説明

モーター駆動方法、モーター駆動装置およびロボット

【課題】ロボットアームなどの被駆動部を高速で動作させることができるモーターの駆動方法、駆動装置およびロボットを提供する。
【解決手段】モーターの駆動トルク計測データと回転数計測データと、を取得する駆動データ取得工程と、前記駆動トルク計測データと前記回転数計測データと、を前記モーターの回転数/トルク特性テーブルと比較する比較工程と、前記比較工程の比較結果において、前記駆動トルク計測データと前記回転数計測データとが、前記回転数/トルク特性テーブルの駆動可能領域境界にある場合、前記モーターの駆動電圧を昇圧させる昇電圧工程と、を備えるモーター駆動方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モーター駆動方法、モーター駆動装置およびロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
工業製品の製造現場へのロボットの導入は、単純作業の置き換えから、繰り返しの位置精度が求められる精密作業、重量物を扱う作業、など様々な領域に亘り拡大してきている。また、複数のロボットを生産ラインに配置し、流れ作業の無人化も急速に進んできている。生産ラインに複数のロボットを配置する場合、生産ラインの生産性を高めるためには、配置された複数のロボットの一台一台の生産性を高める必要がある。ロボットの生産性は、動作速度により左右されるが、中でも始動時から短い時間で所定の速度まで加速させるかが重要である。
【0003】
特許文献1には、グリースなどの潤滑剤が低温時に粘度が上昇し、その粘度抵抗によって指令動作に対して、例えば動作時間の増大、軌跡精度の低下を招くため、その動作誤差を、初動時に検出されるトルクから予め設定されたモーターの加減速度および速度を調整し、モーターのトルクが飽和しないようにする加減速度決定器によって補正することが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、単相整流コンバーター電源のモーターを制御する制御装置において、昇降圧チョッパと蓄電部とを備えて、直流電圧信号が閾値より下がった場合に蓄電部の電圧を昇圧してコンデンサー放電することで、直流電圧を閾値で維持させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−311713号公報
【特許文献2】特開2009−195018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述の特許文献1では、制御装置に備える加減速度決定器によって、モータートルクの飽和状態を回避させるため、基準トルク値を超える場合にはモーターの速度を下げるように制御される。従って、生産性の向上には繋がらないものであった。また、特許文献2では、通常動作において負荷変動が生じた場合の直流電圧の低下を蓄電部の電源で補い、変動の少ないモーターの動作を行わせるものであり、モーターの速度を上げることの開示は無い。
【0007】
そこで、駆動可能領域を一時的に超えて駆動させ、ロボットアームなどの被駆動部を高速で動作させることができるモーターの駆動方法、駆動装置およびロボットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、少なくとも上述の課題の一つを解決するように、下記の形態または適用例として実現され得る。
【0009】
〔適用例1〕本適用例のモーター駆動方法は、モーターの駆動トルク計測データと回転数計測データと、を取得する駆動データ取得工程と、前記駆動トルク計測データと前記回転数計測データと、を前記モーターの回転数/トルク特性テーブルと比較する比較工程と、前記比較工程の比較結果において、前記駆動トルク計測データと前記回転数計測データとが、前記回転数/トルク特性テーブルの駆動可能領域境界にある場合、前記モーターの駆動電圧を昇圧させる昇電圧工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
モーターのトルクと回転数との関係を示す特性、いわゆるTN特性において、モーター始動から定速駆動に至るまでの加速駆動時には、負荷トルクの減少に伴って徐々に回転数が上昇し、所定のトルク値以下において定速回転する。この加速駆動時において、本適用例のモーター駆動方法によりモーターの駆動電圧を、定格駆動電圧を超える電圧に昇圧する工程を備えることにより、加速駆動時のモーター駆動トルクまたは回転数を定格特性値より高くし、モーター始動から定速駆動までの所要時間を短縮することができる。
【0011】
〔適用例2〕上述の適用例において、前記昇電圧工程は、前記駆動トルク計測データと前記回転数計測データとが、前記駆動可能領域境界と前記駆動可能領域境界より内側に設定される閾値と、で形成される領域にある場合、前記モーターの駆動電圧を昇圧させることを特徴とする。
【0012】
上述の適用例によれば、モーターの駆動電圧を昇圧する判定値を、駆動可能領域境界と駆動可能領域境界の内側に設定した閾値と、によって形成される領域に設定する。これにより、駆動電圧を昇圧するタイミングを早め、駆動電圧の昇圧の遅れを防止することができる。従って、モーター始動から定速駆動までの所要時間の短縮をより確実にすることができる。
【0013】
〔適用例3〕本適用例のモーター駆動装置は、モーターの駆動トルク計測データと回転数計測データと、を取得する駆動データ取得手段と、前記駆動トルク計測データと前記回転数計測データと、を前記モーターの回転数/トルク特性テーブルと比較する比較手段と、前記比較手段の比較結果から、前記駆動トルク計測データと前記回転数計測データとが、前記回転数/トルク特性テーブルの駆動可能領域境界にある場合、前記モーターの駆動電圧を昇圧させる昇電圧手段と、を備えることを特徴とする。
【0014】
モーターのトルクと回転数との関係を示す特性、いわゆるTN特性において、モーター始動から定速駆動に至るまでの加速駆動時には、負荷トルクの減少に伴って徐々に回転数が上昇し、所定のトルク値以下において定速回転する。この加速駆動時において、本適用例のモーター駆動装置によりモーターの駆動電圧を、定格駆動電圧を超える電圧に昇圧する昇電圧手段を備えることにより、加速駆動時のモーター駆動トルクまたは回転数を定格特性値より高くし、モーター始動から定速駆動までの所要時間を短縮することができる。
【0015】
〔適用例4〕上述の適用例において、前記昇電圧手段は、前記駆動トルク計測データと前記回転数計測データとが、前記駆動可能領域境界と前記駆動可能領域境界より内側に設定される閾値と、で形成される領域にある場合、前記モーターの駆動電圧を昇圧させることを特徴とする。
【0016】
上述の適用例によれば、モーターの駆動電圧を昇圧する判定値を、駆動可能領域境界と駆動可能領域境界の内側に設定した閾値と、によって形成される領域に設定し、比較手段の比較結果により電源電圧を昇圧する昇電圧手段を備える装置である。これにより、駆動電圧を昇圧するタイミングを早め、駆動電圧の昇圧の遅れを防止することができる。従って、モーター始動から定速駆動までの所要時間の短縮をより確実にするモーター駆動装置を得ることができる。
【0017】
〔適用例5〕上述の適用例のモーター駆動装置を備えるロボット。
【0018】
本適用例のロボットによれば、駆動開始から定速駆動に至るまでの時間を短縮することができ、ロボットアームの目標移動時間を短縮することができる。従って、生産性の高いロボットを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態に係るロボットの構成を示すブロック図。
【図2】実施形態に係るロボットの駆動方法を示すフローチャート。
【図3】実施形態に係るロボットに備えるモーターの駆動特性の概要を示すTN特性線図。
【図4】実施形態に係るロボットに備えるモーターの比較判定方法を説明するTN特性線図。
【図5】昇圧回路の一例を示す回路ブロック図。
【図6】その他の実施形態に係るロボットの駆動方法説明する、(a)はアームの軌道概念図、(b)はトルク特性概念図、(c)は駆動電圧の変化を示す概念図。
【図7】その他の実施形態に係るロボットの駆動方法説明する、(a)はアームの軌道概念図、(b)は回転数特性概念図、(c)は駆動電圧の変化を示す概念図。
【図8】昇圧回路のその他の例を示す回路ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明に係る実施形態を説明する。
【0021】
(実施形態)
図1は、本実施形態に係るロボットの構成を示す概念図である。図1に示すロボット100は、基台10に一方の側が回転可能に固定される第1アーム21と、第1アーム21の他方の側に相対的に一方の側が回転可能に固定される第2アーム22と、第2アーム22の他方の側に被作業物40に対して作業を行うハンド部30と、を備える。基台10と第1アーム21とは、モーター51によって回転可能に固定され、第1アーム21と第2アーム22とは、モーター52によって回転可能に固定されている。
【0022】
またロボット100は、ロボット100の駆動を制御するモーター駆動装置としての駆動制御装置70を備え、駆動制御装置70は、例えばコンピューターなどの外部制御装置である外部駆動指示装置200からの指示を駆動部71に受け、アーム21,22およびハンド部30を駆動する。また駆動制御装置70には、ロボット100の駆動情報により駆動部71を介してロボット100を制御する制御部72を備えている。
【0023】
基台10に備えるモーター51、および第1アーム21に備えるモーター52には、各モーターの出力トルクおよび回転数を検出する検出手段61,62を備えている。検出手段61,62において検出されたデータは駆動制御装置70に備える制御部72に取得され、取得された信号に基づいて制御部72は、後述するモーター51,52の駆動電圧を一時的に昇圧する制御を実行する。制御部72は、検出手段61,62からの検出データ信号を取得する駆動データ取得手段72aと、モーター51,52の回転数およびトルクの特性が記憶された回転数/トルク特性テーブル72bと、駆動データ取得手段72aが取得した駆動データと回転数/トルク特性テーブル72bから取得した駆動特性データとを比較する比較手段72cと、比較手段72cにおける比較結果に基づいてモーター駆動電圧を昇圧する昇電圧手段72dと、を含んでいる。
【0024】
図2は、ロボット100のモーター51,52の駆動方法を示すフローチャートである。図2に基づいて、ロボット100の駆動方法を説明する。
【0025】
<モータートルク/回転数計測工程>
まず、外部駆動指示装置200からの指示に基づくロボット100の駆動の信号が駆動部71より送出され、モーター51,52の駆動が開始する(S1)。モーター駆動開始(S1)の直後から、検出手段61,62によって、モーター51,52の回転数および出力トルクの計測を行う、モータートルク/回転数計測工程(S2)(以下、計測工程(S2)という)が実行される。
【0026】
<モーター回転数判定工程>
計測工程(S2)において検出された回転数のデータを、モーター回転数判定工程(S3)において最大回転数であるか、を判定する。図3は、モーター51,52の回転数/トルク特性(TN特性)を模式的に示すグラフである。本実施形態に係るロボット100に備えるモーター51,52は、図3に示すようなTN特性を有し、このTN特性線の内側領域UAが駆動可能領域、TN特性線が駆動可能領域境界として定義される。図3に示すTN特性において、モーター回転数は変化点P1まで、すなわち負荷トルクがトルクTP1まで、は最大回転数Rmaxまで駆動が可能となる。しかし、変化点P1から変化点P2である最大負荷トルクである最大出力トルクTmaxまでは回転可能なモーター回転数は減少し、変化点P2において最大回転数はRP2となってしまう。従って、本実施形態に係るロボット100に備えるモーター51,52の性能を示すTN特性図において、図3に示す変化点P1を、より高負荷トルク側、すなわちTP1をよりTmax側に近づけることで、Rmaxが維持できる負荷領域である0〜TP1を拡大させ、第1アーム21、第2アーム22をより短時間に目標位置まで移動させることを可能にするものである。
【0027】
モーター回転数判定工程(S3)において、計測工程(S2)において検出された回転数が図3に示すRmaxであるか、を判定する。判定結果が、モーター回転数がRmaxである、すなわちYESである場合には、次の減速目標位置到達判別工程(S4)に移行する。判定結果が、モーター回転数がRmaxではない、すなわちNOである場合には、比較工程としてのモータートルク/回転数比較工程(S10)に移行する。
【0028】
<モータートルク/回転数比較工程>
モータートルク/回転数比較工程(S10)(以下、トルク回転数比較工程(S10)という)では、図4に示すTN特性図を用いて比較判定を実行する。図4に示すTN特性図は、図3に示すTN特性図より作成される。図4に示すように比較判定の基準となる閾値Lが設定される。閾値Lは、後述するモーター51,52の電源電圧を昇圧する判定値であり、線P1−P2を超える駆動性能を示す線P1´−P2´を含むTN特性を与えるものである。
【0029】
トルク回転数比較工程(S10)では、図4に示すTN特性図に基づいて、計測工程(S2)において取得された検出手段61,62からの回転数とトルクのデータが、領域U1,U2,U3のどの領域にあるかを比較する。領域U1とは、Rmax線を除く変化点P1までの領域である。領域U2は閾値Lと回転数0(座標線)とで形成される領域である。領域U3は、閾値Lと線P1−P2によって形成される領域である。領域U1では、定格電源の電圧によってモーター51,52に電源を供給することによって、最大回転数Rmaxに到達させることができる領域である。
【0030】
領域U2では、モーター51,52の駆動可能領域UA(図3参照)に対して余裕のある領域であり、回転数を上昇させている状態にある。この領域U2では、定格電源の電圧によってモーター51,52に電源を供給することによって、回転数を上昇させる領域である。領域U3は、閾値Lを超えた領域となる。すなわち、更に回転数を上げるように駆動させて行くと、最大回転数Rmaxを下回る線P1−P2の領域に到達してしまう。そこで、モーター51,52のトルクおよび回転数の検出値が領域U3にあると判定された場合には、モーター51,52に定格電源電圧より高い昇圧された電源を、昇電圧手段72d(図1参照)によって生成し、モーター51,52に供給する工程に移行する。
【0031】
すなわち、トルク回転数比較工程(S10)において、特性テーブルとしての図4に示すTN特性図における閾値Lとの比較を行い、領域U1,U2である場合、すなわち閾値L以下と判定された場合(YES)、定格電源電圧によるモーター駆動を継続させ、再度、計測工程(S2)から実行する。また、領域U3である場合、すなわち閾値Lを超えると判定された場合(NO)、定格電源電圧より高い電圧の電源を、昇電圧手段72d(図1参照)によって生成し、モーター51,52に供給する、昇電圧工程としてのモーター駆動電圧昇圧工程(S20)に移行する。
【0032】
<モーター駆動電圧昇圧工程>
モーター駆動電圧昇圧工程(S20)(以下、駆動電圧昇圧工程(S20)という)では、図1に示す昇電圧手段72dにおいて、定格電源電圧、例えばAC200V、より高い電圧、によって生成される駆動電圧を生成し、駆動部71に送出してモーター51,52に昇圧された電源を供給する。昇電圧手段72dは、例えば図5の回路ブロックに示すような昇圧回路を備えている。図5に示す昇圧回路は昇電圧手段72dに備える駆動電圧指令演算部72eからの駆動電圧指令と駆動電圧に基づいて駆動電圧制御部72fにおいてコイル電流指令を算出し、コイル電流指令とコイル電流に基づいてコイル電流制御部72gにおいてPWM指令を算出し、算出されたPWM指令に基づいてPWM生成部72hがスイッチSW1およびSW2を生成し放電を制御して駆動電圧を昇圧する。
【0033】
このように駆動電源を昇圧させることにより、図4に示すTN特性において、最大回転数Rmaxで駆動できる駆動トルクTP1より大きなトルクTP1´の負荷状態であっても最大回転数Rmaxを得ることが可能となり、第1アーム21、第2アーム22をより短時間に目標位置まで移動させることが可能になる。すなわち、定格電源電圧におけるモーター51,52の動作可能領域に対して、昇圧された電源を投入することにより、領域U4まで動作可能領域を一時的に拡大させることができる。
【0034】
昇圧された電源によってモーター51,52の駆動可能範囲を超える領域U4で駆動され、再び計測工程(S2)によってモーター51,52の回転数が計測される。前述のモーター回転数判定工程(S3)において、判定結果が、モーター回転数がRmaxである、すなわちYESである場合には、次の減速目標位置到達判別工程(S4)に移行する。
【0035】
<減速目標位置到達判別工程>
減速目標位置到達判別工程(S4)(以下、減速位置判別工程(S4)という)では、外部駆動指示装置200によって指示されたアーム21,22の移動目標位置に到達する前の移動速度の減速開始位置、すなわち減速目標位置を判定する。減速位置判別工程(S4)において、減速目標位置に到達した(YES)と判定された場合には、モーター減速工程(S5)に移行する。また、減速位置判別工程(S4)において、減速目標位置に到達していない(NO)と判定された場合には、モーター51,52は駆動を継続し計測工程(S2)からの工程を繰り返す。
【0036】
<モーター減速工程>
モーター減速工程(S5)では、減速手段として電磁ブレーキもしくはモーター回生ブレーキなどを用いて、モーター51,52を減速し、目標位置到達判別工程(S6)へ移行する。
【0037】
<目標位置到達判別工程>
目標位置到達判別工程(S6)では、モーター減速工程(S5)において、モーター51,52は減速され、所定の停止位置である目標位置にアーム21,22が到達したかを判別する。到達した(YES)と判定された場合には、モーター駆動停止(S7)に移行し、モーター51,52は停止、すなわちアーム21,22の移動が終了する。到達していない(NO)と判定された場合は、モーター減速工程(S5)を継続しながら、目標位置到達までモーター51,52は駆動される。
【0038】
上述のモーター駆動方法で説明したように、モーターの定格駆動電源における駆動領域(図3に示すTN特性図、参照)に対して、電源電圧を一時的に昇圧させ供給することによって、負荷(トルク)の大きい領域においてもモーターの回転数を最大まで駆動可能となる領域を形成することができる。これによって、特にアーム移動開始から定速移動になるまでの加速領域において生じる負荷増に対して、モーターの最大回転数が発揮できる領域を拡大し、より高速でアームを移動させることができる。従って、生産性の高いロボットを得ることができる。
【0039】
(その他の実施形態)
上述の実施形態に係るロボット100では、モーター51,52のトルクと回転数を計測した結果が、図4に示すTN特性における領域U3にある場合に、モーター駆動電圧昇圧工程(S20)を実行させた。しかし、これに限定されるものではなく、モーター51,52のトルクだけを計測し、トルク閾値との比較よってモーター駆動電圧昇圧工程(S20)を実行する、あるいは、モーター51,52の回転数だけを計測し、回転数閾値との比較よってモーター駆動電圧昇圧工程(S20)を実行することもできる。
【0040】
図6は、モーター51,52のトルク計測値とトルク閾値との比較によってモーター駆動電圧昇圧工程(S20)を実行する形態を説明する説明図である。図6(a)に示す軌道図ように、例えばモーター51が駆動する第1アーム21の軌道は、時間の経過と共に目標位置に到達する。その間、モーター始動から定速駆動するまでの加速区間から定速区間、そして駆動停止までの減速区間で構成される。加速区間では図6(b)に示すトルク特性は定速区間の始まりにかけて高トルクを必要とする。しかし、定格電源電圧における最大トルクは図6(b)に示すように必要とする最大トルクに対してトルクTm分の低い値を示す。この差異分を図2に示すモーター駆動電圧昇圧工程(S20)によって、駆動トルクの引き上げを行う。
【0041】
図6(c)に、駆動電圧の時間経過を示す。上述したように定格電源における最大トルクを超えるトルクを発生させるため、図6(b)に示すように定格電源最大トルクを下回るトルク閾値を設定し、計測されるトルク値がこのトルク閾値を超えた場合に、図6(c)に示す昇圧電源電圧を生成し、駆動電圧として供給する。これにより定格電源最大トルクよりTm大きいトルクを得て、加速時間を短縮することができる。
【0042】
図7は、モーター51,52の回転数計測値と回転数閾値との比較によってモーター駆動電圧昇圧工程(S20)を実行する形態を説明する説明図である。図6(a)に示す軌道図と同様に、図7(a)に示す軌道図においても、例えばモーター51が駆動する第1アーム21の軌道は、時間の経過と共に加速区間、定速区間、減速区間を経て目標位置に到達する。図7(b)に示すように、加速区間において、定格電源電圧によりモーター51を駆動すると、回転数の上昇はグラフ線LRに沿って上昇し、定格電源最大回転数に至るまでに時間tmを必要とする。ここで、定格電源最大回転数より低い回転数閾値、例えば定格電源最大回転数の50%を回転数閾値に設定し、この回転数閾値を超えた場合に、図7(c)に示す昇圧電源電圧を生成し、駆動電圧として供給する。これにより定格電源最大回転数に到達する時間がtmより前の時間taとすることができ、加速時間を短縮することができる。
【0043】
上述の実施形態に係るロボット100は、昇電圧手段72dの電源として図5に示すように外部交流電源を用いる形態としたが、モーター51,52の減速時の回生エネルギーを電力として蓄え、モーター駆動電圧昇圧工程(S20)における昇圧電源として用いることもできる。図8は、回生電力による昇圧回路の一例を示す回路ブロックである。モーター51,52には、減速と減速エネルギーを電力に変換する図示しない回生ブレーキが備えられ、回生ブレーキから送出された電力を充放電用コンデンサーに蓄える。図8に示す昇圧回路では、昇電圧手段72d備える駆動電圧指令演算部72eからの駆動電圧指令と駆動電圧に基づいて駆動電圧制御部72fにおいてコイル電流指令を算出し、コイル電流指令とコイル電流に基づいてコイル電流制御部72gにおいてPWM指令を算出し、算出されたPWM指令に基づいてPWM生成部72hがスイッチSW1およびSW2を生成し放電を制御して駆動電圧を昇圧する。この際、充放電コンデンサーは直列に配置することで、耐電圧性を上げることができ、耐電圧性を上げて高い電圧で充電させることで、昇圧電源生成時に所望の高電圧を容易に得ることができ、高速のアーム移動を実現することができる。
【0044】
上述の実施形態に係るロボット100では、図2に示すモーター駆動電圧昇圧工程(S20)が、計測工程(S2)におけるモーターのトルクおよび回転数の計測結果と、閾値と、の比較を行うトルク回転数比較工程(S10)の比較結果に基づき実行される形態であるが、ロボット100のアーム21,22の目標位置到達までの軌道が予め設定されている場合には、軌道に合わせた駆動電圧の昇圧の指示プロファイルを生成し、駆動電圧の制御を行うこともできる。これによって、リアルタイムにトルク、回転数のデータ取得、データの演算などを実行する必要が無く、簡単な構成の駆動制御装置とすることができ、低コスト、信頼性の向上、などが可能となる。
【0045】
なお、上述に実施形態に係るロボット100はアーム21,22を備える水平多関節ロボットを例示したが、これに限定されない。例えば、垂直多関節ロボットなどであっても良く、モーター駆動によるロボットのモーター駆動方法に適用できる。
【符号の説明】
【0046】
10…基台、21,22…アーム、30…ハンド部、40…被作業物、51,52…モーター、61,62…検出手段、70…駆動制御装置、100…ロボット、200…外部駆動指示装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モーターの駆動トルク計測データと回転数計測データと、を取得する駆動データ取得工程と、
前記駆動トルク計測データと前記回転数計測データと、を前記モーターの回転数/トルク特性テーブルと比較する比較工程と、
前記比較工程の比較結果において、前記駆動トルク計測データと前記回転数計測データとが、前記回転数/トルク特性テーブルの駆動可能領域境界にある場合、前記モーターの駆動電圧を昇圧させる昇電圧工程と、を備える、
ことを特徴とするモーター駆動方法。
【請求項2】
前記昇電圧工程は、前記駆動トルク計測データと前記回転数計測データとが、前記駆動可能領域境界と前記駆動可能領域境界より内側に設定される閾値と、で形成される領域にある場合、前記モーターの駆動電圧を昇圧させる、
ことを特徴とする請求項1に記載のモーター駆動方法。
【請求項3】
モーターの駆動トルク計測データと回転数計測データと、を取得する駆動データ取得手段と、
前記駆動トルク計測データと前記回転数計測データと、を前記モーターの回転数/トルク特性テーブルと比較する比較手段と、
前記比較手段の比較結果から、前記駆動トルク計測データと前記回転数計測データとが、前記回転数/トルク特性テーブルの駆動可能領域境界にある場合、前記モーターの駆動電圧を昇圧させる昇電圧手段と、を備える、
ことを特徴とするモーター駆動装置。
【請求項4】
前記昇電圧手段は、前記駆動トルク計測データと前記回転数計測データとが、前記駆動可能領域境界と前記駆動可能領域境界より内側に設定される閾値と、で形成される領域にある場合、前記モーターの駆動電圧を昇圧させる、
ことを特徴とする請求項3に記載のモーター駆動装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載のモーター駆動装置を備えるロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−257425(P2012−257425A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129879(P2011−129879)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】