説明

ランガサイト系単結晶の作製方法及び作製装置並びにその単結晶を用いた燃焼圧センサ

【課題】ランガサイト系単結晶を用いて燃焼圧センサ等に用いた際におけるドリフトの発生問題を解消し、検出精度,安定性及び信頼性を飛躍的に高める方法を提供する。
【解決手段】垂直方向に温度勾配を有する加熱環境下における不活性ガス雰囲気中に坩堝部を配し、この坩堝部に種結晶を充填するとともに、この種結晶の上に原料を充填し、種結晶の一部及び原料を加熱融解させた後、坩堝部を少なくとも垂直方向に移動させてランガサイト系単結晶を作製するに際し、加熱環境をカーボン発熱体部を用いて生成し、かつこの加熱環境に不活性ガスを供給して不活性ガスが略100〔%〕となる不活性ガス雰囲気を生成するとともに、この不活性ガス雰囲気中に坩堝部を配し、175〔℃〕の温度環境下における電気抵抗率が1012〔Ωcm〕以上となるランガサイト系単結晶を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直ブリッジマン法を用いてランガサイト系単結晶を作製する際に用いて好適なランガサイト系単結晶の作製方法及び装置、並びにその単結晶を用いた燃焼圧センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電素子等に使用するランガサイト系単結晶の作製方法としては、特許文献1で開示されるランガサイト単結晶(ランガサイト:La3Ga5SiO14)の作製方法が知られている。
【0003】
同公報で開示されるランガサイト単結晶の作製方法は、ランガサイト種結晶を単結晶育成用白金るつぼの下部に充填し、かつランガサイト種結晶の上にランガサイト原料を充填して、ランガサイト種結晶とランガサイト原料とを垂直方向に温度勾配を有する垂直な炉内で溶融させた後、白金るつぼを垂直に移動させてランガサイト単結晶を育成するランガサイト単結晶の作製方法であって、ランガサイト原料は、白金るつぼにランガサイト粉を充填し、融解した後に固化させるものである。
【特許文献1】特開2002−234798号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ランガサイト単結晶を得るための従来の作製方法は、次のような解決すべき課題が存在した。即ち、この種のランガサイト単結晶は、SAW(表面弾性波)フィルタの圧電デバイス(圧電素子)等としての用途が注目されているが、従来の作製方法により得られるランガサイト単結晶は、圧電デバイス等に使用した際における出力電圧のドリフト(温度ドリフト)が大きい問題があり、このドリフトの発生を解消する観点からの課題が存在した。
【0005】
例えば、図6には、ランガサイト単結晶を圧電素子として利用し、内燃機関に取付けることにより燃焼室の圧力を検出する燃焼圧センサに用いた場合の使用時間に対するゼロ点電位の変動を示すが、同図中、点線で示すドリフトデータDrのように、従来のランガサイト単結晶を用いた場合、使用開始から5〜6〔分〕経過した時点で、ゼロ点電位は、+0.10〔V〕程度から−0.50〔V〕程度まで変動(低下)する。このように、従来のランガサイト単結晶は、圧電デバイス等に使用した際における出力電圧のドリフトが無視できないレベルにあるため、高度の検出精度が要求される用途においては、安定性及び信頼性の面で十分とは言えない難点があり、ドリフトの発生しないランガサイト系単結晶を得るための新たな作製手法が要請されていた。なお、ドリフト分を相殺する補償回路等を付加することも考えられるが、コストアップを招くとともに、高度の検出精度を確保するには限界がある。
【0006】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した、ランガサイト系単結晶の作製方法及び作製装置並びにその単結晶を用いた燃焼圧センサの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るランガサイト系単結晶の作製方法は、上述した課題を解決するため、垂直方向Fvに温度勾配を有する加熱環境Eh下における不活性ガス雰囲気Eg中に坩堝部2を配し、この坩堝部2に種結晶Caを充填するとともに、この種結晶Caの上に原料Cbを充填し、種結晶Caの一部及び原料Cbを加熱融解させた後、坩堝部2を少なくとも垂直方向Fvに移動させてランガサイト系単結晶を作製するに際し、加熱環境Ehをカーボン発熱体部3を用いて生成し、かつこの加熱環境Ehに不活性ガスGを供給して不活性ガスGが略100〔%〕となる不活性ガス雰囲気Egを生成するとともに、この不活性ガス雰囲気Eg中に坩堝部2を配することにより、少なくとも175〔℃〕の温度環境下における電気抵抗率が1012〔Ωcm〕以上となるランガサイト系単結晶を作製するようにしたことを特徴とする。
【0008】
一方、本発明に係るランガサイト系単結晶の作製装置1は、上述した課題を解決するため、垂直方向Fvに温度勾配を有する加熱環境Eh下における不活性ガス雰囲気Egを生成する育成環境生成部5と、この育成環境生成部5に配して種結晶Ca及び原料Cbを充填する坩堝部2と、この坩堝部2を少なくとも垂直方向Fvに移動させる坩堝駆動部6とを具備することによりランガサイト系単結晶を作製する作製装置であって、加熱環境Ehを生成するカーボン発熱体部3及びこの加熱環境Ehに不活性ガスGを供給して不活性ガスGが略100〔%〕となる不活性ガス雰囲気Egを生成するアルゴンガス供給部7を有する育成環境生成部5を備えてなることを特徴とする。
【0009】
この場合、発明の好適な態様により、ランガサイト系単結晶として、ランガテイトを適用することができる。また、不活性ガスGには、アルゴンガス又は窒素ガスを用いることができる。さらに、坩堝部2は、白金製又は白金合金製を用いることができる。また、坩堝部2は、坩堝駆動部6により、垂直方向に、0.3〜5〔mm/h〕の移動速度により移動させるとともに、同時に、順方向に、又は順方向と逆方向へ交互に、0〜30〔rpm〕の回転速度により回転させることができる。なお、ランガサイト系単結晶は、少なくとも内燃機関に取付けることにより燃焼室の圧力を検出する燃焼圧センサPの圧電素子Cpとして用いることができる。
【0010】
他方、本発明に係るランガサイト系単結晶を用いた燃焼圧センサPは、垂直方向Fvに温度勾配を有する加熱環境Eh下における不活性ガス雰囲気Eg中に配した坩堝部2に種結晶Caを充填し、かつこの種結晶Caの上に原料Cbを充填し、種結晶Caの一部及び原料Cbを加熱融解させるとともに、坩堝部2を少なくとも垂直方向Fvに移動させて作製したランガサイト系単結晶を用いた燃焼圧センサであって、加熱環境Ehをカーボン発熱体部3を用いて生成し、かつこの加熱環境Ehに不活性ガスGを供給して不活性ガスGが略100〔%〕となる不活性ガス雰囲気Egを生成するとともに、この不活性ガス雰囲気Eg中に坩堝部2を配することにより作製した少なくとも175〔℃〕の温度環境下における電気抵抗率が1012〔Ωcm〕以上となるランガサイト系単結晶を圧電素子として用いたことを特徴とする。この場合、発明の好適な態様により、ランガサイト系単結晶として、ランガテイトを適用することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るランガサイト系単結晶の作製方法及び作製装置1並びにその単結晶を用いた燃焼圧センサPによれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0012】
(1) 加熱環境Ehをカーボン発熱体部3を用いて生成し、この加熱環境Ehに不活性ガスGを供給して不活性ガスGが略100〔%〕となる不活性ガス雰囲気Egを生成するとともに、不活性ガス雰囲気Eg中に坩堝部2を配することにより、少なくとも175〔℃〕の温度環境下における電気抵抗率が1012〔Ωcm〕以上となるランガサイト系単結晶を作製するようにしたため、この種の単結晶を圧電素子として用いた際におけるドリフトの発生問題が解消され、検出精度,安定性及び信頼性を飛躍的に高めることができるとともに、補償回路等を付加することなく低コストに実施することができ、特に高度の検出精度が要求される用途に最適となる。
【0013】
(2) 好適な態様により、ランガサイト系単結晶としてランガテイトを適用すれば、安定した温度特性を有し、かつ電気機械結合係数の大きいランガサイト系単結晶を得ることができる。
【0014】
(3) 好適な態様により、坩堝部2に、白金製又は白金合金製を用いれば、坩堝部2の厚さを可及的に薄く形成できるため、結晶の熱膨張による塑性変形に対しても当該変形を許容し、クラック等の発生を緩和できるとともに、使用後の坩堝部2を容易に精製及び改鋳することにより、安価に再利用(繰返し使用)することができる。
【0015】
(4) 好適な態様により、坩堝部2を、垂直方向に、0.3〜5〔mm/h〕の移動速度により移動させれば、高速成長で発生する塑性的過冷却を回避できるとともに、同時に、順方向に、又は順方向と逆方向へ交互に、0〜30〔rpm〕の回転速度により回転させれば、融液中に対流を発生させることにより組成の均一化を促し、結晶組成における異相を有効に抑制することができる。
【0016】
(5) このような作製方法及び作製装置1により作製されるランガサイト系単結晶を圧電素子として用いた燃焼圧センサPは、苛酷な高温環境下におかれ、かつ高度の信頼性が要求される内燃機関に取付けることにより燃焼室の圧力を検出する燃焼圧センサとして最適となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明に係る最良の実施形態(実施例)を挙げ、図1〜図7に基づいて詳細に説明する。
【0018】
まず、本実施形態に係るランガサイト系単結晶の作製装置1の構成について、図2〜図4を参照して説明する。
【0019】
作製装置1は、図2に示すように、大別して、育成環境生成部5,坩堝部2,坩堝駆動部6及び制御部11を備える。育成環境生成部5は、密閉されたチャンバ21を備え、このチャンバ21の内部に、加熱環境Ehを生成するためのカーボン発熱体部3を配設するとともに、チャンバ21の内部(加熱環境Eh)にアルゴンガスGを供給するアルゴンガス供給部7を備える。なお、チャンバ21の材質としては、高純度の、アルミナ,ジルコニア,カーボン,石英ガラス等が望ましい。
【0020】
アルゴンガス供給部7は、チャンバ21の内部を、酸素の含まないアルゴンガス(不活性ガス)Gが略100〔%〕となる不活性ガス雰囲気Egに生成する機能を有する。このようなアルゴンガスGが略100〔%〕となる不活性ガス雰囲気Egを生成する理由は、次のとおりである。通常、チョクラルスキー法により、ランガサイト(La3Ga5SiO14)の単結晶を育成する場合、チャンバの内部環境は、不活性ガスに対して数%の酸素(O2)を混入させた雰囲気に設定している。この理由は、材料(原料)に酸化ガリウム(Ga23)を用いる場合、不活性ガスが略100〔%〕の高温無酸素雰囲気下では、GaOとしてガリウム(Ga)が消失する虞れがあるためである。しかし、本実施形態では、垂直ブリッジマン法を用いてランガテイト(La3Ta0.5Ga5.514)を育成するとともに、融液との接触面積を、チョクラルスキー法によりランガサイトを育成する場合よりも、1/8程度と小さく設定するため、酸化ガリウムからの酸素の遊離を有効に抑制することができる。したがって、本実施形態では、チャンバ21の内部を、酸素の含まないアルゴンガスGが略100〔%〕となる不活性ガス雰囲気Egに生成し、安定した育成環境、更には結晶組成の安定化を図っている。
【0021】
カーボン発熱体部3は、筒形に形成し、図2に示すように、チャンバ21の内部に配設する。このカーボン発熱体部3は、後述する坩堝部2に対して垂直方向Fvに温度勾配を有する加熱環境Ehを生成する機能を有する。加熱環境Ehとしては、下側から上側へ行くに従って漸次高温となる温度勾配、例えば、1400〜1600〔℃〕程度に変化する温度勾配を設定できる。
【0022】
ところで、垂直ブリッジマン法を用いてランガテイトを育成する場合、カーボン発熱体部3の使用は本実施形態に係る作製装置1にとって重要な構成要素となる。即ち、カーボン発熱体部3は、カーボンを利用するため、還元力のある雰囲気を作ることができ、上述したアルゴンガス供給部7を補完することができる。この点について、更に詳細に言及すれば、アルゴンガス供給部7は、チャンバ21の内部に、酸素の含まないアルゴンガスGが略100〔%〕となる不活性ガス雰囲気Egに生成する機能を有するが、実際には、少なからず残留酸素が存在するため、アルゴンガスGが略100〔%〕となる不活性ガス雰囲気Egを生成することは困難である。しかし、カーボンは、酸素と強く結び付く性質があるため、カーボン発熱体部3を用いることにより、チャンバ21内の酸素、更には結晶材料及びチャンバ21等の構造体から遊離する一部の酸素を、カーボンが奪うことにより還元力のある雰囲気を作ることが可能となる。なお、カーボン発熱体部3は、使用温度範囲が2000〔℃〕程度までと広く、高周波加熱方式と抵抗加熱方式のいずれをも構成できるとともに、加工がしやすいため、ヒータ(発熱体)形状を任意に選定でき、しかも比較的安価に構成できるという基本的な特長を有している。
【0023】
一方、坩堝部2は、図2及び図3に示すように、坩堝本体部2mと蓋部2cにより構成するとともに、カーボン発熱体部3の内部に配し、底部は坩堝駆動部6により支持する。この場合、坩堝本体部2mは、白金又は白金合金を用いて茶筒形に形成する。なお、白金合金には、例えば、白金−ロジウム合金を用いることができる。坩堝本体部2mは、下部に種結晶Caを充填し、この種結晶Caの上に原料Cbを充填して単結晶を育成する機能を有する。坩堝本体部2mのディメンションとしては、定径部の直径Dcを1〜4〔インチ〕,定径部の長さLcを100〔mm〕以上に選定できるとともに、坩堝本体部2mの厚さTkを0.1〜0.3〔mm〕に選定できる。本実施形態に係る坩堝部2は一回のみ使用する。したがって、使用後の坩堝部2は精製及び改鋳することにより繰返し使用(再利用)する。このように坩堝部2を一回のみ使用するようにすれば、成長結晶中の不純物(残留物)が排除され、常に新鮮な状態で使用できるため、成長結晶の品質を高めることができる利点がある。
【0024】
また、蓋部2cは、白金又は白金合金を用いて円盤形に形成するとともに、坩堝本体部2mの上端開口を閉塞できる大きさに形成する。このように、坩堝部2を、白金又は白金合金を用いて製作すれば、坩堝部2の厚さを可及的に薄く形成できるため、結晶の熱膨張による塑性変形に対しても当該変形を許容し、クラック等の発生を緩和できるとともに、使用後の坩堝部2を容易に精製及び改鋳することにより、安価に再利用(繰返し使用)することができる利点がある。
【0025】
なお、坩堝部2として、図2及び図3に示す茶筒形の坩堝部2について説明したが、図4に示す変更例のように、先細形の坩堝部2を用いても同様に実施できる。先細形の坩堝部2は、上収容部2x,中間収容部2y及び下収容部2zにより構成する。この場合、上収容部2xは、図3に示した茶筒形の坩堝部2と同様のディメンションにより形成し、また、中間収容部2yは、上収容部2xの下端から下方に延設するとともに、テーパにより下側ほど漸次細く形成し、さらに、下収容部2zは、中間収容部2yの下端から下方に延設する径の細い茶筒形に形成する。中間収容部2yにおけるテーパの垂直線に対する角度は、60〔゜〕以内に選定することが望ましい。
【0026】
さらに、坩堝駆動部6は、駆動本体部6mとこの駆動本体部6mから上方に突出した引下軸22を備え、この引下軸22の上端面を平坦な支持面22sとして形成する。そして、この支持面22s上に坩堝部2を載置できる。この場合、支持面22sには、上方に起立し、かつ内側に坩堝部2を保持する保持筒部23を固定する。坩堝駆動部6は、坩堝部2を少なくとも垂直方向Fvに移動させる機能を備えており、例示の坩堝駆動部6は、坩堝部2を、垂直方向に、0.3〜5〔mm/h〕の移動速度により移動させるとともに、同時に、順方向に、又は順方向と逆方向へ交互に、0〜30〔rpm〕の回転速度により回転させる機能を有する。図2中、矢印Frが、坩堝部2(引下軸22)の順方向又は逆方向における回転方向を示す。そして、坩堝駆動部6及びカーボン発熱体部3は、シーケンス制御機能を備える制御部11に接続する。
【0027】
次に、このような作製装置1を用いた本実施形態に係るランガサイト系単結晶の作製方法について、図1〜図4を参照して説明する。
【0028】
本実施形態により作製するランガサイト系単結晶は、ランガテイト(La3Ta0.5Ga5.514)であり、基本的には、坩堝部2の下部に種結晶Caを充填するとともに、この種結晶Caの上に原料Cbを充填し、種結晶Caと原料Cbを垂直方向Fvに温度勾配を有する加熱環境Eh下で融解させた後、坩堝部2を垂直方向に移動させて結晶を得る垂直ブリッジマン法により作製を行う。
【0029】
この方法の利点は、坩堝部2の形状に沿って結晶が固化するため、直径制御が不要になるとともに、小温度勾配化での育成により熱歪応力を軽減でき、もって、高品質の結晶を育成することができる。また、融液を高温に保持する必要がないため、白金製又は白金合金製の坩堝部2を使用できる。しかも、融液表面が雰囲気と接する面積が小さくなるため、ガリウム成分の蒸発も軽減できるとともに、育成中の融液組成のズレも小さくなる。
【0030】
以下、具体的な実施例を含むランガテイト単結晶の作製方法について、各図を参照しつつ図1に示す作製工程図に従って説明する。
【0031】
まず、ランガテイトを得るための原料Cbを作製する。この場合、原料Cbを作製する材料として、酸化ランタン(La23)、酸化タンタル(Ta25)、酸化ガリウム(Ga23)を準備する(工程S1)。各材料は、酸化ランタンが33.3〔mol%〕、酸化タンタルが5.6〔mol%〕、酸化ガリウムが61.1〔mol%〕となるように、化学量論組成により秤量する(工程S2)。秤量した各材料は、混合機を用いて十分に混合する(工程S3)。また、混合した材料は仮焼を行う(工程S4)。仮焼は、1400〔℃〕の温度環境下において、少なくとも5〔時間〕以上行う。そして、仮焼した材料は、ペレット状又は円柱状に成形する(工程S5)。なお、成形後の原料密度は、5〔g/cm3〕程度となるように考慮する。以上の工程を経て原料Cbを得ることができる。
【0032】
次いで、坩堝本体部2mに、種結晶Caを充填する(工程S6)。種結晶Caには、育成する結晶(ランガテイト)と同組成の結晶を使用し、坩堝本体部2mに収容できるように、全体の形状が円柱形のものを用いる。また、種結晶Caの外面と坩堝本体部2mの内面間のクリアランスは、0.2〔mm〕以内となるように考慮する。次いで、坩堝本体部2mに、工程S1〜S5において作製した原料Cbを充填する(工程S7)。これにより、坩堝本体部2mの下部に種結晶Caが充填され、この種結晶Caの上に原料Cbが充填される。さらに、種結晶Ca及び原料Cbを充填した坩堝本体部2mの上端開口は、蓋部2cにより閉塞する。
【0033】
そして、種結晶Ca及び原料Cbを充填した坩堝部2は、図2に示すように、チャンバ21の内部におけるカーボン発熱体部3の内側に収容、即ち、坩堝部2を保持筒部23の内部にセットする。これにより、坩堝部2は、支持面22sに載置されるとともに、保持筒部23により保持される。
【0034】
この後、チャンバ21を密閉状態にし、アルゴンガス供給部7により、チャンバ21の内部(加熱環境Eh)にアルゴンガスGを供給する(工程S8)。なお、チャンバ21の内部にアルゴンガスGを供給する際は、不図示の真空ポンプ装置等により、一旦、チャンバ21の内部を0.1〔Pa〕程度まで真空にし、この後、大気圧(1013〔hPa〕)に置換したアルゴンガス(Ar)G(不活性ガス)を、1〜5〔リットル/分〕の流量によりチャンバ21内に流入させることにより、チャンバ21の内圧を大気圧よりも僅かに高い状態にする。これにより、チャンバ21の内部を、酸素の含まないアルゴンガスGが略100〔%〕となる不活性ガス雰囲気Egに生成することができる。
【0035】
また、制御部11は、カーボン発熱体部3に対して昇温制御を行い、垂直方向Fvに温度勾配を有する加熱環境Ehを生成する(工程S9)。カーボン発熱体部3を昇温し、目標温度となる安定した加熱環境Ehが生成されたなら、制御部11は、坩堝駆動部6を制御し、坩堝部2を最下降位置からゆっくりと上昇させる。これにより、坩堝部2の温度が加熱環境Ehの温度勾配に従って上昇し、原料Cb及び種結晶Caの一部の融解が行われる(工程S10)。原料Cbが十分に融解したなら、制御部11は、坩堝駆動部6を制御し、坩堝部2をゆっくりと下降させて育成を行う(工程S11)。この際、坩堝駆動部6は、坩堝部2を、垂直方向へ0.3〜5〔mm/h〕の移動速度により移動(下降)させるとともに、同時に、順方向(又は順方向と逆方向へ交互)に0〜30〔rpm〕の回転速度により回転させる。これにより、坩堝部2を下降させるに従って坩堝部2の下側から上側にランガテイトの単結晶が育成される。
【0036】
このように、坩堝部2を、垂直方向に、0.3〜5〔mm/h〕の移動速度により移動させれば、高速成長で発生する組成的過冷却を回避できるとともに、同時に、順方向に、又は順方向と逆方向へ交互に、0〜30〔rpm〕の回転速度により回転させれば、融液中に対流を発生させることにより組成の均一化を促し、結晶組成における異相を有効に抑制することができる。
【0037】
そして、融液が所定の固化率(例えば、80〔%〕程度)になったなら、その位置で育成を終了させる。この後、1〜3〔℃/min〕の冷却速度によりチャンバ21内の温度を降下させる(工程S12)。これにより、ランガテイト単結晶が得られるため、ランガテイト単結晶に対する必要な検査を行う(工程S13)。検査では、少なくとも175〔℃〕の温度環境下における電気抵抗率が1012〔Ωcm〕以上となるものを良品とし、この条件を満たさないものは、不良品として選別処理する。これにより、目的とするランガテイト単結晶を得ることができる(工程S14)。
【0038】
図5には、このような作製工程により作製されたランガテイト単結晶(実施例)の、温度〔℃〕に対する電気抵抗率〔Ωcm〕の変化特性データをKiで示すとともに、従来技術により作製されたランガテイト単結晶(比較例)の、同変化特性データをKrで示す。なお、比較例は、イリジウム(Ir)を用いた坩堝を使用し、雰囲気と接触する融液面積を、本実施例に対して8倍程度に設定するとともに、アルゴンガスに対して数%の酸素を混入させた不活性ガス雰囲気において、チョクラルスキー法により作製したものである。本実施例では、175〔℃〕の温度環境下における電気抵抗率が1012〔Ωcm〕以上となる絶縁抵抗を得ることができ、比較例に対して20倍程度の高絶縁抵抗となる。
【0039】
このような絶縁抵抗の改善は、結晶中における不純物量の大幅な低減によるものと考えられる。本実施例の場合、結晶中の不純物は極めて少なく、かつ一定量であるが、比較例の場合、結晶中の不純物が多く、特に、坩堝の使用回数によって変化する。比較例の場合、アルゴンガスに対して数%の酸素を混入させた不活性ガス雰囲気を生成するため、育成中の結晶自体が過剰に酸素を取り込み、この結果、絶縁抵抗の低下を来すことが考えられる。なお、育成中の結晶に対する酸素分圧が絶縁抵抗に影響することは知られている。一般に、酸化物は酸素欠陥(欠損,過剰)によりイオン伝導性を示すが、還元雰囲気で結晶を育成した場合、酸素欠損を生じて電気抵抗率を低下させる。本実施例では、ランガサイト系単結晶を還元雰囲気で育成するため、絶縁抵抗(電気抵抗率)を高くすることが可能である。しかし、酸素分圧の高い雰囲気で育成した場合には、酸素過剰となり電気抵抗率は低下すると考えられる。
【0040】
図6は、ランガテイト単結晶を、内燃機関に取付けることにより燃焼室の圧力を検出する燃焼圧センサP(図7参照)に使用した際における、使用時間〔秒〕に対するゼロ点電位〔V〕の変動を示したものである。図6中、前述した作製工程を経て作製されたランガテイト単結晶(実施例)のドリフトデータをDiで示すとともに、従来技術により作製されたランガテイト単結晶(比較例)のドリフトデータをDrで示す。なお、この比較例のサンプルは、図5に示した比較例と同じである。本実施例の場合、高絶縁抵抗ゆえに、ドリフト(温度ドリフト)はほとんど発生しない。したがって、使用開始から5〜6〔分〕経過した時点まで、ゼロ点電位はほぼ一定である。しかし、比較例の場合には、前述したように、使用開始から5〜6〔分〕経過した時点で、ゼロ点電位は、+0.10〔V〕程度から−0.50〔V〕程度まで変動(低下)し、その変動量は、本実施例に対して概ね6倍程度である。
【0041】
図7に、ランガテイト単結晶を、圧電素子Cpとして用いた燃焼圧センサPの一例を示す。なお、圧電素子Cpは、例えば、ランガテイト単結晶を、1.4〔mm〕(x軸方向)×3.0〔mm〕(y軸方向)×1.4〔mm〕(z軸方向)の大きさにカッティングして用いる。燃焼圧センサPは、筒状のボディ部32とこのボディ部32の前端部に固着したダイアフラムヘッド33を備える。また、ダイアフラムヘッド33は、被測定体の圧力が作用するダイアフラム部33aとダイアフラムヘッド33の周縁部を形成するフランジ部33bを備え、ダイアフラム部33aの後面に一体形成した一方の電極部34が圧電素子Cpの前端面のほぼ全面に接触する。これにより、ダイアフラム部33aが受ける圧力は圧電素子Cpに対して均等に付加される。また、35は圧電素子Cpの後端面のほぼ全面に当接する他方の電極部であり、この電極部35はリードピン36の先端に接続する。これにより、電極部35から電荷信号(検出信号)を取り出すことができる。なお、37は絶縁部材としての絶縁リング、38は断面円筒形状の絶縁スリーブを示す。そして、このように構成する燃焼圧センサPは、内燃機関のシリンダヘッド41にねじ込んで取り付けることができる。これにより、ダイアフラムヘッド33のダイアフラム部33aには被測定体の圧力変動が付与され、電極部34と電極部35によって挟圧された圧電素子Cpに圧力変動が作用することにより、圧電素子Cpに生じた電荷(出力電圧)がリードピン36を介して取出される。このように、ランガテイト単結晶を、内燃機関に取付けることにより燃焼室の圧力を検出する燃焼圧センサPの圧電素子Cpに用いれば、苛酷な高温環境下におかれ、かつ高度の信頼性が要求される内燃機関にとって、最適な燃焼圧センサPを得ることができる。
【0042】
よって、このような本実施形態に係るランガサイト系単結晶の作製方法及び装置1によれば、加熱環境Ehをカーボン発熱体部3を用いて生成し、この加熱環境Ehに不活性ガスGを供給して不活性ガスGが略100〔%〕となる不活性ガス雰囲気Egを生成するとともに、不活性ガス雰囲気Eg中に坩堝部2を配することにより、少なくとも175〔℃〕の温度環境下における電気抵抗率が1012〔Ωcm〕以上となるランガサイト系単結晶を作製するようにしたため、この種の単結晶を圧電素子として用いた際におけるドリフトの発生問題が解消され、検出精度,安定性及び信頼性を飛躍的に高めることができるとともに、補償回路等を付加することなく低コストに実施することができ、特に高度の検出精度が要求される用途に最適となる。
【0043】
以上、最良の実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨(精神)を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0044】
例えば、実施形態では、ランガサイト系単結晶に、ランガテイト(La3Ta0.5Ga5.514)を用いた場合を説明したが、他の単結晶を排除するものではない。特に、ランガテイトを用いた場合には、安定した温度特性を有し、かつ電気機械結合係数の大きいランガサイト系単結晶を得ることができるが、その他、ランガサイト(La3Ga5SiO14)やランガナイト(La3Nb0.5Ga5.514)を用いることも可能であるとともに、さらに、これらとほぼ同等の特性を示すと考えられる各分子式の分子量が多少異なるもの(組成のずれたもの)であっても適用可能である。この際、原料Cbとして、ランガサイトの場合には、本実施形態におけるランガテイトに用いる材料のうち、酸化タンタルの代わりに酸化ケイ素(SiO2)を使用し、ランガナイトの場合、酸化タンタルの代わりに酸化ニオブ(Nb25)を使用すればよい。また、不活性ガスとして、アルゴンガスを用いた場合を例示したが、窒素ガスを用いてもよい。なお、ランガサイト系単結晶を、内燃機関に取付けることにより燃焼室の圧力を検出する燃焼圧センサPの圧電素子Cpに利用する場合を説明したが、SAWフィルタの圧電デバイス等、各種用途(各種分野)の圧電素子及び同様の目的の素子類として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の最良の実施形態に係るランガサイト系単結晶の作製方法を説明するための作製工程図、
【図2】同ランガサイト系単結晶を作製する作製装置の模式的構成図、
【図3】同作製装置における坩堝部の断面正面図、
【図4】同作製装置における坩堝部の変更例を示す断面正面図、
【図5】同作製方法及び装置により作製したランガサイト系単結晶の温度に対する電気抵抗率の変化特性データ図、
【図6】同作製方法及び装置により作製したランガサイト系単結晶の使用時間に対するゼロ点電位(出力電圧)の変動を示すドリフトデータ図、
【図7】同作製方法及び装置により作製したランガテイト単結晶を圧電素子として用いた燃焼圧センサの断面正面図、
【符号の説明】
【0046】
1:作製装置,2:坩堝部,3:カーボン発熱体部,5:育成環境生成部,6:坩堝駆動部,7:アルゴンガス供給部,Fv:垂直方向,Eh:加熱環境,Eg:不活性ガス雰囲気,Ca:種結晶,Cb:原料,Cp:圧電素子,G:不活性ガス(アルゴンガス),P:燃焼圧センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直方向に温度勾配を有する加熱環境下における不活性ガス雰囲気中に坩堝部を配し、この坩堝部に種結晶を充填するとともに、この種結晶の上に原料を充填し、前記種結晶の一部及び前記原料を加熱融解させた後、前記坩堝部を少なくとも垂直方向に移動させてランガサイト系単結晶を作製するランガサイト系単結晶の作製方法において、前記加熱環境をカーボン発熱体部を用いて生成し、かつこの加熱環境に不活性ガスを供給して不活性ガスが略100〔%〕となる不活性ガス雰囲気を生成するとともに、この不活性ガス雰囲気中に前記坩堝部を配することにより、少なくとも175〔℃〕の温度環境下における電気抵抗率が1012〔Ωcm〕以上となるランガサイト系単結晶を作製することを特徴とするランガサイト系単結晶の作製方法。
【請求項2】
前記ランガサイト系単結晶は、ランガテイトであることを特徴とする請求項1記載のランガサイト系単結晶の作製方法。
【請求項3】
前記不活性ガスには、アルゴンガス又は窒素ガスを用いることを特徴とする請求項1記載のランガサイト系単結晶の作製方法。
【請求項4】
前記坩堝部は、白金製又は白金合金製を用いることを特徴とする請求項1記載のランガサイト系単結晶の作製方法。
【請求項5】
前記坩堝部は、垂直方向に、0.3〜5〔mm/h〕の移動速度により移動させるとともに、同時に、順方向に、又は順方向と逆方向へ交互に、0〜30〔rpm〕の回転速度により回転させることを特徴とする請求項1又は4記載のランガサイト系単結晶の作製方法。
【請求項6】
垂直方向に温度勾配を有する加熱環境下における不活性ガス雰囲気を生成する育成環境生成部と、この育成環境生成部に配して種結晶及び原料を充填する坩堝部と、この坩堝部を少なくとも垂直方向に移動させる坩堝駆動部とを具備することによりランガサイト系単結晶を作製するランガサイト系単結晶の作製装置において、前記加熱環境を生成するカーボン発熱体部及びこの加熱環境に不活性ガスを供給して不活性ガスが略100〔%〕となる不活性ガス雰囲気を生成する不活性ガス供給部を有する育成環境生成部を備えてなることを特徴とするランガサイト系単結晶の作製装置。
【請求項7】
前記ランガサイト系単結晶は、ランガテイトであることを特徴とする請求項6記載のランガサイト系単結晶の作製装置。
【請求項8】
前記不活性ガス供給部は、不活性ガスとしてアルゴンガス又は窒素ガスを供給する機能を備えることを特徴とする請求項6記載のランガサイト系単結晶の作製装置。
【請求項9】
前記坩堝部は、白金製又は白金合金製を用いることを特徴とする請求項6記載のランガサイト系単結晶の作製装置。
【請求項10】
前記坩堝駆動部は、前記坩堝部を、垂直方向に、0.3〜5〔mm/h〕の移動速度により移動させるとともに、同時に、順方向に、又は順方向と逆方向へ交互に、0〜30〔rpm〕の回転速度により回転させる機能を備えることを特徴とする請求項6記載のランガサイト系単結晶の作製装置。
【請求項11】
垂直方向に温度勾配を有する加熱環境下における不活性ガス雰囲気中に配した坩堝部に種結晶を充填し、かつこの種結晶の上に原料を充填し、前記種結晶の一部及び前記原料を加熱融解させるとともに、前記坩堝部を少なくとも垂直方向に移動させて作製したランガサイト系単結晶を用いた燃焼圧センサにおいて、前記加熱環境をカーボン発熱体部を用いて生成し、かつこの加熱環境に不活性ガスを供給して不活性ガスが略100〔%〕となる不活性ガス雰囲気を生成するとともに、この不活性ガス雰囲気中に前記坩堝部を配することにより作製した少なくとも175〔℃〕の温度環境下における電気抵抗率が1012〔Ωcm〕以上となるランガサイト系単結晶を圧電素子として用いたことを特徴とする燃焼圧センサ。
【請求項12】
前記ランガサイト系単結晶は、ランガテイトであることを特徴とする請求項11記載の燃焼圧センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−162854(P2008−162854A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−354972(P2006−354972)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(591037580)シチズンファインテック株式会社 (24)
【Fターム(参考)】