説明

レンズ塗布装置およびレンズ塗布方法

【課題】被塗布体であるレンズの吸着保持力を制御して、レンズに悪影響を及ぼすことなく、かつ高効率で塗膜を形成することができるレンズ塗布装置およびレンズ塗布方法を提供すること。
【解決手段】レンズLの一方の面を吸着保持部材17で保持し、移動機構で吸着保持部材17を移動させながら、それぞれ独立に設けられた収容部内で、それぞれ塗布処理、乾燥処理、硬化処理を順次行うに当たり、吸着保持部材17が位置する収容部に応じて、制御部22により吸着保持部材17におけるレンズLへの吸着力を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックメガネレンズ等のレンズに塗布液を塗布して塗膜を形成するレンズ塗布装置およびレンズ塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック製のメガネレンズ等においては、耐傷性を確保したり、種々の機能を持たせるために、表面または裏面に種々の樹脂コーティングが形成される。このような樹脂コーティングを形成する方法として、特許文献1には、基材に樹脂製の塗布液をスピンコートし、乾燥するものが開示されている。
【0003】
特許文献1に開示された技術においては、塗布液を塗布する際に、把持・回転部材によりレンズの端面を把持した状態で回転させて塗布処理を行い、塗膜を形成した後、把持・回転部材からレンズを取り外して硬化処理を行う。
【0004】
しかしながら、この技術においては、安定的に把持可能な把持力を加えると、塗布中などにレンズの変形が起こりやすく、均一な膜ができない可能性がある。また、塗布処理の後、把持・回転部材からレンズを取り外す必要があり、作業が繁雑である。
【0005】
また、特許文献2には、被塗布体として円盤状基板を保持して樹脂製の塗布液をスピンコートした後、熱風を吹き付け、紫外線を照射する技術が開示されている。
【0006】
しかしながら、この技術では、光ディスクのように中心部分に穴が穿いている被塗布体を対象としており、その穴を利用して被塗布体を保持するものであって、レンズの保持には適用することができない。また、塗布液ノズル、乾燥手段、回転手段、硬化処理手段等が一つの部屋に存在しており、塗布液の散乱等でノズルが詰まる可能性や、乾燥手段、硬化処理手段に塗布液が付着して均一な塗膜を形成することができない可能性がある。
【0007】
一方、非特許文献1には、塗布膜形成手段、乾燥手段、硬化処理手段がそれぞれ別々の収容部に収容され、レンズを吸着保持して各部屋に順次搬送してレンズの洗浄、塗布液の塗布、硬化を連続的に行う装置が開示されている。
【0008】
しかしながら、この装置においては、レンズの吸着保持力については何ら示されておらず、レンズの変形等の不都合が生じる可能性を否定することはできない。また、この文献では乾燥処理を独立に行うことは開示されておらず、乾燥処理を塗布処理手段と同じ容器内で行わざるを得ないが、その場合には、乾燥による異物がレンズに付着したり、温度変化により膜厚の不均一が発生する。
【特許文献1】特開2003−290704号公報
【特許文献2】特開平5−317797号公報
【非特許文献1】ホームページ、http://www.ultraoptics.com
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、被塗布体であるレンズの吸着保持力を制御して、レンズに悪影響を及ぼすことなく、かつ高効率で塗膜を形成することができるレンズ塗布装置およびレンズ塗布方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、レンズの裏面または表面を吸着保持する吸着保持部材と、レンズに塗布液を供給して塗膜を形成する塗膜形成手段と、該塗膜を乾燥させる乾燥処理手段と、該塗膜に対して硬化処理を施す硬化処理手段と、それぞれ独立に設けられ、それぞれ前記塗膜形成手段、前記乾燥処理手段、前記硬化処理手段による処理を行うためにレンズを収容する少なくとも3つの収容部と、前記それぞれの収容部に、前記吸着保持部材に保持されたレンズが収容されるように、前記吸着保持部材を移動させる移動手段と、前記吸着保持部材が位置する収容部に応じて、前記吸着保持部材におけるレンズへの吸着力を制御する制御手段とを具備することを特徴とするレンズ塗布装置を提供する。
【0011】
上記レンズ塗布装置において、前記塗膜形成手段は、前記吸着保持部材がレンズを吸着しているレンズ面とは異なる他方のレンズ面に塗布液を吐出する吐出手段と、前記吐出手段から吐出された塗布液によりレンズ面に塗膜を形成するために、前記吸着保持部材を自転させる自転機構とを有するものとすることができる。
【0012】
前記吐出手段は、塗布液を吐出するノズルを有し、該ノズルは塗膜を形成するレンズ面よりも下方に位置し、前記吸着保持部材はレンズの被塗布面を下方に向けて吸着保持し、前記ノズルから塗布液を上方に向けて吐出することにより塗膜を形成するように構成することができる。この場合に、前記塗膜形成手段は、前記自転機構により前記吸着保持部材に吸着保持されたレンズを回転させつつ前記ノズルから塗布液を一定量供給して塗膜を形成するようにすることが好ましい。
【0013】
前記乾燥処理手段を収容する収容部として、筒体状をなしているものを用いることができる。また、前記乾燥処理手段は、前記収容部の底面から上方に向かうように設けられた乾燥ノズルと、乾燥ノズルに接続された乾燥ガス供給ラインを有するものを用いることができる。
【0014】
また、前記硬化処理手段は、紫外線照射部を有し、前記塗膜は、該紫外線照射部から紫外線を照射することにより硬化されるようにすることができる。
【0015】
さらに、前記塗膜形成に先立ってレンズ面を洗浄する洗浄手段と、前記洗浄手段による処理を行うためにレンズを収容する収容部とをさらに具備する構成としてもよい。この場合に、レンズ面に少なくとも第1層および第2層の塗膜を塗布し、前記第1層を塗布する際には、前記洗浄手段、前記塗膜形成手段、前記乾燥処理手段、前記硬化処理手段により順次処理を行い、その後前記第2層の塗膜を塗布する際には前記塗膜形成手段、前記乾燥処理手段、前記硬化処理手段により順次処理を行うように構成してもよい。
【0016】
前記収容部は、環状に配列されていることが好ましい。また、前記吸着保持部材は、前記収容部の個数と同数かそれよりも多く設けられ、前記移動手段は、回転軸を有する回転機構と、前記回転軸から放射状に延び、前記吸着保持部材をそれぞれ保持する複数のアームとを有するものとすることができる。前記移動手段は、前記保持部材を、前記収容部の上方の移動可能位置と、前記収容部内に収容された収容位置との間で移動させる昇降機構をさらに有するものとすることができる。
【0017】
本発明の第2の観点では、レンズに塗布液を供給して塗膜を形成する工程と、該塗膜を乾燥させる工程と、該塗膜に対して硬化処理を施す工程とをレンズを吸着保持部材で吸着保持しながら実施し、レンズ面に塗膜を形成するレンズ塗布方法であって、前記各工程に応じて、前記吸着保持部材によるレンズへの吸着力を調整することを特徴とするレンズ塗布方法を提供する。
【0018】
前記レンズ塗布方法において、前記塗膜を形成する工程における前記吸着保持部材によるレンズへの吸着力を、前記硬化処理を施す工程における吸着力よりも高く調整することが好ましい。
【0019】
また、前記塗膜を形成する工程に先立って、レンズ面を洗浄する工程をさらに有してもよい。この場合に、前記洗浄する工程および前記塗膜を形成する工程における前記吸着保持部材によるレンズへの吸着力を、前記硬化処理を施す工程における吸着力よりも高く調整することが好ましい。
【0020】
さらに、前記塗膜を形成する工程は、レンズを自転させながら、レンズに塗布液をその下方から一定量供給することにより行われるようにすることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、レンズに塗布液を供給して塗膜を形成する塗膜形成手段と、該塗膜を乾燥させる乾燥処理手段と、該塗膜に対して硬化処理を施す硬化処理手段とをそれぞれ独立した収容部に収容し、吸着保持手段でレンズを吸着保持しつつ移動手段によりそれぞれの収容部に移動させてこれら処理を順次実施するに際し、吸着保持部材が位置する収容部に応じて、前記吸着保持部材におけるレンズへの吸着力を制御するので、吸着保持力が強すぎてレンズが変形したり異物が混入する等のレンズに対する悪影響を回避しつつ、高効率で塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
ここでは、レンズとしてプラスチックメガネレンズを用いた場合について説明する。図1は本発明の一実施形態に係るレンズ塗布装置を示す図であり、(a)が正面図、(b)が側面図である。また、図2はその平面図である。この塗布装置1は、被塗布体であるメガネレンズを搬入・搬出しかつ搬送する搬入出・搬送部2と、その下方に設けられ、後述する一連の処理が行われる処理部3と、搬入出・搬送部2の上方に設けられ、搬入出・搬送部2および処理部3に清浄な空気を取り込むためのフィルタユニット4とを有している。搬入出・搬送部2の内部にはメガネレンズを吸着保持して搬送する搬送機構10が設けられており、搬入出・搬送部2の前面側には、被塗布体であるメガネレンズを搬入・搬出するための開口部5が形成されている。また、処理部3にはメンテナンス用の扉6が設けられている。さらに、処理部3の上部前面側には、塗布装置1を操作するための操作パネル7が設けられている。
【0023】
処理部3は、図2に示すように、メガネレンズの洗浄を行う洗浄処理ユニット30と、メガネレンズに塗布液を塗布して塗膜を形成する塗布処理ユニット40と、塗布した塗布液の溶剤を揮発させて乾燥する乾燥処理ユニット50と、塗膜を硬化させる硬化処理ユニット60とを有している。これら処理ユニット30,40,50,60は、それぞれ独立した収容部31,41,51,61を有しており、これら収容部31,41,51,61が環状に配列されている。また、これら処理ユニット30,40,50,60は、収容部31,41,51,61内でメガネレンズに対してそれぞれ洗浄処理、塗布膜形成、乾燥処理、硬化処理が行われるように、各収容部に対応して洗浄処理機構、塗布膜形成機構、乾燥処理機構、硬化処理機構が設けられている。収容部31,41,51,61の上部には、メガネレンズが挿入可能なように開口部32,42,52,62が設けられており、これら収容部内で洗浄処理機構、塗布膜形成機構、乾燥処理機構、硬化処理機構により所定の処理が行われるようになっている。これら開口部32,42,52,62は、搬入出・搬送部2と処理部3の間の仕切り板3aに形成されている。
【0024】
搬送機構10は、図3に示すように、メガネレンズLを吸着保持する4つの吸着保持部11(図3では2つのみ図示)と、これら吸着保持部11を回動させて移動させる移動機構12とを有している。移動機構12は、鉛直に配置された回転軸13を有する回転機構であるモータ14と、回転軸13の上部から水平にかつ十字に延び、その先端部に吸着保持部11が設けられた4本のアーム15(図3では2本のみ図示)と、回転軸13を昇降させて吸着保持部11に保持されたメガネレンズLを処理部3の上方の搬送位置と各収容部内の処理位置との間で昇降させる例えばシリンダ機構からなる昇降機構16とを有している。吸着保持部11は、図4にも示すように、下端のレンズLを吸着口17aにおいて吸着保持する吸着保持部材17と、吸着保持部材17を回転させてメガネレンズLを自転させる自転機構18とを有している。吸着保持部材17は真空吸着によりメガネレンズLを吸着するものであり、図4に示すように、吸着口17aにつながる排気路17bを有しており、排気路17bには排気ライン19が接続されている。排気ライン19には真空排気するための真空ポンプ20と真空排気量を制御するための制御バルブ21が設けられている。そして、制御バルブ21は制御部22により制御されるようになっている。この制御部22は吸着保持部材17が位置する収容部に応じて制御バルブ21の開度を制御してメガネレンズLへの吸着力を制御するようになっている。すなわち、制御部22は各吸着保持部材17が所定の収容部に達した時点で信号を受け取り、その信号に基づいてメガネレンズLへの吸着力を制御する。具体的には、硬化処理においては、吸着力が大きすぎるとレンズ基材が変形し、均一な膜が形成できにくくなるため、極力吸着力を小さくする必要があるのに対し、洗浄処理および塗布処理ではメガネレンズLを回転させることからある程度の吸着力が必要となる。このため、洗浄処理および塗布処理の際の吸着保持部材17によるメガネレンズLへの吸着力が、硬化処理の際の吸着力よりも大きくなるように制御することが好ましい。乾燥処理も硬化処理ほどではないがメガネレンズLの変形による悪影響が懸念されるため、その吸着力が洗浄処理および塗布処理の際の吸着保持部材17によるメガネレンズLへの吸着力よりも小さくなるように制御されることが好ましい。なお、制御部22は、後述するように、レンズ塗布装置の他の構成部も制御するようになっている。
【0025】
次に、各ユニットについて説明する。
洗浄処理ユニット30は、図5に示すように、仕切り板3aに設けられた開口部32から下方に向かって延びる筒状をなす収容部31と、収容部31に設けられた洗浄処理機構33とを有している。洗浄処理機構33は、収容部31の下方から上方に向けて洗浄液としての純水および乾燥媒体としての空気を噴射する洗浄ノズル34を有し、洗浄ノズル34には、純水を供給する純水供給ライン35と空気を供給する空気供給ライン36が切替バルブ37を介して接続されており、開口部32から挿入されたメガネレンズLの下面に洗浄ノズル34から純水を供給して洗浄し、洗浄後、空気を供給して乾燥するようになっている。収容部31の底部には排液口38が設けられている。なお、洗浄ノズル34としては、純水や空気がメガネレンズLの全面に供給可能なように、フルコーンスプレーノズルが用いられている。
【0026】
塗布処理ユニット40は、図6に示すように、仕切り板3aに設けられた開口部42から下方に向かって延びる収容部41と、収容部41に設けられた塗布膜形成機構43とを有している。塗布膜形成機構43は、収容部41の下方から上方に向けて塗布液を塗出する塗布液吐出ノズル44を有し、塗布液吐出ノズル44には、塗布液供給ライン45が接続されており、この塗布液供給ライン45には、レンズLに対して塗布液を定量吐出可能なポンプ46が設けられている。そして、開口部42から挿入されたメガネレンズLを自転機構18により自転させた状態で、メガネレンズLの下面に塗布液吐出ノズル44から所定量の塗布液を供給するようになっており、これにより、塗布液を制御性良く塗布してメガネレンズLに所望の塗膜を形成することができる。収容部41の底部には排気口47が設けられている。
【0027】
乾燥処理ユニット50は、図7に示すように、仕切り板3aに設けられた開口部52から下方に向かって延びる筒状をなす収容部51と、収容部51に設けられた乾燥処理機構53とを有している。乾燥処理機構53は、収容部51の下方から上方に向けて乾燥媒体としての温風を噴射する乾燥ノズル54を有し、乾燥ノズル54には、空気供給ライン55が接続されており、開口部51から挿入されたメガネレンズLを自転機構18により自転させた状態でメガネレンズLの下面にこの空気供給ライン55を介して乾燥ノズル54から空気を吹き付けることにより塗布液の溶剤を揮発させて塗膜を乾燥させる。収容部51の底部には排気口56が設けられている。
【0028】
硬化処理ユニット60は、図8に示すように、仕切り板3aに設けられた開口部62から下方に向かって延びる収容部61と、収容部61に収容されたメガネレンズLに対して硬化処理を行う硬化処理機構63とを有している。硬化処理機構63は、収容部61の下側に設けられ、収容部61内に紫外線を照射する紫外線照射装置70と、収容部61と紫外線照射装置70との間に取り外し可能に設けられた石英ガラス等からなる熱線カットフィルタ64とを有している。紫外線照射装置70は、筐体71と、筐体71内に設けられ、上方の収容部61に向けて紫外線を放射する紫外線ランプ72と、紫外線ランプ72からの紫外線を収容部61に向けて反射させ、かつシャッタとしても機能する反射板73と、シャッタモニタ74とを有している。そして、開口部62から挿入されたメガネレンズLの下面に、紫外線ランプ72から放射された紫外線を照射することにより、塗膜が硬化される。
【0029】
図9の側断面図に示すように、反射板73は、半円筒状をなし、紫外線ランプ72の下方に位置することにより紫外線ランプ72から放射された紫外線を収容部61に向けて反射し、図示しないアクチュエータにより上方に回動することにより、シャッタとして機能する。
【0030】
なお、熱線カットフィルタ64は設けることが好ましいが、必須なものではない。ただし、収容部61と紫外線ランプ72との間に何もない状態では紫外線ランプ72の上にメガネレンズLが落下して紫外線ランプ72が破損するおそれがあるため、熱線カットフィルタを設けない場合でも落下防止用ネット等、何らかの部材を設けることが好ましい。
【0031】
本実施形態のメガネレンズ塗布装置1は、図10に示すように、上述した制御部22によって制御されるようになっている。具体的には、制御部22は、搬送機構10における前記吸着保持部材17の吸着力の制御の他、搬送機構10の前記吸着保持部材17以外の他の構成部の制御、ならびに、洗浄処理ユニット30、塗布処理ユニット40、乾燥処理ユニット50、および硬化処理ユニット60の全ての構成部の制御を行う。
【0032】
次に、このように構成される塗布装置1によりメガネレンズLに塗膜を形成する際の動作について説明する。
【0033】
まず、搬送機構10の吸着保持部11を昇降機構16により上昇させた状態とし、そのうちの一つを洗浄処理部30の直上に位置させた状態で、オペレータが開口部5からメガネレンズLを搬入出・搬送部2に挿入し、その凸面を吸着保持部材17の下端に設けられた吸着口17aに吸着保持させる。そして、この吸着保持部材17を昇降機構16により下降させてレンズLを洗浄処理ユニット30の収容部31内に挿入して、洗浄処理機構33の洗浄ノズル34から純水を供給して洗浄し、洗浄後、自転機構18によりメガネレンズLを回転させて純水を振り切った後、空気を供給して乾燥する。
【0034】
次いで、搬送機構10の吸着保持部11を昇降機構16により上昇させた状態とし、吸着保持部11をモータ14によりアーム15を介して回動させて、洗浄処理が終了したメガネレンズLを保持した吸着保持部材17を塗布処理ユニット40の直上に位置させる。このとき、次の吸着保持部材17は洗浄処理ユニット30の直上に位置され、その状態でオペレータが開口部5からメガネレンズLを搬入出・搬送部2に挿入し、その凸面を当該吸着保持部材17の下端に設けられた吸着口17aに吸着保持させる。その後、昇降機構16により吸着保持部材17を下降させると最初のメガネレンズLは塗布処理ユニット40の収容部41に挿入され、次のメガネレンズLは洗浄処理ユニット30の収容部31に挿入されて、それぞれ塗布膜形成機構43および洗浄処理機構33により、塗布処理および洗浄処理が行われる。
【0035】
塗布処理ユニット40の収容部41に挿入された最初のメガネレンズLは自転機構18により自転され、その状態でその下方に位置する塗布液吐出ノズル44から所定量の塗布液を定量吐出することにより塗膜を形成する。この場合に、メガネレンズLは上面が吸着されかつ上に凸に配置されているためメガネレンズLからの塗布液のダレ等が生じない。このため、膜厚の調整等の制御性を良好にして塗膜を形成することができる。
【0036】
制御性よく塗膜を形成する観点から、塗布液の粘度は、1〜100mPa・sであることが好ましい。粘度調整は、塗布液の種類、または塗布液の固形分と溶剤との割合を調整することにより制御することができる。塗布液中の固形分の割合は、10〜100%程度が好ましい。
【0037】
塗布液を構成する樹脂としては、紫外線により硬化されるものであればよく、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等を挙げることができる。また、溶剤としては、エステル系、エーテル系、ケトン系、アルコール系、芳香族炭化水素系、グリコールエーテル系等を挙げることができる。その他に、酸化防止剤、重合禁止剤、レベリング剤、保湿剤、粘度調整剤、防腐剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤等の調整成分を含んでいてもよい。
【0038】
また、塗布液を塗布する際のメガネレンズLの回転速度は、500〜5000rpmであることが好ましい。より好ましくは700〜3000rpmである。
【0039】
このようにして、塗膜が形成されるが、この際の膜厚は、メガネレンズLに直接塗布液、例えばハードコート液を塗布する際には、0.01〜30μm程度が好ましい。また、多層の塗膜を形成してもよく、例えばプライマーを塗布した後にハードコートを塗布してもよい。この場合には、プライマーの膜厚が1〜10μm程度、その上のハードコートの膜厚が1〜10μm程度が好ましい。
【0040】
このような塗布処理が終了後、搬送機構10の吸着保持部11を昇降機構16により上昇させた状態とし、吸着保持部11をモータ14およびアーム15を介して回動させて、塗布処理が終了したメガネレンズLを保持した吸着保持部材17を乾燥処理ユニット50の直上に位置させる。このとき、次の吸着保持部材17は塗布処理ユニット40の直上に位置され、さらに次の吸着保持部材17は洗浄処理ユニット30の直上に位置され、その状態でオペレータが開口部5からメガネレンズLを搬入出・搬送部2に挿入し、その凸面を当該吸着保持部材17の下端に設けられた吸着口17aに吸着保持させる。その後、昇降機構16により吸着保持部材17を下降させると最初のメガネレンズLは乾燥処理ユニット50の収容部51に挿入され、次のメガネレンズLは塗布処理ユニット40の収容部41に挿入され、さらに次のメガネレンズLは洗浄処理ユニット30の収容部31に挿入されて、それぞれ乾燥処理、塗布処理および洗浄処理が行われる。
【0041】
乾燥処理ユニット50においては、その収容部51に最初のメガネレンズLが挿入され、その下方に位置する乾燥ノズル54からメガネレンズLに温風(空気)を噴射し、塗布液中の溶剤を揮発させ、塗膜を乾燥させる。この場合に、溶剤を揮発させるだけであるから乾燥時間は10秒〜1分程度の短時間でよい。
【0042】
このような乾燥処理が終了後、搬送機構10の吸着保持部11を昇降機構16により上昇させた状態とし、吸着保持部11をモータ14およびアーム15を介して回動させて、乾燥処理が終了したメガネレンズLを保持した吸着保持部材17を硬化処理ユニット60の直上に位置させる。このとき、次の吸着保持部材17は乾燥処理ユニット50の直上に位置され、さらに次の吸着保持部材17は塗布処理ユニット40の直上に位置され、さらにまた次の吸着部材17は洗浄処理ユニット30の直上に位置され、その状態でオペレータが開口部5からメガネレンズLを搬入出・搬送部2に挿入し、その凸面を当該吸着保持部材17の下端に設けられた吸着口17aに吸着保持させる。この状態で、昇降機構16により吸着保持部材17を下降させると最初のメガネレンズLは硬化処理ユニット60の収容部61に挿入され、次のメガネレンズLは乾燥処理ユニット50の収容部51に挿入され、さらに次のメガネレンズLは塗布処理ユニット40の収容部41に挿入され、さらにまた次のメガネレンズLは洗浄処理ユニット30の収容部31に挿入されて、それぞれ硬化処理、乾燥処理、塗布処理および洗浄処理が行われる。
【0043】
硬化処理ユニット60の収容部61に挿入された最初のメガネレンズLは、紫外線照射装置70の紫外線ランプ72から紫外線が照射され、塗膜が硬化される。紫外線による硬化は、熱による硬化に比べて硬化速度が大きいので短時間で硬化処理を行うことができる。例えば1〜10sec程度で十分である。
【0044】
このような硬化処理が終了後、搬送機構10の吸着保持部11を昇降機構16により上昇させ、オペレータが硬化処理ユニット60における処理が終了したメガネレンズLを吸着保持部材17から取り外し、開口部5から搬出する。これにより最初のメガネレンズLは一連の処理が終了する。そして、モータ14によりアーム15を介して吸着保持部11を回動させて、メガネレンズLが取り外された吸着保持部材17を洗浄処理ユニット30の直上に位置させ、オペレータが開口部5からメガネレンズLを搬入出・搬送部2に挿入し、その凸面を吸着保持部材17の下端に設けられた吸着口17aに吸着保持させ、同様の処理を繰り返す。
【0045】
このように、洗浄処理ユニット30、塗布処理ユニット40、乾燥処理ユニット50、硬化処理ユニット60に対して被塗布体であるメガネレンズLを連続的に搬送して処理を行い塗膜を形成するので、極めて効率良く塗膜を形成することができる。また、それぞれの処理を独立した収容部で行うため、塗膜への異物混入のおそれを小さくすることができる。また、紫外線硬化処理は短時間で硬化することができ、それに先だって行う乾燥処理も溶剤を揮発させるだけの短時間処理でよいので、短時間で塗布膜を形成することができる。さらに、洗浄処理ユニット30により塗布処理に先立って洗浄処理を行うので歩留まり良く塗布処理を行うことができる。
【0046】
ところで、このように洗浄処理、塗布処理、乾燥処理、硬化処理の一連の処理を連続で行う場合には、各処理によって必要な吸着力および許容される吸着力が異なっているため、吸着保持部材17が位置する収容部(すなわち処理ユニット)に応じて制御部22により吸着保持部材17におけるメガネレンズLへの吸着力を制御する。これにより、各処理に応じて最適な吸着力でメガネレンズLの塗布処理を行うことができ、メガネレンズLの落下等の事故や塗膜の不均一等の不都合を防止することができる。
【0047】
具体的には、洗浄処理や塗布処理は、メガネレンズLを比較的高速で回転させるため、メガネレンズLの落下等の危険性が大きく、一方吸着力が高いことによるメガネレンズの変形等による悪影響が小さいため、比較的大きな吸着力で吸着する。例えば、真空吸引力を0.5〜0.9気圧程度にして吸着する。これに対して、硬化処理においては、吸着力が大きすぎるとレンズ基材が変形し、均一な膜が形成できにくくなるため、極力吸着力を小さくする必要がある。このため、硬化処理の際には、洗浄処理や塗布処理の際よりも小さい吸着力でメガネレンズLを吸着する。例えば、真空吸引力を0.1〜0.7気圧程度にして吸着する。また、乾燥処理も硬化処理ほどではないがメガネレンズLの変形による悪影響が懸念されるため、その吸着力が洗浄処理および塗布処理の際の吸着保持部材17によるメガネレンズLへの吸着力よりも小さくなるように制御されることが好ましい。
【0048】
以上のように、メガネレンズLの吸着力を制御することにより、高い歩留まりで膜質の良好な塗膜を成膜することが可能となる。
【0049】
なお、上述のように、メガネレンズLにプライマーを塗布した後にハードコートを塗布する場合のように多層の塗膜を形成する場合には、洗浄処理は最初の塗膜を形成する前のみに行えばいので、メガネレンズLに第1層を塗布する際には、洗浄処理ユニット30、塗布処理ユニット40、乾燥処理ユニット50、および硬化処理ユニット60に順次連続的に被塗布体が搬送されるように搬送機構10を制御し、第1層の上に第2層以降を塗布する際には、塗布処理ユニット40、乾燥処理ユニット50、および硬化処理ユニット60に順次連続的にメガネレンズLが搬送されるように制御部22により搬送機構10を制御することにより、多層の塗膜を効率良く形成することができる。
【0050】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々変形することが可能である。例えば、上記実施形態では、塗布処理後の乾燥処理と硬化処理とを別々のユニットで行ったが、硬化処理ユニットに乾燥ノズルを設け、乾燥処理と硬化処理を同じユニットで被塗布体を移動させずに行うようにしてもよい。また、洗浄処理ユニットで洗浄後、同じユニットで乾燥するようにした例について示したが、他のユニットで洗浄後の乾燥を行うようにしてもよいし、洗浄処理を行わずに塗布処理から始めてもよい。さらに、硬化処理を紫外線照射により行ったが、必ずしも紫外線を用いなくてもよく、電子線等の他の放射線を用いることもできるし、熱による硬化であっても構わない。また、完全に硬化させる必要はなくプリキュア段階でとどめておいてもよく、この場合でも取り扱い上の問題は生じない。さらにまた、上記実施形態では、吸着保持部の数を収容部の数と同じにしたが、それよりも多くてもよい。さらにまた、上記実施形態では、メガネレンズの上面を吸着保持して、下側から塗布液を塗布して塗膜を形成する場合について説明したが、メガネレンズの下面を吸着保持して上面に塗布液を供給するようにしてもよい。さらにまた、上記実施形態では、メガネレンズへの塗膜形成について説明したが、これに限らず、他のレンズであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、メガネレンズ等のレンズに、耐傷性を確保したり、他の種々の機能を持たせるための樹脂コーティングに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態に係るレンズ塗布装置を示す正面図および側面図。
【図2】本発明の一実施形態に係るレンズ塗布装置を示す平面図。
【図3】本発明の一実施形態に係るレンズ塗布装置に用いられる搬送機構を示す側面図。
【図4】本発明の一実施形態に係るレンズ塗布装置におけるメガネレンズへの吸着力を制御する機構を示す図。
【図5】本発明の一実施形態に係るレンズ塗布装置に用いられる洗浄処理ユニットを示す断面図。
【図6】本発明の一実施形態に係るレンズ塗布装置に用いられる塗布処理ユニットを示す断面図。
【図7】本発明の一実施形態に係るレンズ塗布装置に用いられる乾燥処理ユニットを示す断面図。
【図8】本発明の一実施形態に係るレンズ塗布装置に用いられる硬化処理ユニットを示す断面図。
【図9】本発明の一実施形態に係るレンズ塗布装置に用いられる硬化処理ユニットを示す側断面図。
【図10】本発明の一実施形態に係るレンズ塗布装置の制御系を説明するためのブロック図。
【符号の説明】
【0053】
1;塗布装置
2;搬入出・搬送部
3;処理部
5;開口部
10;搬送機構
11;吸着保持部
12;移動機構
13;回転軸
14;モータ
15;アーム
16;昇降機構
17;吸着保持部材
18;自転機構
22;制御部
30;洗浄処理ユニット
31,41,51,61;収容部
33;洗浄処理機構
40;塗布処理ユニット
43;塗膜形成機構
44;塗布液吐出ノズル
50;乾燥処理ユニット
53;乾燥処理機構
54;乾燥ノズル
60;硬化処理ユニット
63;硬化処理機構
70;紫外線照射装置
72;紫外線ランプ
L;メガネレンズ(レンズ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズの裏面または表面を吸着保持する吸着保持部材と、
レンズに塗布液を供給して塗膜を形成する塗膜形成手段と、
該塗膜を乾燥させる乾燥処理手段と、
該塗膜に対して硬化処理を施す硬化処理手段と、
それぞれ独立に設けられ、それぞれ前記塗膜形成手段、前記乾燥処理手段、前記硬化処理手段による処理を行うためにレンズを収容する少なくとも3つの収容部と、
前記それぞれの収容部に、前記吸着保持部材に保持されたレンズが収容されるように、前記吸着保持部材を移動させる移動手段と、
前記吸着保持部材が位置する収容部に応じて、前記吸着保持部材におけるレンズへの吸着力を制御する制御手段と
を具備することを特徴とするレンズ塗布装置。
【請求項2】
前記塗膜形成手段は、
前記吸着保持部材がレンズを吸着しているレンズ面とは異なる他方のレンズ面に塗布液を吐出する吐出手段と、
前記吐出手段から吐出された塗布液によりレンズ面に塗膜を形成するために、前記吸着保持部材を自転させる自転機構と
を有することを特徴とする請求項1に記載のレンズ塗布装置。
【請求項3】
前記吐出手段は、塗布液を吐出するノズルを有し、該ノズルは塗膜を形成するレンズ面よりも下方に位置し、前記吸着保持部材はレンズの被塗布面を下方に向けて吸着保持し、前記ノズルから塗布液を上方に向けて吐出することにより塗膜を形成することを特徴とする請求項2に記載のレンズ塗布装置。
【請求項4】
前記塗膜形成手段は、前記自転機構により前記吸着保持部材に吸着保持されたレンズを回転させつつ前記ノズルから塗布液を一定量供給して塗膜を形成することを特徴とする請求項3に記載のレンズ塗布装置。
【請求項5】
前記乾燥処理手段を収容する収容部は、筒体状をなしていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のレンズ塗布装置。
【請求項6】
前記乾燥処理手段は、前記収容部の底面から上方に向かうように設けられた乾燥ノズルと、乾燥ノズルに接続された乾燥ガス供給ラインを有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のレンズ塗布装置。
【請求項7】
前記硬化処理手段は、紫外線照射部を有し、前記塗膜は、該紫外線照射部から紫外線を照射することにより硬化されることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のレンズ塗布装置。
【請求項8】
前記塗膜形成に先立ってレンズ面を洗浄する洗浄手段と、前記洗浄手段による処理を行うためにレンズを収容する収容部とをさらに具備することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のレンズ塗布装置。
【請求項9】
レンズ面に少なくとも第1層および第2層の塗膜を塗布し、前記第1層を塗布する際には、前記洗浄手段、前記塗膜形成手段、前記乾燥処理手段、前記硬化処理手段により順次処理を行い、その後前記第2層の塗膜を塗布する際には前記塗膜形成手段、前記乾燥処理手段、前記硬化処理手段により順次処理を行うことを特徴とする請求項8に記載のレンズ塗布装置。
【請求項10】
前記収容部は、環状に配列されていることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のレンズ塗布装置。
【請求項11】
前記吸着保持部材は、前記収容部の個数と同数かそれよりも多く設けられ、前記移動手段は、回転軸を有する回転機構と、前記回転軸から放射状に延び、前記吸着保持部材をそれぞれ保持する複数のアームとを有することを特徴とする請求項10に記載のレンズ塗布装置。
【請求項12】
前記移動手段は、前記吸着保持部材を、前記収容部の上方の移動可能位置と、前記収容部内に収容された収容位置との間で移動させる昇降機構をさらに有することを特徴とする請求項11に記載のレンズ塗布装置。
【請求項13】
レンズに塗布液を供給して塗膜を形成する工程と、
該塗膜を乾燥させる工程と、
該塗膜に対して硬化処理を施す工程と
をレンズを吸着保持部材で吸着保持しながら実施し、レンズ面に塗膜を形成するレンズ塗布方法であって、
前記各工程に応じて、前記吸着保持部材によるレンズへの吸着力を調整することを特徴とするレンズ塗布方法。
【請求項14】
前記塗膜を形成する工程における前記吸着保持部材によるレンズへの吸着力を、前記硬化処理を施す工程における吸着力よりも高く調整することを特徴とする請求項13に記載のレンズ塗布方法。
【請求項15】
前記塗膜を形成する工程に先立って、レンズ面を洗浄する工程をさらに有することを特徴とする請求項13または請求項14に記載のレンズ塗布方法。
【請求項16】
前記洗浄する工程および前記塗膜を形成する工程における前記吸着保持部材によるレンズへの吸着力を、前記硬化処理を施す工程における吸着力よりも高く調整することを特徴とする請求項15に記載のレンズ塗布方法。
【請求項17】
前記塗膜を形成する工程は、レンズを自転させながら、レンズに塗布液をその下方から一定量供給することにより行われることを特徴とする請求項13から請求項16のいずれか1項に記載のレンズ塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−167776(P2007−167776A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−369577(P2005−369577)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(505474706)株式会社アクティブ (1)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】