説明

メンブレン型タンク用断熱性複合パネルの製造方法およびシート状障壁材のプリプレグ用積層基材

【課題】プリプレグ基材に樹脂材料を含浸させる工程をできるだけ簡略にして、プリプレグ製造工程の生産効率を向上させ、しかもアルミニウム箔とプリプレグの接着力を向上させて、障壁材の強度改善を図るシート状障壁材のプリプレグ積層体とし、またはメンブレン型タンク用断熱性複合パネルの製造方法とすることである。
【解決手段】シート状の障壁材1のプリプレグ用積層基材2は、アルミニウム箔4の表裏両面にエポキシ樹脂系のドライラミネート法により塗布された接着剤層5を介してガラスクロス6を重ねて一体化したものとする。アルミニウム箔の表裏両面に一度の樹脂材料7の含浸処理によってプリプレグを設けることができると共に、これにより樹脂材料7による接着力と接着剤層5による接着効果の双方が現れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液化天然ガス搬送用船舶のメンブレン型タンクの防熱壁に用いる断熱性複合パネルの製造方法およびこのメンブレン型タンク用断熱性複合パネルの素材に用いられるシート状障壁材のプリプレグ用積層基材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、液化天然ガス(以下、LNGと略記する。)は、比重が0.5未満という軽量の物性のため、船などに所定重量を積載するために比較的大きな容量のタンクを必要とする。
またLNGは、常圧で−163℃という極低温の沸点を有する液体であるから、その輸送や貯蔵のためには極度の低温に耐え、しかも熱負荷に耐える強度のある防熱壁でタンクを構成する必要がある。
【0003】
このようなLNGなどの極低温の液体を大量に輸送する搬送船用タンクの代表的な型式としては、独立型タンクおよびメンブレン(薄膜)型タンクが知られている(特許文献1参照)。
【0004】
メンブレン型タンクでは、船体構造から独立させて設ける独立型タンクより大きなタンク容積を船体の形状に合わせて確保でき、かつタンク重量が軽量である点で優れている。
【0005】
図4、図5に示す従来例および図3に示す積層構造(実施例)を利用して説明すると、液化天然ガス搬送用船舶24のメンブレン型タンク11は、船体の内殻にLNGの荷重を支持させ、できるだけ大きなタンク容量を確保できるように、また熱絶縁性、液密性および気密性を保つように、タンクの周囲と船体の内殻の間に二重デッキ構造を設け、すなわちニッケル鋼板10などで被覆された一次防熱壁13および二次防熱壁12からなる防熱壁14を設置し、これらを介して船体に流体静力学的または流体動力学的な力を分散させて伝えるようにしており、その他にもLNGを安全に保冷する構造が採用されている。
【0006】
このようなメンブレン型タンク11の二次防熱壁12は、アルミニウム箔とガラスクロスを重ねた気密かつ液密な障壁材(実施例の符合1で示す部分。)に、ガラス繊維強化硬質ポリウレタンフォーム8を重ね、さらに合板9を重ねて積層一体化された断熱性複合パネルからなる。
【0007】
図4に示すように、障壁材は、アルミニウム箔20の表裏に2枚のガラスクロス21を重ねた積層構造であり、エポキシ樹脂をガラスクロス21全体に含浸して半硬化状態のガラスクロスプリプレグ22とし、これをアルミニウム箔20の両面に重ねて加熱加圧(図4に示す矢印方向からの加圧)することによって硬化させ、ガラス繊維強化エポキシ樹脂層で両面被覆された状態に成形されている。
【0008】
【特許文献1】特許第2754174号公報(段落番号[0003]、[0004]参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記した従来の障壁材は、エポキシ樹脂を含浸したガラスクロスプリプレグをアルミニウム箔の片面または両面に重ね、これを加熱加圧(ホットプレス)して硬化させて製造されるものであり、予め2枚のシート状のプリプレグ基材にそれぞれ樹脂材料を含浸させてプリプレグを製造し、その後はアルミニウム箔の表裏両面に重ねてから加熱加圧する必要がある。
【0010】
また、プリプレグ基材に含浸するプリプレグ用樹脂の接着力のみではアルミニウム箔とガラスクロスを接着しておく強度を充分に確保することが困難であった。
【0011】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、プリプレグ基材に樹脂材料を含浸させる工程をできるだけ簡略化して、プリプレグ製造工程の生産効率を向上させるメンブレン型タンク用防熱壁の製造方法とし、またはアルミニウム箔とプリプレグの接着力を向上させて障壁材の強度改善を図るシート状障壁材のプリプレグ積層体とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、この発明では、アルミニウム箔の片面または両面に接着剤層を介して不織布または編織布からなるプリプレグ基材を重ねて接着一体化されたシート状障壁材のプリプレグ用積層基材を設け、このプリプレグ用積層基材に樹脂材料を含浸してプリプレグ積層体を製造し、次いでこのプリプレグ積層体を硬質ポリウレタンフォームに重ねて積層一体化することからなるメンブレン型タンク用断熱性複合パネルの製造方法としたのである。
【0013】
上記した工程からなるこの発明に係る製造方法によると、プリプレグ基材とアルミニウム箔が、接着剤を介して一体化しているため、従来のプリプレグのみによるアルミニウム箔との一体化に比べてより強いプリプレグ積層体になる。また、二枚のプリプレグ用積層基材をアルミニウム箔の表裏に重ねて樹脂材料を含浸し、一度にプリプレグ化できるので、プリプレグ製造工程の生産効率が工程数の減少によって向上し、しかもアルミニウム箔とプリプレグの接着力を向上させることができ、メンブレン型タンク用防熱壁を簡単に製造することができるようになる。
【0014】
また、前記の障壁材の強度改善の課題を解決するために、メンブレン型タンクの防熱壁を構成する硬質ポリウレタンフォームに重ねて一体化されるシート状障壁材のプリプレグ用積層基材からなり、この積層基材は、アルミニウム箔の表裏両面に接着剤層を介して不織布または編織布からなるプリプレグ基材を重ねて接着一体化されたものからなるシート状障壁材のプリプレグ用積層基材としたのである。
【0015】
上記したように構成されるこの発明のシート状障壁材のプリプレグ用積層基材は、プリプレグ化する前に、予めアルミニウム箔の表裏両面に接着剤層を介して不織布または編織布からなるプリプレグ基材を重ねて接着一体化しておく。
【0016】
このようにすると、プリプレグ化用の樹脂材料にプリプレグ用積層基材を浸漬するという一工程の含浸処理によってアルミニウム箔の表裏両面にプリプレグを設けることができ、これにより樹脂材料による接着力と接着剤による接着力の両方が合わさって強固に一体化される。
【0017】
すなわち、プリプレグ基材とアルミニウム箔は、接着剤を介して一体化し、従来のプリプレグのみを用いたアルミニウム箔との一体化強度に比べてより強い接着力で積層一体化し、しかも、プリプレグ製造工程の生産効率が向上する。
【発明の効果】
【0018】
この発明は、以上説明したように、プリプレグ基材とアルミニウム箔が、所定の接着剤を介して一体化したシート状障壁材のプリプレグ積層体としたことにより、一度の樹脂材料の含浸処理によってアルミニウム箔の表裏両面にプリプレグを簡略に設けることができるため、プリプレグ製造工程の生産効率が向上するという利点がある。
また、このようなシート状障壁材のプリプレグ積層体としたことにより、接着剤によってアルミニウム箔とプリプレグの接着力が向上しており、障壁材の強度が改善される利点もある。
【0019】
そして、上記の利点があるシート状障壁材のプリプレグ積層体を用いることにより、強度の向上したメンブレン型タンク用防熱壁を効率よく製造できる方法になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
この発明の実施形態を以下に添付図面に基づいて説明する。
図1〜3、5に示すように、メンブレン型液化天然ガスタンク用断熱性複合パネル3およびその素材である障壁材1は、液化天然ガス搬送用船舶24(図5)のメンブレン型タンク11の内側を覆う防熱壁13の複合素材として用いられるものである。すなわち、液密かつ気密の障壁材1およびこれと一体化したガラス繊維強化硬質ポリウレタンフォーム8との複合体として断熱性複合パネル3が構成される。
【0021】
図1に示すように第1実施形態のシート状障壁材1のプリプレグ用積層基材2は、アルミニウム箔4の表裏両面に塗布されたエポキシ樹脂系の接着剤層5を介してドライ(乾式)ラミネート法によりガラスクロス6を重ねて一体化したものである。
【0022】
図1(a)に示すように、接着剤をアルミニウム箔4の表面に塗布するには、例えば溶剤に溶解した液状のポリウレタン系接着剤などを刷毛やローラー等を用いて塗り付けるか、または吹き付けて周知のドライ(乾式)ラミネート法により均一な厚さの接着剤層5を設ける。
【0023】
障壁材1に用いるアルミニウム箔4は、軽量で気密性に優れた金属材料であることにより採用されたものであるが、例えば70μm程度の厚さのものであってよく、天然ガスの主成分であるメタンガスの液化温度(−162℃)で脆性破壊を起こさないように周知の低温耐性の良い純アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるものを選択的に採用すればよい。
【0024】
次に図1(b)に示すように、アルミニウム箔4の表裏両面に設けた接着剤層5に重ねてプリプレグ基材であるガラスクロス6を重ねて加圧加熱して接着一体化してプリプレグ用積層基材2を製造する。
【0025】
図示したプリプレグ基材は、ガラスクロスなどの編織布の単独からなるものを示したが、不織布や編織布であってもよく、それらの繊維の材質は、低温でも強度と柔軟性があり、腐食し難いものが好ましく、ガラス繊維の他にも炭素繊維などの無機繊維も適用される。
【0026】
実施形態に用いたガラスクロスは、FRP用にストランドで織られた布状のものを採用している。ガラスクロスの織り方は特に限定されるものではなく、例えば平織ガラスクロス(200〜400g/m2)を採用し、好ましい結果を得ている。
【0027】
次に図1(b)から同図(c)に示すように、プリプレグ用積層基材2に樹脂材料7を含浸してプリプレグとし、これを加熱加圧して障壁材1を作製する。
【0028】
上記含浸に使用する樹脂材料7としては、エポキシ樹脂が適用される他、フェノール樹脂、メラミン樹脂なども使用可能である。
【0029】
このようにして得られた障壁材1は、パネル状のガラス繊維強化硬質ポリウレタンフォーム8と複合されて断熱性複合パネル3となり、これに合板9を接着一体化して二次防熱壁12とする。
【0030】
そして、液化天然ガス搬送用船舶のメンブレン型タンク11の内側に設置する際には、最外側に浮陸調整と絶縁を兼ねた接着剤としてロープ状樹脂15を敷設し、その上に二次防熱壁12を乗せ、さらにその上にガラス繊維強化硬質ポリウレタンフォーム8´に合板9´を重ねて接着一体化した一次防熱壁13を設ける。
この一次防熱壁13と二次防熱壁12とは接着剤を介して一体化して防熱壁14を構成し、さらに、防熱壁14の上を極低温のLNGが接する面に例えば厚さ0.7mm程度の熱吸収率の小さいニッケル(36%)鋼板10で被覆する。
【0031】
図2(a)(b)(c)に示す第2実施形態は、上述した第1実施形態で使用したガラスクロスに代えて、不織布16を用い、障壁材19を7層で構成したものである。
すなわち、図2(a)に示すように、アルミニウム箔4に接着剤層5を介して不織布16をドライラミネートし、図2(b)に示すように、不織布に樹脂を含浸してプリプレグ用積層基材17とした後で、その表裏面にそれぞれガラスクロス18を重ねて加熱加圧して障壁材19を設けたものである。
【0032】
このようにして第1・2実施形態では、障壁材用のプリプレグを製造する際に、アルミニウム箔4の表裏両面に樹脂材料7を一度に含浸処理して、簡単にプリプレグを設けることができる。また、それによってアルミニウム箔4とプリプレグは、樹脂材料だけでなく接着剤によって強い接着効果が現れるので、層間の剥離は充分に防止されたものになる。
【0033】
なお、上記の実施形態1、2では、一次防熱壁の表面に熱吸収率の小さいニッケル鋼板(平板)を使用したものを説明したが、これに代えて一次防熱壁にコルゲーションと呼ばれる格子状のひだを形成し、これにより冷却熱などの熱変動と航海中の船体変形による伸縮を吸収する実施形態であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】(a)第1実施形態の障壁材の接着一体化直前の断面図、(b)第1実施形態の障壁材の接着一体化後の断面図、(c)第1実施形態の障壁材を使用した断熱性複合パネルの断面図
【図2】(a)第2実施形態の障壁材の接着一体化直前の断面図、(b)第2実施形態の障壁材の接着一体化後の断面図、(c)第2実施形態の障壁材を使用した断熱性複合パネルの断面図
【図3】実施形態を用いた防熱壁の部分断面の斜視図
【図4】従来例の障壁材の製造工程を示す説明図
【図5】(a)液化天然ガス搬送用船舶の説明図、(b)メンブレン型タンクを示す船舶の断面図
【符号の説明】
【0035】
1、19 障壁材
2、17 プリプレグ用積層基材
3 断熱性複合パネル
4、20 アルミニウム箔
5 接着剤層
6、18、21 ガラスクロス
7 樹脂材料
8 ガラス繊維強化硬質ポリウレタンフォーム
9 合板
10 ニッケル鋼板
11 メンブレン型タンク
12 二次防熱壁
13 一次防熱壁
14 防熱壁
15 ロープ状樹脂
16 不織布
22 ガラスクロスプリプレグ
24 液化天然ガス搬送用船舶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム箔の片面または両面に接着剤層を介して不織布または編織布からなるプリプレグ基材を重ねて接着一体化されたシート状障壁材のプリプレグ用積層基材を設け、このプリプレグ用積層基材に樹脂材料を含浸してプリプレグ積層体を製造し、次いでこのプリプレグ積層体を硬質ポリウレタンフォームに重ねて積層一体化することからなるメンブレン型タンク用断熱性複合パネルの製造方法。
【請求項2】
メンブレン型タンクの防熱壁を構成する硬質ポリウレタンフォームに重ねて一体化されるシート状障壁材のプリプレグ用積層基材からなり、
この積層基材は、アルミニウム箔の表裏両面に接着剤層を介して不織布または編織布からなるプリプレグ基材を重ねて接着一体化されたものからなるシート状障壁材のプリプレグ用積層基材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−93895(P2008−93895A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−276516(P2006−276516)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【出願人】(392027601)株式会社フォームテック (5)
【Fターム(参考)】