説明

レジオネラ属菌増殖抑制剤、入浴剤、及び洗浄剤

【課題】レジオネラ属菌の増殖を抑制することのできるレジオネラ属菌増殖抑制剤、入浴剤、及び洗浄剤を提供する。
【解決手段】レジオネラ属菌増殖抑制剤は、少なくとも有機溶媒を含む抽出溶媒により抽出されたオオバギ抽出物を有効成分として含有する。このレジオネラ属菌増殖抑制剤は、例えば入浴剤及び洗浄剤に含有させて使用することが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジオネラ属菌増殖抑制剤、並びにそれを含む入浴剤及び洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
レジオネラ属菌は、好気性グラム陰性の桿菌であり、入浴設備、冷却塔等において増殖し易いことが確認されている。そして、レジオネラ属菌は、エアロゾルを介してヒトに吸入されることでレジオネラ感染症を引き起こすおそれがある。レジオネラ感染症としては、レジオネラ肺炎及びポンティアック熱が挙げられ、レジオネラ肺炎は、死亡率の高い感染症であることが知られている。こうしたレジオネラ属菌の増殖を抑制する成分としては、例えば笹の抽出成分が報告されている(特許文献1参照)。
【0003】
一方、トウダイグサ科オオバギ属に属するオオバギ(大葉木)の抽出物は抗菌作用を発揮することが知られている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2006−45077号公報
【特許文献2】特開2007−45754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、本研究者らによる鋭意研究の結果、オオバギ抽出物がレジオネラ属菌の増殖を抑制する作用を発揮することを見出すことでなされたものである。なお、上記特許文献2では、レジオネラ属菌に対するオオバギ抽出物の作用は解明されていない。
【0005】
本発明の目的は、レジオネラ属菌の増殖を抑制することのできるレジオネラ属菌増殖抑制剤、入浴剤、及び洗浄剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明のレジオネラ属菌増殖抑制剤は、少なくとも有機溶媒を含む抽出溶媒により抽出されたオオバギ抽出物を有効成分として含有し、レジオネラ属菌の増殖を抑制することを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明のレジオネラ属菌増殖抑制剤は、ニムフェオール−A、ニムフェオール−B及びニムフェオール−Cから選ばれる少なくとも一種を有効成分として含有し、レジオネラ属菌の増殖を抑制することを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のレジオネラ属菌増殖抑制剤において、前記有効成分は、オオバギ抽出物由来であることを特徴とする。
請求項4に記載の発明の入浴剤は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のレジオネラ属菌増殖抑制剤を含むことを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載の発明の洗浄剤は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のレジオネラ属菌増殖抑制剤を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、レジオネラ属菌の増殖を抑制することのできるレジオネラ属菌増殖抑制剤、入浴剤、及び洗浄剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した一実施形態を詳細に説明する。
本実施形態のレジオネラ属菌増殖抑制剤は、少なくとも有機溶媒を含む抽出溶媒により抽出されたオオバギ抽出物を有効成分として含有する。オオバギ抽出物の原料であるオオバギ(大葉木)は、マカランガ・タナリウス(Macaranga tanarius)とも呼ばれる植物であって、トウダイグサ科オオバギ属に属する常緑広葉樹(雌雄異株)である。オオバギは、沖縄、台湾、中国南部、マレー半島、フィリピン、マレーシア、インドネシア、タイなどの東南アジア、オーストラリア北部などに生育している。また、オオバギは、樹木の中でも成長が極めて早く、荒廃地における成長も可能である。
【0012】
オオバギ抽出物の原料としては、オオバギの各器官やそれらの構成成分を用いることができる。原料としては、単独の器官又は構成成分を用いてもよいし、二種以上の器官や構成成分を混合して用いてもよい。オオバギ抽出物のレジオネラ属菌増殖抑制作用が高まるという観点から、原料には果実、種子、花、根、幹、茎の先端部、葉身、及び分泌物(ワックス等)を含むことが好ましい。茎の先端部は、茎の成長点及び葉芽を含んでおり、葉身に比べて柔軟であるため、抽出操作を効率的に行うことが容易である。また、オオバギの全体に対して各器官が占める割合を比較すると、幹、根、及び葉の占める割合は高い。このため、オオバギの葉身をオオバギ抽出物の原料として用いることは、原料確保が容易であるという観点から、工業的に好適である。こうした原料は、採取したままの状態、採取後に粉砕、破砕若しくはすり潰した状態、採取・乾燥後に粉砕、破砕若しくはすり潰した状態、又は、採取後に破砕、粉砕若しくはすり潰した後に乾燥させた状態として、抽出操作を行うことができる。抽出操作を効率的に行うべく、破砕した原料を用いることが好ましい。こうした破砕には、例えばカッター、裁断機、クラッシャー等を用いることができる。また、粉砕した原料を調製する際には、例えばミル、クラッシャー、グラインダー等を用いることができる。すり潰した原料を調製する際には、ニーダー、乳鉢等を用いることができる。
【0013】
上述した原料からオオバギ抽出物を抽出するための抽出溶媒としては、水と有機溶媒との混合溶媒、低級アルコール、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン、グリセリン、プロピレングリコール等の有機溶媒が挙げられる。低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等が挙げられる。有機溶媒としては、単独種を用いてもよいし、複数種を混合した混合溶媒を用いてもよい。抽出溶媒として水と有機溶媒の混合溶媒を用いる場合、混合溶媒中における有機溶媒の含有量は、好ましくは50体積%以上、より好ましくは80体積%以上である。混合溶媒中における有機溶媒の含有量が50体積%未満の場合、オオバギに含まれる有効成分を効率的に抽出できないおそれがある。なお、有機溶媒としては、低級アルコールが好ましく、エタノールがより好ましい。
【0014】
なお、抽出溶媒中に、有機塩、無機塩、緩衝剤、乳化剤、デキストリン等を溶解させてもよい。
抽出操作としては、抽出溶媒中に上記原料を所定時間浸漬させる。こうした抽出操作においては、抽出効率を高めるべく、必要に応じて攪拌操作、加温等を行ってもよい。また、原料から抽出される夾雑物を削減すべく、抽出操作に先だって、別途水抽出操作又は熱水抽出操作を行ってもよい。レジオネラ属菌の増殖の抑制に対して有効に作用する成分は、オオバギに含まれるニムフェオール類である。ニムフェオール類は、水のみに対して不溶の成分であるため、オオバギを例えば熱湯で煮沸することで、ニムフェオール類以外の不必要な侠雑物を効率的に除去することができる。
【0015】
抽出操作の後には固液分離操作が行われることで、オオバギ抽出液と原料の残渣とを分離する。こうした固液分離操作の分離法としては、例えばろ過、遠心分離等の公知の分離法を利用することができる。得られたオオバギ抽出液は、必要に応じて濃縮してもよい。
【0016】
また、オオバギ抽出液に含まれる抽出溶媒を必要に応じて除去することにより、固体状のオオバギ抽出物を得ることができる。こうした溶媒の除去は、例えば減圧下で加熱することにより行ってもよいし、凍結乾燥により行ってもよい。
【0017】
少なくとも有機溶媒を含む抽出溶媒により抽出されたオオバギ抽出物には、ニムフェオール類が含有されている。ニムフェオール類は、ニムフェオール−A、ニムフェオール−B及びニムフェオール−Cから選ばれる少なくとも一種を含む。ニムフェオール−A(nymphaeol−A)は、5,7,3´,4´-テトラヒドロキシ-6-ゲラニルフラバノン(5,7,3´,4´-tetrahydroxy-6-geranylflavanone)である。ニムフェオール−B(nymphaeol−B)は、5,7,3´,4´-テトラヒドロキシ-2´-ゲラニルフラバノン(5,7,3´,4´-tetrahydroxy-2´-geranylflavanone)である。ニムフェオール−C(nymphaeol−C)は、5,7,3´,4´-テトラヒドロキシ-6-(3´´´,3´´´-ジメチルアリル)-2´-ゲラニルフラバノン(5,7,3´,4´-tetrahydroxy-6-(3´´´,3´´´-dimethylallyl)-2´-geranylflavanone)である。
【0018】
オオバギ抽出物の主要な成分は、上述したニムフェオール類であり、こうしたニムフェオール類がレジオネラ属菌の抑制作用に大きく寄与していると推測される。
さらにオオバギ抽出物には、プロポリンAが含有されている。プロポリンA(propolinA)は、5,7,3´,4´-テトラヒドロキシ-2´-(7´´-ヒドロキシ-3´´,7´´-ジメチル-2´´-オクテニル)-フラバノン(5,7,3´,4´-tetrahydroxy-2´-(7´´-hydroxy-3´´,7´´-dimethyl-2´´-octenyl)-flavanone)である。オオバギ抽出物には、微量成分として、5,7,3´,4´-テトラヒドロキシ-5´-ゲラニルフラバノン(イソニムフェオールB:isonymphaeol−B:5,7,3´,4´-tetrahydroxy-5´-geranylflavanone)、5,7,3´,4´-テトラヒドロキシ-5´-(7´´-ヒドロキシ-3´´,7´´-ジメチル-2´´-オクテニル)-フラバノン(5,7,3´,4´-tetrahydroxy-5´-(7´´-hydroxy-3´´,7´´-dimethyl-2´´-octenyl)-flavanone)、5,7,3´,4´-テトラヒドロキシ-6-(7´´-ヒドロキシ-3´´,7´´-ジメチル-2´´-オクテニル)-フラバノン(5,7,3´,4´-tetrahydroxy-6-(7´´-hydroxy-3´´,7´´-dimethyl-2´´-octenyl)-flavanone)、5,7,4´-トリヒドロキシ-3´-(7´´-ヒドロキシ-3´´,7´´-ジメチル-2´´-オクテニル)-フラバノン(5,7,4´-trihydroxy-3´-(7´´-hydroxy-3´´,7´´-dimetyl-2´´-octenyl)-flavanone)、5,7,4´-トリヒドロキシ-3´-ゲラニルフラバノン(5,7,4´-trihydroxy-3´-geranylflavanone)等が挙げられる。なお、オオバギの各部位から抽出された抽出液の中でも、花、種子及び実の部位(ワックスを含む)から抽出された抽出液には、ニムフェオールA,B,C及びイソニムフェオールBが高濃度で含有されている。
【0019】
レジオネラ属菌増殖抑制剤には、その増殖抑制作用を損なわない範囲でオオバギ抽出物以外の成分を含有させてもよい。オオバギ抽出物以外の成分としては、例えば賦形剤、基剤、乳化剤、安定剤、香料等が挙げられる。レジオネラ属菌増殖抑制剤は、液状であってもよいし、固体状であってもよい。剤形としては、特に限定されないが、例えば散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、液剤等が挙げられる。また、オオバギ抽出物の水への分散性を高めることで、同オオバギ抽出物の水への溶解を促進するために、界面活性剤、キレート剤、乳化剤、エタノール等を適宜添加することも可能である。なお、オオバギ抽出物は、固体状として使用することもできる。固体状のオオバギ抽出物は、例えば水を排出又は循環させる配管、菌除去設備等に設置されるフィルタ等に担持させることで、効率的にレジオネラ属菌を増殖抑制することも可能である。
【0020】
レジオネラ属菌は、入浴設備、冷却塔等において増殖し易いことが確認されている。レジオネラ属菌は、エアロゾルを介してヒトに吸入されることでレジオネラ感染症を引き起こすおそれがある。レジオネラ属菌の感染により発症する感染症は、レジオネラ肺炎及びポンティアック熱である。こうしたレジオネラ属菌の感染を予防するには、レジオネラ属菌の増殖を抑制することが極めて重要である。本実施形態のレジオネラ属菌増殖抑制剤は、レジオネラ属菌の増殖を抑制することで、レジオネラ属菌の感染を予防することができる。
【0021】
代表的なレジオネラ属菌としては、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)が知られており、現在数十種のレジオネラ属菌が確認されている。こうしたレジオネラ属菌のすべてが感染症を引き起こす可能性があるものと考えられている。
【0022】
レジオネラ属菌増殖抑制剤の適用箇所としては、レジオネラ属菌の増殖が想定される箇所であれば特に限定されない。具体的には、例えば入浴設備、給水・給湯設備、冷却塔、加湿器、水景設備、蓄熱槽等の設備に使用される水の添加剤として好適に用いられる。ここで、レジオネラ属菌は、高齢者、新生児、乳幼児等の抵抗力の低下している人が発症し易いとされている。本実施形態のレジオネラ属菌増殖抑制剤は、天然物由来成分を有効成分としているため、医療施設又は老人福祉施設においても、安心して用いることができる。
【0023】
レジオネラ属菌増殖抑制剤は、例えば入浴剤、洗浄剤、消臭剤、芳香剤等として利用することができる。上述した発生源となり得る箇所に適用することが容易であるという観点から、レジオネラ属菌増殖抑制剤は、入浴剤又は洗浄剤として利用されることが好ましい。なお、レジオネラ属菌増殖抑制剤は、レジオネラ属菌の発生源となり得る箇所において、ニムフェオールA、ニムフェオールB及びニムフェオールCの合計量が好ましくは15ppm以上、より好ましくは20ppm以上となるように使用されることが好適である。レジオネラ属菌の発生源となり得る箇所において、ニムフェオールA、ニムフェオールB及びニムフェオールCの合計量が15ppm以上であると、レジオネラ属菌の増殖を抑制する作用が十分に発揮され易くなる。
【0024】
本実施形態の入浴剤は、上記レジオネラ属菌増殖抑制剤を含有する。入浴剤の剤型としては、固体状、液状、粉末状等が挙げられる。入浴剤には、例えば水溶性無機塩類、着色剤、香料、保湿剤、pH調整剤、ビタミン類、生薬類、有機酸類、酵素類等が含有される。水溶性無機塩類としては、例えば炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の炭酸塩、メタケイ酸ナトリウム等のケイ酸塩、オルトリン酸ナトリウム等のリン酸塩、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム等の硫酸塩、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化アンモニウム等の塩化物等が挙げられる。
【0025】
こうした入浴剤は、各種入浴設備の浴液に混合して使用することで、入浴設備の稼働中であっても、浴槽、その浴槽に浴液を循環する配管、その配管に接続される濾過器、又は、熱交換器において、レジオネラ属菌の増殖を抑制することができる。このため、各種入浴設備においてレジオネラ属菌感染症の予防に好適である。入浴剤中におけるオオバギ抽出物の含有量は、浴液に配合するのに好適な入浴剤の量に応じて適宜設定される。なお、入浴剤は、浴液中においてニムフェオールA、ニムフェオールB及びニムフェオールCの合計量が好ましくは15ppm以上、より好ましくは20ppm以上となるように使用されることが好適である。浴液中において、ニムフェオールA、ニムフェオールB及びニムフェオールCの合計量が15ppm以上であると、レジオネラ属菌の増殖を抑制する作用が十分に発揮され易くなる。
【0026】
本実施形態の洗浄剤は、上記レジオネラ属菌増殖抑制剤を含有する。洗浄剤の剤型としては、固体状、液状、粉末状等が挙げられる。洗浄剤には、例えば各種界面活性剤、キレート剤、pH調整剤等が含有される。また、洗浄剤には、必要に応じて塩素系又は酸素系除菌剤を含有させてもよい。こうした洗浄剤は、例えば定期的なメンテナンス用として、レジオネラ属菌の発生源となり得る箇所に洗浄剤を接触させるとともに所定時間放置して使用することができる。例えば、洗浄剤を希釈した希釈液を用いてレジオネラ属菌の発生源となり得る箇所を浸漬することにより、レジオネラ属菌の増殖を抑制することができる。また例えば、洗浄剤をレジオネラ属菌の発生源となり得る箇所に直接吹き付けることにより、レジオネラ属菌の増殖を抑制することができる。洗浄剤中におけるオオバギ抽出物の含有量は、洗浄剤の使用形態に応じて適宜設定される。なお、洗浄剤は、レジオネラ属菌の発生源となり得る箇所において、上述したように、ニムフェオールA、ニムフェオールB及びニムフェオールCの合計量が好ましくは15ppm以上、より好ましくは20ppm以上となるように使用されることが好適である。
【0027】
前記の実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)本実施形態のレジオネラ属菌増殖抑制剤は、少なくとも有機溶媒を含む抽出溶媒により抽出されたオオバギ抽出物を有効成分として含有している。そして本研究者らは、こうしたオオバギ抽出物に含まれるニムフェオール類がレジオネラ属菌の増殖を抑制する作用を発揮することを見出している。こうしたレジオネラ属菌増殖抑制剤は、オオバギ抽出物の新規な用途を提供するものであり、レジオネラ属菌の増殖を抑制することで、レジオネラ属菌の過剰な増殖を要因とする感染を予防することができる。
【0028】
(2)オオバギは、樹木の中でも成長が極めて早く、荒廃地における成長も可能である。このようにオオバギは、その栽培管理に手間がかからない。また、オオバギ抽出物は、植物由来の原料であるため、安全性が高い。従って、本実施形態のレジオネラ属菌増殖抑制剤は、レジオネラ属菌の増殖を抑制する作用に加えて、原料の供給、生産性、安全性等についても優れている。
【0029】
(3)本実施形態の入浴剤及び洗浄剤は、上記レジオネラ属菌増殖抑制剤を含むため、入浴剤及び洗浄剤としての通常の使用において、レジオネラ属菌の増殖を好適に抑制することができる。
【0030】
なお、前記実施形態を次のように変更して構成することもできる。
・前記レジオネラ属菌増殖抑制剤は、ニムフェオール−A、ニムフェオール−B及びニムフェオール−Cから選ばれる少なくとも一種を有効成分として含有し、レジオネラ属菌の増殖を抑制するように構成することもできる。レジオネラ属菌の増殖を抑制する有効成分は、ニムフェオール−A、ニムフェオール−B及びニムフェオール−Cから選ばれる少なくとも一種であるため、その有効成分は、オオバギ抽出物を由来とする以外に、例えば化学合成により得られるものであってもよい。
【0031】
・レジオネラ属菌は、土壌等の自然環境中に存在している。一方、園芸用の土又は肥料は、樹脂製の袋に密封されて保存されるため、そうした土又は肥料においてレジオネラ属菌が増殖するおそれがある。すなわち、園芸用の土又は肥料を人が吸引することでレジオネラ属菌に感染することがある。このため、前記レジオネラ属菌増殖抑制剤を園芸用の土又は肥料の添加剤として使用することで、レジオネラ属菌の感染を防止することができる。さらに、前記レジオネラ属菌増殖抑制剤の有効成分は、天然物由来成分であるため、園芸植物を栽培するに際して、その生育を阻害し難いと考えられる。
【0032】
上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ニムフェオール−A、ニムフェオール−B及びニムフェオール−Cを有効成分として含有し、レジオネラ属菌の増殖を抑制するレジオネラ属菌増殖抑制剤。
【0033】
・前記オオバギ抽出物が、水と有機溶媒との混合溶媒から抽出されたものである請求項1に記載のレジオネラ属菌増殖抑制剤。
・前記レジオネラ属菌増殖抑制剤を含み、園芸用の土又は肥料に添加される園芸用添加剤。
【実施例】
【0034】
次に、試験例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
<オオバギ抽出物の調製1>
沖縄県で採集して冷凍したオオバギの生葉を解凍した後に、はさみでその生葉を細かくカットした。カットした生葉30gと、溶媒100mlとをチューブ内に入れ、室温で2週間浸漬させて溶媒抽出を行った後に、ろ過することにより、ろ液としてオオバギ抽出液を採取した。なお、前記溶媒抽出には、エタノールと水とを体積比率でエタノール:水=90:10とした混合溶媒を使用した。次に、オオバギ抽出液を凍結乾燥することにより、オオバギ抽出液に含まれる固形分の粉末であるオオバギ抽出物を調製した。このオオバギ抽出物中に含まれるニムフェオールの濃度を、HPLC条件で分析して得られたクロマトグラムから算出した結果、50質量%であった。なお、このニムフェオールの濃度は、ニムフェオール−A、ニムフェオール−B、及びニムフェオール−Cを合計した濃度を示している。以下においても、ニムフェオールの量は、ニムフェオール−A、ニムフェオール−B、及びニムフェオール−Cの合計量を示している。
【0035】
(HPLC条件)
システム: PDA−HPLCシステム(島津製作所)、LC10ADvpシリーズ、UV;SPD−10Avp、PDA;SPD−M10Avp
カラム : Luna C18 (2.0×250mm)(島津GLC)
溶媒 : A:水(5%酢酸)、B:アセトニトリル(5%酢酸)
溶出条件: 0−20min
(グラジエント溶出;A:B=80:20→A:B=30:70)
20−50min
(グラジエント溶出;A:B=30:70→A:B=0:100)
50−60min(A:B=0:100)
60−75min(A:B=80:20)
流速 : 0.2ml/min
PDA検出:UV190−370nm
UV検出: UV287nm
注入量 : 20μl
温度 : 40℃
この50質量%のサンプルのクロマトグラムを図1に示す。
【0036】
<レジオネラ属菌に対するオオバギ抽出物の抗菌活性試験>
(前培養)
以下に示されるレジオネラ属菌の菌株をBCYE(Buffered charcoal yeast extract)培地(L−システイン添加)により、37℃で4日間培養後、得られた菌体をリン酸緩衝液に懸濁させて、菌数が10〜10CFU/mlとなるように調整して接種用菌液とした。
【0037】
菌株:Legionella pneumophila(GIFU9134)
(検体希釈溶液の調製)
99.5V/V%エタノ−ルを用いてオオバギ抽出物の濃度が100000ppmの検体液を調製した後に、99.5V/V%エタノ−ルで順次2倍希釈し、2倍希釈系列溶液を調製した。
【0038】
(感受性測定用平板の調製)
滅菌後、50〜60℃に保温したB−SYEα培地に検体液及び検体希釈系列溶液をそれぞれ1/99量添加(各溶液添加後の濃度:1000、500、250、125、62.5、31.3、15.6ppm)し、十分に混合後、シャ−レに分注、固化させて感受性測定用平板培地を調製した。B−SYEα培地の組成は、デンプン1.5g、酵母エキス1.0g、寒天1.3g、Legionella BCYEα Growth Supplement(OXOID)1バイアル、精製水100mlとした。なお、調製した感受性測定用平板培地はクリーンベンチ内にて乾燥させた。
【0039】
(接種及び培養)
ループ(内径1mm)を用いて感受性測定用平板培地に菌液を画線塗沫した後、それら平板培地を37℃で3日間培養した。
【0040】
(判定及び結果)
レジオネラ属菌の発育が阻止された最小濃度(最小発育阻止濃度、MIC)により、オオバギ抽出物の抗菌活性について判定した。実施例1のオオバギ抽出物の最小発育阻止濃度は、31.3ppmであった。実施例1のオオバギ抽出物には、ニムフェオールA、ニムフェオールB及びニムフェオールCの3成分が50質量%含まれているため、それら3成分の合計が15.6ppm以上の濃度となるように、レジオネラ属菌増殖抑制剤を使用すれば、レジオネラ属菌の発育が阻止されると推測される。
【0041】
(実施例2)
<オオバギ抽出物の調製2>
カットした生葉30gをまず水(95℃)で30分浸漬し、これを濾過した。濾過した後の残った葉に100%エタノールを添加し、3日間浸漬させて溶媒抽出を行った。この抽出液をろ過してオオバギ抽出液を採取した後、そのオオバギ抽出液を凍結乾燥することにより、オオバギ抽出液に含まれる固形分の粉末であるオオバギ抽出物を調製した。
【0042】
このオオバギ抽出物中に含まれるニムフェオールの濃度を、上記のHPLC条件で分析して得られたクロマトグラムから算出した結果、40質量%であった。
この40質量%のサンプルのクロマトグラムを図2に示す。
【0043】
<レジオネラ属菌に対するオオバギ抽出物の抗菌活性試験>
実施例1と同様に抗菌活性試験を実施した結果、実施例2で調製したオオバギ抽出物においても同様の抗菌活性を示した。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例1に係るオオバギ抽出物について高速液体クロマトグラフィーにて分析した結果を示すクロマトグラム。
【図2】実施例2に係るオオバギ抽出物について高速液体クロマトグラフィーにて分析した結果を示すクロマトグラム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも有機溶媒を含む抽出溶媒により抽出されたオオバギ抽出物を有効成分として含有し、レジオネラ属菌の増殖を抑制することを特徴とするレジオネラ属菌増殖抑制剤。
【請求項2】
ニムフェオール−A、ニムフェオール−B及びニムフェオール−Cから選ばれる少なくとも一種を有効成分として含有し、レジオネラ属菌の増殖を抑制することを特徴とするレジオネラ属菌増殖抑制剤。
【請求項3】
前記有効成分は、オオバギ抽出物由来であることを特徴とする請求項2に記載のレジオネラ属菌増殖抑制剤。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のレジオネラ属菌増殖抑制剤を含むことを特徴とする入浴剤。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のレジオネラ属菌増殖抑制剤を含むことを特徴とする洗浄剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−215209(P2009−215209A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59780(P2008−59780)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(308009277)株式会社ポッカコーポレーション (31)
【Fターム(参考)】