説明

リチウム二次電池の劣化検出方法

【課題】劣化しやすい電池を簡便かつ高精度に検出することができるリチウム二次電池の劣化検出方法を提供する。
【解決手段】本発明の劣化検出方法は、電池電圧を一定に保つ電圧安定剤が非水電解液中に添加されたリチウム二次電池の劣化検出方法であって、電池電圧が所定の第1規定電圧に至るまで充電を行う第1充電工程と、第1充電工程の充電レートより低い充電レートで充電を行う第2充電工程とを包含する。第2充電工程では、充電時における電池電圧が予め設定された充電停止電圧に達するまでの時間を測定し、その到達時間に基づいて前記電池の劣化性を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池の劣化検出方法、特に劣化しやすい電池を簡便かつ高精度に検出することができるリチウム二次電池の劣化検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム二次電池は、車両搭載用電源、或いはパソコン及び携帯端末の電源として利用されている。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウム二次電池は、車両搭載用高出力電源等として重要性が高まっている。
【0003】
リチウム二次電池では、電池電圧が高くなりすぎると性能が劣化することが知られており、かかる劣化を検知すべく電池電圧のモニタリングが行われている。例えば、充電時の
電池電圧(開放端子電圧)を検知しておき、規定の電圧以上になった回数をカウントし、その回数が多いと電池が劣化したと判定する。かかる劣化判定を受けて、充電電圧を下げる等の適切な処置を行うことで、電池の急激な劣化を抑えて電池寿命を長くすることができる。この種の充電処理に関する従来技術としては例えば特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−089516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、自動車等の車両の動力源として用いられるリチウム二次電池(例えば、動力源としてリチウム二次電池と内燃機関等のように作動原理の異なる他の動力源とを併用するハイブリッド車両や電気自動車に搭載されるリチウム二次電池)は、駆動用電源として大容量であることが望ましい。しかし、このような大容量タイプのリチウム二次電池は、大型化により電池内の温度や反応が不均一になりやすい。そのため、充電時に局所的な電圧の上昇が生じ、電池の一部が高電圧状態に曝されることで、電池の劣化が進行する虞がある。このような局所的な電圧の上昇は、セルの端子電圧では検知できないため、電池の劣化を確実に防ぐことができないという課題があった。本発明は、上記課題を解決するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によって提供されるリチウム二次電池の劣化検出方法は、電池電圧を一定に保つ電圧安定剤が非水電解液に添加されたリチウム二次電池の劣化検出方法である。上記劣化検出方法は、上記リチウム二次電池に対し、該電池の電圧が所定の第1規定電圧に至るまで充電を行う第1充電工程を包含する。また、上記第1規定電圧に到達した後、上記第1充電工程の充電レートより低い充電レートで充電を行う第2充電工程を包含する。そして、上記第2充電工程では、上記充電時における電池電圧が予め設定された充電停止電圧に達するまでの時間を測定し、その到達時間に基づいて前記電池の劣化性を推定する。
【0007】
なお、本明細書において「電圧安定剤」とは、電池電圧を一定に保つ機能を有する添加剤をいい、典型的には酸化還元能を有する酸化還元添加剤をいう。かかる添加剤は、充電時において電池電圧が所定電圧に達すると、正極表面で酸化され、酸化生成物を生成する。その酸化生成物が負極側に移動し、負極表面で還元されると、添加剤が再生する。かかる添加剤の反応は可逆的に行われ、その間、電池電圧は略一定に保たれる。
【0008】
本発明の劣化検出方法では、上記電圧安定剤が添加されたリチウム二次電池に対し、該電池の電圧が所定の第1規定電圧に至るまで充電した後(第1充電工程)、第1充電工程の充電レートより低い充電レートで充電を行う(第2充電工程)。このとき、電池内の温度や反応にムラがなく電池内の電圧が均一であると、電池電圧が所定電圧まで上昇したときに電圧安定剤が適切に機能するため、それ以降は電池電圧が安定化し、充電終了まで電池電圧が一定に保たれる。一方、電池内の温度や反応にムラがあり電池内の電圧が不均一であると、充電時に局所的な電圧の上昇が生じ、電池の一部が高電圧状態に曝されることで、電圧安定剤が分解する。その結果、電圧安定剤の電圧保持機能が失われ、時間の経過と共に電池電圧が上昇する。本発明によると、かかる電池電圧の推移(上昇度合い)を把握することで、電池内の局所的な電圧の上昇を検知して、将来的に劣化しやすい電池を推定することができる。
【0009】
ここに開示される劣化検出方法の好ましい一態様では、上記充電時における電池電圧が予め設定された充電停止電圧に所定時間内に達した場合、上記電池の劣化性が大と推定する。一方、上記電池電圧が充電停止電圧に所定時間内に達しない場合、該所定時間が経過した時点の電池電圧を把握し、その電池電圧が所定の閾値を超えた場合に上記電池の劣化性が大と推定する。かかる構成によると、将来的に劣化しやすい電池を精度よく検出することができる。
【0010】
本発明において用いられる電圧安定剤としては、上述した電池電圧を一定に保つ機能を有する添加剤であればよい。例えば、1,4‐ジメトキシ‐2‐フルオロベンゼン、1,3−ジメトキ−5−クロロベンゼン、3,5−ジメトキ−1−フルオロベンゼン、1,2−ジメトキ−4−フルオロベンゼン、1,2−ジメトキ−4−ブロモベンゼン、及び2,5−ジメトキ−1−ブロモベンゼンから成る群から選択される少なくとも一種の芳香族化合物を使用することができる。上記の材料は酸化還元電位が適当な高さにあるため、該材料からなる電圧安定剤を非水電解液中に添加した場合に、非水電解液の分解電位を大きく上回らない範囲で上記電圧安定剤が機能し得る点において好ましい。
【0011】
上記第2充電工程における充電レートとしては特に制限されないが、通常は0.5C以下にすることが適当であり、例えば0.2C以下にすることが好ましい。第2充電工程の充電レートが高すぎると、電圧安定剤が電圧を保持できず分解されてしまい、上述した劣化検出充電処理を適切に行えない場合がある。その一方で、充電レートが低すぎると、充電に多大な時間がかかるため、劣化検出処理を迅速に行うことができない場合がある。劣化検出を迅速に行う観点からは、充電レートは概ね0.05C以上である。なお、ここでの1Cとは、正極理論容量より予測した電池容量を1時間で放電できる電流量とする。
【0012】
上記第2充電工程の充電停止電圧は、正極電位(vs Li/Li+)が電圧安定剤の酸化還元電位より高く、かつ電圧安定剤の分解電位より低くなるような電圧値に設定され得る。この範囲より高すぎても低すぎても上述した劣化検出処理を適切に行えない場合がある。好ましい一態様では、上記第2充電工程の充電停止電圧が、3.6V〜4.4Vである。また、上記第2充電工程における所定時間は、充電時の電池電圧の挙動から電池劣化性を適切に予測し得る程度の長さであればよく、充電レートによっても異なり得る。例えば、充電レートが0.1Cの場合、概ね40分〜100分が適当であり、好ましくは50分〜70分(例えば60分)である。好ましい一態様では、上記第2充電工程において、上記充電レートが0.08C〜0.2Cであり、上記充電停止電圧が3.9V〜4.1Vであり、上記所定時間が50分〜70分である。
【0013】
上記第1充電工程の第1規定電圧は、正極電位(vs Li/Li+)が電圧安定剤の酸化還元電位より低い電位となるような電圧値に設定され得る。この範囲より高すぎても低すぎても劣化検出処理を適切に行えない場合がある。また、好ましい一態様では、第1充電工程の第1規定電圧が、3.0V〜3.5Vである。
【0014】
ここに開示される技術の好ましい適用対象として、定格容量が10Ah以上という比較的大容量タイプのリチウム二次電池が挙げられる。例えば、リチウム二次電池の定格容量は20Ah以上(例えば20Ah以上、典型的には50Ah以下)、さらには30Ah以上(例えば30Ah以上、典型的には100Ah以下)の大容量タイプのリチウム二次電池が例示される。このような大容量タイプのリチウム二次電池は、大型化により電池内の温度や反応が不均一になりやすく、電池内で局所的な電圧の上昇が起こりやすいことから、本発明を適用することが特に有用である。
【0015】
また、本発明によると、ここで開示される劣化検出方法を好適に実施し得るリチウム二次電池システムが提供される。すなわち、電池電圧を一定に保つ電圧安定剤が非水電解液中に添加されたリチウム二次電池の劣化を検出するリチウム二次電池システムであって、上記リチウム二次電池に対して所定条件で充電を行う充電手段と、上記充電手段により充電されている上記リチウム二次電池の電池電圧を測定する電圧測定手段と、上記充電手段及び上記電圧測定手段のそれぞれに電気的に接続される制御装置とを備える。上記充電手段は、上記リチウム二次電池に対し、該電池の電圧が所定の第1規定電圧に至るまで充電を行う第1充電処理と、上記第1規定電圧に到達した後、上記第1充電処理の充電レートより低い充電レートで充電を行う第2充電処理とを行うように構成されている。そして、上記制御装置は、上記充電手段により上記リチウム二次電池の上記第2充電処理が行われる際、上記電圧測定手段により測定された電池電圧が予め設定された充電停止電圧に達するまでの時間を測定し、その到達時間に基づいて前記電池の劣化性を推定するように構成されている。かかるリチウム二次電池システムによると、上述した劣化検出方法を好適に実施し得る。
【0016】
ここに開示されるリチウム二次電池システムの好ましい一態様では、上記制御装置は、上記第2充電処理において、上記電池電圧が充電停止電圧に所定時間内に達した場合、上記電池の劣化性が大と推定するように構成されている。また、好ましい一態様では、上記制御装置は、上記第2充電処理において、上記電池電圧が充電停止電圧に所定時間内に達しない場合、該所定時間が経過した時点の電池電圧を把握し、その電池電圧が所定の閾値を超えた場合に上記電池の劣化性が大と推定するように構成されている。かかるリチウム二次電池システムによると、上述した劣化検出方法を好適に実施し得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に用いられるリチウム二次電池の構造の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に用いられる捲回電極体の構造の一例を示す模式図である。
【図3】電池電圧と充電時間との関係を示すグラフである。
【図4】電池電圧と充電時間との関係を示すグラフである。
【図5】電池電圧と充電時間との関係を示すグラフである。
【図6】本発明の一実施形態に用いられるリチウム二次電池システムの一例を示すブロック図である。
【図7】本発明の一実施形態に用いられるリチウム二次電池システムの処理フローを示す図である。
【図8】リチウム二次電池システムを搭載した車両の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明による実施の形態を説明する。以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。なお、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。また、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、正極及び負極を備えた電極体の構成及び製法、セパレータや電解液の構成及び製法、リチウム二次電池その他の電池の構築に係る一般的技術等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池の劣化検出方法について、対象となるリチウム二次電池の構成、劣化検出方法の順に説明する。
【0020】
<リチウム二次電池>
本実施形態の容量回復方法が対象とするリチウム二次電池100(以下、適宜「電池」という。)は、例えば、図1に示すように、長尺状の正極シート10と長尺状の負極シート20が長尺状のセパレータ40を介して扁平に捲回された形態の電極体(捲回電極体)80が、非水電解液90とともに、該捲回電極体80を収容し得る形状(扁平な箱型)のケース50に収容された構成を有する。
【0021】
ケース50は、上端が開放された扁平な直方体状のケース本体52と、その開口部を塞ぐ蓋体54とを備える。ケース50を構成する材質としては、アルミニウム、スチール等の金属材料が好ましく用いられる(本実施形態ではアルミニウム)。あるいは、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリイミド樹脂等の樹脂材料を成形してなるケース50であってもよい。ケース50の上面(すなわち蓋体54)には、捲回電極体80の正極と電気的に接続する正極端子70及び該電極体80の負極20と電気的に接続する負極端子72が設けられている。ケース50の内部には、扁平形状の捲回電極体80が図示しない非水電解液とともに収容される。
【0022】
本実施形態に係る捲回電極体80は、通常のリチウム二次電池の捲回電極体と同様であり、図2に示すように、捲回電極体80を組み立てる前段階において長尺状(帯状)のシート構造を有している。
【0023】
<正極シート>
正極シート10は、正長尺シート状の箔状の正極集電体12の両面に正極活物質を含む正極活物質層14が保持された構造を有している。ただし、正極活物質層14は正極シート10の幅方向の端辺に沿う一方の側縁(図では左側の側縁部分)には付着されず、正極集電体12を一定の幅にて露出させた正極活物質層非形成部16が形成されている。正極集電体12にはアルミニウム箔その他の正極に適する金属箔が好適に使用される。
【0024】
正極活物質としては、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。ここに開示される技術の好ましい適用対象として、リチウムニッケル酸化物(例えばLiNiO)、リチウムコバルト酸化物(例えばLiCoO)、リチウムマンガン酸化物(例えばLiMn)等の、リチウムと遷移金属元素とを構成金属元素として含む酸化物(リチウム遷移金属酸化物)を主成分とする正極活物質が挙げられる。あるいは、LiFePO等のオリビン型結晶構造を有するリン酸化合物を用いてもよい。
【0025】
正極活物質層14は、正極活物質のほか、一般的なリチウム二次電池において正極活物質層の構成成分として使用され得る一種または二種以上の材料を必要に応じて含有することができる。そのような材料の例として、導電材が挙げられる。該導電材としては、カーボン粉末(例えば、アセチレンブラック(AB))やカーボンファイバー等のカーボン材料が好ましく用いられる。あるいは、ニッケル粉末等の導電性金属粉末等を用いてもよい。その他、正極活物質層の成分として使用され得る材料としては、正極活物質の結着材(バインダ)として機能し得る各種のポリマー材料(例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF))が挙げられる。
【0026】
<負極シート>
負極シート20も正極シート10と同様に、長尺シート状の箔状の負極集電体22の両面に負極活物質を含む負極活物質層24が保持された構造を有している。ただし、負極活物質層24は負極シート20の幅方向の端辺に沿う一方の側縁(図では右側の側縁部分)には付着されず、負極集電体22を一定の幅にて露出させた負極活物質層非形成部26が形成されている。負極集電体22には銅箔その他の負極に適する金属箔が好適に使用される。負極活物質は従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。好適例として、グラファイトカーボン、アモルファスカーボン等の炭素系材料が例示される。
【0027】
負極活物質層24は、負極活物質のほか、一般的なリチウム二次電池において負極活物質層の構成成分として使用され得る一種または二種以上の材料を必要に応じて含有することができる。そのような材料の例として、負極活物質の結着材(バインダ)として機能し得るポリマー材料(例えばPVDF、スチレンブタジエンゴム(SBR))、負極活物質層形成用ペーストの増粘剤として機能し得るポリマー材料(例えばカルボキシメチルセルロース(CMC))等が挙げられる。
【0028】
<セパレータ>
正負極シート10、20間に配置されるセパレータ40としては、捲回電極体を備える一般的なリチウム二次電池のセパレータと同様の各種多孔質シートを用いることができる。好適例として、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂から成る多孔質樹脂シート(フィルム、不織布等)が挙げられる。かかる多孔質樹脂シートは、単層構造であってもよく、二層以上の複数構造(例えば、PP層の両面にPE層が積層された三層構造)であってもよい。
【0029】
<捲回電極体>
捲回電極体80を作製するに際しては、正極シート10と負極シート20とがセパレータ40を介して積層される。このとき、正極シート10の正極活物質層非形成部分と負極シート20の負極活物質層非形成部分とがセパレータ40の幅方向の両側からそれぞれはみ出すように、正極シート10と負極シート20とを幅方向にややずらして重ね合わせる。このように重ね合わせた積層体を捲回し、次いで得られた捲回体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平状の捲回電極体80が作製され得る。
【0030】
捲回電極体80の捲回軸方向における中央部分には、捲回コア部分82(即ち正極シート10の正極活物質層14と負極シート20の負極活物質層24とセパレータ40とが密に積層された部分)が形成される。また、捲回電極体80の捲回軸方向の両端部には、正極シート10及び負極シート20の電極活物質層非形成部分16,26がそれぞれ捲回コア部分82から外方にはみ出ている。かかる正極側はみ出し部分(すなわち正極活物質層14の非形成部分)16及び負極側はみ出し部分(すなわち負極活物質層24の非形成部分)26には、正極リード端子74及び負極リード端子76がそれぞれ付設されており、上述の正極端子70及び負極端子72とそれぞれ電気的に接続される。
【0031】
<非水電解液>
そして、ケース本体52の上端開口部から該本体52内に捲回電極体80を収容するとともに、適当な非水電解液90をケース本体52内に配置(注液)する。かる非水電解液は、典型的には、適当な非水溶媒に支持塩を含有させた組成を有する。上記非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)等を用いることができる。また、上記支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiAsF、LiCFSO等のリチウム塩を好ましく用いることができる。
【0032】
その後、上記開口部を蓋体54との溶接等により封止し、本実施形態に係るリチウム二次電池100の組み立てが完成する。ケース50の封止プロセスや電解液の配置(注液)プロセスは、従来のリチウム二次電池の製造で行われている手法と同様でよく、本発明を特徴付けるものではない。このようにして本実施形態に係るリチウム二次電池100の構築が完成する。
【0033】
ここに開示される技術の好ましい適用対象として、定格容量が10Ah以上という比較的大容量タイプのリチウム二次電池100が挙げられる。例えば、リチウム二次電池の定格容量は20Ah以上(例えば20Ah以上、典型的には50Ah以下)、さらには30Ah以上(例えば30Ah以上、典型的には100Ah以下)の大容量タイプのリチウム二次電池が例示される。このような大容量タイプのリチウム二次電池100は、大型化により電池内の温度や反応が不均一になりやすく、電池内で局所的な電圧の上昇が起こりやすい。したがって、該電池内の局所的な電圧上昇を検知できる本発明に係る劣化検出方法は、上記のような大容量タイプのリチウム二次電池に対して、特に好適に適用され得る。
【0034】
<劣化検出方法>
ここで開示されるリチウム二次電池の劣化検出方法は、電池電圧を一定に保つ電圧安定剤が非水電解液中に添加されたリチウム二次電池の劣化検出方法であって、該リチウム二次電池に対し、該電池の電圧が所定の第1規定電圧に至るまで充電を行う第1充電工程と、上記第1規定電圧に到達した後、第1充電工程の充電レートより低い充電レートで充電を行う第2充電工程と、を包含するものである。そして、第2充電工程においてリチウム二次電池を充電しているときの電池電圧をモニターし、そのときの電池電圧の挙動に応じて電池の劣化性(将来における電池の劣化度)を推定する。以下、本実施形態の劣化検出方法における上記充電処理を劣化検出処理という。
【0035】
<電圧安定剤>
上記劣化検出処理において用いられる電圧安定剤は、電池電圧を一定に保つ機能を有する添加剤であれば特に限定なく使用することができる。かかる電圧安定剤は、例えば、酸化還元能を有する酸化還元添加剤であることが好ましい。かかる添加剤は、充電時に所定電圧に達すると正極表面で酸化され、酸化生成物を生成する。その酸化生成物が負極側に移動し、負極表面で還元されると、添加剤が再生する。かかる添加剤の反応は可逆的に行われ、その間、電池電圧は一定に保たれる。本構成で利用可能な添加剤(電圧安定剤)としては、芳香族化合物、複素環錯体、ラジカル化合物、Ce化合物、及びメタロセン錯体から成る群から選択された少なくとも一種の物質が好ましく用いられる。
【0036】
例えば、芳香族化合物としては、1,4−ジメトキ−2−フルオロベンゼン、1,3−ジメトキ−5−クロロベンゼン、3,5−ジメトキ−1−フルオロベンゼン、1,2−ジメトキ−4−フルオロベンゼン、1,2−ジメトキ−4−ブロモベンゼン、2,5−ジメトキ−1−ブロモベンゼン、等が例示される。中でも1,4−ジメトキ−2−フルオロベンゼンの使用が好ましい。これらの二種以上併用してもよい。上記の材料は酸化還元電位が適当な高さにあるため、該材料からなる電圧安定剤を非水電解液中に添加した場合に、非水電解液の分解電位を大きく上回らない範囲で上記電圧安定剤が機能し得る点において好ましい。
【0037】
複素環錯体としては、TEMP(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニロキシ、フリーラジカル)、4−ヒドロキシ−TEMPO、4−アミノ−TEMPO、4−シアノ−TEMPO、4−カルボキシ−TEMPO、4−(2−ブロモアセタミド)−TEMPO、4−(2−ヨードアセタミド)−TEMPO、3−ヒドロキシ−TEMPO、3−アミノ−TEMPO、3−シアノ−TEMPO、3−(2−ブロモアセタミド)−TEMPO、3−(2−ヨードアセタミド)−TEMPO、プロキシル、β−ヒドロキシ−プロキシル、β−(2−ブロモアセタミド)−プロキシル、及びβ−(2−ヨードアセタミド)−プロキシル、等が例示される。これらの二種以上併用してもよい。
【0038】
ラジカル化合物としては、トリス(4−フルオロフェニル)アミン、トリス(4−トリフルオロメチルフェニル)アミン、トリス(2,4,6−トリフルオロフェニル)アミン、トリス(4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロフェニル)アミン、トリス(2,3,5,6−テトラフルオロフェニル)アミン、トリス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニル)アミン、トリス(4−トリフルオロメチル−2,3,5,6−テトラフルオロフェニル)アミン、トリス(2,6−ジフルオロ−4−ブロモフェニル)アミン、トリス(2,4,6−トリブロモフェニル)アミン、トリス(2,4,6−トリクロロフェニル)アミン、等のトリフェニルアミン化合物が例示される。これらの二種以上併用してもよい。
【0039】
Ce化合物としては、Ce(NH(NO、等のセリウム塩が例示される。
【0040】
メタロセン錯体としては、Fe(5−Cl−1,10−phenanthroline)(但し、式中のXはアニオン性分子である。)、Ru(phenanthroline)(但し、式中のXはアニオン性分子である。)、等の金属錯体が例示される。これらの二種以上併用してもよい。上記の材料は反応の可逆性がよいため、該材料からなる電圧安定剤を非水電解液中に添加した場合に、電池電圧を一定に保つ機能を適切に発揮し得る点で好ましい。
【0041】
上記電圧安定剤の電解液中の濃度は、上述した電圧保持機能を安定して発揮し得る程度の濃度であればよく特に限定されない。例えば、電圧安定剤の濃度は概ね0.005mol/L〜0.05mol/Lとすることができ、通常は概ね0.008mol/L〜0.03mol/Lであり、特には0.009mol/L〜0.02mol/L(例えば0.01mol/L程度)の濃度とすることが好ましい。電圧安定剤の濃度が低すぎると、上述した電圧保持機能を安定して発揮し得ない場合がある一方で、電圧安定剤の濃度が高すぎると、電圧安定剤が電池の抵抗成分として働くため、電池性能が低下する(典型的には電気抵抗が増大する)ことがある。
【0042】
第1充電工程の第1規定電圧は、正極電位が上記電圧安定剤の酸化還元電位より低い電位となるような電圧値に設定され得る。好ましくは、上記電圧安定剤の酸化還元電位より0.1V以上低い電位となるような電圧値に設定するとよい。例えば、電圧安定剤として上述した1,4‐ジメトキシ‐2‐フルオロベンゼンを使用する場合、第1規定電圧は概ね3.0V〜3.5V(好ましくは3.2V〜3.5V)の範囲に設定され得る。この範囲より高すぎても低すぎても劣化検出処理を適切に行えない場合がある。第1充電工程における充電レートは特に限定されず、通常は0.8C〜2.0C程度であり、好ましくは0.8C〜1.2C程度である。
【0043】
ここで開示されるリチウム二次電池の劣化検出方法では、電圧安定剤が添加されたリチウム二次電池に対し、該電池の電圧が所定の第1規定電圧に至るまで充電する(第1充電工程)。そして、第1規定電圧まで到達した後、第1充電工程の充電レートより低い充電レートで充電処理を行う(第2充電工程)。この第2充電工程では、充電時における電池電圧をモニターする。そして、充電時における電池電圧が予め設定された充電停止電圧に達するまでの時間を測定し、その到達時間に基づいて電池の劣化性を推定する。具体的には、該電池電圧が予め設定された充電停止電圧に所定時間内に達した場合、電池の劣化性が大と推定する。一方、電池電圧が充電停止電圧に所定時間内に達しない場合、該所定時間が経過した時点の電池電圧を把握し、その電池電圧が所定の閾値を超えた場合に電池の劣化性が大と推定する。
【0044】
図3、図4及び図5は、電池の劣化状態が異なる種々の電池に対して、上記劣化検査処理(第2充電処理)を行ったときの電池電圧の推移を示している。各図に示すように、上記リチウム二次電池における充電時の電池電圧は、充電処理の進行に伴って第1規定電圧Vから次第に増大していく。このとき、電池内の温度や反応にムラがなく電池内の電圧が均一であると、図5のL3に示すように、電池電圧が所定電圧まで上昇したときに電圧安定剤が機能するため、それ以降は電池電圧が安定化し、充電終了まで電池電圧が一定に保たれる。図5のL3において電池電圧が一定になっている部分は、電圧安定剤が適切に機能していることを表している。一方、電池内の温度や反応にムラがあり電池内の電圧が不均一であると、充電時に局所的な電圧の上昇が生じ、電池の一部が高電圧状態に曝されることで、電圧安定剤が分解する。その結果、図3のL1及び図4のL2に示すように、電圧安定剤の電圧保持機能が失われ、時間の経過と共に電池電圧が上昇する。本構成によると、かかる電池電圧の推移(上昇度合い)を把握することで、電池内の局所的な電圧の上昇を検知して、将来的に劣化しやすい電池を推定することができる。
【0045】
以上のような知見から、本実施形態の第2充電工程では、第1充電工程の充電レートより低い充電レートで充電を行い、このときの電池電圧をモニターする。そして、図3に示すように、電池電圧が予め定められた充電停止電圧Vaに所定時間T内に達した場合、電池の劣化性が「大」と推定する。一方、図4及び図5に示すように、電池電圧が充電停止電圧Vaに所定時間T内に達しない場合、該所定時間Tが経過した時点の電池電圧Vを把握し、その電池電圧Vが所定の閾値(劣化の推定基準)Vbを超えた場合、電池の劣化性が「大」と推定する(図4)。一方、電池電圧Vが所定の閾値Vbを超えない場合、電池の劣化性が「小」と推定する(図5)。
【0046】
このとき、上記電池の劣化性に応じた閾値(劣化の推定基準)Vbを複数用意することにより、電池の劣化性を段階的に推定してもよい。すなわち、複数の閾値Vbを用いて、所定時間T経過時の電池電圧Vが大きいほど電池の劣化性が大となるように推定してもよい。また、充電停止電圧Vaに所定時間T内に達した場合、充電停止電圧Vaに所定時間T内に達しない場合に比べて電池の劣化性がさらに大きいと推定することもできる。
【0047】
上記第2充電工程における充電レートとしては特に制限されないが、通常は0.5C以下にすることが適当であり、例えば0.2C以下にすることが好ましい。第2充電工程の充電レートが高すぎると、電圧安定剤が電圧を保持できず分解されてしまい、上述した劣化検出充電処理を適切に行えない場合がある。その一方で、充電レートが低すぎると、充電に多大な時間がかかるため、劣化検出処理を迅速に行うことができない場合がある。劣化検出を迅速に行う観点からは、充電レートは概ね0.05C以上である。なお、ここでの1Cとは、正極理論容量より予測した電池容量を1時間で放電できる電流量とする。
【0048】
上記第2充電工程の充電停止電圧は、正極電位が電圧安定剤の酸化還元電位より高く、かつ電圧安定剤の分解電位より低くなるような電圧値に設定され得る。好ましくは、正極電位が電圧安定剤の酸化還元電位より0.1V以上高く、かつ電圧安定剤の分解電位より0.1V以上低くなるような電圧値に設定するとよい。例えば、電圧安定剤として上述した1,4‐ジメトキシ‐2‐フルオロベンゼンを使用する場合、充電停止電圧は概ね3.6V〜4.4V(好ましくは3.8V〜4.2V、特に好ましくは3.9V〜4.1V)に設定され得る。この範囲より高すぎても低すぎても上述した劣化検出処理を適切に行えない場合がある。また、上記第2充電工程における所定時間は、充電時の電池電圧の挙動から電池劣化性を適切に予測し得る程度の長さであればよく、充電レートによっても異なり得る。例えば、充電レートが0.1Cの場合、概ね40分〜100分が適当であり、好ましくは50分〜70分(例えば60分)である。
【0049】
ここで開示される劣化検出方法における充電処理は、適当な充電装置(例えば充電回路)を用いて行うことができる。上記充電処理に使用できる充電装置としては、従来のリチウム二次電池の充電を実施し得る充電装置であれば特に限定はなく、種々の回路構成をとることができる。上記充電処理の温度は特に制限されないが、通常は0℃〜40℃程度にすることが適当であり、例えば20℃〜30℃程度にすることが好ましい。
【0050】
<リチウム二次電池システム>
図6は、上述したリチウム二次電池の劣化検出処理を具現化した劣化検査装置を含むリチウム二次電池システム1000の一例を示すブロック図である。このリチウム二次電池システム1000は、図6に示すように、リチウム二次電池100と、これに接続された負荷110と、負荷110に接続されたリチウム二次電池100の運転をコントロールする電子制御装置120と、該電池の電池電圧を測定する電圧測定部130とを備えている。リチウム二次電池100については、先に説明したものと同様であるため、その詳細な説明を省略する。
【0051】
負荷110は、リチウム二次電池100に蓄えられた電力を消費する電力消費機および電池100に充電可能な電力供給機(充電手段)を含み得る。負荷110が備える電力供給機としては、従来のリチウム二次電池の充電を実施し得る電力供給機であれば特に限定はなく、種々の回路構成をとることができる。かかる負荷110が備える電力供給機には、電子制御装置120が電気的に接続されている。電力供給機(充電手段)は、電子制御装置120からの駆動信号により、リチウム二次電池100に対し、該電池100の電圧が所定の第1規定電圧に至るまで充電を行う第1充電処理を行うように構成されている(第1充電工程)。また、電力供給機(充電手段)は、上記第1規定電圧に到達した後、第1充電処理の充電レートより低い充電レートで充電を行う第2充電処理を行うように構成されている(第2充電工程)。
【0052】
電圧測定部130は、負荷110の電力供給機(充電手段)により充電されているリチウム二次電池の電池電圧(典型的には電池の開放端子電圧)を測定するものとして構成されている。かかる電圧測定部130としては、一般的なリチウム二次電池システムにおいて常套的に使用されているものから任意に選択することができる。例えば、電圧測定部130は、リチウムイオン二次電池100の端子間に接続され、該端子間の電圧を測定する回路であり得る。該電圧測定部130は、測定した電圧をデジタル信号に変換して電子制御装置120に出力するアナログデジタルコンバータ等を用いて構成してもよい。電圧測定部130によって測定された電池電圧の測定結果は、電圧測定部130の出力として電子制御装置120に送られる。
【0053】
電子制御装置120は、負荷110に接続されたリチウム二次電池100の運転をコントロールするものとして構成されており、所定の情報に基づいて、負荷110を駆動制御する。電子制御装置120の典型的な構成には、少なくとも、かかる制御を行うためのプログラムを記憶したROM(Read Only Memory)と、そのプログラムを実行可能なCPU(Central Processing Unit)と、入出力ポートとが含まれる。電子制御装置120には、図示しない電流センサ、温度センサ等からの各種信号、電圧測定部130からの信号(出力)などが入力ポートを介して入力される。また、電子制御装置120からは、負荷110(電力消費機および電力供給機)への駆動信号などが出力ポートを介して出力される。
【0054】
電子制御装置120は、電圧測定部130によって測定された電池電圧の測定値に基づき、電池の劣化性を推定する劣化推定部を備えている。かかる劣化推定部には、電圧測定部130で測定された電池電圧の測定結果が、電圧測定部130から送られる。劣化推定部は、電圧測定部130から送られてきた電池電圧をモニターし、そのときの電池電圧の挙動に応じて電池の劣化性を推定する。具体的には、電子制御装置(劣化推定部)120は、負荷110の電力供給機(充電手段)によりリチウム二次電池の第2充電処理が行われる際、電圧測定手段130により測定された電池電圧が予め設定された充電停止電圧に達するまでの時間を測定し、その到達時間に基づいて電池の劣化性を推定するように構成されている。具体的には、電子制御装置(劣化推定部)は、第2充電処理において、電池電圧が充電停止電圧に所定時間内に達した場合、電池の劣化性が大と推定するように構成されている。また、電子制御装置(劣化推定部)は、第2充電処理において、電池電圧が充電停止電圧に所定時間内に達しない場合、該所定時間が経過した時点の電池電圧を把握し、その電池電圧が所定の閾値を超えた場合に電池の劣化性が大と推定するように構成されている。
【0055】
このように構成されたリチウム二次電池システム1000の動作について説明する。図7は、本実施例に係る電子制御装置120の劣化推定部により実行される処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。この処理ルーチンは、リチウム二次電池100の劣化を検出するときに実行される。
【0056】
図7に示す処理ルーチンが実行されると、電子制御装置120は、まず、負荷110を駆動制御し、リチウム二次電池100を充電する(ステップS10;第1充電処理)。このときの充電レートは、好ましくは0.8C〜2.0Cであり、例えば1.0Cである。そして、ステップS11において、電圧測定部130で測定された電池電圧Vxをモニターし、該電池電圧Vxが第1規定電圧Vに達したか否かを判断する。電池電圧Vxが第1規定電圧Vに達しない場合(「YES」の場合)、ステップS10に戻って第1充電処理を続行する。一方、電池電圧Vxが第1規定電圧Vに達した場合(「NO」の場合)、続いてステップS20のローレート充電処理(第2充電処理)を実行する。第1規定電圧Vについては予め設定しておけばよく、例えば3.5Vである。
【0057】
ステップS20のローレート充電処理では、負荷110を駆動制御し、ローレートで充電を行う。このときの充電レートは、好ましくは0.08C〜0.2Cであり、例えば0.1Cである。そして、ステップS21において電圧測定部130で測定された電池電圧Vxをモニターし、該電池電圧Vxが充電停止電圧Vaに達したか否かを判断する。電池電圧Vxが充電停止電圧Vaに達した場合(「YES」の場合、図3参照)、ステップS22に進んで負荷110を駆動制御し、ローレート充電を停止する。そして、電池の劣化性が「大」と推定する(ステップS23)。充電停止電圧Vaについては予め設定しておけばよく、例えば4.0Vである。
【0058】
一方、ステップS21において電池電圧Vxが充電停止電圧Vaに達しない場合(「NO」の場合)、ステップS24に進み、充電時間Txが所定時間Tに達したか否かを判断する。充電時間Txが所定時間Tに達しない場合(「NO」の場合))、ステップS20に戻ってローレート充電を続行する。一方、充電時間Txが所定時間Tに達した場合(「YES」の場合)、ステップS25に進んで負荷110を駆動制御し、ローレート充電を停止する。なお、所定時間Tについては予め設定しておけばよく、例えば60分である。
【0059】
ステップS25において充電を停止したら、次いで、ステップS26において充電を停止したとき(すなわち所定時間Tが経過した時点の)電池電圧Vを確認する。そして、ステップS27において電池電圧Vが所定の閾値Vbを超えたか否かを判断する。ステップS27において電池電圧Vが閾値Vbを超えた場合(「YES」の場合、図4参照)、電池の劣化性が「大」と推定する(ステップS28)。一方、電池電圧Vが閾値Vbを超えていない場合(「NO」の場合、図5参照)、電池の劣化性が「小」と推定する(ステップS29)。かかる閾値Vbについては予め設定しておけばよく、例えば3.7Vである。
【0060】
このようにして、電圧安定剤が添加されたリチウム二次電池に対し、ローレート充電処理を行うことにより、将来的に劣化しやすい電池を精度よく検出することができる。
【0061】
電子制御装置120は、劣化推定部で推定した推定結果を図示しない表示部に出力してもよい。表示部では、かかる推定結果に応答して、例えば電池交換を促す表示を表示することができる。
【0062】
また、電子制御装置120は、劣化推定部で推定した推定結果に基づいて、電池の充放電を制御する制御部(図示せず)を備えてもよい。制御部では、少なくとも、劣化推定部で推定した推定結果に基づいて、電池状態が良好に保たれるように負荷110(電力消費機および電力供給機)を駆動制御する。かかる制御は、例えば、劣化推定部で推定した推定結果に基づいて、電池100の許容される最大入出力を設定し、その設定された最大入出力の範囲内で負荷110を駆動制御するものであり得る。例えば、劣化推定部で推定した電池の劣化性が大きいほど最大入出力が小さくなるように設定し、電池の劣化性が小さいほど最大入出力が大きくなるように設定するとよい。この構成によると、電池の許容される最大入出力が電池の将来的な劣化具合に応じて適切に設定されるので、電池への過負荷を防止することができ、電池の更なる劣化を抑制することができる。
【0063】
以上のように、本実施形態に係るリチウム二次電池システム1000では、電圧安定剤を非水電解液中に添加してローレートで充電を行うという簡易な構成によって、将来的に劣化しやすい電池を簡便かつ高精度に検出することができる。
【0064】
ここに開示されるリチウム二次電池システム1000は、車両に搭載される電池として適した性能を備える。したがって本発明によると、図8に示すように、ここに開示されるいずれかのリチウム二次電池システム1000を備えた車両1が提供される。特に、該リチウム二次電池システム1000を動力源(典型的には、ハイブリッド車両または電気車両の動力源)として備える車両(例えば自動車)が提供される。
【0065】
以下、本発明に関する試験例を説明するが、本発明を以下の試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0066】
<正極シートの作製>
正極活物質としては、LiFePO粉末を用いた。まず、正極活物質粉末と導電材としてのABとバインダとしてのPVDFとを、これらの材料の質量比が85:5:10となるようにN−メチルピロリドン(NMP)中で混合して、正極活物質層用ペーストを調製した。この正極活物質層用ペーストを長尺シート状の正極集電体(厚さ20μm程度のアルミニウム箔)の両面に塗布して乾燥することにより、正極集電体の両面に正極活物質層が設けられた正極シートを作製した。
【0067】
<負極シートの作製>
負極活物質としては、黒鉛粉末を用いた。まず、負極活物質粉末とバインダとしてのSBRと増粘剤としてのCMCとを、これらの材料の質量比が95:2.5:2.5となるように水中で混合して、負極活物質層用ペーストを調製した。この負極活物質層用ペーストを長尺シート状の負極集電体(厚さ15μm程度の銅箔)の片面に塗布して乾燥することにより、負極集電体の両面に負極活物質層が設けられた負極シートを作製した。
【0068】
<リチウム二次電池の作製>
次いで、上記正極シートと2枚の上記負極シートとを正極活物質層と負極活物質層とが対向するように交互に積層し、両シートの間に2枚のセパレータ(PP層の両面にPE層が積層された三層構造のものを使用した。)を挿入して電極体を作製した。この電極体を非水電解液とともにラミネート袋に挿入して試験用リチウム二次電池(ラミネートセル)を構築した。非水電解液としては、ECとEMCとを5:5の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを約1mol/リットルの濃度で含有させ、さらに電圧安定剤としての1,4‐ジメトキシ‐2‐フルオロベンゼンを約0.01mol/Lの濃度で含有させた非水電解液を使用した。このようにして電圧安定剤が非水電解液中に添加された試験用リチウム二次電池100を組み立てた。
【0069】
<初期セル容量の測定>
以上のように得られた試験用リチウム二次電池の初期セル容量を、温度25℃、2.5Vから4.1Vの電圧範囲で、次の手順1〜3によって測定した。
手順1:1/3Cの定電流充電によって4.1Vに到達後、定電圧充電を行い、最終電流値が初期の電流値の1/10になるか、もしくは合計充電時間が4時間になるまで充電した。
手順2:1/3Cの定電流放電によって2.5Vまで放電した。
手順3:手順1,2の充放電操作を3回繰り返し、3回目の定電流放電における放電容量を初期セル容量とした。この試験用リチウム二次電池では、初期セル容量が凡そ200mAhになる。
【0070】
<充放電試験>
上記初期セル容量の測定後、試験用リチウム二次電池を60℃の恒温槽内に入れ、実使用条件を模擬した充放電パターンを付与する充放電試験を行った。本例では、試験用リチウム二次電池を6個(サンプル1〜6)用意し、それぞれ異なる充放電パターンを付与した。具体的には、(1)モード;充電,放電,休止(2)充電レート;1/3C,3C,10C(3)秒数;1秒,3秒,5秒、の中からそれぞれ1水準ずつ選択することを100回繰り返し、それを並べたものを充放電パターンとした。この充放電パターンを2000回繰り返すことで充放電試験とした。
【0071】
<中間セル容量の測定>
上記充放電試験後、試験用リチウム二次電池の中間セル容量を、上述した初期セル容量の測定と同様の方法により測定した。
【0072】
<劣化検査処理>
上記中間セル容量の測定後、試験用リチウム二次電池の劣化検査処理を次の手順1〜3によって行った。
手順1:1Cの定電流充電によって3.5Vまで充電した(第1充電工程)。
手順2:手順1の後、0.1Cの定電流充電によって充電した(第2充電工程)。
手順3:手順2の充電時における電池電圧をモニターし、(1)電池電圧が4.0Vに到達するか、(2)充電開始から60分が経過する、の何れかの終止条件を満たした時点で充電を停止した。
その結果、サンプル1〜4では時間条件で充電を停止し、充電停止時の電池電圧は、サンプル1〜4の順に、3.58V、3.56V、3.91V、3.93Vであった。一方、サンプル5,6では電圧条件で充電を停止した。サンプル1,3,5の電池電圧の推移を図5,図4,図3にそれぞれ示す。
【0073】
<耐久試験>
上記劣化検査処理後、試験用リチウム二次電池を60℃の恒温槽内に入れ、中間セル容量の半分になるように充電量を調整した後、20日間放置することで耐久試験とした。
【0074】
<最終セル容量の測定>
上記耐久試験後、試験用リチウム二次電池の最終セル容量を、上述した初期セル容量の測定と同様の方法により測定した。そして、上記耐久試験前における中間セル容量と、耐久試験後における最終セル容量とから容量維持率(=「最終セル容量/中間セル容量」×100)を算出した。結果を表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
表1から明らかなように、上記劣化検査処理のときに電圧条件で充電を停止したサンプル5,6に係る電池は、容量維持率が80%を下回り、耐久試験後の容量劣化が大きかった。これに対し、劣化検査処理のときに時間条件で充電を停止したサンプル1〜4に係る電池は、サンプル5,6に比べて容量維持率が高く、耐久試験後の容量劣化が少なかった。また、サンプル1〜4の比較から、劣化検査処理において充電停止時の電圧が高いほど、耐久試験後の容量劣化が大きかった。このことから、劣化検査処理において電圧の上昇速度が大きいほど、その後の耐久試験において容量の劣化が大きいことが分かる。以上の結果から、電圧安定剤が添加された電池に対し、ローレートで充電を行い、そのときの電池電圧の上昇速度が大きいほど、将来の容量劣化の可能性が高い電池(電池の劣化性が大きい)と推定することができる。
【0077】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0078】
1 車両
10 正極シート
12 正極集電体
14 正極活物質層
16 正極活物質層非形成部
20 負極シート
22 負極集電体
24 負極活物質層
26 負極活物質層非形成部
40 セパレータ
50 電池ケース
52 ケース本体
54 蓋体
70 正極端子
72 負極端子
74 正極リード端子
76 負極リード端子
80 捲回電極体
82 捲回コア部分
90 非水電解液
100 リチウム二次電池
110 負荷
120 電子制御装置
130 電圧測定部
1000 リチウム二次電池システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池電圧を一定に保つ電圧安定剤が非水電解液中に添加されたリチウム二次電池の劣化検出方法であって、
前記リチウム二次電池に対し、該電池の電圧が所定の第1規定電圧に至るまで充電を行う第1充電工程と、
前記第1規定電圧に到達した後、前記第1充電工程の充電レートより低い充電レートで充電を行う第2充電工程と
を包含し、
ここで、前記第2充電工程では、前記充電時における電池電圧が予め設定された充電停止電圧に達するまでの時間を測定し、その到達時間に基づいて前記電池の劣化性を推定する、リチウム二次電池の劣化検出方法。
【請求項2】
前記第2充電工程では、前記電池電圧が充電停止電圧に所定時間内に達した場合、前記電池の劣化性が大と推定する、請求項1に記載の劣化検出方法。
【請求項3】
前記第2充電工程では、前記電池電圧が充電停止電圧に所定時間内に達しない場合、該所定時間が経過した時点の電池電圧を把握し、その電池電圧が所定の閾値を超えた場合に前記電池の劣化性が大と推定する、請求項1または2に記載の劣化検出方法。
【請求項4】
前記第2充電工程における充電レートが、0.05C〜0.5Cである、請求項1〜3の何れか一つに記載の劣化検出方法。
【請求項5】
前記第2充電工程の充電停止電圧は、正極電位が前記電圧安定剤の酸化還元電位より高くなるような電圧値に設定されている、請求項1〜4の何れか一つに記載の劣化検出方法。
【請求項6】
前記第2充電工程の充電停止電圧が、3.6V〜4.4Vである、請求項1〜5の何れか一つに記載の劣化検出方法。
【請求項7】
前記第2充電工程における所定時間が、40分〜100分である、請求項1〜6の何れか一つに記載の劣化検出方法。
【請求項8】
前記第1充電工程の第1規定電圧は、正極電位が前記電圧安定剤の酸化還元電位より低くなるような電圧値に設定されている、請求項1〜7の何れか一つに記載の劣化検出方法。
【請求項9】
前記第1充電工程の第1規定電圧が、3.0V〜3.5Vである、請求項1〜8の何れか一つに記載の劣化検出方法。
【請求項10】
前記電圧安定剤として、1,4‐ジメトキシ‐2‐フルオロベンゼン、1,3−ジメトキ−5−クロロベンゼン、3,5−ジメトキ−1−フルオロベンゼン、1,2−ジメトキ−4−フルオロベンゼン、1,2−ジメトキ−4−ブロモベンゼン及び2,5−ジメトキ−1−ブロモベンゼンから成る群から選択される少なくとも一種の芳香族化合物を使用する、請求項1〜9の何れか一つに記載の劣化検出方法。
【請求項11】
前記第2充電工程において、前記充電レートが0.08C〜0.2Cであり、前記充電停止電圧が3.9V〜4.1Vであり、前記所定時間が50分〜70分である、請求項1〜10の何れか一つに記載の劣化検出方法。
【請求項12】
電池電圧を一定に保つ電圧安定剤が非水電解液中に添加されたリチウム二次電池の劣化を検出するリチウム二次電池システムであって、
前記リチウム二次電池に対して充電を行う充電手段と、
前記充電手段により充電されている前記リチウム二次電池の電池電圧を測定する電圧測定手段と、
前記充電手段及び前記電圧測定手段のそれぞれに電気的に接続される制御装置と
を備え、
前記充電手段は、前記リチウム二次電池に対し、該電池の電圧が所定の第1規定電圧に至るまで充電を行う第1充電処理と、前記第1規定電圧に到達した後、前記第1充電処理の充電レートより低い充電レートで充電を行う第2充電処理とを行うように構成され、
ここで、前記制御装置は、前記充電手段により前記リチウム二次電池の前記第2充電処理が行われる際、前記電圧測定手段により測定された電池電圧が予め設定された充電停止電圧に達するまでの時間を測定し、その到達時間に基づいて前記電池の劣化性を推定するように構成されている、リチウム二次電池システム。
【請求項13】
前記制御装置は、前記第2充電処理において、前記電池電圧が充電停止電圧に所定時間内に達した場合、前記電池の劣化性が大と推定するように構成されている、請求項12に記載のリチウム二次電池システム。
【請求項14】
前記制御装置は、前記第2充電処理において、前記電池電圧が充電停止電圧に所定時間内に達しない場合、該所定時間が経過した時点の電池電圧を把握し、その電池電圧が所定の閾値を超えた場合に前記電池の劣化性が大と推定するように構成されている、請求項12または13に記載のリチウム二次電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−57603(P2013−57603A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196502(P2011−196502)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】