説明

ラジカル重合性基を有する有機ケイ素化合物の製造方法

【課題】 ラジカル重合性基を有するケイ素化合物を、その製造中にゲル化することなく安定して製造する方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン塩を重合禁止剤として使用する、ラジカル重合性基(メタクリロイル基、アクリロイル基、ビニル基、スチリル基、アリル基等)を有するケイ素化合物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加水分解縮合反応を利用して、ラジカル重合性基を有する有機ケイ素化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機・無機の両方の性質を併せ持つハイブリッド材料の原料として、種々の反応性官能基を有するケイ素化合物が提案されている。例えば、特許文献1には、光カチオン硬化性の、オキセタニル基を有するシルセスキオキサン化合物が開示されている。また、特許文献2には、ラジカル重合性の(メタ)アクリロイル基を有する含ケイ素硬化性樹脂組成物が開示されている。更に、特許文献3には、貯蔵安定性を改良した(メタ)アクリロイル基を有するポリオルガノシロキサンの製造方法が開示されている。
【0003】
上記の(メタ)アクリロイル基のようなラジカル重合性基を有する化合物を製造或いは貯蔵する際には、通常、重合禁止剤が添加される。これは、製品の更なる重合を防止することで、製造中においては安全に且つ効率良く製品を得るためであり、貯蔵中においては製品の貯蔵安定性を改善するためである。
重合禁止剤としては、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン等のハイドロキノン類、p−ベンゾキノン等のキノン類、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン塩等が広く用いられている。特許文献4には、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン塩を用いて、イソシアネートエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等の、(メタ)アクリロイル基と、イソシアネート基、エポキシ基等の反応基とを有する化合物を、(メタ)アクリロイル基による重合を回避しながら反応させる方法が開示されている。尚、特許文献2及び特許文献3には、重合禁止剤について何ら開示されていない。
【0004】
【特許文献1】特開平11−29640号公報
【特許文献2】特開2000−234024号公報
【特許文献3】特開2005−23257号公報
【特許文献4】特開平7−138307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ラジカル重合性基を有するケイ素化合物が、製造中にゲル化することなく安定して得られる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意検討した結果、特定の重合禁止剤を用いることにより、シラノール基の関与する反応においても、ラジカル重合性基を有するケイ素化合物が容易に得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は以下に示される。
1.N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン塩を重合禁止剤として使用することを特徴とする、ラジカル重合性基を有するケイ素化合物の製造方法。
2.ラジカル重合性基を有するケイ素化合物が、下記式(1)で表される有機ケイ素化合物[A]の加水分解縮合物、或いは、該有機ケイ素化合物[A]と、下記式(2)で表される有機ケイ素化合物[B]、及び/又は、下記式(3)で表される有機ケイ素化合物を反応系中に発生させる化合物[C]との加水分解共縮合物である、上記1に記載のラジカル重合性基を有するケイ素化合物の製造方法。
【化1】

(式中、Rはラジカル重合性基を有する有機基であり、Xは加水分解性基である。)
(RSiX4−n (2)
(式中、Rはアルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はパーフルオロアルキル基であり、Xは加水分解性基であり、nは0〜2の整数である。)
【化2】

(式中、Rはアルキル基、シクロアルキル基又はアリール基である。)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ラジカル重合性基を有するケイ素化合物が、製造中にゲル化することなく安定して得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明の製造方法は、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン塩を重合禁止剤として使用し、ラジカル重合性基を有するケイ素化合物(以下、「ケイ素化合物[Z]」という。)を製造するものである。このN−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン塩を用いることで、ケイ素化合物[Z]の製造に用いた有機溶媒を除去する際に、該ケイ素化合物[Z]のラジカル重合を防止することができる。ラジカル重合が進行すると、ケイ素化合物[Z]がゲル化し、使用できなくなる。
【0010】
上記のN−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン塩は、金属塩及びアンモニウム塩のいずれでもよく、ケイ素化合物[Z]の製造時においては、1種単独で或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
金属塩としては、アルミニウム、銅、鉄(III)、スズ、亜鉛、マグネシウム等の各塩が挙げられるが、より安定なキレートであるアルミニウム塩が好ましい。このアルミニウム塩の構造を、下記式(4)に示す。
【0011】
【化3】

【0012】
上記重合禁止剤は、通常、単量体等の重合用原料化合物による反応が完結した時点等において、反応系に添加される。その使用量は、ケイ素化合物[Z]が有するラジカル重合性基の種類及びその量により選択されるが、通常、ケイ素化合物[Z]の質量に対して、0.5〜10,000ppm、好ましくは5〜500ppmである。この重合禁止剤の使用量が多すぎると、ケイ素化合物[Z]を含む生成物が着色したり、該ケイ素化合物[Z]を用いて形成される硬化物の物性が低下する場合がある。
【0013】
本発明において、ケイ素化合物[Z]を製造するために用いる原料化合物は、特に限定されないが、ラジカル重合性基を有するケイ素化合物が用いられる。尚、このラジカル重合性基としては、メタクリロイル基、アクリロイル基、ビニル基、スチリル基、アリル基等が挙げられる。これらは、1種単独で或いは2種以上が1つ以上結合していてよい。また、このケイ素化合物において、ラジカル重合性基は、ケイ素原子と直接結合していてよいし、他の原子又は官能基を介して結合していてもよい。
【0014】
本発明において、好ましいケイ素化合物[Z]は、下記式(1)で表される有機ケイ素化合物[A]の加水分解縮合物(以下、「ケイ素化合物[Z1]」という。)、或いは、該有機ケイ素化合物[A]と、下記式(2)で表される有機ケイ素化合物[B]、及び/又は、下記式(3)で表される有機ケイ素化合物(以下、「有機ケイ素化合物[C’]」という。)を反応系中に発生させる化合物[C]との加水分解共縮合物(以下、「ケイ素化合物[Z2]」という。)である。
【0015】
【化4】

(式中、Rはラジカル重合性基を有する有機基であり、Xは加水分解性基である。)
(RSiX4−n (2)
(式中、Rはアルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はパーフルオロアルキル基であり、Xは加水分解性基であり、nは0〜2の整数である。)
【化5】

(式中、Rはアルキル基、シクロアルキル基又はアリール基である。)
【0016】
有機ケイ素化合物[A]を表す上記式(1)において、Rはラジカル重合性基を有する有機基であり、メタクリロイル基、アクリロイル基、ビニル基、スチリル基及びアリル基から選ばれる少なくとも1種を含む炭素数20以下の有機官能基である。これらのうち、メタクリロイル基又はアクリロイル基を有する炭素数20以下の有機官能基(下記式(5)参照)が好ましい。
【化6】

(式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数1〜6のアルキレン基である。)
【0017】
上記式(5)において、Rは炭素数1〜6のアルキレン基であり、好ましくは炭素数1〜3のアルキレン基であり、特に好ましくは炭素数1のメチレン基又は炭素数3のトリメチレン基である。従って、上記式(5)で表される好ましい有機官能基は、3−(メタクリロキシ)メチル基、3−(アクリロキシ)メチル基、3−(メタクリロキシ)プロピル基及び3−(アクリロキシ)プロピル基である。
尚、上記式(5)において、Rの炭素数が2以上であると、入手或いは合成が困難となり、また、Rの炭素数が7以上であると、ケイ素化合物[Z]を用いて形成される硬化物の表面硬度が十分でない場合がある。
【0018】
尚、上記式(1)において、ラジカル重合性基Rは、ケイ素原子と直接結合していてよいし、アルキレン基、フェニレン基、エステル基等の官能基を介して間接的に結合していてもよい。
【0019】
また、上記式(1)において、加水分解性基Xは、加水分解性を有する官能基であれば、特に限定されない。例えば、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数3〜10のシクロアルコキシ基、炭素数6〜10のアリールオキシ基等が挙げられる。これらのうち、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基が好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−及びi−プロポキシ基、n−、i−及びt−ブトキシ基等が挙げられる。シクロアルコキシ基としては、シクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。また、アリールオキシ基としては、フェニルオキシ基等が挙げられる。上記加水分解性基Xとしては、加水分解反応が制御しやすいことから、炭素数1〜3のアルコキシ基がより好ましく、メトキシ基及びエトキシ基が特に好ましい。
尚、上記式(1)において、各Xは、互いに同一であってよいし、異なってもよい。
【0020】
上記式(1)で表される有機ケイ素化合物[A]を例示すると、3−(アクリロキシ)メチルトリメトキシシラン、3−(アクリロキシ)メチルトリエトキシシラン、3−(アクリロキシ)エチルトリメトキシシラン、3−(アクリロキシ)エチルトリエトキシシラン、3−(アクリロキシ)プロピルトリメトキシシラン、3−(アクリロキシ)プロピルトリエトキシシラン、3−(メタクリロキシ)メチルトリメトキシシラン、3−(メタクリロキシ)メチルトリエトキシシラン、3−(メタクリロキシ)エチルトリメトキシシラン、3−(メタクリロキシ)エチルトリエトキシシラン、3−(メタクリロキシ)プロピルトリメトキシシラン、3−(メタクリロキシ)プロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらのうち、3−(アクリロキシ)プロピルトリメトキシシラン、3−(アクリロキシ)プロピルトリエトキシシラン、3−(メタクリロキシ)プロピルトリメトキシシラン及び3−(メタクリロキシ)プロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0021】
次に、有機ケイ素化合物[B]を表す上記式(2)において、Rはアルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はフルオロアルキル基である。
がアルキル基である場合、好ましい炭素数は1〜20であり、より好ましくは1〜12、更に好ましくは1〜6である。
がシクロアルキル基である場合、好ましい炭素数は3〜10であり、より好ましくは5〜8、更に好ましくは5〜6である。
がアリール基である場合、好ましい炭素数は6〜10であり、より好ましくは6〜8、更に好ましくは6〜7である。
【0022】
また、Rがフルオロアルキル基である場合、このフルオロアルキル基は、アルキル基における水素原子の一部がフッ素原子に置換されたものであってよいし、水素原子の全てがフッ素原子に置換されたパーフルオロアルキル基であってよい。好ましい炭素数は2〜20であり、より好ましくは2〜12、更に好ましくは2〜10である。
【0023】
がフルオロアルキル基である場合、下記式(6)で表される官能基が好ましい。
−R−(CF−CF (6)
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキレン基であり、mは0〜10の整数である。)
【0024】
また、上記式(2)において、加水分解性基Xは、加水分解性を有する官能基であれば、特に限定されない。この加水分解性基Xは、有機ケイ素化合物[A]を表す上記式(1)における加水分解性基Xと同様とすることができる。
【0025】
上記式(2)において、nは0〜2の整数である。nの値にかかわらず、各Xは、互いに同一であってよいし、異なってもよい。また、nが2である場合、各Rは、互いに同一であってよいし、異なってもよい。
【0026】
上記式(2)で表される有機ケイ素化合物[B]を以下に例示する。
nが0である場合、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられる。
nが1である場合、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、1H,1H,2H,2H−パーフルオロオクチルトリメトキシシラン、1H,1H,2H,2H−パーフルオロオクチルトリエトキシシラン、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリメトキシシラン、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリエトキシシラン等が挙げられる。
また、nが2である場合、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0027】
次に、有機ケイ素化合物[C’]は、化合物[C]を用いた反応系中に、該化合物[C]が加水分解して発生する化合物である。尚、上記式(3)で表される有機ケイ素化合物[C’]が反応系中に発生していることは、ガスクロマトグラフィーや液相クロマトグラフィー等により確認することができる。
【0028】
有機ケイ素化合物[C’]を表す上記式(3)において、Rはアルキル基、シクロアルキル基又はアリール基である。従って、この化合物[C’]は、ラジカル重合性基を有さず、1つのシラノール基を有する有機ケイ素化合物である。
【0029】
がアルキル基である場合、好ましい炭素数は1〜6であり、より好ましくは1〜4である。アルキル基の好ましい例は、メチル基、エチル基、n−及びi−プロピル基、n−、i−及びt−ブチル基である。
がシクロアルキル基である場合、好ましい炭素数は3〜10であり、より好ましくは5〜8である。アルキル基の好ましい例は、シクロへキシル基である。
また、Rがアリール基である場合、好ましい炭素数は6〜10であり、より好ましくは6〜8である。アリール基の好ましい例は、フェニル基である。
【0030】
上記式(3)において、各Rは、互いに同一であってよいし、異なってもよい。
【0031】
上記式(3)で表される有機ケイ素化合物[C’]を例示すると、トリメチルシラノール、トリエチルシラノール、トリプロピルシラノール、トリブチルシラノール、トリフェニルシラノール、ベンジルジメチルシラノール、ジフェニルメチルシラノール、ブチルジメチルシラノール、フェニルジメチルシラノール等が挙げられる。
【0032】
従って、上記有機ケイ素化合物[C’]を反応系中に発生させる化合物[C]としては、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリプロピルメトキシシラン、トリプロピルエトキシシラン、トリメチルシリルアセテート、トリメチルシリルベンゾエート、トリエチルシリルアセテート、トリエチルシリルベンゾエート、ベンジルジメチルメトキシシラン、ベンジルジメチルエトキシシラン、ジフェニルメトキシメチルシラン、ジフェニルエトキシメチルシラン、エトキシトリフェニルシラン、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサエチルジシロキサン、ヘキサプロピルジシロキサン、1,3−ジブチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3−ジフェニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3−ジメチル−1,1,3,3−テトラフェニルジシロキサン等が挙げられる。
【0033】
上記化合物[C]は、反応中に水と接触すると、加水分解反応が起こり、上記一般式(3)で表される有機ケイ素化合物[C’]が反応系中に発生する。反応系に、加水分解触媒が共存している場合は、通常、この加水分解反応が加速される。
【0034】
本発明における有機ケイ素化合物[Z]のうち、ケイ素化合物[Z1]は、上記式(1)で表される有機ケイ素化合物[A]の1種以上を加水分解縮合して得られた重合体である。
また、ケイ素化合物[Z2]は、下記(i)〜(iii)で示される重合体である。
(i)有機ケイ素化合物[A]の1種以上と、有機ケイ素化合物[B]の1種以上とを加水分解共縮合して得られた重合体。
(ii)有機ケイ素化合物[A]の1種以上と、有機ケイ素化合物[B]の1種以上と、化合物[C]の1種以上とを加水分解共縮合して得られた重合体。
(iii)有機ケイ素化合物[A]の1種以上と、化合物[C]の1種以上とを加水分解共縮合して得られた重合体。
【0035】
上記(i)及び(ii)においては、有機ケイ素化合物[B]の使用量を変化させることにより、得られるケイ素化合物[Z2]中のラジカル重合性基の含有量も変化し、該ケイ素化合物[Z2]を含む組成物の硬化性、更には、その硬化物の物性を改良することができる。
【0036】
また、化合物[C]を用いる上記の(i)及び(iii)においては、化合物[C]は、有機ケイ素化合物[A]及び/又は有機ケイ素化合物[B]と一緒に仕込み、加水分解共縮合(以下、「一括仕込み法」という。)してよいし、有機ケイ素化合物[A]及び/又は有機ケイ素化合物[B]を加水分解(共)縮合させた後に、化合物[C]を添加して加水分解共縮合(以下、「後添加法」という。)してもよい。
一括仕込み法により製造する場合には、加水分解縮合物の粘度を低くすることができ、縮合物の取り扱いが容易となる。また、後添加法により製造する場合には、縮合物は高分子量であるが、比較的粘度が低く、作業性が良好である。
【0037】
本発明における有機ケイ素化合物[Z]は、通常、一括仕込み法又は後添加法により、有機ケイ素化合物[A]、有機ケイ素化合物[B]、及び/又は、[C]を有機溶媒中で加水分解縮合する工程と、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン塩を添加する工程と、使用した有機溶媒を除去するという工程とを含む製造方法により得られる。
【0038】
加水分解縮合工程における水の使用量は、有機ケイ素化合物[A]、有機ケイ素化合物[B]又は化合物[C]に含まれる加水分解性基を完全に加水分解するのに必要な水の量を1当量とすると、好ましくは0.5〜10当量、より好ましくは1〜5当量に相当する量である。
【0039】
加水分解縮合工程における反応系のpHは、好ましくは0.5〜4.5の酸性雰囲気であり、より好ましくは0.5〜3.0である。pHが0.5未満であると、(メタ)アクリル酸エステル部分の加水分解が併発し、生成物の硬化性が低下する場合がある。また、pHが4.5を超えると、例えば、弱酸性下では加水分解及び縮合反応の速度が低下し、製造に長時間を要する場合がある。
【0040】
上記の酸性雰囲気とするためには、例えば、塩酸、硫酸、燐酸、p−トルエンスルホン酸、安息香酸、酢酸、乳酸、炭酸等の酸性触媒を用いることができる。これらのうち、塩酸が好ましい。また、これらの酸性触媒は、1種単独で或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
加水分解時に用いる有機溶媒は特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、トルエン、1,4−ジオキサン、ヘキサン、リグロイン等が挙げられる。これらは、1種単独で或いは2種以上を組み合わせて用いることができるが、反応系を均一な溶液にすることが好ましい。
【0042】
加水分解縮合工程における反応温度は、好ましくは10〜120℃、より好ましくは20〜80℃である。また、反応時間は、好ましくは2〜30時間であり、より好ましくは4〜24時間である。
【0043】
加水分解縮合工程の後、反応系に、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン塩を重合禁止剤として添加する。添加の条件は、特に限定されないが、通常、使用した溶媒の沸点より低い温度で、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン塩を直接反応系に添加した後、攪拌して均一に溶解させる。
【0044】
重合禁止剤の添加後、有機溶媒を除去するが、この工程は、常圧下又は減圧下で、通常の蒸留操作により行われる。また、この有機溶媒除去工程においては、有機溶媒とともに、反応系に残存する水、加水分解性基の加水分解により生成した化合物(例えば、加水分解性基がエトキシ基であった場合にはエタノール)等が、一緒に除去される。
【0045】
上記の方法によって得られたケイ素化合物[Z]は、有機ケイ素化合物[A](及び有機ケイ素化合物[B])に結合した加水分解性基X(及び加水分解性基X)が加水分解して形成された、三次元のシロキサン結合(Si−O−Si)を骨格に含む。また、このケイ素化合物[Z]は、ハシゴ状、カゴ状又はランダム状の構造を有するシルセスキオキサン化合物を含む。このシルセスキオキサン化合物は、1種単独でもよいし、構造又は分子量の異なる2種以上を含んでもよい。
【0046】
上記ケイ素化合物[Z]は、有機ケイ素化合物[A](及び有機ケイ素化合物[B])が有する加水分解性基のうち90%以上が縮合されていることが好ましく、加水分解性基の実質的に全てが縮合されていることが更に好ましい。残存する加水分解性基の割合が10%を超えると、シルセスキオキサン構造が十分に形成されないため硬化物の硬度が低下したり、組成物の貯蔵安定性が低下したりすることがある。ここで「加水分解性基の全てが実質的に縮合されている」とは、例えば、NMRチャートにおいて、得られたポリオルガノシロキサンに、加水分解性基に基づくピークが観察されないことにより確認することができる。
【0047】
また、上記の方法によって得られたケイ素化合物[Z]は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)による数平均分子量が、好ましくは600〜5,000、更に好ましくは1,000〜3,000である。この数平均分子量が600未満の場合、このケイ素化合物[Z]を含む組成物から形成される硬化物に十分な硬度が得られないことがある。一方、数平均分子量が5,000を超えると、ケイ素化合物[Z]の粘度が高くなり過ぎて、取り扱い時の作業性が低下することがある。
【0048】
本発明の製造方法により得られた有機ケイ素化合物は、重合禁止剤として、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン塩を用いていることで、所望の構造及び物性が低下することなく、硬化性に優れた硬化性組成物として有用であり、該組成物により、硬度、耐擦傷性及び耐熱性に優れた硬化物を形成することができる。
【実施例】
【0049】
本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。尚、下記の数平均分子量は、ゲルパーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算値であり、粘度は、回転粘度計による測定値である。
【0050】
実施例1
撹拌機及び温度計を備えた反応器に、3−(アクリロキシ)プロピルトリメトキシシラン131.2g(0.56mol)、メチルトリエトキシシラン49.9g(0.28mol)、ヘキサメチルジシロキサン22.7g(0.14mol)及びイソプルピルアルコール80gを仕込み、原料混合物とした。その後、この原料混合物を撹拌しながら、0.8%塩酸水溶液50.9g(12mmolのHCl及び2.80molのHOからなる。)を滴下して反応を開始した。更に、25℃で撹拌を続け、反応の進行をGPCで追跡し、原料のケイ素化合物がほぼ消失した時点(塩酸水溶液の滴下開始から24時間後)で反応完結とした。
次いで、反応系に、重合禁止剤として、下記式(7)で表されるN−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン・アルミニウム塩を200ppm添加して撹拌、溶解させた。その後、減圧下に溶媒を留去し、ラジカル重合性基として、アクリロイル基を有し、微黄色透明であり、数平均分子量が1,400であり、且つ、粘度が1,110mPa・sの縮合物を得た。
【0051】
【化7】

【0052】
比較例1
重合禁止剤として、ハイドロキノン200ppmを用いた以外は、実施例1と同様にして縮合物を得た。溶媒留去後の縮合物はゲル化しており、流動性を失っていた。このゲル化は、ハイドロキノンに含まれるヒドロキシル基が、反応中に生成するシラノール基と何らかの相互作用を起こし、重合禁止能が喪失又は低下したために、分子間架橋が進んだものと推定している。
【0053】
実施例2
撹拌機及び温度計を備えた反応器に、3−(メタクリロキシ)プロピルトリメトキシシラン536.4g(2.16mol)、メチルトリエトキシシラン192.6g(1.08mol)、ヘキサメチルジシロキサン87.7g(0.54mol)及びイソプルピルアルコール356gを仕込み、原料混合物とした。その後、この原料混合物を攪拌しながら、0.8%塩酸水溶液196.2gを滴下して反応を開始した。更に、25℃で撹拌を続け、反応の進行をGPCで追跡し、原料のケイ素化合物がほぼ消失した時点(塩酸水溶液の滴下開始から24時間後)で反応完結とした。
次いで、反応系に、実施例1で用いたN−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン塩を200ppm添加して撹拌、溶解させた。その後、減圧下に溶媒を留去し、ラジカル重合性基として、メタクリロイル基を有し、無色透明であり、数平均分子量が1,500であり、且つ、粘度が1,060mPa・sの縮合物を得た。
【0054】
比較例2
重合禁止剤として、ハイドロキノン200ppmを用いた以外は、実施例2と同様にして縮合物を得た。溶媒留去後の縮合物はゲル化しており、流動性を失っていた。
【0055】
実施例3
撹拌機と温度計を備えた反応器に、3−(アクリロキシ)プロピルトリメトキシシラン49.2g(0.21mol)、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリエトキシシラン42.7g(0.07mol)及びイソプルピルアルコール154gを仕込み、原料混合物とした。その後、この原料混合物を攪拌しながら、0.8%塩酸水溶液15.3gを滴下して反応を開始した。更に、25℃で撹拌を続け、反応の進行をGPCで追跡し、原料のケイ素化合物がほぼ消失した時点(塩酸水溶液の滴下開始から24時間後)で反応完結とした。
次いで、反応系に、実施例1で用いたN−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン塩を200ppm添加して撹拌、溶解させた。その後、減圧下に溶媒を留去し、ラジカル重合性基として、アクリロイル基を有し、無色透明であり、数平均分子量が1,500であり、且つ、粘度が4,500mPa・sの縮合物を得た。
【0056】
比較例3
重合禁止剤として、ハイドロキノン1,000ppmを用いた以外は、実施例1と同様にして縮合物を得た。溶媒留去後の縮合物はゲル化しており、流動性を失っていた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の製造方法により得られた有機ケイ素化合物は、重合禁止剤として、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン塩を用いていることで、所望の構造及び物性が低下することなく、硬化性に優れた硬化性組成物として有用であり、該組成物により、硬度、耐擦傷性及び耐熱性に優れた硬化物を形成することができる。従って、ハードコート剤、反射防止膜等の各種基材の保護膜、光導波路等に好適である。また、皮膜に無機成分の含有比率を上げることができるため、レジストの原料としても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン塩を重合禁止剤として使用することを特徴とする、ラジカル重合性基を有するケイ素化合物の製造方法。
【請求項2】
ラジカル重合性基を有するケイ素化合物が、下記式(1)で表される有機ケイ素化合物[A]の加水分解縮合物、或いは、該有機ケイ素化合物[A]と、下記式(2)で表される有機ケイ素化合物[B]、及び/又は、下記式(3)で表される有機ケイ素化合物を反応系中に発生させる化合物[C]との加水分解共縮合物である、請求項1に記載のラジカル重合性基を有するケイ素化合物の製造方法。
【化1】

(式中、Rはラジカル重合性基を有する有機基であり、Xは加水分解性基である。)
(RSiX4−n (2)
(式中、Rはアルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はパーフルオロアルキル基であり、Xは加水分解性基であり、nは0〜2の整数である。)
【化2】

(式中、Rはアルキル基、シクロアルキル基又はアリール基である。)

【公開番号】特開2006−274082(P2006−274082A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−96297(P2005−96297)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】