説明

リッジ型半導体レーザ素子及びその製造方法

【課題】低コスト化及び高出力化を図ることができるとともに、通電劣化を抑制することができるリッジ型半導体レーザ素子を提供する。
【解決手段】
第1導電型クラッド層(3)と、第1導電型クラッド層(3)上に形成された活性層(4)と、活性層(4)上に形成され、平坦部と、前記平坦部から突出するように形成されたリッジ部を構成する凸部とを有する第2導電型クラッド層(5,6,7)と、前記凸部の側面上及び前記平坦部上に形成される電流ブロック層(9)とを備え、電流ブロック層(9)が窒化珪素からなり、電流ブロック層(9)の屈折率が1.86以下であるリッジ型半導体レーザ素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リッジ型半導体レーザ素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、リッジ型半導体レーザ素子の低コスト化及び高出力化が求められている。このような要求に対する解決策の一つとして、電流ブロック層を窒化珪素とすることが知られている。電流ブロック層を窒化珪素としたリッジ型半導体レーザ素子としては、例えば特許文献1や特許文献2で提案されているものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−86218号公報(段落0029、段落0036)
【特許文献2】特開2005−64328号公報(段落0009、第8図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、半導体レーザ素子では、初期状態では低閾値電流であっても、通電後に閾値電流が増幅する通電劣化現象が発生するので、長寿命化を図るためには通電劣化を抑制することが重要となる。
【0005】
本発明は、上記の状況に鑑み、低コスト化及び高出力化を図ることができるとともに、通電劣化を抑制することができるリッジ型半導体レーザ素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明に係るリッジ型半導体レーザ素子は、第1導電型クラッド層と、前記第1導電型クラッド層上に形成された活性層と、前記活性層上に形成され、平坦部と、前記平坦部から突出するように形成されたリッジ部を構成する凸部とを有する第2導電型クラッド層と、前記凸部の側面上及び前記平坦部上に形成される電流ブロック層とを備え、前記電流ブロック層が窒化珪素からなり、前記電流ブロック層の屈折率が1.86以下であるようにしている。
【0007】
また、上記目的を達成するために本発明に係るリッジ型半導体レーザ素子の製造方法は、第1導電型クラッド層を形成する工程と、活性層を、前記第1導電型クラッド層上に形成する工程と、平坦部と、前記平坦部から突出するように形成されたリッジ部を構成する凸部とを有する第2導電型クラッド層を、前記活性層上に形成する工程と、窒化珪素からなり、屈折率が1.86以下である電流ブロック層を、前記凸部の側面上及び前記平坦部上に形成する工程とを備えるようにしている。
【0008】
上記のように、前記電流ブロック層を窒化珪素とすることで、リッジ型半導体レーザ素子の低コスト化及び高出力化を図ることができ、さらに、窒化珪素からなる前記電流ブロック層の屈折率を1.86以下にすることにより、リッジ型半導体レーザ素子の通電劣化を抑制することができる。
【0009】
また、前記電流ブロック層の形成に、プラズマCVD法を用いるようにしてもよい。この場合、原料ガスの流量比を変更することにより前記電流ブロック層の屈折率を簡単に変更することができる。
【0010】
また、前記電流ブロック層を前記凸部の側面上及び前記平坦部上に形成する工程前の直前処理に臭化水素酸系エッチング液を使用してもよい。この場合、リッジ型半導体レーザ素子のファー・フィールド・パターンのリップル値を減少(改善)させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るリッジ型半導体レーザ素子及びその製造方法では、リッジ型半導体レーザ素子の電流ブロック層を窒化珪素とすることで、リッジ型半導体レーザ素子の低コスト化及び高出力化を図ることができ、さらに、リッジ型半導体レーザ素子の窒化珪素からなる電流ブロック層の屈折率を1.86以下にすることにより、リッジ型半導体レーザ素子の通電劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るリッジ型赤色半導体レーザ素子の一構造例を示した断面図である。
【図2】図1に示す半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための断面図である。
【図3】図1に示す半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための断面図である。
【図4】図1に示す半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための断面図である。
【図5】図1に示す半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための断面図である。
【図6】通電劣化特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について図面を参照して以下に説明する。
<本発明に係るリッジ型半導体レーザ素子の構造例>
図1は、本発明に係るリッジ型赤色半導体レーザ素子の一構造例を示した断面図である。
【0014】
図1に示す半導体レーザ素子では、n型GaAs基板1の(100)面上に、約0.4μmの厚みを有するn型In0.5Ga0.5Pからなるバッファ層2が形成されている。バッファ層2上には、約2μmの厚みを有するn型(Al0.7Ga0.30.5In0.5Pからなるn型クラッド層3が形成されている。
【0015】
また、n型クラッド層3上には、多重量子井戸構造を有する活性層4が形成されている。
【0016】
活性層4上には、約0.2μmの厚みを有するp型(Al0.7Ga0.30.5In0.5Pからなる第1のp型クラッド層5が形成され、第1のp型クラッド層5上には、約10nmの厚みを有するとともに、エッチングストップ層として機能するp型In0.5Ga0.5Pからなる第2のp型クラッド層6が形成され、第2のp型クラッド層6上の中央部付近には、高さ約1.4μm幅約2.4μmの略長方形の断面形状を有するとともに、ストライプ状の奥行き形状を有する(Al0.7Ga0.30.5In0.5Pからなる第3のp型クラッド層7が形成されている。すなわち、活性層4上には、第1のp型クラッド層5、第2のp型クラッド層6、及び第3のp型クラッド層7によって構成されるp型クラッド層が形成されている。
【0017】
第3のp型クラッド層7上には、約0.1μmの厚みを有するp型In0.5Ga0.5P層と、約0.2μmの厚みを有するp型GaAs層とを積層したp型コンタクト層8が形成されている。第3のp型クラッド層7とp型コンタクト層8とによって、約1.7μmの高さを有する電流注入領域となるリッジ部が構成されている。
【0018】
第3のp型クラッド層7とp型コンタクト層8とにより構成されるリッジ部の側面と、第2のp型クラッド層6の上面とを覆うように、約0.2μmの厚みを有する電流ブロック層9が形成されている。電流ブロック層9は、リッジ部のみに電流を供給するための電流阻止層としての機能と、リッジ部に対して屈折率差を設けて光閉じ込めを行う機能との2つの機能を有している。
【0019】
また、p型コンタクト層8上及び電流ブロック層9上には、Cr/Pt/Au層からなるp側電極10が形成されている。一方、n型GaAs基板1の裏面上には、基板側から約0.2μmの厚みを有するAuGe層と約10nmの厚みを有するNi層と約0.6μmの厚みを有するAu層とからなるn側電極11が形成されている。なお、図1に示す本発明に係るリッジ型赤色半導体レーザ素子の幅は、約200μmであり、共振器は、約1.5mmである。
【0020】
本発明者は、リッジ型半導体レーザ素子の通電劣化を抑制する手法について鋭意検討を重ねた結果、電流ブロック層9が通電劣化特性と密接に関連していることを見出し、この知見に基づいて、電流ブロック層9を窒化珪素(SiN)とした場合、そのSiNからなる電流ブロック層9の屈折率を通常のように2以上(特許文献1及び特許文献2参照)にするのではなく、通常よりもかなり小さい1.86以下とすればよいことを見出した。この通電劣化抑制のメカニズムについては現時点では解明されていないが、SiNからなる電流ブロック層9の屈折率が1.86以下である場合、電流ブロック層9がシリコンプアになることで、電流ブロック層9から活性層4へのキャリア拡散が抑制され、その結果、通電劣化が抑制されているものと考えられる。
【0021】
なお、SiNからなる電流ブロック層9の屈折率を小さくした場合、リッジ型半導体レーザ素子のファー・フィールド・パターンのリップル値が増大(悪化)してしまうことが特許文献1に記載されているが、例えば、SiNからなる電流ブロック層9の形成工程前の直前処理に臭化水素酸系エッチング液を使用することにより、リッジ型半導体レーザ素子のファー・フィールド・パターンのリップル値を減少(改善)させることができる。
【0022】
そこで、図1に示す半導体レーザ素子では、SiNからなる電流ブロック層9の屈折率を1.86以下としている。このようにすることにより、通電劣化を抑制することができる。SiNからなる電流ブロック層9の屈折率は、電流ブロック層9となるSiN薄膜の成膜条件を変更することにより比較的簡単に変更することができるので、コストをかけずに通電劣化を抑制することができる。
<本発明に係るリッジ型半導体レーザ素子の製造方法例>
次に、図1に示す半導体レーザ素子の製造プロセスについて図2〜図5を参照して説明する。図2〜図5は、図1に示す半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための断面図である。
【0023】
まず、図2に示すように、n型GaAs基板1上に、MOVPE(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy:有機金属気相成長)法を用いて、基板温度を約800℃に保持した状態で、約0.4μmの厚みを有するn型In0.5Ga0.5Pからなるバッファ層2、約2μmの厚みを有するn型(Al0.7Ga0.30.5In0.5Pからなるn型クラッド層3、活性層4、約0.2μmの厚みを有するp型(Al0.7Ga0.30.5In0.5Pからなる第1のp型クラッド層5、約10nmの厚みを有するp型(Al0.5Ga0.5)Pからなる第2のp型クラッド層6、約1.4μmの厚みを有するp型(AlxGa1-x0.5In0.5Pからなる第3のp型クラッド層7、及び、約0.1μmの厚みを有するp型In0.5Ga0.5P層と約0.2μmの厚みを有するp型GaAs層とを積層したp型コンタクト層8を順次形成する。
【0024】
なお、活性層4は、約6nmの厚みを有するアンドープIn0.5Ga0.5Pからなる3層の井戸層と、約4nmの厚みを有するアンドープ(Al0.5Ga0.50.5In0.5Pからなる2層の障壁層とを交互に成長させることによって形成する。
【0025】
また、図2に示したp型コンタクト層8上の所定領域に、フォトレジスト12を形成する。そして、フォトレジスト12をマスクとして、たとえば、塩酸系エッチング液を用いて、p型コンタクト層8及び第3のp型クラッド層7を、図3に示すように、第2のp型クラッド層6が露出するまでウェットエッチングする。これにより、素子中央部付近に電流注入領域となるリッジ部が形成される。
【0026】
なお、本実施形態では、第3のp型クラッド層7を(Al0.7Ga0.30.5In0.5Pとしたが、例えば、第3のp型クラッド層7を(AlxGa1-x0.5In0.5Pとし、下部(底部)でx=0.7、上部でx=0.6になるように、第3のp型クラッド層7のAl組成を層内で変化させてもよい。この場合、サイドエッチング速度が上部にいくほど小さくなる。つまり、上部に行くほどサイドエッチングされにくくなり、例えば、高さ約1.4μm、上部幅約2μm、下部幅(底部幅)約2.4μmの台形形状の断面形状を得ることができる。これにより、ウェットエッチングを行った場合にも、上部が下部に対して小さくなりすぎて電気抵抗が増大するという不都合が発生するのを防止することができるとともに、リッジ部の上部と下部との幅の差を適度に制御して順テーパ形状にすることができる。
【0027】
リッジ部が形成された後、フォトレジスト12を除去する。
【0028】
次に、リッジ型半導体レーザ素子のファー・フィールド・パターンのリップル値を減少(改善)させる観点から、本実施形態では、等量の臭化水素酸(HBr)と過酸化水素水(H22)を、水(H22)で希釈した溶液(臭化水素酸系エッチング液の一例)を用いて常温で数十秒間エッチング処理を行う。そして、当該エッチング処理の直後に、図4に示すように、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相堆積)法を用いて、SiN膜からなる電流ブロック層9を約0.2μmの厚みで形成する。
【0029】
次に、図5に示すように、リッジ部に開口部を有するフォトレジスト13を形成する。そして、このフォトレジスト13をマスクとして、p型コンタクト層8上の電流ブロック層9をエッチングすることにより、p型コンタクト層8の上面を露出させる。この後、フォトレジスト13を除去する。
【0030】
次に、真空蒸着法を用いて、Cr/Pt/Au層からなるからなるp側電極10を形成する。それから、n型GaAs基板1の裏面を硫酸などを用いてエッチングすることにより、例えば、n型GaAs基板1を100μm程度の厚みまで薄くする。そして、そのn型GaAs基板1の裏面上に、真空蒸着法を用いて、基板側から、0.2μmの厚みを有するAuGe層、約10nmの厚みを有するNi層および約0.6μmの厚みを有するAu層からなるn側電極11を形成する。
【0031】
その後、へき開およびブレーキングを行うことによって、図1に示す半導体レーザ素子が得られる。
<本発明に係るリッジ型半導体レーザ素子の通電劣化特性例>
次に、本発明に係るリッジ型半導体レーザ素子の通電劣化特性例について図6を参照して説明する。
【0032】
図6中の通電劣化特性T1は、比較例の通電劣化特性であり、具体的には、図1に示す半導体レーザ素子と同様の構成であるが電流ブロック層9の屈折率を通常よりは小さくしているものの本発明の範囲外である1.93としたレーザ素子の通電劣化特性である。一方、図6中の通電劣化特性T2及びT3はそれぞれ本発明の実施例の通電劣化特性であり、具体的には、通電劣化特性T2は図1に示す半導体レーザ素子であり且つ電流ブロック層9の屈折率を1.86としたレーザ素子の通電劣化特性であり、通電劣化特性T3は図1に示す半導体レーザ素子であり且つ電流ブロック層9の屈折率を1.83としたレーザ素子の通電劣化特性である。なお、電流ブロック層9の屈折率は、エリプソメータ(Gaertner社製、型番L115)を用いて測定している。
【0033】
上記の比較例及び本発明の実施例は、電流ブロック層9となるSiN膜をプラズマCVD法で成膜する際の成膜条件の一つである原料ガスの流量比(成膜時に成膜チャンバ内に供給される原料ガスの流量比)を変更することで、各例を実現している。比較例では、N2希釈SiH4ガス(N2:95mol%、SiH4:5mol%)とNH3ガスの流量比を6:1とし、電流ブロック層9の屈折率が1.86である本発明の実施例では、N2希釈SiH4ガス(N2:95mol%、SiH4:5mol%)とNH3ガスの流量比を2:1とし、電流ブロック層9の屈折率が1.83である本発明の実施例では、N2希釈SiH4ガス(N2:95mol%、SiH4:5mol%)とNH3ガスの流量比を3:14としている。
【0034】
図6中の「初期」では、半導体レーザ素子に予め通電を行うことなく、素子温度25℃、レーザ出力5mWでの閾値電流を測定している。また、図6中の「第1の通電後」では、半導体レーザ素子に素子温度85℃、レーザ出力5mWとなる通電を行ったのち、素子温度25℃、レーザ出力5mWでの閾値電流を測定している。また、図6中の「第2の通電後」では、半導体レーザ素子に素子温度85℃、レーザ出力5mWとなる通電を行い、さらに素子温度85℃、レーザ出力30mWとなる通電を行ったのち、素子温度25℃、レーザ出力5mWでの閾値電流を測定している。
【0035】
図6から明らかなように、本発明の実施例は、比較例と比べて通電劣化を良好に抑制している。
<その他>
なお、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、本発明に係るリッジ型半導体レーザ素子は、赤色レーザ光以外のレーザ光を発振する素子であってもよい。また、例えば、本発明の特徴部分であるSiN膜からなる電流ブロック層が、光CVD法やスパッタリング法等のプラズマCVD法以外の方法で形成されるようにしても構わない。
【符号の説明】
【0036】
1 n型GaAs基板
2 バッファ層
3 n型クラッド層
4 活性層
5 第1のp型クラッド層
6 第2のp型クラッド層
7 第3のp型クラッド層
8 p型コンタクト層
9 電流ブロック層
10 p側電極
11 n側電極
12、13 フォトレジスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型クラッド層と、
前記第1導電型クラッド層上に形成された活性層と、
前記活性層上に形成され、平坦部と、前記平坦部から突出するように形成されたリッジ部を構成する凸部とを有する第2導電型クラッド層と、
前記凸部の側面上及び前記平坦部上に形成される電流ブロック層とを備え、
前記電流ブロック層が窒化珪素からなり、前記電流ブロック層の屈折率が1.86以下であることを特徴とするリッジ型半導体レーザ素子。
【請求項2】
第1導電型クラッド層を形成する工程と、
活性層を、前記第1導電型クラッド層上に形成する工程と、
平坦部と、前記平坦部から突出するように形成されたリッジ部を構成する凸部とを有する第2導電型クラッド層を、前記活性層上に形成する工程と、
窒化珪素からなり、屈折率が1.86以下である電流ブロック層を、前記凸部の側面上及び前記平坦部上に形成する工程とを備えることを特徴とするリッジ型半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項3】
前記電流ブロック層の形成に、プラズマCVD法を用いることを特徴とする請求項2に記載のリッジ型半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項4】
前記電流ブロック層を前記凸部の側面上及び前記平坦部上に形成する工程前の直前処理に臭化水素酸系エッチング液を使用することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のリッジ型半導体レーザ素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−278049(P2010−278049A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126177(P2009−126177)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】