説明

リード部材、およびリード部材の製造方法

【課題】異種金属同士の接合性に優れるリード部材と、固相接合に用いる金型の寿命の低下を抑制できて生産性に優れるリード部の製造方法を提供する。
【解決手段】リード部材10は、Alを主体とするAl部材11と、Al部材11の一端側に接合されてAl部材11と異なる金属を主体とする相手部材12とを具え、両部材11、12のいずれか一方が電極に電気的に接続される。リード部材10は、Al部材11と相手部材12との重複箇所13を具える。重複箇所13は、凹型の圧接痕16が形成されて、両部材11、12が固相接合された接合領域13jと、この接合領域13j周辺において両部材11、12が対面している周辺領域13rとを有している。接合領域13jの界面は、両部材11、12の各構成材料から構成されている。周辺領域13rの界面には、表面処理により形成されたAlの化合物からなる表面処理層が存在しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質デバイスなどに用いられるリード部材、およびそのリード部材の製造方法に関するものである。特に、金型を用いて異種材料からなる相手部材同士を固相接合したリード部材であって、金型寿命の低下を抑制できて、接合性に優れるリード部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
小型電子機器類の電源として、リチウムイオン電池などの非水電解質電池が利用されている。この非水電解質電池は、例えば正極と負極とをセパレータを介して重ねて積層構造とした電極群を作製し、この電極群を外装体に収納した後、電解液を外装体内に封入することで作製されている。正極と負極とは、集電体となる金属基材上に活物質層が形成された構造を有している。正極の金属基材(正極集電体)にはアルミニウム(Al)が、負極の金属基材(負極集電体)には銅(Cu)がよく用いられている。また、外装体にはプラスチックフィルムの間に金属層を挟んだ構造のラミネートシートがよく用いられている。
【0003】
正極集電体及び負極集電体にはそれぞれリード部材が接続されており、このリード部材が電気エネルギーの取出端子として外装体から引き出されているのが一般的である。正極集電体に接続されるリード部材(正極リード)にはAlが、負極集電体に接続されるリード部材(負極リード)にはニッケル(Ni)又はCuがよく用いられている。
【0004】
このような構成の電池では、複数の電池を直列接続して所望の電気エネルギーを得る場合、ある電池の正極リードと他の電池の負極リードとを接合して組電池を構成する必要がある。しかし、各リード部材が異なる金属材料で構成されている場合、結露等の水分が電解液となり接合箇所の異種金属間で局部電池が形成され、イオン化傾向の大きい方の金属が腐食する問題がある。そして、リード部材に腐食が生じた場合、接合部の接触抵抗が増加して電気的特性が低下するだけでなく、接合部における機械的強度も低下する。
【0005】
この問題を解決する技術が、例えば特許文献1に開示されている。この文献に記載の技術では、負極リードをCu板で構成し、正極リードをAl板とCu板とを接合した構成とすることで、複数の電池を直列接続して組電池とする場合であっても、正極リードと負極リードとの接合を同じ銅同士の接合とすることができる。さらに、この接合部は、被覆樹脂で被覆されて外気と遮断されているので、局部電池の形成による腐食が生じない。尚且つ、Al板には、耐食性を高めるためアルミナ処理やベーマイト処理などの表面処理を施して表面処理層を設けることが記載されている。
【0006】
同文献によると、上記正極リードのAlとCuとは、冷間圧接により接合されている。具体的には、複数の突部を有するダイス(金型)同士の組合せを用い、Al板とNiメッキしたCu板とを重ね合わせて、これらダイスで両電極部材の重複箇所を圧接している。このリード部材を、例えば、正極リード(負極リード)に使用した場合、正極リードと負極リードとの接続をCu(Al)同士の接続とすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−108584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の接合方法では、冷間圧接によりAlの表面に形成された表面処理層を圧壊し、Cuの表面に形成したNiメッキ等の被覆層を圧縮流動させて、AlとCuの両者の金属組織同士を原子間結合させて接合していた。しかし、上記表面処理層を圧壊や、Niメッキを圧縮流動するほどの圧力を両電極リードに付加しているため、金型にかかる負荷が大きく、金型の寿命が短くなる。その結果、リード部材の生産性が低下する。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは異種金属同士の接合性に優れるリード部材を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、固相接合に用いる金型の寿命の低下を抑制できて、生産性に優れるリード部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のリード部材は、アルミニウムを主体とするアルミニウム部材(以下、Al部材)と、Al部材の一端側に接合されて、Al部材と異なる金属を主体とする相手部材とを具え、前記両部材のいずれか一方が電極に電気的に接続される。このリード部材は、上記Al部材と上記相手部材との重複箇所を具える。上記重複箇所は、凹型の圧接痕が形成されて、上記Al部材と相手部材とが固相接合された接合領域と、この接合領域の周辺において、上記両部材が対面している周辺領域とを有している。上記接合領域の界面は、上記Al部材と相手部材の各構成材料から構成されている。そして、上記接合領域と周辺領域の界面には、表面処理により形成されたAlの化合物からなる表面処理層が存在しない。
【0012】
上記の構成によれば、接合領域と周辺領域に表面処理により形成されたAlの化合物からなる表面処理層が存在しておらず、上記接合領域は固相接合されているので、上記重複箇所全域にわたって上記表面処理層が存在していない。つまり、このリード部材の製造時において、Al部材の上記重複箇所に上記表面処理層が存在していなかったと言える。というのも、製造時にAl部材の上記重複箇所に上記表面処理層が存在していれば、接合の際に圧壊されて主に上記周辺領域に残存することが多いからである。したがって、両部材を金型で接合する際に、上記表面処理層を圧壊するほどの圧力を付加しなくても両者を接合できるので、異種金属同士の接合性に優れる。そのため、金型にかかる負荷を低減できるので、金型の寿命の低下を抑制できる。
【0013】
本発明の一形態として、上記Al部材のうち、上記重複領域以外の表面領域は、表面処理により形成されたAlの化合物からなる表面処理層が存在することが挙げられる。
【0014】
上記の構成によれば、表面処理層が存在する上記領域は耐食性に優れる。
【0015】
本発明の一形態として、上記Al部材と相手部材の合計厚さにおける最大厚さと最小厚さとの差を押込み量とするとき、上記押込み量が、上記最大厚さの半分以下であることが挙げられる。
【0016】
上記の構成によれば、少ない押込み量でも十分な接合性を有することができる。
【0017】
本発明の一形態として、上記相手部材は下記(A)または(B)の材料からなることが挙げられる。
(A)銅、銅合金、ニッケル、およびニッケル合金のいずれかの金属材料。
(B)(A)の金属材料の表面に、当該金属材料とは異なる材料からなり、ニッケル、錫、銀、亜鉛の少なくとも一種からなる被覆層を具える被覆金属材料。
【0018】
上記の構成によれば、Al部材と接合し易いうえに、非水電解質蓄電デバイスの負極は上述の材料がよく利用されているため、電池を直列に接続する場合、相手部材と負極の接続を同種金属同士の接続とすることができる。そのため、直列接続させ易くできる。
【0019】
本発明の一形態として、上記重複箇所の外周を覆うように耐食材が被覆されていることが挙げられる。
【0020】
上記の構成によれば、重複箇所の外周に耐食材を被覆していることで、異種金属同士の接触箇所に水分等が侵入することを防止できる。そのため、局部電池が形成されることを抑制でき、局部電池の形成に伴う腐食を抑制できる。
【0021】
本発明の一形態として、上記両部材の少なくとも一方において、上記重複箇所以外の位置に耐食材が被覆されていることが挙げられる。
【0022】
上記の構成によれば、重複箇所から離れた位置に耐食材を被覆することで、リード部材を電池の電極に接続した際、その接続箇所に電池の電解液が接触することで、リード部材が腐食するのを抑制することができる。また重複箇所を除いて被覆した場合は、重複箇所の段差部分を被覆しないので、耐食材をリード部材に密着性良く被覆できる。
【0023】
本発明のリード部材の製造方法は、Alを主体とするAl部材の一端側に、Al部材と異なる金属を主体とする相手部材を接合する方法で、準備工程と、重複工程と、接合工程とを具える。準備工程では、上記Al部材および相手部材を用意する。重複工程では、上記Al部材の一端側に上記相手部材を重ね合わせて重複箇所を形成する。接合工程では、上記重複箇所の上記Al部材と相手部材とを冷間圧接または超音波圧接で以下の接合領域と周辺領域とを形成して、上記Al部材と相手部材とを接合させる。上記準備工程では、少なくとも上記Al部材における上記相手部材との重複箇所となる領域において、表面処理により形成されたAlの化合物からなる表面処理層が存在していないAl部材を用意する。
接合領域:Al部材と相手部材の重複箇所において、凹型の圧接痕が形成されて、両部材が固相接合している領域。
周辺領域:上記接合領域の周辺に、Al部材と相手部材が対面している領域。
【0024】
上記の方法によれば、準備工程で、上記重複箇所となる領域において、上記表面処理層が存在しないAl部材を用意するので、その後の接合工程において、上記表面処理層を圧壊するほどの圧力を金型に付加しなくても相手部材と接合させることができる。そのため、冷間圧接または超音波圧接に用いる金型にかかる負荷を低減できるので、金型寿命の低下を抑制できる。したがって、リード部材を生産性よく製造することができる。
【0025】
本発明の製造方法の一形態として、上記準備工程では、上記Al部材の重複箇所となる領域と、当該領域以外の表面領域に上記表面処理層を形成した後、上記重複箇所となる領域の上記表面処理層を除去することが挙げられる。
【0026】
上記の方法によれば、上記重複箇所となる領域の上記表面処理層を除去することで、その後の接合工程において、両部材を接合し易くできる。つまり、上記金型にかかる負荷をより低減できる。その上、重複箇所となる領域以外の表面領域には上記表面処理層を形成しているので、耐食性を向上することができる。また、通常、Al部材の表面には、自然に形成された酸化膜が存在するが、上記表面処理層の除去に伴い、この自然に形成された酸化膜を除去してもよい。その場合、両部材の接合が一層容易かつ確実にできる。
【0027】
本発明の製造方法の一形態として、上記準備工程では、上記表面処理層のないAl部材に対し、当該Al部材の重複箇所となる領域以外の表面領域に上記表面処理層を形成することが挙げられる。
【0028】
上記の方法によれば、重複箇所となる領域は上記表面処理層が形成されていないので、その後の接合工程において両部材を接合し易くできる。その上、重複箇所となる領域以外の表面領域に上記表面処理層を形成することで、耐食性を向上することができる。
【0029】
本発明の製造方法の一形態として、さらに、上記接合工程後、上記Al部材の上記相手部材との重複箇所以外の表面領域に上記表面処理層を形成する表面処理工程を具えることが挙げられる。
【0030】
上記の方法によれば、上記準備工程で、上記表面処理層が上記相手部材との接触箇所のみならず、それ以外のAl部材の表面にも存在しない場合でも、接合工程後に重複界面を除く表面に上記表面処理層を形成することで、Al部材表面の耐食性を向上することができる。
【0031】
本発明の製造方法の一形態として、上記Al部材と相手部材の合計厚さにおける最大厚さと最小厚さとの差を押込み量とするとき、上記接合工程において、上記押込み量は、上記最大厚さの半分以下となることが挙げられる。
【0032】
上記の方法によれば、上記押込み量は、上記最大厚さの半分以下程度でも両部材を十分に接合することができる。つまり、少ない押込み量でも接合でき、そのため、接合にかかる圧力を低減できるので、それに伴う金型への負荷を低減できる。
【0033】
本発明の製造方法の一形態として、上記相手部材の材料として、下記(A)または(B)の材料を用意することが挙げられる。
(A)銅、銅合金、ニッケル、およびニッケル合金のいずれかの金属材料。
(B)(A)の金属材料の表面に、当該金属材料とは異なる材料からなり、ニッケル、錫、銀、亜鉛の少なくとも一種からなる被覆層を具える被覆金属材料。
【0034】
上記の方法によれば、相手部材として上記の材料を用意することで、Al部材に接合させ易くできる。
【発明の効果】
【0035】
本発明リード部材は、異種金属であるAl部材と相手部材との接合性に優れる。
【0036】
本発明リード部材の製造方法は、接合の際、両部材の構成材料同士を接合し易く、接合する際の圧力の付加に伴う金型の負荷を低減できて、金型の寿命の低下を抑制できる。そのため、リード部材を生産性よく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施形態に係るリード部材を示す図であって、(A)は上面図、(B)は側面図、(C)は(A)においてC−C線で切断した断面図、(D)は(A)においてD−D線で切断した拡大断面図である。
【図2】本発明リード部材を具える非水電解質電池の模式分解斜視図である。
【図3】非水電解質電池の正極リード側において、耐食材の被覆形態を示す模式図であって、(A)は重複箇所に耐食材を被覆した形態を示し、(B)は重複箇所を除いた箇所に耐食材を被覆した形態を示す。
【図4】非水電解質電池を並列して接合した状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明のリード部材の実施形態を図面に基づいて説明する。ここでは、リチウムイオン電池同士を直列に接続することに利用できるリード部材を例として説明する。なお、図面において同一符号は同一物を示す。
【0039】
《リード部材》
本発明のリード部材10は、図1に示すように、Al部材11と相手部材12との接合体を具え、Al部材11と相手部材12との重複箇所13を具える。重複箇所13は、凹型の圧接痕16が形成されて、Al部材11と相手部材12とが固相接合された接合領域13jと、この接合領域13jの周辺において、両部材11、12が対面している周辺領域13rとを有している。図1では、説明の便宜上、圧接痕を3つ示しているが、圧接痕の数は適宜選択できる。
【0040】
〔Al部材〕
〈組成〉
Al部材11は、Al元素を主体として、リチウムイオン電池の電極(図示略)に電気的に接続される部材である。Al部材11を電極に接続する場合、正極に接続されることが多い。Al部材11としては、純Al、種々のAl合金を好適に用いることができる。
【0041】
〈形状〉
Al部材11の形状としては、円柱状、角柱状、板状といった種々の形状を利用できる。本発明では重複箇所13に冷間圧接または超音波圧接を行うので、板状とすることが好ましく、重複箇所13を形成する部分のみを板状としてもよい。Al部材11の寸法は、要求される電流容量に応じて適宜決定すればよく、例えば板状とする場合、幅0.5〜400mm、厚さ0.08〜3.0mmとすることが考えられる。特に冷間圧接または超音波圧接を行うことを考慮して、幅1〜200mm、厚さ0.2〜1.0mmとすることがより好ましい。
【0042】
〔相手部材〕
〈組成〉
相手部材12は、Al部材11の一端側、つまりAl部材11の電極との接合側とは反対側に接合される部材で、Al部材11と異なる金属を主体とする。相手部材12をリチウムイオン電池の電極(図示略)に接続する場合は、負極に接続されることが多い。相手部材12には、例えば、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金およびこれらの表面にニッケル、錫、銀、亜鉛の少なくとも一種をメッキした材料の中から選択される1種以上の材料が好適に用いることができる。具体的な銅としては、例えば、タフピッチ銅、無酸素銅などが挙げられる。
【0043】
〈形状〉
相手部材12の形状としては、円柱状、角柱状、板状といった種々の形状を利用できる。Al部材11と同様に板状とすることが好ましく、重複箇所を形成する部分のみを板状としてもよい。相手部材12の寸法は適宜決定すればよく、Al部材11と同じ寸法とすることが考えられる。Al部材11と相手部材12とで導電率が異なる場合は、導電率の低い方の断面積を大きくしてリード部材でのエネルギー損失を低減するようにしてもよい。
【0044】
特に、一方の電極に接続されるリード部材はAl部材と相手部材とを具える接合タイプとし、他方の電極に接続されるリード部材は一種の金属材料で構成される一枚板タイプとしてもよい。そして、接合タイプのリード部材において、電極と離れた位置に配する方の部材と一枚板タイプのリード部材とを実質的に同じ材質として、両タイプのリード部材を接合することで、正極リードと負極リードとの接合が容易となる。例えば、接合タイプのリード部材を正極リード、一枚板タイプのリード部材を負極リードとし、正極リードの電極と電気的に接続される方をAl部材11、電極と離れた位置に配される方を相手部材12として、負極リードを相手部材12と同じ材質で形成することで、正極リードと負極リードとを直列に接続する場合、同種材料同士で接合することができる。同種材料同士の接合なので、耐食性も向上することができる。
【0045】
[重複箇所]
重複箇所13は、Al部材11と相手部材12とを長手方向に部分的に上下に重ね合わせることで形成される。重複箇所13は、後述する接合領域13jと周辺領域13rとを有している。
【0046】
重複箇所13のリード部材10の長手方向の長さ(ラップ代)は、圧接する面積を十分に確保できるように適宜決定すればよい。ただし、ラップ代が長くなると、その分Al部材11あるいは相手部材12を長くする必要がある。ラップ代は、Al部材11または相手部材12の長さの20%以下とすることが好ましく、具体的には、1〜30mmであることが好ましく、1〜15mmであることが一層好ましい。
【0047】
重複箇所13を形成する際、Al部材11と相手部材12のどちらを接合に利用する金型の突部のある側と対面する側に配してもよい。接合方法が冷間圧接の場合、接合に利用する金型において突部を有する金型と対面する側に、Al部材11と相手部材12のうち硬い方を配するように重ねることがより好ましい。例えば、重複箇所13の上面側の金型が突部を有する場合、上記上面側は冷間圧接する際に、この突部を有する金型により圧縮される。その場合、上面側に硬質の部材を配置することで、上面側の突部で圧縮された箇所が下面側の部材に入り込み、上面側と下面側の部材同士を確実かつ強固に接合することができる。一方、接合方法が超音波圧接の場合は、金型(ホーン)側にAl部材11を配する方がより好ましい。また、重複箇所13を形成する際に、両部材の厚さが異なる場合、冷間圧接においては、両部材のうち薄い方の部材を突部のある側と対面するように配することが好ましい。
【0048】
(接合領域)
接合領域13jは、図1(C)(図1(D))に示すように、凹型の圧接痕16が形成されて、Al部材11と相手部材12とが固相接合された領域である。接合領域13jの界面は、実質的にAl部材11と相手部材12の各構成材料から構成されている。つまり、上記表面処理層が存在しない。この圧接痕16は、冷間圧接または超音波圧接により形成される。
【0049】
Al部材11と相手部材12の接合前において、重複箇所13には表面処理により形成されたAlの化合物からなる表面処理層は存在しないが、自然に形成された酸化膜(以下、自然酸化膜とも言う)程度なら存在してもよい。重複箇所13のAl部材11の表面に自然酸化膜が接合前に存在したとしても、Al部材11と相手部材12とを冷間圧接や超音波圧接により接合することで、自然酸化膜は圧壊されて接合領域13jの界面付近の構成金属と共に接合領域13jから周辺領域13rや、Al部材11において相手部材12と重複していない箇所(以下、非重複箇所14)に流動されていると考えられる。そのため、実質的にAl部材11と相手部材12の各構成材料から構成される薄肉部17(図1(D))が形成され、接合領域13jの接合界面には、自然酸化膜が存在していない。また、冷間圧接では、接合前の金属材料12にNiメッキなどが被覆されている場合、接合する際に接合領域13jにおいて、上記メッキは接合領域13jから周辺領域13rまたは非重複領域14に圧縮流動される。よって、接合領域13jの接合界面にはNiメッキも存在しない。
【0050】
上記表面処理層とは、自然に形成される自然酸化膜を除いたアルミニウムの化合物の膜で、表面処理により酸素、水素、あるいは窒素の少なくとも一種と結合して形成される膜を言う。例えば、酸化処理により形成されるアルマイト、水和封孔処理により形成されるアルミナ一水和物であるベーマイト(AlOOHまたはAl・HO)やバイヤライト(Al・3HOまたはAl(OH))などの水酸化アルミニウム、窒化処理で形成される窒化アルミニウムなどが挙げられる。この表面処理層は、X線を利用して検出することができる。例えば、オージェ電子分光法などを用いて測定してもよい。一般に、自然酸化膜の膜厚は、0.04μm以下である。
【0051】
(周辺領域)
周辺領域13rは、接合領域13jの周辺において、Al部材11と相手部材12が対面している領域である。後述する接合方法、例えば冷間圧接によれば、周辺領域13rにおいて、Al部材11と相手部材12とが単に当接しており、超音波圧接によれば、周辺領域13rにおいて、Al部材11と相手部材12が固相接合されている場合もある。通常、部分的に固相接合され、部分的に対面している状態が多い。周辺領域13rの界面には、上記表面処理層が存在しない。周辺領域13rの界面において、自然酸化膜が存在することや、上述したように接合領域13jで圧壊された自然酸化膜が接合領域13jから周辺領域に13rに分散することもあるため、自然酸化膜の存在は許容する。
【0052】
圧接痕16(接合領域13j)が複数形成されている場合は、上述の圧壊および流動により、図1(D)に示すように、圧接痕16の数だけ薄肉部17が形成される。それと共に、隣り合う薄肉部17同士の間において、Al部材11と相手部材12の構成材料の流動が制限されて上記構成材料が集中することがある。その場合、その制限された領域に厚肉部18が形成される。
【0053】
この厚肉部18には、本発明のリード部材10の特徴が顕著に見られる。即ち、厚肉部18には、自然酸化膜が存在する場合があるが、上記表面処理層は存在しない。Al部材11の重複箇所13に自然酸化膜が接合前に存在したとすれば、その自然酸化膜は、厚肉部18における周辺領域13rの界面に分散されて残存すると考えられる。一方、接合前のAl部材11の重複箇所13に上記表面処理層が存在しなければ、厚肉部18における周辺領域13rの界面にも上記表面処理層は存在しない。
【0054】
これに対し、従来のリード部材は、接合前に上記表面処理層がAl部材11の重複箇所13に形成されている。その場合、接合後、上記表面処理層は圧壊されて主に接合領域13j外に分散され、接合領域13jの界面にはあまり残存せず、周辺領域13rの界面には残存していることが多いと考えられる。つまり、複数の圧接痕16がリード部材10の幅方向に所定の間隔で並列して形成されている場合、隣接する圧接痕16の間には、厚肉部18が形成されるため、接合前に上記表面処理層をAl部材11の重複箇所13に形成している場合は、接合後、主に一部の周辺領域13rに上記表面処理層が残存していると考えられる。
【0055】
(押込み量)
Al部材11と相手部材12とを金型で冷間圧接または超音波圧接して接合する際、Al部材11と相手部材12との押込み量は、両部材11、12を十分に接合できる程度する。そのため、材質や厚みに応じて押込み量を適宜選択すればよい。ここで言う押込み量とは、図1(C)に示すように、Al部材11と相手部材12の合計厚さにおける最大厚さmaxと最小厚さminの差を言う。そのため、通常、押込み量は、多いほど両部材11、12の接合を強固とすることができて好ましいが、それに伴って、接合の際に使用される金型の寿命が低下する。但し、上述のように、接合前に、上記表面処理層をAl部材11の重複箇所13に形成していないので、上記表面処理層を形成しているAl部材11と相手部材12を接合する場合と比較して、押込み量が少なくても両部材11、12の接合を十分に強固にできる。例えば、Al部材11と相手部材12の厚さが異なる場合、押込み量を薄い部材の厚さの半分超とすることが好ましい。特に、両部材の一方の厚さが他方の厚さの2倍以上ある場合に、上記押込み量とすることが好ましい。また、そのように両部材の厚さの差が2倍以上あるとき、押込み量は、両部材の最大厚さの半分以下でも両部材を接合できる。したがって、金型の寿命の低下を抑制することができる。
【0056】
[非重複箇所]
Al部材11の相手部材12との重複箇所以外の表面(非重複箇所14)には、Al部材11を電極に接続する場合、蓄電デバイス内の電解質媒体と接触するため、Al部材11を防食するために上述した表面処理層15が形成されていることが好ましい。その形成手段は、上述した表面処理が挙げられる。表面処理層15の好ましい膜厚は、0.05μm〜10μm程度である。通常の膜厚は、0.1μm〜5μm程度である。また、表面処理層15の他、クロメート処理、メッキ処理等により形成された層でもよい。
【0057】
〔耐食材〕
Al部材11と相手部材12との一体物の表面を防食するための耐食材が被覆されていることが好ましい。耐食材は、詳しくは後述するが、重複箇所13の外周に被覆されてもよいし、重複箇所13を除いた非重複箇所14に被覆されてもよい。前者の場合、異種金属からなるAl部材と相手部材との重複箇所に水分等が浸入することを防止し、局部電池が形成されることによる腐食を抑制することができて好ましい。後者の場合、重複箇所13のように段差部分に耐食材が被覆されないので、被覆箇所に隙間が生じ難く、耐食材を密着性良く被覆できる。
【0058】
《リード部材の製造方法》
以上のリード部材10は、以下に示す準備工程、重複工程、接合工程を経て製造される。以下、各工程について説明する。
【0059】
〔準備工程〕
準備工程では、リード部材10の構成部材を用意する。図1に示すリード部材10を製造するには、リード部材10を構成するAl部材11、および相手部材12を用意する。
【0060】
ここで用意する両部材11、12を構成する材料は、上述した材料の中から適宜選択するとよい。
【0061】
用意するAl部材11の少なくとも相手部材12との重複箇所13となる領域(以下、重複予定箇所)において、表面処理により形成されたAlの化合物からなる表面処理層が存在していないAl部材を用意する。ここで表面処理層が存在していないとは、酸素濃度比Oi/Ooが、Oi/Oo≦0.5、および窒素濃度比Ni/Noが、Ni/No≦0.5を満たすことを言う。上記酸素濃度比Oi/Ooとは、Al部材の表面から内部方向に0.04μmまでの地点における酸素濃度Oiと、当該表面における酸素濃度Ooとの比を表す。上記窒素濃度比Ni/Noとは、Al部材の表面から内部方向に0.04μmまでの地点における窒素濃度Niと、当該表面における窒素濃度Noとの比を表す。上記重複予定箇所以外のAl部材11の表面領域には、上記表面処理層を形成しておいてもよい。この酸素濃度比Oi/Oo、および窒素濃度比Ni/Noが上記の範囲を満たすAl部材は、次のようにして作製することができる。
【0062】
(A:表面処理層を形成する場合)
Al部材11の少なくとも上記重複予定箇所に表面処理層を形成しないことが挙げられる。具体的には、上記重複予定箇所に、マスキングをして、マスキングしていない箇所(非重複箇所14となる領域(以下、非重複予定箇所))に、防食するための上述の表面処理層(例えば、アルマイト層やベーマイト層)を形成する表面処理を施すことが挙げられる。表面処理層を上記非重複予定箇所に形成する場合、その膜厚は、0.05μm〜10μm程度形成することが好ましい。そうすることで、非重複予定箇所の耐食性を向上できる。この場合、重複工程前に後述する除去手段をマスキングした箇所に施してもよい。そうすれば、マスキングした箇所に表面処理層を形成しない上に、その箇所の自然酸化膜を除去できるので、接合工程で両部材の接合を一層容易にかつ確実にできる。
【0063】
或いは、Al部材11の表面全域に、上記表面処理を施して表面処理層を形成した後、相手部材12との重複予定箇所における表面処理層、ひいては自然酸化膜をも除去することが挙げられる。除去手段として、例えば、研磨加工、切断加工、レーザー加工などが挙げられる。上記切断加工として、板厚方向に対して交差する斜め方向にせん断して、重複する両部材の新生面を露出させるせん断加工が挙げられる。上記加工により、上記重複予定箇所において上記酸素濃度比Oi/Oo、および窒素濃度比Ni/Noが上記の範囲を満たすAl部材11を作製することが挙げられる。
【0064】
(B:表面処理層を全く形成しない場合)
Al部材11の全面に何も表面処理などを施さずに、表面全域に表面処理層を形成しないことが挙げられる。その場合、後述する接合工程後に表面処理を施して、Al部材11の非接触箇所に表面処理層を形成してもよい。このように、表面処理層を形成しない場合でも、重複工程前に、上述の除去手段を上記重複予定箇所に施してもよい。そうすれば、重複予定箇所の自然酸化膜を除去できるので、接合工程で両部材の接合を一層容易にかつ確実にできる。
【0065】
〔重複工程〕
重複工程では、Al部材11の一端側に相手部材12を重ね合わせて重複箇所13を形成する。ここでは、上述のように圧接する面積を十分に確保できるように両部材11、12を重複すればよい。
【0066】
〔接合工程〕
接合工程では、重複箇所13のAl部材11と相手部材12とを冷間圧接または超音波圧接で接合させる。この接合工程は、上述した接合領域13jと周辺領域13rが形成されるように行う。上述した接合領域13jと周辺領域13rが形成されて、両部材11、12を接合するように、冷間圧接または超音波圧接の圧接条件等は適宜選択すればよい。以下に、各圧接方法に関して一例を示す。
【0067】
[冷間圧接]
冷間圧接は、一対の金型でAl部材11と相手部材12との重複箇所13を挟み、強く押圧することにより行う。
【0068】
(金型)
冷間圧接する金型としては、Al部材11と相手部材12とを接合できれば特に形状や組合せ等は問わない。金型の組合せとしては、例えば、平面金型同士の組合せ、複数の突部を有する金型と平面金型の組合せ、複数の突部を有する金型同士の組合せが考えられる。中でも、複数の突部を有する金型と平面金型の組合せが最も実用的に利用可能である。この組合せで圧縮された重複箇所は、突部で圧縮される側に深い凹型の圧接痕16が形成される。
【0069】
複数の突部を有する金型を使用する場合、突部の構成は適宜選択することができる。例えば、特許文献1(特開2008−108584)に規定の構成が好適に利用できる。具体的には、突部圧接面の形状は、円形状、楕円形状、矩形状、多角形状といった種々の形状が挙げられ、特に、小判型や船型であることが好ましい。突部の先端幅wは、アルミニウム部材と相手部材とを上下に重ね合わせた重複箇所の厚さをtとすると、w=0.5t〜5tを満たすことが好ましい。突部の隣接間隔pは、先端幅wとの関係で、w/p=0.3〜0.5を満たすことが好ましい。突部側面の勾配は、0〜30°を満たすことが好ましい。突部の高さhは、h>0.8tを満たすことが好ましい。突部の長さLは、L=5t〜10tを満たすことが好ましい。突部の傾きβは、0〜45°を満たすことが好ましい。突部の配置は、圧接面の形状が同じ突部を金型の幅方向に並列に配する、突部を長手方向に千鳥状に配する、あるいは圧接面の大きさが異なる突部を金型の幅方向に並列に配することが好ましい。
【0070】
〈その他〉
重複箇所を圧接して圧接痕を形成した後、例えば、特許文献1(特開2008−108584)に規定されるように重複箇所の厚みを圧縮するように塑性加工を行ってもよい。そうすることで、圧接痕による隙間を少なくすることができる。
【0071】
[超音波圧接]
超音波圧接は、Al部材11に相手部材12を重ね合わせてアンビル(台座)に配置し、両部材11、12の重複箇所13をホーンで加圧しつつ、ホーンを加圧方向と垂直方向に振動させさせることにより行なう。
【0072】
ホーンの横断面形状は、適宜選択すればよく、例えば、円形状、楕円形状、矩形状、多角形状といった種々の形状が挙げられる。このホーンで接合する際の重複箇所に付加する圧力、装置の出力や周波数は適宜選択することができる。
【0073】
[表面処理工程]
接合工程後、Al部材11の上記重複予定箇所を除く表面に、防食するための表面処理層などを形成する表面処理を施してもよい。特に、上記準備工程で、Al部材11の接触箇所以外の箇所で表面処理層を形成していないAl部材11を用意した場合に接合後に表面処理層を形成すればよい。そうすることで、非接触箇所14の耐食性を向上することができる。
【0074】
[その他]
接合工程後、詳しくは後述するがAl部材11と相手部材12の一体物の腐食を防止するための耐食材を被覆することが好ましい。例えば、重複箇所13の外周に耐食材を被覆すれば、結露等の水分が電解液となって重複箇所の異種金属間で局部電池が形成され、イオン化傾向の大きい方の金属が腐食するのを抑制することができる。
【0075】
《非水電解質蓄電デバイス》
上述のリード部材10は、非水電解質蓄電デバイスに好適に使用することができる。以下、本発明のリード部材を具える非水電解質蓄電デバイスとして、リチウムイオン電池を例に、以下に説明する。
【0076】
〔リチウムイオン電池の構成〕
図2は、本発明のリード部材10を具えるリチウムイオン電池の一例を示す概略構成図である。本例では、リチウムイオン電池70の正極71に接続するリード部材75を本発明のリード部材10とする。
【0077】
リチウムイオン電池70は、フィルムからなる外装体74の内部に、正極71と負極72とをセパレータ73を介して重ねて積層構造とした電極群が電解液と共に収納される構成である。正極71に接続されるリード部材(正極リード)75は、外装体74の一辺から外部に引き出される。一方、負極72に接続されるリード部材(負極リード)80は、正極リード75が引き出される辺とは反対側の外装体74の一辺から外部に引き出される。正極リード75と負極リード80とは、外装体74の同じ一辺から外部に引き出すようにしてもよい。
【0078】
正極71と負極72とは、集電体と呼ばれる金属箔やエキスパンデッドメタルの金属基材上に活物質層が形成された構造を有しており、正極71の金属基材にはAlが、負極72の金属基材にはCuが用いられている。また、各正極71には正極連結リード71Aが、各負極72には負極連結リード72Aが接続され、複数の正極71または負極72からの電気を正極連結リード71Aまたは負極72Aに集約できるようにしている。正極連結リード71Aに正極リード75が、負極連結リード72Aに負極リード80が接続される。
【0079】
外装体74は、二枚のフィルム74a、74bから構成されており、これらフィルムを重ね合わせ外周縁をヒートシールすることで電極群等を収納している。このフィルムは、例えばAlからなる金属層をプラスチック層で挟持した多層フィルムからなっている。
【0080】
負極リード80は、負極72の金属基材と同じ材質の一枚のCu板で構成されており、このCu板にはNiめっきが施されている。
【0081】
正極リード75は、Al部材76と相手部材77を備え、本発明のリード部材10と同じ構成である。Al部材76は正極71の金属基材と同じ材質のAl板で構成されており、相手部材77は負極リード80と同じNiめっきを施したCu板で構成されている。また、Al部材76と相手部材77との重複箇所は、外装体74の外部に配置され、重複箇所の外周には耐食材78が被覆されている。
【0082】
耐食材78は、図3(A)に示すように、外装体の外縁に跨るように、つまり、Al部材76と相手部材77との重複箇所79のみならず、外装体74の内側にまで至るようにすることが好ましい。耐食材78は、Al部材76と相手部材77との重複箇所79を覆えば、この重複箇所79での電食を抑制できる。さらに耐食材78の被覆箇所を外装体74の内部にまで伸延することで、耐食材78を外装体74と融着させ、外装体74がリード部材75を挟持する箇所において、リード部材75が電解液により腐食されることを抑制し、その腐食に伴って、上記挟持箇所から電解液が漏れることを防止する。
【0083】
一方、耐食材78は、図3(B)に示すように、外装体74の内側に至るように被覆されていれば、重複箇所79の外周に被覆されていなくてもよい。そうすることで、耐食材78が重複箇所のような段差部分の外周を覆わないので、密着性よく被覆することができる。
【0084】
耐食材78は、正極リード75に接着される熱可塑層を含み、この熱可塑層は、熱可塑性ポリオレフィン樹脂からなるものが挙げられる。このような熱可塑性ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、酸変性ポリエチレン、ポリプロピレン、酸変性ポリプロピレン(例えば無水マレイン酸変性ポリプロピレン)、アイオノマー等の反応性樹脂又はこれらの混合物が好ましい。特に、ポリプロピレン又は酸変性ポリプロピレンが好ましい。
【0085】
耐食材78は、熱可塑層の外側に架橋層を具えることが好ましい。架橋層は、架橋されたポリオレフィン樹脂が挙げられる。ポリオレフィン樹脂は、上述の熱可塑性ポリオレフィン樹脂と同じ樹脂が用いられることが好ましい。これは、上述の熱可塑性ポリオレフィン樹脂と異なる樹脂が用いられると、熱可塑層と架橋層との間の接着力が低下する傾向があるからである。
【0086】
この電池70を複数用意して直列接続する際、図4に示すように、正極リード75の相手部材77と負極リード80とは同じ材質の金属同士であり、この相手部材77と負極リード80とを接合することで、その接合部に局部電池が形成されることがなく、また接合が容易にできる。この接合には、上述と同様に冷間圧接や超音波圧接を行ってもよいし、その他に半田付けなどのろう接やレーザー溶接などの種々の溶融接合を行ってもよい。
【0087】
《作用効果》
上述した実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0088】
(1)Al部材と相手部材との重複箇所に、表面処理層が存在しないことで、両部材の接合性に優れる。
【0089】
(2)Al部材の相手部材との接触箇所に表面処理層が形成されていないAl部材を用意することで、接合の際、両部材の構成材料同士を接合し易い。そのため、接合の際、押込み量を少なくしても十分な接合強度が得られる。つまり、表面処理層がAl部材表面に形成されている場合のように表面処理層を圧壊するほどの圧力を付加しなくても両部材を接合することができるため、接合する際の圧力の付加に伴う金型の負荷を低減できる。したがって、金型の寿命の低下を抑制できる。そのため、リード部材の生産性に優れる。
【0090】
《試験例1》
図1に類似するリード部材10を作製し、その機械的特性を評価した。まず、以下に示すように、リード部材10を作製した。
【0091】
まず、Al部材11として、厚さ0.4mm、幅30mm、長さ25mmで、純AlからなるAl板の表面の長手方向に一端側から4mmの地点までマスキングして上述の表面処理を施したAl板Aと、上記サイズのAl板の表面全域に同表面処理したAl板Bとの2種類のAl部材11を用意した。Al板Aは、マスキングした箇所以外に表面処理層が形成されており、Al板Bには、全域に表面処理層が形成されている。一方、相手部材12として、厚さ0.2mm、幅30mm、長さ25mmで、銅に厚さ4μmのNiメッキを施したCu板を用意した。
【0092】
ここで、Al板Aのマスキングした領域の表面から深さ方向に酸素濃度をオージェ電子分光法にて測定し、表面における酸素濃度の半分の酸素濃度となる深さを計測した。Al板Bについても同様の計測を行った。その結果、Al板Aは、0.02μm、Al板Bは0.5μmであった。この計測結果からすれば、Al板Aのマスキングした領域の表面には、自然酸化膜が形成されているものと推測される。
【0093】
次に、これらAl板の上にCu板を重ね合わせて重複させる。Al板Aでは、マスキングした箇所にCu板を重ね合わせた。一方、Al板Bでは、Al板Aのマスキングした箇所に相当する位置にCu板を重ね合わせた。
【0094】
続いて、Al板とCu板の重複箇所を接合する。接合は、以下の傾斜歯金型と平面金型の組合せを用いて、重複箇所の幅方向の均等な13箇所を冷間圧接することにより行なった。ここでいう傾斜歯金型とは、小判型(トラック型)の突部が並列された形状であり、各突部はその長手方向がリード部材の長手方向に対して傾斜するよう配列されたものを指す。その際、表1に示す圧力で押込み量を変化させて、Al部材11が板Aからなる試料1〜5と、板Bからなる試料6〜10とを作製した。そして、各試料に対し、以下に示す試験を行い、接合強度を評価した。
【0095】
(傾斜歯金型)
突部の高さ:1.2mm
突部の先端幅:0.5mm
突部の長さ:4mm
突部の数:13個
【0096】
[接合強度試験]
上記試料1〜10に対して、「金属材料引張試験方法 JIS Z 2241(1998)」に定められた試験方法によって、接合強度試験を施す。この試験によって、各試料の板同士が破断するまでの荷重を測定した。その結果を表1に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
[結果]
試料1−1〜1−5は、接合強度に優れる結果となった。特に、Al部材に、Al部材の相手部材との重複箇所に表面処理層を形成しないAl板Aを使用することで、試料1−1、1−2などの押込み量が少ない場合でも十分に接合できた。これは、上記重複箇所に表面処理層を形成していないことで、接合の際、表面処理層を圧壊するほどの圧力を付加しなくても両部材の構成材料同士を接合することができたからであると考えられる。一方、上記重複箇所に表面処理層が形成されているAl板Bを使用した場合、試料1−6、1−7などの少ない押込み量では接合できなった。これは、押込み量が少ないと、表面処理層を十分に圧壊することができず、接合界面に表面処理層が存在した状態となっているからであると考えら得られる。但し、試料1−8〜1−10のように表面処理層を圧壊するほどの圧力を付加して押込み量を多くすると強固に接合できた。しかし、これらの試料は、周辺領域、特に、隣り合う接合領域同士で挟まれた領域に表面処理層が層の状態で残存、あるいは圧壊された破片が残存していると考えられる。
【0099】
以上の結果から、Al部材と相手部材との重複箇所に表面処理層が存在していないと少ない押込み量で両部材を十分に接合できることがわかった。また、両部材を十分に接合するために必要な圧力は、重複箇所に表面処理層がない方が小さくて済むことがわかった。したがって、金型の寿命の低下を抑制することができる。
【0100】
《試験例2》
試験例2では、試験例1と同様に図1に類似するリード部材10を作製し、その接合強度を評価した。但し、本試験例では、Al部材11を相手部材12の上に重ね合わせて接合する。尚且つ、その接合方法は超音波圧接としている。
【0101】
ここでは、試験例1と同様のサイズで、同様の位置にマスキングして表面処理を施したAl板C、表面全域に表面処理を施したAl板D、および厚さ2μmのNiメッキを施したCu板をそれぞれ用意した。
【0102】
これらAl板Cのマスキング領域とAl板Dの表面のそれぞれについて、表面から深さ方向に酸素濃度を測定し、表面における酸素濃度の半分の酸素濃度となる深さを計測した。その結果、Al板Cでは、0.04μm、Al板Dでは、0.1μmであった。この計測結果からすれば、Al板Cのマスキングした領域の表面には、自然酸化膜が形成されているものと推測される。
【0103】
続いて、Al板をCu板の上に重ね合わせて両板を接合する。その際、Al板Cでは、マスキングした箇所をCu板の上に重ね合わせた。接合は、突部を幅方向に6個、長手方向に3列、計18個具えるホーンを用いて、重複箇所の18箇所を超音波圧接することにより行った。その突部のサイズは、突部の高さ、先端幅、長さ共に1mmである。そのホーンによりその際、表2に示す荷重と周波数で押込み量を変化させて、Al部材11がAl板Cからなる試料2−1、2と、Al板Dからなる試料2−3、4とを作製した。そして、各試料に対し、試験例1と同様の試験を行って破断荷重を測定し、接合強度を評価した。その結果を表2に示す。
【0104】
【表2】

【0105】
[結果]
試験例1の結果と同様に、試料2−1、2−2のようにAl部材に、Al部材の相手部材との重複箇所に表面処理層を形成しないAl板Cを使用することで、押込み量が少ない場合でも十分に接合できた。特に、押込み量が、両板の合計厚さの半分以下であっても十分な接合強度が得られることがわかった。一方、上記重複箇所に表面処理層が形成されているAl板Dを使用した場合、試料2−3のように少ない押込み量では接合できなかった。また、試料2−4では、押込む両を両板の合計厚さ分の半分とすることで、試料2−1と同等の接合強度を得た。つまり、表面処理層を形成しないAl板を使用した場合、表面処理層を形成したAl板を使用した場合に比べて、少ない押込み量で接合できることがわかった。
【0106】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、上述した実施の形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能である。上記非水電解質蓄電デバイスとして、電気二重層キャパシタも挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明リード部材は、リチウムイオン電池などの非水電解質電池や電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0108】
10 リード部材
11 Al部材 12 相手部材
13 重複箇所 13j 接合領域 13r 周辺領域
14 非重複領域 15 表面処理層
16 圧接痕 17 薄肉部 18 厚肉部
70 リチウムイオン電池 71 正極 71A 正極連結リード
72 負極 72A 負極連結リード
73 セパレータ
74 外装体 74a、74b フィルム
75 正極リード(リード部材)
76 Al部材 77 相手部材 78 耐食材 79 重複箇所
80 負極リード(リード部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムを主体とするアルミニウム部材と、アルミニウム部材の一端側に接合されて、アルミニウム部材と異なる金属を主体とする相手部材とを具え、前記両部材のいずれか一方が電極に電気的に接続されるリード部材であって、
前記アルミニウム部材と前記相手部材との重複箇所を具え、
前記重複箇所は、
凹型の圧接痕が形成されて、前記アルミニウム部材と相手部材とが固相接合された接合領域と、
この接合領域の周辺において、前記両部材が対面している周辺領域とを有し、
前記接合領域の界面は、前記アルミニウム部材と相手部材の各構成材料から構成され、
前記接合領域と周辺領域の界面には、表面処理により形成されたアルミニウムの化合物からなる表面処理層が存在しないことを特徴とするリード部材。
【請求項2】
前記アルミニウム部材のうち、重複箇所以外の表面領域には、表面処理により形成されたアルミニウムの化合物からなる表面処理層が存在することを特徴とする請求項1に記載のリード部材。
【請求項3】
前記アルミニウム部材と相手部材の合計厚さにおける最大厚さと最小厚さとの差を押込み量とするとき、
前記押込み量が、前記最大厚さの半分以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のリード部材。
【請求項4】
前記相手部材は、下記(A)または(B)の材料からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のリード部材。
(A)銅、銅合金、ニッケル、およびニッケル合金のいずれかの金属材料。
(B)(A)の金属材料の表面に、当該金属材料とは異なる材料からなり、ニッケル、錫、銀、亜鉛の少なくとも一種からなる被覆層を具える被覆金属材料。
【請求項5】
前記重複箇所の外周に耐食材が被覆されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のリード部材。
【請求項6】
前記両部材の少なくとも一方において、前記重複箇所以外の位置に耐食材が被覆されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のリード部材。
【請求項7】
アルミニウムを主体とするアルミニウム部材の一端側に、アルミニウム部材と異なる金属を主体とする相手部材を接合してリード部材を製造するリード部材の製造方法であって、
前記アルミニウム部材、および前記相手部材を用意する準備工程と、
前記アルミニウム部材の一端側に前記相手部材を重ね合わせて重複箇所を形成する重複工程と、
前記重複箇所の前記アルミニウム部材と相手部材とを冷間圧接または超音波圧接で以下の接合領域と周辺領域とを形成して、前記アルミニウム部材と相手部材とを接合させる接合工程とを具え、
前記準備工程では、少なくとも前記アルミニウム部材における前記相手部材との重複箇所となる領域において、表面処理により形成されたアルミニウムの化合物からなる表面処理層が存在していないアルミニウム部材を用意することを特徴とするリード部材の製造方法。
接合領域:アルミニウム部材と相手部材の重複箇所において、凹型の圧接痕が形成されて、両部材が固相接合している領域。
周辺領域:前記接合領域の周辺で、アルミニウム部材と相手部材が対面している領域。
【請求項8】
前記準備工程では、前記アルミニウム部材の重複箇所となる領域と、当該領域以外の表面領域に前記表面処理層を形成した後、重複箇所となる領域の前記表面処理層を除去することを特徴とする請求項7に記載のリード部材の製造方法。
【請求項9】
前記準備工程では、前記表面処理層のないアルミニウム部材に対し、当該アルミニウム部材の重複箇所となる領域以外の表面領域に前記表面処理層を形成することを特徴とする請求項7に記載のリード部材の製造方法。
【請求項10】
さらに、前記接合工程後、前記アルミニウム部材の前記相手部材との重複箇所以外の表面領域に前記表面処理層を形成する表面処理工程を具えることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載のリード部材の製造方法。
【請求項11】
前記アルミニウム部材と相手部材の合計厚さにおける最大厚さと最小厚さとの差を押込み量とするとき、
前記接合工程において、前記押込み量は、前記最大厚さの半分以下となるように圧接することを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載のリード部材の製造方法。
【請求項12】
前記準備工程では、前記相手部材の材料として、下記(A)または(B)の材料を用意することを特徴とする請求7〜11のいずれか1項に記載のリード部材の製造方法。
(A)銅、銅合金、ニッケル、およびニッケル合金のいずれかの金属材料。
(B)(A)の金属材料の表面に、当該金属材料とは異なる材料からなり、ニッケル、錫、銀、亜鉛の少なくとも一種からなる被覆層を具える被覆金属材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−4482(P2013−4482A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137872(P2011−137872)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(000213884)住電朝日精工株式会社 (24)
【Fターム(参考)】