説明

リリーフバルブ

【課題】背圧用コントロールバルブの故障時においても、エンジンへのオイル供給を可能にするリリーフバルブを提供する。
【解決手段】バルブボディ2と、流入口7と排出口8とを備えた筒状のスリーブ4と、排出口8の閉じ状態と排出口8の開き状態とを形成するバルブ5と、バルブ5に第1ポート11からの流体圧に抗う方向への付勢力を付与する付勢部材6と、スリーブ4に対して付勢力と同じ方向に第1ポート11の流体圧を作用可能であり、当該作用を入切してバルブボディ2に対するスリーブ4の位置を変更するスリーブ位置変更機構13と、を備え、スリーブ4の外周面4bとバルブボディ2との間に、流体が滞留可能でありバルブボディ2に対するスリーブ4の移動に伴って容積が変化する流体滞留部16を設け、第2ポート12と流体滞留部16との間の流路に当該流路を狭くした流路絞り部17が形成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リリーフバルブ、特にエンジン潤滑系の油圧調整に用いられるバルブ開弁圧が変更可能なリリーフバルブに関する。
【背景技術】
【0002】
リリーフバルブは、油圧回路の圧力が設定圧以上になると、リリーフバルブの内部に設けられている余剰油の逃し路を開くことによって、油圧回路の圧力上昇を抑制するものである。
この種のリリーフバルブは、例えば、非特許文献1のように、ボディ、バルブ、スプリング、リテーナ、プラグ、リテーナとプラグ間にオイルを導入する油路、及びオイル導入をコントロールする背圧用コントロールバルブで構成される。
このリリーフバルブにおいて、リテーナとプラグ間にオイルが導入されない場合には、リテーナはプラグ端面位置にありスプリング長が長くセットされて、オイルポンプにより吐出されるオイルをリリーフバルブよりもオイルの流通方向上流側にリリーフするのに必要なバルブ開弁圧が低圧に設定される。一方、リテーナとプラグ間にオイルが導入される場合には、リテーナが上昇してスプリングを収縮させ、バルブ開弁圧が高圧に設定される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】公開技報2006−505946
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種のリリーフバルブにおいて、運転状況に応じたバルブ開弁圧の調整について異常が発生することがある。その場合には、前記リリーフバルブが低圧側あるいは高圧側の動作状態の一方にて固定されたまま他方に変更できなくなることが多い。非特許文献1のリリーフバルブの場合、オイル中のスラッジ等により背圧用コントロールバルブが詰まると、リテーナとプラグ間にオイルが導入されなくなり、バルブ開弁圧が低圧のまま保持されてしまう。この結果、エンジンが高回転の時にも低圧でオイルがドレインに排出されることとなり、エンジン各部にオイルが供給されず焼付け発生の要因となることがあった。
また、リリーフバルブが低温設定のときには、スプリングの伸張によりリテーナがプラグ端面に着座する際に異音が発生することがある。
【0005】
そこで、本発明は、背圧用コントロールバルブの故障時等、背圧用コントロールバルブの機能を奏し得なくなった場合においても、エンジンへのオイル供給を可能にするリリーフバルブの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るリリーフバルブの第1の特徴構成は、流体が流入する第1ポートと流体を排出する第2ポートとを有するバルブボディと、前記バルブボディの内部で摺動し、前記第1ポートに連通する流入口と、前記第2ポートに連通する排出口とを備えた筒状のスリーブと、前記流入口を介した前記流体の圧力を受けつつ前記スリーブの内部で摺動し、前記流入口の側に近接して前記排出口を閉じる閉じ状態と、前記流入口から離間して前記排出口を開く開き状態とを形成するバルブと、前記バルブに前記第1ポートからの流体圧に抗う方向への付勢力を付与する付勢部材と、前記スリーブに対して、前記付勢力と同じ方向に前記第1ポートの流体圧を作用可能であり、当該作用を入切して前記バルブボディに対する前記スリーブの位置を変更するスリーブ位置変更機構と、を備え、前記スリーブの外周面と前記バルブボディとの間に、前記流体が滞留可能であり前記バルブボディに対する前記スリーブの移動に伴って容積が変化する流体滞留部を設け、前記第2ポートと前記流体滞留部との間の流路に当該流路を狭く流路絞り部が形成してある点にある。
【0007】
この構成により、本発明に係るリリーフバルブは、スリーブ位置変更機構において、スリーブに対して付勢部材の付勢力と同じ方向に第1ポートの流体圧を作用させる第1状態と、当該第1ポートの流体圧を作用させない第2状態とに切換えるだけで、バルブボディに対するスリーブの位置を変更することができる。つまり、スリーブ位置変更機構が第1状態のときは、スリーブに第1ポートからの流体圧に抗う方向にも第1ポートの流体圧が作用して、スリーブが第1ポートの側に移動する。一方、スリーブ位置変更機構が第2状態のときは、スリーブは第1ポートからの流体圧のみを受け、第1ポートから離れて第1ポートとは反対側へ移動する。
【0008】
スリーブ位置変更機構が第1状態のときには、スリーブの第1ポートの側への移動に伴い、第2ポートに連通する排出口の位置も第1ポートの側に近づく。このとき、バルブもスリーブとともに第1ポートの側に移動し、バルブの付勢部材が伸張状態となる。よって、液供給路の液圧が低圧であっても、第1ポートの側に付勢する付勢部材が第1ポートとは反対の側に押戻されてバルブがスリーブの排出口を開放する。この結果、スリーブの内部で第1ポートと第2ポートとが連通することで液供給路の余剰液がドレインに導かれる。つまり、この場合は、リリーフ圧力変更機能付きリリーフバルブのバルブ開弁圧が低圧設定となる。
【0009】
スリーブ位置変更機構が第2状態のときには、スリーブが第2ポートの側への移動に伴い、排出口の位置も第1ポートの側から遠ざかる。さらに、スリーブとともにバルブも第2ポートの側に移動し、バルブの付勢部材が収縮状態となる。よって、液供給路の液圧が低圧の時には、第1ポートの側に付勢する付勢部材は第1ポートと反対側には押戻されない。液供給路の液圧が高圧になると、第1ポートの側に付勢する付勢部材を第1ポートの反対側に押戻して排出口を開放し、スリーブの内部で第1ポートと第2ポートとが連通して液供給路の余剰液がドレインに導かれる。つまり、この場合は、リリーフバルブのバルブ開弁圧が高圧設定となる。
【0010】
例えば、本発明に係るリリーフバルブをエンジンオイルの供給路に用いた場合には、エンジンオイルが低温の時、スリーブ位置変更機構を第1状態にし、スリーブに対して第1ポートからの流体圧に抗う方向に第1ポートの流体圧を作用させる。これにより、スリーブは第2ポートから第1ポートの側へ移動し、リリーフバルブのバルブ開弁圧は低圧設定となる。リリーフバルブが開き易くなると、エンジン各部のうちオイル供給が必要な他の箇所にオイルが供給され難くなる。しかし、エンジンの暖機運転を行う場合などには、例えば、ピストンやシリンダを冷却する部位に直ちにオイルを供給する必要がないため、オイルの供給負荷を小さく抑えた状態で暖機運転を効率よく行うことができる。
【0011】
また、エンジンが低回転(低負荷)の時も、スリーブ位置変更機構を第1状態にし、スリーブに対して第1ポートからの流体圧に抗う方向に第1ポートの流体圧を作用させる。これにより、スリーブは第2ポートから第1ポートの側へ移動し、リリーフバルブのバルブ開弁圧は低圧設定となる。つまり、エンジン回転数が低い場合には、エンジンを構成する部材同士の摩擦も少なく、当該箇所にオイルを供給する必要性に乏しい場合がある。よって、エンジンが低回転の場合には、所定の箇所のみにオイルを供給し、例えばオイルポンプのフリクションを低減させてエンジンを効率よく運転することができる。
【0012】
さらに、オイルに混在するスラッジ等の影響によりスリーブ位置変更機構が故障し、スリーブに対して第1ポートからの流体圧に抗う方向に第1ポートの流体圧を作用させることができなくなっても、リリーフバルブは、スリーブが第1ポートの液圧を受けて第1ポートから離脱し第2ポートの側へ移動し、リリーフバルブのバルブ開弁圧は高圧設定となる。したがって、オイル供給路の液圧が低圧の時は、バルブは、第1ポートの側に付勢する付勢部材を第1ポートの反対側に押し戻すことができない。つまり、スリーブの第2ポートと連通する排出口を閉じたままであるので、エンジンにオイルが供給されることとなり、エンジンの焼付け等の不具合を未然に防止できる。
【0013】
スリーブ位置変更機構が第1状態から第2状態に切換わると、スリーブに対して第1ポートからの流体圧に抗う方向に第1ポートの流体圧が作用しなくなり、スリーブは第1ポートからの流体圧のみを受けて、第1ポートとは反対の側に移動する。このとき、オイルポンプの脈動を受けてスリーブが微振動し、この微振動によりスリーブがバルブボディに着座する際に異音が発生することがある。
【0014】
そこで、本構成のリリーフバルブでは、スリーブの外周面とバルブボディとの間に、流体が滞留可能でありバルブボディに対するスリーブの移動に伴って容積が変化する流体滞留部を設け、第2ポートと流体滞留部との間の流路には、当該流路を狭くした流路絞り部が形成してある。
【0015】
このように構成すると、スリーブが第1ポートからの流体圧のみを受けて第1ポートとは反対の側に移動する際に、流体滞留部は、その容積が増す方向に変化しつつ流路絞り部によって流体の流入が制限されて密閉空間に近い状態となり、スリーブの第1ポートとは反対側への動きを減衰するように作用する。その結果、スリーブの第1ポートとは反対側への移動は緩やかになり、オイルポンプの脈動によるスリーブの微振動が抑制されて、スリーブがバルブボディに着座する際の衝撃エネルギーは減少する。こうして、スリーブがバルブボディに着座する際に発生する異音を小さくすることができる。
【0016】
本発明に係るリリーフバルブの第2の特徴構成は、前記スリーブ位置変更機構は、前記第1ポートを流通する流体の流体圧を前記スリーブに作用させて前記付勢部材の付勢方向と同一方向に移動させるか否かを切換えるOSVを備える点にある。
【0017】
このように、バルブボディとスリーブ及びバルブとの相対位置を変更するために、第1ポートを流通する流体の流体圧をスリーブに作用させて付勢部材の付勢方向と同一方向に移動させるか否かを切換えるOSVを備えるので、スリーブを移動させるための動力を別途必要とせず、リリーフバルブの構造を簡素化できる。また、OSVによって第1ポートを流通する流体の流体圧をスリーブに作用させて移動させるか否かの切換えを確実に行うことができる。
【0018】
本発明に係るリリーフバルブの第3の特徴構成は、前記スリーブ位置変更機構の作動時には、前記バルブに前記流体の流体圧を第1開弁圧以上作用させることにより前記排出口から前記流体が排出し、前記スリーブ位置変更機構の非作動時には、前記バルブに前記流体の流体圧を第2開弁圧以上作用させることにより前記排出口から前記流体が排出し、前記第2開弁圧は、前記第1開弁圧よりも高い流体圧である点にある。
【0019】
この構成により、スリーブ位置変更機構の作動時には、バルブ内の流体の流体圧が第1開弁圧以上であるとリリーフする低圧設定となり、スリーブ位置変更機構の非作動時には、バルブ内の流体の流体圧が第1開弁圧より高い流体圧である第2流体圧以上であるとリリーフする高圧設定となる。こうして、リリーフバルブにおけるバルブ開弁圧の設定変更を容易に行うことができる。
【0020】
本発明に係るリリーフバルブの第4の特徴構成は、前記スリーブの両端面のうち、一方の端面が前記第1ポートに面し、他方の端面が前記スリーブ位置変更機構の流路に面しており、前記他方の端面の面積を前記一方の端面の面積よりも大きく設定した点にある。
【0021】
この構成により、第1ポートの液圧を他方の端面に作用させたとき、両端面の面積の差によって、一方の端面に作用する流体圧による押付け力に比べて他方の端面に作用する流体圧により押付け力の方が大きくなり、簡単な構成でありながらスリーブを第1ポートの側に確実に位置させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るリリーフバルブの実施形態(低圧設定状態)を示す図である。
【図2】本発明に係るリリーフバルブの実施形態(低圧設定状態)を示す図である。
【図3】本発明に係るリリーフバルブの実施形態(高圧設定状態)を示す図である。
【図4】本発明に係るリリーフバルブの実施形態(高圧設定状態)を示す図である。
【図5】本発明に係るリリーフバルブの始動時の状態を示す図である。
【図6】本発明に係るリリーフバルブのスリーブの形状を示す図である。
【図7】本発明に係るリリーフバルブの他の実施形態を示す図である。
【図8】本発明に係るリリーフバルブの他の実施形態を示す図である。
【図9】本発明に係るリリーフバルブの他の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態として、エンジンへオイルを供給する供給流路10の圧力を制御するリリーフバルブ1を図面に基づいて説明する。
【0024】
図1〜図4に示すように、エンジン作動状態では、オイルポンプ20によって、オイルパン21の内部に貯留された流体(オイル)を吸出し、供給用流路10を用いて各被潤滑部材に向けて送出する。リリーフバルブ1は、バルブボディ2と、このバルブボディ2の内部で摺動する筒状のスリーブ4と、このスリーブ4の内部で摺動するバルブ5と、バルブ5に付勢力を付与する付勢部材6(例えば、スプリングバネ)とを備え、供給用流路10の経路中に配置される。
【0025】
バルブボディ2は、流体が流入する第1ポート11と流体を排出する第2ポート12とを有している。スリーブ4は、第1ポート11に連通する流入口7と第2ポート12と連通する排出口8とを備えている。バルブ5は、流入口7を介した流体の圧力を受けつつスリーブ4の内部で摺動し、流入口7の側に近接して排出口8を閉じる閉じ状態と、流入口7から離間して排出口8を開く開き状態とを形成する。付勢部材6は、バルブ5を第1ポート11からの流体圧に抗う方向に付勢力を付与するよう構成されている。換言すれば、バルブボディ2は、第1ポート11及び第2ポート12を有する。スリーブ4は、バルブボディ2に収容され、第1ポート11に連通する流入口7及び第2ポート12に連通する排出口8を有する。バルブ5は、スリーブ4に収容され、流入口7側に移動することにより流入口7と排出口8との連通を禁止し、流入口7とは反対側に移動することにより流入口7と排出口8との連通を許可する。また、付勢部材6は、バルブ5を流入口7側に付勢する。
【0026】
リリーフバルブ1は、バルブボディ2に対するスリーブ4の相対位置を変更する、スリーブ位置変更機構13を備えている。このスリーブ位置変更機構13は、供給用流路10から分岐しスリーブ4の第1ポート11の側とは反対の側(以下、反第1ポート11の側という)に接続される背圧用流路14と、背圧用流路14の経路中に設けられ、第1ポート11の流体圧の作用を入切するOSV15とによって構成されている。
【0027】
OSV15をONにすると、図1及び図2に示すように、背圧用流路14から供給用流路10の流体がスリーブ4の反第1ポート11の側に導入され、スリーブ4に対して、第1ポート11からの流体圧に抗う方向に第1ポート11の流体圧が作用する。一方、OSV15をOFFにすると、図3、図4に示すように、背圧用流路14から供給用流路10の流体がスリーブ4の反第1ポート11の側に導入されなくなり、スリーブ4に対して、第1ポート11からの流体圧に抗う方向に第1ポート11の流体圧が作用しなくなる。
【0028】
スリーブ4の両端面4A、4Bのうち、一方の端面4Aは第1ポート11に面し、他方の端面4Bはスリーブ位置変更機構13の背圧用流路14に面している。ここで、端面4Bの面積は端面4Aの面積よりも大きく設定してある。こうすることで、第1ポート11の液圧を他方の端面4Bに作用させたとき、両端面4A、4Bの面積の差によって、一方の端面4Aに作用する流体圧に比べて他方の端面4Bに作用する流体圧の方が大きくなり、スリーブ4を第1ポート11の側に位置させることができる。よって、OSV15を入切操作することで、スリーブ4を第1ポート11の側または第2ポート12の側に位置させることができる。
【0029】
図1〜図4に示すように、スリーブ4の外周面のうち、スリーブ4の両端部の部位(両端部に近接した部位にのみ)にバルブボディ2との摺動面4aが形成されており、両端部(両摺動面4a)に挟まれた部位(外周面4b)はバルブボディ2とは摺動しない。スリーブ4の位置は、第1ポート11の流体圧を利用して変更されるから、バルブボディ2に対する摺動抵抗はできるだけ小さい方が望ましい。そのため、バルブボディ2との摺動面4aをスリーブ4の両端部近傍に振り分けることで、摺動時における摺動面の面積を低減し、かつ、スリーブ4の傾きを最小限に留めて、スリーブ4との間に生じる摩擦力を極力少なくしている。摺動面4aによって、バルブボディ2の内部のスリーブ4は、バルブボディ2の内部の軸方向に対して傾斜姿勢になることはなく、バルブボディ2の内部でその軸方向に沿った姿勢を保持したまま、第1ポート11と第2ポート12との間を移動することとなる。
【0030】
[通常運転時]
OSV15をONにすると、スリーブ4に対して、第1ポート11からの流体圧に抗う方向に第1ポート11の流体圧が作用し、スリーブ4を第1ポート11の側に移動させる。スリーブ4が第1ポート11の側に位置すると、スリーブ4の端面4Aがバルブボディ2の当接面2Aと当接し、それに伴い、排出口8の位置も第1ポート11の側に近づく。さらに、スリーブ4とともにバルブ5も付勢部材6で付勢されて第1ポート11の側に位置するので、付勢部材6が伸張状態となる。伸張状態となった付勢部材6は反第1ポート11の側に押し戻され易い。よって、供給流路10の流体圧が低圧であっても、図2のように、付勢部材6を反第1ポート11の側に押戻して、バルブ5がスリーブ4の流入口7から離間してスリーブ4の排出口8を開く開き状態となる。こうして、第1ポート11と第2ポート12とが連通し、余剰流体(オイル)がオイルポンプ20の吸入口に還流する。つまり、この場合は、リリーフバルブ1のバルブ開弁圧が低圧設定(第1開弁圧)となる。換言すれば、OSV15(スリーブ位置変更機構13)の作動時には、バルブ5に流体の流体圧を第1開弁圧以上作用させることにより排出口8から流体が排出する。
【0031】
一方、OSV15をOFFにすると、スリーブ4に対して、第1ポート11からの流体圧に抗う方向に第1ポート11の流体圧が作用しなくなる。スリーブ4には第1ポート11からの流体圧のみが作用し、スリーブ4を反第1ポート11の側に移動させる。スリーブ4が反第1ポート11の側に位置すると、スリーブ4の端面4Bがバルブボディ2のガイド面2Bに着座し、それに伴い、排出口8の位置も第1ポートの側から遠ざかる。さらに、スリーブ4とともにバルブ5も第2ポート11の側に位置するので、付勢部材6が収縮状態となる。収縮状態となった付勢部材6は反第1ポート11の側に押し戻され難くなる。よって、供給用流路10の流体圧が低圧では、付勢部材6が反第1ポート11の側に押戻されず、図3のように、バルブ5がスリーブ4の排出口8を閉じる閉じ状態に維持される。供給用流路10の流体圧が高圧になると、図4のように、収縮状態の付勢部材6を反第1ポート11の側に押し戻して、バルブ5がスリーブ4の流入口7から離間してスリーブ4の排出口8を開く開き状態となる。こうして、第1ポート11と第2ポート12とが連通し、余剰流体(オイル)がオイルポンプ20の吸入口に還流する。つまり、この場合は、リリーフバルブ1のバルブ開弁圧が高圧設定(第2開弁圧)となる。換言すれば、OSV15(スリーブ位置変更機構13)の作動時には、バルブ5に流体の流体圧を第2開弁圧以上作用させることにより排出口8から流体が排出する。
【0032】
ここで、バルブ開弁圧とは、流入口7と排出口8とが連通するのに必要な流体圧のことをいう。具体的には、オイルポンプ20から吐出される流体(オイル)がバルブ5に作用し、付勢部材6の付勢力に抗してバルブ5がスリーブ4から離間する方向に移動して流入口7と排出口8とが連通するのに必要な流体圧である。また、低圧設定(第1開弁圧)は、高圧設定(第2開弁圧)と比較して小さい流体圧で流入口7と排出口8とが連通する。
【0033】
上述のように、スリーブ位置変更機構13が第1状態(低圧設定)から第2状態(高圧設定)に切換わると、スリーブ4に対して第1ポート11からの流体圧に抗う方向に第1ポート11の流体圧が作用しなくなり、スリーブ4の反第1ポート11の側の流路とドレイン流路とが連通して、スリーブ4が第2ポート12の側に移動する。このとき、オイルポンプの脈動を受けてスリーブ4が微振動し、スリーブ4がバルブボディ2のガイド面2Bに着座する際に異音が発生することがある。
【0034】
そこで、このリリーフバルブ1では、スリーブ4の外周面4bとバルブボディ2との間に、第2ポート12と連通してオイルが滞留可能でありバルブボディ2に対するスリーブ4の移動に伴って容積が変化する流体滞留部16を設け、第2ポート12と流体滞留部16との間の流路には、スリーブ4の外周面4bとバルブボディ2の突出部2Cによって当該流路を狭くした流路絞り部17が形成してある。
【0035】
このように構成すると、スリーブ4が第1ポート11からの流体圧のみを受けて第1ポート11とは反対の側に移動する際に、流体滞留部16は、その容積が増す方向に変化しつつ流路絞り部17によって流体の流入が制限されて密閉空間に近い状態となり、スリーブ4の反第1ポート11の側への動きを減衰するように作用する。その結果、スリーブ4の反第1ポート側への移動は緩やかになり、オイルポンプ20の脈動によるスリーブ4の微振動が抑制されて、スリーブ4がバルブボディ2のガイド面2Bに着座する際の衝撃エネルギーは減少する。こうして、スリーブ4がバルブボディ2に着座する際に発生する異音を小さくすることができる。
【0036】
[背圧用流路の詰まり等による故障時]
エンジン作動状態において、背圧用流路14がスラッジ等の影響で詰まった場合は、仮にOSV15がONの状態であっても、図3、図4に示すOSV15のOFF状態と同様に、供給用流路10の流体がスリーブ4の反第1ポート11の側に導入されなくなる。この場合、スリーブ4に対して、第1ポート11からの流体圧に抗う方向に第1ポート11の流体圧が作用しない。よって、リリーフバルブ1は、第1ポート11からの流体圧のみがスリーブ4に作用し、スリーブ4は第2ポート12の側に位置して、バルブ開弁圧が高圧設定(第2開弁圧)となる。
【0037】
このように、本発明のリリーフバルブは、スラッジ等の影響で背圧用流路14が詰まる等の故障時に、リリーフバルブ1のバルブ開弁圧が高圧設定となるように構成されている。そのため、供給用流路10の流体圧が低圧のときはバルブ5が閉じ状態のままとなって、エンジンにオイルが供給され続けることとなる。よって、エンジンにオイルが供給されないことにより発生するエンジンの焼付け等の不具合を未然に防止できる。
【0038】
[極低温状況下での始動時]
例えば、−20℃以上の極低温状況下でエンジンを始動する際には、供給されるオイルが高粘度になる場合があり、第1ポート11の側の流体圧が急激に上昇する可能性がある。このため、図5に示すように、スリーブ位置調整機構13は通常、第2状態(高圧設定)にする。ここで、始動時には第1ポート11の側にはオイルがまだ流れていないので、スリーブ4はバルブ5を介して付勢部材6の付勢力を受けることとなり、第1ポート11の側に位置する。この状態において、第1ポート11の側の流体圧が急激に上昇すると、スリーブ4は第1ポート11の側の流体圧を受けて反第1ポート11の側に移動する。このとき、バルブ5の開弁動作も同時に行われるが、バルブ5の開弁動作にスリーブ4の反第1ポート11の側への移動が追従してしまうことがある。そうなると、オイルがリリーフされるまでに要する時間が余計にかかるため、その間に第1ポート11の側の流体圧がさらに上昇して、油圧回路等に不具合を及ぼすおそれがある。
【0039】
本実施形態では、スリーブ4とバルブボディ2との間に流体滞留部16が設けられ、流体滞留部16と第2ポート12との間の流路に流路絞り部17が形成されている。この構成により、スリーブ4が反第1ポート11の側へ移動する際に、流体滞留部16は、その容積が増す方向に変化しつつ流路絞り部17によって流体の流入が制限されて密閉空間に近い状態となり、スリーブ4の反第1ポート11の側への動きを減衰するように作用する。
【0040】
このため、スリーブ4の反第1ポート11の側への移動は緩やかになり、図5に示すように、バルブ5の方がスリーブ4よりも先に反第1ポート11の側に移動する。その結果、スリーブ4の第1ポート11と第2ポート12とが連通して低圧の状態で開弁して、オイル供給路の余剰液がリリーフされる。よって、極低温始動時に第1ポート11の側の流体圧が急激に上昇したとしても、すぐにオイルがリリーフされて1ポート11の側の流体圧が所定の範囲に制御されるので、油圧回路等を確実に保護できる。
【0041】
スリーブ4の第1ポート11に面する端面4Aには、図6に示すように、全周にわたる平坦な外周面と、外周面より第1ポート11の側に位置し、全周にわたる平坦な内周面と、外周面から内周面にかけて径が小さくなる方向に傾斜して連続する傾斜面が形成されている。さらに、端面4Aには、内周面から外周面にかけて切り欠き部4cが形成されている。スリーブ4が第1ポート11の側に位置するとき、端面4Aがバルブボディ2の第1ポート11の側のスリーブ当接面2Aに当接する。このとき、端面4Aと当接面2Aとが密接することで、端面4Aの外周面への流体通路が狭められ、第1ポート11の流体が端面4Aの外周面に流れ難い状態になることがある。ここで、端面4Aに切り欠き部4cが形成されていると、第1ポート11の流体が、切り欠き部4cを通じて端面4Aの外周面全体に流れ込むようになる。このように、第1ポート11の流体圧を端面4Aの外周面にまで行き渡るように構成し、スリーブ4の動作を円滑なものとしている。
【0042】
〔他の実施形態〕
(1)上記の実施形態では、スリーブ4の両端部(両摺動面4a)に挟まれた部位(外周面4b)を全周に亘って凹状に形成しているが、図7に示すように、スリーブ4の外周面4bと摺動面4aとを面一に形成して、スリーブ4の外周面4bとバルブボディ2との間に流路絞り部17を形成するようにしてもよい。
【0043】
(2)本発明に係るリリーフバルブ1は、スリーブ4の内部の流体または空気のうち、バルブ5を隔てて第1ポート11の側とは反対側の流体または空気を排出する第1連通孔4dを、スリーブ4に設けてあることが好ましい。スリーブ4に第1連通孔4dを設ける場合は、例えば、図8に示すように、スリーブ4の第1ポート11の側とは反対側の外周面に第1連通孔4dを設ける。スリーブ位置変更機構13によってスリーブ4の位置を変更する際には、スリーブ4の内部の流体または空気のうち、バルブ5を隔てて第1ポート11の側とは反対側の流体または空気の体積が増減する。その際にこの第1ポート11の側とは反対側の流体または空気を第1連通孔によって排出しておくことで流体の出入りが自由となり、スリーブ4の位置移動に際しての抵抗を低減することができる。
【0044】
(3)本発明に係るリリーフバルブ1は、図9に示すように、スリーブ4の内部の流体または空気のうち、バルブ5を隔てて第1ポート11の側とは反対側の流体または空気を排出する第2連通孔5aを、バルブ5に設けてあることが好ましい。第1ポート11からの流体圧によってバルブ5が押し下げられる場合、バルブ5を隔てて第1ポート11の側とは反対側の流体または空気が抵抗となる。バルブ5に第2連通孔5aを設けると、図9(a)のように、第1ポート11からの流体圧によってバルブ5が押し下げられる途中で、当該流体または空気が、第2連通孔5aからスリーブ4の排出口8を通り第2ポート12に排出されることとなる。よって、当該空間の流体のスリーブ4の排出口8を介して排出が促進されることとなり、バルブ5の動作を円滑なものとなる。図9(b)のように、バルブ5がスリーブ4の流入口7から離間して排出口8を開く開き状態となると、第2連通孔5aと排出口8とは連通しなくなる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係るリリーフバルブは、エンジン潤滑系の油圧調整に限らず、広く、さまざまな液圧調整に用いることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 リリーフバルブ
2 バルブボディ
4 スリーブ
4a 摺動面
4b 外周面
4d 第1連通孔
5 バルブ
5a 第2連通孔
6 付勢部材
7 流入口
8 排出口
11 第1ポート
12 第2ポート
13 スリーブ位置変更機構
14 背圧用流路
15 OSV
16 流体滞留部
17 流路絞り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流入する第1ポートと流体を排出する第2ポートとを有するバルブボディと、
前記バルブボディの内部で摺動し、前記第1ポートに連通する流入口と、前記第2ポートに連通する排出口とを備えた筒状のスリーブと、
前記流入口を介した前記流体の圧力を受けつつ前記スリーブの内部で摺動し、前記流入口の側に近接して前記排出口を閉じる閉じ状態と、前記流入口から離間して前記排出口を開く開き状態とを形成するバルブと、
前記バルブに前記第1ポートからの流体圧に抗う方向への付勢力を付与する付勢部材と、
前記スリーブに対して、前記付勢力と同じ方向に前記第1ポートの流体圧を作用可能であり、当該作用を入切して前記バルブボディに対する前記スリーブの位置を変更するスリーブ位置変更機構と、を備え、
前記スリーブの外周面と前記バルブボディとの間に、前記流体が滞留可能であり前記バルブボディに対する前記スリーブの移動に伴って容積が変化する流体滞留部を設け、前記第2ポートと前記流体滞留部との間の流路に当該流路を狭くした流路絞り部が形成してあるリリーフバルブ。
【請求項2】
前記スリーブ位置変更機構は、前記第1ポートを流通する流体の流体圧を前記スリーブに作用させて前記付勢部材の付勢方向と同一方向に移動させるか否かを切換えるOSVを備える請求項1に記載のリリーフバルブ。
【請求項3】
前記スリーブ位置変更機構の作動時には、前記バルブに前記流体の流体圧を第1開弁圧以上作用させることにより前記排出口から前記流体が排出し、
前記スリーブ位置変更機構の非作動時には、前記バルブに前記流体の流体圧を第2開弁圧以上作用させることにより前記排出口から前記流体が排出し、
前記第2開弁圧は、前記第1開弁圧よりも高い流体圧である請求項1又は2に記載のリリーフバルブ。
【請求項4】
前記スリーブの両端面のうち、一方の端面が前記第1ポートに面し、他方の端面が前記スリーブ位置変更機構の流路に面しており、
前記他方の端面の面積を前記一方の端面の面積よりも大きく設定してある請求項1〜3のいずれか一項に記載のリリーフバルブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−17799(P2012−17799A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155132(P2010−155132)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】