説明

モータ

【課題】 イナーシャの増加を抑えて、高速回転を可能としたモータを提供する。
【解決手段】 モータロータ5は、中空軸11の外周面に密接するように周方向に所定間隔で配置された複数のセグメント磁石21と、セグメント磁石21を中空軸5との間に保持する保護管22と、隣り合うセグメント磁石21間に形成された空間内に挿入されて保護管22に内周側から密着する非磁性体製中空状補強部材23とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モータに関する。
【背景技術】
【0002】
モータを使用したアクチュエータとして、ボールねじナットが回転して、ねじ軸が軸方向に直線移動する形態で使用されるものが知られており、特許文献1には、ボールねじナットに中空軸を固定し、この中空軸に磁石を固定することでモータロータを形成することが開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、中空軸の外周面に密接するように周方向に所定間隔で配置された複数のセグメント磁石と、セグメント磁石を中空軸との間に保持する保護管とを有しているSPM型(軸表面に磁石を貼り付けた構造)のモータロータが開示されている。
【特許文献1】特開2002−372117号公報
【特許文献2】特開平9−303380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
SPM型のモータロータでは、軸の外周面に磁石を接着剤で貼り付けて、その磁石をステンレス鋼などの非磁性体でできた筒状の保護管で被い、接着剥がれ時や磁石が割れた場合の保持を行うようになっている。このSPM型のモータロータが高回転で回転した場合、遠心力により磁石を引き剥がす方向に大きな力が発生するため、磁石保持が難しくなる。それを回避するためIPM型(磁石を軸に埋め込んだ構造)とすればよいが、軸が中空で肉厚が薄いものでは、磁石を埋め込むことが難しいという問題がある。特に、高速回転用モータでは、回転部分の慣性力(イナーシャ)の増加を避ける必要がある。
【0005】
この発明の目的は、イナーシャの増加を抑えて、高速回転を可能としたモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明によるモータは、中空軸の外周に配置されるモータロータおよびモータロータに対向するモータステータからなるモータにおいて、モータロータは、中空軸の外周面に密接するように周方向に所定間隔で配置された複数のセグメント磁石と、セグメント磁石を中空軸との間に保持する保護管と、隣り合うセグメント磁石間に形成された空間内に挿入されて保護管に内周側から密着する非磁性体製中空状補強部材とを有していることを特徴とするものである。
【0007】
高速回転用モータの中空軸は、内径大、外径小、イナーシャ小であることが好ましいことから、その肉厚は、機械強度を満足する範囲で極力薄くされる。したがって、中空軸に磁石を埋め込んだIPM型とすることが難しく、中空軸表面に磁石を貼り付けたSPM型とすることが好ましい。
【0008】
SPM型のモータロータにおいては、磁石の接着が剥がれた場合、遠心力によって、保護管がRが大きくなる方向(直線状)に変形することにより、磁石が外径側に移動することが可能となり、保持しきれなくなる可能性がある。そこで、この発明のモータによると、従来、空間であったところに非磁性体製の補強部材を配置することにより、保護管(例えばステンレス鋼製管)の変形を防ぎ、これにより、磁石の外径側への移動が防止される。
【0009】
補強部材は、中空状とされ、これにより、イナーシャの増加が抑えられる。こうして、イナーシャがほとんど増加することなく、セグメント磁石を使用したSPM型のモータロータの高速回転が可能となる。
【0010】
セグメント磁石と中空軸とは、接着剤によって接着されるが、この接着を廃止することも可能である。
【0011】
このモータは、各種アクチュエータ用に使用することができ、アクチュエータには、通常、ねじ軸の所定量以上の移動を防止するためのストッパが設けられ、ストッパによってねじ軸の前進方向の極限位置が規定されていることで、極限位置に達すると、ねじ軸が強制的に停止させられる。この際のねじ軸の移動速度が速い場合、ねじ軸の急停止時における回転慣性力(イナーシャ)が大きいためにボールねじ軌道に圧痕が生じることがあるが、上記のように、モータロータのイナーシャの増加が抑えられていることで、ボールねじ軌道の圧痕が防止される。
【発明の効果】
【0012】
この発明のモータによると、隣り合うセグメント磁石間に形成された空間内に挿入されて保護管に内周側から密着する非磁性体製中空状補強部材をモータロータが有しているので、イナーシャをほとんど増加させずに、保護管の変形が抑えられ、高速回転が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。以下の説明において、上下は、図1の上下をいうものとする。
【0014】
図1および図2は、この発明によるモータをアクチュエータに適用した1実施形態を示している。
【0015】
アクチュエータ(1)は、上下にのびる鋼製ねじ軸(2)と、ねじ軸(2)のボールねじ軌道溝(2a)にボール(図示略)を介してねじ合わされた回転自在の鋼製ボールねじナット(3)と、ボールねじナット(3)と一体で回転する中空状のモータロータ(5)およびハウジング(8)内径に固定された円筒状のモータステータ(10)からなる同期モータ(4)とを備えている。
【0016】
モータロータ(5)は、ねじ軸(2)を案内する中空の小径軸部(11)と、小径軸部(11)の下端に連なり内周面がボールねじナット(3)の外周面に固定されかつ外周面に軸受(9)を保持する中空の大径軸部(12)と、小径軸部(11)に固定された円筒状の磁石(6)とからなり、軸受(9)を介してハウジング(8)に回転可能に支持されている。磁石(6)は、その外周面が所定の間隙をおいてモータステータ(10)の内周面に対向させられている。モータステータ(10)には、複数相(3相)のモータコイル(10a)が巻かれている。
【0017】
磁石(6)が取り付けられる小径軸部(11)は、中空軸であるため、IPM型(磁石を軸に埋め込んだ構造)とすることが困難であり、モータロータ(5)は、SPM型(軸表面に磁石を貼り付けた構造)とされている。アクチュエータ(1)では、モータロータ(5)が高速回転することから、磁石(6)を確実に保持することが重要課題となっている。
【0018】
そこで、この発明によるモータ(4)のモータロータ(5)は、図2に示すように、中空軸(小径軸部)(11)の外周面に密接するように周方向に所定間隔で配置された複数(図示は8つ)の横断面円弧状の同形の永久磁石(セグメント磁石)(21)と、これら複数のセグメント磁石(21)を中空軸(11)との間に保持する非磁性材料製保護管(22)と、隣り合うセグメント磁石(21)間に形成された各空間内に挿入されて保護管(22)に内周側から密着する非磁性体製中空状補強部材(23)とを有している。
【0019】
保護管(22)は、各セグメント磁石(21)の外径の頂点に内接する内径を有している。各セグメント磁石(21)は、中空軸(11)に接着剤で貼り付けられているが、この接着剤は省略することができる。
【0020】
保護管(22)を形成する非磁性材料としては、ステンレス鋼、インコネルなどを使用することができ、補強部材(23)を形成する非磁性材料としては、ステンレス鋼、インコネルなどの金属の他、ゴム、合成樹脂なども使用することができる。
【0021】
補強部材(23)は、横断面が扇形の筒状すなわち中空状とされており、これにより、補強部材(23)を追加したことによる質量(イナーシャ)の増加が抑えられている。
【0022】
モータロータ(5)が高速回転すると、遠心力によって、保護管(22)は、そのRが大きくなる方向(直線状)に変形しようとし、補強部材(23)のない従来のモータロータでは、その変形が大きくなって、セグメント磁石(21)が外径側に移動しやすいものとなる。これに対し、上記のモータロータ(5)によると、従来では空間とされていたところに補強部材(23)が配置されていることにより、保護管(22)の変形が抑えられ、これにより、セグメント磁石(21)の外径側への移動が防止され、高速回転可能となっている。
【0023】
上記においては、アクチュエータ(1)を例に説明したが、上記モータ(4)は、アクチュエータ用モータ以外のモータにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、この発明によるモータをアクチュエータに適用した実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図2は、この発明の要部であるモータロータの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
(1) アクチュエータ
(2) ねじ軸
(2a) 軌道溝
(3) ボールねじナット
(4) モータ
(5) モータロータ
(11) 中空の小径軸部(中空軸)
(21) セグメント磁石
(22) 保護管
(23) 補強部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空軸の外周に配置されるモータロータおよびモータロータに対向するモータステータからなるモータにおいて、
モータロータは、中空軸の外周面に密接するように周方向に所定間隔で配置された複数のセグメント磁石と、セグメント磁石を中空軸との間に保持する保護管と、隣り合うセグメント磁石間に形成された空間内に挿入されて保護管に内周側から密着する非磁性体製中空状補強部材とを有していることを特徴とするモータ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−63199(P2010−63199A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−223167(P2008−223167)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】