ミラーチルトアクチュエーター
【課題】制御帯域が広く高効率なミラーチルトアクチュエーターを提供する。
【解決手段】ミラーホルダ3は、ミラー2を保持する。ミラーホルダ3は、台座に、少なくとも2方向に傾斜可能に保持される。駆動手段は、ミラーホルダ3を台座から傾斜させる。トーションバー4は、一端がミラーホルダ3の中央部に接続され、他端が台座に接続される。板バネ5a〜5dは、一端がミラーホルダ3の周辺部に接続され、他端が台座に接続される。板バネ5a〜5dは、ミラー面と平行な面内に延在し、かつ、屈曲部を少なくとも1か所有する。
【解決手段】ミラーホルダ3は、ミラー2を保持する。ミラーホルダ3は、台座に、少なくとも2方向に傾斜可能に保持される。駆動手段は、ミラーホルダ3を台座から傾斜させる。トーションバー4は、一端がミラーホルダ3の中央部に接続され、他端が台座に接続される。板バネ5a〜5dは、一端がミラーホルダ3の周辺部に接続され、他端が台座に接続される。板バネ5a〜5dは、ミラー面と平行な面内に延在し、かつ、屈曲部を少なくとも1か所有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミラーチルトアクチュエーターに関し、更に詳しくは、ミラーを搭載し光の指向方向を制御するミラーチルトアクチュエーターに関する。
【背景技術】
【0002】
衛星間光通信は、宇宙空間における大容量通信方式として期待されている。宇宙空間は、光の散乱や吸収がほとんどなく、極めて良質な光伝送路である。宇宙空間では、数万kmオーダーの長距離伝送を、増幅なしで実現できる。
【0003】
衛星間光通信の成立には、双方のアンテナが厳密に相対する必要がある。アンテナには、1万分の1度オーダーの極めて小さな誤差範囲しか許されない。また、通信衛星の切り換えのため、アンテナは、相手のアンテナを高速で探索し、補足する必要がある。従って、光通信アンテナには、高精度追尾と高速捕捉の双方が求められている。
【0004】
一般に、衛星間光通信のビーム指向装置は、指向方向を大まかに制御する粗捕捉追尾機構(Coarse Pointing Mechanism:CPM)と、1万分の1度オーダーで精密に制御する精捕捉追尾機構(Fine Pointing Mechanism:FPM)とで構成されている。CPMには、大型のジンバルミラーが用いられ、FPMには、小型のミラーチルトアクチュエーターが用いられている。
【0005】
光通信アンテナの高速捕捉と高精度追尾とを満たすため、FPMのミラーチルトアクチュエーターには、広駆動帯域と高精度調整とが求められる。また、これと同時に、CPM側の調整精度を軽減し、更にはFPM単独で高速捕捉を可能にするために、駆動角範囲の広さが求められている。
【0006】
FPMには、その構成の容易さなどから、積層圧電素子を用いたミラーチルトアクチュエーターが用いられることが多い。しかし、圧電素子固有のストロークの短さから、FPMの駆動角範囲が極めて狭く、CPMに高い調整精度が要求された。
【0007】
特許文献1には、上記の問題を解消するミラーチルトアクチュエーターが記載されている。図15に、特許文献1のミラーチルトアクチュエーターの上面図を示し、図16に、側面図を示す。ミラー101及びミラーホルダ102は、ミラーホルダ102の中心からZ方向に伸びたトーションバー103、及び、ミラーホルダ102のXY面からZ方向に折り曲がった板バネ104を介して、台座105に固定されている。ミラーホルダ102からは、アーム106が伸びており、その端にコイル107a〜107dが設置されている。台座105には、コイル107a〜107dに対応して、永久磁石108a〜108d、及び、距離変位センサ109a〜109dが設置されている。
【0008】
ミラー101を傾ける際には、コイル107a〜107dに電流を流す。コイル107a〜107dに流れる電流と、永久磁石108a〜108dが生成する磁場との相互作用で、ミラーホルダ102がトーションバー103の固定端を中心にして傾く。より詳細には、コイル107aとコイル107cとに電流を流すことで、ミラー101がθx方向に傾き、コイル107bとコイル107dとに電流を流すことで、ミラー101がθy方向に傾く。このとき、トーションバー103及び板バネ104が、ミラーホルダ102のZ方向のずれを抑制する。
【0009】
また、非特許文献1にも、上記の問題を解消するミラーチルトアクチュエーターが記載さえている。図17に、非特許文献1に記載のミラーチルトアクチュエーターを示す。ミラー110及びミラーホルダ111は、トーションバー113、及び、ミラーホルダ111のXY面からZ方向に折り曲がった板バネ112を介して、台座116に固定されている。ミラーホルダ111の裏面には、2対のコイル114が設置され、コイル114の内部には、コイル114に対応した磁気回路118が挿入されている。特許文献1のミラーチルトアクチュエーター100、及び、非特許文献1のミラーチルトアクチュエーター117は、電磁力を用いて駆動しているため、圧電素子を用いる場合に比して、広角駆動が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−281925号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】K. Aoki, et al, "Wide-range fine pointing mechanism for free-space laser communications," Free-Space Laser Communication and Active Laser Illumination III, SPIE Proceedings, Vol. 5160, pp. 495-506, 2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に記載のミラーチルトアクチュエータ100は、ミラーホルダ102からアーム106が伸び、その先にコイル107a〜107dが設置されている。このため、ミラーチルトアクチュエーターのサイズが大型化するという問題がある。これに対し、非特許文献1に記載のミラーチルトアクチュエータ117は、コイル114がミラーホルダ111の裏面に設置されているため、ミラーチルトアクチュエーターを小型化できる。
【0013】
しかし、非特許文献1に記載のミラーチルトアクチュエーター117では、反共振を伴う不要共振モードが存在するという問題がある。図18に、ミラーチルトアクチュエーター117における発生チルトの周波数特性の測定結果を示す。図18を参照すると、40Hz近傍にチルト共振モードが存在し、100Hz近傍に反共振を伴う不要共振モードが存在する。このうち、チルト共振モードは制御が容易である。これに対し、不要共振モードは、並進方向の変位を伴うため、制御が困難である。
【0014】
ミラーチルトアクチュエーター117では、制御が困難な不要共振モードが100Hz近傍の低周波領域に存在するため、制御帯域が100Hz以下に制限される。不要共振モードを高周波側に移す方策として、板バネの剛性を上げるという方策がある。板バネ112の剛性を上げれば、図18に示すように、不要共振モードを高周波側に移すことができる。しかし、剛性を上げると、コイル電流あたりの駆動角の大きさ(発生チルト効率)が低下するという問題が生じる。
【0015】
本発明は、制御帯域が広く高効率なミラーチルトアクチュエーターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明のミラーチルトアクチュエーターは、光を反射するミラーと、前記ミラーを保持するミラーホルダと、前記ミラーホルダを少なくとも2方向に傾斜可能に保持する台座と、前記ミラーホルダを前記台座から傾斜させる駆動手段と、一端が前記ミラーホルダの中央部分に接続されると共に他端が前記台座に接続されるトーションバーと、一端が前記ミラーホルダの周辺部に接続されると共に他端が前記台座に接続され、前記ミラー面と平行な面内に延在し、かつ、屈曲部を少なくとも1か所有する複数の平板状の弾性部材とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のミラーチルトアクチュエーターは、制御帯域を広くとることができると共に、発生チルト効率を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態のミラーチルトアクチュエーターを構成する可動部を示す斜視図。
【図2】図1に示す可動部に用いられる板バネの形状を示す上面図。
【図3】台座の概略を示す斜視図。
【図4】磁気回路の概略を示す斜視図。
【図5】板バネ、トーションバー、及び、磁気回路の実装状態を示す斜視図。
【図6】図1に示す可動部におけるチルト発生のメカニズムを示す図。
【図7】実装の変形を示す図。
【図8】板バネの第1の変形例を示す図。
【図9】図8に示す形状の板バネを用いた可動部を示す斜視図。
【図10】板バネの第2の変形例を示す図。
【図11】図10に示す板バネを用いた可動部を示す斜視図。
【図12】非特許文献1に記載のミラーチルトアクチュエーターにおける可動部を示す斜視図。
【図13】有限要素法を用いて解析した発生チルトの周波数特性の解析結果を示すグラフ。
【図14】図12に示す可動部における不要共振モードの様子を示す図。
【図15】特許文献1に記載のミラーチルトアクチュエーターを示す上面図。
【図16】特許文献1に記載のミラーチルトアクチュエーターを示す側面図。
【図17】非特許文献1に記載のミラーチルトアクチュエーターの外観を示す図。
【図18】非特許文献1に記載のミラーチルトアクチュエーターにおける発生チルトの周波数特性の測定結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態のミラーチルトアクチュエーターにおける可動部を示している。可動部1は、ミラー2、ミラーホルダ3、トーションバー4、板バネ5a〜5d、及び、コイル6a〜6dを含む。トーションバー4は、ミラーホルダ3の中心からZ方向に伸びている。トーションバー4は、ピアノ線、コバルト合金などの耐力の高い合金で形成される。
【0020】
板バネ5a〜5dは、平板状の弾性部材であり、ミラーホルダ3の外縁部から、ミラーホルダ3に沿って伸びている。板バネ5a〜5dは、屈曲部を少なくとも一箇所有する。コイル6a〜6dは、ソレノイドコイルである。コイル6a〜6dは、X軸周り、Y軸周りで対になるように、ミラーホルダ3のミラー2の挿入面とは反対側の面に貼り付けられている。可動部1は、トーションバー4の接触面F1、及び、板バネ5a〜5dの接触面F2〜F5を介して、図示しない台座に固定される。
【0021】
図2に、板バネ5a〜5dの形状を示す。4枚の板バネ5a〜5dは、同じ形状をしている。図2は、板バネ5a〜5dでは、屈曲部Bを三か所有している。板バネ5a〜5dは、XY平面に平行な薄型平板のバネである。板バネ5a〜5dの厚みは、20μm〜200μmの範囲内にある。板バネ5a〜5dには、耐力の高い合金を用いる。具体的には、板バネ5a〜5dは、ステンレス鋼、ベリリウム銅、りん青銅、洋白、及び、ニッケル・銅合金、チタン・銅合金から成る群から選択される少なくとも1つの材料を含む。
【0022】
図3に、図1の可動部1を取り付ける台座の概略を示す。台座7は、固定台7a〜7hと、固定穴7iとを有する。固定台7a〜7dは、板バネ5a〜5dと台座7との接合部分である。固定台7a〜7dは、台座7のエッジ近傍に、各々の固定台が90°の回転対称となる位置関係で存在する。
【0023】
固定台7e〜7hは、コイル6a〜6dを駆動するための磁気回路の固定台である。固定台7e〜7hは、台座7の中心線上に、各々の固定台がX軸、Y軸で対称になる位置関係で存在する。固定穴7iは、トーションバー4の固定穴である。固定穴7iは、台座7の中心に存在する。
【0024】
図4に、コイル6a〜6dの駆動に用いる磁気回路を示す。磁気回路8a〜8dは、それぞれ固定台7e〜7hに固定される。4つの磁気回路8a〜8dは、同形状・同構成である。コイル6a〜6dと、磁気回路8a〜8dとは、ミラーホルダ3を傾ける駆動手段を構成する。駆動手段は、複数対のコイルと、複数対の磁気回路とで構成され、ミラーホルダ3を少なくとも2方向に傾けることができる。
【0025】
磁気回路8a〜8dは、断面がコの字型のヨーク9と、永久磁石10とを有する。永久磁石10は、ヨーク9の空隙部の片方の面に貼り付けられる。永久磁石10は、その磁気モーメントMの方向がヨーク9の空隙部の面に直交するように貼り付けられる。ヨーク9の永久磁石10が貼り付けられていない側には、可動部1のコイル6a〜6dが挿入される。
【0026】
図5に、台座7に、トーションバー4と板バネ5a〜5dと磁気回路8a〜8dとを実装した状態を示す。可動部1の板バネ5a〜5dは、固定台7a〜7dに固定され、トーションバー4は、固定穴7iに固定される。磁気回路8a〜8dは、永久磁石が台座7の中心側に向かうように固定される。磁気回路8a〜8dにおける磁気モーメントMの方向は、台座7の中心から外側に向かう方向に揃っている。
【0027】
図6に、チルト発生のメカニズムを示す。コイル6aに、ミラー2から向かった右回り方向に電流を流す。また、コイル6cに、ミラー2から向かって左回り方向に電流を流す。コイル6aに流す電流と、コイル6cに流す電流は、同じ電流値とする。磁気回路8a、8cの磁気モーメントMは、中心から外側に向かう方向に設定している。このため、フレミングの法則に従って、コイル6aに−Z方向に力が働き、コイル6cには+Z方向に力が働く。このとき、トーションバー4がミラーホルダ3のZ方向の並進を抑制するので、ミラー2(ミラーホルダ3)は、θy方向に回転する(傾く)。
【0028】
また、コイル6bに、ミラー2から向かって右回り方向に電流を流し、コイル6dに、ミラー2から向かって左回り方向に、コイル6bと同じ量の電流を流す。この場合、上記と同様な作用で、コイル6bに−Z方向に力が働き、コイル6dには+Z方向に力が働く。その結果、ミラー2がθx方向に回転する(傾く)。
【0029】
なお、磁気回路の配置は、図5には限定されない。すなわち、各磁気回路で、磁気モーメントMが中心に対して外側を向く配置には限定されない。図7に、磁気モーメントMの方向を変えた変形例を示す。図7では、磁気回路8aの磁気モーメントMと磁気回路8cの磁気モーメントMとを同じ方向に向けて配置している。また、磁気回路8bの磁気モーメントMと磁気回路8dの磁気モーメントMとを同じ方向に向けて配置している。磁気回路の配置を図7に示す配置とする場合は、コイル6aとコイル6cとに同じ方向の電流を流すことで、ミラーをθy方向に傾けることができる。また、コイル6bとコイル6dとの同じ方向の電流を流すことで、ミラーをθx方向に傾けることができる。
【0030】
図2では、板バネ5a〜5dが3か所の屈曲部Bを有していたが、板バネの形状は、これには限定されない。屈曲部Bは、直線状に折れ曲がった屈曲部には限定されず、曲線状(円弧状)に折れ曲がった屈曲部であってもよい。図8に、変形例(第1の変形例)の板バネの形状を示す。図8に示す板バネ11a〜11dは、XY面に平行な薄型薄板であり、円弧状の屈曲部を有している。図9に、図8に示す板バネ11a〜11dを用いた可動部12を示す。この場合も、可動部12の動作は、図6を用いて説明した動作と同様になる。
【0031】
また、板バネの屈曲部は、1か所だけでもよい。図10に、別の変形例(第2の変形例)の板バネの形状を示す。図10に示す板バネ13a〜13dは、XY面に平行な薄型平板で、屈曲部Bを1か所有している。図11に、図10に示す板バネ13a〜13dを用いた可動部14を示す。可動部14では、板バネ13a〜13dの側面が、ミラーホルダ3に接触している。この場合も、可動部14の動作は、図6を用いて説明した動作と同様になる。
【0032】
本実施形態のミラーチルトアクチュエーターについて、発生チルトの周波数特性を、有限要素法を用いて解析した。解析では、図1に示す構成の可動部1(モデル1)、図9に示す構成の可動部12(モデル2)、及び、図11に示す構成の可動部14(モデル3)について、発生チルトの周波数特性を求めた。また、比較例として、非特許文献1の構造のミラーチルトアクチュエーターの周波数特性も解析した。図12に、非特許文献1の構造に基づく可動部(モデル4)を示す。図12に示す比較例の可動部16は、ミラーホルダ3が、XY面からZ軸方向に折れ曲がる板バネ15a〜15dを用いて台座に取り付けられる点で、図1に示す本実施形態の可動部1と相違する。
【0033】
下記表1に、解析条件を示す。
【表1】
表1に示す解析条件を用いて、モデル1〜モデル4までについて、発生チルトの周波数特性を解析した。
【0034】
図13は、発生チルトの周波数特性の解析結果を示している。図13を参照すると、非特許文献1の構造であるモデル4では、100Hz近傍でS字状の不要共振モードが存在していることがわかる。この不要共振モードは、図18で示した実測結果の不要共振モードを再現したものである。これに対し、本実施形態の構成であるモデル1〜モデル3では、不要共振モードが1000Hzまで移動しており、広い制御帯域が確保できていることがわかる。また、発生チルトのゲインが、モデル4に比して落ちておらず、むしろ上昇している。このことは、モデル1〜モデル3では、発生チルトの効率が、非特許文献1の構造と同等以上であり、非特許文献1と同様な広角駆動と高精度制御とを確保できることを意味している。
【0035】
以下に、上記効果がもたらされる理由について説明する。図14は、非特許文献1の構造(モデル4)における不要共振モードの様子を示している。不要共振モードは、可動部16の対角線軸L3軸上の振動である。可動部16ではコイルがミラーホルダの裏面に設置されているため、可動部16の重心と回転中心とがずれている。その結果、不要共振モードは、チルト変位だけでなく、制御困難な並進方向の変位が伴う。
【0036】
図14に示すように、不要共振モード時には、板バネ15a〜15dの領域Aが大きく変形する。この変形は、板バネがXY面からZ方向へ折り曲がる部位の屈曲角の変化に伴って生じ、比較的小さな力で発生しうる。モデル4では、可動部16のL3軸上の振動に対する剛性が弱いため、不要共振モード周波数が下がる。
【0037】
一方、モデル1(可動部1)で用いられる板バネ5a〜5d(図2)、モデル2(可動部12)で用いられる板バネ11a〜11d(図8)、及び、モデル3(可動部14)で用いられる板バネ13a〜13d(図10)は、XY面からZ方向に屈曲する部位を持たない。このため、可動部のL3軸上の振動に対する剛性が高く、不要共振モード周波数が上がる。一方で、ミラーチルト方向に対して、XY面内で屈曲する屈曲部があることで、剛性を低くできる。その結果、発生チルト効率の低下が抑えられる。
【0038】
本発明のミラーチルトアクチュエーターは、最小構成として、ミラー2と、ミラーホルダ3と、台座7と、駆動手段(コイル6a〜6d、磁気回路8a〜8d)と、トーションバー4と、複数の平板状の弾性部材(板バネ5a〜5d、11a〜11d、又は、13a〜13d)とを備える。トーションバー4は、一端がミラーホルダ3の中央部に接続されると共に他端が台座7に接続される。板バネは、一端がミラーホルダ3の周辺部に接続されると共に他端が台座7に接続される。板バネは、ミラー面と平行な面内に延在し、かつ、屈曲部を少なくとも1か所有する。
【0039】
ミラーホルダ3と台座7と接続する板バネは、ミラー面と平行な面内に延在し、かつ、屈曲部を少なくとも1つ有している。板バネは、ミラー面からミラー面に垂直な方向に屈曲する部位を持たないため、可動部のミラー面方向の振動に対する剛性を高めることができる。その結果、不要共振モード周波数を高め、制御帯域を広げることができる。その一方で、板バネは、ミラー面と平行な面内で屈曲する屈曲部を有しているので、ミラーチルト方向の剛性を低くできる。つまり、本発明では、発生チルト効率の低下を抑制しつつ、制御帯域を広げることができるという効果を得ることができる。また、板バネを、ミラーホルダ3の外縁部から、ミラーホルダ3に沿って伸ばす構成とする場合、ミラーチルトアクチュエーターの小型化が可能である。
【0040】
ここで、板バネは、ミラーホルダ3に装着したコイルへの電流供給用の配線を兼ねてもよい。つまり、板バネ5a〜5d、11a〜11d、13a〜13dを、コイル駆動用の電流を流す配線として用いてもよい。板バネがコイルに電流を供給する配線を兼ねる構成では、台座7とミラーホルダ3との間に、別途配線を設ける必要がなくなる。また、板バネは弾性を有しているので、コイルへの電流供給を行う導線のフリクションに起因する制御性能の低下を防ぐことができる。また、アクチュエーター駆動時の繰り返し応力に起因する導線の損傷を防ぐこともできるという効果もある。
【0041】
なお、上記実施形態では、可動側であるミラーホルダ3にコイル6a〜6dを配置し、固定側である台座7に磁気回路8a〜8dを配置するムービングコイル方式を採用したが、コイルと磁気回路の配置は逆でもよい。すなわち、可動側であるミラーホルダ3に磁気回路を配置し、固定側である台座7にコイルを配置するムービングマグネット方式を採用してもよい。ムービングマグネット方式を採用する場合は、ムービングコイル方式に比して、コイルで発生しミラーホルダ3に伝わる熱の量が少なくなるので、コイルからの熱に起因するミラー2の変形を抑制できる効果がある。
【0042】
図2、図8、図10に示す板バネの形状は、例示であって、板バネの形状は、これら形状に限定されるわけではない。例えば、板バネの幅は一定である必要はなく、必要に応じて、幅を調整してもかまわない。また、上記実施形態では、ミラーホルダ3と板バネの接触面のZ方向の高さと、固定台7a〜7dと板バネとの接触面のZ方向の高さとを一致させているが、必ずしもその必要はない。両接触面の高さをずらしたとしても、L3軸方向の振動に対する剛性は変わらないため、不要共振モード周波数が高域に保たれるという効果は変わらない。
【0043】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明のミラーチルトアクチュエーターは、上記実施形態にのみ限定されるものではなく、上記実施形態の構成から種々の修正及び変更を施したものも、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0044】
1、12、14:可動部
2:ミラー
3:ミラーホルダ
4:トーションバー
5a〜5d、11a〜11d、13a〜13d:板バネ
6a〜6d、コイル
7:台座
7a〜7d:固定台(板バネ用)
7e〜7h:固定台(磁気回路用)
7i:固定穴(トーションバー用)
8a〜8d:磁気回路
9:ヨーク
10:永久磁石
15a〜15d:板バネ
16:可動部
100:ミラーチルトアクチュエーター
101:ミラー
102:ミラーホルダ
103:トーションバー
104:板バネ
105:台座
106:アーム
107a〜107d:コイル
108a〜108d:永久磁石
109a〜109d:距離変位センサ
110:ミラー
111:ミラーホルダ
112:板バネ
113:トーションバー
114:コイル
115:距離変位センサ
116:台座
117:ミラーチルトアクチュエーター
118:磁気回路
A:板バネの変形領域
B:屈曲部
F1〜F5:台座との接触面
L3:対角線軸
M:磁気モーメント
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミラーチルトアクチュエーターに関し、更に詳しくは、ミラーを搭載し光の指向方向を制御するミラーチルトアクチュエーターに関する。
【背景技術】
【0002】
衛星間光通信は、宇宙空間における大容量通信方式として期待されている。宇宙空間は、光の散乱や吸収がほとんどなく、極めて良質な光伝送路である。宇宙空間では、数万kmオーダーの長距離伝送を、増幅なしで実現できる。
【0003】
衛星間光通信の成立には、双方のアンテナが厳密に相対する必要がある。アンテナには、1万分の1度オーダーの極めて小さな誤差範囲しか許されない。また、通信衛星の切り換えのため、アンテナは、相手のアンテナを高速で探索し、補足する必要がある。従って、光通信アンテナには、高精度追尾と高速捕捉の双方が求められている。
【0004】
一般に、衛星間光通信のビーム指向装置は、指向方向を大まかに制御する粗捕捉追尾機構(Coarse Pointing Mechanism:CPM)と、1万分の1度オーダーで精密に制御する精捕捉追尾機構(Fine Pointing Mechanism:FPM)とで構成されている。CPMには、大型のジンバルミラーが用いられ、FPMには、小型のミラーチルトアクチュエーターが用いられている。
【0005】
光通信アンテナの高速捕捉と高精度追尾とを満たすため、FPMのミラーチルトアクチュエーターには、広駆動帯域と高精度調整とが求められる。また、これと同時に、CPM側の調整精度を軽減し、更にはFPM単独で高速捕捉を可能にするために、駆動角範囲の広さが求められている。
【0006】
FPMには、その構成の容易さなどから、積層圧電素子を用いたミラーチルトアクチュエーターが用いられることが多い。しかし、圧電素子固有のストロークの短さから、FPMの駆動角範囲が極めて狭く、CPMに高い調整精度が要求された。
【0007】
特許文献1には、上記の問題を解消するミラーチルトアクチュエーターが記載されている。図15に、特許文献1のミラーチルトアクチュエーターの上面図を示し、図16に、側面図を示す。ミラー101及びミラーホルダ102は、ミラーホルダ102の中心からZ方向に伸びたトーションバー103、及び、ミラーホルダ102のXY面からZ方向に折り曲がった板バネ104を介して、台座105に固定されている。ミラーホルダ102からは、アーム106が伸びており、その端にコイル107a〜107dが設置されている。台座105には、コイル107a〜107dに対応して、永久磁石108a〜108d、及び、距離変位センサ109a〜109dが設置されている。
【0008】
ミラー101を傾ける際には、コイル107a〜107dに電流を流す。コイル107a〜107dに流れる電流と、永久磁石108a〜108dが生成する磁場との相互作用で、ミラーホルダ102がトーションバー103の固定端を中心にして傾く。より詳細には、コイル107aとコイル107cとに電流を流すことで、ミラー101がθx方向に傾き、コイル107bとコイル107dとに電流を流すことで、ミラー101がθy方向に傾く。このとき、トーションバー103及び板バネ104が、ミラーホルダ102のZ方向のずれを抑制する。
【0009】
また、非特許文献1にも、上記の問題を解消するミラーチルトアクチュエーターが記載さえている。図17に、非特許文献1に記載のミラーチルトアクチュエーターを示す。ミラー110及びミラーホルダ111は、トーションバー113、及び、ミラーホルダ111のXY面からZ方向に折り曲がった板バネ112を介して、台座116に固定されている。ミラーホルダ111の裏面には、2対のコイル114が設置され、コイル114の内部には、コイル114に対応した磁気回路118が挿入されている。特許文献1のミラーチルトアクチュエーター100、及び、非特許文献1のミラーチルトアクチュエーター117は、電磁力を用いて駆動しているため、圧電素子を用いる場合に比して、広角駆動が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−281925号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】K. Aoki, et al, "Wide-range fine pointing mechanism for free-space laser communications," Free-Space Laser Communication and Active Laser Illumination III, SPIE Proceedings, Vol. 5160, pp. 495-506, 2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に記載のミラーチルトアクチュエータ100は、ミラーホルダ102からアーム106が伸び、その先にコイル107a〜107dが設置されている。このため、ミラーチルトアクチュエーターのサイズが大型化するという問題がある。これに対し、非特許文献1に記載のミラーチルトアクチュエータ117は、コイル114がミラーホルダ111の裏面に設置されているため、ミラーチルトアクチュエーターを小型化できる。
【0013】
しかし、非特許文献1に記載のミラーチルトアクチュエーター117では、反共振を伴う不要共振モードが存在するという問題がある。図18に、ミラーチルトアクチュエーター117における発生チルトの周波数特性の測定結果を示す。図18を参照すると、40Hz近傍にチルト共振モードが存在し、100Hz近傍に反共振を伴う不要共振モードが存在する。このうち、チルト共振モードは制御が容易である。これに対し、不要共振モードは、並進方向の変位を伴うため、制御が困難である。
【0014】
ミラーチルトアクチュエーター117では、制御が困難な不要共振モードが100Hz近傍の低周波領域に存在するため、制御帯域が100Hz以下に制限される。不要共振モードを高周波側に移す方策として、板バネの剛性を上げるという方策がある。板バネ112の剛性を上げれば、図18に示すように、不要共振モードを高周波側に移すことができる。しかし、剛性を上げると、コイル電流あたりの駆動角の大きさ(発生チルト効率)が低下するという問題が生じる。
【0015】
本発明は、制御帯域が広く高効率なミラーチルトアクチュエーターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明のミラーチルトアクチュエーターは、光を反射するミラーと、前記ミラーを保持するミラーホルダと、前記ミラーホルダを少なくとも2方向に傾斜可能に保持する台座と、前記ミラーホルダを前記台座から傾斜させる駆動手段と、一端が前記ミラーホルダの中央部分に接続されると共に他端が前記台座に接続されるトーションバーと、一端が前記ミラーホルダの周辺部に接続されると共に他端が前記台座に接続され、前記ミラー面と平行な面内に延在し、かつ、屈曲部を少なくとも1か所有する複数の平板状の弾性部材とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のミラーチルトアクチュエーターは、制御帯域を広くとることができると共に、発生チルト効率を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態のミラーチルトアクチュエーターを構成する可動部を示す斜視図。
【図2】図1に示す可動部に用いられる板バネの形状を示す上面図。
【図3】台座の概略を示す斜視図。
【図4】磁気回路の概略を示す斜視図。
【図5】板バネ、トーションバー、及び、磁気回路の実装状態を示す斜視図。
【図6】図1に示す可動部におけるチルト発生のメカニズムを示す図。
【図7】実装の変形を示す図。
【図8】板バネの第1の変形例を示す図。
【図9】図8に示す形状の板バネを用いた可動部を示す斜視図。
【図10】板バネの第2の変形例を示す図。
【図11】図10に示す板バネを用いた可動部を示す斜視図。
【図12】非特許文献1に記載のミラーチルトアクチュエーターにおける可動部を示す斜視図。
【図13】有限要素法を用いて解析した発生チルトの周波数特性の解析結果を示すグラフ。
【図14】図12に示す可動部における不要共振モードの様子を示す図。
【図15】特許文献1に記載のミラーチルトアクチュエーターを示す上面図。
【図16】特許文献1に記載のミラーチルトアクチュエーターを示す側面図。
【図17】非特許文献1に記載のミラーチルトアクチュエーターの外観を示す図。
【図18】非特許文献1に記載のミラーチルトアクチュエーターにおける発生チルトの周波数特性の測定結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態のミラーチルトアクチュエーターにおける可動部を示している。可動部1は、ミラー2、ミラーホルダ3、トーションバー4、板バネ5a〜5d、及び、コイル6a〜6dを含む。トーションバー4は、ミラーホルダ3の中心からZ方向に伸びている。トーションバー4は、ピアノ線、コバルト合金などの耐力の高い合金で形成される。
【0020】
板バネ5a〜5dは、平板状の弾性部材であり、ミラーホルダ3の外縁部から、ミラーホルダ3に沿って伸びている。板バネ5a〜5dは、屈曲部を少なくとも一箇所有する。コイル6a〜6dは、ソレノイドコイルである。コイル6a〜6dは、X軸周り、Y軸周りで対になるように、ミラーホルダ3のミラー2の挿入面とは反対側の面に貼り付けられている。可動部1は、トーションバー4の接触面F1、及び、板バネ5a〜5dの接触面F2〜F5を介して、図示しない台座に固定される。
【0021】
図2に、板バネ5a〜5dの形状を示す。4枚の板バネ5a〜5dは、同じ形状をしている。図2は、板バネ5a〜5dでは、屈曲部Bを三か所有している。板バネ5a〜5dは、XY平面に平行な薄型平板のバネである。板バネ5a〜5dの厚みは、20μm〜200μmの範囲内にある。板バネ5a〜5dには、耐力の高い合金を用いる。具体的には、板バネ5a〜5dは、ステンレス鋼、ベリリウム銅、りん青銅、洋白、及び、ニッケル・銅合金、チタン・銅合金から成る群から選択される少なくとも1つの材料を含む。
【0022】
図3に、図1の可動部1を取り付ける台座の概略を示す。台座7は、固定台7a〜7hと、固定穴7iとを有する。固定台7a〜7dは、板バネ5a〜5dと台座7との接合部分である。固定台7a〜7dは、台座7のエッジ近傍に、各々の固定台が90°の回転対称となる位置関係で存在する。
【0023】
固定台7e〜7hは、コイル6a〜6dを駆動するための磁気回路の固定台である。固定台7e〜7hは、台座7の中心線上に、各々の固定台がX軸、Y軸で対称になる位置関係で存在する。固定穴7iは、トーションバー4の固定穴である。固定穴7iは、台座7の中心に存在する。
【0024】
図4に、コイル6a〜6dの駆動に用いる磁気回路を示す。磁気回路8a〜8dは、それぞれ固定台7e〜7hに固定される。4つの磁気回路8a〜8dは、同形状・同構成である。コイル6a〜6dと、磁気回路8a〜8dとは、ミラーホルダ3を傾ける駆動手段を構成する。駆動手段は、複数対のコイルと、複数対の磁気回路とで構成され、ミラーホルダ3を少なくとも2方向に傾けることができる。
【0025】
磁気回路8a〜8dは、断面がコの字型のヨーク9と、永久磁石10とを有する。永久磁石10は、ヨーク9の空隙部の片方の面に貼り付けられる。永久磁石10は、その磁気モーメントMの方向がヨーク9の空隙部の面に直交するように貼り付けられる。ヨーク9の永久磁石10が貼り付けられていない側には、可動部1のコイル6a〜6dが挿入される。
【0026】
図5に、台座7に、トーションバー4と板バネ5a〜5dと磁気回路8a〜8dとを実装した状態を示す。可動部1の板バネ5a〜5dは、固定台7a〜7dに固定され、トーションバー4は、固定穴7iに固定される。磁気回路8a〜8dは、永久磁石が台座7の中心側に向かうように固定される。磁気回路8a〜8dにおける磁気モーメントMの方向は、台座7の中心から外側に向かう方向に揃っている。
【0027】
図6に、チルト発生のメカニズムを示す。コイル6aに、ミラー2から向かった右回り方向に電流を流す。また、コイル6cに、ミラー2から向かって左回り方向に電流を流す。コイル6aに流す電流と、コイル6cに流す電流は、同じ電流値とする。磁気回路8a、8cの磁気モーメントMは、中心から外側に向かう方向に設定している。このため、フレミングの法則に従って、コイル6aに−Z方向に力が働き、コイル6cには+Z方向に力が働く。このとき、トーションバー4がミラーホルダ3のZ方向の並進を抑制するので、ミラー2(ミラーホルダ3)は、θy方向に回転する(傾く)。
【0028】
また、コイル6bに、ミラー2から向かって右回り方向に電流を流し、コイル6dに、ミラー2から向かって左回り方向に、コイル6bと同じ量の電流を流す。この場合、上記と同様な作用で、コイル6bに−Z方向に力が働き、コイル6dには+Z方向に力が働く。その結果、ミラー2がθx方向に回転する(傾く)。
【0029】
なお、磁気回路の配置は、図5には限定されない。すなわち、各磁気回路で、磁気モーメントMが中心に対して外側を向く配置には限定されない。図7に、磁気モーメントMの方向を変えた変形例を示す。図7では、磁気回路8aの磁気モーメントMと磁気回路8cの磁気モーメントMとを同じ方向に向けて配置している。また、磁気回路8bの磁気モーメントMと磁気回路8dの磁気モーメントMとを同じ方向に向けて配置している。磁気回路の配置を図7に示す配置とする場合は、コイル6aとコイル6cとに同じ方向の電流を流すことで、ミラーをθy方向に傾けることができる。また、コイル6bとコイル6dとの同じ方向の電流を流すことで、ミラーをθx方向に傾けることができる。
【0030】
図2では、板バネ5a〜5dが3か所の屈曲部Bを有していたが、板バネの形状は、これには限定されない。屈曲部Bは、直線状に折れ曲がった屈曲部には限定されず、曲線状(円弧状)に折れ曲がった屈曲部であってもよい。図8に、変形例(第1の変形例)の板バネの形状を示す。図8に示す板バネ11a〜11dは、XY面に平行な薄型薄板であり、円弧状の屈曲部を有している。図9に、図8に示す板バネ11a〜11dを用いた可動部12を示す。この場合も、可動部12の動作は、図6を用いて説明した動作と同様になる。
【0031】
また、板バネの屈曲部は、1か所だけでもよい。図10に、別の変形例(第2の変形例)の板バネの形状を示す。図10に示す板バネ13a〜13dは、XY面に平行な薄型平板で、屈曲部Bを1か所有している。図11に、図10に示す板バネ13a〜13dを用いた可動部14を示す。可動部14では、板バネ13a〜13dの側面が、ミラーホルダ3に接触している。この場合も、可動部14の動作は、図6を用いて説明した動作と同様になる。
【0032】
本実施形態のミラーチルトアクチュエーターについて、発生チルトの周波数特性を、有限要素法を用いて解析した。解析では、図1に示す構成の可動部1(モデル1)、図9に示す構成の可動部12(モデル2)、及び、図11に示す構成の可動部14(モデル3)について、発生チルトの周波数特性を求めた。また、比較例として、非特許文献1の構造のミラーチルトアクチュエーターの周波数特性も解析した。図12に、非特許文献1の構造に基づく可動部(モデル4)を示す。図12に示す比較例の可動部16は、ミラーホルダ3が、XY面からZ軸方向に折れ曲がる板バネ15a〜15dを用いて台座に取り付けられる点で、図1に示す本実施形態の可動部1と相違する。
【0033】
下記表1に、解析条件を示す。
【表1】
表1に示す解析条件を用いて、モデル1〜モデル4までについて、発生チルトの周波数特性を解析した。
【0034】
図13は、発生チルトの周波数特性の解析結果を示している。図13を参照すると、非特許文献1の構造であるモデル4では、100Hz近傍でS字状の不要共振モードが存在していることがわかる。この不要共振モードは、図18で示した実測結果の不要共振モードを再現したものである。これに対し、本実施形態の構成であるモデル1〜モデル3では、不要共振モードが1000Hzまで移動しており、広い制御帯域が確保できていることがわかる。また、発生チルトのゲインが、モデル4に比して落ちておらず、むしろ上昇している。このことは、モデル1〜モデル3では、発生チルトの効率が、非特許文献1の構造と同等以上であり、非特許文献1と同様な広角駆動と高精度制御とを確保できることを意味している。
【0035】
以下に、上記効果がもたらされる理由について説明する。図14は、非特許文献1の構造(モデル4)における不要共振モードの様子を示している。不要共振モードは、可動部16の対角線軸L3軸上の振動である。可動部16ではコイルがミラーホルダの裏面に設置されているため、可動部16の重心と回転中心とがずれている。その結果、不要共振モードは、チルト変位だけでなく、制御困難な並進方向の変位が伴う。
【0036】
図14に示すように、不要共振モード時には、板バネ15a〜15dの領域Aが大きく変形する。この変形は、板バネがXY面からZ方向へ折り曲がる部位の屈曲角の変化に伴って生じ、比較的小さな力で発生しうる。モデル4では、可動部16のL3軸上の振動に対する剛性が弱いため、不要共振モード周波数が下がる。
【0037】
一方、モデル1(可動部1)で用いられる板バネ5a〜5d(図2)、モデル2(可動部12)で用いられる板バネ11a〜11d(図8)、及び、モデル3(可動部14)で用いられる板バネ13a〜13d(図10)は、XY面からZ方向に屈曲する部位を持たない。このため、可動部のL3軸上の振動に対する剛性が高く、不要共振モード周波数が上がる。一方で、ミラーチルト方向に対して、XY面内で屈曲する屈曲部があることで、剛性を低くできる。その結果、発生チルト効率の低下が抑えられる。
【0038】
本発明のミラーチルトアクチュエーターは、最小構成として、ミラー2と、ミラーホルダ3と、台座7と、駆動手段(コイル6a〜6d、磁気回路8a〜8d)と、トーションバー4と、複数の平板状の弾性部材(板バネ5a〜5d、11a〜11d、又は、13a〜13d)とを備える。トーションバー4は、一端がミラーホルダ3の中央部に接続されると共に他端が台座7に接続される。板バネは、一端がミラーホルダ3の周辺部に接続されると共に他端が台座7に接続される。板バネは、ミラー面と平行な面内に延在し、かつ、屈曲部を少なくとも1か所有する。
【0039】
ミラーホルダ3と台座7と接続する板バネは、ミラー面と平行な面内に延在し、かつ、屈曲部を少なくとも1つ有している。板バネは、ミラー面からミラー面に垂直な方向に屈曲する部位を持たないため、可動部のミラー面方向の振動に対する剛性を高めることができる。その結果、不要共振モード周波数を高め、制御帯域を広げることができる。その一方で、板バネは、ミラー面と平行な面内で屈曲する屈曲部を有しているので、ミラーチルト方向の剛性を低くできる。つまり、本発明では、発生チルト効率の低下を抑制しつつ、制御帯域を広げることができるという効果を得ることができる。また、板バネを、ミラーホルダ3の外縁部から、ミラーホルダ3に沿って伸ばす構成とする場合、ミラーチルトアクチュエーターの小型化が可能である。
【0040】
ここで、板バネは、ミラーホルダ3に装着したコイルへの電流供給用の配線を兼ねてもよい。つまり、板バネ5a〜5d、11a〜11d、13a〜13dを、コイル駆動用の電流を流す配線として用いてもよい。板バネがコイルに電流を供給する配線を兼ねる構成では、台座7とミラーホルダ3との間に、別途配線を設ける必要がなくなる。また、板バネは弾性を有しているので、コイルへの電流供給を行う導線のフリクションに起因する制御性能の低下を防ぐことができる。また、アクチュエーター駆動時の繰り返し応力に起因する導線の損傷を防ぐこともできるという効果もある。
【0041】
なお、上記実施形態では、可動側であるミラーホルダ3にコイル6a〜6dを配置し、固定側である台座7に磁気回路8a〜8dを配置するムービングコイル方式を採用したが、コイルと磁気回路の配置は逆でもよい。すなわち、可動側であるミラーホルダ3に磁気回路を配置し、固定側である台座7にコイルを配置するムービングマグネット方式を採用してもよい。ムービングマグネット方式を採用する場合は、ムービングコイル方式に比して、コイルで発生しミラーホルダ3に伝わる熱の量が少なくなるので、コイルからの熱に起因するミラー2の変形を抑制できる効果がある。
【0042】
図2、図8、図10に示す板バネの形状は、例示であって、板バネの形状は、これら形状に限定されるわけではない。例えば、板バネの幅は一定である必要はなく、必要に応じて、幅を調整してもかまわない。また、上記実施形態では、ミラーホルダ3と板バネの接触面のZ方向の高さと、固定台7a〜7dと板バネとの接触面のZ方向の高さとを一致させているが、必ずしもその必要はない。両接触面の高さをずらしたとしても、L3軸方向の振動に対する剛性は変わらないため、不要共振モード周波数が高域に保たれるという効果は変わらない。
【0043】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明のミラーチルトアクチュエーターは、上記実施形態にのみ限定されるものではなく、上記実施形態の構成から種々の修正及び変更を施したものも、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0044】
1、12、14:可動部
2:ミラー
3:ミラーホルダ
4:トーションバー
5a〜5d、11a〜11d、13a〜13d:板バネ
6a〜6d、コイル
7:台座
7a〜7d:固定台(板バネ用)
7e〜7h:固定台(磁気回路用)
7i:固定穴(トーションバー用)
8a〜8d:磁気回路
9:ヨーク
10:永久磁石
15a〜15d:板バネ
16:可動部
100:ミラーチルトアクチュエーター
101:ミラー
102:ミラーホルダ
103:トーションバー
104:板バネ
105:台座
106:アーム
107a〜107d:コイル
108a〜108d:永久磁石
109a〜109d:距離変位センサ
110:ミラー
111:ミラーホルダ
112:板バネ
113:トーションバー
114:コイル
115:距離変位センサ
116:台座
117:ミラーチルトアクチュエーター
118:磁気回路
A:板バネの変形領域
B:屈曲部
F1〜F5:台座との接触面
L3:対角線軸
M:磁気モーメント
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を反射するミラーと、
前記ミラーを保持するミラーホルダと、
前記ミラーホルダを少なくとも2方向に傾斜可能に保持する台座と、
前記ミラーホルダを前記台座から傾斜させる駆動手段と、
一端が前記ミラーホルダの中央部分に接続されると共に他端が前記台座に接続されるトーションバーと、
一端が前記ミラーホルダの周辺部に接続されると共に他端が前記台座に接続され、前記ミラー面と平行な面内に延在し、かつ、屈曲部を少なくとも1か所有する複数の平板状の弾性部材とを備えるミラーチルトアクチュエーター。
【請求項2】
前記駆動手段が、前記ミラーホルダと前記台座との何れか一方に取り付けられたコイルと、他方に取り付けられた電磁石とを有し、前記コイルと前記電磁石との間に働く電磁力を用いて、前記ミラーホルダを傾斜させる、請求項1に記載のミラーチルトアクチュエーター。
【請求項3】
前記コイルが、前記ミラーホルダに取り付けられており、平板状の弾性部材が、前記コイルへ電流を供給する配線を兼ねる、請求項2に記載のミラーチルトアクチュエーター。
【請求項4】
前記平板状の弾性部材が板バネであり、該板バネが、ステンレス鋼、ベリリウム銅、りん青銅、洋白、ニッケル−銅合金、及び、チタン−銅合金から成る群から選択された少なくとも1つを含む、請求項1乃至3の何れか一に記載のミラーチルトアクチュエーター。
【請求項1】
光を反射するミラーと、
前記ミラーを保持するミラーホルダと、
前記ミラーホルダを少なくとも2方向に傾斜可能に保持する台座と、
前記ミラーホルダを前記台座から傾斜させる駆動手段と、
一端が前記ミラーホルダの中央部分に接続されると共に他端が前記台座に接続されるトーションバーと、
一端が前記ミラーホルダの周辺部に接続されると共に他端が前記台座に接続され、前記ミラー面と平行な面内に延在し、かつ、屈曲部を少なくとも1か所有する複数の平板状の弾性部材とを備えるミラーチルトアクチュエーター。
【請求項2】
前記駆動手段が、前記ミラーホルダと前記台座との何れか一方に取り付けられたコイルと、他方に取り付けられた電磁石とを有し、前記コイルと前記電磁石との間に働く電磁力を用いて、前記ミラーホルダを傾斜させる、請求項1に記載のミラーチルトアクチュエーター。
【請求項3】
前記コイルが、前記ミラーホルダに取り付けられており、平板状の弾性部材が、前記コイルへ電流を供給する配線を兼ねる、請求項2に記載のミラーチルトアクチュエーター。
【請求項4】
前記平板状の弾性部材が板バネであり、該板バネが、ステンレス鋼、ベリリウム銅、りん青銅、洋白、ニッケル−銅合金、及び、チタン−銅合金から成る群から選択された少なくとも1つを含む、請求項1乃至3の何れか一に記載のミラーチルトアクチュエーター。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2010−237273(P2010−237273A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82437(P2009−82437)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】
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