説明

リピータ装置

【課題】特殊測定器を用いることなく、干渉信号の分布状態を把握できるリピータ装置を提供する。
【解決手段】送信信号の信号強度を増減させる可変減衰器42と、CPU40とを備える。CPU40は、可変減衰器42で送信信号の信号強度を変化させながら加算器34の入力側と出力側の信号強度を比較することにより受信信号への干渉信号の有無並びに当該干渉信号の混入の程度を検知し、検知した情報並びに検知時点の可変減衰器42の減衰量に基づいて干渉信号の分布状態を表す遅延プロファイルを生成し、これをメモリ44に記憶する。そして、記憶された遅延プロファイルを外部制御及び表示装置28に表示させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば受信信号と同じ周波数で送信信号を輻射する場合に生じる、受信アンテナへの回り込みによる干渉信号を抑圧する干渉信号抑圧技術および干渉信号抑圧機能を有するリピータ装置に関する。リピータ装置は、無線通信の中継に用いられる通信装置であり、中継装置あるいは無線中継ブースタと呼ばれる場合もある。
【背景技術】
【0002】
無線基地局の電波の届きにくいビル内部、トンネル内部、山岳地帯等での電波状況を改善するために、リピータ装置が用いられている。リピータ装置では、受信信号を所定利得で増幅した上で送信するため、無線基地局のように専用回線を敷設する必要もなく、設備面でコストを低減できるというメリットがある。しかし、受信信号と送信信号とが同一周波数となるため、送信信号の一部が受信アンテナに回り込むと、この信号が干渉信号となり、増幅器の利得(再送利得と呼ばれる)が大きい場合には発振を引き起こすという問題がある。
【0003】
この場合、送信アンテナと受信アンテナとを物理的に隔離してアンテナ間の結合量を小さくする方法も考えられるが、この方法では、リピータ装置の設置規模が大きくなって、実施しにくい場合があり、汎用性の面で問題がある。
【0004】
他の方法として、受信信号にCDMA(Code Division Multiple Access)信号における1チップ以上の遅延時間に相当する所定の遅延時間を付加した信号を送信信号として出力し、干渉信号が到来する遅延時間において、受信信号と送信信号との相関演算を行って干渉信号の残差成分を検出し、検出した残差成分に基づいて干渉信号に対して逆位相、同振幅、同遅延となる様に生成した抑圧信号により、送信信号が受信アンテナに回り込むことにより生ずる干渉信号を打ち消す技術がある(例えば特許文献1参照)。
【0005】
この技術では、干渉信号が混入した受信信号と再送する送信信号との相関演算を行って干渉信号の残差成分を検出する際に、送信信号にCDMA信号における1チップ以上の遅延時間が付加されているため、リファレンス信号となる送信信号と干渉信号の残差成分との相関以外の信号との相関が低くなり、残差成分を精度良く検出できるといったメリットがある。しかし、装置全体の小型化を目的に、リピータ装置の回り込み干渉信号抑圧処理をディジタル化した場合には、抑圧信号の遅延量に対する分解能がディジタル処理時の動作クロックの周波数(サンプリング周波数)の逆数である単位時間幅で決まってしまうために、干渉信号の遅延に対し、抑圧信号の遅延を完全に一致させることが困難となり、結果的に干渉信号の抑圧量の劣化を招いてしまうという問題がある。
【0006】
この問題に対し、リピータ装置の干渉信号抑圧をディジタル処理により行う場合にも、送信信号の受信アンテナへの回り込みによる干渉信号の抑圧量を低下させない干渉信号抑圧装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
この干渉信号抑圧装置では、検出した干渉信号に対して、所望の干渉信号近傍で2つ以上の抑圧信号を生成し、この抑圧信号で干渉信号を抑圧する。これにより、ディジタル信号処理部のサンプリング周波数から決まる遅延の刻みにより、完全に同じ遅延量が設定できない場合であっても、干渉信号の抑圧量を向上させることができるという効果がある。
【0007】
上記抑圧機能を持つリピータ装置では、受信アンテナと送信アンテナ間のアイソレーション(アンテナ・アイソレーション)を、アンテナ設置状態で測定器(例えばネットワークアナライザなど)によって測定し、さらに、所望信号(D波)に対する干渉信号(不要波:U波)の比(DU比)の確認やリピータ装置の増幅度設定、干渉波の抑圧量の確認を行っていた。
【特許文献1】特開2001−196994号公報
【特許文献2】特開2005−39336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来の干渉信号抑圧機能を持つリピータ装置を使用する場合において、干渉信号の分布状態や信号強度、アンテナ・アイソレーション等を知るためには、ネットワーク・アナライザなどの特殊な測定器を必要とするため、リピータ装置を気軽に設置することができないという問題があった。
【0009】
本発明は、特殊な測定器を用いることなく、干渉信号の分布状態を容易に把握できるリピータ装置を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のリピータ装置は、受信アンテナから所望信号に干渉信号が混入した受信信号を受信するとともに、この受信信号から前記干渉信号を抑圧するための抑圧信号を生成し、生成した抑圧信号を前記受信信号と加算器で加算することにより前記干渉信号を抑圧し、さらに、前記干渉信号が抑圧された信号を送信信号として送信アンテナから出力させる機能を有するリピータ装置において、その減衰量を変化させることにより前記送信信号の信号強度を増減させる可変減衰器と、この可変減衰器で前記送信信号の信号強度を変化させながら前記加算器の入力側と出力側の信号強度を比較することにより、発振直前状態であることが検知されるまで装置利得を上げ、さらに、遅延時間を順次可変させながら相関積分を行うことで前記受信信号への干渉信号の有無並びに当該干渉信号の遅延時間を検知し、検知した情報並びに検知時点の前記可変減衰器の減衰量に基づいて、前記所望信号に対してどの程度の信号強度比の干渉信号がどの遅延時間で分布しているかを表す遅延プロファイルを生成し、生成した遅延プロファイルを記憶するとともに、記憶された遅延プロファイルを所定の表示装置に表示させる制御手段とを設けて成る。
このような構成とすることにより、測定器を用いることなく、リピータ装置のみで干渉信号の状態を把握することができ、表示装置で干渉信号の分布を確認することができる。
【0011】
ある実施の態様では、前記制御手段は、前記加算器の入力側と出力側の信号強度の差が所定割合になった状態を検知したときに当該状態を発振直前状態と判定し、この発振直前状態における前記可変減衰量の減衰量及び前記受信信号の信号強度を前記遅延プロファイルの一つとして記憶する。
【0012】
他の実施の態様では、前記制御手段は、前記発振直前状態で取得した遅延プロファイルと抑圧動作完了時の装置利得とに基づいて所望信号の信号強度に対する干渉信号の信号強度の比を求め、この比を真数又は対数で表したデータ、又は、前記比に前記可変減衰器の減衰量を加算したデータを、前記遅延プロファイルの一つとして記憶する。
あるいは、前記制御手段は、前記発振直前状態で得た遅延プロファイルに基づいて前記アンテナ・アイソレーションを導出し、このアンテナ・アイソレーションを前記遅延プロファイルの一つとして記憶する。
これらの場合において、前記制御手段は、例えば、装置利得を前記発振直前状態になるまで上げた後、前記受信信号から前記干渉信号の振幅及び位相を検出する動作を、遅延時間を変えながら繰り返すことで、前記遅延プロファイルを生成する。
【0013】
他の実施の態様では、前記制御手段は、前記干渉信号に対する抑圧動作前の遅延プロファイルと、前記干渉信号の抑圧動作後の遅延プロファイルのいずれかを記憶し、予め記憶されている遅延プロファイルと新たに生成された遅延プロファイルとを所定のグラフデータにマッピングすることにより、前記干渉信号の抑圧の程度を表す情報を前記表示装置で可視化する。これにより、干渉信号の分布状態がより直観的に把握できるようになる。
【0014】
他の実施の態様では、前記制御手段は、前記所望信号に対して前記干渉信号の信号強度がどの程度までなら前記所望信号の劣化が無いと扱えるかを予め測定し、測定結果を前記グラフデータにより表示されるグラフ上に閾値として描画しておき、前記抑圧動作後の遅延プロファイルと前記閾値とを併せて可視化することにより、前記干渉信号の抑圧の程度を確認可能にする。これにより、干渉信号の分布状態のみならず、干渉信号の抑圧の程度まで、直観的に把握できるようになる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、表示装置から遅延プロファイルを容易に把握できるので、特殊な測定器を用いることなく、所望信号に対する干渉信号の分布状態を把握することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態例を説明する。
図1は本発明が適用される通信システムの概要図である。この通信システムは、基地局11、リピータ装置12、端末14を含んで構成される。リピータ装置12は、ビルその他の建造物13a,13bが濫立するなど、電波状態が好ましくない場所に設置される。
【0017】
本実施形態のリピータ装置12は、受信アンテナで受信した電波(受信信号)と同一の周波数で送信アンテナを介して放射するものとする。このようなリピータ装置12では、送信アンテナから送信された電波(送信信号)は、そのすべてが端末14に回り込んで到達するわけではなく、その一部は、送信アンテナから直接受信アンテナに到来し(図示の(1))、一部は、建造物13a,13bで反射された後、受信アンテナに到来し(図示の(2)、(3))、これらの信号が干渉信号となる。
【0018】
一般に、干渉信号を抑圧する場合には、受信信号から干渉信号の遅延時間や振幅を検出し、検出した干渉信号と逆位相で、かつ、同じ振幅の抑圧信号を、干渉信号と同じ遅延量で受信信号と合成することにより、その干渉信号を打ち消すことができる。
【0019】
[リピータ装置]
リピータ装置12は、図2に示すように、基地局向けアンテナ21、アンテナ共用器22、端末向けアンテナ23のほか、下り回線及び上り回線用の各構成要素、すなわち、低雑音増幅器24a、24bと、周波数変換器25a、25b、25c、25dと、干渉信号抑圧装置26a、26bと、高出力増幅器27a、27bとを備えて構成される。
【0020】
基地局向けアンテナ21は、基地局11との間で無線信号の送受信を行うためのアンテナであり、端末向けアンテナ23は、端末14との間で無線信号の送受信を行うためのアンテナである。それぞれ、送信時には送信アンテナとして機能し、受信時には受信アンテナとして機能する。
【0021】
アンテナ共用器22は、基地局11から基地局向けアンテナ21を介して受信したアナログの受信信号を下り回線に供給するとともに、基地局11に対して送信する上り回線からのアナログの送信信号を基地局向けアンテナ21に供給する。また、端末14から端末向けアンテナ23を介して受信した受信信号を上り回線に供給するとともに、端末14に対して送信する下り回線からの送信信号を端末向けアンテナ23に供給する。
【0022】
低雑音増幅器24a、24bは、基地局向けアンテナ21または端末向けアンテナ23を介して受信した微弱な電波を増幅する低雑音高利得の増幅器である。本実施形態では、受信信号は800[MHz]および2[GHz]帯の高周波を使用するので、この受信信号を周波数変換器25a、25cで中間周波数に周波数変換する。変換前の信号をRF信号、変換後の信号をIF信号という。周波数変換器25c、25dは、送信時に、上記と逆の処理を行なって、IF信号をRF信号に変換する。高出力増幅器27a、27bは、送信波を増幅する増幅度の高い増幅器である。
【0023】
外部制御及び表示装置28は、干渉信号抑圧装置26a、26bを外部から制御するもので、表示機能を備えたコンピュータなどの装置で構成される。これについては、後で詳しく述べる。
【0024】
[干渉信号抑圧装置]
次に、干渉信号抑圧装置26a、26bについて、より詳細に説明する。
干渉信号抑圧装置26a、26bは、両者同一のものであり、例えば図3のように構成される。すなわち、干渉信号抑圧装置26a、26bは、A/D変換器31と、チップ遅延器32と、D/A変換器43と、加算器34と、それぞれ干渉信号を抑圧するための抑圧信号を生成する複数個の位相振幅制御器35a、35b、35cと、複数個の相関積分器36a、36b、36cおよび複数個の遅延器37a、37b、37cと、監視制御回路38とを備えている。
【0025】
位相振幅制御器35a、35b、35c、相関積分器36a、36b、36cおよび遅延器37a、37b、37cは、それぞれ1個ずつが組になって、当該遅延時間で出現する干渉信号を抑圧するための抑圧信号を生成する。すなわち、位相振幅制御器35a、35b、35c、相関積分器36a、36b、36cおよび遅延器37a、37b、37cは、それぞれ1個ずつが組になって1つの干渉信号を抑圧するための抑圧信号を生成する。
【0026】
A/D変換器31は、前段から送られたアナログ信号を所定のサンプリング周波数によりディジタル信号に変換する。以後の説明では、ディジタル変換された信号を、便宜上、「ディジタル受信信号」と称する。このディジタル受信信号は、所望信号と干渉信号とが合成された信号である。ディジタル受信信号は、加算器34を経てチップ遅延器32に入力されるとともに、複数コピーされて、それぞれ相関積分器36a、36b、36cに分配される。
【0027】
D/A変換器43は、A/D変機器31と逆の作用をする変換器であって、チップ遅延器32で処理されたディジタル信号をアナログ信号に変換する。変換された信号は、送信信号として送信アンテナから出力される。
【0028】
チップ遅延器32は、所望の信号成分を持つディジタル受信信号と、送信アンテナから受信アンテナに回り込む干渉信号との相関を減らす為に、再送時にCDMA信号の1チップ以上の遅延を付加するディジタル信号処理デバイス(遅延回路)である。チップ遅延器32から出力される信号は、D/A変換器43に入力されるが、同じ振幅および位相の複数の信号が、それぞれディジタル受信信号の信号成分(振幅、位相の成分)を含むリファレンス信号として、遅延器37a、37b、37cに取り込まれる。
【0029】
遅延器37a、37b、37cは、それぞれ取り込まれたリファレンス信号を、CPU40により自己に設定された時間分遅延させて出力する(以下、遅延されたリファレンス信号を、通常のリファレンス時間と特に区別する必要がある場合は「遅延リファレンス信号」と称する)。遅延させるための設定時間は、各遅延器37a、37b、37cとも、CPU40により、適宜、更新することができる。
【0030】
相関積分器36a、36b、36cは、それぞれ遅延リファレンス信号とディジタル受信信号との相関積分を他の相関積分器と並行して行う。なお、このとき、個々の相関積分器36a、36b、36cの相関積分における遅延量(遅延時間)は異なっている。こうすることによって、検出対象である干渉信号の遅延に合わせた遅延時間で相関演算が行なわれる。相関積分の結果は干渉信号との相関度合いを表す相関積分値であり、この値が大きいほど、その遅延リファレンス信号は干渉信号により適合する、すなわち、干渉信号である可能性が高いものとして扱う。すなわち、ディジタル受信信号に干渉信号が混入しているときは、強い相関が得られ(例えば、信号強度が大きくなる)、干渉信号が無いときは相関が得られないという性質を利用し、相関積分値の大きい遅延リファレンス信号を干渉信号に相当する信号として検出することができる。
【0031】
ただし、相関演算を有効に機能させるために、あらかじめ干渉信号の遅延時間を知っておく必要があるため、各相関積分器36a、36b、36c及び位相振幅制御器35a、35b、35cに、対応する遅延器37a、37b、37cが設けられている。上記の遅延させるための設定時間は、干渉信号の遅延時間に相当する時間である。遅延時間の検出方法としては、監視制御回路38により、ディジタル信号処理時のサンプリング周波数の逆数である単位時間ごとに遅延時間を異ならせて相関演算を行ない、干渉信号がある遅延時間では相関が得られ、干渉信号が無い遅延時間では相関が得られないことを利用して、干渉信号の遅延時間を検出する。
【0032】
位相振幅制御器35a、35b、35cは、干渉信号に相当する遅延リファレンス信号と1対1に対応して、当該遅延リファレンス信号の振幅に所定係数を乗じた振幅で、逆位相となる抑圧信号を生成し、生成した抑圧信号を、対応する遅延リファレンス信号の出現時点(相関積分により検出された時点)と同じタイミングで出力する。このタイミングは、実際には遅延時間で表される。加算器34は、位相振幅制御器35a、35b、35cのそれぞれ又はいずれかで生成された抑圧信号を、ディジタル受信信号と加算する。
【0033】
可変減衰器42は、減衰量を調整し、送信信号の出力レベルを制御するものである。
監視制御回路38は、相関積分器39、CPU40、メモリ44、遅延器41を含んで構成される。
遅延器41は遅延器37a、37b、37cと同じ機能の部品であり、リファレンス信号を遅延させて相関積分器39に入力させる。
相関積分器39は、上記の相関積分器36a、36b、36cと同じ機能の部品であり、遅延器41で遅延されたリファレンス信号と、所望信号と干渉信号の合成されたディジタル受信信号との相関積分により、干渉信号の振幅と位相を検出する。検出した干渉信号の振幅と位相情報は、CPU40に出力される。
【0034】
CPU40は、所定のコンピュータプログラムを読み込んで実行することにより、干渉信号抑圧のための制御手段として機能する。具体的には、CPU40は、遅延時間と干渉信号の振幅及び位相情報とを対応付け、相関積分器39で検出した干渉信号の遅延時間を各遅延器37a、37b、37cに設定することによって、各干渉信号を1つの干渉信号を抑圧するための抑圧信号に対応付ける。CPU40は、また、遅延プロファイル、すなわち、所望信号(D波)と干渉信号(U波)との相対関係を表す情報(D波の信号強度に対するU波の信号強度の割合を表すDU比、送受信アンテナの間隔により変化するアンテナ・アイソレーション、信号強度の比較グラフ等)の導出のための処理を行なうとともに、処理結果のメモリ44への記憶並びに外部制御及び表示装置28への出力制御を行う。メモリ44には、CPU40により、遅延時間、相関積分器39による相関演算結果、可変減衰器42を制御するときの減衰量等の遅延プロファイルが記憶される。
【0035】
遅延器37a、37b、37c、41と、相関積分器36a、36b、36c、39と、位相振幅制御器35a、35b、35cは、図示しないクロック発生器から供給されるクロック信号に同期している。このクロック信号は、A/D変換器31に入力された時にサンプリングクロックとして機能する。また、遅延器41は、リファレンス信号にクロック信号に応じた遅延量を設定し、これを遅延リファレンス信号として相関積分器39に供給する。
【0036】
外部制御及び表示装置28は、CPU40と通信可能に接続されたコンピュータであり、外部から干渉信号抑圧装置26a、26bを制御し、また、干渉信号の抑圧結果や制御情報等をCPU40から取得してディスプレイ等に表示する。
【0037】
[干渉信号抑圧装置の動作]
次に、干渉信号抑圧装置26a、26bの動作を説明する。
図5は、干渉信号抑圧装置26a、26bにおいて、受信信号に含まれる干渉信号を検出し、検出した干渉信号を抑圧するための制御手順説明図である。この手順による制御は、CPU40により行われる。
図5において、干渉信号抑圧装置26a、26bは、干渉信号が存在することを検知した場合、まず、可変減衰器42の減衰量を最大とした後(ステップS101)、装置利得を発振直前まで上げていき(ステップS102)、相関演算により遅延プロファイルを取得する(ステップS103)。
【0038】
次に、取得した遅延プロファイルから干渉信号の信号強度のピーク値を検出する(ステップS104)。このピーク値が予め定めた閾値を超えているかどうかを判定し、超えている場合には(ステップS105:YES)、位相振幅制御器35a,35b、35cにおいて、各干渉信号と同振幅かつ逆位相の抑圧信号を生成し、この抑圧信号を加算器34で干渉信号と加算することにより、干渉信号を抑圧する(ステップS106)。
一方、干渉信号の信号強度のピーク値が閾値以下の場合であって(ステップS105:NO)、可変減衰量が0でない場合(ステップS107:NO)、ステップS102からステップS105までの処理を、装置利得が最大になるまで、繰り返し行なう。
【0039】
ステップS102における発振直前状態の検出について、より詳しく説明する。
遅延プロファイルを取得するにあたり、検出精度を上げるため、可変減衰器42を制御して、ディジタル受信信号に含まれる干渉信号によって、リピータ装置(高出力増幅器27a、27b等のアナログ回路)が発振を始める直前の装置利得、すなわち発振直前利得を検出する。
【0040】
図6は、発振直前利得の検出回路例を示す。
干渉信号抑圧装置を動作させない場合、装置利得をアンテナ・アイソレーション以上に上げてしまうと発振することは、良く知られている。そのために、本実施形態では、干渉信号抑圧装置26の可変減衰器42を、まず最大減衰量にしてリピータ装置が発振しない状態にし、その後、加算器34の前段(A点)及び後段(B点)を監視しながら、徐々に装置利得を上げる。可変減衰器42の減衰量を徐々に減らすことにより装置利得が上がり、減衰量が0になったとき装置利得は最大となる。
【0041】
干渉信号が無い場合、前段(A点)は入力信号のみとなるため、常に一定である。ところが、干渉信号が混入した場合は、アンテナ・アイソレーションに対し、装置利得が上回ると入力信号の帰還により、リピータ装置が発振する場合がある。発振前の状態では、前段(A点)での信号強度は、干渉信号により徐々に増加していくが、発振現象近くなるにつれて前段(A点)の信号強度の増加量に対し、後段(B点)の信号強度が急激に増加する。そこで、可変減衰器42の減衰量を徐々に下げていく過程で、加算器34の前段(A点)と後段(B点)の信号強度を監視し、この差がある一定の割合になった状態を検出したときに、その検出した状態を発振直前状態と判定することができる。
本実施形態では、この発振直前状態の情報をメモリ44に記憶しておき、干渉信号抑圧の過程と遅延プロファイルを作成する過程において、この情報を使用する。
【0042】
上記の各過程において干渉信号抑圧装置26a,26b(CPU40)から遅延プロファイルが出力され、外部制御及び表示装置28において表示される。したがって、測定器などを用いることなく、容易に干渉信号の状況を確認することができる。
以下に、遅延プロファイルの内容について具体的に説明する。
【0043】
[遅延プロファイル]
装置利得を発振直前まで上げた後、CPU40は、遅延器41の遅延時間を順次設定し、相関積分器39にて相関演算を行なうことにより、所望信号と干渉信号の合成されたディジタル受信信号から干渉信号の振幅と位相を検出する。遅延器41に設定する遅延時間を変えながらこの動作を繰り返し、遅延プロファイルを作成する。この遅延プロファイルは、メモリ44に記憶される。外部制御及び表示装置28は、この遅延プロファイルを読み出し、ディスプレイに表示させる。
【0044】
図4(a)は、遅延プロファイルの表示例を示すグラフである。図4(a)に示されるように、相関積分器39で相関演算を行なった場合、所望信号自身も検出されるため、遅延プロファイルには、遅延時間が“0”で相関値が“1”となる信号も存在する。
【0045】
[DU比]
DU比(相関値)は、以下の式(1)で示すように、抑圧動作完了時の装置利得とアンテナ・アイソレーションとに基づく所望信号(D波)に対する干渉信号(U波)の比で示すことができる。例えば、リピータ装置の最終利得を100[dB]とし、アンテナ・アイソレーションを[80dB]とした場合、DU比は、−20[dB]となる。
【0046】
DU比[dB]
=アンテナアイソレーション[dB]−装置利得[dB]・・・(1)
【0047】
図4(a)に示す遅延プロファイルのグラフデータは、横軸は遅延時間で表され、縦軸は相関値(所望信号(D波)の信号強度を“1”としたときの干渉信号(U波)の相対割合:0〜1)で表される。横軸の遅延時間は、サンプリング周波数の逆数で決まる単位時間を最小単位とする。このグラフでは、所望信号(D波)に対して干渉信号(U波)がどの位の遅延時間で、どの位の信号強度で生じているか等の相対情報がマッピングされる。通常、干渉信号(U波)の中でも、アンテナ間の直接的な回り込み干渉信号が最も大きい相関値で観測される。
なお、相関積分器39で相関演算を行なった場合、所望信号(D波)は遅延時間が“0”の自分をも検出するため、相関値は“1”となる信号も存在する。
【0048】
図4(a)のグラフデータを描写するために必要となるデータの取得は、例えば抑圧動作をしない状態で、アンテナ・アイソレーション以上に装置利得を上げて発振が生じることを防止し、また、検出精度を上げるために、可変減衰器42を制御することにより、装置利得を最大減衰状態から発振直前の状態まで増幅度を上げて行なう。
【0049】
DU比は、発振直前利得による装置利得がアンテナ・アイソレーションや周囲の環境により、測定毎に異なる。そのため、DU比を、相関値(0〜1.0の真数スケールで表されるデータ)として導出すると、発振直前状態から、直接、装置利得が最大になった場合のDU比がどの位かを正しく把握することができない。そこで、本実施形態では、可変減衰器42の減衰量を相関値に加算し、装置の増幅度を演算結果に反映させることにより、DU比を絶対値(対数[dB]スケールで表されるデータ)として導出し、これを表示できるようにした。DU比(絶対値)は、発振直前状態において、リピータ装置の減衰量及び相関値から以下の式(2)で得ることができる。
【0050】
DU比(絶対値)[dB]
=装置減衰量−20log(相関値)・・・(2)
【0051】
例えば、装置の最終利得を100[dB]、発振直前状態のリピータ装置の装置減衰量(可変減衰器42による減衰量)を−30[dB](装置利得70[dB])とした場合、所望信号(D波)の相関値“1”に対し、干渉信号(U波)の相関値が“0.4”と検出された場合の例を挙げる。このときの式(2)右辺の「20×log(0.4)」は、−8[dB]であり、所望信号(D波)に対して干渉信号(U波)は8[dB]低い状態である。そして、式(2)により、DU比は以下のようになる。
−30−(20)×log(0.4)=−22[dB]
【0052】
一方、アンテナ・アイソレーションは、式(1)より、以下のようになる。
アンテナ・アイソレーション[dB]
=8[dB]+70[dB]
=78[dB]
よって、抑圧動作を完了させ、装置利得が100[dB]となったとき、式(1)よりDU比は、78[dB]−100[dB](=−22[dB])となり、式(2)で求める値と一致する。
【0053】
このように、発振直前状態のリピータ装置の減衰量(可変減衰器42による減衰量)を所望信号(D波)と干渉信号(U波)の相関値と演算することにより、DU比の絶対値を対数で表すことが可能になる。このDU比は、干渉信号抑圧装置26a、26bから外部制御及び表示装置28に転送され、表示される。
【0054】
[アンテナ・アイソレーション]
リピータ装置のアンテナ・アイソレーションは、遅延プロファイルから干渉信号のピーク値検出を行ない、アンテナ間の直接回り込み干渉信号を特定し、装置利得と上記のようにして求めたDU比との演算により求めることができる。そして、その演算結果は、外部制御及び表示装置28で表示させることが可能である。
【0055】
[グラフデータ]
干渉信号を抑圧する前と後とで取得した遅延プロファイルを1つのグラフデータにマッピングすることにより、可視化することができる。通常、所望信号(D波)は自分自身となるため、それを表示せず、実際のグラフは、図4(b)、図4(c)に示すようになる。
抑圧動作前のDU比の表示を発振直前利得の検出時に行ない、監視制御回路38又は内部のメモリ44に記憶しておく。そして、これを抑圧動作後に読み出すか、事後的に、外部制御及び表示装置28に出力して同じグラフ上に表示することで、DU比、干渉信号(U波)の抑圧量の確認を行なうことが可能となる。
【0056】
図4(b)のグラフデータは、縦軸に、DU比(相関値)を相対値として真数スケールで表示するとともに、DU比(絶対値)として対数スケールで表示したものである。ここで所望信号(D波)に対して干渉信号(U波)がどの程度までなら所望信号(D波)の劣化が無いと扱えるかを予め測定しておき、測定結果を比較グラフ上に、閾値として描画しておく。抑圧処理後に遅延プロファイルを併せて描画し、この遅延プロファイルを比較グラフ上で閾値と比較し、閾値以下になったことを確認できるようにする。これにより、干渉信号の抑圧動作が正常に行なわれたこと、及びそのときの抑圧の程度を視覚的に確認することができる。
【0057】
図4(c)のグラフデータは、縦軸は、DU比を対数スケールだけで表したものである。このグラフからは、抑圧動作前の干渉波と抑圧後の干渉波レベルのDU比の確認と、抑圧後の干渉信号の抑圧量を視覚的に確認することができる。
【0058】
なお、図4(b)のグラフデータでは対数スケールとしたことで、抑圧後の干渉波量の相関値が“0.1”以下の部分も、DU比として細かく表示することができる。
【0059】
このように、本実施形態においては、リピータ装置12における遅延プロファイルが外部制御及び表示装置28に表示されるので、 特殊測定器を用いることなく、干渉信号の分布状態を容易に把握することができる。
なお、本実施形態では、遅延プロファイルとして、DU比、アンテナ・アイソレーション、遅延時間毎の干渉信号の信号強度の情報を用いたが、干渉信号の分布状態を表すものであれば、これらの以外の情報、例えばD波に対するU波の遅延時間、U波の抑圧量等も遅延プロファイルとして使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明のリピータ装置を含む通信システムの概要説明図。
【図2】この実施形態によるリピータ装置の構成例を示す図。
【図3】干渉信号抑圧装置の構成例を示す図。
【図4】(a)は、遅延プロファイルを示す図、(b)は抑圧前後の干渉信号の比較例を示すグラフデータ、(c)は(b)とは別の遅延プロファイルの例を示す図。
【図5】干渉信号の抑圧処理手順説明図。
【図6】発振直前利得を検出するための構成例を示す図。
【符号の説明】
【0061】
11・・・基地局、12・・・リピータ装置、13a、13b・・・建造物、14・・・端末、21・・・基地局向けアンテナ、22・・・アンテナ共用器、23・・・端末向けアンテナ、24、24a、24b・・・低雑音増幅器、25、25a、25b、25c、25d・・・周波数変換器、26、26a、26b・・・干渉信号抑圧装置、27a、27b・・・高出力増幅器、28・・・外部制御及び表示装置、31・・・A/D変換器、32・・・チップ遅延器、34・・・加算器、35a、35b、35c・・・位相振幅制御器、36a、36b、36c、39・・・相関積分器、37a、37b、37c、41・・・遅延器、38・・・監視制御回路、40・・・CPU、42・・・可変減衰器、43・・・D/A変換器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信アンテナから所望信号に干渉信号が混入した受信信号を受信するとともに、この受信信号から前記干渉信号を抑圧するための抑圧信号を生成し、生成した抑圧信号を前記受信信号と加算器で加算することにより前記干渉信号を抑圧し、さらに、前記干渉信号が抑圧された信号を送信信号として送信アンテナから出力させる機能を有するリピータ装置において、
その減衰量を変化させることにより前記送信信号の信号強度を増減させる可変減衰器と、
この可変減衰器で前記送信信号の信号強度を変化させながら前記加算器の入力側と出力側の信号強度を比較することにより、発振直前状態であることが検知されるまで装置利得を上げ、さらに、遅延時間を順次可変させながら相関積分を行うことで前記受信信号への干渉信号の有無並びに当該干渉信号の遅延時間を検知し、検知した情報並びに検知時点の前記可変減衰器の減衰量に基づいて、前記所望信号に対してどの程度の信号強度比の干渉信号がどの遅延時間で分布しているかを表す遅延プロファイルを生成し、生成した遅延プロファイルを記憶するとともに、記憶された遅延プロファイルを所定の表示装置に表示させる制御手段とを設けて成る、
リピータ装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記加算器の入力側と出力側の信号強度の差が所定割合になった状態を検知したときに当該状態を発振直前状態と判定し、この発振直前状態における前記可変減衰器の減衰量及び前記受信信号の信号強度を前記遅延プロファイルの一つとして記憶する、
請求項1記載のリピータ装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記発振直前状態で取得した遅延プロファイルと抑圧動作完了時の装置利得とに基づいて所望信号の信号強度に対する干渉信号の信号強度の比を求め、この比を真数又は対数で表したデータ、又は、前記比に前記可変減衰器の減衰量を加算したデータを、前記遅延プロファイルの一つとして記憶する、
請求項2記載のリピータ装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記発振直前状態で得た遅延プロファイルに基づいて前記アンテナ・アイソレーションを導出し、このアンテナ・アイソレーションを前記遅延プロファイルの一つとして記憶する、
請求項3記載のリピータ装置。
【請求項5】
前記制御手段は、装置利得を前記発振直前状態になるまで上げた後、前記受信信号から前記干渉信号の振幅及び位相を検出する動作を、遅延時間を変えながら繰り返すことで、前記遅延プロファイルを生成する、
請求項3又は4記載のリピータ装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記干渉信号に対する抑圧動作前の遅延プロファイルと、前記干渉信号の抑圧動作後の遅延プロファイルのいずれかを記憶し、予め記憶されている遅延プロファイルと新たに生成された遅延プロファイルとを所定のグラフデータにマッピングすることにより、前記干渉信号の抑圧の程度を表す情報を前記表示装置で可視化する、
請求項1乃至5のいずれかの項記載のリピータ装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記所望信号に対して前記干渉信号の信号強度がどの程度までなら前記所望信号の劣化が無いと扱えるかを予め測定し、測定結果を前記グラフデータにより表示されるグラフ上に閾値として描画しておき、前記抑圧動作後の遅延プロファイルと前記閾値とを併せて可視化することにより、前記干渉信号の抑圧の程度を確認可能にする、
請求項6記載のリピータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−135935(P2010−135935A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307910(P2008−307910)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000219004)島田理化工業株式会社 (205)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】