説明

ラジカル化合物、その製造方法及び二次電池

【課題】優れたサイクル特性を有する二次電池用のラジカル化合物からなる電極活物質。
【解決手段】一般式(1)RSiO3/2で表される部分構造を有するラジカル化合物。(一般式(1)において、Rは一般式(2)で表される基を表す。)


(一般式(2)において、Yは含窒素複素環が5〜7員環を形成する基を表す。R1〜R4は炭素数1から3のアルキル基を示す。Xは、アルキレン基、又はカルボニル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル化合物、その製造方法及び二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノート型パソコン、携帯電話などの携帯電子機器は、通信システムの発展に伴い急激に普及しており、またその性能も年々向上している。特に、携帯機器は、性能の向上に伴い消費電力も大きくなる傾向にある。そこで、その電源である電池に対して、高エネルギー密度、大出力などの要求が高まっている。
【0003】
高エネルギー密度の電池としては、リチウム電池が開発され1990年代以降に広く用いられるようになった。このリチウム電池は電極活物質として、例えば正極にマンガン酸リチウムやコバルト酸リチウムといったリチウム含有遷移金属酸化物、負極に炭素を用いたものであり、これら電極活物質へのリチウムイオンの挿入、脱離反応を利用して充放電を行っている。このようなリチウム電池はエネルギー密度が大きく、サイクル特性に優れており、携帯電話をはじめとした種々の電子機器に利用されている。しかしながら、電極反応の反応速度が小さいため、大きな電流を取り出すと電池性能は著しく低下する。そのため、大きな出力をだすことが難しく、また充電のためにも長時間を要するという欠点があった。
【0004】
大きな出力を出すことができる蓄電デバイスとしては、電気二重層キャパシタが知られている。大電流を一度に放出できるため大きな出力を出すことが可能であり、サイクル特性にも優れており、バックアップ電源として開発が進められている。しかしながら、エネルギー密度は非常に小さく、小型化が困難であることから、携帯電子機器の電源には適していない。
【0005】
軽量でエネルギー密度の大きな電極材料を得る目的で、電極活物質に硫黄化合物や有機化合物を用いた電池も開発されてきた。例えば、特許文献1(米国特許第4833048号明細書)、特許文献2(特許第2715778号公報)にはジスルフィド結合を有する有機化合物を正極に用いた電池が開示されている。これらの電池は、ジスルフィド結合の生成、解離を伴う電気化学的酸化還元反応を利用したものである。これらの電池は硫黄や炭素といった比重の小さな元素を主成分とする電極材料から構成されているため、高エネルギー密度の大容量電池という点において一定の効果を奏している。しかし、ジスルフィド結合が解離した後、再度、結合する効率が小さいことや、電極活物質の電解液への拡散のため、充放電サイクルを重ねると容量が低下しやすいという欠点があった。
【0006】
また、有機化合物を利用した電池として、導電性高分子を電極材料に用いた電池が提案されている。この電池は、導電性高分子に対する電解質イオンのドープ、脱ドープ反応を原理としたものである。ドープ反応とは、導電性高分子の酸化もしくは還元によって生ずる荷電ラジカルを、対イオンによって安定化させる反応のことである。特許文献3(米国特許第4442187号明細書)には、このような導電性高分子を正極もしくは負極の材料とする電池が開示されている。この電池は、炭素や窒素といった比重の小さな元素のみから構成されたものであり、高容量電池として期待された。しかし、導電性高分子には、酸化還元によって生じる荷電ラジカルがπ電子共役系の広い範囲に亘って非局在化し、それらが静電反発やラジカルの消失をもたらす相互作用をするという特性がある。このことは発生する荷電ラジカルすなわちドープ濃度に限界をもたらすものであり、電池の容量を制限するものである。例えば、ポリアニリンを正極に用いた電池のドープ率は50%以下であり、またポリアセチレンの場合は7%であると報告されている。導電性高分子を電極材料とする電池では軽量化という点では一定の効果を奏しているものの、高いエネルギー密度をもつ電池は得られていなかった。
【0007】
有機化合物を電池の電極活物質として用いる電池として、ラジカル化合物の酸化還元反応を用いる電池が提案されている。たとえば、特許文献4(特開2002−151084公報)には、ニトロキシドラジカル化合物、アリールオキシラジカル化合物および特定のアミノトリアジン構造を有する高分子化合物などの有機ラジカル化合物が活物質として開示されている。また、有機ラジカル化合物を、正極もしくは負極の材料として用いた電池が開示されている。さらに、特許文献5(特開2002−304996号公報)には、ニトロキシド化合物の中でも、特に環状ニトロキシド構造を有する化合物を電極活物質として用いる蓄電デバイスが開示されている。また、そこで電極活物質として用いられるラジカル化合物は、2,2,6,6−テトラメチルピペリジンメタクリレートを重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリルと反応させて重合した後、m−クロロ過安息香酸を用いて酸化することで合成されている。
【0008】
さらに、有機ラジカル化合物として有機ケイ素化合物(シリコーン)を用いた電池も提案されている。たとえば、特許文献6(特開2009−298873号公報)には、ヒドロシリル化反応によってアルキル鎖を介してラジカルが置換した化合物が開示されている。特許文献7(特開2010−163551号公報)には、アルキル鎖を介さずにラジカル化合物が置換した化合物が開示されている。これらの化合物は、シリコーンの持つ高い安定性という点では一定の効果を奏しているものの、シリコーン骨格の側鎖に高い効率でラジカル官能基を導入することができないため、高いエネルギー密度をもつ電池は得られていなかった。この理由は、原料に使用するポリメチルヒドロシロキサン(PMHS)のSi−H基が酸素に対して不安定であり副反応(Si−O−Si結合を生成)を生じてしまうためである。また、シリコーンの末端に充放電に寄与しないトリメチルシリル基が多く存在するためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第4833048号明細書
【特許文献2】特許第2715778号公報
【特許文献3】米国特許第4442187号明細書
【特許文献4】特開2002−151084号公報
【特許文献5】特開2002−304996号公報
【特許文献6】特開2009−298873号公報
【特許文献7】特開2010−163551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記で述べたように、正極活物質として遷移金属酸化物を用いたリチウム電池では、重量あたりのエネルギー密度が高く、かつ大きな出力が可能な電池の製造が困難であった。また、電気二重層キャパシタは大きな出力を有するものの、重量あたりのエネルギー密度が低く、高容量化が困難であった。硫黄化合物や導電性有機化合物を電極活物質として利用した電池では、未だエネルギー密度の高い電池が得られていなかった。また、有機ラジカル化合物の酸化還元反応を用いた電池は、その電池の製造方法によって電極にひび割れが発生してしまい、簡便に電池を製造ができないといった問題があった。
【0011】
このため、より簡便な新しいプロセスでの製造が可能であり、より大きなエネルギー密度を有し、大きな出力を有する、新規な材料が望まれていた。本発明は、より簡便な新しいプロセスでの製造が可能であり、電極活物質としてエネルギー密度が高くかつ大きな出力を取り出すことができるラジカル化合物、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らが、鋭意検討した結果、分子内に下記一般式(1)で表される部分構造を有するラジカル化合物を電極活物質として利用することにより、前記課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明によれば、簡便な新しいプロセスにより、分子内に下記一般式(1)で表される部分構造を有するラジカル化合物を製造することができる。また、このラジカル化合物を電極活物質として用いた二次電池とすることにより、優れたサイクル特性を有し、高エネルギー密度かつ大きな出力を出すことが可能となり、より具体的には大電流を放電することができる。
【0013】
一実施形態は、下記一般式(1)で表される部分構造を有するラジカル化合物に関する。
【0014】
【化1】

【0015】
(一般式(1)において、Rは一般式(2)で表される基を表す。)
【0016】
【化2】

【0017】
(一般式(2)において、Yは含窒素複素環が5〜7員環を形成する基を表す。R1〜R4はそれぞれ異なっていてもよく、炭素数1から3のアルキル基を示す。Xは、炭素数0から12のアルキレン基、又はカルボニル基を表す。)。
【0018】
他の実施形態は、
下記一般式(5)で表される部分構造を有するケイ素化合物と、下記一般式(6)で表されるラジカル化合物を反応させて、下記一般式(1)で表される部分構造を有するラジカル化合物を得る、ラジカル化合物の製造方法に関する。
【0019】
【化3】

【0020】
【化4】

【0021】
(一般式(6)において、Yは含窒素複素環が5〜7員環を形成する基を表す。R1〜R4はそれぞれ異なっていてもよく、炭素数1から3のアルキル基を示す。Xは、水素原子、カルボキシル基、又は炭素数1から12のアルケニル基を表す。)。
【0022】
【化5】

【0023】
(一般式(1)において、Rは一般式(2)で表される基を表す。)
【0024】
【化6】

【0025】
(一般式(2)において、Yは含窒素複素環が5〜7員環を形成する基を表す。R1〜R4はそれぞれ異なっていてもよく、炭素数1から3のアルキル基を示す。Xは、炭素数0から12のアルキレン基、又はカルボニル基を表す。)。
【発明の効果】
【0026】
簡便な新しいプロセスにより、ラジカル化合物を提供することができる。このラジカル化合物を電極活物質として用いた二次電池を、優れたサイクル特性を有するものとし、高エネルギー密度及び大出力とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】一実施形態のラミネート外装型二次電池の構成を示す概観図である。
【図2】一実施形態のコイン外装型二次電池の構成を示す概観図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(ラジカル化合物)
ラジカル化合物は、下記一般式(1)で表される部分構造を有する。
【0029】
【化7】

【0030】
(一般式(1)において、Rは一般式(2)で表される基を表す。)
【0031】
【化8】

【0032】
(一般式(2)において、Yは含窒素複素環が5〜7員環を形成する基を表す。R1〜R4はそれぞれ異なっていてもよく、炭素数1から3のアルキル基を示す。Xは、炭素数0から12のアルキレン基、又はカルボニル基を表す。)。O(酸素原子)は、含窒素複素環を構成するYの中の一つの原子(典型的には、一つの炭素原子)に結合している。
【0033】
一般式(1)のシルセスキオキサン構造は、ランダム構造であっても、完全又は不完全なカゴ型構造であっても、ラダ−型構造であっても良い。カゴ型構造としては下記一般式(3)、ラダー型構造としては下記一般式(4)の構造を挙げることができる。
【0034】
【化9】

【0035】
(一般式(3)において、Rは上記一般式(2)で表される基を表す。nは任意の整数を表す。)
【0036】
【化10】

【0037】
(一般式(4)において、Rは上記一般式(2)で表される基を表す。nは、5〜1000の整数を表す。)
ラジカル化合物は例えば、二次電池の電極用の電極活物質として使用することができる。この電極活物質とは、充電反応および放電反応等の電極反応に直接、寄与する物質のことであり、電池システムの中心的役割を果たすものである。
【0038】
このラジカル化合物は、電極活物質として使用した場合、充放電の過程で下記スキーム(I)もしくは(II)のような酸化還元反応を行う。
【0039】
スキーム(I)の酸化還元反応では、一般式(1)で表される部分構造を有するラジカル化合物を正極に用いた場合、充電により(A)から(B)の状態になり、電子が放出される。また、放電により(B)から(A)の状態になり電子を受け取る。
【0040】
一方、(II)の酸化還元反応では、ラジカル化合物を正極に用いた場合、充電により(C)から(D)の状態になり、電子が放出される。また、放電により(D)から(C)の状態になり電子を受け取る。酸化還元反応の安定性から、スキーム(I)の酸化還元反応を用いて充放電を行うことが好ましい。
【0041】
【化11】

【0042】
【化12】

【0043】
なお、ラジカル化合物を負極に用いた場合には、充放電において、上記と逆の酸化還元反応が行われる。すなわち、スキーム(I)の酸化還元反応では、充電により(B)から(A)の状態になり、電子を受け取る。また、放電により(A)から(B)の状態になり、電子が放出される。一方、(II)の酸化還元反応では、充電により(D)から(C)の状態になり、電子を受け取る。また、放電により(C)から(D)の状態になり、電子が放出される。ラジカル化合物を負極に用いた場合も、酸化還元反応の安定性から、スキーム(I)の酸化還元反応を用いて充放電を行うことが好ましい。
【0044】
上記のように、ラジカル化合物は電極活物質として使用した場合、充放電により酸化もしくは還元されるため、酸化状態と還元状態の二つの状態を有する。そして、電極活物質は充電または放電された状態の何れかの状態で、一般式(1)で表された部分構造を有する。
【0045】
一般式(1)で表される部分構造を有するラジカル化合物は、電極活物質として、以下のような優れた効果を有する。
(一)副反応をほとんど起こさず、ほぼ100%の割合で可逆的に安定した酸化還元反応を起こすことができる。すなわち、このラジカル化合物を電極活物質として用いた二次電池は、充放電を安定して行うことができ、サイクル特性に優れた電池となる。
【0046】
(二)ラジカル化合物を電極活物質として用いた二次電池は、関連する構成のリチウム二次電池などに比べて、優れた高出力特性を有する。この理由は、このラジカル化合物の置換基が大きな電極反応速度をもつために、大きな電流を一度に放電できるためである。
【0047】
(三)ラジカル化合物は、炭素、窒素、水素、酸素という質量の小さい元素のみから構成することができる。このため、電極活物質の質量を小さくでき、これを用いて製造した電極の単位質量あたりの容量密度は大きくなる。その結果、この電極活物質を用いて電池を作製した場合、質量当たりのエネルギー密度が大きな二次電池とすることができる。
【0048】
(四)ラジカル化合物は重金属を含まない軽い元素から構成されるため、安全な二次電池を作製することができる。また、高容量(質量当たり)で充放電サイクルの安定性に優れ、さらに大きな出力を出すことができる二次電池を実現することができる。
【0049】
(五)より簡便な新しいプロセスにより、ラジカル化合物を製造することができる。
【0050】
また、正極、負極、又は両電極(正極と負極)での電極反応に、一般式(1)で表される部分構造を有するラジカル化合物が直接、寄与していればよく、このラジカル化合物を用いる電極は正極もしくは負極のいずれかに限定されるものではない。すなわち、このラジカル化合物は、正極中、負極中、又は正極と負極中で使用することができる。
【0051】
ただし、エネルギー密度の観点から、このラジカル化合物を正極活物質として用いることが好ましい。この場合、正極活物質には、一般式(1)で表される部分構造を有するラジカル化合物を単独で用いることが好ましい。ただし、ラジカル化合物を他の正極活物質と組み合わせて使用することもでき、その際の他の正極活物質としては、マンガン酸リチウムまたはLiCoO2が好ましい。
【0052】
また、ラジカル化合物を正極活物質にのみ使用する場合、負極活物質には、高い電圧、大きな容量が得られるという点から、金属リチウム、シリコンや酸化シリコンなどのシリコン系化合物、スズや酸化スズなどのスズ系化合物、リチウムイオンが挿入・脱着可能な炭素、グラファイトを用いることが好ましい。
【0053】
本発明の電池において電極活物質は電極に固定された状態であっても、また、電解液の溶媒中へ溶解、分散(溶媒中には溶けないものの、電極から剥がれた状態)、膨潤した状態であってもよい。ただし、電極に固定された状態で用いる場合、電解液への溶解による容量低下を抑制するために、固体状態で電解液に対して不溶性または低溶解性であることが好ましい。この際、電解液に対して不溶性または低溶解性であれば、膨潤しても良い。電解液への溶解性が高い場合、電極から電解液中に電極活物質が溶出することで、充放電サイクルに伴い容量が低下する場合があるためである。
【0054】
一般式(1)で表される部分構造を有するラジカル化合物は、数平均分子量が500以上であることが好ましく、数平均分子量が2000以上であることがより好ましい。この理由は、数平均分子量が500以上であると電池用電解液に溶解しにくくなり、さらに数平均分子量が2000以上になるとほぼ不溶となるからである。なお、上記数平均分子量は、ジメチルホルムアミド(DMF)を溶離液としたGPCにより、試料のDMF可溶部について測定を行うことで算出される値とする。得られたラジカル化合物によっては、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフランなどに溶解しにくく、分子量が測定出来ない場合もありうる。
【0055】
ラジカル化合物としては、一般式(1)で表される部分構造のみを有する化合物を用いることも、他の部分構造を有する化合物を用いることもできる。合成の都合上、上記一般式(3)又は(4)の繰り返し単位を有する構造が好ましい。複数の繰り返し単位を有する場合、上記一般式(3)又は(4)の繰り返し単位が、全ての繰り返し単位の全モル数に対して、60モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることがもっとも好ましい。この理由は、ラジカル化合物中において、一般式(1)の部分構造の割合が高いほど、電池容量を大きくできるためである。
【0056】
【化13】

【0057】
(一般式(1)において、Rは一般式(2)で表される基を表す。)
【0058】
【化14】

【0059】
(一般式(2)において、Yは含窒素複素環が5〜7員環を形成する基を表す。R1〜R4はそれぞれ異なっていてもよく、炭素数1から3のアルキル基を示す。Xは、炭素数0から12のアルキレン基、又はカルボニル基を表す。)。O(酸素原子)は、含窒素複素環を構成するYの中の一つの原子(典型的には、一つの炭素原子)に結合している。
【0060】
ラジカル化合物は、下記一般式(5)で表される部分構造を有するケイ素化合物と、下記一般式(6)で表されるラジカル化合物を反応させて製造することができる。
【0061】
【化15】

【0062】
【化16】

【0063】
(一般式(6)において、Yは含窒素複素環が5〜7員環を形成する基を表す。R1〜R4はそれぞれ異なっていてもよく、炭素数1から3のアルキル基を示す。Xは、水素原子、カルボキシル基、又は炭素数1から12のアルケニル基を表す。)。O(酸素原子)は、含窒素複素環を構成するYの中の一つの原子(典型的には、一つの炭素原子)に結合している。
【0064】
一般式(1)において、低コストなどの理由からR1〜R4はメチル基が好ましい。Xは炭素数0から12のオキシアルキレン基が好ましいが、これらに限定されるわけではない。
【0065】
一般式(1)の例として下記一般式(7)〜(10)で表される部分構造、一般式(2)の例として下記式(11)〜(14)で表される基を挙げることができる。
【0066】
【化17】

【0067】
【化18】

【0068】
【化19】

【0069】
【化20】

【0070】
【化21】

【0071】
【化22】

【0072】
【化23】

【0073】
【化24】

【0074】
上記一般式(7)で表される部分構造を有し、式(11)で表される基Rを有するラジカル化合物は、例えば、下記の合成スキーム(15)に示すルートで合成することができる。すなわち、遷移金属触媒存在下、オクタキス(ヒドリドシルセスキオキサン)(T8)と4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(TEMPO−OH)を反応させることで合成することが出来る。
【0075】
【化25】

【0076】
さらに、一般式(7)で表される部分構造を有し、式(13)で表される基Rを有するラジカル化合物は、例えば、下記の合成スキーム(16)に示すルートで合成することができる。すなわち、遷移金属触媒存在下、オクタキス(ヒドリドシルセスキオキサン)(T8)と4−アリルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(TEMPO−OH)を用いてヒドロシリル化反応を行うことで合成することが出来る。
【0077】
【化26】

【0078】
さらに、同様の方法を用い、上記一般式(7)で表される化合物(T8)の代わりに、さらにケイ素の数が異なる化合物(T10、T12等)を用いることで、一般式(8)および一般式(9)で表されるラジカル化合物を合成することができる。
【0079】
一方、上記一般式(10)で表される部分構造を有し、式(11)で表される基Rを有するラジカル化合物は、例えば、下記の合成スキーム(17)に示すルートで合成することができる。すなわち、遷移金属触媒存在下、ラダーシロキサン化合物と4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(TEMPO−OH)を反応させることで合成することが出来る。
【0080】
【化27】

【0081】
さらに、上記一般式(10)で表される部分構造を有し、(13)で表される基Rを有するラジカル化合物は、例えば、下記の合成スキーム(18)に示すルートで合成することができる。すなわち、遷移金属触媒存在下、ラダーシロキサン化合物と4−アリルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(TEMPO−OH)を反応させることで合成することが出来る。
【0082】
【化28】

【0083】
これらの反応に用いる遷移金属としては、イリジウム、ルテニウム、ロジウム、白金、パラジウム、ニッケル系化合物を挙げることができる。より具体的には、ニッケル触媒としてNi(cod)2、NiCl2(PPh32、NiCl2、Ni(OAc)2、Ni(PPh34、パラジウム触媒としてPd2(dba)3、Pd(PPh34、Pd(OAc)2、PdCl2、PdCl2(PPh32、PdCl2(dppf)、PdCl2(dppb)、白金触媒としてH2PtCl6、K2PtCl6、Na2PtCl6、(Bu4N)PtCl6、[Pt(CH2=CHSiMe2)2O](Karstedt’s catalyst)、ロジウム触媒としてRhCl3、Rh2(OAc)4、[RhCl(cod)]2、RhCl(PPh33、[RhCl(nbd)]2、[Rh(nbd)2]BF4、[Rh(cod)2]BF4、ルテニウム触媒としてRuCl2(PPh3)3などを用いることができる。
【0084】
また、上記に示すラジカル化合物については、類似の方法で合成することが可能である。その場合、合成スキーム、使用する原料、反応条件等を適宜変更し、また公知の合成技術を組み合わせることで、目的とするラジカル化合物を合成することができる。
【0085】
また、一般式(1)で表される部分構造を有するラジカル化合物は、電極(正極、負極)中に1種類のみを用いることができるが、二種類以上のラジカル化合物を組み合わせて用いても良い。また、ラジカル化合物と、他の電極活物質を組み合わせて用いても良い。このとき、電極活物質の全体の中に、ラジカル化合物が10〜90質量%含まれていることが好ましく、20〜80質量%含まれていることがより好ましい。
【0086】
一般式(1)で表される部分構造を有するラジカル化合物を正極に用いる場合、他の電極活物質として、金属酸化物、ジスルフィド化合物、本発明のラジカル化合物以外の他の安定ラジカル化合物、および導電性高分子等を組み合わせることができる。
【0087】
ここで、金属酸化物としては、例えば、LiMnO2、LixMn24(0<x<2)等のマンガン酸リチウムまたはスピネル構造を有するマンガン酸リチウム、MnO2、LiCoO2、LiNiO2、あるいはLiy25(0<y<2)、オリビン系材料LiFePO4、スピネル構造中のMnの一部を他の遷移金属で置換した材料LiNi0.5Mn1.54、LiCr0.5Mn1.54、LiCo0.5Mn1.54、LiCoMnO4、LiNi0.5Mn0.52、LiNi0.33Mn0,33Co0.332、LiNi0.8Co0.22、LiN0.5Mn1.5-zTiz4(0<z<1.5)、等が挙げられる。
【0088】
ジスルフィド化合物としては、ジチオグリコール、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、S−トリアジン−2,4,6−トリチオール等が挙げられる。
【0089】
他の安定ラジカル化合物としては、ポリ(4−メタクリロイロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル)、ポリ(4−アクリロイロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル)、ポリ(4−ビニロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル)等が挙げられる。
【0090】
また、導電性高分子としては、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリアニリン、ポリピロール等が挙げられる。
【0091】
これらの中でも特に、マンガン酸リチウムまたはLiCoO2とラジカル化合物を組み合わせることが好ましい。本発明では、これらの他の電極活物質を単独、もしくは2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0092】
一般式(1)で表される部分構造を有するラジカル化合物を負極に用いる場合、他の電極活物質として、グラファイトや非晶質カーボン、金属リチウムやリチウム合金、リチウムイオン吸蔵炭素、金属ナトリウム、導電性高分子等を用いることができる。また、他の安定ラジカル化合物を用いてもよい。
【0093】
他の安定ラジカル化合物としては、ポリ(4−メタクリロイロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル)、ポリ(4−アクリロイロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル)、ポリ(4−ビニロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル)などが挙げられる。
【0094】
ラジカル化合物以外の電極活物質の形状としては特に限定されず、例えば金属リチウムでは薄膜状のものに限らず、バルク状のもの、粉末を固めたもの、繊維状のもの、フレーク状のもの等であっても良い。これらの中でも特に、金属リチウムまたはグラファイトとラジカル化合物を組み合わせることが好ましい。また、これらの他の電極活物質を単独、もしくは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0095】
本発明の二次電池では、正極活物質又は負極活物質、または両方の電極の活物質として、一般式(1)で表される部分構造を有するラジカル化合物を用いる。
【0096】
ラジカル化合物を一方の電極用の活物質として用いる場合、他方の電極用の活物質として上記例示のような従来から公知の電極活物質を利用できる。また、電極活物質は単独で、もしくは2種以上を組み合わせて使用することもできる。一つの電極中に2種以上の電極活物質を使用する場合、従来から公知の電極活物質の少なくとも1種と、一般式(1)で表される部分構造を有するラジカル化合物とを組み合わせて用いてもよい。
【0097】
[2]導電付与剤(補助導電材)およびイオン伝導補助材
一般式(1)で表される部分構造を有するラジカル化合物を電極活物質に用いる場合、インピーダンスを低下させ、エネルギー密度、出力特性を向上させる目的で、導電付与剤(補助導電材)やイオン伝導補助材を混合させることもできる。
【0098】
補助導電材としては、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素質微粒子、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ等の炭素繊維、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアセン等の導電性高分子が挙げられる。
【0099】
イオン伝導補助材としては、高分子ゲル電解質、高分子固体電解質等が挙げられる。これらの中でも、炭素繊維を混合することが好ましい。炭素繊維を混合することで電極の引張り強度がより大きくなり、電極にひびが入ったり剥がれたりすることが少なくなる。より好ましくは、気相成長炭素繊維を混合するのが良い。これらの材料は、単独でまたは2種類以上を混合して用いることもできる。電極中のこれらの材料の割合としては、10〜80質量%が好ましい。
【0100】
[3]結着剤
電極の各構成材料間の結びつきを強めるために、結着剤を用いることもできる。このような結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、各種ポリウレタン等の樹脂バインダが挙げられる。これらの樹脂バインダは、単独でまたは2種類以上を混合して用いることもできる。電極中の結着剤の割合としては、5〜30質量%が好ましい。
【0101】
[4]触媒
電極反応をより潤滑に行うために、酸化還元反応を助ける触媒を用いることもできる。このような触媒としては、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアセン等の導電性高分子、ピリジン誘導体、ピロリドン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、アクリジン誘導体等の塩基性化合物、金属イオン錯体等が挙げられる。これらの触媒は、単独でまたは2種類以上を混合して用いることもできる。電極中の触媒の割合としては、10質量%以下が好ましい。
【0102】
[5]集電体およびセパレータ
負極集電体、正極集電体としては、ニッケル、アルミニウム、銅、金、銀、アルミニウム合金、ステンレス、炭素等からなる箔、金属平板、メッシュ状などの形状のものを用いることができる。また、集電体に触媒効果を持たせたり、電極活物質と集電体とを化学結合させたりしてもよい。
【0103】
一方、上記の正極、および負極が接触しないようにポリエチレン、ポリプロピレン等からなる多孔質フィルムや不織布などのセパレータを用いることもできる。
【0104】
[6]電解質
本発明において、電解質は、負極と正極の両極間の荷電担体輸送を行うものであり、一般には20℃で10-5〜10-1S/cmのイオン伝導性を有していることが好ましい。電解質としては、例えば電解質塩を溶剤に溶解した電解液を利用することができる。電解質塩として、例えばLiPF6、LiClO4、LiBF4、LiCF3SO3、Li(CF3SO22N、Li(C25SO22N、Li(CF3SO23C、Li(C25SO23C等の従来から公知の材料を用いることができる。これらの電解質塩は、単独でまたは2種類以上を混合して用いることもできる。
【0105】
また,電解液に溶剤を用いる場合、溶剤としては例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶媒を用いることができる。これらの溶剤を単独もしくは2種類以上を混合して用いることもできる。
【0106】
さらに、本発明では電解質として固体電解質を用いることもできる。これら固体電解質に用いられる高分子化合物としては、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−モノフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン三元共重合体等のフッ化ビニリデン系重合体や、アクリロニトリル−メチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル−エチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル−エチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル−メタクリル酸共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸共重合体、アクリロニトリル−ビニルアセテート共重合体等のアクリルニトリル系重合体、さらにポリエチレンオキサイド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体、これらのアクリレート体やメタクリレート体の重合体などが挙げられる。これらの高分子化合物に電解液を含ませてゲル状にしたものを用いても、電解質塩を含有させた高分子化合物のみをそのまま用いても良い。
【0107】
[7]二次電池
図1に、本発明の電池の一実施形態の構成を示す。図1に示された電池は、正極5と負極3を、電解質を含むセパレータ4を介して対向するように重ね合わせ、さらに正極5上に正極集電体6を重ね合わせた構成を有している。これらは負極側のステンレス外装1と正極側のステンレス外装1とで外装され、その間には、両者の電気的接触を防ぐ目的で、プラスチック樹脂等の絶縁性材料からなる絶縁パッキン2が配置される。なお、電解質として固体電解質やゲル電解質を用いる場合は、セパレータ4に代えてこれら電解質を電極間に介在させる形態にすることもできる。
【0108】
本発明では、このような構成において、負極3もしくは正極5または両電極に用いられる電極活物質が、一般式(1)で表される部分構造を有するラジカル化合物を含有する電極活物質となっている。本発明の電池は、電池容量の点から、正極活物質として上記の電極活物質を用いたリチウム二次電池とすることが好ましい。
【0109】
本発明において、電池の形状は特に限定されず、従来から公知のものを用いることができる。電池形状としては、電極積層体、あるいは巻回体を金属ケース、樹脂ケース、あるいはアルミニウム箔などの金属箔と合成樹脂フィルムからなるラミネートフィルム等によって封止したもの等が挙げられ、円筒型、角型、コイン型、およびシート型等で作製されるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0110】
[8]二次電池の製造方法
二次電池の製造方法としては特に限定されず、材料に応じて適宜、選択した方法を用いることができる。例えば、電極活物質、導電付与剤などに溶剤を加えてスラリー状にして電極集電体に塗布し、加熱もしくは常温で溶剤を揮発させることにより電極を作製する。さらに、この電極を対極、セパレータを挟んで積層または巻回して外装体で包み、電解液を注入して封止するといった方法である。スラリー化のための溶剤としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒、N、N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミン系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのアルキルケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0111】
また、電極の作製法としては、電極活物質、導電付与剤などを乾式で混練した後、薄膜化し電極集電体上に積層する方法もある。電極の作製において、特に有機物の電極活物質、導電付与剤などに溶剤を加えスラリー状にして電極集電体に塗布し、加熱もしくは常温で溶剤を揮発させる方法の場合、電極の剥がれ、ひび割れ等が発生しやすい。本発明のラジカル化合物を用い、好ましくは80μm以上で500μm以下の厚さの電極を作製した場合、電極の剥がれ、ひび割れ等が発生しにくく、均一な電極が作製できるといった特徴を有している。
【0112】
電池を製造する際には、電極活物質として、一般式(1)の部分構造を有するラジカル化合物そのものを使用しても、電極反応によって前記一般式(1)の部分構造を有するラジカル化合物に変化する化合物を用いても良い。電極反応によってラジカル化合物に変化する化合物の例としては、下記のものを挙げることができる。
・ラジカル化合物を還元したアニオン体とリチウムイオンやナトリウムイオンといった電解質カチオンとからなるリチウム塩やナトリウム塩、
・ラジカル化合物を酸化したカチオン体とPF6-やBF4-といった電解質アニオンとからなる塩。
【0113】
本発明に於いて、電極からのリードの取り出し、外装等のその他の製造条件は電池の製造方法として従来から公知の方法を用いることができる。
【実施例】
【0114】
以下、本発明の詳細について合成例、実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0115】
(合成例1)
以下に示す合成スキーム(15)に従いラジカル化合物(A)の合成を行った。
【0116】
【化29】

【0117】
1Lの3口フラスコに、アルゴン雰囲気下、オクタキス(ヒドリドシルセスキオキサン)(T8)10g(23.5mmol)、500mLのテトラヒドロフランを加えて溶解させる。さらに、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル 35.7g(207.2mmol)、[RhCl(cod)]2250mg(0.25mol%)を加え、室温で6時間攪拌させた。エバポレーターにより溶媒を留去した後、ヘキサン(500mL×3)、ジエチルエーテル(500mL×3)を加えて室温で攪拌することで、得られたラジカル化合物を洗浄した。洗浄後、真空乾燥(40℃、6時間)を行うことで、収率72%で目的とするラジカル化合物(A)であるオクタキス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル−4−オキシ)シルセスキオキサンを得た。
【0118】
(合成例2)
以下に示す合成スキーム(16)に従いラジカル化合物(B)の合成を行った。
【0119】
【化30】

【0120】
1Lの3口フラスコに、アルゴン雰囲気下、オクタキス(ヒドリドシルセスキオキサン)(T8)10g(23.5mmol)、500mLのテトラヒドロフランを加えて溶解させる。さらに、4−アリルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル 44.0g(207.2mmol)、Karstedt’s catalystの0.1Mキシレン溶液(0.2mol%)を加え、100℃で3時間攪拌させた。
【0121】
エバポレーターにより溶媒を留去した後、ヘキサン(500mL×3)、ジエチルエーテル(500mL×3)を加えて室温で攪拌することで、得られたラジカル化合物を洗浄した。洗浄後、真空乾燥(40℃、6時間)を行うことで、収率68%で目的とするラジカル化合物(B)であるオクタキス[(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル−4−オキシ)プロピル]シルセスキオキサンを得た。
【0122】
(合成例3)
以下に示す合成スキーム(17)に従いラジカル化合物(C)の合成を行った。
【0123】
【化31】

【0124】
1Lの3口フラスコに、アルゴン雰囲気下、ラダーシロキサン5g(47.1mmol)、500mLのテトラヒドロフランを加えて溶解させる。さらに、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル 71.4g(414mmol)、[RhCl(cod)]2 510mg(0.25mol%)を加え、室温で6時間攪拌させた。エバポレーターにより溶媒を留去した後、ヘキサン(500mL×3)、ジエチルエーテル(500mL×3)を加えて室温で攪拌することで、得られたラジカル化合物を洗浄した。洗浄後、真空乾燥(40℃、6時間)を行うことで、収率68%で目的とするラジカル化合物(C)であるラジカル置換ラダーシロキサンを得た。得られた化合物は、一般的な有機溶媒に不溶であり、分子量を測定することができなかった。
【0125】
(合成例4)
以下に示す合成スキーム(18)に従いラジカル化合物(D)の合成を行った。
【0126】
【化32】

【0127】
500mLの3口フラスコに、アルゴン雰囲気下、ラダーシロキサン5g(47.1mmol)、200mLのテトラヒドロフランを加えて溶解させる。さらに、4−アリルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル 88.0g(414.3mmol)、Karstedt’s catalystの0.1Mキシレン溶液(0.2mol%)を加え、100℃で3時間攪拌させた。エバポレーターにより溶媒を留去した後、ヘキサン(500mL×3)、ジエチルエーテル(500mL×3)を加えて室温で攪拌することで、得られたラジカル化合物を洗浄した。洗浄後、真空乾燥(40℃、6時間)を行うことで、収率68%で目的とするラジカル化合物(D)であるラジカル置換ラダーシロキサンを得た。得られた化合物は、一般的な有機溶媒に不溶であり、分子量を測定することができなかった。
【0128】
(実施例1)
<正極の作製>
合成例1で合成したラジカル化合物(A)200mg、グラファイト粉末700mg、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂バインダ100mgを測り採り、メノウ乳鉢を用い混練した。10分ほど乾式混合して得られた混合体を、圧力を掛けてローラー延伸することにより、厚さ約150μmの薄膜とした。これを、真空中80℃で一晩乾燥した後、直径12mmの円形に打ち抜き、コイン電池用電極を成型した。なお、この電極の質量は15.0mgだった。
【0129】
<セル作製>
次に、得られた電極を電解液に浸して、電極中の空隙に電解液を染み込ませた。電解液としては、1.0mol/LのLiPF6電解質塩を含むエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート混合溶液(混合体積比3:7)を用いた。電解液を含浸させた電極を、正極集電体上に置き、その上に同じく電解液を含浸させたポリプロピレン多孔質フィルムセパレータを積層した。さらに負極となるリチウム張り合わせ銅箔を積層し、周囲に絶縁パッキンを配置した状態で正極側及び負極側からそれぞれのステンレス外装を重ね合わせた。これを、かしめ機によって圧力を加えることで、正極活物質としてラジカル化合物(A)、負極活物質として金属リチウムを用いた密閉型のコイン型電池とした。
【0130】
<充放電評価>
以上のように作製したコイン型電池を、0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、0.1mAの定電流で3.0Vまで放電を行った。その結果、電圧は3.5V付近で約3時間10分ほぼ一定となり、その後急激に低下した。電極活物質あたりの放電容量は116mAh/gだった。同様に、4.0〜3.0Vの範囲で充放電を50回繰り返した。その結果、50回の充放電すべてにおいて、放電時に3.5V付近で電圧が一定になり、(50回目の放電容量)/(1回目の放電容量)は96%だった。
【0131】
次に、コイン型電池を0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、5.0mAの定電流で放電を行った。その結果、電圧は3.4V付近で一定となり、その後急激に低下した。(5.0mA放電における放電容量)/(0.1mA放電における放電容量)は92%だった。
【0132】
(実施例2)
<正極の作製>
小型ホモジナイザ容器にN−メチルピロリドン20gをはかりとり、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)300mgを加え、30分間撹拌し完全に溶解させた。そこへ、ラジカル化合物(A)を200mg加え、全体が均一なオレンジ色になるまで5分間撹拌した。ここへ気相成長炭素繊維(VGCF)500mgを加え、さらに15分間撹拌することによりスラリーを得た。得られたスラリーをアルミニウム箔上に塗布し、120℃で乾燥させて正極を作製した。正極層の厚みは120μmだった。作製した電極に、剥がれ、ひび割れ等は見られなく、表面は均一であった。これを、直径12mmの円形に打ち抜き、コイン電池用電極を成型した。なお、この電極の質量は16.2mg(うち、アルミニウム箔は6.0mg)だった。
【0133】
<負極の作製>
グラファイト粉末(粒径6ミクロン)13.5gと、ポリフッ化ビニリデン1.35g、カーボンブラック0.15g、N−メチル−2−ピロリドン溶媒30gを良く混合し、負極スラリーを作製した。カーボン系導電塗料でコートされた厚さ32μmのエキスパンドメタル銅箔片面に負極のスラリーを塗布し、真空乾燥させることにより負極を作製した。集電体を含む負極全体の厚みは90ミクロンであった。
【0134】
<セル作製>
次に、得られた電極を電解液に浸して、電極中の空隙に電解液を染み込ませた。電解液としては、1.0mol/LのLiPF6電解質塩を含むエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート混合溶液(混合体積比3:7)を用いた。電解液を含浸させた電極は、正極集電体(アルミ箔)上に置き、その上に同じく電解液を含浸させたポリプロピレン多孔質フィルムセパレータを積層した。さらに負極となるグラファイト層を片面に付した銅箔を積層した。さらに、周囲に絶縁パッキンを配置した状態で正極側及び負極側からそれぞれのステンレス外装を重ね合わせた。これを、かしめ機によって圧力を加えることで、正極活物質としてラジカル化合物(A)、負極活物質としてグラファイトを用いた密閉型のコイン型電池とした。
【0135】
<充放電評価>
以上のように作製したコイン電池にコンディショニング充放電を行い、さらに0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、0.1mAの定電流で3.0Vまで放電を行った。その結果、3.5V付近に電圧平坦部が観測され、電極活物質あたりの放電容量は115mAh/gだった。さらに、50℃の温度において電圧範囲4.0〜3.0Vで充放電を50回繰り返した。その結果、50回の充放電すべてにおいて、放電時に3.5V付近で電圧が一定になり、(50回目の放電容量)/(1回目の放電容量)は95%だった。
【0136】
次に、コイン型電池を0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、5.0mAの定電流で放電を行った。その結果、電圧は3.4V付近で一定となり、その後急激に低下した。(5.0mA放電における放電容量)/(0.1mA放電における放電容量)は93%だった。
【0137】
(実施例3)
<正極の作製>
ホモジナイザのカップに純水(42mL)、カルボキシメチルセルロース(CMC)400mg(4wt%)を加え、ホモジナイザで完全に溶解させた後、PTFEの水分散溶液100mg(1wt%)を加えて攪拌させた。さらに、VGCF2.5g(15wt%)を少しずつ加えて均一になるまで攪拌させる。得られた黒色のスラリーに、ラジカル化合物(A)、7g(70wt%)を加えて、さらに均一になるまで攪拌しスラリーを作製した。さらに、得られたスラリーをアルミ箔(20μm)上に塗布した後、50℃で乾燥させることで正極を作製した。作製した電極に、剥がれ、ひび割れ等は見られなく、表面は均一であった。これを、直径12mmの円形に打ち抜き、コイン電池用電極を成型した。なお、この電極の質量は17.2mg(うち、アルミニウム箔は6.0mg)だった。
【0138】
<セル作製>
次に、得られた電極を電解液に浸して、電極中の空隙に電解液を染み込ませた。電解液としては、1.0mol/LのLiPF6電解質塩、4wt%の環状エーテル化合物(18)の両方を含むエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート混合溶液(混合体積比3:7)を用いた。電解液を含浸させた電極は、正極集電体上に置き、その上に同じく電解液を含浸させたポリプロピレン多孔質フィルムセパレータを積層した。さらに負極となるリチウムディスクを積層した。周囲に絶縁パッキンを配置した状態で正極側及び負極側からそれぞれのステンレス外装を重ね合わせた。これを、かしめ機によって圧力を加えることで、正極活物質としてラジカル化合物(A)、負極活物質として金属リチウムを用いた密閉型のコイン型電池とした。
【0139】
<充放電評価>
以上のように作製したコイン型電池にコンディショニング充放電を行い、さらに0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、0.1mAの定電流で3.0Vまで放電を行った。その結果、3.5V付近で電圧平坦部が観測され、電極活物質あたりの放電容量は115mAh/gだった。さらに、50℃の温度において電圧範囲4.0〜3.0Vで充放電を50回繰り返した。その結果、50回の充放電すべてにおいて、放電時に3.5V付近で電圧が一定になり、(50回目の放電容量)/(1回目の放電容量)は96%だった。
【0140】
次に、コイン型電池を0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、5.0mAの定電流で放電を行った。(5.0mA放電における放電容量)/(0.1mA放電における放電容量)は94%だった。
【0141】
(実施例4)
<セル作製>
ラジカル化合物(A)の代わりに、ラジカル化合物(B)を用いること以外は、実施例3と同様の方法を用いて正極を作製し、それを用いてコイン型電池を作製した。作製した電極に、剥がれ、ひび割れ等は見られなく、表面は均一であった。このコイン型電池の正極の重さは16.8mgであった(うち、アルミニウム箔は6.0mg)。
【0142】
<充放電評価>
以上のように作製したコイン型電池にコンディショニング充放電を行い、さらに0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、0.1mAの定電流で3.0Vまで放電を行った。その結果、3.5V付近で電圧平坦部が観測され、電極活物質あたりの放電容量は96mAh/gだった。さらに、50℃の温度において電圧範囲4.0〜3.0Vで充放電を50回繰り返した結果、(50回目の放電容量)/(1回目の放電容量)は96%だった。
【0143】
次に、コイン型電池を0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、5.0mAの定電流で放電を行った。(5.0mA放電における放電容量)/(0.1mA放電における放電容量)は95%だった。
【0144】
(実施例5)
<セル作製>
ラジカル化合物(A)の代わりに、ラジカル化合物(C)を用いること以外は、実施例3と同様の方法を用いて正極を作製し、それを用いてコイン型電池を作製した。作製した電極に、剥がれ、ひび割れ等は見られなく、表面は均一であった。このコイン型電池の正極重さは17.3mg(うち、アルミニウム箔は6.0mg)であった。
【0145】
<充放電評価>
以上のように作製したコイン型電池にコンディショニング充放電を行い、さらにこのコイン型電池を、0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、0.1mAの定電流で3.0Vまで放電を行った。その結果、3.5V付近で電圧平坦部が観測され、電極活物質あたりの放電容量は116mAh/gだった。さらに、50℃の温度において電圧範囲4.0〜3.0Vで充放電を50回繰り返した結果、(50回目の放電容量)/(1回目の放電容量)は96%だった。
【0146】
次に、コイン型電池を0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、5.0mAの定電流で放電を行った。(5.0mA放電における放電容量)/(0.1mA放電における放電容量)は94%だった。
【0147】
(実施例6)
<セル作製>
実施例3で作製したラジカル化合物(A)を含有する正極と、実施例2で作製したグラファイト負極とをセパレータを介して順に重ねあわせ、電極積層体を作製した。積層体の最上部には、リチウム供給源となるリチウム金属張り合わせ銅箔を挿入した。正極集電体アルミ箔および正極リードを超音波溶接し、さらに同様に負極集電体銅箔、リチウム供給源集電体銅箔、および負極リードを溶接した。それらを厚み115ミクロンのアルミラミネートフィルムで覆い、リード部を含む3辺を先に熱融着した。次に、1mol/LのLiPF6を含む、EC/DEC=3/7の混合電解液をセル中に挿入し、電極中に良く含浸させた。最終的に減圧下にて最後の4辺目を熱融着し、蓄電デバイスを作製した。
【0148】
<充放電評価>
以上のように作製したアルミラミネートセルにコンディショニング充放電を行い、1mAの電流で4Vまで充電を行った。その後同じく1mAの電流で放電を行い3.0Vまでの容量を測定した。その結果、電圧平坦部が3.5V付近で観測され、電極活物質あたりの放電容量は114mAh/gだった。さらに、50℃の温度において電圧範囲4.0〜3.0Vで充放電を50回繰り返した結果、(50回目の放電容量)/(1回目の放電容量)は96%だった。次に、アルミラミネートセルを0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、5.0mAの定電流で放電を行った。(5.0mA放電における放電容量)/(0.1mA放電における放電容量)は94%だった。
【0149】
(実施例7)
<セル作製>
実施例3で作製したラジカル化合物(A)を含有する正極の代わりに、実施例4で作製したラジカル化合物(B)を含有する正極を用いた以外は、実施例6と同様の方法でアルミラミネート電池を作製した。
【0150】
<充放電評価>
以上のように作製したアルミラミネートセルにコンディショニング充放電を行い、1mAの電流で4.0Vまで充電を行った。その後同じく1mAの電流で放電を行い3.0Vまでの容量を測定した。その結果、電圧平坦部が3.5V付近で観測され、電極活物質あたりの放電容量は95mAh/gだった。さらに、50℃の温度において電圧範囲4.0〜3.0Vで充放電を50回繰り返した結果、(50回目の放電容量)/(1回目の放電容量)は95%だった。次に、アルミラミネートセルを0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、5.0mAの定電流で放電を行った。(5.0mA放電における放電容量)/(0.1mA放電における放電容量)は94%だった。
【0151】
(実施例8)
<セル作製>
実施例3で作製したラジカル化合物(A)を含有する正極の代わりに、実施例5で作製したラジカル化合物(C)を含有する正極を用いた以外は、実施例6と同様の方法によりアルミラミネートセルを作製した。
【0152】
<充放電評価>
以上のように作製したアルミラミネートセルにコンディショニング充放電を行い、1mAの電流で4Vまで充電を行った。その後同じく1mAの電流で放電を行い3.0Vまでの容量を測定した。その結果、電圧平坦部が3.5V付近で観測され、電極活物質あたりの放電容量は117mAh/gだった。さらに、50℃の温度において電圧範囲4.0〜3.0Vで充放電を50回繰り返した結果、(50回目の放電容量)/(1回目の放電容量)は95%だった。次に、アルミラミネートセルを0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、5.0mAの定電流で放電を行った。(5.0mA放電における放電容量)/(0.1mA放電における放電容量)は93%だった。
【0153】
(実施例9)
<セル作製>
実施例3で作製したラジカル化合物(A)を含有する正極の代わりに、実施例5で作製したラジカル化合物(D)を含有する正極を用いた以外は、実施例6と同様の方法によりアルミラミネートセルを作製した。
【0154】
<充放電評価>
以上のように作製したアルミラミネートセルにコンディショニング充放電を行い、1mAの電流で4Vまで充電を行った。その後同じく1mAの電流で放電を行い3.0Vまでの容量を測定した。その結果、電圧平坦部が3.5V付近で観測され、電極活物質あたりの放電容量は95mAh/gだった。さらに、50℃の温度において電圧範囲4.0〜3.0Vで充放電を50回繰り返した結果、(50回目の放電容量)/(1回目の放電容量)は95%だった。次に、アルミラミネートセルを0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、5.0mAの定電流で放電を行った。(5.0mA放電における放電容量)/(0.1mA放電における放電容量)は93%だった。
【0155】
(比較例1)
実施例1と同様な方法で、ただし、ラジカル化合物(A)を用いる代わりにグラファイト粉末の使用量を900mgに増やして、コイン型電池を作製した。作製した電池に対して、実施例1と同様にして充放電を行った。その結果、放電時に電圧平坦部はみられず電圧は急速に低下し、電池として十分に動作しなかった。
【0156】
(比較例2)
実施例1と同様な方法で、ただし、ラジカル化合物(A)の代わりにLiCoO2を用いて、コイン型電池を作製した。作製した電池に対して、実施例1と同様にして充放電を行い、電極活物質あたりの放電容量を計算したところ、123mAh/gであった。4.0〜3.0Vの範囲で充放電を50回繰り返した結果、(50回目の放電容量)/(1回目の放電容量)は96%だった。しかしながら、(5.0mA放電における放電容量)/(0.1mA放電における放電容量)は27%と、放電電流値を大きくすると大幅に容量が低下した。
【0157】
(比較例3)
実施例1と同様な方法で、ただし、ラジカル化合物(A)の代わりにポリ[ビニルオキシ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシル−N−オキシル)]を用いて、コイン型電池を作製した。作製した電池に対して、実施例1と同様にして充放電を行い、電極活物質あたりの放電容量を計算したところ、初回の放電容量は123mAh/gであった。しかしながら、4.0〜3.0Vの範囲で充放電を50回繰り返した結果、(50回目の放電容量)/(1回目の放電容量)は55%に低下した。また、(5.0mA放電における放電容量)/(0.1mA放電における放電容量)は70%であった。
【0158】
(比較例4)
実施例1と同様の方法で、ただし、ラジカル化合物(A)の代わりに、ポリ[メタクリロイルオキシ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシル−N−オキシルを用いて、コイン型電池を作製した。作製した電池に対して、実施例1と同様にして充放電を行い、電極活物質あたりの放電容量を計算したところ、初回の放電容量は101mAh/gであった。4.0〜3.0Vの範囲で充放電を50回繰り返した結果、(50回目の放電容量)/(1回目の放電容量)は60%だった。また、(5.0mA放電における放電容量)/(0.1mA放電における放電容量)は50%であった。
【0159】
以下の表に、実施例および比較例を示す。
【0160】
【表1】

【0161】
表1の結果より、一般式(1)で表される部分構造を有するラジカル化合物を電極活物質として用いた二次電池は、優れたサイクル特性を有し、かつ高エネルギー密度及び大出力となることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明のラジカル化合物を電極活物質として用いた二次電池は、高エネルギー密度と高い出力特性、低環境負荷、高い安全性を同時に達成できるため、電気自動車、ハイブリッド電気自動車などの駆動用または補助用蓄電源、または高い出力が求められる各種携帯電子機器の電源、ソーラーエネルギーや風力発電などの各種エネルギーの蓄電装置、あるいは家庭用電気器具の蓄電源などとして用いることができる
【符号の説明】
【0163】
1 正極
1A 正極集電体
1B 正極リード
2 負極
2A 負極集電体
2B 負極リード
3 リチウム供給源
3A リチウム供給源集電体
4 セパレータ
5 外装体
6 正極
6A 正極集電体兼外装体
7 負極
7A 負極集電体兼外装体
8 セパレータ
9 絶縁パッキン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される部分構造を有するラジカル化合物。
【化1】

(一般式(1)において、Rは一般式(2)で表される基を表す。)
【化2】

(一般式(2)において、Yは含窒素複素環が5〜7員環を形成する基を表す。R1〜R4はそれぞれ異なっていてもよく、炭素数1から3のアルキル基を示す。Xは、炭素数0から12のアルキレン基、又はカルボニル基を表す。)。
【請求項2】
下記一般式(3)で表されるカゴ型シルセスキオキサン構造を有する、請求項1に記載のラジカル化合物。
【化3】

(一般式(3)において、Rは上記一般式(2)で表される基を表す。)
【請求項3】
下記一般式(4)で表されるラダ−型シロキサン構造を有する、請求項1に記載のラジカル化合物。
【化4】

(一般式(4)において、Rは上記一般式(2)で表される基を表す。nは、5〜1000の整数を表す。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のラジカル化合物を含有する電極活物質。
【請求項5】
少なくとも、正極、負極、及び電解質を有する二次電池において、正極及び負極の少なくとも一方の電極活物質として、請求項4に記載の電極活物質を用いる二次電池。
【請求項6】
前記電極活物質が正極活物質である請求項5に記載の二次電池。
【請求項7】
リチウム電池である請求項5又は6に記載の二次電池。
【請求項8】
下記一般式(5)で表される部分構造を有するケイ素化合物と、下記一般式(6)で表されるラジカル化合物を反応させて、下記一般式(1)で表される部分構造を有するラジカル化合物を得る、ラジカル化合物の製造方法。
【化5】

【化6】

(一般式(6)において、Yは含窒素複素環が5〜7員環を形成する基を表す。R1〜R4はそれぞれ異なっていてもよく、炭素数1から3のアルキル基を示す。Xは、水素原子、カルボキシル基、又は炭素数1から12のアルケニル基を表す。)。
【化7】

(一般式(1)において、Rは一般式(2)で表される基を表す。)
【化8】

(一般式(2)において、Yは含窒素複素環が5〜7員環を形成する基を表す。R1〜R4はそれぞれ異なっていてもよく、炭素数1から3のアルキル基を示す。Xは、炭素数0から12のアルキレン基、又はカルボニル基を表す。)。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−219109(P2012−219109A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82778(P2011−82778)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】