説明

メラニン産生抑制剤及び美白剤

【課題】従来のメラニン産生抑制剤が添加された美白剤等よりも、メラニン抑制能と安全性が共に高いメラニン産生抑制剤並びに美白剤の提供。
【解決手段】化学式(1)の化合物を含有する、メラニン産生抑制作用が強く、シミ、ソバカスや色黒の発生を抑えると共に、安全性に優れるという効果を奏するメラニン産生抑制剤および美白剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラニン産生抑制剤及び美白剤に関する。
【背景技術】
【0002】
大気汚染やオゾン層の破壊により表皮に届く紫外線量は年々増加する傾向にあり、それに伴い、紫外線による肌のシミ、ソバカス、色黒などの肌悩みが大きくなっている。紫外線により、皮膚内に存在するチロシンがチロシナーゼ酵素の働きにより酸化されてメラニン色素が産生され、過剰に産生されるとシミ、ソバカス、色黒などの肌悩みとなる。このメラニン色素の産生を抑制し、シミ、ソバカス、色黒を予防する方法として従来よりアルブチンを配合した皮膚外用剤(特許文献1:特開昭60−16906号公報)、L-アスコルビン酸及びその誘導体であるL-アスコルビン酸のグルコース配糖体を配合した皮膚化粧料(特許文献2:特開平4−182412号公報)が提案されている。アルブチンを配合した皮膚外用剤や、L-アスコルビン酸及びその誘導体であるL-アスコルビン酸のグルコース配糖体を配合した美白剤は、美白効果が十分でなかったり、美白効果を示す成分を、美白効果を認める濃度に配合すると安全性に問題を生じることがあった。
【0003】
また、化学式(1)の化合物は抗ウイルス性を有する成分として知られているが、メラニン産生抑制効果の有無は知られていなかった(特許文献3:特開平8−311056号公報)。
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−016906号公報
【特許文献2】特開平04−182412号公報
【特許文献3】特開平08−311056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、有用なメラニン産生抑制剤および美白剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(本発明に至った経緯)
化粧料等の人体に直接適用するメラニン産生抑制能を有する化合物を探索する目的で、メラニン産生抑制能を有することが期待される多数の化合物を、メラニン抑制能を測定する装置に通してスクリーニングし、メラニン抑制能が高い化合物を選定した。さらに人体に直接適用できる安全性を確認するために、安全性を確認する試験を行ない、メラニン抑制能と安全性が共に高い化合物を探索した。
その結果、多数の化合物の中からメラニン産生抑制能が公知の化合物よりも高く、かつ優れた安全性を備える化合物を特定した。
(本発明の主な構成)
この特定された化合物が下記の化学式(1)の化合物であり、本発明はこの化合物を含有するメラニン産生抑制剤及び美白剤である。
【化1】

【発明の効果】
【0007】
本発明は上記化学式(1)の化合物を含有するメラニン産生抑制剤及び美白剤とすることにより、従来のメラニン産生抑制剤が添加された美白剤等よりもメラニン産生抑制作用が強く、シミ、ソバカスや色黒の発生を抑えると共に、安全性に優れるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の化学式(1)と陽性対照及び比較試料の化合物によるメラニン産生抑制のIC50値と細胞毒性のIC50値を比較したグラフ
【図2】本発明の化学式(1)と陽性対照及び比較試料の化合物による安全係数を比較したグラフ
【図3】培養5日目におけるメラニン沈着部の底面像の比較
【図4】培養5日目における底面メラミン被覆面積を比較したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明の実施形態を更に詳細に説明する。
本発明に用いる次の化学式(1)の化合物は、2,2’,3,3’-Tetrahydro -5,5’,7,7’-tetrahydro xy-2,2’-bis(4-hydroxyphenyl)-3,3’-bi[4H-1-benzopyran]-4,4’-dione、組成式は、C302210である。
【化1】

化学式(1)の化合物は、2分子のフラバノンがクロマノン環の3位の位置どうしで結合した化合物である。クロマノン環の2位と3位は不斉炭素であり、いずれの立体異性体でも良く、また、立体異性体の混合物でも良い。
【0010】
化学式(1)の化合物は、市販品を用いることができ、例えばAnalytiCon社から購入することができる。
また、化学式(1)の化合物は医薬品である漢方生薬狼毒に含まれていることが知られている(特許文献3)。
【0011】
本発明のメラニン産生抑制剤は、美白作用を発現させるための使用にあたって、各種美白剤用の基剤や添加剤等と混合して、本発明の美白剤とすることができる。
【0012】
本発明の美白剤は、種々の公知の形態及び用途、例えば美白用乳化化粧料、美白用クリーム、美白用化粧水、美白用油性化粧料、美白用パック剤、美白用ファンデーション等として用いることができる。また、本発明の美白剤は、美白用皮膚外用医薬、美白用医薬部外品、美白用化粧料を含む。また、本発明の美白剤は、美白用の経口剤、注射剤、経口医薬としても良い。
【0013】
本発明の化学式(1)の化合物を含有するメラニン産生抑制剤及び美白剤は通常使用される製剤化方法にしたがって、製造することができる。
本発明のメラニン産生抑制剤及び美白剤には、植物油のような油脂類、高級脂肪酸、高級アルコール、シリコーン、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、防腐剤、糖類、金属イオン封鎖剤、水溶性高分子のような高分子、増粘剤、粉体成分、紫外線吸収剤、紫外線遮断剤、ヒアルロン酸のような保湿剤、香料、pH調整剤等を含有させることができる。ビタミン類、皮膚賦活剤、血行促進剤、常在菌コントロール剤、活性酸素消去剤、抗炎症剤、他の美白剤、殺菌剤等の他の薬効成分、生理活性成分を含有させることもできる。
【0014】
油脂類としては、例えば、ツバキ油、月見草油、マカデミアナッツ油、オリーブ油、ナタネ油、トウモロコシ油、ゴマ油、ホホバ油、胚芽油、小麦胚芽油、トリグリセリン、トリオクタン酸グリセリン、等の液体油脂、カカオ脂、ヤシ油、硬化ヤシ油、パーム油、パーム核油、モクロウ、モクロウ核油、硬化油、硬化ヒマシ油等の固体油脂、ミツロウ、キャンデリラロウ、綿ロウ、ヌカロウ、ラノリン、酢酸ラノリン、液状ラノリン、サトウキビロウ等のロウ類、流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、マイクロクリスタリンワックス等が挙げられる。
【0015】
高級脂肪酸として、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)等が挙げられる。
【0016】
高級アルコールとして、例えば、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、セチルアルコール、セトステアリルアルコール等の直鎖アルコール、モノステアリルグリセリンエーテル、ラノリンアルコール、コレステロール、フィトステロール、オクチルドデカノール等の分枝鎖アルコール等が挙げられる。
【0017】
シリコーンとして、例えば、鎖状ポリシロキサンのジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等、環状ポリシロキサンのデカメチルポリシロキサン等が挙げられる。
【0018】
アニオン界面活性剤として、例えば、ラウリン酸ナトリウム等の脂肪酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の高級アルキル硫酸エステル塩、POEラウリル硫酸トリエタノールアミン等のアルキルエーテル硫酸エステル塩、N−アシルサルコシン酸、スルホコハク酸塩、N−アシルアミノ酸塩等が挙げられる。
【0019】
カチオン界面活性剤として、例えば、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム等のアルキルトリメチルアンモニウム塩、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が挙げられる。
【0020】
両性界面活性剤として、例えば、アルキルベタイン、アミドベタイン等のベタイン系界面活性剤等が挙げられる。
【0021】
非イオン界面活性剤として、例えば、ソルビタンモノオレエート等のソルビタン脂肪酸エステル類、硬化ヒマシ油誘導体が挙げられる。
【0022】
防腐剤として、例えば、メチルパラベン、エチルパラベン等を挙げることができる。
【0023】
金属イオン封鎖剤として、例えば、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エデト酸、エデト酸ナトリウム塩等のエデト酸塩を挙げることができる。
【0024】
高分子として、例えば、アラビアゴム、トラガカントガム、ガラクタン、グアーガム、カラギーナン、ペクチン、寒天、クインスシード、デキストラン、プルラン、カルボキシメチルデンプン、コラーゲン、カゼイン、ゼラチン、メチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、アルギン酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー(CARBOPOL等)等のビニル系高分子、ベントナイト等を挙げることができる。
【0025】
増粘剤として、例えば、カラギーナン、トラガカントガム、クインスシード、カゼイン、デキストリン、ゼラチン、CMC、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシビニルポリマー、グアーガム、キサンタンガム等を挙げることができる。
【0026】
粉末成分としては、例えば、タルク、カオリン、雲母、シリカ、ゼオライト、ポリエチレン粉末、ポリスチレン粉末、セルロース粉末、無機白色顔料、無機赤色系顔料、酸化チタンコーテッドマイカ、酸化チタンコーテッドタルク、着色酸化チタンコーテッドマイカ等のパール顔料、赤色201号、赤色202号等の有機顔料を挙げることができる。
【0027】
紫外線吸収剤としては、例えば、パラアミノ安息香酸、サリチル酸フェニル、パラメトキシケイ皮酸イソプロピル、パラメトキシケイ皮酸オクチル、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0028】
紫外線遮断剤として、例えば、酸化チタン、タルク、カルミン、ベントナイト、カオリン、酸化亜鉛等を挙げることができる。
【0029】
保湿剤として、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、キシリトール、マルチトール、マルトース、ソルビトール、ブドウ糖、果糖、ショ糖、乳糖、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、ピロリドンカルボン酸、シクロデキストリン等が挙げられる。
【0030】
薬効成分としては、例えば、ビタミンA油、レチノール等のビタミンA類、リボフラビン等のビタミンB2類、ピリドキシン塩酸塩等のB6類、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸リン酸エステル、L−アスコルビン酸モノパルミチン酸エステル、L−アスコルビン酸ジパルミチン酸エステル、L−アスコルビン酸−2−グルコシド等のビタミンC類、パントテン酸カルシウム等のパントテン酸類、ビタミンD2、コレカルシフェロール等のビタミンD類;α−トコフェロール、酢酸トコフェロール、ニコチン酸DL−α−トコフェロール等のビタミンE類等のビタミン類を挙げることができる。
【0031】
その他の薬効成分として、グルタチオン、ユキノシタ抽出物等の美白剤、ローヤルゼリー、ぶなの木エキス等の皮膚賦活剤、カプサイシン、ジンゲロン、カンタリスチンキ、イクタモール、カフェイン、タンニン酸、γ−オリザノール等の血行促進剤、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸誘導体、アズレン等の消炎剤、アルギニン、セリン、ロイシン、トリプトファン等のアミノ酸類、常在菌コントロール剤のマルトースショ糖縮合物、塩化リゾチーム等を挙げることができる。
【0032】
さらに、カミツレエキス、パセリエキス、ワイン酵母エキス、グレープフルーツエキス、スイカズラエキス、コメエキス、ブドウエキス、ホップエキス、コメヌカエキス、ビワエキス、オウバクエキス、ヨクイニンエキス、センブリエキス、メリロートエキス、バーチエキス、カンゾウエキス、シャクヤクエキス、サボンソウエキス、ヘチマエキス、トウガラシエキス、レモンエキス、ゲンチアナエキス、シソエキス、アロエエキス、ローズマリーエキス、セージエキス、タイムエキス、茶エキス、海藻エキス、キューカンバーエキス、チョウジエキス、ニンジンエキス、マロニエエキス、ハマメリスエキス、クワエキス等の各種抽出物を挙げることができる。
【0033】
美白用の経口剤としては、化学式(1)の化合物をそのまま、又は種々の栄養成分を加えて、若しくは飲食品中に含有せしめて、栄養補助食品、機能性食品、健康食品、特定保健用食品又は通常食品の素材として使用できる。例えば、澱粉、乳糖、麦芽糖、植物油脂粉末、カカオ脂末、ステアリン酸などの適当な助剤を添加することができる。
美白用の経口剤としての化学式(1)の化合物の有効投与量は、対象者の年齢、体重、症状、投与経路、投与スケジュール、製剤形態、素材の活性の強さ等により、適宜選択決定されるが、例えば、1日あたり1〜5000mgが好ましく、特に好ましくは10〜1000mgである。これを1日に数回に分けて投与しても良い。
【0034】
美白剤への化学式(1)の化合物の配合量としては、0.00001〜80質量%が好ましいが、必ずしもこれに制限されず、0.0001〜80質量%としてもよい。
【実施例】
【0035】
[メラニン産生抑制試験]
化学式(1)の化合物について、以下の試験によって、メラニン産生抑制活性を測定した。
【0036】
化学式(1)の化合物、陽性対照としてアルブチン、比較試料として、ヒドロキシチロソール、ハイドロキノン、コウジ酸、アスコルビン酸2−グルコシドを検体として、それぞれジメチルスルホキシドを用いて10mg/mlに調製した。
メラニン産生抑制活性は、以下の方法により求めた。
マウス由来B16メラノーマF10を20%コンフレントになるように播種し、[NLE4,D−PHE7]α−MSH(SIGMA―ALDRICH社製)、及び化学式(1)の化合物、アルブチン、ヒドロキシチロソール、ハイドロキノン、コウジ酸、アスコルビン酸2−グルコシドの各試料を培養液中の検体の濃度が1.56μM〜400μMとなるように添加した。各試料を添加して96時間の培養の後、培養液を取り除き、細胞をPBSで洗浄した。細胞が産生したメラニン産生量は、比色定量法によって測定した。[NLE4,D−PHE7]α−MSHのみ処理したときのメラニン産生量を100%として、各検体を各濃度で添加したときのメラニン産生量を算出した。
メラニン産生量(%)は、[NLE4,D−PHE7]α−MSHのみ処理したときの定量値をA、各濃度で検体を添加したときの定量値をAsとして、次式により求めた。
メラニン産生量(%)=As/A×100
【0037】
結果を表1に示す。各検体濃度におけるメラニン産生量の測定値を用いてメラニン産生抑制のIC50(メラニン産生量が50%となるときの培養液中の検体の濃度)を求めた。メラニン産生抑制のIC50について、図1にグラフ化した。尚、コウジ酸とアスコルビン酸2−グルコシドを添加した系については、本実験系の濃度範囲ではメラニンの産生が抑制されなかったため、メラニン産生抑制のIC50を求めることができなかった。
【0038】
【表1】

【0039】
[細胞生存率試験(MTT試験)]
化学式(1)の化合物、陽性対照としてアルブチン、比較試料として、ヒドロキシチロソール、ハイドロキノン、コウジ酸、アスコルビン酸2−グルコシドを検体として、それぞれジメチルスルホキシドを用いて10mg/mlに調製した。
細胞生存率はMTT試験により求めた。マウス由来B16メラノーマF10を20%コンフレントになるように播種し、[NLE4,D−PHE7]α−MSH(SIGMA―ALDRICH社製)、及び化学式(1)の化合物、アルブチン、ヒドロキシチロソール、ハイドロキノン、コウジ酸、アスコルビン酸2−グルコシドの各試料を培養液中の検体の濃度が1.56μM〜400μMとなるように添加した。96時間の培養の後、MTT試験法の一般的なプロトコールに従って細胞を処理し、細胞生存率を測定した。[NLE4,D−PHE7]α−MSHのみ処理したときの細胞生存率を100%として、各検体を各濃度で添加したときの細胞生存率を算出した。細胞生存率(%)は、[NLE4,D−PHE7]α−MSHのみ処理したときの定量値をB、各濃度で検体を添加したときの定量値をBsとして、次式により求めた。
細胞生存率(%)=Bs/B×100
結果を表2に示す。各検体濃度における細胞生存率の測定値を用いて細胞毒性のIC50(細胞生存率が50%となるときの培養液中の検体の濃度)を求めた。細胞毒性のIC50について、図1にグラフ化した。尚、アスコルビン酸2−グルコシドを添加した系については、本実験系の濃度範囲では細胞生存率が低下しなかったため、細胞毒性のIC50を求めることができなかった。
【0040】
【表2】

【0041】
[安全係数]
細胞毒性のIC50をメラニン産生抑制のIC50で割ったものを安全係数とした。安全係数が大きいほど、低い細胞毒性でメラニン産生を抑制することができる。化学式(1)化合物はアルブチンと比べても、安全係数が極めて高く、美白剤として優れている。安全係数を表3に示し、グラフ化したものを図2に示す。尚、コウジ酸とアスコルビン酸2−グルコシドについては、メラニン産生抑制、細胞毒性のIC50を求めることができなかったため、安全係数も求めることができなかった。
【0042】
【表3】

【0043】
上記の結果から、本発明中の化学式(1)の化合物は1.5625〜25μMという濃度範囲においてメラニン産生量が53〜23%であり、他の5種の化合物と比較して明らかに少量でもメラニン産生抑制効果を発揮できるといえる。また、50〜100μMの濃度においてもアルブチン、ヒドロキシチロソール、コウジ酸、アスコルビン酸2−グルコシドと比較したメラニン産生抑制効果は顕著である。そして、化学式(1)の化合物は、メラニン産生抑制のIC50(μM)が1.8μMと他の5種の化合物よりも明らかに小さく、他の5種の化合物より低濃度であってもメラニン産生抑制作用を示す。さらに、細胞毒性のIC50に関しては、本発明中の化学式(1)の化合物はヒドロキシチロゾール、ハイドロキノンよりも同じかあるいは高い値を示し、毒性が低い。
これらのデータを総合して、メラニン産生抑制のIC50値の1単位あたりの細胞毒性のIC50を求めた表3及び図2のデータによると、本発明の化学式(1)の化合物の安全係数は39.4でアルブチンの11.8よりも約4倍の安全性を示し、ヒドロキシチロソール、ハイドロキノンのように1前後の値を示す化合物よりもさらに安全性に優れるといえる。
このような結果からは、本発明の化学式(1)の化合物は、メラニン産生抑制剤及び美白剤に含有された際には、他のメラニン産生抑制作用を有する化合物よりも、より強いメラニン産生抑制作用を有すると共に、美白効果を発揮する化粧料となり、かつより安全であることがわかる。
【0044】
[三次元皮膚モデルを用いたメラニン産生抑制試験]
化学式(1)の化合物について、以下の試験によって三次元皮膚モデルにおけるメラニン産生抑制効果を調べた。
(サンプル溶液の調製)
化学式(1)の化合物を、ジメチルスルホキシド(049−07213和光純薬工業株式会社)を用いて10質量%の濃度に調製し、次にその溶液を0.5質量%の濃度でD−PBSに添加して、化学式(1)の化合物のサンプル溶液とした。サンプル溶液中の化学式(1)の化合物の濃度は0.05質量%である。また、化学式(1)の化合物を含有させず、ジメチルスルホキシドを0.5質量%の濃度でD−PBSに添加した溶液を、コントロールとした。
【0045】
(三次元皮膚モデルの培養とサンプル溶液の添加)
三次元皮膚モデルはMEL−300A(Lot#10892,MatTek Corp.)を用いた。MEL−300Aは、正常ヒト表皮メラニン細胞を含む正常ヒト表皮角化細胞で構成されるヒト皮膚三次元モデルである。三次元皮膚モデルはキットの説明に従い培養(角化)を開始した。培地は、EPI−100−LLMM維持培地(Lot#302410PND,MatTek Corp.)を用いた。培養は、6ウェルプレート内の中央にStelile Washers(MatTek Corp.)を2個ずつ重ね、EPI−100−LLMM維持培地を5mlずつ添加し、その上に皮膚モデルカップを設置することにより行った。
調製したサンプル溶液を、MEL−300A三次元皮膚モデルのカップの表面に50μlずつ投与し、化粧料の適用モデルとした。培地は2日後、4日後に新しい培地に交換し、5日間培養した(n=3)。サンプル溶液は2日後、4日後に古いサンプル溶液を吸引除去し、D−PBSで洗浄後、新しいサンプル溶液に交換し、化粧料の連用モデルとした。
【0046】
(三次元皮膚モデル底面の観察)
培養開始から5日後に三次元皮膚モデルの底面の色素沈着をしたメラノサイトを観察した。観察は、培養中の三次元皮膚モデルカップを、倒立顕微鏡を用いてCCDカメラで撮影した。観察時の倍率は100倍とした。コントロールを投与した三次元皮膚モデルの底面像を図3aに、化学式(1)の化合物のサンプル溶液を投与した三次元皮膚モデルの底面像を図3bに示す。化学式(1)の化合物のサンプル溶液を投与した場合、メラノサイトの色が薄く、沈着したメラニンがコントロールと比較して少なかった。
【0047】
(画像処理した三次元皮膚モデル底面の観察とメラニン被覆面積の測定)
メラニン沈着部を定量的に比較する為に、三次元皮膚モデルの底面のメラニン被覆面積を画像解析によって数値化した。三次元皮膚モデルの底面の画像をコンピューターソフトウェア(Adobe photoshop)によりグレースケールに変換し、画像内の背景階調を256階調とし各画像の背景値を統一した。その後、メラニンによる染色が起こっている部分の階調である180階調を境界値として二値化を行い、黒色の部分を三次元皮膚モデルの底面のメラニン被覆面積として画像解析コンピュータソフトウェア(Image J)のAnalyze Particle機能を用いて数値化した。
コントロールを投与したメラニン沈着部の二値化画像処理した底面像を図3cに、化学式(1)の化合物のサンプル溶液を投与したメラニン沈着部の二値化画像処理した底面像を図3dに示す。
三次元皮膚モデルの底面のメラニン被覆面積の比較は、コントロール投与区の底面メラニン被覆面積の合計を100%とし、百分率によっておこない、Student−T−testを用いて統計処理を行った。結果を図4に示す。
化学式(1)の化合物のサンプル溶液を投与した三次元皮膚モデルの底面メラニン被覆面積の合計はコントロールを投与した場合の48%と有意に少なかった。
【0048】
この三次元皮膚モデルを用いたメラニン産生抑制試験によっても、化学式(1)の化合物は、単にメラニン産生量を低下させるだけでなく、メラニン沈着部の面積を少なくする効果を有する、つまり、目視によってもメラニン被覆面積、つまりシミ、ソバカスや色黒を生じた面積の減少、あるいはより薄い色であることを確認し得ることが認められ、このことからも化学式(1)の化合物を化粧料に配合すると美白効果を発揮することが確認できた。
【0049】
以下に、本発明の処方例を示す。それぞれ常法に従って製造した。
【0050】
処方例1 美白用ローション
成分 配合量(質量%)
1.グリセリン 10
2.1,3-ブチレングリコール 5
3.ブドウ糖 2
4.エタノール 5
5.カルボキシビニルポリマー 0.02
6.グリチルリチン酸ジカリウム 0.1
7.ヒアルロン酸ナトリウム 0.001
8.化学式(1)の化合物 0.1
9.クエン酸 0.05
10.クエン酸ナトリウム 0.1
11.水酸化カリウム 0.01
12.精製水 残余
【0051】
処方例2 美白用クリーム
成分 配合量(質量%)
1.ステアリルアルコール 6
2.ステアリン酸 2
3.スクワラン 10
4.オクチルドデカノール 5
5.オリーブ油 5
6.1,3-ブチレングリコール 8
7.ポリエチレングリコール1500 4
8.POE(25)セチルアルコールエーテル 3
9.モノステアリン酸グリセリル 2
10.化学式(1)の化合物 0.1
11.精製水 残余
【0052】
処方例3 美白用パック
成分 配合量(質量%)
1.ポリビニルアルコール 15
2.カルボキシメチルセルロース 5
3.1,3-ブチレングリコール 5
4.エタノール 12
5.化学式(1)の化合物 0.05
6.POEオレイルアルコールエーテル 0.5
7.クエン酸 0.02
8.クエン酸ナトリウム 0.04
9.精製水 残余
【0053】
処方例4 美白用錠剤
成分 配合量(質量%)
1.化学式(1)の化合物 63
2.乳糖 24
3.コーンスターチ 12
4.グアーガム 1
【0054】
処方例5 美白用飲料
成分 配合量(質量%)
1.化学式(1)の化合物 10
2.果糖ブトウ糖液糖 15
3.クエン酸 10
4.ビタミンC 5
5.香料 1
6.色素 1
7.精製水 残余

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の化学式(1)の化合物を有効成分とするメラニン産生抑制剤。
【化1】

【請求項2】
次の化学式(1)の化合物を含有する美白剤。
【化2】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−46683(P2011−46683A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120406(P2010−120406)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】