説明

モータおよび記録ディスク駆動装置

【課題】モータの軸受機構に対して潤滑油を迅速に注入するとともに潤滑油の注入時におけるロータ部およびステータ部に対する潤滑油の付着を抑制する。
【解決手段】モータ1では、ステータ部2のスリーブ部221とロータ部3のロータハブ31との間に、軸受間隙4の軸受開口46から外部へと連続して広がる環状のオイルバッファ5が設けられる。軸受間隙4に潤滑油が注入される際には、オイルバッファ5に潤滑油が一時的に貯溜された後に軸受間隙4に充填される。これにより、軸受間隙4に直接潤滑油を供給して注入する場合に比べて多量の潤滑油を1回で供給できるため、モータ1の軸受機構に対して潤滑油を迅速に注入することができる。また、オイルバッファ5の外部において、スリーブ部221の外側面、および、ロータ部3の抜止部材314の第3内側面にそれぞれ撥油層が形成されているため、オイルバッファ5の外部に対する潤滑油の付着が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動式のモータ、および、当該モータを備える記録ディスク駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ハードディスク装置等の記録ディスク駆動装置は、記録ディスクを回転駆動するスピンドルモータ(以下、「モータ」という。)を備えており、モータの軸受機構の1つとして、ロータ部とステータ部との間の軸受間隙に保持された潤滑油の動圧を利用する軸受機構(以下、「流体動圧軸受機構」という。)が近年採用されている。
【0003】
このような流体動圧軸受機構では、軸受間隙の外部に面する開口近傍に、軸受間隙の幅が外部に向かって漸次増大するテーパ部が設けられており、潤滑油の界面を当該テーパ部に位置させることにより、毛管現象および表面張力により潤滑油の界面をメニスカス状として潤滑油の漏出防止が図られている。
【0004】
特許文献1のモータでは、テーパ部におけるスリーブの外側面であるスリーブシール面の下側に中心軸側に窪むスリーブ溝部が形成されており、スリーブシール面とスリーブ溝部との境界には稜線部が形成されている。また、テーパ部におけるロータ部の内側面である抜け止め部シール面の下側にも中心軸から離れる方向に窪む抜け止め部溝が形成されており、抜け止め部シール面と抜け止め部溝との境界にも稜線部が形成されている。そして、これらの稜線により、潤滑油がテーパ部の外部へと漏れ広がることが防止される。特許文献1のモータでは、さらに、スリーブ溝部および抜け止め部溝の表面に撥油材をコーティングして撥油層が形成されており、これにより、潤滑油がテーパ部の外部へと漏れ広がることがより確実に防止される。
【0005】
一方、特許文献2のモータでは、テーパ部を構成する軸受スリーブの外周壁面を中心軸方向へと窪ませて段差部を形成し、当該段差部により構成される稜部により、軸受スリーブの外周壁面が軸方向に沿って折れ曲がる面とされる。これにより、モータの製造において流体動圧軸受の軸受間隙に潤滑油を充填する際に、潤滑油の界面の目視が容易とされ、潤滑油の注入量が容易に確認される。また、潤滑油の充填後にテーパ部の外側の壁面に付着している潤滑油の液滴を溶剤等を用いて拭き取るクリーニング工程において、軸受スリーブの段差部の稜部により、潤滑油の液滴が外部からテーパ部に流入することが防止される。
【0006】
特許文献3は、動圧軸受装置の軸受間隙への潤滑油の充填に関するものであり、充填装置では、動圧軸受装置が真空容器内の減圧雰囲気中に配置され、当該減圧雰囲気よりもさらに減圧された状態にて脱気された潤滑油が、動圧軸受装置のスリーブ上面に形成された軸受間隙の開口にノズルを介して注がれる。ノズルから注がれた潤滑油は、軸受間隙のテーパ部およびテーパ部の上側に位置するスロープ部に一時的に保持され、その後、軸受間隙の壁面との親和力により軸受間隙内に移動する。そして、真空容器内の圧力が大きくされることにより、潤滑油が軸受間隙の奥に押し込まれる。
【特許文献1】特開2006−266367号公報
【特許文献2】特許第3984462号公報
【特許文献3】特開2005−273908号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献2のモータでは、軸受スリーブを潤滑油に浸漬することにより軸受間隙に潤滑油を充填するため、軸受スリーブの表面全体に潤滑油が付着してしまう。このため、潤滑油の充填後のクリーニング工程において潤滑油を拭き取るべき面積が大きくなってしまい、クリーニング工程に要する時間を短くすることが困難である。また、このようなモータでは、テーパ部を介して軸受間隙に潤滑油を直接注入することも考えられるが、テーパ部にて保持できる潤滑油の量は、完成品のモータにおいて軸受間隙が保持すべき潤滑油の全量よりも少ないため複数回の注油が必要となり、潤滑油の全量の充填に要する時間が増大してしまう。
【0008】
特許文献3の動圧軸受装置では、スリーブ上部にスロープ部を設けることにより、軸受間隙の開口近傍における潤滑油の一時的な保持量が増加され、スロープ部とシャフト表面に撥油膜が形成されることにより、スロープ部に一時的に保持された潤滑油の軸受間隙への浸透が促進される。しかしながら、潤滑油の充填時にスロープ部の外側において潤滑油がスリーブ等に付着した場合、クリーニング工程においてスリーブに付着した潤滑油を拭き取る必要があり、クリーニング工程の短縮に限界がある。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、モータの軸受機構に対して潤滑油を迅速に注入するとともに潤滑油の注入時におけるロータ部およびステータ部に対する潤滑油の付着を抑制することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、電動式のモータであって、ロータ部と、前記ロータ部との間の軸受間隙に保持された潤滑油に生じる流体動圧を利用して所定の中心軸を中心に前記ロータ部を回転可能に支持するステータ部とを備え、前記軸受間隙が前記中心軸を中心とする環状の開口を有し、前記軸受間隙内部の前記開口近傍において、前記ロータ部と前記ステータ部との間の距離が前記開口から離れるに従って漸次減少し、前記軸受間隙の前記開口から外部へと連続して広がるとともに前記軸受間隙に前記潤滑油が注入される際に前記潤滑油の一時的な貯溜に利用されるオイルバッファが前記ロータ部と前記ステータ部との間に設けられ、前記オイルバッファの外部において前記ロータ部の表面および前記ステータ部の表面に撥油処理が施されている。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のモータであって、前記オイルバッファが、前記中心軸を中心とする環状の空間である。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のモータであって、前記オイルバッファが、前記ステータ部および前記ロータ部の一方に形成された凹部を含む。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のモータであって、前記オイルバッファが、前記凹部に対向して前記ステータ部および前記ロータ部の他方に形成されたもう1つの凹部を含む。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1または2に記載のモータであって、前記ロータ部が、シャフトと、前記シャフトの一端から前記シャフトに垂直に広がる略円板状の円板部、および、前記円板部から前記シャフトと同方向に前記シャフトを中心として突出する略円筒状の円筒部を有するロータハブと、前記ロータハブに固定された界磁用磁石とを備え、前記ステータ部が、前記シャフトが挿入されるスリーブ部と、前記スリーブ部の周囲において前記界磁用磁石との間で前記中心軸を中心とするトルクを発生する電機子とを備え、前記軸受間隙が、前記シャフトの外側面と前記スリーブ部の内側面との間の間隙、および、前記ロータハブの前記円板部と前記スリーブ部との間の間隙を含み、前記軸受間隙の前記開口および前記オイルバッファが、前記ロータハブの前記円筒部の内側面と前記スリーブ部の外側面との間に設けられる。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のモータであって、前記円筒部の前記内側面が、前記円筒部の先端に向かって内径が増大するとともに前記軸受間隙の前記開口のエッジの一部を形成する段差部を有し、前記オイルバッファが、前記段差部により形成される凹部を含む。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載のモータであって、前記スリーブ部の前記外側面が、前記中心軸を中心とする径方向おいて前記円筒部の前記凹部に対向するもう1つの凹部を有し、前記オイルバッファが、前記もう1つの凹部をさらに含む。
【0017】
請求項8に記載の発明は、請求項1ないし7のいずれかに記載のモータであって、前記オイルバッファの容量が、前記軸受間隙の容量の105%以上である。
【0018】
請求項9に記載の発明は、記録ディスク駆動装置であって、情報を記録する記録ディスクを回転する請求項1ないし8のいずれかに記載のモータと、前記記録ディスクに対する情報の読み出しまたは書き込みを行うアクセス部とを備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、モータの軸受機構に対して潤滑油を迅速に注入することができ、また、潤滑油の注入時におけるロータ部およびステータ部に対する潤滑油の付着を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る電動式のスピンドルモータ1(以下、「モータ1」という。)を備える記録ディスク駆動装置60の内部構成を示す縦断面図である。記録ディスク駆動装置60はいわゆるハードディスク装置であり、情報を記録する円板状の記録ディスク62、記録ディスク62に対する情報の書き込みおよび読み出しを行うアクセス部63、記録ディスク62を保持して回転する電動式のモータ1、並びに、記録ディスク62、アクセス部63およびモータ1を内部空間610に収容するハウジング61を備える。
【0021】
図1に示すように、ハウジング61は、上部に開口を有するとともにモータ1およびアクセス部63が内側の底部に取り付けられる無蓋箱状の第1ハウジング部材611、並びに、第1ハウジング部材611の開口を覆うことにより内部空間610を形成する板状の第2ハウジング部材612を備える。記録ディスク駆動装置60では、第1ハウジング部材611に第2ハウジング部材612が接合されてハウジング61が形成され、内部空間610は塵や埃が極度に少ない清浄な空間とされる。
【0022】
記録ディスク62は、モータ1の上側に載置されてクランパ621によりモータ1に固定される。アクセス部63は、記録ディスク62に近接して情報の読み出しおよび書き込みを磁気的に行うヘッド631、ヘッド631を支持するアーム632、並びに、アーム632を移動させることによりヘッド631を記録ディスク62およびモータ1に対して相対的に移動するヘッド移動機構633を有する。これらの構成により、ヘッド631は回転する記録ディスク62に近接した状態で記録ディスク62の所要の位置にアクセスし、情報の書き込みおよび読み出しを行う。
【0023】
図2は、記録ディスク駆動装置60にて記録ディスク62の回転に使用されるモータ1を示す縦断面図である。図2では、モータ1の中心軸J1(後述するステータ部2およびロータ部3の中心軸でもある。)を含む面における断面を示すが、切断面よりも奥側に位置する構成についても、その一部を破線にて描いている。
【0024】
図2に示すように、モータ1はインナーロータ型のモータであり、固定組立体であるステータ部2、および、回転組立体であるロータ部3を備える。ロータ部3は、ステータ部2との間の軸受間隙に保持された作動流体である潤滑油に生じる流体動圧を利用して中心軸J1を中心にステータ部2に対して回転可能に支持される。以下の説明では、便宜上、中心軸J1に沿ってロータ部3側を上側、ステータ部2側を下側として説明するが、中心軸J1は必ずしも重力方向と一致する必要はない。
【0025】
ステータ部2は、第1ハウジング部材611(図1参照)の一部であるとともにステータ部2の各部を保持するベース部であるベースプレート21、ロータ部3を回転可能に支持する軸受機構の一部であって中心軸J1を中心とする略有底円筒状のスリーブユニット22、スリーブユニット22の周囲においてベースプレート21に取り付けられる電機子24、および、電機子24の上方に配置されて電機子24からの電磁ノイズを遮断する薄板状の磁気シールド板25を備える。
【0026】
スリーブユニット22は、中心軸J1を中心とする略円筒状であって潤滑油を介してロータ部3のシャフト33が挿入されるスリーブ部221、および、スリーブ部221の下端の開口を閉塞する略円板状のシールキャップ223を備え、スリーブ部221の下部は、ベースプレート21の中央部に形成された開口に圧入されて固定される。スリーブ部221の上端部は、中心軸J1を中心とする径方向に突出するフランジ部2211となっている。また、スリーブ部221の外側面の中心軸J1に平行な方向(以下、「軸方向」という。)のおよそ中央には、中心軸J1を中心とする周方向に溝状に伸びる環状の凹部2213(以下、「スリーブ凹部2213」という。)が設けられる。
【0027】
電機子24は、中心軸J1を中心として放射状に配置された複数のティース243を備えるステータコア241、および、複数のティース243に導線を巻回することにより形成された複数のコイル242を備える。
【0028】
ロータ部3は、記録ディスク62(図1参照)が固定されるとともにロータ部3の各部を保持するロータハブ31、ロータハブ31に固定されて中心軸J1の周囲に配置される界磁用磁石32、および、中心軸J1を中心とする略円柱状であってロータハブ31から下側(すなわち、ステータ部2側)に向けて突出するシャフト33を備える。本実施の形態では、シャフト33がロータハブ31の中央に形成された穴に挿入されて固定されているが、シャフト33はロータハブ31と一体的に形成されてもよい。
【0029】
ロータハブ31は、中心軸J1を中心とする略円板状であってシャフト33の上端部から中心軸J1(およびシャフト33)に略垂直に広がる円板部312、並びに、中心軸J1(およびシャフト33)を中心とする略円筒状であって円板部312の外周縁から下側に(すなわち、シャフト33と同方向に)突出する円筒部313を備える。円筒部313は、径方向における内側に中心軸J1を中心とする環状の抜止部材314を備え、抜止部材314がスリーブ部221のフランジ部2211の下側にてフランジ部2211と平面視において重なることにより、ロータハブ31がスリーブユニット22から外れてしまうことが防止される。
【0030】
図3は、抜止部材314を拡大して示す縦断面図である。図3に示すように、抜止部材314の内側面3140は、軸方向の上側から下側に向かって順に並ぶ第1内側面3141、第2内側面3142および第3内側面3143を備え、第1内側面3141は、中心軸J1を中心とする内径が一定である円筒面である。第2内側面3142は、境界3144にて第1内側面3141に連続し、第3内側面3143は、境界3145にて第2内側面3142に連続する。第2内側面3142の内径は、第2内側面3142の上部において境界3144から軸方向の下側に向かう(すなわち、円筒部313の先端に向かう)に従って増大し、下部において一定とされる。第3内側面3143の内径も同様に、第3内側面3143の上部において境界3145から軸方向の下側に向かうに従って増大し、下部において一定とされる。円筒部313の抜止部材314の内側面3140では、境界3144近傍の部位が、円筒部313の先端に向かって内径が増大する段差部3147となっている。
【0031】
図2に示す界磁用磁石32は、多極着磁された円環状の磁石であり、ロータハブ31の円筒部313の外側面に固定されている。界磁用磁石32は、電機子24の中心軸J1側に配置されており、電機子24と界磁用磁石32との間に中心軸J1を中心とする回転力(トルク)が発生する。
【0032】
次に、モータ1の潤滑油による流体動圧を利用した軸受機構について説明する。図4は、モータ1の一部(図2における左半分)を拡大して示す縦断面図である。図4に示すように、モータ1では、ロータ部3のロータハブ31およびシャフト33とステータ部2のスリーブユニット22との間に潤滑油を保持する微少な間隙4(以下、「軸受間隙4」という。)が設けられる。
【0033】
軸受間隙4は、シャフト33の下面とシールキャップ223の上面との間の微小間隙41、スリーブ部221の内側面とシャフト33の外側面との間の微小間隙42、ロータハブ31の円板部312の下面とスリーブ部221の上端面との間の微小間隙43、スリーブ部221のフランジ部2211とロータハブ31の円筒部313の内側面との間の微小間隙44、および、スリーブ部221のフランジ部2211とスリーブ凹部2213との間の部位2212(以下、「スリーブ上部2212」という。)の外側面と円筒部313の抜止部材314の第1内側面3141との間の微小間隙45を有する。
【0034】
軸受間隙4は、微小間隙45の軸方向の下端において外部に向けて開口する。以下の説明では、軸受間隙4の外部に面する中心軸J1を中心とする環状の開口46を、「軸受開口46」という。モータ1では、軸受開口46がロータハブ31の円筒部313の抜止部材314の内側面3140(図3参照)とスリーブ部221の外側面との間に設けられ、スリーブ部221のスリーブ上部2212とスリーブ凹部2213との間の境界が、軸受開口46の内周側のエッジとなっている。また、ロータハブ31の抜止部材314の第1内側面3141と第2内側面3142との間の境界3144(図3参照)が、軸受開口46の外周側のエッジとなっている。換言すれば、抜止部材314の内側面3140に設けられた段差部3147(図3参照)により、軸受開口46のエッジの一部が形成される。
【0035】
モータ1では、微小間隙41〜45に潤滑油が充填される(すなわち、これらの間隙に潤滑油が介在する)ことにより、中心軸J1を中心にロータ部3をステータ部2に対して回転可能に支持する軸受機構が構成される。なお、図4では、図示の都合上、微小間隙41〜45を実際よりも大きく描いている。
【0036】
軸受機構では、スリーブ上部2212の外側面が、下側に向かうに従って(すなわち、フランジ部2211からスリーブ凹部2213に向かうに従って)外径が漸次減少する傾斜面とされ、スリーブ上部2212の外側面に対向する抜止部材314の第1内側面3141の内径は上述のように一定とされる。これにより、スリーブ上部2212と抜止部材314の第1内側面3141との間の微小間隙45の幅(すなわち、中心軸J1を中心とする径方向の距離)が、軸受開口46から軸方向の上側に向かうに従って漸次減少する。換言すれば、軸受間隙4内部の軸受開口46近傍において、ステータ部2とロータ部3との間の径方向の距離が、軸受開口46から離れて軸受間隙4内部へと向かうに従って漸次減少する。モータ1では、軸受間隙4に保持される潤滑油の界面が微小間隙45に位置しており、潤滑油の界面が毛管現象および表面張力によりメニスカス状となってテーパシールが形成されることにより(すなわち、微小間隙45がテーパシール部の役割を果たすことにより)、軸受間隙4からの潤滑油の流出が防止される。
【0037】
スリーブ部221の上端面には、ロータ部3の回転時に潤滑油に対して中心軸J1側に向かう圧力を発生させるための溝(例えば、スパイラル状の溝)が形成されており、スリーブ部221の上端面および当該上端面に対向するロータハブ31の円板部312の下面によりスラスト動圧軸受部が構成される。また、シャフト33およびスリーブ部221の互いに対向する面には、潤滑油に流体動圧を発生させるための溝(例えば、中心軸J1の向く方向に関して、スリーブ部221の内側面の上下に設けられたヘリングボーン溝等)が形成されており、これらの面によりラジアル動圧軸受部が構成される。
【0038】
モータ1では、流体動圧を利用する軸受機構によりロータ部3を潤滑油を介して非接触にて支持することにより、ロータ部3およびロータ部3に取り付けられる記録ディスク62(図1参照)を高精度、かつ、低騒音にて回転することができる。
【0039】
モータ1では、軸受間隙4の軸受開口46から外部へと連続して大きく広がるとともに、モータ1の製造において潤滑油が軸受間隙4へと注入される際に、当該潤滑油の一時的な貯溜に利用される中心軸J1を中心とする環状の空間5(以下、「オイルバッファ5」という。)が、ロータ部3の抜止部材314の第2内側面3142(すなわち、ロータハブ31の円筒部313の内側面)とステータ部2のスリーブ部221のスリーブ凹部2213の外側面との間に設けられる。
【0040】
モータ1では、オイルバッファ5内におけるステータ部2とロータ部3との間の径方向の距離(すなわち、オイルバッファ5の幅)が、軸受開口46近傍において、軸受開口46から軸方向の下側に向かうに従って漸次増大しており、また、上述のように、微小間隙45内におけるステータ部2とロータ部3との間の径方向の距離(すなわち、微小間隙45の幅)も、軸方向の下側に向かうに従って漸次増大している。軸受開口46近傍では、オイルバッファ5の幅の増大率は微小間隙45の幅の増大率よりも大きくされる。
【0041】
図5は、軸受間隙4に連続して設けられるオイルバッファ5近傍を拡大して示す縦断面図である。図5に示すように、オイルバッファ5は、抜止部材314の第2内側面3142により外側が囲まれる環状の凹部3146(すなわち、ロータハブ31の円筒部313において抜止部材314の内側面3140の段差部3147により形成される(より具体的には、段差部3147の一部を含んで段差部3147の軸方向の下側に形成される)凹部であり、以下、「ロータハブ凹部3146」という。)、および、中心軸J1を中心とする径方向において円筒部313のロータハブ凹部3146に対向するスリーブ凹部2213を含む。
【0042】
オイルバッファ5では、スリーブ凹部2213の下端のエッジが、オイルバッファ5の外部に向かう環状の開口51(以下、「バッファ開口51」という。)の内側のエッジとなっており、抜止部材314の第2内側面3142と第3内側面3143との間の境界3145が、バッファ開口51の外側のエッジとなっている。オイルバッファ5の容量(すなわち、軸受開口46とバッファ開口51との間の環状空間の容量)は、軸受間隙4の容量の105%以上とされる。
【0043】
モータ1では、オイルバッファ5の外部(すなわち、バッファ開口51よりも下側)において、スリーブ部221の外側面、および、ロータ部3の抜止部材314の第3内側面3143にそれぞれ撥油剤が塗布されて撥油層52,53が形成されている。なお、撥油剤の塗布に代えて、他の撥油処理がステータ部2の外側面および抜止部材314の第3内側面3143に施されてもよい。
【0044】
次に、モータ1の軸受間隙4に対する潤滑油の注入について説明する。図6は、潤滑油の注入に利用される注入装置7を示す図である。図6に示すように、注入装置7は、製造途上のモータ1が収容される真空容器71、潤滑油を吐出するノズル72、および、潤滑油を貯溜する潤滑油槽73を備え、真空容器71および潤滑油槽73は、図示省略の真空ポンプおよびガス供給機構に接続される。潤滑油槽73内では、貯溜されている潤滑油の上方に空間が存在しており、当該空間を減圧することにより、潤滑油に溶存している気体の濃度が下げられている。注入装置7では、また、潤滑油槽73内の潤滑油が攪拌されることにより、潤滑油に溶存している気体の濃度がより低減されてもよい。
【0045】
図7は、注入装置7による潤滑油の注入の流れを示す図である。注入装置7では、まず、図6に示すように、ベースプレート21(図2参照)に固定される前のスリーブ部221およびロータ部3(すなわち、製造途上のモータ1であり、以下、「モータ部品10」という。)が、反転した状態(すなわち、オイルバッファ5が軸受開口46の上側に位置する状態)で真空容器71の台座711上に載置され、下側が開口するケース712が図6中において二点鎖線にて示す位置から下降して台座711上に取り付けられることにより、モータ部品10が真空容器71内に収容される(ステップS11)。注入装置7では、真空容器71のケース712と共にノズル72および潤滑油槽73も下降し、ノズル72の先端がモータ部品10のオイルバッファ5内に位置する(ステップS12)。
【0046】
続いて、真空容器71の内部が排気されて減圧雰囲気とされ、これにより、モータ部品10の軸受間隙4内部も減圧雰囲気とされる(ステップS13)。次に、潤滑油槽73内にガス(本実施の形態では、空気)が供給されることにより、予め溶存気体の濃度が低減されている潤滑油が、潤滑油槽73からノズル72を介してモータ部品10のオイルバッファ5へと供給されてオイルバッファ5に貯溜される(ステップS14)。このとき、オイルバッファ5に供給される潤滑油の量は、モータ1の軸受間隙4にて保持される予定の潤滑油の量に等しく、オイルバッファ5に供給された潤滑油の一部は、軸受開口46を介して軸受間隙4に進入している。また、モータ部品10では、オイルバッファ5内の潤滑油により軸受開口46の全体が覆われている。
【0047】
オイルバッファ5に対する潤滑油の供給が終了すると、真空容器71内に空気が供給されることにより真空容器71内の圧力が大気圧に戻される(すなわち、復圧される)。これにより、軸受間隙4内の圧力よりも軸受間隙4の外部の圧力が高くなり、オイルバッファ5内の潤滑油が軸受開口46を介して軸受間隙4に充填される(ステップS15)。
【0048】
潤滑油の充填が終了すると、真空容器71のケース712がノズル72および潤滑油槽73と共に上昇して真空容器71が開放され(ステップS16)、図5に示すスリーブ凹部2213の外側面、および、抜止部材314の第2内側面3142(すなわち、オイルバッファ5の側面)、並びに、撥油層52,53が作業者等により拭われ、付着している余分な潤滑油が除去される(ステップS17)。図6に示す注入装置7では、真空容器71内に複数のモータ部品10が収容され、複数のノズル72により、複数のモータ部品10に対する潤滑油の注入が並行して行われてもよい。
【0049】
以上に説明したように、モータ1では、軸受間隙4の軸受開口46から外部へと連続して広がるオイルバッファ5が設けられ、軸受間隙4に潤滑油が注入される際に、オイルバッファ5に潤滑油が一時的に貯溜される。これにより、軸受間隙に直接潤滑油を供給して注入する場合に比べて、1回の供給で多量の潤滑油をモータ部品10に保持させることが可能となる。その結果、モータ1の軸受機構に対して潤滑油を容易かつ迅速に注入することができる。
【0050】
特に、オイルバッファ5の容量が軸受間隙4の容量よりも大きくされる(好ましくは、軸受間隙4の容量の105%以上とされる)ことにより、1回の潤滑油の供給により、軸受間隙4にて保持される予定の潤滑油の全量をモータ部品10に保持させることができる。その結果、モータ1の軸受機構に対する潤滑油の注入がより容易かつより迅速に実現される。
【0051】
モータ1では、軸受間隙4が、シャフト33の外側面とスリーブ部221の内側面との間の微小間隙42、微小間隙42よりも径方向の外側にてロータハブ31の円板部312の下面とスリーブ部221の上端面との間に設けられる微小間隙43、および、微小間隙43よりも径方向の外側にてロータハブ31の円筒部313の内側面とスリーブ部221の外側面との間に設けられる微小間隙44,45を含み、オイルバッファ5が微小間隙45の下側に設けられることにより、オイルバッファが微小間隙42や微小間隙43の上方または下方に設けられる場合に比べて、オイルバッファ5の容量を十分に確保しつつモータ1を薄型化することができる。
【0052】
また、オイルバッファ5が、円筒部313の内側面3140の段差部3147により形成される環状のロータハブ凹部3146を含む構造とされることにより、オイルバッファ5の容量を十分に確保しつつオイルバッファ5を容易に形成することができる。さらには、オイルバッファ5が、スリーブ部221の外側面に形成されてロータハブ凹部3146に対向するスリーブ凹部2213を含む構造とされることにより、オイルバッファ5の容量を十分に確保しつつオイルバッファ5をより容易に形成することができる。
【0053】
モータ1では、オイルバッファ5の外部(すなわち、バッファ開口51よりも下側)において、スリーブ部221の外側面、および、ロータ部3の抜止部材314の第3内側面3143にそれぞれ撥油層52,53が形成されているため、オイルバッファ5の外部に対する潤滑油の付着が抑制される。また、潤滑油の注入後に軸受間隙4の外部に付着した潤滑油が拭き取られる際に、オイルバッファ5の外部に付着した潤滑油が容易に除去される。
【0054】
上述のように、オイルバッファ5は、抜止部材314の内側面3140の段差部3147により形成されるロータハブ凹部3146を含む。これにより、バッファ開口51を大きく確保することができ、その結果、オイルバッファ5内に付着した潤滑油の除去が容易とされる。モータ1では、オイルバッファ5内においてスリーブ凹部2213の外側面、および、抜止部材314の第2内側面3142にそれぞれ撥油層が形成されてもよい。これにより、オイルバッファ5内に付着した潤滑油の除去がより容易とされる。
【0055】
このように、モータ1では、軸受間隙4の外部に付着した潤滑油の除去が容易とされるため、当該モータ1の構造は、ハウジング61の内部空間610を清浄な空間とすることが求められる記録ディスク駆動装置60の駆動源として利用されるモータに特に適している。
【0056】
次に、本発明の第2の実施の形態に係るモータについて説明する。図8は、第2の実施の形態に係るモータのオイルバッファ5a近傍を拡大して示す縦断面図である。図8に示すように、第2の実施の形態に係るモータでは、図5に示す抜止部材314とは形状が異なる抜止部材314aがロータハブ31の円筒部313に設けられ、図5に示すオイルバッファ5とは形状が異なるオイルバッファ5aが形成される。その他の構造は、図1ないし図5に示すモータ1と同様であり、以下の説明では対応する構成に同符号を付す。また、第2の実施の形態に係るモータの軸受間隙4に対する潤滑油の注入の流れは、第1の実施の形態と同様であるため説明を省略する。
【0057】
図8に示すように、抜止部材314aは、軸受間隙4の微小間隙45を形成する第1内側面3141の下側に、中心軸J1(図4参照)を中心とする周方向に溝状に伸びる環状のロータハブ凹部3146aを有する。オイルバッファ5aは、ロータハブ凹部3146a、および、ロータハブ凹部3146aと径方向において対向するスリーブ部221の外側面に形成されたスリーブ凹部2213を含む。
【0058】
第2の実施の形態に係るモータでは、第1の実施の形態と同様に、軸受間隙4の軸受開口46から外部へと連続して広がるオイルバッファ5aが設けられ、軸受間隙4に潤滑油が注入される際に、オイルバッファ5aに潤滑油が一時的に貯溜される。これにより、モータの軸受機構に対する潤滑油の注入を容易かつ迅速とすることができる。モータでは、オイルバッファ5aの容量が軸受間隙4の容量よりも大きくされる(好ましくは、軸受間隙4の容量の105%以上とされる)。その結果、1回の潤滑油の供給により、軸受間隙4にて保持される予定の潤滑油の全量をオイルバッファ5aに貯溜することができ、モータの軸受機構に対する潤滑油の注入がより容易かつより迅速に実現される。
【0059】
第2の実施の形態に係るモータでは、オイルバッファ5aが、ロータ部3(図4参照)の抜止部材314aに形成された環状のロータハブ凹部3146aを含む構造とされることにより、オイルバッファ5aの容量を十分に確保しつつオイルバッファ5aを容易に形成することができる。さらには、オイルバッファ5aが、ステータ部2(図4参照)のスリーブ部221に形成されたスリーブ凹部2213を含む構造とされることにより、オイルバッファ5aの容量を十分に確保しつつオイルバッファ5aをより容易に形成することができる。
【0060】
モータでは、オイルバッファ5aの外部(すなわち、バッファ開口51よりも下側)において、スリーブ部221の外側面、および、ロータ部3の抜止部材314の第3内側面3143にそれぞれ撥油層52,53が形成されているため、オイルバッファ5aの外部に対する潤滑油の付着が抑制される。また、潤滑油の注入後に軸受間隙4の外部に付着した潤滑油が拭き取られる際に、オイルバッファ5aの外部に付着した潤滑油が容易に除去される。
【0061】
オイルバッファ5aでは、バッファ開口51が大きく確保されることにより、オイルバッファ5a内に付着した潤滑油の除去が容易とされる。第2の実施の形態に係るモータでは、オイルバッファ5a内においてスリーブ凹部2213の外側面、および、ロータハブ凹部3146aの内側面である第2内側面3142にそれぞれ撥油層が形成されてもよい。これにより、オイルバッファ5a内に付着した潤滑油の除去がより容易とされる。
【0062】
次に、本発明の第3の実施の形態に係るモータについて説明する。図9は、第3の実施の形態に係るモータ1aを示す縦断面図である。図9に示すように、モータ1aはアウターロータ型のモータであり、ステータ部2、および、ステータ部2との間の軸受間隙に保持された作動流体である潤滑油に生じる流体動圧を利用して中心軸J1を中心にステータ部2に対して回転可能に支持されるロータ部3を備える。
【0063】
ステータ部2は、ステータ部2の各部を保持するベースプレート21、軸受機構の一部であって中心軸J1を中心とする略有底円筒状のスリーブユニット22、および、スリーブユニット22の周囲においてベースプレート21に取り付けられる電機子24を備える。スリーブユニット22は、中心軸J1を中心とする略円筒状であって潤滑油を介してロータ部3のシャフト33が挿入されるスリーブ部221、および、スリーブ部221の下端側の開口を閉塞する略円板状のシールキャップ223を備える。
【0064】
ロータ部3は、記録ディスクが取り付けられるとともにロータ部3の各部を保持するロータハブ31、円環状のヨーク321を介してロータハブ31に取り付けられて中心軸J1の周囲に配置される界磁用磁石32、および、中心軸J1を中心とする略円柱状であってロータハブ31から下側(すなわち、ステータ部2側)に向けて突出するシャフト33を備える。シャフト33は、下端部に略円板状のスラストプレート331を備える。界磁用磁石32は、多極着磁された円環状の磁石であり、電機子24との間で中心軸J1を中心とする回転力(トルク)を発生する。
【0065】
モータ1aでは、ロータ部3のロータハブ31およびシャフト33とステータ部2のスリーブユニット22との間に潤滑油を保持する微少な軸受間隙4aが設けられ、軸受間隙4aに潤滑油が充填される(すなわち、軸受間隙4aに潤滑油が介在する)ことにより、中心軸J1を中心にロータ部3をステータ部2に対して回転可能に支持する軸受機構が構成される。軸受間隙4aは、スラストプレート331の下面とシールキャップ223の上面との間の微小間隙、スラストプレート331の外側面および上面とスリーブ部221との間の微小間隙、並びに、シャフト33の外側面とスリーブ部221の内側面との間の微小間隙を有し、軸方向の上端に軸受開口46が設けられる。
【0066】
図10は、軸受開口46近傍を拡大して示す図である。図10では、ロータハブ31の図示を省略している。図10に示すように、スリーブ部221の内側面は、スリーブ部221の上端面から軸方向の下側に向かうに従って内径が漸次減少する環状の第1傾斜面2215、第1傾斜面2215の下端に連続するとともに軸方向の下側に向かうに従って内径が漸次減少する環状の第2傾斜面2216、および、第2傾斜面2216の下端に連続するとともに内径が一定とされる円筒面2217を備える。図10中における第1傾斜面2215の中心軸J1に対する傾斜角(中心軸J1に平行な円筒面の傾斜角を0°とする。)は、第2傾斜面2216の中心軸J1に対する傾斜角よりも大きい。
【0067】
シャフト33の外側面332には、中心軸J1を中心とする周方向に溝状に伸びる環状の凹部333(以下、「シャフト凹部333」という。)が形成されており、シャフト凹部333はスリーブ部221の第1傾斜面2215と中心軸J1を中心とする径方向において対向する。モータ1aでは、シャフト凹部333とスリーブ部221の第1傾斜面2215との間の中心軸J1を中心とする環状の空間5bが、モータ1aの製造において潤滑油が軸受間隙4aへと注入される際に当該潤滑油の一時的な貯溜に利用されるオイルバッファ5bとなる。また、スリーブ部221の第1傾斜面2215と第2傾斜面2216との間の境界2218が、軸受開口46の外周側のエッジとなり、シャフト凹部333の下側のエッジ3331が、軸受開口46の内周側のエッジとなる。
【0068】
軸受間隙4aでは、シャフト凹部333の下側におけるシャフト33の外側面332の径が一定とされるため、スリーブ部221の第2傾斜面2216とシャフト33の外側面332との間の微小間隙45aの幅(すなわち、中心軸J1を中心とする径方向の距離)は、軸受開口46から軸方向の下側に向かうに従って漸次減少する。換言すれば、軸受間隙4a内部の軸受開口46近傍において、ステータ部2とロータ部3(図9参照)との間の径方向の距離が、軸受開口46から離れて軸受間隙4a内部へと向かうに従って漸次減少する。モータ1aでは、軸受間隙4aに保持される潤滑油の界面が微小間隙45aに位置しており、潤滑油の界面が毛管現象および表面張力によりメニスカス状となってテーパシールが形成されることにより(すなわち、微小間隙45aがテーパシール部の役割を果たすことにより)、軸受間隙4aからの潤滑油の流出が防止される。
【0069】
モータ1aの軸受間隙4aに対する潤滑油の注入の流れは、図6に示す注入装置7の真空容器71に収容されるモータ部品が、ベースプレート21およびロータハブ31が取り付けられていないスリーブユニット22およびシャフト33のみである点、並びに、モータ部品が反転することなく真空容器71の台座711上に載置される点を除き、第1の実施の形態と同様であるため説明を省略する。
【0070】
第3の実施の形態に係るモータ1aでは、軸受間隙4aの軸受開口46から外部へと連続して大きく広がるオイルバッファ5bが、ロータ部3のシャフト33のシャフト凹部333とステータ部2のスリーブ部221の第1傾斜面2215との間に設けられることにより、第1の実施の形態と同様に、モータ1aの軸受機構に対する潤滑油の注入を容易かつ迅速とすることができる。また、オイルバッファ5bの容量が軸受間隙4aの容量よりも大きくされる(好ましくは、軸受間隙4aの容量の105%以上とされる)ことにより、1回の潤滑油の供給により、軸受間隙4aにて保持される予定の潤滑油の全量をオイルバッファ5bに貯溜することができ、モータ1aの軸受機構に対する潤滑油の注入がより容易かつより迅速に実現される。
【0071】
モータ1aでは、オイルバッファ5bが、シャフト33に形成された環状のシャフト凹部333を含む構造とされることにより、オイルバッファ5bの容量を十分に確保しつつオイルバッファ5bを容易に形成することができる。
【0072】
図10に示すように、モータ1aでは、オイルバッファ5bの外部(すなわち、スリーブ部221の第1傾斜面2215の上側のエッジ、および、シャフト凹部333の上側のエッジにより形成されるバッファ開口51の外部)において、シャフト33の外側面332、および、スリーブ部221の上端面にそれぞれ撥油層52a,53aが形成されているため、オイルバッファ5bの外部に対する潤滑油の付着が抑制される。また、潤滑油の注入後に軸受間隙4aの外部に付着した潤滑油が拭き取られる際に、オイルバッファ5bの外部に付着した潤滑油が容易に除去される。
【0073】
オイルバッファ5bでは、バッファ開口51を大きく確保することにより、オイルバッファ5b内に付着した潤滑油の除去が容易とされる。モータ1aでは、オイルバッファ5b内においてシャフト凹部333の外側面、および、スリーブ部221の第1傾斜面2215にそれぞれ撥油層が形成されてもよい。これにより、オイルバッファ5b内に付着した潤滑油の除去がより容易とされる。
【0074】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【0075】
第1および第2の実施の形態に係るモータのオイルバッファは、必ずしもステータ部2およびロータ部3の双方に形成された環状の凹部を含む必要はなく、ステータ部2およびロータ部3の少なくとも一方に形成された環状の凹部を含む構造とされていればよい。これにより、オイルバッファの容量を十分に確保しつつオイルバッファを容易に形成することができる。
【0076】
上記実施の形態に係るモータでは、オイルバッファが中心軸J1を中心とする環状とされることにより、オイルバッファの容量を容易に確保することができ、また、ロータ部3の中心軸J1を中心とする周方向における質量の均一性を向上することができるが、構造上の制約等の理由により、非環状のオイルバッファがステータ部2とロータ部3との間に設けられてもよい。例えば、図11に示すように、中心軸J1を中心とする周方向の一部のみにスリーブ凹部2213およびロータハブ凹部3146が形成されることにより、当該周方向の一部のみにオイルバッファ5cが設けられてもよい。
【0077】
モータの軸受間隙は、必ずしも軸方向の下側または上側に向かって開口する必要はなく、例えば、中心軸J1を中心とする径方向の外側に向かって開口し、軸受開口46から径方向の外側へと連続して広がるオイルバッファが設けられてもよい。
【0078】
第1および第2実施の形態に係るモータでは、必ずしも、オイルバッファの外部におけるスリーブ部221の外側面、および、ロータ部3の抜止部材314の第3内側面3143に撥油剤が塗布される必要はなく、モータの構造に合わせて適宜、オイルバッファの外部においてロータ部3の表面およびステータ部2の表面に撥油処理が施されていればよい。これにより、オイルバッファの外部に対する潤滑油の付着が抑制されるとともにオイルバッファの外部に付着した潤滑油が容易に除去される。また、オイルバッファ内においてロータ部3の表面およびステータ部2の表面に撥油処理が施されてもよい。これにより、オイルバッファ内に付着した潤滑油の除去がより容易とされる。
【0079】
スリーブ部221は、例えば、ロータ部3のシャフト33が挿入される略円筒状の多孔質部材であるスリーブ本体、および、スリーブ本体の外側面に固定された略円筒状のスリーブハウジングを備える構造とされてもよい。
【0080】
上述のモータは、記録ディスクに対する情報の読み出しおよび書き込みの一方または両方、すなわち、読み出しまたは書き込みを行うアクセス部を有する記録ディスク駆動装置に適している。また、当該モータを備える記録ディスク駆動装置は、磁気ディスクのみならず、光ディスク、光磁気ディスク等の他のディスク状の記録媒体を駆動する装置として利用することもできる。さらには、上記モータは、記録ディスク駆動装置以外の他の様々な装置において利用されてよい。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】第1の実施の形態に係る記録ディスク駆動装置の縦断面図である。
【図2】モータの縦断面図である。
【図3】抜止部材を拡大して示す縦断面図である。
【図4】モータの一部を拡大して示す縦断面図である。
【図5】オイルバッファ近傍を拡大して示す縦断面図である。
【図6】注入装置を示す図である。
【図7】潤滑油の注入の流れを示す図である。
【図8】第2の実施の形態に係るモータのオイルバッファ近傍を拡大して示す縦断面図である。
【図9】第3の実施の形態に係るモータの縦断面図である。
【図10】軸受開口近傍を拡大して示す図である。
【図11】モータの他の例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0082】
1,1a モータ
2 ステータ部
3 ロータ部
4,4a 軸受間隙
5,5a〜5c オイルバッファ
24 電機子
31 ロータハブ
32 界磁用磁石
33 シャフト
46 軸受開口
52,52a,53,53a 撥油層
60 記録ディスク駆動装置
62 記録ディスク
63 アクセス部
221 スリーブ部
312 円板部
313 円筒部
333 シャフト凹部
2213 スリーブ凹部
3140 内側面
3146,3146a ロータハブ凹部
3147 段差部
J1 中心軸
S11〜S17 ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動式のモータであって、
ロータ部と、
前記ロータ部との間の軸受間隙に保持された潤滑油に生じる流体動圧を利用して所定の中心軸を中心に前記ロータ部を回転可能に支持するステータ部と、
を備え、
前記軸受間隙が前記中心軸を中心とする環状の開口を有し、前記軸受間隙内部の前記開口近傍において、前記ロータ部と前記ステータ部との間の距離が前記開口から離れるに従って漸次減少し、
前記軸受間隙の前記開口から外部へと連続して広がるとともに前記軸受間隙に前記潤滑油が注入される際に前記潤滑油の一時的な貯溜に利用されるオイルバッファが前記ロータ部と前記ステータ部との間に設けられ、
前記オイルバッファの外部において前記ロータ部の表面および前記ステータ部の表面に撥油処理が施されていることを特徴とするモータ。
【請求項2】
請求項1に記載のモータであって、
前記オイルバッファが、前記中心軸を中心とする環状の空間であることを特徴とするモータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のモータであって、
前記オイルバッファが、前記ステータ部および前記ロータ部の一方に形成された凹部を含むことを特徴とするモータ。
【請求項4】
請求項3に記載のモータであって、
前記オイルバッファが、前記凹部に対向して前記ステータ部および前記ロータ部の他方に形成されたもう1つの凹部を含むことを特徴とするモータ。
【請求項5】
請求項1または2に記載のモータであって、
前記ロータ部が、
シャフトと、
前記シャフトの一端から前記シャフトに垂直に広がる略円板状の円板部、および、前記円板部から前記シャフトと同方向に前記シャフトを中心として突出する略円筒状の円筒部を有するロータハブと、
前記ロータハブに固定された界磁用磁石と、
を備え、
前記ステータ部が、
前記シャフトが挿入されるスリーブ部と、
前記スリーブ部の周囲において前記界磁用磁石との間で前記中心軸を中心とするトルクを発生する電機子と、
を備え、
前記軸受間隙が、前記シャフトの外側面と前記スリーブ部の内側面との間の間隙、および、前記ロータハブの前記円板部と前記スリーブ部との間の間隙を含み、
前記軸受間隙の前記開口および前記オイルバッファが、前記ロータハブの前記円筒部の内側面と前記スリーブ部の外側面との間に設けられることを特徴とするモータ。
【請求項6】
請求項5に記載のモータであって、
前記円筒部の前記内側面が、前記円筒部の先端に向かって内径が増大するとともに前記軸受間隙の前記開口のエッジの一部を形成する段差部を有し、
前記オイルバッファが、前記段差部により形成される凹部を含むことを特徴とするモータ。
【請求項7】
請求項6に記載のモータであって、
前記スリーブ部の前記外側面が、前記中心軸を中心とする径方向おいて前記円筒部の前記凹部に対向するもう1つの凹部を有し、
前記オイルバッファが、前記もう1つの凹部をさらに含むことを特徴とするモータ。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載のモータであって、
前記オイルバッファの容量が、前記軸受間隙の容量の105%以上であることを特徴とするモータ。
【請求項9】
記録ディスク駆動装置であって、
情報を記録する記録ディスクを回転する請求項1ないし8のいずれかに記載のモータと、
前記記録ディスクに対する情報の読み出しまたは書き込みを行うアクセス部と、
を備えることを特徴とする記録ディスク駆動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2009−201309(P2009−201309A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42591(P2008−42591)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000232302)日本電産株式会社 (697)
【Fターム(参考)】