説明

モータ装置及び電動工具

【課題】使用環境温度が変化しても、作動可能範囲を安定して確保することができるモータ装置を提供する。
【解決手段】2次電池からの電力供給を受けて作動する電動モータと、2次電池の電圧を検出する電圧検出手段と、電圧検出手段による2次電池の検出電圧と判定値との比較に基づいて異常判定を行う判定手段と、判定手段の判定結果に対応する制御を含む電動モータの作動制御を行う制御手段とを備えたモータ装置であって、制御回路にて実施される2次電池の異常判定は、検出した使用環境温度に応じた判定値V1,V2のいずれかに変更して実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータの駆動電源に2次電池が用いられる電動工具等のモータ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、2次電池から電力供給を受けて電動モータが駆動する電動工具等においては、2次電池の保護の観点等から、2次電池の電池セルの電圧を検出する手段と、その電圧値が判定値を下回ると異常(過放電)と判定し、モータへの電力供給、即ち電動工具の作動を停止する制御を行う手段とを備えるものが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−27630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、2次電池の電圧は、放電電流が大きくなるとその電圧降下量も大きくなる。電圧降下量は、一般に内部抵抗や配線抵抗と放電電流との積で決まるものであるが、その抵抗値は温度の影響を受けて変化するものである。従って、同じ放電電流を要する作動であっても、使用環境温度の変化に伴う内部抵抗等の抵抗値の変化にて2次電池に生じる電圧降下量も変化するため、常温状態で作動するものであっても現在の使用環境温度によっては、モータへの電力供給を停止、電動工具の作動を停止する制御が早期に働いてしまうことがあった。このことは、電動工具の作動可能範囲を狭めてしまうことになる。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、使用環境温度が変化しても、作動可能範囲を安定して確保することができるモータ装置及び電動工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、2次電池からの電力供給を受けて作動する電動モータと、前記2次電池の電圧を検出する電圧検出手段と、前記電圧検出手段による2次電池の検出電圧と判定値との比較に基づいて異常判定を行う判定手段と、前記判定手段の判定結果に対応する制御を含む前記電動モータの作動制御を行う制御手段とを備えたモータ装置であって、使用環境温度を検出する温度検出手段を備えるものであり、前記判定手段は、前記温度検出手段による検出温度に応じた前記判定値に変更し、その判定値に基づいて前記異常判定を実施する。
【0007】
また上記構成において、前記判定手段は、起動指令直後の前記電動モータの作動直前状態において前記異常判定の最初の判定を実施するものであり、その判定の際に用いる前記判定値に変更前の標準判定値を用いて判定を行うことが好ましい。
【0008】
また上記構成において、前記判定手段は、前記温度検出手段による検出温度が低温側で前記判定値を低く設定したものを用いて判定を行うことが好ましい。
また上記構成において、前記判定手段は、前記判定値を2つ有し、その2つの判定値を切り替えて判定を行うことが好ましい。
【0009】
また上記構成のモータ装置は、電動工具として構成されるのが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、使用環境温度が変化しても、作動可能範囲を安定して確保することができるモータ装置及び電動工具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態における電動工具の電気的構成図である。
【図2】使用環境温度と2次電池の電圧降下量との関係を説明する説明図である。
【図3】温度に対する判定値の切り替え態様を説明する説明図である。
【図4】制御回路の処理を説明するためのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1は、本実施形態におけるモータ装置としての電動工具10を示す。電動工具10は、例えばドリルドライバーやディスクグラインダー等であり、電動モータMを駆動源とした電動工具本体11と、該電動工具本体11に対して着脱可能に装着される電池パック21とを備えている。
【0013】
電動工具本体11は、電池パック21側から電力供給を受ける電源用端子11a,11bと、同じくパック21側から各種検出信号を受ける信号用端子11c,11dを備えている。電動モータMは、そのプラス側端子が操作スイッチ12を介して電源用端子11aに接続され、マイナス側端子がモータ駆動回路13を介して電源用端子11bに接続されている。また、操作スイッチ12に対して、トランジスタ等の電子スイッチ14及び電源回路15が並列に設けられており、制御回路16のプラス側端子がその電源回路15及び電子スイッチ14を介して電源用端子11aに接続され、マイナス側端子が電源用端子11bに接続されている。
【0014】
操作スイッチ12がオン操作されると、電源用端子11a,11bを通じて電池パック21側から電動モータMに電力が供給されてモータMが回転する。またこのとき、操作スイッチ12のオンに基づくスイッチ信号が制御回路16及び電子スイッチ14に入力され、そのスイッチ信号の入力に基づいて電子スイッチ14がオンされる。電子スイッチ14がオンされると、電源回路15には電池パック21側から電力が供給され、制御回路16に対応した動作電源が生成される。制御回路16は、電源回路15からの動作電源の供給に基づいて自身が動作可能状態となり、モータ駆動回路13を介してモータMの回転制御を行う。尚、操作スイッチ12の操作を止めても、制御回路16の制御による電子スイッチ14のタイマ動作により、該制御回路16には動作電源の供給が所定時間継続されるようになっている。
【0015】
電源用端子11a,11b間には、その端子間電圧、即ち電池パック21(2次電池22)の電圧を本体11側で検出する電圧検出回路17が設けられている。電圧検出回路17にて検出した電圧値(検出電圧)は、電圧検出信号として制御回路16に入力される。また、制御回路16には、信号用端子11c,11dを介して、電池パック21内の電圧検出回路23からの電圧検出信号と、温度検出素子24からの温度検出信号とが入力される。
【0016】
電池パック21は、電動工具本体11に対して着脱可能に構成されており、電動工具本体11の電源用端子11a,11b及び信号用端子11c,11dに対応して電源用端子21a,21b及び信号用端子21c,21dを備えている。電池パック21は、電動工具本体11への装着時に相互の各端子11a〜11d,21a〜21dが電気的に接続されることで、電動工具本体11側への電力供給と、各種検出信号の出力とが可能になる。電池パック21は、図示しないが充電器に対しても着脱可能に構成され、充電器により充電が行われる。
【0017】
電池パック21の内部には、リチウムイオン電池等の複数の電池セルにて構成される2次電池22が備えられている。2次電池22のプラス側端子は電源用端子21aに接続され、マイナス側端子は電源用端子21bに接続されている。電池パック21に備えられる電圧検出回路23は、2次電池22からの電源供給を受けて動作し、2次電池22を構成する各電池セル毎の電圧値を検出し、2次電池22の総電圧(両端電圧)の検出を行っている。電圧検出回路23にて検出した電圧値は、電圧検出信号として端子21c,11cを介して電動工具本体11内の制御回路16に入力される。
【0018】
また、電池パック21の内部には、サーミスタ等の温度検出素子24が備えられている。温度検出素子24は、電池パック21内において使用環境温度の検出を行っている。温度検出素子24にて検出した温度は、温度検出信号として端子21d,11dを介して電動工具本体11内の制御回路16に入力される。
【0019】
制御回路16は、電圧検出回路17,23からの電圧検出信号の入力に基づいて2次電池22の電圧を認識している。そして、制御回路16は、電動工具10の使用時(モータMの作動時)において、2次電池22の電圧値の検出からその2次電池22の過放電異常の検出を行っており、過放電異常と判定すると、2次電池22からの電動モータMへの電力供給の停止をモータ駆動回路13を通じて行う。つまり、2次電池22の過放電異常時には、電動工具10の作動は自動的に停止される。また、制御回路16は、温度検出素子24からの温度検出信号の入力に基づいて使用環境温度を認識しており、使用環境温度に応じた制御態様に切り替えるようになっている。
【0020】
ここで、図2は、使用環境温度の変化に対する2次電池22の電圧降下量の変化(内部抵抗等の抵抗値の変化)を示している。同図2に示すように、使用環境温度がT℃(例えば10℃)よりも高いと、2次電池22の内部抵抗等の抵抗値は小さく、電圧降下量も小さいが、T℃以下の低温領域での作動になると、温度が低くなるにつれて2次電池22の内部抵抗等の抵抗値が大きく増大し、電圧降下量も大きく増大する。
【0021】
つまり、使用環境温度がT℃以下の低温領域になると2次電池22の電圧降下量が大きく増大することから、電動工具10の使用時(モータMの作動時)の2次電池22の電圧低下が大となり易い。従って、制御回路16での過放電異常の判定の際、その判定基準となる判定値を固定にしてしまうと、使用環境温度がT℃以下の低温領域では、過放電異常と判定され易くなり、電動工具10の作動可能範囲を狭めてしまうことになる。
【0022】
そこで、本実施形態の制御回路16は、図3に示すように、使用環境温度がT℃(例えば10℃)より高い場合では標準判定値V1(2次電池22の定格電圧14Vに対して例えば11Vに設定)、使用環境温度がT℃以下の低温領域ではその判定値V1よりも低い判定値V2(例えば10Vに設定)というように、過放電異常の判定を行う際の判定値を切り替えるようになっている。従って、使用環境温度がT℃以下の低温領域では、電動工具10の使用時(モータMの作動時)の2次電池22の電圧低下がその温度の影響を受けて大となり易いが、それを見越して低い側の判定値V2に変更されるため、電動モータMへの電力供給の停止、電動工具10の作動の停止を行う制御が早期に働くことが防止される。結果、使用環境温度がT℃以下の低温領域であっても、電動工具10の作動可能範囲を広く確保できるものとなる。
【0023】
尚、本実施形態の制御回路16は、操作スイッチ12のオン操作直後における電動モータMの作動直前状態、即ち2次電池22に放電電流が生じる直前の状態において最初の過放電異常の判定を行っている。この場合、2次電池22に放電電流が生じておらず、2次電池22に電圧降下が生じる前であるため、常に高い側の判定値V1の方でその判定が行われる。つまり、温度依存のある電圧降下が生じていないため、温度加味分の小さい判定値V1がその判定に用いられることで、適切な判定が行われるようになっている。それ以降のモータMの作動中においては、所定周期毎にその過放電異常の判定が行われている。
【0024】
因みに、本実施形態の制御回路16の処理は図4に示すフローに従って行われている。
ステップS1にて電池パック21の装着状態を検出し、ステップS2にて操作スイッチ12のオン操作を検出すると、ステップS3にて使用環境温度の温度検出を行い、ステップS4にて2次電池22の電圧検出を行う。
【0025】
ステップS5では、先に検出した温度がT℃(例えば10℃)より高いか否かの判定を行う。検出した温度がT℃より高いと判定すると、ステップS6に進み、先に検出した2次電池22の電圧を判定値V1(例えば11V)と比較する過放電異常の判定を行う。2次電池22の電圧が判定値V1より高い、即ち過放電異常が生じていないと判定すると、ステップS7に進み、電動モータMの回転を継続し、電動工具10の作動を継続させる。一方、ステップS6において2次電池22の電圧が判定値V1以下、即ち過放電異常が生じていると判定すると、ステップS8に進み、電動モータMへの電力供給を停止してその作動を停止し、電動工具10の作動を停止させる。
【0026】
また前記ステップS5において、検出した温度がT℃以下の低温領域であると判定すると、ステップS9に進み、先に検出した2次電池22の電圧を判定値V2(例えば10V)に切り替えて比較する過放電異常の判定を行う。2次電池22の電圧が判定値V2より高い、即ち過放電異常が生じていないと判定すると、ステップS10に進み、電動モータMの回転を継続し、電動工具10の作動を継続させる。一方、ステップS9において2次電池22の電圧が判定値V2以下、即ち過放電異常が生じていると判定すると、ステップS11に進み、電動モータMへの電力供給を停止してその作動を停止し、電動工具10の作動を停止させる処理を行っている。
【0027】
次に、本実施形態の特徴的な作用効果を記載する。
(1)制御回路16にて実施される2次電池22の異常判定は、検出した使用環境温度に応じた判定値V1,V2のいずれかに変更して実施されている。つまり、使用環境温度に応じた判定値V1,V2を用いることで、その温度変化による電動モータMの無駄な停止が防止され、電動工具10の作動可能範囲を安定して得ることができる。特に本実施形態のように、使用環境温度が変動し易い電動工具10に適用する意義は大である。
【0028】
(2)2次電池22の異常判定は、操作スイッチ12のオン操作直後(起動指令直後)の電動モータMの作動直前状態においてその最初の判定が実施されている。その判定の際に用いる判定値には変更前の標準判定値V1が用いられ、該判定値V1による判定が行われる。つまり、2次電池22に放電電流が生じておらず、温度依存のある電圧降下が生じる前であるため、温度加味分の小さい判定値V1を用いることで、適切な判定を行うことができる。
【0029】
(3)2次電池22の異常判定においては、検出した使用環境温度が低温側で低い値に設定した判定値V2が用いられ、該判定値V2による判定が行われる。つまり、使用環境温度が低いほど2次電池22の内部抵抗等の抵抗値が増大し、電圧降下量が大となるため、使用環境温度が低温側で低い値の判定値V2を用いる本実施形態では、適切な判定を行うことができる。
【0030】
(4)2次電池22の異常判定においては、2つの判定値V1,V2を有し、その2つの判定値V1,V2を使用環境温度に応じて切り替えてその判定が行われる。これにより、判定値V1,V2の切り替えにかかる処理を簡素に構成でき、制御回路16の処理負荷の軽減等に寄与できる。
【0031】
尚、本発明の実施形態は、以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、2次電池22の異常判定に2つの判定値V1,V2を用いたが、3以上の判定値を用いてもよく、また使用環境温度の変化に応じてリニアに変化する判定値を用いてもよい。
【0032】
・上記実施形態では、電池パック21内に備えられる温度検出素子24にて使用環境温度の検出を行ったが、電動工具本体11側でその温度検出を行う構成としてもよい。
・上記実施形態では、モータ装置として電動工具10に適用したが、他のモータ装置に適用してもよい。
【符号の説明】
【0033】
10…電動工具、16…制御回路(判定手段、制御手段、電圧検出手段、及び温度検出手段)、17…電圧検出回路(電圧検出手段)、22…2次電池、23…電圧検出回路(電圧検出手段)、24…温度検出素子(温度検出手段)、M…電動モータ、V1…判定値(標準判定値)、V2…判定値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2次電池からの電力供給を受けて作動する電動モータと、前記2次電池の電圧を検出する電圧検出手段と、前記電圧検出手段による2次電池の検出電圧と判定値との比較に基づいて異常判定を行う判定手段と、前記判定手段の判定結果に対応する制御を含む前記電動モータの作動制御を行う制御手段とを備えたモータ装置であって、
使用環境温度を検出する温度検出手段を備えるものであり、
前記判定手段は、前記温度検出手段による検出温度に応じた前記判定値に変更し、その判定値に基づいて前記異常判定を実施することを特徴とするモータ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ装置において、
前記判定手段は、起動指令直後の前記電動モータの作動直前状態において前記異常判定の最初の判定を実施するものであり、その判定の際に用いる前記判定値に変更前の標準判定値を用いて判定を行うことを特徴とするモータ装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のモータ装置において、
前記判定手段は、前記温度検出手段による検出温度が低温側で前記判定値を低く設定したものを用いて判定を行うことを特徴とするモータ装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のモータ装置において、
前記判定手段は、前記判定値を2つ有し、その2つの判定値を切り替えて判定を行うことを特徴とするモータ装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のモータ装置にて構成されたことを特徴とする電動工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−232219(P2011−232219A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103676(P2010−103676)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(509119153)パナソニック電工パワーツール株式会社 (107)
【Fターム(参考)】