよび注射装置などと一緒に持続的(例えば、制御された)送達装置(例えば、ポンプ)を包含し、多種多様な装置が当技術分野において周知である。
【0107】
機械的なまたは電気機械的な薬物注入ポンプもまた本発明での利用に適することができる。このような装置の例は、例えば、米国特許第4,692,147号、同第4,360,019号、同第4,487,603号、同第4,360,019号、同第4,725,852号、同第5,820,589号、同第5,643,207号、同第6,198,966号などで説明されている。概して、本願の薬物送達方法は、任意のさまざまな補充可能なポンプシステムを用いて完成することができる。ポンプは、長期間にわたる堅実な制御放出を提供する。典型的に、薬剤不浸透性の容器中の液体製剤中にあり、持続的な方法で個体に送達される。
【0108】
一つの態様において、薬剤送達システムは少なくとも部分的に埋め込み型の装置である。埋め込み型装置は、当技術分野において周知である方法および装置を用いて任意の移植に適した部位へ埋め込むことができる。移植部位は、薬剤送達装置が導入および位置づけられる被験体の体内の部位である。移植部位は、皮下(subdermal)、皮下(subcutaneous)、筋内、または被験体体内中の他の適した部位を含むが、これに限定される必要はない。皮下移植部位は、薬物送達装置の移植および除去が簡便なため、一般に好まれる。
【0109】
本発明での利用に適している薬物放出装置は、任意の様々な作動形態に基づいていてもよい。例えば、薬物送達装置は、拡散システム、対流システム、または浸食システム(例えば、浸食(erosion)に基づくシステム)に基づくことができる。例えば、薬物放出装置は電気機械的ポンプ、浸透圧ポンプ、電気浸透圧ポンプ、蒸気圧ポンプ、または、例えばそこでは薬剤がポリマーに組み込まれ、ポリマーが薬剤含浸ポリマー材料(例えば、生体分解性、薬物含浸ポリマー材料)の分解を伴う製剤の放出をもたらす浸透圧破裂マトリクス(osmotic bursting matrix)であることが可能である。その他の態様において、薬剤放出装置は、電気拡散システム、電解ポンプ、起沸性(effervescent)ポンプ、圧電ポンプ、加水分解ポンプなどに基づく。
【0110】
機械的または電気機械的薬物注入ポンプに基づく薬剤放出装置もまた本発明での使用に適することが可能である。このような装置の例は、例えば、米国特許第4,692,147号、同第4,360,019号、同第4,487,603号、同第4,360,019号、および同第4,725,852号などで説明されている。概して、本願の薬剤送達方法は任意の様々な補充可能、交換可能なポンプシステムを用いて完成することができる。ポンプおよび他の対流システムは長期間にわたる一般により堅実な制御放出のために、一般に好まれる。浸透圧ポンプは、そのより堅実な制御放出および比較的小型である(例えば、PCT公開出願WO97/27840、米国特許第5,985,305号および同第5,728,396号を参照)という利点の組合せにより特に好まれる。本発明での利用に適している例示的浸透圧駆動型装置は、米国特許第3,760,984号、同第3,845,770号、同第3,916,899号、同第3,923,426号、同第3,987,790号、同第3,995,631号、同第3,916,899号、同第4,016,880号、同第4,036,228号、同第4,111,202号、同第4,111,203号、同第4,203,440号、同第4,203,442号、同第4,210,139号、同第4,327,725号、同第4,627,850号、同第4,865,845号、同第5,057,318号、同第5,059,423号、同第5,112,614号、同第5,137,727号、同第5,234,692号、同第5,234,693号、同第5,728,396号などで説明されているものを含むが、これに限定される必要はない。
【0111】
いくつかの態様において、薬剤送達装置は埋め込み型装置である。薬剤送達装置は、当技術分野において周知の方法および装置を用いて、任意の適した移植部位に埋め込むことができる。 下記で述べるように、移植部位は薬剤送達装置が導入および位置づけられる被験体の体内の部位である。移植部位は、皮下(subdermal)、皮下(subcutaneous)、筋内、または被験体体内中の他の適した部位を含むが、これに限定される必要はない。
【0112】
いくつかの態様において、本因子は埋め込み型薬剤送達システム、例えば因子の投与をもたらすようプログラム可能なシステムを用いて送達される。典型的なプログラム可能な埋め込み型システムは埋め込み型薬物注入ポンプを含む。典型的な埋め込み型薬剤注入ポンプ、またはこのようなポンプに関連して有用な装置は、例えば、米国特許第4,350,155号、同第5,443,450号、同第5,814,019号、同第5,976,109号、同第6,017,328号、同第6,171,276号、同第6,241,704号、同第6,464,687号、同第6,475,180号、および同第6,512,954号に記載されている。本発明に適合することができるさらなる典型的な装置はSynchromed薬物注入ポンプ(Medtronic)である。
【0113】
適した賦形輸送剤は、例えば、水、生理食塩水、ブドウ糖、グリセロールまたはエタノール、およびその組合せである。加えて、所望であれば、輸送剤は浸潤もしくは乳化剤またはpH緩衝剤のような少量の補助剤を含んでもよい。このような製剤調製の実際の方法は、当業者にとって周知または明らかである。例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Pennsylvania, 17th edition, 1985を参照のこと。投与される組成物または製剤は、いずれにしても、被験体治療における所望の状態を達するために適当な因子量を含んでいる。
【0114】
輸送剤、アジュバント、担体または希釈剤のような薬学的に許容される賦形剤は、容易に一般に入手可能である。さらに、pH調整および緩衝剤、等張化調整剤、安定化剤および浸潤剤のような、薬学的に許容される補助剤が一般に容易に入手可能である。
【0115】
用量
使用用量は達成すべき臨床的な目標によって変わってくるが、適した用量範囲はAldDH2のレベルおよび/または活性を増加または低減する因子の約1μgから約1,000μgまたは約10,000μgまでを単回投与で投与することができる。または、AldDH2のレベルおよび/または活性を増加または低減する因子の目標用量は、宿主の因子の投与後最初の24〜48時間以内の採血飼料中に大体約0.1〜1000μM、約0.5〜500μM、約1〜100μM、または約5〜50μMの範囲であると見なすことができる。
【0116】
当業者は、用量レベルが特定の化合物の機能、症状の重症度、被験者の副作用に対する感受性に比例して変化することはたやすく十分理解する。特定の化合物の好ましい用量は様々な手段を用いて当業者により容易に決定できる。
【0117】
投与経路
AldDH2のレベルおよび/または活性を増加または低減する因子は、インビボおよびエクスビボ方法ならびに全身性および局所的な投与経路を含む任意の利用可能な方法および薬剤送達に適した経路を用いて、固体に投与される。
【0118】
従来のかつ薬学的に許容される投与経路は、鼻腔内、腫瘍内、筋肉内、皮下、舌下、皮内、局所適用、静脈内、直腸、経鼻、経口ならびにその他の腸および腸管外経路を含む。投与経路は組み合わされてもよく、または望みに応じて因子および/または所望の効果によって調整されてもよい。組成物を単回または複数回で投与することができる。
【0119】
因子を、任意の利用可能な従来の方法および全身性または局所的な経路を含む従来の薬剤の送達に適した経路を用いて、宿主に投与することができる。概して、本発明により意図される投与経路は、腸、腸管外、または吸入経路を含むが、これに限定される必要はない。
【0120】
吸入経路以外の腸管外投与経路は、局所的、経皮的、皮下、筋肉内、眼窩内、腫瘍内、嚢内、髄腔内、胸骨内、および静脈内経路、すなわち消化管経由以外の任意の投与経路を含むが、これらの限定される必要はない。腸管外投与は、全身性または局所的な因子の送達を効果的に実施することができる。全身性送達が所望の場合、投与は典型的には薬学的調製剤の侵襲性または全身的に吸収される局所もしくは粘膜投与を含む。
【0121】
因子はまた腸内投与により被験体へ送達されることもできる。腸内投与経路は、経口および直腸(例えば、座剤を用いて)送達を含むが、これに限定される必要はない。
【0122】
皮膚または粘膜経由の因子投与方法は、適した薬学的調製物の局所適用、経皮透過、注射および表皮投与を含むが、これに限定される必要はない。経皮透過に関して、吸収促進剤またはイオン導入法が適した方法である。イオン導入透過は、数日以上の間無傷の皮膚を通って電気的パルスを介し持続的に製品を送達する市販されている「パッチ」を用いて、成し遂げられてもよい。
【0123】
処置は少なくとも宿主を苦しめる病的状態と関連する症状の改善を意味し、そこで改善は少なくとも再かん流損傷のような処置されるべき病的状態と関係するパラメーター、例えば症状、の大きさを縮小することを言及する広い意味で用いられる。このように、処置はまた、病的状態、少なくともそれとともに関係する症状が完全に阻害、例えば発生の防止、または停止、例えば終結され、宿主がもはや病的状態、少なくとも病的状態を特徴付ける症状を患っていない状況を含む。
【0124】
エクスビボ投与もまた意図され、例えばそこでは個体から器官が取り出され、続いて同じ個体または異なる個体へ導入される。例えば、器官を本因子を含む培地中に置くことができる。
【0125】
様々な宿主(「宿主」という用語は本明細書において「被験体」および「患者」という用語と互換的に用いられる)が本方法に従って、治療可能である。概して、このような宿主は「哺乳動物」または「哺乳類」であり、そこでこれらの用語は肉食動物目(例えば、イヌおよびネコ)、齧歯動物目(例えば、マウス、モルモット、およびラット)、および霊長類目(例えば、ヒト、チンパンジー、およびサル)を含む哺乳動物綱に含まれる生物体を説明するよう広く用いられる。多くの態様において、宿主はヒトである。
【0126】
活性因子の単位用量、例えば経口または注射剤の用量、を伴うキットが提供される。このようなキットにおいては、単位用量を含む容器に加えて、対象の病的症状治療における薬剤の使用法および付随する恩恵を説明する情報添付文書を挿入する。好ましい化合物および単位用量は本明細書において上述している。
【0127】
治療方法
本発明は、AldDH2のレベルおよび/または活性の増加による処置に適している疾患を治療するための方法を提供する。本発明は、AldDH2のレベルおよび/または活性を低減による処置に適している疾患を治療するための方法を提供する。
【0128】
AldDH2のレベルおよび/または活性の増加
本発明は、個体における予防方法を含む虚血治療のための方法を提供し、本方法は概して個体においてミトコンドリアAldDH2のレベルおよび/または活性を増加する因子の有効量を必要としている個体に投与する段階を含む。本方法を伴う処置に適している虚血状態は、心筋梗塞、心臓手術、脳損傷、脳血管疾患、脳卒中、脊髄損傷、くも膜下出血、その他の様々な器官で虚血が発生する大手術、および臓器移植などを含むが、これに限定されるわけではない任意の状態または事象に起因する虚血を含む。
【0129】
本発明は、個体における慢性フリーラジカル関連疾患治療のための方法を提供し、本方法は概して個体においてミトコンドリアAldDH2のレベルおよび/または活性を増加する因子の有効量を必要としている個体に投与する段階を含む。本方法を伴う処置に適しているフリーラジカル関連疾患は、パーキンソン病、アルツハイマー病および筋萎縮性側索硬化症などのような神経変性疾患を含む。多くの態様において、フリーラジカル関連疾患はAldDH2のレベルおよび/または活性を増加する因子による慢性的な(例えば、毎日)処置により治療される。
【0130】
いくつかの態様において、因子は予測されるまたは予期された虚血事象の前、例えば虚血事象の約1時間から約1週間前、例えば虚血事象前の約1時間から約2時間、約2時間から約4時間、約4時間から約8時間、約8時間から約12時間、約12時間から約16時間、約16時間から約24時間、約24時間から約36時間、約36時間から約48時間、約48時間から約72時間、または約72時間から約1週間に投与される。
【0131】
活性因子を伴う前処置は、例えば被験体が既に脳卒中を経験している場合、被験体がまさに心臓手術を受けようとしている場合など、特定の状況下で望ましい。例えば、既に脳卒中を経験している患者は2回目の脳卒中を経験する可能性が高まっている。一過性虚血発作を起こしやすい被験体もまた、脳卒中の危険性が高まっている。くも膜下出血を患った被験体は、血管を収縮する血管けいれんにより誘導されるさらなる虚血事象を経験するかもしれない。脳のような器官の傷害を経験した被験者もまた虚血事象を起こしやすい。長期間にわたる手術を受けた被験体もまた虚血事象を起こしやすい。上記状況は、被験体が前処理から恩恵をうける場合の状況を例示している。
【0132】
いくつかの態様において、活性因子は虚血事象後に投与される。例えば、活性因子は、心虚血、再かん流虚血、脳血管疾患、くも膜下出血および外傷のような虚血事象の有害な影響を減ずるのに効果的である。いくつかの態様において、活性因子は、虚血イベントに引き続き1分から15時間以内、例えば、約1分から約5分、約5分から約10分、約10分から約15分、約15分から約30分、約30分から約60分、約60分から約2時間、約2時間から約4時間、約4時間から約8時間、約8時間から約12時間、または約12時間から約15時間で投与される。いくつかの態様において、活性因子の高められた濃度が、虚血事象に引き続き少なくとも数時間から数日間、血漿中で維持される。
【0133】
AldDH2のレベルおよび/または活性の低減
本発明は、AldDH2のレベルおよび/または活性低減による虚血性損傷に対する固形腫瘍の感受性を増加するための方法を提供する。本方法は概して、固形腫瘍を持つ個体にAldDH2のレベルおよび/または活性を縮減する因子を投与する段階を含む。
【0134】
いくかの態様において、AldDH2のレベルおよび/または活性を低減する因子は、標準的なガン治療で補助療法として投与される。標準的なガン治療は、手術(例えば、癌組織の外科切除)、放射線治療、骨髄移植、化学療法、生物学的反応修飾物質を用いた治療、および前述の特定の組合せを含む。
【0135】
放射線療法は、ビームのような外部印加源、または低分子放射線源の移植を通じて送達されるX線またはガンマ線を含むが、これに限定されるわけではない。
【0136】
化学療法剤は、癌細胞の増殖を縮小する非ペプチド性(すなわち、非タンパク質性)化合物で、細胞傷害性因子および細胞増殖抑制性因子を包含する。化学療法剤の限定されない例は、アルキル化剤、ニトロソ尿素、代謝拮抗剤、抗腫瘍抗生物質、植物(ビンカ)アルカロイド、およびステロイドホルモンを含む。
【0137】
細胞増殖を縮小するよう作用する因子は当技術分野において周知であり、広く用いられている。このような因子は、メクロレタミン・シクロフォスファミド(Cytoxan(商標))、メルファラン(L-サルコリシン)、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、セムスチン(メチル-CCNU)、ストレプトゾシン、クロロゾトシン、ウラシル・マスタード、クロルメチン、イホスファミド、クロラムブシル、ピポブロマン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、ブスルファン、デカルバジン、およびテモゾロマイドを含むがこれに限定されるわけではない、例えばナイトロジェンマスタード、ニトロソ尿素、エチレンイミン誘導体、スルホン酸アルキルおよびトリアゼンのようなアルキル化剤を含む。
【0138】
代謝拮抗剤は、シタラビン(CYTOSAR-U)、シトシンアラビノシド、フルオロウラシル(5-FU)、フロクスウリジン(FudR)、6-チオグアニン、6-メルカプトプリン(6-MP)、ペントスタチン、5-フルオウラシル(5-FU)、メトトレキサート、10-プロパルギル-5,8-ジデアザ葉酸(PDDF、CB3717)、5,8-ジデアザテトラヒドロ葉酸(DDATHF)、ロイコボリン、リン酸フルダラビン、ペントスタチン、およびジェムシタビンを含むが、これに限定されるわけではない葉酸類似体、ピリミジン類似体、プリン類似体、およびアデノシンデアミナーゼ阻害剤を含む。
【0139】
適した天然物およびその誘導体(例えば、ビンカアルカロイド、抗腫瘍抗生物質、酵素、リンフォカイン、およびエピポドフィロトキシン)は、Ara-C、パクリタキセル(タキソール(登録商標))、ドセタキセル(タキソテール(登録商標))、デオキシコホルマイシン、マイトマイシン-C、L-アスパラギナーゼ、アザチオプリン、ブレキナル、例えばビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンデシンなどのアルカロイド、例えばエトポシド、テニポシドなどのポドフィロトキシン、例えばアントラサイクリン、塩酸ダウルノビシン(ダウノマイシン、ルビドマイシン、セルビジン)、イダルビシン、ドキソルビシン、エピルビシンおよびモルホリノ誘導体などの抗生物質、例えばダクチノマイシンであるフェノキシゾンビスシクロペプチド、例えばブレオマイシンである塩基性糖ペプチド、例えばプリカマイシン(ミトラマイシン)であるアントラキノン配糖体、例えばミトキサントロンであるアントラセンジオン、例えばマイトマイシンであるアジリノピロロインドールジオン、および例えばシクロスポリン、FK-506(タクロリムス、プログラフ)、ラパマイシンなどである大環状免疫抑制剤などを含むが、これらに限定されるわけではない。
【0140】
その他の抗増殖性の細胞傷害性因子は、ナベルビン、CPT-11、アナストロゾール、レトロゾール、カペシタビン、ラロキシフェン、シクロフォスファミド、イホサミド(ifosamide)、およびドロロキサフィンである。
【0141】
抗増殖活性を持つ微少管作用剤もまた利用に適し、アロコルヒチン(NSC406042)、ハリコンドリンB(NSC609395)、コルヒチン(NSC757)、コルヒチン誘導体(例えば、NSC33410)、ドルスタチン10(NSC376128)、メイタンシン(NSC153858)、リゾキシン(NSC332598)、パクリタキセル(タキソール(登録商標))、タキソール(登録商標)誘導体、ドセタキセル(タキソテール(登録商標))、チオコルヒチン(NSC361792)、トリチルシステリン、ビンブラスチン硫酸塩、ビンクリスチン硫酸塩、エポチロンA、エポチロンB、ジスコデルモリドを含むがこれに限定されない天然および合成エポチロン、エストラムスチン、およびノコダゾールなどを含むがこれに限定されるわけではない。
【0142】
利用に適しているホルモン調整剤およびステロイド(合成類似体を含む)は、例えばプレドニゾン、デキサメタゾンなどの副腎皮質ステロイド、例えばカプロン酸ヒドロキシプロゲステロン、酢酸メドロキシプロゲステロン、エストラジオール、クロミフェン、タモキシフェンなどのプロゲスチン、および例えばアミノグルテチミド、17α-エチニルエストラジオール、ジエチルスチルベストロール、テストステロン、フルオキシメステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、テストラクトン、メチルプレドニゾロン、メチルテストステロン、プレドニゾロン、トリアムシノロン、クロロトリアニセン、ヒドロキシプロゲステロン、アミノグルテチミド、エストラムスチン、酢酸メドロキシプロゲステロン、ロイプロリド、フルタミド(Drogenil)、トレミフェン(フェアストン)、およびゾラデックス(登録商標)である副腎皮質抑制制剤を含むが、これに限定されるわけではない。エストロゲンは増殖および分化を刺激し、そのため、エストロゲン受容体に結合する化合物は本活性を妨げるために用いられる。コルチコステロイドはT細胞増殖を阻害する可能性がある。
【0143】
その他の化学療法剤は、例えばシスプラチン(cis-DDP)、カルボプラチンなどの金属複合体、例えばヒドロキシウレアである尿素、および例えばN-メチルヒドラジンであるヒドラジン、エピドフィロトキシン、トポイソメラーゼ阻害剤、プロカルバジン、ミトキサントロン、ロイコボリン、テガフールなどを含む。その他の対象の抗増殖剤は、例えばミコフェール酸、サリドマイド、デオキシスパーガリン、アザスポリン、レフルノミド、ミゾリビン、アザスピレン(SKF105685)、Iressa(登録商標)(ZD1839、4-(3-クロロ-4-フルオロフェニルアミノ)-7-メトキシ-6-(3-(4-モルホリニル)プロポキシ)キナゾリン)などの免疫抑制剤を含む。
【0144】
「タキサン」には、パクリタキセルならびに任意の活性タキサン誘導体あるいはプロドラッグを含む。「パクリタキセル」(本明細書において、例えばドセタキセル、タキソール(商標)、タキソテール(商標)(ドセタキセルの製剤)、パクリタキセルの10-デスアセチル類似体、およびパクリタキセルの3'N-デスベンゾニル-3'N-t-ブトキシカルボニル類似体のような類似体、製剤および誘導体を含むことが理解されるべきである)は、当業者に周知の技術(WO94/07882、WO94/07881、WO94/07880、WO94/07876、WO93/23555、WO93/10076、米国特許第5,294,637号、同第5,283,253号、同第5,279,949号、同第5,274,137号、同第5,202,448号、同第5,200,534号、同第5,229,529号、およびEP590,267を参照のこと)を利用して容易に調製されてもよく、例えばSigma Chemical Co., St. Louis, Mo. (Taxus brevifolia由来のT7402、またはTaxus yannanensis由来のT-1912)を含む様々な商業的供給源から入手してもよい。
【0145】
パクリタキセルは、通常の化学的に利用可能なパクリタキセル形状だけではなく、類似体および誘導体(例えば、上述の通りタキソテール(商標)ドセタキセル)ならびにパクリタキセル複合体(例えば、パクリタキセル-PEG、パクリタキセル-デキストラン、またはパクリタキセル-キシロース)にも言及することが理解されるべきである。
【0146】
「タキサン」という用語の中には、親水性誘導体および疎水性誘導体の両方を含む様々な周知の誘導体もまた含まれる。タキサン誘導体は、国際特許出願WO99/18113に記載されているガラクトースおよびマンノース誘導体、WO99/14209に記載されているピペラジノおよびその他の誘導体、WO99/09021、WO98/22451、および米国特許第5,869,680号に記載されているタキサン誘導体、WO98/28288に記載されている6-チオ誘導体、米国特許第5,821,263号に記載されているスルフェンアミド誘導体、および米国特許第5,415,869号に記載されているタキソール誘導体を含むが、これに限定されるわけではない。さらに、WO98/58927、WO98/13059、および米国特許第5,824,701号に記載されているプロドラッグを含むが、これに限定されるわけではないパクリタキセルのプロドラッグを含む。
【0147】
本発明の方法に関連する利用に適している生物反応修飾物質は、(1)チロシンキナーゼ(RTK)活性の阻害剤、(2)セリン/スレオニンキナーゼ活性の阻害剤、(3)腫瘍抗原に特異的に結合する抗体のような腫瘍関連抗原アンタゴニスト、(4)アポトーシス受容体アゴニスト、(5)インターロイキン-2、(6)IFN-α、(7)IFN-γ、(8)コロニー刺激因子、(9)血管形成の阻害剤、および(10)腫瘍壊死因子を含むが、これに限定されるわけではない。
【0148】
本方法は、適した対照と比較した場合、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約85%、または少なくとも約90%、最大腫瘍の全滅まで、腫瘍負荷(tumor load)を縮小する。したがって、これらの態様において、AldDH2のレベルおよび/または活性を低減する因子の「有効量」は、適当な対照と比較した場合、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約85%、または少なくとも約90%、最大腫瘍の全滅まで腫瘍負荷を縮小するのに十分な量である。実験動物系において、適した対照は、因子で処置されていない遺伝学的に同一の動物である場合がある。非実験系において、適した対照は、因子投与前に腫瘍負荷が存在する場合があるい。その他の適した対照はプラセボ対照である場合がある。
【0149】
腫瘍負荷が低減しているかどうか、固形腫瘍質量の計測、細胞学検定を用いた腫瘍細胞数の計算、蛍光活性化細胞分類(例えば、腫瘍関連抗原に特異的な抗体を用いる)、腫瘍サイズを推定および/または観測するためのコンピュータ断層撮影、磁気共鳴映像法、および/またはX線映像化、ならびに例えば血液である生体試料中の腫瘍関連抗原量の測定などを含むが、これらに限定されるわけではない任意の周知の方法を用いて測定することができる。
【0150】
処置に適した被験体
因子がAldDH2のレベルおよび/または活性を増加する本因子および/または本方法での処置に適した被験体は、心臓手術を受ける予定である個体、脳卒中を経験したことがある個体、脳障害を患ったことがある個体、長時間の手術を受ける個体、および臓器移植をうける予定の個体が含まれる。
【0151】
因子がAldDH2のレベルおよび/または活性を低減する本因子および/または本方法での処置に適した被験体は、固形腫瘍を有する個体である。固形腫瘍は、組織球性リンパ腫、肺腺癌および小細胞肺癌を含む脳、尿生殖路、リンパ系、胃、喉頭および肺の癌を含むが、これに限定されるわけではない。
【0152】
実施例
以下の実施例は、当業者に本願発明の実施および利用方法の完全な開示および説明を提供するために提供され、発明者が考える本発明の範囲を限定する意図のものではなく、または以下の実施例が実施される全てのまたは唯一の実施例であることを意味する意図のものではない。用いられる数値(例えば、量、温度など)に関して正確さを確実にする努力がなされているが、いくつかの実験誤差およびずれが計上されるであろう。別に指示されていないかぎり、割合は重量割合であり、分子量は分子量の平均重量であり、温度は摂氏温度で記載され、圧力は気圧または気圧に近い圧である。標準的な略語が使用される可能性があり、例えば、bp、塩基対;kb、キロベース;pl、ピコリットル;s、秒;min、分;hr、時間などである。
【0153】
実施例1
エクスビボラット心臓のランゲンドルフ調製物を、流量停止虚血および再かん流損傷により被った損傷を評価するためのモデルとして用いた。これは患者における心筋梗塞の臨床状況に似た症状を呈する実験モデルである。ラット心臓を摘出し、ランゲンドルフ装置上で大動脈経由でカニューレを挿入した。37℃で維持された標準的な含酸素Kreb-Hensleit緩衝液を用いて、逆行性かん流を行った。全心臓は、最初に5〜10分のかん流期間で安定化され、試薬に応じ異なる心保護剤またはAldDH2阻害剤の送達を10〜30分間続けた。いくつかの典型的な試験において、エタノール(50mM)、εPKCアイソザイム選択的活性化または阻害的ペプチド(1μM)、シアナミド(5mM)ならびにニトログリセリン(2μM)を含む試薬を用いた。虚血がそれから25分間の流量停止によりもたらされ、60分間の再かん流が続いた。
【0154】
虚血/再かん流損傷の程度を、二つの非依存的な一般に受け入れられているパラメーターにより計測した。一つの検定法では、再かん流後直ちに心臓切片の横断面入手し、梗塞サイズ測定のために2,3,5-トリフェニル-塩化テトラゾリウム(TTC)で染色した。もう一つの検定法では、再かん流中に収集したそれぞれの心臓の再かん流液から特定のリン酸キナーゼ活性を測定した。データは二つの方法が心臓障害評価で同様の結果をもたらしたことを示した。それぞれの心臓からのホモジェネートをまた同一のサンプルの別々の部分から入手し、アルデヒドデヒドロゲナーゼ酵素活性を分析した。酵素活性を、基質としてのアセトアルデヒドおよび補因子としてのNADを用いる上述の標準的な分光光度法により測定した。結果は、図1〜8に示される。
【0155】
図1:肝臓でのエタノール代謝およびその過程でのAldDH2の役割。肝臓において、エタノールは2段階の酸化酵素経路により酢酸に代謝される。最初の段階において、エタノールはアルコールデヒドロゲナーゼを用いてアセトアルデヒドに酸化される。アセトアルデヒドはアルデヒドデヒドロゲナーゼによりさらに酢酸に酸化される。両段階において、電子受容体としてNADを利用してNADHを生成する。ピラゾール、ジスルフィラムおよびシアナミドが、本経路に関わる酵素を阻害するために用いられる3つの周知の薬剤である。ピラゾールはアルコールデヒドロゲナーゼの阻害剤で、ジスルフィラムおよびシアナミドはそれぞれアルデヒドデヒドロゲナーゼのサイトゾル型(AldDH1)およびミトコンドリア型(AldDH2)の阻害剤である。
【0156】
図2:エクスビボランゲンドルフ心臓を用いた実験手順。ラット心臓を摘出し、ランゲンドルフ装置上で大動脈経由でカニューレを挿入した。逆行性かん流は、37℃で維持された標準的含酸素Kreb-Hensleit緩衝液を用いて行われた。全心臓は、最初に5〜10分のかん流期間で安定化され、試薬に応じ異なる心保護剤またはAldDH2阻害剤の送達が10〜30分間続いた。処置は、エタノール(50mM)、ペプチド(1μM)、またはニトログリセリン(2μM)を含んだ。用いられたペプチドは、選択的活性化因子(εV1-7)もしくは阻害因子(εV1-2)またはεプロテインキナーゼC(εPKC)であった。虚血がそれから25分間の流量停止によりもたらされ、60分間の再かん流が続いた。最終的にそれぞれ心臓の部分が、2,3,5-トリフェニル-塩化テトラゾリウム(TTC)染色およびアセトアルデヒドを基質として用いたアルデヒドデヒドロゲナーゼ酵素活性検定により梗塞サイズの測定のために採取された。
【0157】
図3:アルデヒドデヒドロゲナーゼの作用によるアセトアルデヒドから酢酸の形成。アルデヒドデヒドロゲナーゼ酵素活性をアセトアルデヒドを基質として用いる標準的分光光度法により測定した。本反応において、アルデヒドデヒドロゲナーゼはアセトアルデヒドの酢酸への酸化を触媒する。付随して、NADは分光光度計における340nmの波長で吸光度を増すNADHに還元される。NADH比の増加は、アルデヒドデヒドロゲナーゼの酵素活性に比例する。NADH蓄積の縮小およびその結果の340nmでの吸光度は、シアナミドまたはニトログリセリンのようなアルデヒドデヒドロゲナーゼ阻害剤で処置した心臓サンプルで予想される。
【0158】
図4:ALDH活性検定。340nm吸光度でのNADH増加測定によるアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性検定の一例。虚血前の心保護剤、エタノールの前処理は、虚血/再かん流(I/R)単独または通常酸素状態と比較し、吸光度比の増加をもたらす。一方、アルデヒドデヒドロゲナーゼ阻害剤、シアナミドでの処置は、エタノール処置虚血サンプルまたは通常酸素(Norm)心臓サンプルの両者で、NADH蓄積の縮減をもたらす。
【0159】
図5:エタノールおよびεPKC活性がAldDH2活性を増加する。AldDH2活性の誘導は、2つの心保護剤、エタノールおよびεPKCアゴニストペプチド(εV1-7)の処置により、観察される。虚血/再かん流対照と比較し、10分間の50mMエタノール急性処置はAldDH2活性の25%増加(*p<0.05)をもたらし、1μMのεPKCアゴニストペプチドeV1-7の処置はAldDH2活性の34%増加(*p<0.05)をもたらした。エタノール誘導の効果は、εPKCアンタゴニストペプチド、εV1-2の処置により阻害される。加えて、誘導の効果は有効なAldDH2阻害剤、シアナミドの存在下でもまた、大きく阻害される。エタノールまたはペプチドの非存在または存在下でシアナミド処置は、虚血再かん流中にAldDH2をそれぞれ63%、64%および74%まで(**p<0.01)劇的に阻害する。通常酸素状態の心臓サンプルにおいて、シアナミドによるAldDH2活性の阻害もまた観察される。εV1-2はεPKC選択的阻害剤、εV1-7はεPKC選択的活性化剤、EtOHはエタノール、CYAはシアナミドである。
【0160】
虚血からの心保護に対するシアナミドの影響を検討した。虚血および再かん流誘導損傷からの心保護にはAldDH2活性が必須であることが示された。虚血性損傷を、心臓各部分のTTC染色により測定した。虚血/再かん流対照心臓と比較して、エタノール前処置はεPKC媒介シグナル経路を経由して心保護をもたらす。シアナミドによるAldDH2阻害は、エタノールの保護効果を排除し、対照と比較しより大きな損傷さえもたらす。通常酸素状態下では、シアナミド処置心臓は対照心臓と比較し著しく大きな損傷を生じず、AldDH2は必要とされない。
【0161】
図6:AldDH2活性は、虚血および再かん流誘導損傷、シアナミドおよびニトログリセリンの影響からの心保護において必須である。ニトログリセリンはAldDH2により代謝され、ニトログリセリンを伴う長期培養はAldDH2活性を阻害する。もしAldDH2活性が心保護に必要であれば、ニトログリセリンへの長期曝露がAldDH2の溶液活性の低減を引き起こし、エタノールおよびεPKC活性による保護を縮小することは筋が通っている。未処置対照と比較し、シアナミドによるAldDH2の阻害は、梗塞サイズの測定による虚血/再灌流損傷の49%の増加(**p<0.01)をもたらす。心保護剤、エタノールまたはεPKCアゴニストペプチドで処置されたサンプルにおいて、シアナミドはまたそれぞれ62%および56%(**p<0.01)の増加を伴うより大きな程度の梗塞損傷をもたらす。ニトログリセリンによるAldDH2の脱感作もまた梗塞サイズの増加をもたらした。ニトログリセリン処置単独では対照と比較し、梗塞サイズで29%の増加(*p<0.05)を示した。エタノールおよびεPKCアゴニストペプチド存在下でのニトログリセリン処置は、それぞれ36%および31%の増加(*p<0.05)をもたらした。
【0162】
図7:AldDH2活性と梗塞サイズの間の逆相関。図6(および上述のI/R心臓データ)によるデータは、虚血/再灌流の中のAldDH2活性および梗塞サイズ間が逆相関であることを示している。AldDH2活性の誘導は常により小さな梗塞サイズをもたらし、低下されたAldDH2活性はより大きな梗塞損傷をもたらす。観察された唯一の例外は、通常酸素状態下にであり、それはAldDH2活性はストレスが掛かっていない通常の生理的状態下では必須ではないことを示唆している。
【0163】
図8:AldDH2活性および梗塞サイズ間の逆相関。図7の結果に基づいて、AldDH2活性および梗塞サイズ間でR2=0.9696の回帰係数で逆相関が観察された。本係数は、図7に描かれている10の異なる実験処置群からのAldh活性の平均対梗塞サイズの平均をプロットすることにより得られた。
【0164】
これらの結果は、ミトコンドリアアルデヒドデヒドロゲナーゼ(AldDH2)活性および梗塞損傷の間のきわめて強い逆相関(R2=0.9696)を示している。全ての試験した状態において、増加したAldDH2活性は常により小さな梗塞サイズあるいはより低い特定のリン酸キナーゼ放出をもたらした、逆に言えば、低下したAldDH2活性はより大きな梗塞損傷またはより大きな特定のリン酸キナーゼ放出をもたらした。もう一つの心筋酵素、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼマーカーの試験は特定の酵素と梗塞損傷のこのような相関を示さなかった。これは、AldDH2活性と虚血/再灌流損傷の間で観察される相関が特定の意味を持っていることを示している。加えて、通常の酸素状態下では、シアナミドによるAldDH2活性の阻害は、対照群と比較し、任意のより大きな心臓損傷をもたらさず、AldDH2が虚血/再灌流状態下だけで細胞死に対する保護で必須かつ重大な役割を果たしていることを示唆している。AldDH2はこのように、虚血性組織損傷の防止または固形腫瘍のような疾患で虚血によってもたらされる細胞/組織死の感受性増加を調節することができる重大な酵素標的である。
【0165】
本発明はその特定の態様に言及し説明しているが、本発明の実際の精神と範囲から逸脱することなく様々な変更が行われてもよく、同等物に代替してもよいことが当業者により理解されるべきである。加えて、特定の状況、材料、組成物、工程、工程段階を本発明の目的、精神および範囲に適合するために 、多くの修飾が行われてもよい。すべてのこれら修飾は、本明細書に添付される特許請求の範囲の範囲内にあるよう意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0166】
【図1】肝臓でのエタノール代謝、およびその過程でのAldDH2の役割の略図である。
【図2】エクスビボランゲンドルフ心臓を用いた実験手順を表す。
【図3】アルデヒドデヒドロゲナーゼの作用によるアセトアルデヒドからの酢酸生成を表す。
【図4】ALDH活性検定を表すグラフである。
【図5】AldDH2活性に対するエタノールおよびεPKCの効果を表すグラフである。
【図6】虚血からの心保護に対するシアナミドおよびニトログリセリン(GTN)の効果を表すグラフである。
【図7】AldDH2活性および梗塞サイズ間の逆相関を表す。
【図8】AldDH2活性および梗塞サイズの逆相関を表す。
【図9】蛍光アルデヒドデヒドロゲナーゼ酵素検定の原理を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミトコンドリアアルデヒドデヒドロゲナーゼ(AldDH2)の酵素活性を調節する因子を同定するインビトロの方法であって、以下の段階を含む方法:
a)AldDH2をAldDH2の基質、および試験因子と接触させる段階;および
b)もしあればAldDH2酵素活性への試験因子の効果を測定する段階。
【請求項2】
測定する段階が生成したNADHのレベルを計測する段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
計測する段階が蛍光検定法の利用を含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
AldDH2がヒトAldDH2である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
細胞中のミトコンドリアアルデヒドデヒドロゲナーゼ(AldDH2)ポリペプチドのレベルを調節する因子を同定するインビトロの方法であって、以下の段階を含む方法:
a)AldDH2を産生する細胞を試験因子と接触させる段階;および
b)もしあれば細胞中のAldDH2ポリペプチドのレベルへの試験因子の効果を測定する段階。
【請求項6】
測定する段階がAldDH2特異的抗体を用いた免疫検定法を含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
免疫検定法が酵素結合免疫吸着検定法である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
抗体が検出可能に標識化されている、請求項6記載の方法。
【請求項9】
細胞により産生されるAldDH2ポリペプチドがAldDH2および融合パートナーを含む融合タンパク質である、請求項5記載の方法。
【請求項10】
細胞中のミトコンドリアアルデヒドデヒドロゲナーゼ(AldDH2)mRNAのレベルを調節する因子を同定するインビトロの方法であって、以下の段階を含む方法:
a)AldDH2 mRNAを産生する細胞を試験因子に接触させる段階;および
b)もしあれば細胞中のAldDH2 mRNAのレベルへの試験因子の効果を測定する段階。
【請求項11】
測定する段階が細胞中のAldDH2 mRNAのレベルを計測するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検定を含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
細胞が内因性AldDH2 mRNAを産生せず、外因性AldDH2 mRNAを発現するよう遺伝的に組み換えられる、請求項10記載の方法。
【請求項13】
細胞がレポーター遺伝子に機能的に結合しているAldDH2プロモーターを含む構築物で遺伝的に組み換えられ、測定する段階がレポーター遺伝子の発現レベルを計測する段階を含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
レポーター遺伝子が酵素をコードし、測定する段階がレポーター遺伝子によりコードされた酵素のレベルを計測する段階を含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
請求項1、5、および10のいずれか一項記載の方法によって同定される因子。
【請求項16】
請求項15記載の因子を含む組成物。
【請求項17】
薬学的に許容される賦形剤を含む、請求項16記載の組成物。
【請求項18】
それを必要としている個体において虚血状態を治療する方法であって、虚血組織の細胞中のミトコンドリアアルデヒドデヒドロゲナーゼのレベルおよび/または活性を増加する因子の有効量を個体に投与する段階を含む方法。
【請求項19】
虚血状態が心虚血である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
それを必要としている個体において慢性フリーラジカル関連疾患を治療する方法であって、個体の細胞中のミトコンドリアアルデヒドデヒドロゲナーゼのレベルおよび/または活性を増加する因子の有効量を個体に投与する段階を含む方法。
【請求項21】
個体において固形腫瘍を治療する方法であって、個体の腫瘍細胞中のミトコンドリアアルデヒドデヒドロゲナーゼのレベルおよび/または活性を低減する因子の有効量を個体に投与する段階を含む方法。
【請求項22】
因子が癌の標準療法に対するアジュバントとして投与される、請求項21記載の方法。
【請求項23】
標準癌療法が放射線療法である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
標準癌療法が化学療法である、請求項22記載の方法。
【請求項25】
投与が腫瘍内投与または腫瘍周辺投与である、請求項21記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−518401(P2007−518401A)
【公表日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−543986(P2006−543986)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【国際出願番号】PCT/US2004/041297
【国際公開番号】WO2005/057213
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(503174475)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ リーランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティ (41)
【Fターム(参考)】