説明

レゾルバ及びレゾルバ付き転がり軸受装置

【課題】レゾルバの大型化等やコンピュータによる計算負荷の増大を招くことなく、回転角度の誤差(角度誤差)を低減し、検出精度を高めることができるレゾルバを提供する。
【解決手段】励磁用及び出力用のコイルが設けられた環状のレゾルバステータ12と、回転軸11に取り付けられて前記レゾルバステータ12の径方向内方に配置され、当該レゾルバステータ12の内周面との径方向のギャップが周方向で変化する外周面を有しているレゾルバロータ13と、を備えているレゾルバ10であって、前記レゾルバステータ12の内周面とレゾルバロータ13の外周面との間の最小のギャップをδ1、最大のギャップをδ2としたとき、δ1に対するδ2の比率が、6.0≦(δ2/δ1)≦9.0に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ等に設けられた回転軸の回転角度(回転位置)を検出するために用いられるレゾルバ及びレゾルバ付き転がり軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レゾルバは、回転軸の回転角度(回転位置)を検出するために用いられる角度検出装置の一つであり、レゾルバステータとレゾルバロータとを備えている(例えば、特許文献1,2参照)。レゾルバステータは、円環状に形成されると共に、その内周面に励磁用及び出力用コイルを巻回した複数のティース部が周方向に間隔をあけて設けられている。また、レゾルバロータは、レゾルバステータの径方向内側にギャップ(隙間)をあけた状態で配置され、回転軸に一体回転可能に取り付けられている。レゾルバステータとレゾルバロータとの間のギャップは周方向に所定の周期で変化しており、レゾルバは、そのギャップの変化に伴う出力用コイルの出力変化によって、回転軸の回転角度を検出するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−336714号公報
【特許文献2】特開2009−8536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたレゾルバは、レゾルバロータ及びレゾルバステータがそれぞれ個別の部品とされており、さらに、回転軸を回転自在に支持する転がり軸受もレゾルバステータやレゾルバロータとは個別の部品とされ、これらはモータ等のハウジングや回転軸に対してそれぞれ個別に取り付けられる。そのため、レゾルバ及び転がり軸受を構成する各部品の軸心合わせ等の組み付け精度を高めるのが困難となっていた。各部品の組み付け精度にばらつきがあると、検出された回転角度の誤差(角度誤差)が大きくなり、検出精度の低下を招く。
【0005】
上記のような角度誤差を小さくするため、従来、コイルの数を増加させたり各コイルの巻数を増加させたりすることが行われていた。しかし、この方法では、レゾルバの大型化や高重量化を招き、製造コストが増大する原因となる。
また、特許文献2に記載されたレゾルバは、角度誤差を小さくするために、リアルタイムで取得した補正パラメータを用いて検出データを補正する処理を行っている。このような補正処理を行うことによってある程度角度誤差を小さくすることができるものの、コンピュータによる計算負荷が大きくなるという欠点がある。
【0006】
本発明は、レゾルバの大型化等やコンピュータによる計算負荷の増大を招くことなく、回転角度の誤差(角度誤差)を低減し、検出精度を高めることができるレゾルバ及びレゾルバ付き転がり軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、励磁用及び出力用のコイルが設けられた環状のレゾルバステータと、回転軸に取り付けられて前記レゾルバステータの径方向内方に配置され、当該レゾルバステータの内周面との間の径方向のギャップが周方向に変化する外周面を有しているレゾルバロータと、を備えているレゾルバであって、前記レゾルバステータの内周面と前記レゾルバロータの外周面との間の最小のギャップをδ1、最大のギャップをδ2としたとき、δ1に対するδ2の比率(δ2/δ1)が、6.0≦δ2/δ1≦9.0 に設定されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の発明者は、レゾルバの角度誤差を小さくするためには、レゾルバステータの内周面とレゾルバロータの外周面との最小ギャップδ1に対する最大ギャップδ2の比率を考慮することが有効であることを知見した。すなわち、最小ギャップδ1に対する最大ギャップδ2の比率を大きくすることによって出力信号の振幅を大きくし、角度誤差を小さくすることが可能であることを見出した。従来、最小ギャップδ1に対する最大ギャップδ2の比率は、δ2/δ1=4.0程度であったが、本発明では6.0≦δ2/δ1≦9.0とし、従来よりも当該比率を大きくしている。これにより、レゾルバの大型化や高重量化、計算負荷の増大を招くことなく、効率的に角度誤差を低減することができる。
【0009】
前記最小のギャップδ1は、0.2(mm)≦δ1≦0.8(mm)に設定されていることが好ましい。
従来、レゾルバステータの内周面とレゾルバロータの外周面との間の最小ギャップδ1は、通常1mm以上であったが、本発明では、δ1=0.2mm〜0.8mmとした。このように最小ギャップδ1をより小さくすることによって出力信号をより大きくすることができる。また、最小ギャップδ1をより小さくすることによって、最小ギャップδ1に対する最大ギャップδ2の比率を容易に大きくすることができる。つまり、最小ギャップδ1が大きいと、上記比率を維持するためには最大ギャップδ2をも大きくしなければならないが、この最大ギャップδ2を大きくするためには、レゾルバロータの最小外径を小さくする必要がある。しかし、レゾルバロータの最小外径は、回転軸の外径寸法よりも小さくすることができず、当該外径寸法によって制限されてしまう。したがって、本発明のように最小ギャップδ1を上記のごとく設定することによって、回転軸の外径寸法に制限されることなく最小ギャップδ1に対する最大ギャップδ2の比率を適切に設定することができる。
【0010】
また、レゾルバステータとレゾルバロータとに軸心のズレがあると、上記のように最小ギャップδ1を小さい寸法に設定するのが非常に困難となる。
そこで、本発明においては、上記のレゾルバと、内輪、外輪、及びこれらの間に転動可能に配置された転動体を有しかつ回転軸を回転自在に支持する転がり軸受と、前記レゾルバステータと前記転がり軸受の外輪とが取り付けられるケース部材と、を備え、前記レゾルバステータ及び前記転がり軸受が、前記ケース部材によって1ユニットとして組み立てられているレゾルバ付きの転がり軸受装置を提供する。
このように、レゾルバステータと転がり軸受とが1ユニットとして組み立てられると、これらの軸心合わせを組立段階で精度よく行うことができ、転がり軸受に組み付けられる回転軸や、この回転軸に取り付けられるレゾルバロータと、レゾルバステータとの組み付け精度も高めることができる。
また、レゾルバステータ及び転がり軸受が1ユニットとして組み立てられることによって、レゾルバステータ及び転がり軸受の取り扱いやハウジング及び回転軸に対する組み付け作業も容易に行うことができる。
【0011】
前記ケース部材は、前記レゾルバステータの外周面が嵌合される内周面を有する筒形状の嵌合部と、前記嵌合部とは異なる径の筒形状に形成され、かつその内周面に対して前記転がり軸受の外輪の外周面が嵌合される外輪取付部と、を備えており、
前記外輪取付部と前記嵌合部との間には径方向に沿った円板部が設けられていることが好ましい。
【0012】
このように、嵌合部と外輪取付部との間に円板部を設けることによって、例えば、外輪取付部に外輪を嵌合させることによって生じた外輪取付部の歪み等が嵌合部に及ぶことはほとんど無く、当該嵌合部とレゾルバステータとの嵌合を適切に行うことができる。その結果、レゾルバステータの内周面とレゾルバロータの外周面とのギャップが狂ってしまうのを防止することができる。
【0013】
前記外輪取付部、前記嵌合部、及び前記円板部が、板材の塑性加工によって一体に形成されていることが好ましい。
これによってケース部材を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のレゾルバ及びレゾルバ付き転がり軸受装置によれば、レゾルバの大型化、高重量化やコンピュータによる計算負荷の増大を招くことなく、回転角度の誤差(角度誤差)を低減し、検出精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係るレゾルバを示す側面断面図である。
【図2】レゾルバの一部を示す正面図である。
【図3】レゾルバの一部を示す側面図である。
【図4】ケース部材の斜視図である。
【図5】レゾルバステータ及びレゾルバロータを示す正面図である。
【図6】レゾルバステータの一部を拡大して示す正面図である。
【図7】出力用コイルの出力波形(SIN波)を概略的に示すグラフである。
【図8】出力用コイルの出力波形(COS波)を概略的に示すグラフである。
【図9】実施例及び従来例の角度誤差を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るレゾルバを示す側面断面図である。
本実施形態のレゾルバ10は、例えば、ハイブリッド自動車に使用されるモータジェネレータの回転軸11の回転角度(回転位置)を検出するために用いられるものであり、レゾルバステータ12と、レゾルバロータ13とを備えている。さらに、本実施形態のレゾルバ10は、回転軸11を回転自在に支持するための転がり軸受14とともにレゾルバ付き転がり軸受装置を構成しており、レゾルバステータ12及び転がり軸受14がケース部材15を介して1ユニットとして一体的に組み立てられている。
【0017】
図1に示されるように、転がり軸受14は、内輪軌道18を有する内輪19と、この内輪19の径方向外側に同心状に配置され、外輪軌道20を有する外輪21と、内輪軌道18及び外輪軌道20の間に転動可能に配置された複数の転動体22とを備えている。本実施形態の転がり軸受14は、転動体22としての玉を備えた玉軸受とされている。また、転がり軸受14の外輪21はケース部材15に固定され、内輪19は回転軸11に固定されている。
【0018】
図2は、レゾルバ10の一部(レゾルバロータ13を除く一部)を示す正面図、図3は、レゾルバ10の一部(同上)を示す側面図である。また、図4は、ケース部材15の斜視図である。
図1〜図4に示されるように、ケース部材15は、転がり軸受14の外輪21が取り付けられる外輪取付部24と、レゾルバステータ12が取り付けられる嵌合部25とを備えている。外輪取付部24は、円筒形状に形成されており、その内周面に外輪21の外周面が圧入により嵌合・固定される。また、嵌合部25も円筒形状に形成されており、レゾルバステータ12の外周面が圧入により嵌合・固定される。
【0019】
外輪取付部24は嵌合部25よりも小径に形成されており、外輪取付部24と嵌合部25との間には径方向に沿って配置される円板部27が形成されている。また、外輪取付部24の軸方向一端部(軸方向に関して嵌合部25とは反対側の端部(図1における外輪取付部24の右端部))には、径方向内方へ屈曲する内鍔部28が形成されている。
【0020】
嵌合部25の軸方向他端部(軸方向に関して外輪取付部24とは反対側の端部(図1における嵌合部25の左端部))には、径方向外方へ屈曲する外鍔部29が形成されている。そして、外輪取付部24、嵌合部25、円板部27、内鍔部28、及び外鍔部29は、金属製の板材に対してプレス加工(絞り加工)等の塑性加工を施すことによって一体成形されている。
【0021】
内鍔部28は、外輪取付部24に嵌合された外輪21の軸方向の位置を規制する規制部として機能している。また、外鍔部29は、後述するコネクタ部51(図2参照)の位置を除いて概ね嵌合部25の全周に形成されており、嵌合部25を外周側から補強するリブとしての機能を有している。この外鍔部29によって、嵌合部25に嵌合されるレゾルバステータの圧入荷重を確保することができる。また、外鍔部29が形成されることによって、プレス加工によって成型されるケース部材15の寸法精度、特に嵌合部25の寸法精度を高めることが可能となっている。また、ケース部材15を構成する外輪取付部24、嵌合部25、円板部27、内鍔部28、及び外鍔部29がプレス加工により一体成形されることによって、ケース部材15を容易に製造することができる。
【0022】
外鍔部29には、さらに径方向外側に延びるフランジ部31が周方向に一定の間隔をあけて複数(図示例では3個)形成されている。このフランジ部31には、軸心Oを中心とする円弧状の長孔32が形成されている。
図1に示されるように、ケース部材15は、固定リング34を介してモータジェネレータ等のハウジング35に取り付けられる。固定リング34は、図2に示されるように、周方向に一定の間隔をあけて複数(図示例では3個)のボス部36を有しており、このボス部36には雌ネジ孔37が形成されている。そして、ケース部材15の外鍔部29及びフランジ部31に固定リング34を重ね合わせ、ハウジング35及び長孔32に挿入されたボルト38を雌ネジ孔37に螺合することによって、ケース部材15がハウジング35に取り付けられる。また、長孔32の範囲内でケース部材15の周方向の位置を調整(ゼロ点調整)することができる。
【0023】
図1に示されるように、回転軸11には取付部16が一体に形成されている。取付部16は、回転軸11の外周面の一部を径方向外方に突出させることによって構成されている。この取付部16の軸方向一端部には、内輪19が圧入嵌合される内輪取付部16aが形成されており、取付部16の軸方向中途部には、レゾルバロータ13が固定されている。なお、この取付部16は、回転軸11とは別体の部品として構成されていてもよい。この場合、取付部16を金属材料や合成樹脂材料等によって円筒形状に形成し、回転軸11の外周面に嵌合することによって一体回転可能に設けてもよい。
【0024】
図5は、レゾルバステータ12及びレゾルバロータ13を示す正面図、図6は、レゾルバステータ12の一部を拡大して示す正面図である。レゾルバステータ12は環状に形成されており、ステータコア42と、コイル43と、インシュレータ44とを備えている。ステータコア42は、単層又は複数層の珪素鋼板等の磁性材料から形成されており、円環状の環状部45と、この環状部45の内周面から径方向内方へ向けて突出する複数(図示例では8個)のティース部46とを一体に備えている。複数のティース部46は周方向に一定の間隔をあけて形成されている。また、各ティース部46は、図6に示されるように基部46aと先端部46bとからなり、基部46aは先端部46bよりも周方向の幅が小さく、先端部46bは基部46aから周方向両側へ大きく拡がった形状に形成されている。そして、このティース部46の基部46aに対して励磁用及び出力用のコイル43が巻き付けられる。
【0025】
図5に示されるように、インシュレータ44は、合成樹脂等の絶縁材料によって環状に形成されている。また、インシュレータ44は、図1に示されるように、ステータコア42の軸方向両側の面にそれぞれ配置されている。そして、図6に示されるように、インシュレータ44は、ステータコア42のティース部46を被覆する被覆部48を有しており、当該被覆部48はティース部46をコイル43から絶縁している。
【0026】
インシュレータ44の被覆部48は、径方向に一対の壁部50a,50bを有しており、この一対の壁部50a,50bの間にコイル43が巻き付けられている。ステータコア42の軸方向の一方面に配置されたインシュレータ44には、コイル43を接続させる端子を備えたコネクタ部51が形成されている(図5参照)。また、当該インシュレータ44の軸方向端部には、コイル43を軸方向外側から覆う環状のカバー部材52が取り付けられている(図1〜3参照)。
【0027】
図5に示されるように、レゾルバロータ13は、軸倍角に応じた形状に形成されている。本実施形態では、軸倍角が2Xのレゾルバロータが使用されており、レゾルバロータ13の外周面は、正面視(軸方向視)で略楕円形状に形成され、レゾルバステータ12のティース部46に対してギャップ(隙間)δ1,δ2をあけて対向している。
【0028】
回転軸11が回転すると、レゾルバロータ13も一体的に回転し、レゾルバステータ12の各ティース部46とレゾルバロータ13とのギャップの大きさが変化する。そして、レゾルバステータ12の励磁用のコイル43に交流電流を流しておくと、出力用のコイル43には、そのギャップの大きさの変化に応じた出力電圧が発生する。出力用のコイル43は、SIN波出力用のコイルとCOS波出力用のコイルとからなり、これらは複数のティース部46に対して周方向に交互に設けられる。そして、SIN波出力用のコイルとCOS波出力用のコイルとの出力電圧の振幅変化は90°位相がずれており、この出力電圧を信号処理することによって回転軸11の回転角度を検出することができる。本実施形態では、レゾルバロータ13の軸倍角が2Xとされているので、レゾルバロータ13の1回転で2周期の電圧が出力される。
【0029】
なお、本実施形態では、各ティース部46に巻き付けられる励磁用コイルの巻数が10〜35ターン(より好ましくは25ターン)とされ、出力用コイルの巻数が20〜120ターン(より好ましくは80ターン)とされており、従来公知のレゾルバと比較して巻数が少なくなっている。
【0030】
図5に示されるように、本実施形態(実施例)では、レゾルバロータ13の外周面とレゾルバステータ12のティース部46との間の最も小さいギャップδ1、すなわち、レゾルバロータ13の長径部分とティース部46との間のギャップδ1と、最も大きいギャップδ2、すなわち、レゾルバロータ13の短径部分とティース部46との間のギャップδ2とは、以下の比率(δ2/δ1)に設定されている。
6.0≦δ2/δ1≦9.0
【0031】
また、当該比率(以下、「ギャップ比」ともいう)は、より好ましくは、δ2/δ1=8.0に設定される。
最小ギャップδ1は、0.2mm≦δ1≦0.8mmの範囲、より好ましくは、δ1=0.5mmに設定される。以下、この最小ギャップδ1と最大ギャップδ2の関係について詳細に説明する。
【0032】
従来のレゾルバは、最小キャップδ1と最大ギャップδ2のギャップ比が、δ2/δ1=4.0程度であり、尚かつ最小ギャップδ1は、1.0mm以上とされていた。したがって、本実施形態では、従来と比べて最小ギャップδ1が小さくなり、最小ギャップδ1に対する最大ギャップδ2のギャップ比が大きくなっている。
【0033】
図7及び図8は、出力用コイルの出力電圧の波形(SIN波、COS波)を概略的に示すグラフである。図7及び図8において、実施例においては、従来例よりも出力電圧の最大値が大きくなると共に、出力電圧の振幅が大きくなっていることが分かる。すなわち、最小ギャップδ1を従来よりも小さくすることで出力電圧を大きくすることができ、ギャップ比(δ2/δ1)を従来よりも大きくすることで、出力電圧の振幅を従来よりも大きくすることができる。
【0034】
出力電圧の振幅を大きくすると、S/N比が高くなり、安定した出力を得ることが可能となる。すなわち、出力電圧に一定の誤差(ノイズ)が含まれるとすると、出力電圧の振幅が大きくなるほど当該出力電圧に占める誤差の割合が小さくなるので、S/N比を高くすることができる。
【0035】
また、出力電圧の振幅を大きくすると、回転角度の誤差(角度誤差)を小さくすることが可能となっている。この点について、以下に数式を用いて詳細に説明する。
レゾルバステータ12のティース部46に巻回されている励磁用コイルに励磁電圧VEXを印加した場合に、SIN波出力用のコイルとCOS波出力用のコイルとにそれぞれ電圧V1,V2が誘起されるとすると、この電圧V1,V2はそれぞれ次の式(1)及び(2)で表すことができる。
【0036】
【数1】

【0037】
【数2】

【0038】
ここで、θは、レゾルバロータ13の回転角度(回転位置)、Kは、出力用コイルの変圧比を表す。
また、回転角度θは、式(1)及び(2)に基づいて、式(3)のように表すことができる。
【0039】
【数3】

【0040】
ここで、tan−1の主値は−90°〜+90°とし、VEXとV1とが同じ符号のときに、θ=0°となり、VEXとV1とが異符号のとき、θ=180°となる。
レゾルバ10の構成要素に何らかのバラツキがあると、回転角度θは誤差を含むおそれがある。例えば、レゾルバ10に偏心が生じた場合、すなわちレゾルバステータ12とレゾルバロータ13との軸心にズレが生じると、SIN波出力用のコイルとCOS波出力用のコイルの変圧比Kに振れが生じ、よって、V1/V2はtanθと一致しなくなる。また、検出回路の電気的特性のバラツキや、回路を構成する素子にバラツキがあると、V1,V2に直流分が加わり、オフセットが生じる。
【0041】
変圧比Kに基づく誤差をβとし、電圧V1,V2に基づく誤差をα,αとすると、レゾルバ10から検出される誤差を含む回転角度θeは、式(4)のようにモデル化することができる。ここで、θは、誤差を含まない真の回転角度を示す。
【0042】
【数4】

【0043】
前述の通り、本実施形態(実施例)では、レゾルバステータ12とレゾルバロータ13とのギャップに関して、最小ギャップδ1を従来よりも小さくするとともに、最小ギャップδ1に対する最大ギャップδ2の比率(ギャップ比)を従来よりも大きくすることによって、出力電圧の振幅を従来よりも大きくしている。ここで、実施例の出力電圧の振幅と従来例の出力電圧の振幅との比率をCとしたとき(C=(実施例の出力電圧の振幅)/(従来の出力電圧の振幅)>1)、式(4)で表される従来例に対して、実施例では、誤差を含む回転角度θeが次の式(5)のように表される。
【0044】
【数5】

【0045】
式(4)と式(5)とを比較すると、従来例では、出力電圧V1,V2についての誤差がα1,αであったのに対して、実施例では、同誤差が(α/C),(α/C)となっている。C>1であることから、α>(α/C)、α>(α/C)となり、従来例に比べて実施例の方が回転角度θeに含まれる誤差(角度誤差)が小さくなることが解る。
【0046】
上記実施形態においては、レゾルバステータ12及び転がり軸受14がケース部材15によって一体化(1ユニット化)されているので、レゾルバステータ12と転がり軸受14との軸心合わせを正確に行うことができ、この転がり軸受14に組み付けられる回転軸11やこの回転軸11に取り付けられるレゾルバロータ13と、レゾルバステータ12との組み付け精度も高めることができる。そのため、レゾルバステータ12のティース部46と、レゾルバロータ13の外周面とのギャップδ1,δ2を正確に設定することができ、特に、最小ギャップδ1をより小さい値にすることが可能となる。このように最小ギャップδ1をより小さい値にすることができると、最大ギャップδ2の値をそれほど大きくしなくても、最小ギャップδ1に対する最大ギャップδ2の比率を大きくすることが可能となる。
【0047】
例えば、最小ギャップδ1と最大ギャップδ2との比率を、δ2/δ1=8.0に設定する場合について考える。従来例のように最小ギャップδ1が1.0mmであると、上記比率を満たすためには最大ギャップδ2を8.0mmに設定しなければならず、レゾルバロータ13の短径を非常に小さくする必要がある。レゾルバロータ13の短径は、回転軸11の外径よりも小さくすることはできないため、回転軸11の外径が大きい場合には、上記比率を実現することができなくなる可能性が高い。
これに対して、本実施形態のように最小ギャップδ1を0.5mmとした場合には、最大ギャップδ2を4.0mmとすればよく、従来例よりも4.0mmほどδ2の値を小さくすることができる。そのため、回転軸11の外径による制限を受け難くすることができる。
【0048】
また、本実施形態では、ギャップ比を6.0≦(δ2/δ1)≦9.0に設定している。ギャップ比が、(δ2/δ1)>9.0である場合には、上述のようにレゾルバロータ13の短径を著しく小さくしなければならず、回転軸11の外径との関係から実現が困難である。
他方、ギャップ比が、(δ2/δ1)<6.0である場合には、前述の数式(5)で示したように振幅比Cをそれほど大きくとれなくなるため、角度誤差もそれほど小さくすることができない。
【0049】
図9には、ギャップ比を(δ2/δ1)=4.0(但し、δ1=0.5、δ2=2.0)とした比較例と、(δ2/δ1)=6.0(但し、δ1=0.5、δ2=3.0)とした実施例とにおける角度誤差をそれぞれグラフで示している。比較例の場合、回転角度θ=0°〜360°の全体において、小さい回転角度毎に周期的に角度誤差が大きく突出して変化しており、その誤差範囲は、−0.64°〜0.75°となっている。これは、ギャップ比が小さいことによって、レゾルバステータ12のティース部46間の隙間において角度誤差が著しく増大してしまっているものと考えられる。これに対して、実施例の場合、比較例よりも大きな回転角度毎の周期で角度誤差がなだらかに変化しており、その誤差範囲は、−0.20°〜0.55°となっている。したがって、ギャップ比を(δ2/δ1)=6.0((δ2/δ1)≧6.0)とすることによって、比較例に比べて角度誤差の最大値(絶対値)を小さくすることができるとともに、その誤差範囲も小さくすることができる。なお、より適切なギャップ比の範囲は、6.0≦(δ2/δ1)≦8.0である。
【0050】
本実施形態のレゾルバ10は、レゾルバステータ12及び転がり軸受14がケース部材15によって一体化されているので、これらが別体として構成されている場合に比べて、レゾルバ10及び転がり軸受14の取り扱いや、ハウジング35や回転軸11に対する組付けを容易に行うことができる。
【0051】
ケース部材15は、嵌合部25と外輪取付部24との間に円板部27を備えているので、嵌合部25に対するレゾルバステータ12の嵌合と、外輪取付部24に対する外輪21の嵌合とが相互に影響を及ぼすことがない。例えば、外輪取付部24に外輪21を嵌合させることによって外輪取付部24に歪等が生じたとしても、その影響が嵌合部25に及ぶことはほとんどなく、レゾルバステータ12のティース部46とレゾルバロータ13とのギャップが狂ってしまうこともない。
【0052】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において適宜変更することができる。
例えば、レゾルバステータ12のティース部46の数、形状やレゾルバロータ13の形状等は、上記実施形態に限定されるものではなく、従来公知の構成を適宜採用することができる。レゾルバロータ13は、軸倍角が3X,4X等であってもよい。
【0053】
上記実施形態において、ケース部材15の外輪取付部24は、その内周面に外輪21の外周面を嵌合させることによって外輪21を取り付けていたが、その外周面を外輪21の内周面に嵌合させることによって外輪21を取り付けてもよい。また、外輪取付部24は、嵌合によって外輪21を取り付けるに限らず、溶接や接着によって取り付けてもよいし、内鍔部28のみを溶接や接着によって取り付けてもよい。
【符号の説明】
【0054】
10:レゾルバ、11:回転軸、12:レゾルバステータ、13:レゾルバロータ、14:転がり軸受、15:ケース部材、19:内輪、21:外輪、22:転動体、24:外輪取付部、25:嵌合部、27:円板部、δ1:最小ギャップ、δ2:最大ギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励磁用及び出力用のコイルが設けられた環状のレゾルバステータと、
回転軸に取り付けられて前記レゾルバステータの径方向内方に配置され、当該レゾルバステータの内周面との間の径方向のギャップが周方向に変化する外周面を有しているレゾルバロータと、を備えているレゾルバであって、
前記レゾルバステータの内周面と前記レゾルバロータの外周面との間の最小のギャップをδ1、最大のギャップをδ2としたとき、δ1に対するδ2の比率(δ2/δ1)が、
6.0≦δ2/δ1≦9.0
に設定されていることを特徴とするレゾルバ。
【請求項2】
前記最小のギャップδ1が、0.2(mm)≦δ1≦0.8(mm)に設定されている請求項1に記載のレゾルバ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のレゾルバと、
内輪、外輪、及びこれらの間に転動可能に配置された転動体を有しかつ前記回転軸を回転自在に支持する転がり軸受と、
前記レゾルバステータと前記転がり軸受の外輪とが取り付けられるケース部材と、を備え、
前記レゾルバステータ及び前記転がり軸受が、前記ケース部材によって1ユニットとして組み立てられているレゾルバ付き転がり軸受装置。
【請求項4】
前記ケース部材は、前記レゾルバステータの外周面が嵌合される内周面を有する筒形状の嵌合部と、前記嵌合部とは異なる径の筒形状に形成され、かつその内周面に対して前記転がり軸受の外輪の外周面が嵌合される外輪取付部と、を備えており、
前記外輪取付部と前記嵌合部との間には径方向に沿った円板部が設けられている請求項3に記載のレゾルバ付き転がり軸受装置。
【請求項5】
前記外輪取付部、前記嵌合部、及び前記円板部が、板材の塑性加工によって一体に形成されている請求項4に記載のレゾルバ付き転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−61171(P2013−61171A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198305(P2011−198305)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】