説明

ルーズコイルの冷却装置および冷却方法

【課題】冷却媒体の流速を平均的に上昇させ、ルーズコイル全体に対する連続的な強冷却を行い、ルーズコイルの平均強度を上昇させるルーズコイルの冷却装置および冷却方法を提供する。
【解決手段】冷却槽1内を上部空間4aと下部空間4bに仕切る仕切り板3と、下部空間4bにおいてルーズコイルCの搬送方向に沿って冷却媒体を噴出する噴出ノズル10と、噴出ノズル10の噴出方向と反対側において、噴出ノズル10の近傍に配置され、冷却媒体を吸い込む吸い込み部11とを備え、仕切り板3の、ルーズコイルC搬送方向両端部には、上部空間4aと下部空間4bを連通させる開口部5が形成され、開口部5近傍には、上部空間4aから下部空間4bに流れ込む冷却媒体を整流させる整流羽14と、下部空間4bから上部空間4aに流れ込む冷却媒体を整流させる整流羽14が設けられている、ルーズコイルの冷却装置1が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延され、非同心円状に巻き取られた鋼線材であるルーズコイルの冷却装置および冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼線材は熱処理のため熱間圧延後、ルーズコイルとして搬送されながら空気を吹きかけられ、あるいは冷却流体に浸漬されて冷却される。このとき冷却に使われる冷却設備では、冷却槽内で冷却媒体を攪拌し、冷却槽内のルーズコイルに噴出される冷却媒体の流速を速めたり、制御することにより、ルーズコイルの冷却速度の強化と冷却速度の不均一さを抑えることが考えられ、例えば、DLP(Direct in−Line Patenting)において冷却媒体である溶融塩を攪拌するために、エアーバブリングによる攪拌が行われている(特許文献1)。
【0003】
また、冷却媒体の攪拌を行う場合に、ルーズコイルの幅方向における冷却速度分布を制御し、均一な冷却を行うことによって、ルーズコイルの強度分布を均一化するための冷却設備が開示されている(特許文献2)。また、冷却槽の断面内で溶融塩を流動させて冷却速度分布を制御し、均一な冷却を行う冷却設備が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭59−44764号公報
【特許文献2】特開2007−284764号公報
【特許文献3】特開2007−211308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載のエアーバブリングによる冷却媒体の攪拌では、冷却媒体の攪拌のための駆動力がバブルの浮上力であり、その浮上力、浮上速度等にはバブルの大きさやその冷媒の物性値等による限界がある。これにより、一定以上のバブルの浮上力上昇は難しいため、ルーズコイルの冷却速度をある一定以上には上昇させられないという問題点があった。
【0006】
また、上記特許文献2に記載の冷却設備では、ルーズコイルの幅方向における冷却媒体の流速分布を制御することによってルーズコイルの冷却を均一に行い、その強度分布を均一にすることは可能であるものの、ルーズコイル全体に対する冷却媒体の流速を平均的に上昇させる点については特に記載されていない。さらには、上記特許文献2に記載の冷却設備では、ノズルからの噴流を直接使用するため、冷却媒体に流速分布が生じており、部分的には流速の遅い箇所が存在することから、ルーズコイル全体に対する連続的な強冷却が必要な場合には、上記冷却設備では十分な冷却ができない可能性があった。また、上記特許文献3では、冷却槽の断面内での溶融塩の流動を発生させることとしているが、冷却槽の断面の大きさには設備的な限界があり、小さい断面内において均一で強い流れを安定的に実現することが困難であり、なお改善の余地があった。
【0007】
そこで、上記問題点に鑑み、本発明の目的は、冷却媒体の流速を平均的に上昇させ、ルーズコイル全体に対する連続的な強冷却を行い、ルーズコイルの平均強度を上昇させるルーズコイルの冷却装置および冷却方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、熱間圧延後、非同心円状に巻き取られた鋼線材のルーズコイルを連続して冷却槽内の冷却媒体内に浸漬し、当該冷却槽内の搬送機構によって前記ルーズコイルを搬送し、前記ルーズコイルを冷却する冷却装置であって、前記冷却槽内を上部空間と下部空間に仕切る仕切り板と、前記下部空間において前記ルーズコイルの搬送方向に沿って冷却媒体を噴出する噴出ノズルと、前記噴出ノズルの噴出方向と反対側において、前記噴出ノズルの近傍に配置され、冷却媒体を吸い込む吸い込み部とを備え、前記仕切り板の、前記ルーズコイル搬送方向両端部には、前記上部空間と前記下部空間を連通させる開口部が形成され、前記開口部近傍には、前記上部空間から前記下部空間に流れ込む冷却媒体を整流させる整流羽と、前記下部空間から前記上部空間に流れ込む冷却媒体を整流させる整流羽が設けられている、ルーズコイルの冷却装置が提供される。ここで、前記上部空間の上方に冷却媒体の流路断面積を縮小させる上部カバーを設けてもよい。
【0009】
また、別の観点からの本発明によれば、熱間圧延後、非同心円状に巻き取られた鋼線材のルーズコイルを連続して冷却槽内の冷却媒体内に浸漬し、前記ルーズコイルを冷却する冷却方法であって、上記ルーズコイルの冷却装置を用いて前記冷却槽内で前記ルーズコイルに対して0〜2m/s程度の流速で流れる前記冷却媒体の循環流を発生させるとともに、その流速を制御することにより前記ルーズコイルの平均強度を制御する、ルーズコイルの冷却方法が提供される。循環流の流速の制御は噴流ノズルの流速、流量を制御することにより可能である。また、前記冷却媒体の流路断面積を部分的に制御することによって、前記ルーズコイルに対する前記冷却媒体の循環流の流速を制御してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、効率よく冷却媒体の流速を平均的に上昇させ、ルーズコイル全体に対する連続的な強冷却を行い、ルーズコイルの平均強度を上昇させることができる。即ち、冷却槽内のルーズコイルの冷却部分において、例えば1m/s以上の流速で冷却媒体が流れ、強冷却が行われるため、ルーズコイルのパーライト組織が緻密になり、より強度の高い鋼線材のルーズコイルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態にかかるルーズコイルの冷却装置の側面断面図である。
【図2】冷却装置1を正面から見た断面図である。
【図3】流速とルーズコイルCの熱伝達係数αの関係を示すグラフである。
【図4】流速とルーズコイルCの引張強さTsの関係を示すグラフである。
【図5】他の実施の形態にかかる冷却装置の正面断面図である。
【図6】実施例における冷却槽内の溶融塩の高さ方向流速分布を示すグラフである。
【図7】実施例における冷却槽内の溶融塩の幅方向流速分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態の一例を、図面を参照にして説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態にかかる冷却装置1を、ルーズコイルCの搬送方向の側方から見た断面図であり、図2は、冷却装置1を、ルーズコイルCの搬送方向の正面から見た断面図である。なお、後述するように、図示の冷却装置1では、ルーズコイルCは、図1中の右向きに搬送される。
【0014】
本実施の形態にかかる冷却装置1は、上面が開口し、ルーズコイルCの搬送方向を長手方向とする冷却槽2を有している。この冷却槽2の中には、冷却媒体としての溶融塩Aが貯留されている。冷却槽2内には、冷却槽2内を上下に2分する仕切り板3が水平に設置されている。冷却槽2内において、仕切り板3の上方に上部空間4aが形成され、仕切り板3の下方に下部空間4bが形成されている。但し、図1に示すように、冷却槽2内は、仕切り板3によって上部空間4aと下部空間4bに完全に仕切られているのではなく、冷却槽2の長手方向の両端部近傍では、上部空間4aと下部空間4bを連通させる開口部5が設けられている。
【0015】
仕切り板4下方の下部空間4bには、ヘッダー8に支持される噴出ノズル10が配置されている。ヘッダー8と噴出ノズル10の内部は連通しており、ヘッダー8に導入された溶融塩Aは噴出ノズル10から噴出する。噴出ノズル10の噴出口10aは、冷却槽2の長手方向に沿って、図1中の右向きに指向しており、冷却槽2内の下部空間4bにおいて、噴出ノズル10の噴出口10aから、冷却槽2の長手方向に沿って、図1中の右向きに溶融塩Aが噴出させられる。なお、本実施の形態では、図2に示すように、8台の噴出ノズル10が、下部空間4bにおいて、冷却槽2の長手方向と直交する方向に沿って並んでヘッダー8に支持され、配置されている。これら各噴出ノズル10の噴出口10aから、図1中の右向きに溶融塩Aが平行流として噴出させられる。
【0016】
また、下部空間4bにおいて、噴出ノズル10の噴出方向と反対側には、溶融塩Aを吸い込む吸い込み部11が吸い込み用ヘッダー9に支持され、配置されている。吸い込み用ヘッダー9と吸い込み部11の内部は連通しており、吸い込み部11から吸い込まれた溶融塩Aは吸い込み用ヘッダー9へ流入することとなる。これらヘッダー8と吸い込み用ヘッダー9の間は、冷却槽2の外部に設置されたポンプ12を備える配管13によって接続されている。このポンプ12の稼動により、吸い込み部11から溶融塩Aを吸い込み、吸い込んだ溶融塩Aが、噴出ノズル10の噴出口10aから図1中の右向きに噴出させられる。これにより、冷却槽2内の下部空間4bでは、冷却槽2の長手方向に沿って図1中の右向きに流れる溶融塩Aの流れが形成される。
【0017】
また、冷却槽2の長手方向の両端部近傍では、上記した開口部5を通じて、上部空間4aと下部空間4bの間で、溶融塩Aが流通されるようになっている。即ち、冷却槽2内の下部空間4bにおいて、冷却槽2の長手方向に沿って図1中の右向きに流れた溶融塩Aは、冷却槽2の長手方向の右端部近傍では、開口部5を通じて下部空間4bから上部空間4aに上向きに流れ込む。そして、冷却槽2内の上部空間4aでは、溶融塩Aは、冷却槽2の長手方向に沿って図1中の左向きに流れる。そして、冷却槽2の長手方向の左端部近傍では、開口部5を通じて上部空間4aから下部空間4bに下向きに流れ込む。こうして、ポンプ12の稼動により、溶融塩Aは、冷却槽2内において、下部空間4b(右向き)と上部空間4a(左向き)を交互に流れて循環させられるようになっている。
【0018】
また、上部空間4aと下部空間4bを連通させている開口部5の近傍には、複数の整流羽14が設けられている。各整流羽14は、冷却槽2内における溶融塩Aの循環流を円滑に形成させるように、いずれも湾曲した形状となっている。即ち、冷却槽2の長手方向の右端部近傍には、開口部5の下方に、下部空間4bを右向きに水平に流れてきた溶融塩Aを、開口部5に向けて上向きに方向転換させるように湾曲した複数の整流羽14が設けられ、開口部5の上方に、開口部5を上向きに通過してきた溶融塩Aを、上部空間4aに向けて水平方向左向きに方向転換させるように湾曲した複数の整流羽14が設けられている。また、冷却槽2の長手方向の左端部近傍には、開口部5の上方に、上部空間4aを左向きに水平に流れてきた溶融塩Aを、開口部5に向けて下向きに方向転換させるように湾曲した複数の整流羽14が設けられ、開口部5の下方に、開口部5を下向きに通過してきた溶融塩Aを、下部空間4bに向けて水平方向右向きに方向転換させるように湾曲した複数の整流羽14が設けられている。
【0019】
上部空間4aには、搬送機構として搬送用のチェーン15が冷却槽2の長手方向に伸びるように配置されている。このチェーン15は、モーター等の適宜の駆動装置(図示せず)によって、冷却槽2の長手方向に沿って図1中の右向きに移動するようになっている。冷却槽2の長手方向中央では、チェーン15は、上部空間4a内に沈み、溶融塩Aの液面下に浸漬している。冷却対象である鋼線材からなるルーズコイルCは、チェーン15の上に置かれ、チェーン15の駆動に伴って、上部空間4a内において溶融塩A中に浸漬された状態で、冷却槽2の長手方向に沿って図1中の右向きに搬送されていく。
【0020】
冷却槽2の上面中央部には上部カバー20が設置されている。上部カバー20は、チェーン15の上方に適当な間隔を置いて設置され、チェーン15と上部カバー20の下面との間が、ルーズコイルCの搬送スペース21となっている。チェーン15と上部カバー20の下面との間の搬送スペース21のルーズコイルC搬送方向に対する断面積は、上部空間4aの断面積よりも狭い構成となっている。
【0021】
本実施の形態にかかる冷却装置1は以上のように構成されており、次にその運転例について説明する。熱間圧延後、ルーズコイルCは、冷却処理するために冷却槽2内をチェーン15により搬送され、溶融塩A内に浸漬される。これによって、例えば熱間圧延され約850℃になっていたルーズコイル7は、約600℃程度まで冷却される。
【0022】
ここで、冷却装置1内において溶融塩Aは、下部空間4bにおいて噴出ノズル10の噴出口10aから一方向(図1中右方向)に向けて噴出され、整流羽14の形状に沿うように冷却槽2内を流動する。即ち、噴出ノズル10から噴出された溶融塩Aは、下部空間4bから冷却槽2内の右端部近傍の開口部5を通過し、上部空間4aに向かって流動し、上部空間4aにおいてルーズコイルCの搬送方向と逆方向に向かって流動し、その後冷却槽2内の左端部近傍の開口部5通過して再び下部空間4bへと流動し、吸い込み部11に吸い込まれる。
【0023】
吸い込み部11から吸い込まれた溶融塩Aは、吸い込み用ヘッダー9から配管13およびポンプ12を経由して、ポンプ12の稼動によって再び冷却槽2内へ噴出ノズル10より噴出される。即ち、溶融塩Aは、冷却槽2とポンプ12の間を循環することとなる。このようなポンプ12による溶融塩Aの循環流が周辺の溶融塩Aの流動を誘い、冷却槽2内には大きな循環流が形成される。この循環流の流量はポンプ12から噴出する溶融塩Aの流量の10倍程度に増幅されている。即ち、ポンプ12の流量をそれほど大きくすることなく、比較的容易に冷却槽2内に溶融塩Aの強い流動を発生させることができる。
【0024】
以上説明したように溶融塩Aは冷却槽2内を流動し、その流動する溶融塩Aがチェーン15上を搬送される、熱間圧延されたルーズコイルCに対し熱交換を行い、ルーズコイルCが冷却される。このとき、上述したようにルーズコイルCが冷却される上部カバー20下方の搬送スペース21は、他の上部空間4aより搬送方向に対する断面積が狭い構成となっていることから、冷却時のルーズコイルCに対する溶融塩Aの流速は、上部カバー20の無い部分より速い流速となっている。なお、ルーズコイルC冷却時の、溶融塩AのルーズコイルC近傍での流速は0〜2m/sであり、この場合、ルーズコイルCは十分に冷却される。
【0025】
また、ルーズコイルCの搬送方向と溶融塩Aの流動する方向が相対的に逆方向であるため、ルーズコイルCに対する溶融塩Aの相対的な流動速度は、溶融塩Aの流動速度よりも速い流速となる。そのため、さらに効率的なルーズコイルCの冷却が可能となる。また、ポンプ12の回転数を制御することによって、冷却槽2内の溶融塩Aの循環流の流速を制御することが可能となる。また、循環流の流速による鋼線材の引張強さをより低い強度まで制御したい場合には、循環流の方向と搬送方向とを同一方向とすると、ルーズコイルCと溶融塩Aとの相対的な速度として0m/sからの冷却も可能となる。
【0026】
さらに、上部カバー20下方の搬送スペース21の断面積と、上部空間4aの断面積を比較し、上部カバー20下方の搬送スペース21の断面積を変化させる、即ち、上部空間4aにおいて、搬送スペース21での溶融塩Aの流路断面積を制御することによって、ルーズコイルCに対する溶融塩Aの相対的な流動速度を変化させ、所望の流動速度とすることが可能となる。ルーズコイルCに対する溶融塩Aの相対的な流動速度に応じて、ルーズコイルCの冷却速度は変化することから、上部カバー20の設置箇所によって(搬送スペース21の断面積によって)簡単に所望の冷却速度に変化させることが可能となる。
【0027】
また、溶融塩Aを、噴出ノズル10から噴出させ、吸い込み部11に吸い込ませることにより、溶融塩Aを冷却槽2とポンプ12の間で常時循環させ、冷却槽2内に安定した溶融塩Aの流動を発生させることができ、さらに、発生した溶融塩Aの流動は、冷却槽2の断面方向において均一な流動となる。また、冷却槽2内に溶融塩Aの循環流が発生するため、上部空間4aを流動する溶融塩Aの循環流量はポンプ12から噴出する溶融塩A流量の10倍程度に増幅されている。即ち、既存設備であるポンプ12の回転数をそれほど上昇させることなく、簡単に冷却槽2内に溶融塩Aの強い流動を発生させることができる。そのため、ルーズコイルC全体に対する連続的な強冷却を行うことが可能となり、その結果、ルーズコイルCの平均強度を上昇させることができる。
【0028】
上記実施の形態において、ルーズコイルCに対する溶融塩Aの流動速度を上昇させることにより、ルーズコイルCの冷却速度および平均強度が上昇すると記述したが、ここで、溶融塩Aの流速によるルーズコイルCの強度への影響について図3および図4を参照して説明する。図3はルーズコイルCに対して溶融塩Aによる冷却を行う場合のソルト(溶融塩)流速とルーズコイルCの熱伝達係数αの関係を示すグラフである。また、図4はルーズコイルCを溶融塩Aに対して溶融塩Aによる冷却を行う場合のソルト(溶融塩)流速とルーズコイルCの引張強さTsの関係を示すグラフである。
【0029】
図3に示すようにソルト流速を上昇させるとともにルーズコイルCの熱伝達係数αは大きくなる。即ち、ソルト流速の上昇が冷却速度の上昇と対応していることが分かる。また、図4に示すようにソルト流速を上昇させるとともにルーズコイルCの引張強さTsの値は大きくなる。即ち、ソルト流速の上昇がルーズコイルCの引張強さTsの上昇と対応していることが分かる。従って、図3、図4から、ルーズコイルC冷却時のソルト流速の上昇により、ルーズコイルCの冷却速度は上昇し、それに伴いルーズコイルCの引張強さTsも上昇することが分かる。
【0030】
以上、本発明の実施の形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。以下に、その例を図面を参照して説明する。
【0031】
図5は他の実施の形態にかかる冷却装置30をルーズコイルCの搬送方向の正面から見た断面図である。図5に示す冷却装置30の構成は、図1および図2に示した冷却装置1の構成とは以下の点で異なる。この冷却装置30における冷却槽2は、上部空間4aの断面積に対し、下部空間4bの断面積が大きい構成をとっており、また、上部カバー20は取り付けられていない。
【0032】
この冷却装置30によれば、冷却槽2内に、より大きな循環流路を戻り側に設けたことになり、流路内の抵抗が減少し、実際にポンプで流す流量の13倍程度の流量の循環流を発生させることができる。また、下部空間4bと上部空間4aの断面積の相異により、下部空間4bにおける溶融塩Aの流速に対し、上部空間4aでの溶融塩Aの流動の速度が速いものとなる。そのため、結果として噴出ノズル10から溶融塩Aの噴出を多少減らしても、ルーズコイルCに対する溶融塩Aの相対的な流動速度は十分に確保され、効率的なルーズコイルCの冷却が可能となる。さらに、より冷却効率を上げるため、図5に示す冷却装置30において、図2に示したように上部カバー20を設置することも当然可能であり、これによって更なるルーズコイルCに対する溶融塩Aの相対的な流動速度の上昇が可能となる。
【0033】
上述してきた本発明にかかる実施の形態やその変形例において、複数箇所(上記実施の形態では8ヶ所)設けられる噴出ノズル10から噴出された溶融塩Aの噴流は、コーナー部に到達するまでの流路において発達し、その流路断面内で一定の流速の流動となっていく。この溶融塩Aの噴流が発達する流路の距離は、噴出ノズル10の本数や噴出ノズル10から噴出される溶融塩Aの流速に応じて調整する必要がある。ここで発達させられた溶融塩Aの噴流は、ルーズコイルCの冷却部において流路の断面内で一様流となっていることが、流れによる抵抗を低減するという観点および均一にルーズコイルCを冷却するという観点の双方から好ましい。これにより、より微細な溶融塩Aの流動制御が可能となり、ルーズコイルCの冷却効率を上昇させることが可能である。また、ルーズコイルCの冷却状況、溶融塩Aの流動状況を適宜考慮して、噴出ノズル10の各ノズルの径を異なったものとしてもよい。これにより、上記同様、より微細な溶融塩Aの流動制御が可能となり、ルーズコイルCの冷却効率を上昇させることができる。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明にかかる冷却装置についての実施例について説明する。
【0035】
まず、図1に示した上記本発明の実施の形態にかかる冷却装置を用意した。このときの冷却槽の幅は1.5m、長さは5.0mとした。冷却装置の内部構造は、図1に示したものとした。ここで、実施例1、2として、実施例1の場合は上部カバーなしで噴出ノズルから800l/min、実施例2の場合は上部カバー有りで、1600l/minの流量の溶融塩をそれぞれ噴出させ、その時の冷却槽内の溶融塩の流速分布を、冷却槽の高さ方向および幅方向のそれぞれについて求め、図6および図7にグラフとして示した。
【0036】
図6には実施例1(点線)および実施例2(実線)についての冷却槽内の溶融塩の高さ方向流速分布を示した。また、図7には実施例1(点線)および実施例2(実線)についての冷却槽内の溶融塩の幅方向流速分布を示した。
【0037】
図6および図7に示されるように、噴出ノズルからの溶融塩の噴出流量を2倍にした場合、溶融塩の冷却槽内上部空間における流速分布は、冷却槽高さ方向および幅方向ともに2倍以上に上昇しており、また、冷却槽幅方向における溶融塩の流速分布の均一性は実施例1および実施例2の場合ともに担保されていることが分かった。また、実施例2の上部カバー部での流速のほうが、上部カバーの無い箇所での流速よりも速くなっていることも分かった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、熱間圧延され、非同心円状に巻き取られた鋼線材であるルーズコイルの冷却装置および冷却方法に適用できる。
【符号の説明】
【0039】
1…冷却装置
2…冷却槽
3…仕切り板
4a…上部空間
4b…下部空間
5…開口部
8…ヘッダー
9…吸い込み用ヘッダー
10…噴出ノズル
10a…噴出口
11…吸い込み部
12…ポンプ
13…配管
14…整流羽
15…チェーン
20…上部カバー
9…噴出ノズル
30、40…冷却装置
41…冷却器
A…溶融塩
C…ルーズコイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延後、非同心円状に巻き取られた鋼線材のルーズコイルを連続して冷却槽内の冷却媒体内に浸漬し、当該冷却槽内の搬送機構によって前記ルーズコイルを搬送し、前記ルーズコイルを冷却する冷却装置であって、
前記冷却槽内を上部空間と下部空間に仕切る仕切り板と、
前記下部空間において前記ルーズコイルの搬送方向に沿って冷却媒体を噴出する噴出ノズルと、
前記噴出ノズルの噴出方向と反対側において、前記噴出ノズルの近傍に配置され、冷却媒体を吸い込む吸い込み部とを備え、
前記仕切り板の、前記ルーズコイル搬送方向両端部には、前記上部空間と前記下部空間を連通させる開口部が形成され、
前記開口部近傍には、前記上部空間から前記下部空間に流れ込む冷却媒体を整流させる整流羽と、前記下部空間から前記上部空間に流れ込む冷却媒体を整流させる整流羽が設けられている、ルーズコイルの冷却装置。
【請求項2】
前記上部空間の上方に冷却媒体の流路断面積を縮小させる上部カバーを設ける、請求項1に記載のルーズコイルの冷却装置。
【請求項3】
熱間圧延後、非同心円状に巻き取られた鋼線材のルーズコイルを連続して冷却槽内の冷却媒体内に浸漬し、前記ルーズコイルを冷却する冷却方法であって、
請求項1に記載のルーズコイルの冷却装置を用いて前記冷却槽内で前記ルーズコイルに対して0〜2m/sの均一な流速で流れる前記冷却媒体の循環流を発生させる、ルーズコイルの冷却方法。
【請求項4】
前記冷却媒体の流路断面積を制御することによって、前記ルーズコイルに対する前記冷却媒体の循環流の流速を制御する、請求項3に記載のルーズコイルの冷却方法。
【請求項5】
熱間圧延後、非同心円状に巻き取られた鋼線材のルーズコイルを連続して冷却槽内の冷却媒体内に浸漬し、前記ルーズコイルを冷却する冷却方法であって、
請求項2に記載のルーズコイルの冷却装置を用いることにより、前記冷却媒体の循環流を発生させるとともに、その流速を制御することにより前記ルーズコイルの平均強度を制御する、ルーズコイルの冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−229494(P2010−229494A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78476(P2009−78476)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】