説明

メッシュおよび元素分析方法

【課題】試料の先端部分が破損し難く、且つ、(メッシュが搭載される試料ホルダの窪み(凹部)形状を専用形にすることが不要な)汎用性の高い試料保持用のメッシュ、及び元素分析方法を提供する。
【解決手段】透過型電子顕微鏡に用いられる試料保持用のメッシュ13において、前記メッシュの一部(第1のメッシュ13−1)が分離し、当該一部が、分離後に残った部分(第2のメッシュ13−2)と脱着可能な形態とすることにより、測定中、試料の先端を崩さずに、精度の高い元素分析を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過型電子顕微鏡用(Transmission Electron Microscope:以下、TEMと略す)に用いられる試料を支持するメッシュ、および当該メッシュを使用した元素分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、TEMにより被測定体である試料を観察する際に、試料は、メッシュと呼ばれるTEM用試料支持台に固定された状態で観察される。
【0003】
TEM観察の概要を、図を参照しながら説明する。図7はTEMの試料室周辺を拡大した概略図である。
【0004】
図に示されるように、TEMの試料室34は、対物レンズ35、36に挟まれた空間であり、測定の際には、この試料室34内に、図に示すような試料搭載用の試料ホルダ25が矢印方向から挿入される。
【0005】
通常、この試料ホルダ25のメッシュ26上に試料(不図示)が載せられた後、図のように電子線23が照射され、TEM観察が行なわれる。試料を載せるためのメッシュには、この他にも、図8に示すような形状のメッシュが存在する。
【0006】
図8に示すメッシュは、中央に1個の穴を有するメッシュであり、単孔メッシュと呼ばれるものである。この単孔メッシュ27は、試料ホルダ15の窪み部(凹部)24内に設置される。試料11は、例えば、導電性接着剤(不図示)等によって単孔メッシュ27に固定されるが、単孔メッシュ27に固定されることによって試料11が補強され、その取扱いも容易になり、試料の破損等を未然に防止することが可能となる。
【0007】
また、単孔メッシュ27は、例えば、図示しない、スクリューねじやバネ状の治具等によって試料ホルダ15に固定される。なお、単孔メッシュ27は、試料ホルダ15に固定し易いように、一般に、直径が3mm、厚みが100μm程度の大きさである。
【0008】
近時においては、このTEMによる試料の観察を、他の測定と組み合わせて行なう場合も多くなってきている。その組み合わせる測定としては、例えば、次に示す3次元アトムプローブ(Three Dimensional Atom Probe:以下、3DAPと略称する。)等が挙げられる。
【0009】
一般的な3DAPの例を図6に示す。3DAPでは、図に示すように、先端を針状に加工した構造体(針状構造体)からなる試料1に高電界を印加し、その表面から元素を電界蒸発させる。そして、この電界蒸発により離脱した元素(離脱イオン5)の位置及び飛行時間を、位置敏感型検出器(position sensitive detector)2およびタイマー7で測定する。なお、元素の種類はこの飛行時間により同定される。
【0010】
このように、上記離脱イオン5の位置及び飛行時間を位置敏感型検出器2で検出することにより、試料表面の全構成元素を、原子レベルの空間分解能で2次元マップ化することが可能である。そして、これを深さ方向に拡張し、元素分布を3次元的に観察することができる。
【0011】
このような3DAPにおける分析おいては、分析前や分析途中の試料の状態をTEMで観察する必要があり、その際に、取り付けや取り外しによる試料の破損等をできる限り回避するため、TEM観察時にメッシュに固定された状態の試料を、メッシュから外さずにそのままの状態で3DAP装置に設置することが望ましい。
【0012】
このような状況で、図8に示したようなリング状の単孔メッシュ27に載置された資料11を3DAPで分析しようとすると、試料11の先端部11aに対向するリングの部分が離脱イオン5の前をさえぎる形になるので、TEM観察後に(単孔メッシュ27から試料11を外さないと)、そのまま3DAPで測定することができない。
【0013】
メッシュに試料を固定した状態で他の測定等を行いたいという、このような要求については、上記の他に、FIB用試料の観察場所を加工する場面でも存在し、そのような要求を解決するものとして、一部分に切りかけ部を有するメッシュが提案されている(特許文献1参照)。
【0014】
特許文献1によれば、FIB用の試料を支持するためのメッシュが、60°以上、180°以下の切りかけ部を有している。
【特許文献1】特開平11−329325号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、3DAP装置で使用する試料は、先端部が針状の構造体(針状構造体)であるため、上記のように、メッシュが予め切り欠け部を有する場合、試料の搬送時等に先端部が破損し易くなり、その取扱いが難しくなるという問題がある。
【0016】
また、メッシュが搭載される試料ホルダの窪み(凹部)形状を、切り欠け部の形状に応じた専用の形にすることが必要になり、汎用性の問題もある。
【0017】
本発明は上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、試料が破損し難く且つ汎用性のあるメッシュ、及び元素分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の課題について、本発明者は、メッシュの一部を分離し、分離した部分と残った部分とが着脱可能な構成とすること等により、解決可能であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0019】
すなわち、本発明は、その一観点によれば、本発明のメッシュは、透過型電子顕微鏡に用いられる試料保持用のメッシュであって、前記メッシュの一部が分離し、当該一部が、分離後に残った部分と脱着可能であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の他の観点によれば、本発明のメッシュは、透過型電子顕微鏡に用いられる試料保持用のメッシュであって、前記メッシュの一部が折り曲げ可能であることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の他の観点によれば、本発明の元素分析方法は、被測定体である試料を試料保持用のメッシュに載置し、試料の元素を分析する元素分析方法であって、前記メッシュに載置された前記試料を、透過型電子顕微鏡により観測する工程と、前記メッシュに前記試料を載置した状態で、前記透過型電子顕微鏡から前記試料を取り外した後、前記試料が前記メッシュに載置された状態で、前記試料が載置されていないメッシュの一部を分離する工程と、前記分離後に残った部分を3次元アトムプローブ測定装置に設置し、前記試料から離脱した元素の位置および飛行時間を測定する工程とを備えることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の他の観点によれば、本発明の元素分析方法は、被測定体である試料を試料保持用のメッシュに載置し、試料の元素を分析する元素分析方法であって、前記メッシュに載置された前記試料を、透過型電子顕微鏡により観測する工程と、前記メッシュに前記試料を載置した状態で、前記透過型電子顕微鏡から前記試料を取り外した後、前記試料が前記メッシュに載置された状態で、前記試料が載置されていないメッシュの一部を、前記試料が載置されていない側に折りたたむ工程と、前記試料が前記メッシュに載置された状態で、前記試料が載置されていないメッシュの一部を、前記試料が載置されていない側に折りたたんだものを、3次元アトムプローブ測定装置に設置し、前記試料から離脱した元素の位置および飛行時間を測定する工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、上記のような構成を備えることにより、試料を試料保持用メッシュに載せた状態で搬送する際に、試料の先端部が破損し難くなるとともに、従来の試料ホルダをそのまま使用できるというメリットを有する。
【0024】
また、測定中、試料の先端を崩さずに、精度の高い元素分析を行なうことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に、本発明の実施形態に係る詳細を、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0026】
図1は、本発明の実施例1に係る試料保持用メッシュである。図に示すように、試料保持用メッシュ13は中央で分離しており、その分離したメッシュが分離する前の状態を示した斜視図が図1(a)である。
【0027】
TEMによる観察は、この状態で行なわれる。なお、TEMで観察する場合は、このように、試料11が載った状態の試料保持用メッシュ13が、図8に示すようなTEM用の試料ホルダに搭載されて、観察が行なわれる。
【0028】
図1(b)は、試料保持用メッシュ13の一部(第1のメッシュ13−1)を、残った部分(第2のメッシュ13−2)から分離した図である。図に示すように、試料が搭載されていない第1のメッシュ13−1は、残った第2のメッシュ13−2から完全に分離する。
【0029】
但し、前記第1のメッシュ13−1と第2のメッシュ13−2とは、図1(a)に示すように、分離した後に、再度、組み合わせることが可能である。そのような機能、すなわち着脱を可能とした機能を、例えば、図2に示す形態により実現する。
【0030】
図2は、試料保持用メッシュ13について、その第1のメッシュ13−1と残った第2のメッシュ13−2とを着脱可能とするための形態である。
【0031】
図2に示すように、試料保持用メッシュ13を分離した際のそれぞれの先端部に、複数の切断ライン21を付ける。そして、図のように、切断ラインを付けた相手側の先端同士を組み合わせる。
【0032】
このとき、切断ライン21により分離された後の先端を、図中の拡大図のように、それぞれ交互に異なる方向(矢印方向)にずらしておくと、着脱がスムーズに出来る。
【0033】
なお、本図では、図示の便宜上、各先端について2本の切断ライン21を設けた例を示したが、実際には、3〜5本の切断ライン21を設けることが望ましい。また、第1のメッシュ13−1と第2のメッシュ13−2のいずれか一方の先端にのみ切断ライン21を設けて、相手側の先端を挟み込むようにしても良い。
【実施例2】
【0034】
続いて、次の実施例について、図3を参照しながら説明する。図3は、本発明の実施例2に係る試料保持用メッシュを示す概略図である。
【0035】
本実施例では、図3(b)に示すように、試料保持用メッシュ14の一部である第1のメッシュ14−1が、試料が搭載されている第2のメッシュ14−2から分離せず、矢印方向に折り曲げ可能になっている。具体的には、試料保持用メッシュ14の中央に、深い溝22を設けた構造を有している。溝22を形成する際には、例えば、高精度の切断ができるFIB(Focused Ion Beam)装置を使用する。
【0036】
−電子顕微鏡−
次に、試料保持用メッシュを搭載する電子顕微鏡について説明する。図4は、本発明の実施例1および実施例2に係る試料保持用メッシュを搭載する透過型電子顕微鏡を示す概略断面図である。
【0037】
図に示すように、透過型電子顕微鏡30の最上部には、電子ビーム(電子線)を発する電子銃31が配置され、電子ビームの進行方向に、電子ビームを段階的に加速する加速管32、電子ビームを集光するコンデンサレンズ33、試料をセットする試料室34等が設けられている。
【0038】
本発明の試料保持用メッシュ13(或いは試料保持用メッシュ14)は、試料ホルダ15に搭載されて、図のように、この試料室34内に設置される。試料ホルダ15は、図4の中央付近に示したホルダレバー29の先端に取り付けられ、試料室34内へ挿入、或いは、試料室34内から引き出される。
【0039】
この試料室34を拡大した概略図が図5である。図5に示されるように、試料室34は、対物レンズ35、36に挟まれた空間であり、サイド(図中の矢印方向)から試料ホルダ15が挿入される。
【0040】
そして、透過型電子顕微鏡30により測定を行なう際には、この試料保持用メッシュ13(或いは試料保持用メッシュ14)の中央付近に試料11が載せられ、図のように、電子線23が照射される。
【0041】
図4に戻り、試料室34を透過した電子ビームの進行方向には、中間レンズ37、投影レンズ38、試料像の結像面としての蛍光板39が設けられている。
【0042】
ここで述べた透過型電子顕微鏡30では、先ず、電子ビームは、電子銃31を出射した後に加速管32により段階的に加速される。そして、コンデンスレンズ33、一方の対物レンズ35により集光され、試料室34の試料に照射される。この電子ビームは試料を通過後、他方の対物レンズ36、中間レンズ37、投影レンズ38によって集光を繰り返し、蛍光板39に結像し、試料表面の拡大像が表示される。
【0043】
−元素分析方法−
本実施例の試料保持用メッシュ13(或いは試料保持用メッシュ14)を使用する元素分析は次のように行なう。
【0044】
最初に、試料11を試料保持用メッシュ13(或いは試料保持用メッシュ14)に載せ、試料11を試料保持用メッシュ13(或いは試料保持用メッシュ14)に固定した後、試料ホルダ15に設置する。次に、試料ホルダ15を、透過型電子顕微鏡30に挿入(設置)した後、電子線23を試料11に照射して、透過型電子顕微鏡30により試料11の表面を観察する。
【0045】
次に、試料保持用メッシュ13(或いは試料保持用メッシュ14)に試料11が載った状態で、透過型電子顕微鏡30から試料11を取り外す。
【0046】
次に、試料保持用メッシュ13を試料ホルダ15から取り外す。その後、第1のメッシュ13−1のみを分離する。このとき、実施例2の試料保持用メッシュ14を使用する場合には、試料11が載っていない第1のメッシュ14−1を、前記試料11が載っていない側に折りたたむ。
【0047】
最後に、分離後に残った第2のメッシュ13−2に試料11が載った状態のもの、を3次元アトムプローブ測定装置に設置し、試料11から離脱した元素の位置および飛行時間を測定する。
【0048】
実施例2の場合には、第1のメッシュ14−1が第2のメッシュ14−2に折り畳まれたものに試料11が載った状態のものを、3次元アトムプローブ測定装置に設置し、試料11から離脱した元素の位置および飛行時間を測定する。
【0049】
このように、本実施例では、メッシュの一部を分離し、分離した部分と残った部分とを着脱可能な構成にすること等により、試料を試料保持用メッシュに載せた状態で搬送する際に、試料の先端部が破損し難くするとともに、従来の試料ホルダをそのまま使用することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の活用例としては、例えば、ガリウム砒素(GaAs)等についての不純物濃度の組成分析が典型的であるが、その他、ハード・ディスク装置(HDD)等に使用されるGMR素子についての多層薄膜積層構造等の3次元構造解析にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】は、本発明の実施例1に係る試料保持用メッシュを示す概略図である。
【図2】は、本発明の実施例1に係る試料保持用メッシュについて、その一部と残った部分とを着脱可能とするための形態である。
【図3】は、本発明の実施例2に係る試料保持用メッシュを示す概略図である。
【図4】は、本発明の実施例1および実施例2に係る試料保持用メッシュを搭載する透過型電子顕微鏡を示す概略断面図である。
【図5】は、透過型電子顕微鏡の試料室を拡大した概略図である。
【図6】は、一般的な3DAPの例を模式的に示した概略構成図である。
【図7】は、透過型電子顕微鏡の試料室周辺を拡大した概略図である。
【図8】は、透過型電子顕微鏡の試料室を拡大した概略図である。
【符号の説明】
【0052】
1、11…試料
2…位置敏感型検出器
3…電源
5…離脱イオン
7…タイマー
11…試料
11a…先端部
13、14…試料保持用メッシュ
13−1、14−1…第1のメッシュ
13−2、14−2…第2のメッシュ
15、25…試料ホルダ
21…切断ライン
22…溝
23…電子線
24…窪み部(凹部)
29…ホルダレバー
26…メッシュ
27…単孔メッシュ
30…透過型電子顕微鏡
31…電子銃
32…加速管
33…コンデンサレンズ
34…試料室
35、36…対物レンズ
37…中間レンズ
38…投射レンズ
39…蛍光板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過型電子顕微鏡に用いられる試料保持用のメッシュにおいて、
前記メッシュの一部が分離し、当該一部が、分離後に残った部分と脱着可能である
ことを特徴とするメッシュ。
【請求項2】
前記分離した一部の先端部および前記残った部分の先端部のうち、いずれか一方の先端部に、複数の切断ラインを有する
ことを特徴とする請求項1記載のメッシュ。
【請求項3】
透過型電子顕微鏡に用いられる試料保持用のメッシュにおいて、
前記メッシュの一部が折り曲げ可能である
ことを特徴とするメッシュ。
【請求項4】
被測定体である試料を試料保持用のメッシュに載置し、試料の元素を分析する元素分析方法において、
前記メッシュに載置された前記試料を、透過型電子顕微鏡により観測する工程と、
前記メッシュに前記試料を載置した状態で、前記透過型電子顕微鏡から前記試料を取り外した後、前記試料が前記メッシュに載置された状態で、前記試料が載置されていないメッシュの一部を分離する工程と、
前記分離後に残った部分を3次元アトムプローブ測定装置に設置し、前記試料から離脱した元素の位置および飛行時間を測定する工程とを備える
ことを特徴とする元素分析方法。
【請求項5】
被測定体である試料を試料保持用のメッシュに載置し、試料の元素を分析する元素分析方法において、
前記メッシュに載置された前記試料を、透過型電子顕微鏡により観測する工程と、
前記メッシュに前記試料を載置した状態で、前記透過型電子顕微鏡から前記試料を取り外した後、前記試料が前記メッシュに載置された状態で、前記試料が載置されていないメッシュの一部を、前記試料が載置されていない側に折りたたむ工程と、
前記試料が前記メッシュに載置された状態で、前記試料が載置されていないメッシュの一部を、前記試料が載置されていない側に折りたたんだものを、3次元アトムプローブ測定装置に設置し、前記試料から離脱した元素の位置および飛行時間を測定する工程とを備える
ことを特徴とする元素分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−258023(P2007−258023A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−81655(P2006−81655)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】