モータ駆動方法
【課題】本発明は、PWM駆動のゼロベクトル状態で各電力用半導体素子を全てオフとし、ゼロクロス電流の発生を防止し、モータの発熱を抑えることを目的とする。
【解決手段】本発明によるモータ駆動方法は、PWM駆動動作時のゼロベクトル状態で各電力用半導体素子(UH〜WL)を全てオフ状態とし、前記ゼロベクトル状態で発生するゼロクロス電流を防止し、モータの発熱を抑える方法である。
【解決手段】本発明によるモータ駆動方法は、PWM駆動動作時のゼロベクトル状態で各電力用半導体素子(UH〜WL)を全てオフ状態とし、前記ゼロベクトル状態で発生するゼロクロス電流を防止し、モータの発熱を抑える方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動方法に関し、特に、周知のパルス幅変調方式(以下、PWM方式と云う)によるモータ駆動のPWM動作時のゼロベクトル状態で各電力用半導体素子を全てオフとし、ゼロクロス電流の発生を防止し、モータの発熱を抑えるようにするための新規な改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、用いられていたこの種のPWM方式によるモータ駆動方法としては、特許文献1にも開示されているように、図8及び図9で示される構成が採用されていた。
図8において、U,V,Wの三相の駆動コイル1,2,3に流れる電流を正弦波状に制御する必要があり、そのために各駆動コイル1,2,3に一対設けられた合計6個の電力用半導体素子UH,UL,VH,VL,WH,WLのオン・オフを制御してU,V,W相の各駆動コイルに適切な電圧を印加しなければならない。そのため、従来は、図9で示すパルス幅変調方式(以下、PWM方式と云う)によるパルス信号を用いた駆動方式を採用していた。
【0003】
すなわち、前述の方式では各相すなわち各駆動コイル1,2,3のハイアーム側の電力用半導体素子UH,VH,WHとローアーム側の電力用半導体素子UL,VL,WLとは互いにオン・オフが逆となっており、PWM方式の1サイクルのうち、区間Mでは各相ともハイアーム側の電力用半導体素子UH,VH,WHがオンしているので、各U,V,W相の電圧差は零となり、電流が流れることはない。
【0004】
次に、図9の区間Nでは、U,V相はハイアーム側の電力用半導体素子UH,VHがオンであり、W相はローアーム側の電力用半導体素子WLがオンしているので、U,V相とW相とにVccの電圧差が生じ、U,V相からW相へ電流が流れる。区画Oでは、U相はハイアーム側の電力用半導体素子UHがオン、V,W相はローアーム側の電力用半導体素子VL,WLがオンであるため、U相とV,W相とにVccの電圧差が生じU相からV,W相へ電流が流れる。
【0005】
次に、区間Pでは、U,V,W相ともローアーム側の電力用半導体素子UL,VL,WLがオンであるため、U,V,W相には電圧差はなく、電流は流れない。
【0006】
また、PWM方式では、1サイクルの周期Tが短いため、区間M〜Pの動きにより、U,V,W相には平均してVu,Vv,Vw(O<Vw<Vv<Vu)の電圧が印加された状態と等価になり、U相、V相、W相の各電流iu,iv,iwはその電圧差に対応して流れることになる。この場合には、iu>0,iv=0,iw<0となり、この電圧iu,iv,iwは前述の区間M、Pのように各相U,V,Wの電圧差が零(0)の区間においても、各駆動コイル1,2,3のインダクタンスの働きにより電流は流れ続けようとする。すなわち、区間Mでは電力用半導体素子UH,WHに並列に設けられたフライホイルダイオードDWHによりUH→U→W→DWHの循環ループにより流れる。また、区間Pでは電力用半導体素子ULのフライホイルダイオードDULによりDUL→U→W→WLの循環ループにより流れ続ける。
【0007】
【特許文献1】特開平6−165573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、用いられていたPWM方式によるモータ駆動方法は、以上のように構成されていたため、次のような課題が存在していた。
永久磁石形(PM)の高速回転モータや細長い形状のモータは誘起電圧を抑える、コイルを巻くスペースが少ないなどの制約があり巻数が少なく巻線インダクタンスが小さくなる、すなわち電気的時定数が小さくなる。一般的にモータは周知のPWMインバータを用いて駆動されるが、モータを流れる電流には必ずリプルが生じ、電気的時定数が小さいとリプル幅が増える。モータが無負荷の状態で回転していることが多いような用途においては、電流実効値が小さいにもかかわらず電流リプルが大きいため、ロータやヨーク部分での発熱が大きくなる。
【0009】
無負荷あるいは軽負荷時など電流の実効値が定格にくらべて非常に小さい場合、リプル電流が0[A]をまたぐ現象、いわゆるゼロクロスが頻繁に発生する(図14)。図14の点線で囲った部分をゼロクロスした電流と呼んでいる。
点線部分の電流は損失しか生まないため、この部分を取り払うことで効率の改善・モータ発熱の低減が期待できる。
このインバータは空間ベクトルPWM(SVPWM)動作している。図13中の矢印はゼロベクトル期間中(つまりモータに電圧が印加されていない状態)の回路を流れる電流を示している。図13の各相電流は上側の図の方向に流れているがインダクタンスが小さいために蓄えられているエネルギーも小さく、電流はすぐに誘起電圧に押し返されて逆転する。これがゼロクロス発生の原因である。この現象は下アームがすべてオンしているときでも同様である。
電流の実効値が小さく、インダクタンスも小さく、誘起電圧が大きい(回転速度が速い)条件のときリプル電流のゼロクロスが発生しやすい。
【0010】
すなわち、図10の波形図で示されるように、PWM方式によるモータ駆動方法では、図中、B点及びB’点で示されるように、各相のHiアーム側又はLoアーム側が全てオンとなる状態(ゼロベクトル時)が存在する。このモータの三相を短縮した形となり、それまで流れていた転流電流が消滅すると、各コイルに発生する誘起電圧を基に、図11及び図12で示されるように、今までとは逆の電流が流れ始め、この電流は、本来の希望電流とは逆の電流で、モータの発熱、トルク効率の低下につながっていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によるモータ駆動方法は、モータの三相の各駆動コイルを各一対で合計6個の電力用半導体素子を介してパルス幅変調方式によるパルス信号にて駆動するようにしたモータ駆動方法において、前記パルス幅変調動作時のゼロベクトル状態で前記各電力用半導体素子を全てオフ状態とし、前記ゼロベクトル状態で発生するゼロクロス電流を防止し、前記モータの発熱を抑える方法であり、また、前記各電力用半導体素子を全てオフ状態とする全オフベクトルは、前記モータが定格もしくは定格に近い高速回転で負荷が定格より低い場合のみとし、前記高速回転で負荷が定格よりも低い場合以外の動作条件では前記全オフベクトルを用いない前記パルス幅変調方式で前記モータを駆動する方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によるモータ駆動方法は、以上のように構成されているため、次のような効果を得ることができる。
すなわち、PWM動作時のゼロベクトル状態で各電力用半導体素子を全てオフ状態としていると共に、このオフ状態はモータが定格の高速回転で負荷が定格よりも低い場合のみに適用しているため、前記ゼロベクトル状態で発生するゼロクロス電流を防止し、前記モータの発熱を抑えることができ、インバータや制御系を変えることなく、温度上昇を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、PWM方式によるモータ駆動のPWM動作時のゼロベクトル状態で各電力用半導体素子を全てオフとし、ゼロクロス電流の発生を防止し、モータの発熱を抑えるようにしたモータ駆動方法を提供することを目的とする。
【実施例】
【0014】
以下、図面と共に本発明によるモータ駆動方法の好適な実施の形態について説明する。 尚、前述した図8及び図9のPWM方式によるモータ駆動方法については、本発明も同一に構成されているため、図8及び図9の構成を援用している。
図1は、本発明によるモータ駆動方法を適用した実験装置を示すもので、制御用のコントローラ20として、TI社製DSP、TMS320F240を使用し、このコントローラ20には空間ベクトルPWM(SVPWM)用のペリフェラルが内蔵されており、その機能を拡張することにより、図8の各スイッチ(電力用半導体素子)をオフとする全オフベクトルを行うことができるように構成されている。また、後述のPWM方式動作時のゼロベクトル状態で各電力用半導体素子を全てオフ状態とする全オフベクトルは、モータ定格もしくはこれに近い高速回転で負荷が定格よりも低い場合とし、これ以外の動作条件では全オフベクトルではない通常のPWM方式駆動とする、いわゆる、モータ電流と速度に応じて全オフ方式PWMが通常のPWMを採用するかを切替えることができるように構成されている。
【0015】
電源21が接続されたモータドライバ22にはPM型のモータ23が接続され、このモータ23にはエンコーダ24を介して3相抵抗を設けた前記モータ23と同一の負荷用モータ25が負荷として接続されている。
前記エンコーダ24からの角度信号θは前記コントローラ20に入力されていると共に、前記モータ23の駆動信号iu,ivがA/D変換器26でA/D変換された後に前記コントローラ20に入力され、周知のPWM方式の駆動(図10に示す)によってモータ23の駆動が行われる。
【0016】
前述の図1の実験装置によるモータのPWM駆動方式によるモータ駆動において、モータ23の回転軸に対して負荷が殆んどかからない無負荷状態で、かつ、高速回転状態において、前述の全ての電力用半導体素子(UH〜WL)(図8で示す)をオフとする全オフベクトル状態とすることにより、各駆動コイル1,2,3への電流の流れは、図2の(A)から(B)のように変化し、全オフベクトル状態の電流波形は、図3で示される通りとなり、ゼロクロス電流の発生がなくなり、電流のリプル幅も従来方法よりも小さくなると共に、モータのロータ及びヨーク部分でのマイナーループによるヒステリシス損が減少すると考えられる。
【0017】
尚、前述の実験装置においては、エンコーダ24はインクリメンタル形で2048pulse/r、A/D変換器26の分解能は16ビット、キャリア周波数は10KHzであり、各駆動コイルの巻線インダクタンスは比較的小さいものを選択し、前記モータ23の定数としては、次の表1の第1表に示す通りである。
【0018】
【表1】
【0019】
次に、図4で示される波形図は、モータ23の無負荷時の電流波形であり、従来発生していたリプル電流のゼロクロスが、本発明ではほぼ完全に除去され、電流のリプル幅も抑えられており、電流値も従来の2[A]に対して1.5[A]と改善されている。
【0020】
尚、本発明は前述のゼロクロス電流をなくしてモータ23の発熱を極力抑えてモータ自体の効率を向上させることを目的としているが、本発明方法の適用により、図5で示されるように、モータ23の表面23aとシャフト23bに図示しない温度センサを取付けて温度測定した結果、室温とモータ表面の温度差は、図6で示されるように、約7℃である。
また、室温とモータシャフトの温度差は、図7で示されるように、約3℃である。
尚、前述の実験は、室温18.4プラスマイナス1℃、モータの回転数は無負荷で3000rpm一定の測定条件である。
【0021】
従って、本発明においては、前述のように温度が下がった理由として、ロータ及びヨーク部分でのヒステリシス損が減少したのではないかと考えられ、電流リップルが狭まると、磁界の変化幅が狭まり、ヒステリシスループの面積が小さくなることによって損失が減るためと考えられる。
すなわち、本発明によれば、電気的時定数が小さいPMモータが無負荷又は無負荷に近い軽負荷状態で高速回転している時に、発生する熱をインバータ構成や制御系を変えることなく低減できる。
また、本発明においては、前記全オフベクトルのモードは、前記モータ23が定格の高速回転で負荷が定格より十分に低い場合のみとし、前述の高速回転で負荷が定格よりも低い場合以外の動作条件では前記全オフベクトルではない通常のPWM方式で前記モータ23を駆動する方法を採用している。
【0022】
すなわち、前述の全オフベクトルを採用する全オフ方式PWMは、転流経路を絶つことで逆電流の発生を防止しているが、この転流電流の基となるモータ23の蓄積電気エネルギーJは、
J=1/2La×I2(La:モータインダクタンス、I:モータ電流)であり、逆電流の原因になる誘起電圧Vは、
V=ω×KE(ω:モータ回転速度、KE:誘起電圧定数)
である。
【0023】
従って、前記蓄積電気エネルギーJによって誘起される電圧が、前記誘起電圧V分より小さくなった場合に、前記逆電流が発生する。すなわち、逆に云えば、前記蓄積電気エネルギーJによって誘起される電圧が前記誘起電圧V分より大きい場合には前記逆電流は発生しない。
前記蓄積電気エネルギーJが大きい場合は、前記インダクタンスが固定とすると、前記モータ電流Iが大きい時であり、この誘起電圧Vが小さい時は前記モータ速度ωが低い時である。
【0024】
以上のように、前記モータ電流Iが大きい場合(定格もしくは定格に近い場合)と、前記モータ回転速度ωが定格よりも十分に低い場合は、前述の全オフベクトル、すなわち、全オフ方式PWMによる駆動方法でなくても、モータ23には逆電流は流れず、平滑経路を残すことで、電流平滑が正常に働き、電流リプルも小さくなる。尚、前述の電力用半導体素子は、トランジスタ、IGBT、IPM等からなる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、大気中で用いるモータに限らず、真空下で用いるモータにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明によるモータ駆動方法に用いるモータシステムを示す構成図である。
【図2】本発明における全オフベクトルモードでの電流の流れを示す説明図である。
【図3】本発明における全オフベクトルモード時の電流波形図である。
【図4】本発明と従来における無負荷時の電流波形図である。
【図5】本発明におけるモータの温度測定ケ所を示す説明図である。
【図6】本発明における室温とモータ表面の温度差を示す特性図である。
【図7】本発明における室温とモータシャフトの温度差を示す特性図である。
【図8】本発明と従来に共用のPWM方式のモータ駆動方法の要部を示す回路図である。
【図9】図8の回路構成における各電力用半導体素子のオン/オフのタイミングチャート図である。
【図10】本発明のPWM方式の駆動状態における各電圧指令と各電力用半導体素子のオン/オフ状態を示す説明図である。
【図11】図10におけるA点での電流の流れを示す構成図である。
【図12】図10におけるB点での電流の流れを示す構成図である。
【図13】従来のゼロベクトル時の電流の流れを示す構成図である。
【図14】従来のリプル電流のゼロクロスを示す説明図である。
【符号の説明】
【0027】
1,2,3 駆動コイル
UH〜WH,UL〜WL 電力用半導体素子
20 コントローラ
23 モータ
24 エンコーダ
25 負荷用モータ
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動方法に関し、特に、周知のパルス幅変調方式(以下、PWM方式と云う)によるモータ駆動のPWM動作時のゼロベクトル状態で各電力用半導体素子を全てオフとし、ゼロクロス電流の発生を防止し、モータの発熱を抑えるようにするための新規な改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、用いられていたこの種のPWM方式によるモータ駆動方法としては、特許文献1にも開示されているように、図8及び図9で示される構成が採用されていた。
図8において、U,V,Wの三相の駆動コイル1,2,3に流れる電流を正弦波状に制御する必要があり、そのために各駆動コイル1,2,3に一対設けられた合計6個の電力用半導体素子UH,UL,VH,VL,WH,WLのオン・オフを制御してU,V,W相の各駆動コイルに適切な電圧を印加しなければならない。そのため、従来は、図9で示すパルス幅変調方式(以下、PWM方式と云う)によるパルス信号を用いた駆動方式を採用していた。
【0003】
すなわち、前述の方式では各相すなわち各駆動コイル1,2,3のハイアーム側の電力用半導体素子UH,VH,WHとローアーム側の電力用半導体素子UL,VL,WLとは互いにオン・オフが逆となっており、PWM方式の1サイクルのうち、区間Mでは各相ともハイアーム側の電力用半導体素子UH,VH,WHがオンしているので、各U,V,W相の電圧差は零となり、電流が流れることはない。
【0004】
次に、図9の区間Nでは、U,V相はハイアーム側の電力用半導体素子UH,VHがオンであり、W相はローアーム側の電力用半導体素子WLがオンしているので、U,V相とW相とにVccの電圧差が生じ、U,V相からW相へ電流が流れる。区画Oでは、U相はハイアーム側の電力用半導体素子UHがオン、V,W相はローアーム側の電力用半導体素子VL,WLがオンであるため、U相とV,W相とにVccの電圧差が生じU相からV,W相へ電流が流れる。
【0005】
次に、区間Pでは、U,V,W相ともローアーム側の電力用半導体素子UL,VL,WLがオンであるため、U,V,W相には電圧差はなく、電流は流れない。
【0006】
また、PWM方式では、1サイクルの周期Tが短いため、区間M〜Pの動きにより、U,V,W相には平均してVu,Vv,Vw(O<Vw<Vv<Vu)の電圧が印加された状態と等価になり、U相、V相、W相の各電流iu,iv,iwはその電圧差に対応して流れることになる。この場合には、iu>0,iv=0,iw<0となり、この電圧iu,iv,iwは前述の区間M、Pのように各相U,V,Wの電圧差が零(0)の区間においても、各駆動コイル1,2,3のインダクタンスの働きにより電流は流れ続けようとする。すなわち、区間Mでは電力用半導体素子UH,WHに並列に設けられたフライホイルダイオードDWHによりUH→U→W→DWHの循環ループにより流れる。また、区間Pでは電力用半導体素子ULのフライホイルダイオードDULによりDUL→U→W→WLの循環ループにより流れ続ける。
【0007】
【特許文献1】特開平6−165573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、用いられていたPWM方式によるモータ駆動方法は、以上のように構成されていたため、次のような課題が存在していた。
永久磁石形(PM)の高速回転モータや細長い形状のモータは誘起電圧を抑える、コイルを巻くスペースが少ないなどの制約があり巻数が少なく巻線インダクタンスが小さくなる、すなわち電気的時定数が小さくなる。一般的にモータは周知のPWMインバータを用いて駆動されるが、モータを流れる電流には必ずリプルが生じ、電気的時定数が小さいとリプル幅が増える。モータが無負荷の状態で回転していることが多いような用途においては、電流実効値が小さいにもかかわらず電流リプルが大きいため、ロータやヨーク部分での発熱が大きくなる。
【0009】
無負荷あるいは軽負荷時など電流の実効値が定格にくらべて非常に小さい場合、リプル電流が0[A]をまたぐ現象、いわゆるゼロクロスが頻繁に発生する(図14)。図14の点線で囲った部分をゼロクロスした電流と呼んでいる。
点線部分の電流は損失しか生まないため、この部分を取り払うことで効率の改善・モータ発熱の低減が期待できる。
このインバータは空間ベクトルPWM(SVPWM)動作している。図13中の矢印はゼロベクトル期間中(つまりモータに電圧が印加されていない状態)の回路を流れる電流を示している。図13の各相電流は上側の図の方向に流れているがインダクタンスが小さいために蓄えられているエネルギーも小さく、電流はすぐに誘起電圧に押し返されて逆転する。これがゼロクロス発生の原因である。この現象は下アームがすべてオンしているときでも同様である。
電流の実効値が小さく、インダクタンスも小さく、誘起電圧が大きい(回転速度が速い)条件のときリプル電流のゼロクロスが発生しやすい。
【0010】
すなわち、図10の波形図で示されるように、PWM方式によるモータ駆動方法では、図中、B点及びB’点で示されるように、各相のHiアーム側又はLoアーム側が全てオンとなる状態(ゼロベクトル時)が存在する。このモータの三相を短縮した形となり、それまで流れていた転流電流が消滅すると、各コイルに発生する誘起電圧を基に、図11及び図12で示されるように、今までとは逆の電流が流れ始め、この電流は、本来の希望電流とは逆の電流で、モータの発熱、トルク効率の低下につながっていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によるモータ駆動方法は、モータの三相の各駆動コイルを各一対で合計6個の電力用半導体素子を介してパルス幅変調方式によるパルス信号にて駆動するようにしたモータ駆動方法において、前記パルス幅変調動作時のゼロベクトル状態で前記各電力用半導体素子を全てオフ状態とし、前記ゼロベクトル状態で発生するゼロクロス電流を防止し、前記モータの発熱を抑える方法であり、また、前記各電力用半導体素子を全てオフ状態とする全オフベクトルは、前記モータが定格もしくは定格に近い高速回転で負荷が定格より低い場合のみとし、前記高速回転で負荷が定格よりも低い場合以外の動作条件では前記全オフベクトルを用いない前記パルス幅変調方式で前記モータを駆動する方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によるモータ駆動方法は、以上のように構成されているため、次のような効果を得ることができる。
すなわち、PWM動作時のゼロベクトル状態で各電力用半導体素子を全てオフ状態としていると共に、このオフ状態はモータが定格の高速回転で負荷が定格よりも低い場合のみに適用しているため、前記ゼロベクトル状態で発生するゼロクロス電流を防止し、前記モータの発熱を抑えることができ、インバータや制御系を変えることなく、温度上昇を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、PWM方式によるモータ駆動のPWM動作時のゼロベクトル状態で各電力用半導体素子を全てオフとし、ゼロクロス電流の発生を防止し、モータの発熱を抑えるようにしたモータ駆動方法を提供することを目的とする。
【実施例】
【0014】
以下、図面と共に本発明によるモータ駆動方法の好適な実施の形態について説明する。 尚、前述した図8及び図9のPWM方式によるモータ駆動方法については、本発明も同一に構成されているため、図8及び図9の構成を援用している。
図1は、本発明によるモータ駆動方法を適用した実験装置を示すもので、制御用のコントローラ20として、TI社製DSP、TMS320F240を使用し、このコントローラ20には空間ベクトルPWM(SVPWM)用のペリフェラルが内蔵されており、その機能を拡張することにより、図8の各スイッチ(電力用半導体素子)をオフとする全オフベクトルを行うことができるように構成されている。また、後述のPWM方式動作時のゼロベクトル状態で各電力用半導体素子を全てオフ状態とする全オフベクトルは、モータ定格もしくはこれに近い高速回転で負荷が定格よりも低い場合とし、これ以外の動作条件では全オフベクトルではない通常のPWM方式駆動とする、いわゆる、モータ電流と速度に応じて全オフ方式PWMが通常のPWMを採用するかを切替えることができるように構成されている。
【0015】
電源21が接続されたモータドライバ22にはPM型のモータ23が接続され、このモータ23にはエンコーダ24を介して3相抵抗を設けた前記モータ23と同一の負荷用モータ25が負荷として接続されている。
前記エンコーダ24からの角度信号θは前記コントローラ20に入力されていると共に、前記モータ23の駆動信号iu,ivがA/D変換器26でA/D変換された後に前記コントローラ20に入力され、周知のPWM方式の駆動(図10に示す)によってモータ23の駆動が行われる。
【0016】
前述の図1の実験装置によるモータのPWM駆動方式によるモータ駆動において、モータ23の回転軸に対して負荷が殆んどかからない無負荷状態で、かつ、高速回転状態において、前述の全ての電力用半導体素子(UH〜WL)(図8で示す)をオフとする全オフベクトル状態とすることにより、各駆動コイル1,2,3への電流の流れは、図2の(A)から(B)のように変化し、全オフベクトル状態の電流波形は、図3で示される通りとなり、ゼロクロス電流の発生がなくなり、電流のリプル幅も従来方法よりも小さくなると共に、モータのロータ及びヨーク部分でのマイナーループによるヒステリシス損が減少すると考えられる。
【0017】
尚、前述の実験装置においては、エンコーダ24はインクリメンタル形で2048pulse/r、A/D変換器26の分解能は16ビット、キャリア周波数は10KHzであり、各駆動コイルの巻線インダクタンスは比較的小さいものを選択し、前記モータ23の定数としては、次の表1の第1表に示す通りである。
【0018】
【表1】
【0019】
次に、図4で示される波形図は、モータ23の無負荷時の電流波形であり、従来発生していたリプル電流のゼロクロスが、本発明ではほぼ完全に除去され、電流のリプル幅も抑えられており、電流値も従来の2[A]に対して1.5[A]と改善されている。
【0020】
尚、本発明は前述のゼロクロス電流をなくしてモータ23の発熱を極力抑えてモータ自体の効率を向上させることを目的としているが、本発明方法の適用により、図5で示されるように、モータ23の表面23aとシャフト23bに図示しない温度センサを取付けて温度測定した結果、室温とモータ表面の温度差は、図6で示されるように、約7℃である。
また、室温とモータシャフトの温度差は、図7で示されるように、約3℃である。
尚、前述の実験は、室温18.4プラスマイナス1℃、モータの回転数は無負荷で3000rpm一定の測定条件である。
【0021】
従って、本発明においては、前述のように温度が下がった理由として、ロータ及びヨーク部分でのヒステリシス損が減少したのではないかと考えられ、電流リップルが狭まると、磁界の変化幅が狭まり、ヒステリシスループの面積が小さくなることによって損失が減るためと考えられる。
すなわち、本発明によれば、電気的時定数が小さいPMモータが無負荷又は無負荷に近い軽負荷状態で高速回転している時に、発生する熱をインバータ構成や制御系を変えることなく低減できる。
また、本発明においては、前記全オフベクトルのモードは、前記モータ23が定格の高速回転で負荷が定格より十分に低い場合のみとし、前述の高速回転で負荷が定格よりも低い場合以外の動作条件では前記全オフベクトルではない通常のPWM方式で前記モータ23を駆動する方法を採用している。
【0022】
すなわち、前述の全オフベクトルを採用する全オフ方式PWMは、転流経路を絶つことで逆電流の発生を防止しているが、この転流電流の基となるモータ23の蓄積電気エネルギーJは、
J=1/2La×I2(La:モータインダクタンス、I:モータ電流)であり、逆電流の原因になる誘起電圧Vは、
V=ω×KE(ω:モータ回転速度、KE:誘起電圧定数)
である。
【0023】
従って、前記蓄積電気エネルギーJによって誘起される電圧が、前記誘起電圧V分より小さくなった場合に、前記逆電流が発生する。すなわち、逆に云えば、前記蓄積電気エネルギーJによって誘起される電圧が前記誘起電圧V分より大きい場合には前記逆電流は発生しない。
前記蓄積電気エネルギーJが大きい場合は、前記インダクタンスが固定とすると、前記モータ電流Iが大きい時であり、この誘起電圧Vが小さい時は前記モータ速度ωが低い時である。
【0024】
以上のように、前記モータ電流Iが大きい場合(定格もしくは定格に近い場合)と、前記モータ回転速度ωが定格よりも十分に低い場合は、前述の全オフベクトル、すなわち、全オフ方式PWMによる駆動方法でなくても、モータ23には逆電流は流れず、平滑経路を残すことで、電流平滑が正常に働き、電流リプルも小さくなる。尚、前述の電力用半導体素子は、トランジスタ、IGBT、IPM等からなる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、大気中で用いるモータに限らず、真空下で用いるモータにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明によるモータ駆動方法に用いるモータシステムを示す構成図である。
【図2】本発明における全オフベクトルモードでの電流の流れを示す説明図である。
【図3】本発明における全オフベクトルモード時の電流波形図である。
【図4】本発明と従来における無負荷時の電流波形図である。
【図5】本発明におけるモータの温度測定ケ所を示す説明図である。
【図6】本発明における室温とモータ表面の温度差を示す特性図である。
【図7】本発明における室温とモータシャフトの温度差を示す特性図である。
【図8】本発明と従来に共用のPWM方式のモータ駆動方法の要部を示す回路図である。
【図9】図8の回路構成における各電力用半導体素子のオン/オフのタイミングチャート図である。
【図10】本発明のPWM方式の駆動状態における各電圧指令と各電力用半導体素子のオン/オフ状態を示す説明図である。
【図11】図10におけるA点での電流の流れを示す構成図である。
【図12】図10におけるB点での電流の流れを示す構成図である。
【図13】従来のゼロベクトル時の電流の流れを示す構成図である。
【図14】従来のリプル電流のゼロクロスを示す説明図である。
【符号の説明】
【0027】
1,2,3 駆動コイル
UH〜WH,UL〜WL 電力用半導体素子
20 コントローラ
23 モータ
24 エンコーダ
25 負荷用モータ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ(23)の三相の各駆動コイル(1,2,3)を各一対で合計6個の電力用半導体素子(UH〜WL)を介してパルス幅変調方式によるパルス信号にて駆動するようにしたモータ駆動方法において、前記パルス幅変調動作時のゼロベクトル状態で前記各電力用半導体素子(UH〜WL)を全てオフ状態とし、前記ゼロベクトル状態で発生するゼロクロス電流を防止し、前記モータ(23)の発熱を抑えることを特徴とするモータ駆動方法。
【請求項2】
前記各電力用半導体素子(UH〜WL)を全てオフ状態とする全オフベクトルは、前記モータ(23)が定格もしくは定格に近い高速回転で負荷が定格より低い場合のみとし、前記高速回転で負荷が定格よりも低い場合以外の動作条件では前記全オフベクトルを用いない前記パルス幅変調方式で前記モータを駆動することを特徴とする請求項1記載のモータ駆動方法。
【請求項1】
モータ(23)の三相の各駆動コイル(1,2,3)を各一対で合計6個の電力用半導体素子(UH〜WL)を介してパルス幅変調方式によるパルス信号にて駆動するようにしたモータ駆動方法において、前記パルス幅変調動作時のゼロベクトル状態で前記各電力用半導体素子(UH〜WL)を全てオフ状態とし、前記ゼロベクトル状態で発生するゼロクロス電流を防止し、前記モータ(23)の発熱を抑えることを特徴とするモータ駆動方法。
【請求項2】
前記各電力用半導体素子(UH〜WL)を全てオフ状態とする全オフベクトルは、前記モータ(23)が定格もしくは定格に近い高速回転で負荷が定格より低い場合のみとし、前記高速回転で負荷が定格よりも低い場合以外の動作条件では前記全オフベクトルを用いない前記パルス幅変調方式で前記モータを駆動することを特徴とする請求項1記載のモータ駆動方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−33936(P2006−33936A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−206019(P2004−206019)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000203634)多摩川精機株式会社 (669)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000203634)多摩川精機株式会社 (669)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】
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