説明

ユニポーラ型静電四重極レンズ及び荷電ビーム輸送用のスイッチング方法

本発明は、特に低エネルギーイオンビーム移動に対するビーム電流の損失を低減する。本発明は、リニア加速器内のビーム集束要素として従来の二重の正負電位(バイポーラ型)静電レンズの代わりに、ユニポーラ型の静電四重極レンズを用いて、ビーム電流の損失を減少させる。更に、本発明は、mた、バイポーラ配線およびユニポーラ配線間で切換えるためのシステムおよび方法を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、イオン注入デバイスに関連し、特に、イオン注入システム内で使用可能なユニポーラ型静電四重極レンズ及びそのレンズの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン注入は、半導体および/またはウエハ材料に選択的に不純物を注入して半導体素子を製造するのに用いられる方法である。このイオン注入では、不純物原子/分子は、イオン化されかつ分離され、そして加速されて、イオンビームに形成され、ウエハを横切って走査する。ドーパントイオンは、物理的にウエハに衝突し、ウエハ表面に進入し、ウエハ表面の下方に留まるようになる。
【0003】
イオン注入システムは、複雑なサブシステムの集合であり、各サブシステムは、ドーパントイオンの特別な作用を実行する。ドーパント成分は、ガスまたは固体の状態でイオン室内に配置され、適当なイオン化処理によってイオン化される。1つの例示的な処理では、イオン室は、低圧力(真空)に維持される。イオン室内には、フィラメントが配置され、加熱されることにより、フィラメント源から電子が放出される。負に帯電した電子は、イオン室内で正に帯電したアノードに引き寄せられる。フィラメントからアノードへの移動中、電子は、ドーパント要素(例えば、分子または原子)と衝突し、分子内の成分から正電荷のイオン群が作り出される。
【0004】
一般的に、他の正イオンは、所望のドーパントイオンに加えて作り出される。所望のドーパントイオンは、分析、質量分析、選択、すなわちイオン分離と呼ばれる処理によって多数のイオンから選択される。この選択は、イオン室からのイオンが移動する磁界を作り出す質量分析器を用いることにより達成される。多数のイオンは、比較的高速度でイオン室を出て、磁界によってアーク形状に曲げられる。このアーク形状の曲率は、個々のイオンの質量、速度および磁界の強さによって決められる。分析器の出口は、1つのイオン種、所望のドーパントイオンのみが質量分析器から出ることを可能にする。
【0005】
加速システムは、リニア加速器と呼ばれるが、ウエハ表面を貫通するために、所望のドーパントイオンを所定のエネルギーに加速するためにいくつかのシステムに用いられる。加速のために、このシステムは、一般的に、その軸線に沿って環状の強力な電極および四重極レンズを備えた直線構造を有している。四重極レンズは、負電位及び正電位よって駆動される。ドーパントイオンが加速システム内に入ると、イオンは、強力な電極によって加速され、四重極レンズによって選択的に(ビームとして)集束される。
【0006】
続いて、ドーパントイオンは、エンドステーションにおいて、ウエハに向けられる。複数のウエハは、選択された回転速度で回転する処理ディスク上に配置される。ドーパントイオンは、ビームとして、特定のビーム電流を用いてウエハに衝突する。
【0007】
一般的に、ドーパントイオンが加速システムを通過するとき、実質的にビーム電流の損失が生じる。この損失は、低エネルギーの場合、特に大きい。このようなビーム電流の損失は、イオン注入を実行するための費用、複雑化、及び困難な問題が増える。さらに、ビーム電流のこのような損失は、加速システム、さらには、加速システムがその一部分であるイオン注入システムの作動範囲を制限する。従って、加速システムを通るビーム電流の損失を緩和することが望ましい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の1つまたは他の構成を基本的に理解するために、以下において、本発明を単純化して要約する。
【0009】
この要約は、本発明の外延的範囲を示すものではなく、また本発明の要部すなわち主要な構成を識別することを意図するものでもないし、また本発明の範囲を正確に規定するものでもない。さらに、この要約の主たる目的は、後で、より詳細に説明する記述の序文となるように、単純化した形で本発明の概念を明らかにすることである。
【0010】
本発明は、特に、低エネルギーイオン注入におけるビーム電流の損失を緩和する。本発明は、複数の静電四重極レンズを用い、各レンズは、バイポーラ型の電源よりもむしろユニポーラ型電源によって励起され、イオン注入機のリニア加速器部分を介して低エネルギーイオンビームを輸送する。特に、この方法は、加速がゼロに設定される時に用いられる。その結果、イオン注入システムは、低エネルギーで作動可能となり、これにより、その作動範囲が伸び、更に、本発明は、バイポーラ配線及びユニポーラ配線の間で切換えるための装置及びその方法を含んでいる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の及び関連した目的を達成するために、本発明は、以下で十分に記載し、かつ特許請求の範囲の請求項に指摘した特徴を含んでいる。
【0012】
以下の記載及び添付の図面は、本発明の詳細な例示的構成およびその完成を詳細に説明している。これらは、種々の方法のうちの僅かであるが、これらは、本発明の原理を用いるものである。本発明の他の構成、利点、及び新規な構成は、図面を参照して本発明の詳細な記述から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、図面を参照して記載され、全体を通して同一の参照番号は、同等の要素に対して用いられる。当業者には、図面および以下の記載された本発明は、例示的なものであって、これらに限定されるものではないことが明らかであろう。
【0014】
本発明は、高エネルギーイオン注入機のリニア加速部分を通ってビーム電流の低下を抑えることによってイオン注入を容易にする。一連のユニポーラ型静電四重極レンズは、バイポーラ型静電四重極レンズの代わりに用いられる。ユニポーラ型静電四重極レンズを用いることにより、ビーム電流の損失を緩和し、イオン注入システムの作動範囲を延ばすことができる。
【0015】
最初に、図1を参照すると、本発明の構成に従う、例示的な高エネルギーイオン注入システム10の概略図が示されている。システム10は、ターミナル12、ビームラインアセンブリ14、及びエンドステーション16を有する。ターミナル12は、高電圧電源22によって電力を供給されるイオン源20を含む。イオン源20は、ビームラインアセンブリ14に供給されるイオンビーム24を発生させる。イオンビーム24は、エンドステーション16内のターゲットウエハ30に向けて指向される。このイオンビーム24は、質量分析磁石および無線周波(RF)のリニア加速器(リナック)28を含む。リナック28は、一連の加速モジュール28a〜28nを含み、各モジュールは、前のモジュールから得られるエネルギーを越えてイオンを加速することができる。この加速モジュールは、共振方法により圧制する高RF電圧によって個々に励起され、獲得された所望の平均電力を維持する。質量分析磁石26は、リナック28に適当な電荷質量比のイオンのみを通過させる。
【0016】
本実施形態のシステム10におけるリニア加速モジュール28a〜28nは、RF増幅器、共振器、励起可能な電極、及びユニポーラ型静電四重極レンズ(四重極レンズともいう。)を含む。共振器は、適当な周波数(たとえば、約0〜150kVの電圧を用いて約3〜30MHzの範囲)で作動し、イオンビーム24のイオンを所望のエネルギー(たとえば、荷電状態で1ミリオン電子ボルト以上)に加速する。イオンビーム24が種々の加速モジュールまたはステージ28を通過するとき、イオンが加速され、部分的に広がる。
【0017】
ユニポーラ型静電四重極レンズは、それぞれ、中心軸線の回りに等距離に離間した4つの電極を有し、イオンビーム24の経路を横切る四重極磁界を発生する。第1電極対は、互いに対向して配置され、負電位にあり、また、第2電極対は、アース電位にある。発生した静電界の結果、ユニポール型静電四重極レンズが、イオンビーム24上に集束効果をもたらす。第一対のレンズは、一例では、垂直面に対して集束(focus)し、水平面に対して発散(defocus)し、一方、第二対のレンズは、水平面に対して集束し、垂直面に発散する。リニア加速モジュール28a〜28nの中のユニポーラ型静電四重極レンズに加わる負電位を調整することによって、イオンビーム24の広がりを抑えて、所望の形状で集束することができる。
【0018】
ユニポーラ型静電四重極レンズを用いて、従来の静電四重極レンズに一般的に使用される正電位が欠乏することによるイオンビーム24における中和の減退を少なくする。その結果、イオンビーム24のビーム電流が、従来の正負のバイポーラ型静電四重極レンズを用いる従来のイオン注入システムの場合よりも大きくなる。
【0019】
本発明に従う例示的なモジュラー形のリニア加速器モジュールまたはステージ228が、図2に示されている。直流イオンビーム224aは、ビーム径路226に沿う加速器228(たとえば、図示しない上流の質量分析器磁石)に供給される。直流ビーム224aは、たとえば、ビーム径路226に沿って垂直方向に伸びたスリット232を有する入口開口230を通過する細長いスリット形状からなる。このビーム224aは、2組のマッチング四重極デバイス234と対応する接地電極236を介して概略円形形状(図示略)に形成される。ここで、接地電極236の各々は、ビーム径路226に沿って配置された円筒開口238を含んでいる。また、本発明の四重極デバイス234は、一対のユニポール型静電四重極レンズからなり、第一対は、垂直面に対して集束し、第二対は、水平面に対して集束する。
【0020】
リニア加速器228は、更に、2つ以上の加速モジュールまたはステージ228a、228b・・・228nを含む。ここで、nは、整数であり、ステージのうち2つ(たとえば、228a、228b)が図2に示されている。加速器モジュール228nは、前のモジュールから達成されるエネルギーを越えてイオンビーム224からイオンを更に加速する。この加速器モジュール228nは、電源および共振器(図示略)によって発生した高RF電圧により、個々に励起される。加速器モジュール228aは、径路226に沿って加速電極248の前後に配置される一対の接地電極246を含む。加速電極248は、ビーム径路226に沿ってイオンビーム224a内のイオンを加速するために、RF電源および共振器(図示略)によって励起される。接地電極246は、加速電極248からほぼ等距離に離れており、ほぼ等しい第1、第2ギャップ250a、250bを与える。同様に、第2加速器モジュールまたはステージ228bは、第2加速電極258の上流に径路226に沿って配置された第1の接地電極を含んでいる。
【0021】
四重極デバイス264は、ユニポーラ型静電四重極レンズであり、第1、第2加速器ステージ228a、228b間に径路226に沿って設けられ、連続する加速器ステージ228を取って進行しながらビーム224を径方向に集束させる。加速器228は、更に、加速器ステージ又はモジュール(図示略)を含み、これにより、イオンビーム224bは、加速器228に設けられた直流ビーム224aのエネルギーレベルよりも高いレベルに加速することができる。1つの四重極レンズのみが、図2において、ステージ228aとして図示されているが、このようなレンズの対が、レンズ234と同様に設けられることが理解できよう。さらに、1つの例では、リニア加速器の各ステージ228a〜228nは、ユニポーラ型四重極レンズを使用しており、本発明は、このようなレンズを全てのステージより少ない数で用いることができる。
【0022】
図3は、例示的な従来の正負のバイポーラ型静電四重極レンズ300を説明する図である。レンズ300は、ほぼ同等の大きさを有する正電圧および負電圧を与える電源302を含んでいる。さらに、レンズ300は、互いに対向配置された一対の負電極304,306と互いに対向配置された一対の正電極308,310を含む。電極304,306,308,310は、中心点回りに等距離に配置されている。
【0023】
負電極対304,306は、電源302に接続されて、負電圧を入力する。その結果、負電極対304,306は、負電位にバイアスされる。更に、正電極対308,310は、電源302に接続されて、正電圧を入力し、正電位にバイアスされる。電極304,306,308,310は、四重極静電界を発生し、中心点を通過するイオンビームを選択的に集束および発散させる。例として、イオンビーム内の正電荷イオンは、矢印312で示す方向に電界によって加速される。その結果、イオンビームがY方向に集束し、X方向に発散する。得られる集束/発散の量は、電極304,306,308,310をバイアスする正負の電圧の大きさに対応する。
【0024】
次に図4において、本発明に従う負のユニポーラ型静電四重極レンズ400を説明する概略図が図示されている。このレンズ400は、負の電極対404,406および接地電極対408,410を含む。
【0025】
電源402は、負電極対408,410に負電圧を供給する。接地電極対408,410は、一般的に低抵抗径路を通ってアースに接続される。従って、負電極対は、負電位にバイアスされ、また接地電極対408,410は、アースに接地される。これらの電極は、図3に示したと同様に、静電四重極電界を発生する。ここで、イオンビームは、一平面に集束し第2の垂直平面に同時に発散する。
【0026】
これらの現象を完全に理解することは十分ではないが、ユニポーラ型静電四重極レンズ400は、図3のバイポーラ型の正および負の静電四重極レンズ300と対比すると、ビーム電流の損失を軽減する。正電位の電極は、イオンビームに現れる正電荷イオンによる空間電荷作用を大きくすることによってビーム電流損失を減少させると考えられる。とにかく、図3のユニポーラ型静電レンズを用いて、低エネルギーでビーム電流を2倍増加することが観測される。
【0027】
図5において、本発明の構成に従う正のユニポーラ型静電四重極レンズ500が図示されている。このレンズ500は、第1の正電極504、第2の正電極506、第1の接地電極508、および第2の接地電極510を含んでいる。
【0028】
電源502は、第1正電極504と第2正電極506に正電圧を供給する。第1接地電極508と第2接地電極510は、アースに接続される。従って、第1正電極504と第2正電極506は、正電圧値にバイアスされ、第1接地電極508と第2接地電極510は、アース電圧値にバイアスされる。これらの電極は、2つの正電位と2つのゼロ電位の電極から四重極電界を発生する。例として、2つのゼロ電界は、イオンビームの正電荷イオンを発散させる傾向を有し、一方、2つの正電界は、正電荷イオンを集束させる傾向を有する。
【0029】
ユニポーラ型静電四重極レンズ500は、図3の正負のバイポーラ型静電四重極レンズ300と対比してビーム電流の損失を低減させる。しかし、図4の負のユニポーラ静電四重極レンズ400は、図5の正のユニポーラ型静電四重極レンズ500よりもより電流損失を低減する。
【0030】
図6は、本発明の構成に従う静電四重極レンズ600をユニポーラ動作からバイポーラ動作に切換えるスイッチング回路を示す概略図である。負電源601は負電圧を生じさせ、正電源602は正電圧を生じさせる。レンズ600は、第1の負電極604、第2の負電極、第1の変動電位電極608、および第2の変動電位電極610を含む。
【0031】
第1負電極604と第2負負電極606は、負電源601から負の電圧を入力して、負にバイアスされる。第1変動電位電極608と第2変動電位電極610は、正電源602によって正に、またはアースのいずれかにバイアスされる。スイッチ612は、正電源602とアースとの間で切換る単極二投式スイッチである。このスイッチ612は、手動または制御システム(図示略)を介して自動的に作動させることができる。
【0032】
図7は、本発明の構成にしたがってユニポーラ動作からバイポーラ動作に静電四重極レンズ700の別のスイッチング回路を示す概略図である。負電源701は負電圧を生じ、正電源702は、正電圧を生じる。レンズ700は、負電極対704,706および変動電位電極対708,710を含む。
【0033】
負電極対704,706は、負電源701から負電圧を入力し、そして負電位にバイアスする。変動電位電極対708,710は、負電源702によって負に、またはアースのいずれかにバイアスされる。
【0034】
スイッチング回路712は、正電源702の一部として構成される。このスイッチング回路712は、正電圧値またはアースへの低抵抗径路からの電圧値のいずれかである電源出力を、制御可能に供給するように動作する。スイッチング回路712は、変動電位電極対708,710のバイアスを制御するために使用される。
【0035】
図6〜図7は、本発明に従って二重および/またはユニポーラ型動作用の静電四重極レンズを構成する2つの例を示す。しかし、本発明は、これらの特定の構成に制限されるものではなく、二重またはユニポーラ型作動に動作するように選択することができるかぎり、
別の変形例を含むように拡張できる。さらに、図6〜図7は、単一の負のユニポーラ型静電四重極レンズについて記載されているが、本発明に従って単一の正のユニポーラ型静電四重極レンズに拡張することができる。
【0036】
以下の表1は、本発明および従来のバイポーラ型静電四重極レンズに従うユニポーラ型静電四重極レンズの例示的な実験結果を示している。
【0037】
【表1】

【0038】
表1から明らかなように、ユニポーラ型静電四重極レンズは、従来のバイポーラ型静電四重極レンズのビーム電流よりも大きい電流を生じる。たとえば、5KeVのエネルギーと420μAの注入電流を有する低エネルギービームに対して、従来のバイポーラ型静電四重極レンズは、約30μAを生じ、一方、正のユニポーラ型静電四重極レンズは、約−100μAであり、負のユニポーラ型静電四重極レンズは、約150μAを生じる。こうして、正のユニポーラ型静電四重極レンズは、従来のバイポーラ型静電四重極レンズよりも3倍以上のビーム電流を与える。また、負のユニポーラ型静電四重極レンズは、従来のバイポーラ型静電四重極レンズより約5倍のビーム電流を与える。
【0039】
上述した従来の構造的および機能的な特徴を見ると、本発明の種々の構成に従う方法が、図1〜図7でよく理解できるであろう。また、説明を単純化するために、図8〜図9の方法は、シリアルに実行するように記載され、本発明は、説明した順番に制限されるものではなく、他のいくつかの手順が本発明に従って、ここで図示されかつ説明されたものとは異なる手順および/または同時並行で起こることが可能である。さらに、本発明に従う方向を実行するために、説明しない特徴を必要とすることもできる。
【0040】
図8において、本発明の構成に従う所望のイオンビームを発生するための方法800の流れ図が示されている。この方法800は、従来のイオンビーム発生方法(たとえば、従来のイオン注入デバイス)と比較すると、リニア加速器を通るビーム電流の損失が低減されて、所望のイオンビームを発生させることができる。この方法800は、比較的低いエネルギーのイオンビーム(たとえば、80KeV未満)に特に適している。
【0041】
方法800は、ブロック802で始まり、ここで、イオンビームは、低または負のイオンからなり、高電圧源によって発生される。イオンビームは、たとえば、イオン源に関連した引き出しビームのバイアスおよび形状に基づいて、初期のエネルギーレベルおよび注入電流と言われるビーム電流で発生する。イオンビームは、ブロック804で質量分析器によって処理され、ここで、磁界が、所望の電荷質量比を有するイオンのみが通過を許される。その結果、不必要なイオン、電子、および粒子は、イオンビームから取り除かれ、イオンビーム内に所望のイオンのみが残ることになる。ブロック806で、ビームの所望エネルギーが第1閾値以上であるかどうかを決定する。たとえば、高いエネルギービーム(たとえば、数100〜数10万KeV)を所望する場合、所望のエネルギーは、第1閾値(ブロック806のイエス側)よりも大きくなる。この場合、システムに関連したリニア加速器システムは、ブロック808で励起され、そして、システムに関連した静電四重極レンズは、ブロック810で、従来のバイポーラ構造においてバイアスされる。
【0042】
しかし、所望のビームエネルギーは、第1閾値(ブロック806でノー側)以下であるならば、ブロック812において、所望のエネルギーが第2閾値よりも大きいかどうかを決定する。この決定がブロック812において、イエスである場合、そのとき、所望のエネルギーは、第2と第1の閾値の間にある。そして、このエネルギー範囲において、バイポーラ型またはユニポーラ型の静電四重極レンズの構造のいずれかをブロック814で用いることができる。上記状態において、静電四重極をバイアスするための1つの基準は、単純に、四重極が構成される内部にバイアス装置を維持することである。しかし、所望エネルギーのビームは、第2閾値(ブロック812でノー側)よりも大きくない場合、そのとき、ユニポーラ型四重極のバイアス構造がブロック816で用いられる。上述したように、低エネルギーのユニポーラ型構造を用いることにより、イオン注入システムにおける改良されたビームを容易に使用できる。
【0043】
イオンビームのイオン1つ以上のユニポーラ型静電四重極レンズによって、ブロック808で選択的に集束され、所望形状(たとえば、対称的、楕円形状等)を有するイオンビームを生じる。1つの例において、これらの四重極レンズは、二対の電極からなり、イオンビームが進行する中心点の回りに全て等距離に配置されている。第1の対向する電極対は、アースにバイアスされ、第2の対向する電極対は、正または負の電圧にバイアスされる。これらの電極は、イオンビームの径路に直交する四重極電界を発生する。これにより、上述したように、イオンビームの集束および発散を生じさせる。このような2つのレンズを用いて、それらを対向させた状態でバイアスをかけることにより、レンズの対は、イオンビームを集束させ、そして、空間電荷作用を低減させるように作動する。第2電極対にバイアスを加えるための電圧値は、所望の集束および発散に対応している。方法800は、ブロック810へと続き、ここで、イオンビームは、ターゲットウエハに向けられる。
【0044】
イオンビームは、ブロック818において、ウエハに向けられ、ここで、このような動作は、所望であれば、ビームの減速、偏向等を更に含むことができる。上記の例では、第1閾値が約80KeVであり、第2閾値が約50KeVである。しかし、他の閾値を用いることもでき、これらは、本発明の範囲内に入るものと考えられる。
【0045】
本発明は、1つ以上の実施例、等価の変形例、及び修正例について図示しかつ記載してきたが、本明細書及び添付の図面を読みかつ理解することによって、当業者に理解できるであろう。特に、上述した部品(組立体、素子、回路、システム等)に関して、本発明の例示的な実施形態として、ここで示された機能を実行する開示された構造体と等価でないとしても、このような部品を記載するのに用いられる用語(手段と呼ばれているものを含む)は、対応するものを意図しており、そうでなければ、記載した部品(例えば、機能的に等価なものである)の特定の機能を実行するいくつかの構成部品を示している。
【0046】
さらに、本発明の特定の特徴は、いくつかの実施の内のただ一つに対して開示されてきたものであるが、そのような特徴は、いずれかの或る又は特定の用途にとって望ましくかつ有利な他の実施形態における一つ以上の特徴と組み合わされ得るものである。更に、「含む」、「含んでいる」、「有する」、「有している」及びそれらの変形が詳細な説明か特許請求の範囲のいずれかで使用されている限り、これらの用語は、用語の「構成されている」と同様に包含されるものであると理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の構成に従う高エネルギーイオン注入システムを説明するための概略図である。
【図2】本発明の構成に従うモジュラー形リニア加速器の斜視図である。
【図3】例示的な従来の正及び負のバイポーラ型静電四重極レンズを説明するための概略図である。
【図4】本発明の構成に従う負電位のユニポーラ型静電四重極レンズを説明するための概略図である。
【図5】本発明の構成に従う正電位のユニポーラ型静電四重極レンズを説明するための概略図である。
【図6】本発明の構成に従う静電四重極レンズのスイッチング回路を示す概略図である。
【図7】本発明の構成に従う静電四重極レンズのスイッチング回路を示す概略図である。
【図8】本発明の構成に従う所望のイオンビームを発生させる方法を説明するための概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リニア加速システムの軸線に沿って配置された1つ以上の加速ステージと、
前記加速ステージと直列に配置され、前記軸線を横切る方向にイオンビームを集束させるユニポーラ型の第1静電四重極レンズと、を含むことを特徴とするリニア加速システム。
【請求項2】
前記第1静電四重極レンズは、前記軸線を横切る電界を発生させる4つのほぼ等距離に配置された電極からなることを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項3】
アース電位にバイアスされた第1電極対が、互いに対向して配置されていることを特徴とする請求項2記載のシステム。
【請求項4】
負電位にバイアスされた第2電極対が、互いに対向して配置されていることを特徴とする請求項3記載のシステム。
【請求項5】
正電位にバイアスされた第2電極対が、互いに対向して配置されていることを特徴とする請求項3記載のシステム。
【請求項6】
第1電極対は、アース電位および第1電位の一方に選択的にバイアスされることを特徴とする請求項2記載のシステム。
【請求項7】
第1電位は正電位であることを特徴とする請求項6記載のシステム。
【請求項8】
ユニポーラ型の前記第1静電四重極レンズに直列に配置されたユニポーラ型の第2静電四重極レンズを更に含み、前記第1静電四重極レンズは、第1方向に集束し、前記第2静電四重極は、前記第1方向にほぼ直交する第2方向に集束することを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項9】
実質的にビーム電流の損失がないように前記第1静電四重極レンズによって形作られ、かつ前記軸線に沿って進行する低エネルギーのイオンビームを更に含むことを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項10】
前記低エネルギーのイオンビームは、約90KeV未満のレベルのエネルギーであることを特徴とする請求項9記載のシステム。
【請求項11】
前記低エネルギーのイオンビームは、約20KeV未満のレベルのエネルギーであることを特徴とする請求項9記載のシステム。
【請求項12】
互いに対向して配置され、低抵抗経路を通じてアースに接続された第1電極対と、
互いに対向して配置される第2電極対とを含み、
前記第1電極対と前記第2電極対は、中心点回りに等距離に配置され、前記第2電極対は、第1電位にバイアスがかけられている特徴とする静電四重極レンズ。
【請求項13】
第1電位は、正電位であることを特徴とする請求項12記載のレンズ。
【請求項14】
第1電位は、負電位であることを特徴とする請求項12記載のレンズ。
【請求項15】
アースに接続されかつ第1電位に制御可能なスイッチング回路と、
互いに対向して配置され、前記スイッチング回路に接続された第1電極対と、
互いに対向して配置された第2電極対とを含み、
前記第1電極対と前記第2電極対は、中心点回りに等距離に配置され、前記第2電極対は、第2電位にバイアスがかけられていることを特徴とする静電四重極レンズシステム。
【請求項16】
第1電位は正電位であり、第2電位は負電位であることを特徴とする請求項15に記載のレンズシステム。
【請求項17】
第1電位は負電位であり、第2電位は正電位であることを特徴とする請求項15に記載のレンズシステム。
【請求項18】
前記スイッチング回路は、前記第1電極対に第1電位を与える電源の一部であることを特徴とする請求項15に記載のレンズシステム。
【請求項19】
イオン源からイオンビームを引き出し、
所望のイオンビームエネルギーが第1閾値よりも大きいかどうかを決定し、
前記決定に基づき、バイポーラ構造またはユニポーラ構造の一方におけるイオンビームのビーム径路に沿って四重極レンズを形作る、各ステップを有することを特徴とするイオン注入システムを作動する方法。
【請求項20】
前記所望のイオンビームエネルギーが前記第1閾値よりも小さい場合、前記四重極レンズがユニポーラ構造に形成されていることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記所望のビームエネルギーが第2閾値よりも大きいかどうかを決定するステップを更に含み、前記第2閾値が前記第1閾値よりも小さいことを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項22】
所望のイオンビームエネルギーが、前記第2閾値より小さいならば、前記四重極レンズが前記ユニポーラ構造で形成されていることを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記四重極レンズは、ユニポーラ構造またはバイポーラ構造で形成され、所望のイオンビームエネルギーが、第2閾値よりも大きくかつ第1閾値よりも小さいことを特徴とする請求項22に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−504622(P2007−504622A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525451(P2006−525451)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【国際出願番号】PCT/US2004/028656
【国際公開番号】WO2005/024911
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(500266634)アクセリス テクノロジーズ インコーポレーテッド (101)
【Fターム(参考)】