説明

リチウムまたはリチウム合金の薄膜形成方法

【課題】 純度の高いリチウム薄膜を形成すること。
【解決手段】 不活性ガス雰囲気の超微粒子生成室内で、リチウムまたはリチウム合金材料を加熱蒸発させてリチウムまたはリチウム合金の超微粒子を生成し、該超微粒子を前記不活性ガスに同伴させて搬送管により真空雰囲気の膜形成室内に搬送し、前記搬送管の先端に取り付けられ前記超微粒子の融点以下の温度に加熱されたノズルから前記膜形成室内に配置され、100℃からリチウム金属、またはリチウム合金の融点以下までの温度に加熱された基板に向けて前記超微粒子を前記不活性ガスの圧力で噴射すると共に前記ノズル又は前記基板の一方を任意の移動速度で移動させることにより前記基板上に所望の膜厚でリチウムまたはリチウム合金の薄膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムまたはリチウム合金の薄膜形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、不活性ガス雰囲気の超微粒子生成室内で導電性金属材料を高周波誘導加熱により加熱蒸発させて導電性金属の超微粒子を生成し、該超微粒子を前記不活性ガスに同伴させて搬送管により真空雰囲気の膜形成室内に搬送し、前記搬送管の先端に取り付けられ前記超微粒子の融点以下の温度に加熱されたノズルから前記膜形成室内に配置された基板に向けて前記超微粒子を前記不活性ガスの圧力で噴射すると共に前記ノズル又は前記基板の一方を任意の移動速度で移動させることにより前記基板上に所望の膜厚で所望のパターンを有する導電性金属の厚膜を形成することを特徴とする導電性金属厚膜のパターン形成方法が知られている(特開平8−209330号公報)。
【0003】
然るに、上記方法においては、導電性金属はアルミニウムまたはアルミニウム合金であり、このアルミニウム合金としては、Al−Si、Al−Cu、Al−Si−Cu、Al―Si−TiまたはAl−Cu−Tiであるとされている。
他従来例においてはリチウム金属及びリチウム合金よりなる群から選ばれた材料を表面に有し、かつ、密閉容器に収容された負極基材及び無機固体電解質原料を、大気から隔離された状態で前記薄膜を形成するための装置に隣接して設けられたリチウムに対して実質的に不活性な室内にいれ、そこにおいて前記負極基材及び前記原料をそれぞれに密閉容器から取り出す工程、前記取り出された前記負極基材及び前記原料を大気に触れさせることがなく、前記装置に移す工程、前記装置において前記原料を用い、前記負極基材上に無機固体電解質からなる薄膜を形成する工程、並びに、前記薄膜が形成された前記負極基材を、大気から隔離された状態で前記装置に隣接して設けられたリチウムに対して、実質的に不活性な室内に大気に触れさせること無く前記装置に移し、そこにおいて前記負極基材を密閉容器内に収容する工程を備えるリチウム二次電池に使用される負極を製造するための製造方法が開示されている(特開2002−100346号公報)。
また、以上の方法においてはリチウム金属及び、リチウム合金から成る群から選ばれた材料から成る薄膜を気相成長法により基材上に形成することによって、前記負極基材を調整するようにしている。
気相成長法としては、典型にはスパッタリング、真空蒸着、レーザーアブレーション、及び、イオンプレーティングより成る群から成る方法としている。
このような薄膜を加熱処理することができるとして、この加熱によりイオン伝導度の比較的高い薄膜を得ることができるとしている。
【0004】
【特許文献1】特開平8−209330号公報
【特許文献2】特開2002−100346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
然るに、以上の特許文献2(特開2002−100346号公報)においては、気相成長法として、明らかに先の特開平8−209330号公報に開示されているような超微粒子を膜形成に用いるものではなく、その膜形成の原理が異なる。更に、特許文献2でリチウムの薄膜を形成してもリチウムの純度が低い。これにより放電容量も低下する。これでは放電容量の高い理想的なリチウムの電極材料はとても製造することができない。
【0006】
本発明はこの点に鑑みてなされ、常に純度の高いリチウムの薄膜を生成することができるリチウム薄膜製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題は、不活性ガス雰囲気の超微粒子生成室内で、リチウムまたはリチウム合金材料を加熱蒸発させてリチウムまたはリチウム合金の超微粒子を生成し、該超微粒子を前記不活性ガスに同伴させて搬送管により真空雰囲気の膜形成室内に搬送し、前記搬送管の先端に取り付けられ前記超微粒子の融点以下の温度に加熱されたノズルから前記膜形成室内に配置され、100℃からリチウム金属、またはリチウム合金の融点以下までの温度に加熱された基板に向けて前記超微粒子を前記不活性ガスの圧力で噴射すると共に前記ノズル又は前記基板の一方を任意の移動速度で移動させることにより前記基板上に所望の膜厚でリチウムまたはリチウム合金の薄膜を形成することを特徴とするリチウムまたはリチウム合金の薄膜形成方法、によって解決される。
【発明の効果】
【0008】
本発明のリチウム、またはリチウム合金の薄膜形成方法によれば、純度が高く、放電容量の高いリチウム、またはリチウム合金の薄膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態によるリチウム金属薄膜の形成方法について、図面を参照して具体的に説明する。
【0010】
図1は本発明の実施に使用される装置の一例を示す概略図である。同装置は概しては、超微粒子生成室1と、膜形成室2と、これらを結ぶ搬送管3と、超微粒子生成室1から膜形成室2へ流れるヘリウム(He)ガスを超微粒子生成室1の底部へ戻すための真空ポンプ15、16とヘリウムガス純化リサイクル・システム17とからなっている。
【0011】
超微粒子生成室1内には、蒸発源としてのルツボ6(内径38mmφ、外径40mmφ、高さ40mm)が配設され、リチウム(Li)が収容される。ルツボ6の周囲には誘導加熱のためのコイル7cが巻装され、その両端は超微粒子生成室1の外部に設けた高周波電源7(150kHz)に接続されている。
【0012】
ルツボ6の直上方には垂直状に設けた搬送管3(外径1/4インチ)の下端が配置され、その下端部の上方には搬送管3と軸心を共有する大径の吸込管5が設けられている。そして、吸込管5と搬送管3との間の環状空間はバルブ13を介して真空ポンプ16の吸気側に接続されている。この吸込管5はルツボ6の直上部以外の超微粒子生成室1内に滞留する超微粒子を吸い込ませるべく設けられている。又、ルツボ6の底部を支持してシャッタシステム9が設けられている。シャッタシステム9は図2を参照し、図2のAに示すように、ルツボ6が搬送管3の直下となる位置と、この位置から矢印aで示す方向に50mm程度移動させて、図2のBに示すように、ルツボ6が吸込管5と搬送管3との間の環状空間の直下となる位置との何れかにルツボ6を位置させる。すなわち、ルツボ6からの金属蒸気が雰囲気の搬送ガス(He)に冷却され、超微粒子となっての立ち昇り20が図2のAの位置では搬送管3へ吸い込まれ、図2のBの位置では吸込管5へ吸い込まれる。そして、この2位置間のルツボ6の移動は図示しないコントローラによりプログラムに従って行われ、超微粒子の移送が断続される。さらには、超微粒子生成室1には真空計1Gが取り付けられている。
【0013】
膜形成室2内には搬送管3の上端部とその先端に取り付けた内径1.0mmφのノズル4が挿入されており、ノズル4には外部の交流電源24に接続されたノズルヒータ23が巻装されている。ノズル4の先端の直上に近接して(3〜30mmの範囲内で可変)基板ホルダ10に保持された基板8が配置されている。基板ホルダ10は図示しないコントローラによってプログラムコントロールされ、基板8をその面内のX軸方向とこれに直角なY軸方向に0.5〜6mm/秒の速度で走査させる。
【0014】
また、本発明によれば、基板ホルダ10はヒータを内蔵し、この加熱温度を摂氏100℃からリチウム金属の融点である180.5℃までの温度になるように温度制御器11により制御されている。本実施例では所定の温度100℃となるように制御している。なお、搬送管3は長さを有しているので超微粒子が吸い込まれてからノズル4の出口に達する迄に0.1秒単位の時間を要する。従って、基板8の走査はある地点で停止し膜形成を停止して次の地点へ移るに際しては、超微粒子が搬送管3から出尽くす迄の時間が経過してから次の地点への移動が始まるようにプログラムされている。すなわち、形成される金属膜が尾を曳かないようになっている。次の地点へ達して膜形成を再開する場合も、超微粒子がノズル4の先端から噴射され始める迄の時間が経過してから膜形成のための移動が始まるようになっている。又、上述の基板8内のヒータに代わって基板ホルダ10内には、基板8を加熱するためのヒータ・ユニットが内蔵されていてもよい。基板8に取り付けた熱電対からの温度信号が入力される温度制御器11によって基板8は所定の温度に維持される。膜形成室2にはバルブ14を介して真空ポンプ15の吸気側が接続されており、かつ真空計2Gが取り付けられている。
【0015】
真空ポンプ15と真空ポンプ16の排気側の配管は1本にまとめられ、バルブ19を介してヘリウムガス純化リサイクル・システム17と接続され、さらには超微粒子生成室1の底部と接続されて、搬送ガスとしてのヘリウムガスを送り込むようになっている。又、超微粒子生成室1の底部にはバルブ12を介して純度99.9999%以上のヘリウムガスボンベ18が接続されている。なお、真空ポンプ15、16とバルブ19との中間には、バルブ19に近接して、バルブ20を備えた枝管が取り付けられている。
【0016】
上述のリチウム金属薄膜形成装置を用いた基板8上へのリチウム金属薄膜の形成方法を以下に例示する。なお、本実施例においては、基板8として銅箔を用いた場合を説明する。図1では厚さは誇張して示してある。銅箔の厚さは10μmである。
【実施例】
【0017】
図1を参照し、先ず超微粒子生成室1と膜形成室2とを真空排気する。すなわち、バルブ13、14、20を開、バルブ12、19を閉として真空ポンプ15、16によって圧力10-4Paまで排気する。次いで、真空ポンプ15、16の運転は継続したままバルブ20を閉、バルブ12、19を開としてヘリウムガスボンベ18から純度99.9999%以上のヘリウムガスを超微粒子生成室1へ所定量導入する。バルブ13の開度を調節して超微粒子生成室1の圧力を100kPa に保持する。導入されたヘリウムガスは吸込管5へ30SLM(1分間当たりの標準状態リットル数)流れ、搬送管3を通って膜形成室2へ10SLM流される。膜形成室2へ入ったヘリウムガスはバルブ14から排気されて膜形成室2の圧力は約300Paに保持され、超微粒子生成室1と膜形成室2との間に約100kPaの差圧が生起する。この時点でバルブ12を閉とする。
【0018】
吸込管5への流量を大にしているのは、搬送管3へ吸い込まれずに超微粒子生成室1内に滞留する超微粒子が存在するとこれらは滞留中に凝集体となり、何時かは搬送管3を搬送されて膜形成室2内の基板8上に形成されつつある膜に悪影響を与えるので、その凝集体の生成を予防するためである。
【0019】
この状態を30分間以上経過するとヘリウムガス純化リサイクル・システム17から吐出されるガスは純度99.9999%以上のヘリウムとなり、系全体の雰囲気が純度99.9999%以上のヘリウムガスとなる。つまり、純度99.9999%以上のヘリウムガスが矢印で示す方向へ循環される状態となる。
【0020】
上記の状態が整った後、ルツボ6に予め入れておいたリチウム金属材料22を高周波電源7によって480℃に誘導加熱し蒸発させて超微粒子を生成させる。生成したリチウムの超微粒子の大部分はヘリウムガスと共に搬送管3に吸い込まれ、膜形成室2内において、ノズルヒータ23で100℃に加熱されたノズル4から基板ホルダ10のヒータユニットで予め100℃の温度に加熱されている基板8上に噴射されてリチウムの薄膜が形成される。
【0021】
この時、基板8はその面内のX軸方向とY軸方向とへ走査され得るので、シャッタシステム9を作動させリチウム超微粒子の搬送を断続させることを組み合わせて、基板8上の任意の個所から任意の個所に至る任意のパターンのリチウム薄膜を形成させることができる。
【0022】
以上のようにして形成されたリチウム金属の薄膜の含有率について電気化学的に測定した。
【0023】
含有率の計算方法は、数式3に示す通りである。電解による(放電)リチウム量〔数式1〕を、重量(膜厚)からもとめたリチウム量(理論容量)〔数式2〕で割った数値に100を掛けた数値が含有率である。
【0024】
【数1】

【0025】
【数2】

【0026】
【数3】

【0027】
本発明では基板ホルダ10により基板8が100℃か、リチウム金属の融点である180.5℃以下までの温度の加熱されるのであるが、無加熱の場合は87%であり100℃加熱では96%であった。本発明によれば、大幅にリチウムの純度が上っていることが分かる。よって、リチウムの電気容量を大幅に向上させることができる。
【0028】
これは、ガスデポジション方法を用いてリチウム膜を形成するにあたり、被付着物である基板8の表面を清浄としているためであると思われる。特に、水分の除去が行われたためであり、また真空室壁からの種々の放出物を加熱により基板から除去しているためであると思われる。
【0029】
以上、本発明の実施例について説明したが、勿論、本発明はこれに限定されることなく、本発明の技術的思想に基いて種々の変形が可能である。リチウムの代わりにリチウム合金を用いた場合も同様である。
【0030】
例えば実施例において、純度99.9999%以上の不活性ガスとしてヘリウムを使用したが、ヘリウム以外のアルゴン、又はネオンを使用しても同様な効果が得られる。また、以上の実施形態では基板8の加熱温度は100℃としたが、これ以上であってもよく、リチウムの融点以下であればよい。
【0031】
なお、以上の各実施例においては、シャッターシステム9を使用し、搬送ガスとしてのヘリウムガスを循環させたが、シャッターシステム9は必ずしも必要とせず、又、搬送ガスを循環させなくともリチウム金属薄膜の形成は可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のリチウム金属薄膜形成方法の実施例で使用される金属膜形成装置の概略図である。
【図2】同装置におけるシャッターシステムの作用を示す図であり、Aは超微粒子の搬送状態、Bは搬送の停止状態である。
【符号の説明】
【0033】
1 超微粒子生成室
2 膜形成室
3 搬送管
4 ノズル
5 吸込管
6 ルツボ
7 高周波電源
8 基板
9 シャッターシステム
15 真空ポンプ
16 真空ポンプ
17 Heガス純化リサイクル・システム
22 導電性金属材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガス雰囲気の超微粒子生成室内で、リチウムまたはリチウム合金材料を加熱蒸発させてリチウムまたはリチウム合金の超微粒子を生成し、該超微粒子を前記不活性ガスに同伴させて搬送管により真空雰囲気の膜形成室内に搬送し、前記搬送管の先端に取り付けられ前記超微粒子の融点以下の温度に加熱されたノズルから前記膜形成室内に配置され、100℃からリチウム金属、またはリチウム合金の融点以下までの温度に加熱された基板に向けて前記超微粒子を前記不活性ガスの圧力で噴射すると共に前記ノズル又は前記基板の一方を任意の移動速度で移動させることにより前記基板上に所望の膜厚でリチウムまたはリチウム合金の薄膜を形成することを特徴とするリチウムまたはリチウム合金の薄膜形成方法。
【請求項2】
前記不活性ガスはヘリウムである請求項1に記載のリチウムまたはリチウム合金の薄膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−63614(P2007−63614A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−250686(P2005−250686)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(504273254)有限会社 渕田ナノ技研 (9)
【出願人】(390000435)本城金属株式会社 (10)
【Fターム(参考)】