説明

モータ駆動装置

【課題】駆動不能や装置ダウンを有効に回避できるモータ駆動装置を安価に提供する。
【解決手段】入力される矩形波のデューティ比に応じてモータ2に電流を供給するモータ駆動回路3と、モータ駆動回路3によりモータに供給される電流を検出して実電流信号として出力する電流検出回路Rs,5,U3と、入力される指令値信号S1と実電流信号S2とに基づき第1偏差信号S3を出力する積分回路U1と、入力される第2偏差信号S4を所定の三角波S5と比較して、その大小関係に対応したデューティ比の矩形波S6を発生し、モータ駆動回路3に対して出力する矩形波発生回路U2と、積分回路U1からの第1偏差信号S3が予め設定された閾値を超えないように制限して、矩形波発生回路U2に対して第2偏差信号S4として出力するリミット回路6とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを駆動するモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物体を移動するステージ装置等においては、複数のコイルと可動子(磁石)とを近接配置し、コイルの励磁磁界により可動子を動かすムービングマグネット方式のリニアモータが用いられている。このようなリニアモータを駆動するモータ駆動装置としては、例えば、下記特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
このモータ駆動装置はPWM駆動の定電流アンプであり、出力段はフルブリッジ回路となっており、スイッチング素子のオン/オフのデューティによって出力電流を制御している。スイッチング素子のオン/オフのデューティは、負荷(コイル)に供給する電流を検出する電流検出用抵抗の両端電圧に基づきフィードバックされる実電流信号(帰還信号)と指令値信号との差(偏差信号)を三角波と比較することにより得られる矩形波のデューティによって決まる。
【0004】
このようなモータ駆動装置においては、フルブリッジ回路のハイサイドドライバへの電源供給にブートストラップコンデンサを有するブートストラップ回路が用いられる場合があり、これにより電源の小型化・省電力化が図られている。
【0005】
ところで、高速に往復動作するようなステージ装置においては、負荷に電流を瞬時に流そうとすると、三角波の振幅が上述した偏差信号の最大値よりも小さくなり、PWMのデューティが100%となる時間が発生する場合がある。この場合、負荷には駆動電源電圧が最大にかかることになる。このような使用方法は、PWMのデューティが100%に近い分、スルーレート(Slew Rate)を良くするためには有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−271046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、PWMのデューティが100%である状態が継続すると、上述したブートストラップ回路のブートストラップコンデンサの両端電圧が低下し、駆動不能となる場合があるとともに、ゲートドライバの保護回路が作動して装置全体が停止してしまう場合があるという問題がある。
【0008】
なお、PWMのデューティが100%にならないような高電圧電源を用いれば、かかる問題を回避することが可能ではあるが、そのためだけに高価な高電圧電源を用いることになるとともに、回路に用いる素子も限定され、それに応じて高価なものとしなければならず、コストの上昇を招くことになり、妥当でない。
【0009】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、駆動不能や装置ダウンを有効に回避することができるモータ駆動装置を安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るモータ駆動装置は、モータを駆動するPWM方式のモータ駆動装置であって、入力される矩形波のデューティ比に応じて前記モータに電流を供給するモータ駆動回路と、前記モータ駆動回路により前記モータに供給される電流を検出して実電流信号として出力する電流検出回路と、入力される指令値信号と前記実電流信号とに基づき第1偏差信号を出力する積分回路と、入力される第2偏差信号を所定の三角波と比較して、その大小関係に対応したデューティ比の矩形波を発生し、前記モータ駆動回路に対して出力する矩形波発生回路と、前記積分回路からの前記第1偏差信号が予め設定された閾値を超えないように制限して、前記矩形波発生回路に対して前記第2偏差信号として出力するリミット回路とを備えて構成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リミット回路を備えているので、リミット回路の閾値を矩形波発生回路の三角波の振幅よりも小さい値に設定することにより、PWMのデューティが100%に近い状態で駆動しても、駆動不能や装置ダウンを有効に回避することができ、しかも高電圧電源を用いる必要もないので、モータ駆動装置を安価に提供することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態のモータ駆動装置の構成を示す回路図である。
【図2】図1のリミット回路の構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態のモータ駆動装置について、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
このモータ駆動装置は、物体を載置して移動するステージ装置等に用いられるリニアモータを駆動するPWM駆動の定電流アンプである。本実施形態においては、駆動対象としてのリニアモータは、複数のコイルと可動子(磁石)とを近接配置し、コイルの励磁磁界により可動子を動かすムービングマグネット方式のリニアモータである。本実施形態のモータ駆動装置は、高速に往復動作するステージ装置に用いて特に好適である。なお、リニアモータのコイル群に3相(U相、V相、W相)の励磁電流をそれぞれ供給するため、図1に示したようなモータ駆動装置が3つ設けられるが、これらは基本的に同一の構成であるため、その1つについて説明する。
【0015】
図1に示すように、モータ駆動装置1は、入力される矩形波S6のデューティ比に応じてモータ(負荷)2に電流を供給するモータ駆動回路(フルブリッジ回路3、平滑化回路4)と、モータ駆動回路によりモータに供給される電流を検出して実電流信号S2として出力する電流検出回路(電流検出用抵抗Rs、光絶縁アンプ5、差動アンプU3)と、入力される指令値信号S1と実電流信号S2とに基づき第1偏差信号S3を出力する積分回路(オペアンプU1)と、入力される第2偏差信号S4を所定の三角波S5と比較して、その大小関係に対応したデューティ比の矩形波S6を発生し、モータ駆動回路に対して出力する矩形波発生回路(コンパレータU2)と、積分回路からの第1偏差信号S3が予め設定された閾値を超える場合に該閾値を超える部分を該閾値以下に制限して、矩形波発生回路に対して前記第2偏差信号として出力するリミット回路6とを概略備えて構成されている。
【0016】
ステージ装置が備える制御装置(不図示)からの指令値信号S1、及び電流検出回路(電流検出用抵抗Rs、光絶縁アンプ5、差動アンプU3)からフィードバックされる実電流信号(帰還信号)S2は積分回路を構成するオペアンプU1に入力され、指令値信号S1と実電流信号S2との差に比例する信号が第1偏差信号S3として、リミット回路6に供給される。
【0017】
リミット回路6の詳細は、図2に示されている。リミット回路6は、オペアンプU1からの第1偏差信号S3が予め設定された閾値(上限閾値、下限閾値)を超える場合(上限閾値以上又は下限閾値以下となる場合)に該超える部分を該閾値の範囲内に制限して、コンパレータU2に対して第2偏差信号S4として出力する回路である。リミット回路6に設定される閾値は、コンパレータU2に入力される三角波S5の振幅よりも小さい値に設定される。この閾値は、一例として、三角波の振幅をAとして、A−0.2V±0.1V程度とすることができる。
【0018】
図2に示すように、オペアンプU4の非反転入力端(+)に図1のオペアンプU1の出力端が接続されており、オペアンプU4の出力端には抵抗R1,R2を介して図1のコンパレータU2の非反転入力端(+)が接続されている。リミット回路6は、可変抵抗器R3、オペアンプU5、コンデンサC1及びダイオードD1を有する上限リミット回路と、可変抵抗器R4、オペアンプU6、コンデンサC2及びダイオードD2を有する下限リミット回路とを備えている。可変抵抗器R3を調整することにより、上限閾値を変更することができ、可変抵抗器R4を調整することにより、下限閾値を変更することができるようになっている。
【0019】
図1に戻り、コンパレータU2において、リミット回路6からの第2偏差信号S4が三角波S5と比較されて、その大小関係に対応したデューティ比の矩形波S6が発生され、この矩形波S6がフルブリッジ回路3に供給される。
【0020】
コンパレータU2には、所定の振幅に設定された三角波S5が入力されており、コンパレータU2は、この三角波S5の波高値とリミット回路6からの第2偏差信号S4の大きさを比較し、第2偏差信号S4の方が大きいときにはHレベルとなり、第2偏差信号S4の方が小さいときにはLレベルとなるパルスとしての矩形波S6を出力する。
【0021】
この矩形波S6は、フルブリッジ回路3に供給される。フルブリッジ回路3は、ゲートドライバ回路、MOS−FET等を複数備えるとともに、ハイサイドのMOS−FETのゲート駆動用電圧を得るため、ブートストラップコンデンサを有するブートストラップ回路を備えている。フルブリッジ回路3では入力される矩形波S6に基づいて、ゲートドライバ回路が駆動され、矩形波S6がHレベルのときには正方向の電流を、矩形波S6がLレベルのときには負方向の電流を、平滑化回路4を介して、負荷2に供給する。なお、平滑化回路4はLCローパスフィルタ及びコンデンサを有し、負荷2に供給するパルス電流を平滑にする回路である。
【0022】
コンパレータU2に入力される第2偏差信号が0(接地電位)のときは、コンパレータU2の出力は、Hレベルである時間とLレベルである時間が同じとなる、すなわちデューティ比が50%となるので、負荷2には電流は供給されない。第2偏差信号S4がプラスとなると、コンパレータU2の出力は、Hレベルである時間の方がLレベルである時間より長くなる(デューティ比が50%より大きくなる)ので、負荷2には正方向の電流が流れ、その電流値は第2偏差信号S4の大きさに比例する。第2偏差信号S4がマイナスとなると、コンパレータU2の出力は、Hレベルである時間の方がLレベルである時間より短くなる(デューティ比が50%より小さくなるので)ので、負荷2には負方向の電流が流れ、その電流値は第2偏差信号S4の大きさに比例する。
【0023】
フルブリッジ回路3から平滑化フィルタ4を介して負荷2に供給されている電流は、電流検出用抵抗Rsの両端電圧から検出され、光絶縁アンプ5、差動アンプ(オペアンプU3)を介して実電流信号S2として、積分回路を構成するオペアンプU1にフィードバックされる。
【0024】
本実施形態によると、積分回路を構成するオペアンプU1と、三角波と比較するコンパレートU2との間にリミット回路6を設け、リミット回路6の閾値を該三角波の振幅よりも僅かに小さい値(例えば、振幅−0.2V±0.1V)に設定したので、PWMのデューティ比が100%になることが防止される。これにより、最大電力を出力する指令が継続していても、ブートストラップコンデンサの両端電圧が下がってその電圧がゲート駆動回路のUVトリップ電圧にならないということが抑制され、ゲートのスイッチングが停止したり、保護回路が作動して装置が停止してしまうことが防止される。しかも、PWMのデューティ比が100%にならないようにするために、高価な高電圧電源を用いる必要もなく、回路に用いる素子の制限も少なく安価なものを用いることができ、コストも抑制することができる。
【0025】
リミット回路6は閾値を正確に設定することができるので、デューティ比が100%に至ることなく100%に近い状態で使用することができ、スルーレートもデューティ100%と遜色のない性能が得られる。また、三角波の振幅を変更(小さく)して周波数特性を変更した場合でも、リミット回路6の閾値を変更調整することで、フレキシブルに対応することができる。
【0026】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。従って、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【符号の説明】
【0027】
1…モータ駆動装置、2…負荷(モータ)、3…フルブリッジ回路、4…平滑化回路、5…光絶縁アンプ、6…リミット回路、U1…オペアンプ(積分回路)、U2…コンパレータ、Rs…電流検出用抵抗、R3,R4…可変抵抗器、S1…指令値信号、S2…実電流信号(帰還信号)、S3…第1偏差信号、S4…第2偏差信号、S5…三角波、S6…矩形波。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動するモータ駆動装置であって、
入力される矩形波のデューティ比に応じて前記モータに電流を供給するモータ駆動回路と、
前記モータ駆動回路により前記モータに供給される電流を検出して実電流信号として出力する電流検出回路と、
入力される指令値信号と前記実電流信号とに基づき第1偏差信号を出力する積分回路と、
入力される第2偏差信号を所定の三角波と比較して、その大小関係に対応したデューティ比の矩形波を発生し、前記モータ駆動回路に対して出力する矩形波発生回路と、
前記積分回路からの前記第1偏差信号が予め設定された閾値を超えないように制限して、前記矩形波発生回路に対して前記第2偏差信号として出力するリミット回路と
を備えることを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項2】
前記閾値を前記三角波の振幅よりも小さい値に設定したことを特徴とする請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記閾値を変更する閾値変更回路をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のモータ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−41356(P2011−41356A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184145(P2009−184145)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】