説明

ラグ付きタイヤの製造方法及びタイヤ

【課題】加硫によって、タイヤ表面に現れる凹凸やカーカスプライ等のウエーブを効果的に軽減する、新規なラグ付きタイヤの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のラグ付きタイヤを製造する方法は、タイヤのトレッドに、タイヤの回転する向きに沿って間隔をおいて形成した複数のラグ3を備えるラグ付きタイヤ1を製造するに当たり、ラグ3に相当する加硫済みラグ部材3´をあらかじめ加硫金型4に配置し、次いでタイヤ本体部2となる生ケース2´を加硫金型4に装填し、引き続きラグ部材3´と生ケース2´とをともに加硫して相互に結合させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの回転する向きに沿って間隔をおいて形成した複数のラグを備えるラグ付きタイヤの製造方法、及びその方法によって製造されるタイヤに関するものであり、タイヤを製造する際の加硫によって引き起こされる、タイヤ表面に現れる凹凸やタイヤ内部に発生するカーカスプライやベルトのウエーブ(よれ、まがり等)を効果的に軽減するとともに、タイヤの性能を向上させることが可能であって、タイヤ製造時の効率化や品質の安定化にも寄与する技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
湿田や軟弱地等で使用される農業用車両や、不整地を走行する建設車両に取り付けられるタイヤでは、高いトラクションを得るために、トレッドに複数のラグを形成したラグ付きタイヤが広く一般に使用されている。従来よりタイヤにラグを形成する方法としては、ラグに対応した凹所を備える加硫金型を準備しておき、この金型に生タイヤを装填して加硫を行い、金型内のゴムを凹所に流動させてタイヤ本体部の外表面からラグを突出形成させる方法が採用されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−286177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなラグ付きタイヤは、タイヤ本体部の外表面から立ち上がるラグの高さが高いため、生タイヤを金型に装填して加硫する際には、ラグに対応する金型の凹所にタイヤ本体部のゴムが多量に流動することになる。このため、ラグ周辺部におけるタイヤ本体部には大きな変形が発生し、タイヤの表面に凹凸ができてしまうことや、タイヤ内部のカーカスプライやベルトにウエーブが発生してタイヤの耐久性に影響を及ぼすことがあったため、タイヤの外観や性能が損なわれることが無い、新たなラグ付きタイヤの製造方法の出現が望まれていた。
【0005】
本発明の目的とするところは、ラグ付きタイヤを製造する際の加硫によって引き起こされる、タイヤ表面に現れる凹凸やタイヤ内部に発生するカーカスプライやベルトのウエーブを効果的に軽減するとともに、タイヤの性能の向上を図ることが可能であって、タイヤ製造時の効率化や品質の安定化にも寄与する、新規なラグ付きタイヤの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、タイヤのトレッドに、タイヤの回転する向きに沿って間隔をおいて形成した複数のラグを備えるラグ付きタイヤを製造するに当たり、
ラグに相当する加硫済みラグ部材をあらかじめ加硫金型に配置し、
次いでタイヤ本体部となる生ケースを前記加硫金型に装填したのち、
前記ラグ部材を生ケースとともに加硫して相互に結合させることを特徴とするラグ付きタイヤの製造方法である。
【0007】
ここで好ましくは、ラグ部材に、該ラグ部材の側壁から突出する少なくとも一つの突起設ける。
【0008】
また好ましくは、加硫金型に、ラグ部材に設けた突起に係合する凹部を設ける。
【0009】
この一方で、ラグ部材の側壁に一つ以上の凹部を設け、さらに前記加硫金型に、ラグ部材に設けた凹部に係合する凸部を設けることが好ましい。
【0010】
そして、上記記載のいずれかの方法によって製造されるタイヤは、ラグが、前記タイヤ本体部の最も外側に位置する最外層ゴムよりも高いゴム硬度を有することが好ましい。
【0011】
そしてさらに、前記最外層ゴムは、発泡ゴムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
ラグ付きタイヤを製造するに当たり、ラグに相当する加硫済みラグ部材をあらかじめ加硫金型に配置しておき、次いで生ケースを加硫金型に装填した後にラグ部材と生ケースとをともに加硫して相互に結合させるようにしたので、生ケースのゴムが加硫モールド内で、ラグに対応する部分へ流動することが無くなって、タイヤ表面への凹凸の発生を防止するとともに、タイヤ内部のカーカスプライやベルトへのウエーブの発生を抑制することが可能となる。また、ここでは、特に肉厚となる加硫済みラグ部材を使用しているので、生ケースとラグ部材を結合する際の加硫時間を従来の製造方法に比べて短くして、生産効率を高めることが可能となる。
【0013】
また、ラグ部材の側壁から突出する突起を設けた場合は、加硫金型にラグ部材を挿入すると、この突起がつぶれて抵抗となるので、ラグ部材の抜け落ちを抑えることができる。
【0014】
そして、加硫金型に、ラグ部材に設けた突起に係合する凹部を設けた場合は、加硫金型にラグ部材を挿入するにあたり、ラグ部材の抜け落ちをより有効に防止するとともに、ラグ部材を正確に位置決めすることができるので、タイヤ本体部に対するラグ部材の配設位置のばらつきを十分に取り除くことができる。
【0015】
そしてまた、ラグ部材の側壁に一つ以上の凹部を設け、さらに加硫金型に、このラグ部材に設けた凹部に係合する凸部を設けた場合も、ラグ部材の抜け落ちの防止と、ラグ部材の配設位置の精度の向上をもたらすことができる。
【0016】
さらに、ラグを、タイヤ本体部の最も外側に位置する最外層ゴムよりも高いゴム硬度を有するものとしたタイヤは、走行中のラグの変形が小さくなり高いトラクションを得ることができる。
【0017】
加えて最外層ゴムを発泡ゴムにて構成した場合は、湿田等の水分の多い場所を走行する際に、泥濘中の水分を発泡ゴムに吸収して、タイヤへの泥の付着を有効に低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明によって製造されるラグ付きタイヤを示す斜視図、及び1つのラグを拡大して示す斜視図である。
【図2】本発明によって製造されるラグ付きタイヤにつき、タイヤの回転軸を含む面で切断した断面を示す図であり、(a)はタイヤ本体部の要部の断面を示す図(破線部はラグを含めた図)であり、(b)はラグの要部の断面を示す図である。
【図3】本発明で使用される、いわゆるフルモールドタイプのタイヤ加硫金型の要部を示す斜視図である。
【図4】本発明で使用されるラグ部材の、加硫金型の凹所に挿入配置する状況を示した図であり、(a)は本発明に従う他のラグ部材の要部を示す断面図であり、(b)は(a)で示したラグ部材を加硫金型の凹所へ挿入する途中の状態を示す断面図であり、(c)は、加入金型の凹所に、ラグ部材を完全に挿入した状態を示す図である。
【図5】図4に示すラグ部材、及び本発明に従う他の加硫金型を使用する場合の、図4に対応する図であり、(a)は図4に示すラグ部材の要部を示す断面図であり、(b)は(a)で示したラグ部材を加硫金型の凹所へ挿入する途中の状態を示す断面図であり、(c)は、加入金型の凹所に、ラグ部材を完全に挿入した状態を示す図である。
【図6】本発明に従う、さらに他のラグ部材、及び加硫金型を使用する場合の、図4と対応する図であり、(a)は本発明に従う、さらに他のラグ部材の要部を示す断面図であり、(b)は(a)で示したラグ部材を、本発明に従うさらに他の加硫金型の凹所へ挿入する途中の状態を示す断面図であり、(c)は、(b)で示す加入金型の凹所に、ラグ部材を完全に挿入した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明をより具体的に説明する。
【0020】
図1〜3に示すところにおいて、1は、本発明に従うラグ付きタイヤである。このラグ付きタイヤ1は、タイヤの主要部となるタイヤ本体部2と、このタイヤ本体部2の外周面にタイヤの回転する向きに沿って間隔をおいて形成した複数のラグ3からなり、別々に構成した、タイヤ本体部2となる生ケース2´と、予め加硫成型したラグ部材3´とを、加硫金型内で、例えば相互に加硫接着させたものである。
【0021】
タイヤ本体部2は慣例に従ったタイヤ構造を備えるものであり、具体的には図2(a)に示すように、トレッド部からサイド部を経てビード部までトロイダル状に延在するとともに、左右のビード部に配置した一対のビードコア2aにその端部を巻き回してなるカーカスプライ2bと、トレッド部においてこのカーカスプライ2bの径方向外側に配置したベルト2cとを有するものである。またこのタイヤ本体部2の最も外側には、最外層ゴム2dが配置されている。カーカスプライ2b及びベルト2cは、未加硫のゴムシートに、スチールや有機繊維等のコードを所定の向きに延在させて、埋設させて構成してなるものであり、タイヤの種類に応じて、1枚のシート又は複数枚積層させたシートが用いられる。
【0022】
ラグ部材3´は、図2(b)に示すように、タイヤ本体部2となる生ケース2´とは分離して形成されており、最外層ゴム2dに結合される底面3aは、タイヤ本体部2の外周面に適合するように、この外周面に沿う形状となっている。ラグ部材3´は、図1に示すように、湾曲した底面3aから径方向外側に向けて突き出すような形状でも良いし、矩形状の底面から突き出すような形状でも良い。また底面3aに細かい凹凸を形成しておけば、タイヤ本体部2との結合がより強固となって好適となる。
【0023】
上記タイヤ本体部2及びラグ3を備えるタイヤを製造するにあたっては、まずラグ素材を、図示しないラグ用加硫金型に装填して加硫成形を行って、加硫済みラグ部材3´を形成する。加硫済みラグ部材3´の加硫状態は、タイヤの各種部材の種類や大きさ等に応じて種々選択が可能であり、加硫が途中で中断された半加硫状態にしても良いし、加硫が完全に行われた状態にしても良い。
【0024】
加硫済みラグ部材3´とは別に、タイヤ本体部2となる生ケース2´を成型する。生ケース2´を成型する方法は種々選択可能であるが、例えば、カーカスプライ素材を成型ドラム(図示せず)に巻き回し、巻き回したカーカスプライ素材の両端部分にビードコア部材を配設し、次いで、カーカスプライ素材のシェーピング状態で、ベルト部材と最外層ゴム部材とをカーカスプライ素材の外周側に順に巻き回す方法を採用することができる。
【0025】
次に加硫済みラグ部材3´を、図3に例示するタイヤの加硫金型4内に配置する。加硫金型4は、タイヤの種類、大きさに応じた加硫条件(加硫温度、加硫時間)を選定することができる。加硫金型4は、上型4aと下型4bからなり、上型4aと下型4bを閉じた際に形成される内部空間4cは、ラグ付きタイヤ1に対応した形状、及び寸法となっている。内部空間4cには、ラグ3に対応する部位に凹所4cが形成されており、加硫済みラグ部材3´はこの凹所4cに挿入される。加硫済みラグ部材3´は、凹所4cにほとんど隙間無く挿入されるので、加硫中でも位置がずれることが無い。なおこの際、加硫済みラグ部材3´に、図4(a)に示す、加硫済みラグ部材3´の側壁から突出する少なくとも一つの突起3b(図示の例では、左右の側壁に各1つ設けている)を形成しても良い。これにより、図4(b)、(c)に示すように、加硫済みラグ部材3´を凹所4cに挿入する場合には、突起3bが圧潰されて抜け出し抵抗となり、加硫金型4からの抜け落ちを抑えることができる。
【0026】
また、図5(a)〜(c)に示すように、図4で示した少なくとも一つの突起3bを備える加硫済みラグ部材3´を、加硫金型4に挿入するにあたり、凹所4cに、加硫済みラグ部材3´の突起3bに係合する凹部4cを設けても良い。これにより、ラグ部材3´が加硫金型4から抜け落ちる不具合を防止するだけでなく、ラグ部材3´の凹所4cに対する位置が一義的に決まるので、ラグ部材3´の、タイヤ本体部2に対する配設位置のばらつきを抑えることができる。
【0027】
さらに、図6(a)〜(c)に示すように、ラグ部材3´の側壁に、少なくとも一つの凹部3c(図示の例では、左右の側壁に各1つ設けている)を形成し、加えて加硫金型4の凹所4cに、加硫済みラグ部材3´の凹部3cに係合する凸部4cを設けても良い。この場合も、ラグ部材3´の加硫金型4からの抜け落ちが防止できるだけでなく、ラグ部材3´の、タイヤ本体部2に対する配設位置のばらつきを抑制することができる。
【0028】
生ケース2´をタイヤの加硫金型4に装填した後、この加硫金型4を閉じて所定の加硫条件で加硫が行われる。加硫中は、生ケース2´の内側から図示しないブラダーが膨らんで、生ケース2´を拡張させて外周面を加硫済みラグ部材3´の底面3aに押し付けることにより、生ケース2´とラグ部材3´とを、相互に結合させることができる。加硫済みラグ部材3´を生ケース2´にあらかじめ貼り付けた状態で加硫を行う場合には、加硫済みラグ部材3´が貼り付けられている部位とそれ以外の部位とで生ケース2´が拡張する割合が局所的に変わってしまう懸念があるが、上記のように別々に金型に載置して加硫を行えば、双方の結合は加硫中に徐々に進行するので、生ケース2´は均一に拡張し、カーカスプライ2bやベルト2cのウエーブを抑制することができる。
【0029】
加硫済みラグ部材3´は、加硫金型4での加硫終了後におけるゴム硬度が、タイヤ本体部2の最外層ゴム2dのゴム硬度よりも高いことが好ましい。これにより、タイヤの他の特性に影響を与えることなく高いトラクションを得ることができる。
【0030】
最外層ゴム2dは、発泡ゴムであることが好ましい。これにより、泥等の水分の多い場所を走行する際でも泥中の水分が発泡部分に吸収されるので、タイヤへの泥の付着を有効に低下させることが可能となる。
【0031】
生ケース2´と加硫済みラグ部材3´の相互間には、未加硫ゴムからなる接着用クッションゴムを配置しておいても良い。これにより相互の結合を、より強固にすることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、タイヤを製造する際の加硫によって引き起こされる、タイヤ表面に現れる凹凸やタイヤ内部に発生するカーカスプライやベルトのウエーブを効果的に軽減するとともに、タイヤの性能を向上させることが可能であって、タイヤ製造時の効率化や品質の安定化にも寄与する、新規なラグ付きタイヤを安定的に供給できる。
【符号の説明】
【0033】
1 ラグ付きタイヤ
2 タイヤ本体部
2a ビードコア
2b カーカスプライ
2c ベルト
2d 最外層ゴム
2´ 生ケース
3 ラグ
3a 底面
3b 突起
3´ 加硫済みラグ部材
4 加硫金型
4a 上型
4b 下型
4c 内部空間
4c 凹所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤのトレッドに、タイヤの回転する向きに沿って間隔をおいて形成した複数のラグを備えるラグ付きタイヤを製造するに当たり、
ラグに相当する加硫済みラグ部材をあらかじめ加硫金型に配置し、
次いでタイヤ本体部となる生ケースを前記加硫金型に装填したのち、
前記ラグ部材を生ケースとともに加硫して相互に結合させることを特徴とするラグ付きタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記ラグ部材は、該ラグ部材の側壁から突出する少なくとも一つの突起を有する請求項1記載のラグ付きタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記加硫金型は、ラグ部材に設けた前記突起に係合する凹部を有する請求項2記載のラグ付きタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記ラグ部材は、該ラグ部材の側壁に一つ以上の凹部を有し、前記加硫金型は、ラグ部材に設けた前記凹部に係合する凸部を有する請求項1記載のラグ付きタイヤの製造方法。
【請求項5】
ラグが、前記タイヤ本体部の最も外側に位置する最外層ゴムよりも高いゴム硬度を有する請求項1〜4の何れかに記載の方法によって製造してなるタイヤ。
【請求項6】
前記最外層ゴムが、発泡ゴムである請求項5に記載のタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−45917(P2012−45917A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268644(P2010−268644)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】