説明

ラピッドプロトタイプ造形物の製造方法およびラピッドプロトタイプ造形物

【課題】 耐食性と高強度(特に高温強度)を備えた任意形状のラピッドプロトタイプ造形物を得る。
【解決手段】 ラピッドプロトタイプ造形物の主成分となる粉末状の骨格金属1と粉末状のNi基合金2との混合体3を用いて成形した予備成形体(圧粉体)A1を、加熱手段11を備えた真空炉10内にセットする。真空雰囲気下で加熱加圧して、Ni基合金をバインダとして骨格金属1を拡散接合により一体化し、ラピッドプロトタイプ造形物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属物のプロトタイプとしての造形物を迅速に製造するための方法、すなわちラピッドプロトタイプ造形物の製造方法と、得られるラピッドプロトタイプ造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製の機械部品などを製造するに際して、事前に、プロトタイプとしての造形物を作ることが行われる。プロトタイプの製造は種々の方法で行われるが、複雑な形状であっても比較的容易に作ることができることから、骨格金属粉末とバインダとしての金属粉末あるいは樹脂材料などの混合物をレーザ光を用いて所要形状に焼結しながら、積層状に積み上げて立体造形物としていく方法が提案されている(特許文献、特許文献2など)。また、粉末と成形としては、圧縮による成形法が知られている(非特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−249804号公報
【特許文献2】特願平8−238768号公報
【非特許文献1】千々岩健児編/千々岩建児・長尾高明・木内学・畑村洋太郎著「機械製作法通論上」東京大学出版会1987年10月15日、第107〜112頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これまで、プロトタイプ造形物を作る目的は、主に、当該造形物用の成形用金型を得るため、あるいは当該造形物の外観構成を確認するためにあり、造形物に対する強度面などからの配慮は特になされてきていないのが、現状である。上記した特許文献に記載されるレーザ光を用いて金属粉末を焼結成形していく方法で得られるラピッドプロトタイプ立体造形物の場合、あるいは圧縮成形による場合も同様であり、高い強度を持つプロトタイプ造形物は得られない。
【0004】
そのために、高腐食環境下、高圧環境下あるいは高温環境下で使用されるような機械部品を新規に作るような場合には、実部材と同じ材料を用いて機械加工によりプロトタイプを作り、それを実作業環境下で試験的に使用しながら、形状の不都合等を解消していくのが通常であり、最終的な実部材を得るまでに、多くの時間と経費とを必要としている。
【0005】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、高い耐食性と機械的強度を兼ね備えたプロトタイプ造形物を容易に作り出すことのできる新たなラピッドプロトタイプ造形物の製造方法とラピッドプロトタイプ造形物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決すべく本発明者らはプロトタイプ造形物の製造方法について多くの実験と研究を行うことにより、Ni基合金をバインダとして用い、プロトタイプ造形物の主成分となる骨格金属を例えば粉末焼結による拡散接合にて接合一体化することにより、高い強度と高い耐腐食性を備えた立体構造物が得られることを知見して、本発明をなすに至った。
【0007】
すなわち、本発明によるラピッドプロトタイプ造形物の製造方法は、造形物の主成分となる骨格金属を、Ni基合金をバインダとして拡散接合により立体物として造形することを特徴とする。また、本発明によるラピッドプロトタイプ造形物は、造形物の主成分となる骨格金属がNi基合金をバインダとする拡散接合により立体物として一体化されていることを特徴とする。拡散接合の方法にも特に制限はないが、予備成形品を真空炉などの真空雰囲気内で例えば粉末焼結により加熱加圧することにより、容易にそれを行うことができる。
【0008】
本発明において、骨格金属に特に制限はなく、得ようとするラピッドプロトタイプ造形物に応じて、Feなどの金属一般から適宜選択することができる。また、Ni基合金も特に制限はなく、例えば、Cr,Fe,B,C,SiとNiとからなる合金などが挙げられる。Ni基合金の組成にもよるが、従来知られた金属のり(ろう)と共に用いることは、結合性を高めるために好ましい。
【0009】
本発明によれば、酸化し難いNi基合金をバインダとして骨格金属を接合するために、耐酸化効果が得られ、耐食性に優れたラピッドプロトタイプ造形物を得ることができる。また、溶融温度の高いNi基合金をバインダとして骨格金属を核酸接合により接合一体化するために、融点の高い接合状態が得られ、温度強度にも優れたラピッドプロトタイプ造形物を得ることができる。
【0010】
本発明において、拡散接合させる前の予備成形品を調整する方法に特に制限はないが、粉末状の骨格金属と粉末状のNi基合金(および必要な場合には金属のりとの混合物)との混合体を成形型内に流し込んで予備成形するようにしてもよく、板状である複数枚の骨格金属の間にそれぞれシート状とされたNi基合金(および必要な場合には金属のりとの混合物)とを挟持した状態としたものから予備成形物を機械加工等により形成するようにしてもよい。いずれの場合も、そのような予備成形品を、好ましくは前記したように真空炉などの真空雰囲気内で加熱加圧することにより、所望のラピッドプロトタイプ造形物とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐食性と高強度(特に高温強度)を備えた任意形状のラピッドプロトタイプ造形物を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明を説明する。図1は本発明で用いる骨格金属粉末とNi基合金粉末とからなる成形用混合粉体を説明するための模式図である。また、図2は拡散接合させる前の予備成形品を作る一態様を説明するための図であり、図3は作られた予備成形品を拡散接合により一体化してラピッドプロトタイプ造形物とする一態様を説明するための図である。
【0013】
この例において、ラピッドプロトタイプ造形物の主成分となる骨格金属としてFeを用い、Ni基合金として、Cr(14.0%),Fe(4.5%),B(3.0%),C(0.7%),Si(4.5%),Ni(Bal)の組成のものを用いる。この成分組成のNi基合金は、融点温度が約970〜1040℃、耐酸化温度が約1205℃である。この骨格金属の粉体1とNi基合金の粉体2とを混合して、図1に模式的に示すように成形用混合粉体3とする。
【0014】
この例において、得ようとするラピッドプロトタイプ造形物Aは円筒体であり、そのために、予備成形用金型4は、図2に示すように、上記した成形用混合粉体3の収容容器5と、円筒状のダイス6と、その中に入り込む下パンチ7および上パンチ8と、下パンチ7を貫通するコアロッド9とを備える。図2aに示すように、下パンチ7を所要位置まで引き下げておき、ダイス6内部に成形用混合粉体3を流し込んで、ダイス6の上面まで充填する。次いで、図1bに示すように、下パンチ7と上パンチ8とで充填した成形用混合粉体3を加圧し、その後、下パンチ7を押し上げて、図1cに示すように、圧粉体(予備成形品)A1を取り出す。
【0015】
取り出した圧粉体A1を、図3に示す真空容器10内にセットする。真空容器10内には、セットした圧粉体A1を囲むようにして、熱線ヒータのような適宜の加熱手段11が備えられており、また、セットした圧粉体A1には、少なくとも加熱処理時に不用意に変形するのを防止できるだけの荷重が荷重負荷装置12によりかけられる。
【0016】
図示しない真空ポンプ等を作動して真空容器10内を真空雰囲気とし、加熱手段11により、セットした圧粉体A1を拡散接合が開始する適宜の温度に加熱する。この例では、ほぼ加熱温度は約1000℃程度となる。その状態を所要時間保持することにより、Ni基合金をバインダとして骨格金属(Fe)が拡散接合(すなわち、接合される金属同士が接合面間に生じる原子の拡散をもって接合される現象)により一体化した、耐食性および高温強度に優れたラピッドプロトタイプ造形物Aが得られる。
【0017】
図4は、本発明によるプロトタイプ造形物Aを作るときに用いる予備成形品の他の例を説明するための図である。ここでは、ラピッドプロトタイプ造形物の主成分となる骨格金属として、上記した例のように金属粉体を用いるのではなく、薄板状とされた骨格金属20を用いている。薄板状の骨格金属20は、得ようとするラピッドプロトタイプ造形物の形状に合わせて箇々に裁断され、その多数枚の薄板状の骨格金属20・・が図4aに示すように積層されて、ラピッドプロトタイプ造形物Aとしての形状を形成している。
【0018】
図4bの部分拡大図に示すように、各薄板状の骨格金属20aと20bの間には、上記したNi基合金の粉体(および必要な場合には金属のりとの混合物)2がシート状21とされて挟持されている。シート状とされたNi基合金21の厚みは例えば0.1mm程度である。この薄板状の骨格金属20・・とシート状のNi基合金21・・との積層体で構成される予備成形品A2を、図2に基づき説明したと同様にして真空容器10内にセットし、同様にして加熱手段11により拡散接合が開始する適宜の温度(例えば1000℃程度)に加熱する。この場合にも、Ni基合金2をバインダとして骨格金属が拡散接合することにより一体化し、耐食性および高温強度に優れたラピッドプロトタイプ造形物Aを得ることができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明を説明する。
1.骨格金属であるFe粉末10重量部と、組成が[Cr(14.0%),Fe(4.5%),B(3.0%),C(0.7%),Si(4.5%),Ni(Bal)]であるNi基合金2重量部との混合粉末を調整した。混合粉末を図2に基づき説明したようにして予備成形用金型4内に充填し、圧粉体A1を得た。
【0020】
圧粉体A1を、図2に基づき説明したようにして真空容器10内にセットした。セット後、真空ポンプを作動して内部圧力を10kPa未満にまで減圧した。その状態で、ヒータ11に通電して圧粉体A1を約1000℃に加熱し、その状態を20分以上に亘って維持した。その後、加熱を停止し円筒体A1を真空容器10から取り出した。
【0021】
得られた円筒体A1を沸騰した硫酸・硫酸化銅水溶液の雰囲気に約1時間おいた後、表面腐食発生の有無を観察したところ、表面腐食は観察されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明で用いる骨格金属粉末とNi基合金粉末とからなる成形用混合粉体を説明するための模式図。
【図2】拡散接合させる前の予備成形品を作る一態様を説明するための図。
【図3】予備成形品を拡散接合により一体化してラピッドプロトタイプ造形物とする一態様を説明するための図。
【図4】予備成形品の他の態様を示す模式図。
【符号の説明】
【0023】
A…ラピッドプロトタイプ造形物、A1…圧粉体(予備成形品)、A2…積層体である予備成形品、1…骨格金属の粉体、2…Ni基合金の粉体、3…成形用混合粉体、4…予備成形用金型、5…容器、6…ダイス、7…下パンチ、8…上パンチ、9…コアロッド、10…真空容器、11…熱線ヒータ(加熱手段)、12…荷重負荷装置、20…薄板状とされた骨格金属、21…シート状のNi基合金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨格金属をNi基合金をバインダとして拡散接合により立体物として造形することを特徴とするラピッドプロトタイプ造形物の製造方法。
【請求項2】
粉末状の骨格金属と粉末状のNi基合金との混合体を用いて予備成形したものを拡散接合により立体造形物とすることを特徴とする請求項1に記載のラピッドプロトタイプ造形物の製造方法。
【請求項3】
板状である骨格金属間にシート状とされたNi基合金を挟持して予備成形物とし、それを拡散接合により立体造形物とすることを特徴とする請求項1に記載のラピッドプロトタイプ造形物の製造方法。
【請求項4】
拡散接合による立体物の造形を真空雰囲気内での加熱加圧により行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のラピッドプロトタイプ造形物の製造方法。
【請求項5】
造形物の主成分となる骨格金属がNi基合金をバインダとする拡散接合により立体物として一体化されていることを特徴とするラピッドプロトタイプ造形物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−224115(P2006−224115A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−38208(P2005−38208)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】