説明

レンズ芯取機の芯出し方法及び装置

【課題】レンズを傷つけることなく、Z値の小さいレンズに対する正確な芯出しを行うことができる技術手段を得る。
【解決手段】ホルダ上のレンズ表面に向けて投射された光ビームの反射光又は透過光を受光してその受光位置を出力する光学計測器と、レンズの外周を加工する回転砥石とは別に設けたプッシャと、このプッシャをホルダの軸心に向けて移動する送り装置とを備えている。光学計測器の計測値に基づいてレンズの偏芯方向をプッシャに向ける方向にホルダを回転させ、光学計測器の計測値に基づいてプッシャをホルダ中心に向けて進出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レンズの光軸を基準にして外周を加工するレンズ芯取機の芯出し、すなわちレンズを保持するホルダの上に置かれたレンズの光軸を当該ホルダの軸心ないし回転中心と一致させる方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レンズは、その表裏面の球面加工を行ってから、加工された球面によって決定される光軸を基準にして外周加工を行う。この光軸を基準としてレンズの外周加工を行う装置を芯取機と称している。一般的な芯取機は、レンズを保持して回転するホルダと、このホルダに保持されたレンズの外周に向けて近接離隔する回転砥石と、この回転砥石の前記近接離隔方向の移動位置を制御するNC制御器とを備えている。NC制御器は、ホルダの軸心ないし回転中心を基準にして回転砥石の位置を設定するので、正確な外周加工を行うには、その前提として加工されるレンズがその光軸をホルダの回転中心に正確に一致させて(芯出しされて)保持されていることが必要である。
【0003】
レンズは、凸レンズであれば中心部の厚さが周辺部より厚く、凹レンズでは、逆に薄くなるが、このレンズ半径方向の厚さの変化率が大きいレンズ、すなわちその指標であるZ値が大きいレンズは、図10に示すように、真円のエッジ14を有するカップ状の上下のホルダ1b、1aでレンズの表裏面を軽く挟んだ状態で当該ホルダを回転させると、レンズ厚さが最も厚く又は最も薄くなっている光軸の部分がホルダ1a、1bの回転中心に一致する方向に滑って自動的に芯出しが行われる。しかし、Z値の小さいレンズやレンズ表裏面の球面が同心の球面に近い(厚さが平行に近い)レンズは、このような方法では正確な芯出しをすることができない。
【0004】
そこで、Z値の小さいレンズは、図11に示すように、ホルダ1a、1bでレンズLを軽く保持した状態でホルダ1a、1bを所定角度ずつ回転させ、各回転位置でダイヤルゲージ8でレンズの球面の周辺部分の位置を計測し、その計測値に基づいてレンズ球面の曲率中心とホルダの軸心との偏芯方向及び偏芯量を演算し、演算された偏芯方向が砥石2の方向を向くようにホルダ1a、1bを回転し、その後、砥石2をレンズに向けて進出させることにより、偏芯量に相当する距離だけレンズを押し動かしてレンズの光軸をホルダの軸心ないし回転中心と一致させることで芯出しを行っていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、図11に示した従来手段では、ダイヤルゲージなどによる接触式測定のため、ダイヤルゲージの計測端がレンズに当接したとき、及び、砥石でレンズを押すために、レンズに傷がつくという問題がある。また、砥石でレンズを押すときに砥石とレンズとの接触(当接)が検知できないため、押し量を正確に制御できない問題や、砥石表面の砥粒の状態により砥石の表面(押し面)に凹凸があり、押し量が安定しないという問題があった。
【0006】
この発明は、上記のような問題を解消して、レンズを傷つけることなく、Z値の小さいレンズに対する正確な芯出しを速やかに行うことができる技術手段を得ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明のレンズ芯取機における芯出し装置は、ホルダ1上のレンズL表面に向けて投射された光ビーム31の反射光33又は透過光を受光してその受光位置を出力する光学計測器3と、レンズの外周を加工する回転砥石2とは別に設けたプッシャ(レンズ押動体)4(4a、4b)と、このプッシャをホルダ1の軸心に向けて送る1次元又は2次元方向の送り装置42、43、56と、光学計測器3の計測値に基づいてプッシャ4をホルダ中心に向けて移動させるストローク制御手段66を備えている。プッシャ4を1次元方向に送る送り装置を備えたものにおいては、更に、光学計測器3の計測値に基づいてレンズLの偏芯方向がプッシャ4の押動方向となるようにホルダ1を回転させる位相制御手段65を備えている。位相制御手段65及びストローク制御手段66は、芯取機を制御するNC制御器6にソフトウェアとして設けられる。
【0008】
光学計測器3は、ホルダ1の上方にホルダ上のレンズLに向けて投光器32から光ビーム31を投射し、レンズLのレンズ面からの反射光又はレンズLを通過した透過光を受光素子35で受光するように設けられる。プッシャ4は、少なくともレンズと当接する接触部をレンズLより柔らかい材料、例えば合成樹脂製とするのが好ましい。
【0009】
プッシャの送りを制御するNC制御器の押動制御手段67は、種々の押動パターン、例えば微小間隔でのステップ送り、送り方向の振動を伴う振動送り、送り速度の遅い低速送り、レンズLを載置しているカップ状ホルダ1内に空気圧を供給しながら送る低摩擦送りなどの種々の送りパターンを備えたものとするのが好ましく、加工するレンズの大きさや曲率に合せて最適な送りパターンを選択できるようにするのが好ましい。
【0010】
光学計測器3は、その計測原点oをホルダ1の回転中心と一致するようにして、ホルダ1の直上部に設置されるが、ホルダ1を1回転させたときの受光素子上での受光点sの円軌跡cから受光点sのずれ量eを計測するようにすれば、光学計測器の原点oとホルダの回転中心aとの偏倚量を含めたレンズLの偏芯量Eを計測することができる。
【0011】
プッシャ4をレンズLに接触してレンズLを押動するとき、光学計測器3で受光点sを監視しながら押動して受光点sが回転中心aにまで移動したときにプッシャ4の送りを停止するようにしてもよいし、プッシャ4がレンズLに接触した位置から計測した偏芯量Eだけプッシャ4を移動させるようにしてもよい。レンズの外周を押す構造のプッシャ4aを用いる場合のプッシャ4aとレンズLとの接触は、光学計測器3の受光点sが動き始めたときの信号をストローク制御手段66に送ることによって検出できる。
【0012】
例えばプレス成形レンズなどで、レンズ外周に不定形の突出部があるような場合には、ホルダ上のレンズの偏芯方向と偏芯量の計測をするとき、レンズの中心(光軸)からレンズ外周までの距離の計測を行い、芯出し動作に支障があるような突出部があるときは、芯出し動作に先立って、当該突出部を砥石2で削除する粗加工を行うのが望ましい。レンズの中心からレンズ外周までの距離の計測は、芯取機に外周計測器7を設けることにより行う。
【0013】
一方、レンズLのレンズ面に接触してレンズを押動する構造のプッシャ4bを用いれば、レンズ外周に不定形の突出部がある場合でも、外周計測を行うことなく円滑にレンズの芯出しを行うことができる。粗加工が必要なレンズに対しては、芯出しを行ったあと芯取り動作(仕上げ研削)の前に粗加工を行ってやればよい。
【0014】
レンズLのレンズ面に接触してレンズを押動する構造のプッシャ4bを用いれば、プッシャを2次元面内で移動してレンズの芯出しを行うことも可能である。すなわち、光学計測器3でレンズの偏芯方向と偏芯量とを計測したら、プッシャ4bでレンズLをその偏芯方向と逆の方向に移動してレンズLの光軸がホルダの回転中心と一致したときにプッシャ4bの移動を停止するという動作や、計測された偏芯位置に移動したあと、プッシャ4bをレンズLに押接し、次にプッシャ4bをホルダ1の回転中心に移動するという動作で、レンズの芯出しを行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
ホルダ上に搬入されたレンズを、オートコリメータ等の光学計測器でレンズが偏芯している方向(位相)を計測し、主軸の回転によりホルダを偏芯している位相に割り出し、光学測定器で偏芯が検出されない位置までプッシャでレンズを押すことで、あるいは予め計測した偏芯量Eより算出される押し量分をプッシャで押すことで、正確な芯出しが自動でできる。
【0016】
そして、光学計測器にて非接触で計測するため、レンズを傷つけるおそれが無く、光学計測器でモニタリングしながら芯出しを行うことで、プッシャとレンズとの接触や移動後のレンズの位置の検知ができるため、押し量を正確に制御でき、正確にレンズを芯出しできる。また、専用のプッシャでレンズを押すため、プッシャの材質や接触部の形状により、レンズを傷つけることなく、ばらつきのない芯出しが可能になり、安定した高い芯出し精度が得られるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の芯出し装置を備えた芯取機の実施例を示すブロック図
【図2】レンズの偏芯と反射光の振れを誇張して示す説明図
【図3】オートコリメータの2次元受光素子上の受光点を示す図
【図4】偏芯の計測と共に行う外周計測の説明図
【図5】偏芯計測と外周計測とを行う芯取機の要部の模式的な側面図
【図6】外周計測と行う芯取機の芯出し手順を示すフローチャート
【図7】レンズを2次元面内で押動するプッシャを備えた芯取機の要部の模式的な側面図
【図8】図7のプッシャの斜視図
【図9】凹面のレンズと図7のプッシャの接触を示す図
【図10】Z値の大きいレンズに対する芯出し手段を示す説明図
【図11】Z値の小さなレンズに対する従来の芯出し装置を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に示す実施例を参照して、この発明の実施形態を説明する。図示実施例の芯取機は、上端に上向きカップ状のホルダ1(図10、11の従来構造におけるホルダ1aに相当する部材)を装着した主軸11と、ホルダ1に対向するリング状の押さえパッド16を下端に備えた上軸17と、ホルダ1とパッド16で挟持して保持したレンズLの外周を加工する回転砥石2とを備えている。主軸11及び上軸17は、鉛直方向の主軸軸線a上に配置され、主軸モータ12及び主軸11と上軸17を回転連結している連結軸15によって同期駆動されている。従ってホルダ1とパッド16とは、軸線aを中心に同期回転する。上軸17は、図示しない昇降装置により昇降可能で、上軸17が上昇した状態でホルダ1上にレンズLが搬入され、レンズの芯出しを行った後、上軸17が下降することによってホルダ1とパッド16でレンズLの上下面を挟持した状態でレンズLを保持する。上軸17及び主軸11は、中空軸で、主軸の中空孔13は、ホルダ1のカップ内に連通している。
【0019】
回転砥石2は、砥石台21に搭載され、この砥石台21をレンズLに向けて近接離隔方向に進退駆動する送りねじ及び砥石送りモータが設けられている(図示されていない)。主軸モータ12及び砥石送りモータは、NC制御器6で制御されており、主軸11の、従ってホルダ1の回転角(位相)及び回転速度並びに砥石台21の移動位置は、NC制御器6によって設定可能である。
【0020】
図示実施形態におけるこの発明の芯出し装置は、上軸17の上方に配置されたオートコリメータ3と、移動台41に圧電素子44を介して搭載されたプッシャ4(4a、4b)と、移動台41を送る送りねじ42及び送りモータ43と、空気圧供給装置5とを備えている。
【0021】
オートコリメータ3は、上軸の中空孔18を通してホルダ1上のレンズLに向けて光ビーム31を投射する投光器32と、レンズLからの反射光33をハーフミラー34で直角に反射して受光する2次元受光素子35とを備えている。投光器32から投射された光ビームは、レンズLの表面に光点(焦点)となって照射され、その反射光33が受光素子35の受光面上で結像し、その位置情報が電気信号として出力される。
【0022】
プッシャ4は、圧電素子44を介して移動台41に搭載されており、圧電素子44には、これを移動台41の移動方向に振動させるための交流電源45が接続されている。移動台41は、図示されていないボールナットを介して送りねじ42に連結され、この送りねじがNC制御器6によってサーボ制御される送りモータ43で回転駆動される。
【0023】
NC制御器6には、送りモータ43に短い時間間隔で送り指令と停止指令を与えるステップ送り手段61、通常速度での連続送り指令を与える標準送り手段62、及びこれより低速での連続送り指令を与える低速送り手段63、及びこれらの手段の一つを選択する選択スイッチ64が設けられている。更に、NC制御器6は、圧電素子44を振動させる交流電源45のオンオフスイッチ46を制御している。空気圧供給装置5は、負圧源51、正圧源52、圧力設定器53、54及び切換弁55を備えており、加工するレンズに応じて調整された負圧又は正圧が切換弁55、回転継手56及び主軸11の中空孔13を通ってホルダ1内に供給されるようになっている。
【0024】
レンズLがホルダ1に偏芯して置かれると、図2に示すように、レンズが傾く。この傾きは、ホルダ1の円形のエッジ14に当接しているレンズ下面の曲率が大きいほど大きく、凸面か凹面かで傾きの方向が逆になる。レンズの光軸中心では、レンズ面は光軸と直角であり、ここに投射された光は入射方向に反射するが、レンズが偏芯して傾いていると、反射光は入射光からずれ、図3に示すように、受光素子35上の受光点sの位置がずれる。このずれ量eから、レンズLの傾きを計測でき、この傾きとレンズ下面の曲率から、レンズLの偏芯量Eを計測できる。
【0025】
ホルダ1を回転させて受光点sに円軌跡cを描かせ、この円軌跡の中心(ホルダの回転中心)aを原点として偏芯方向及び偏芯量を計測すれば、オートコリメータ3の受光面の原点oがホルダ1の回転中心からずれていても、正確な偏芯方向及び偏芯量を計測できる。
【0026】
NC制御器6には、オートコリメータ3の検出信号と予め入力されたレンズ下面の凹凸(偏芯方向が180度反対になる)の別に基づいて、ホルダ1の回転中心からのレンズLの光軸の偏芯方向を検出して、当該偏芯方向がプッシャ4の移動方向を向くように主軸モータ12の回転角を制御する位相制御手段65、及びオートコリメータ3の検出信号に基づいて送りモータ43の回転角を制御するストローク制御手段66を備えている。
【0027】
上記の芯出し装置において、上軸17が上動した状態でホルダ1上にレンズLが搬入されたら、オートコリメータ3は、当該レンズL上に光ビーム31を照射して、その反射光を2次元受光素子35で受けながら、主軸11をゆっくりと回転して、受光素子35上で受光点sに円軌跡cを描かせ、その円の半径eからホルダ1の回転中心に対するレンズLの偏芯量Eを計測し、ホルダ1を停止したときの受光点sと円の中心aの相対位置関係から、偏芯方向を計測する。NC制御器6は、検出された偏芯方向がプッシャ4の移動方向を向くように主軸モータ12に回転指令を与える。
【0028】
次にNC制御器は、送りモータ43を駆動してホルダ1上のレンズLをプッシャ4で移動させてレンズLの光軸とホルダ1の回転中心とを一致させることにより、レンズの芯出しを行う。プッシャ4がレンズの外周を押す構造のプッシャ4a(図1及び図5)であるときは、移動台41に前進指令を与え、この前進中にオートコリメータ3から受光点sの移動開始信号を受けたときに、ストローク制御手段66に計測開始指令が与えられる。ストローク制御手段66は、計測開始指令が与えられたときのプッシャ4aの位置から既に計測されている偏芯量だけプッシャ4aを前進させた位置で、送りモータ43を停止させる。
【0029】
プッシャ4aの前進移動の際に、レンズLの大きさや曲率に応じて選択スイッチ64を切換えることにより、押動動作のパターンをステップ送り、標準送り、低速送りのいずれかに選択することができる。更にそれぞれの送りパターンの際に交流電源45のスイッチ46をオンにすることによって、振動送りを選択することができる。ステップ送りや振動送りは、いわゆるスティックスリップ現象によってレンズLがその停止位置を越えて移動するのを防止するのに有効である。
【0030】
ホルダ1上に搬入されたレンズLは、ホルダ1に供給される負圧で軽く吸着した状態で計測及び芯出しが行われる。計測中にレンズが動くのを防止し、また、プッシャ4aで押したときにレンズを傷つけることなくホルダ上でレンズが軽く滑り、かつ、押された惰性で滑り過ぎないようにする為である。従って、通常のレンズの芯出し時には、ホルダ1に負圧源51から負圧が供給されている。図示実施例のものは、レンズが重いときに、切換弁55を切り換えて正圧源52からホルダ1に正圧を供給してホルダ1に作用するレンズの荷重を低減することにより、レンズ押動時の摩擦負荷を低減した状態で、レンズLを押動できるようにしている。
【0031】
プッシャ4aでレンズLを押すとき、押動中にレンズLがプッシャ4aの前進方向からずれた方向に動くことがあり、また慣性でレンズが余計に動いてしまうこともある。そこで押動動作の終了後、光学計測器3でレンズLの偏芯を確認し、所定の誤差範囲(しきい値)内に入っていれば外周加工を開始し、入っていないときは、再度偏芯方向と偏芯量とを計測して上記の芯出し動作を繰り返す。
【0032】
上記のようにしてレンズの芯出しが終了したら、上軸17を下動してホルダ1とパッド16でレンズLを保持し、主軸モータ12で主軸11と上軸17を同期回転させてレンズLを芯出しした光軸回りに回転させる。そして、回転砥石2を回転させ、レンズの外周形状が所定形状となるように砥石台21を前進させることにより、レンズLの光軸を基準とした外周加工を行う。
【0033】
プレス成形レンズでは、上下の型で押圧された材料がレンズの周縁で型の間からはみ出して、レンズの外周形状がいびつ(歪)になることがある。レンズを押すためにプッシャ4aをレンズLに向けて前進するとき、加工サイクルを短くするために、プッシャ4aはレンズに急速接近した後、所定の押動速度に減速してレンズLを押す。レンズLの周囲に型の間からはみ出した材料による突出部があると、急速接近中にプッシャ4aがその突出部に当接してレンズを大きく動かしてしまうおそれがある。また、その突出部の端部の縁が斜めになった所にプッシャ4aが当たって、レンズが押動方向からずれた方向に移動するおそれがある。また、レンズが外周基準でホルダ1上に搬入された場合には、ホルダ上のレンズが大きく偏芯するおそれもある。
【0034】
そこでこのようなレンズに対しては、芯取り加工(本来の外周加工)の前にレンズの外周形状を確認し、部分的な突出部を除去するための粗加工(荒削り)を行うのが望ましい。レンズの外周形状の確認は、レンズ光軸の偏芯量と偏芯方向を計測するためにレンズLを1回転させるときに、カメラや電子マイクロメータなどの非接触式ないし接触式の外周計測器7でレンズの外周位置を検出することで確認できる。
【0035】
図4は、ホルダ上に偏芯して置かれたレンズの中心(光軸)pと、レンズ(ホルダ1)の回転中心aと、外周計測器7で計測した回転中心aからレンズ外周までの距離dと、レンズ中心pから当該外周までの距離rとの関係を示した図で、レンズの偏芯量Eはオートコリメータ3で計測されるから、dとEを用いてレンズを1回転したときの各回転角θの位置における距離rを演算により求めることができ、このrがしきい値を超えている領域について、外周を切除する粗加工を行ってやればよい。
【0036】
図5は、移動台41に例えばシリンダ47などにより短いストロークで昇降する昇降台48を介してプッシャ4と電子マイクロメータ7を搭載した例を示した図である。ホルダ1を1回転してオートコリメータ3でレンズの光軸の偏芯方向と偏芯量とを検出する際に、昇降台48を下降して移動台41を前進させることにより、電子マイクロメータ7の検出端をレンズLの外周に接触して、レンズLの外周形状を計測する。
【0037】
外周形状を計測すれば、レンズLの偏芯方向をプッシャ4aに向けたときのレンズ外周からプッシャ4aまでの距離が分かるから、プッシャ4aの先端がレンズLの外周に接触する直近の位置まで、プッシャ4aを急速接近させることにより、加工サイクルを短縮することもできる。
【0038】
図6は、その手順を示すフローチャートである。レンズがホルダ1上に搬入されたら、ホルダに負圧を供給してレンズを吸着する。次に昇降台48を下降して電子マイクロメータ7をレンズの外周に対向させる(図5)。そして電子マイクロメータ7の出力を監視しながら移動台41を前進する。電子マイクロメータ7がレンズの外周に接触すると電子マイクロメータ7の出力が振れるから、その接触を検出した後、更に移動台41を設定量だけ前進して停止する。この設定量は、予想されるレンズ外周の最大突出量である。
【0039】
この状態で、各回転位置における電子マイクロメータ7の計測値を記憶しながらホルダ1を1回転させる。この回転により、ホルダ上におけるレンズの偏芯量と偏芯方向がオートコリメータ3で検出されるから、レンズの各回転位置における図4の寸法rを演算し、rがしきい値を超えている範囲があるかどうかを調べる。この間に昇降台48を上昇してプッシャ4をレンズに対向させる。
【0040】
寸法rがしきい値を超えている領域があれば、移動台41を待避させ、上軸17を下降してレンズをクランプした後、rがしきい値を超えている領域を砥石2に向け、砥石台21の所定位置への前進と当該範囲でのホルダ1の回動とによる粗加工で、rがしきい値を超えている領域の突出部を削除し、上軸17を上昇してレンズのクランプを解放する。
【0041】
次に、オートコリメータで検出した偏芯方向をプッシャに向け、当該偏芯方向における図4の寸法dとプッシャの待機位置からプッシャ先端とレンズ外周までの距離を演算し、プッシャ先端がレンズ外周に接触する直前の位置まで移動台41を急速前進させる。そして移動台41の前進速度を低速に切り換え、プッシャ4aとレンズLとの当接を検出した後、移動台41を検出した偏芯量だけ更に前進してレンズの芯出しを行う。そして、移動台41を待避し、上軸を下降してレンズをクランプした後、芯取り加工を開始する。
【0042】
このようにして、レンズの光軸検出と同時に外周計測を行い、必要なレンズに対して砥石2による芯取り加工の前に当該砥石によるレンズ外周の粗加工を行い、更にレンズに接触する直近の位置までプッシャ4aの急速前進を行うようにすれば、外周形状にばらつきがあるレンズ群に対する芯取り加工を能率良くかつ正確に行うことができる。
【0043】
以上の手順は、外周を押してレンズの芯出しを行う構造のプッシャ4aを用いて外周に突出部があるレンズの芯出しを行う手順の例であるが、レンズ面に接触して芯出しを行う構造のプッシャ4bを用いれば、外周に突出部のあるレンズであっても、外周計測を行うことなくレンズの芯出しを行うことができる。図7〜9は、レンズ面に接触してレンズを押動する装置の例を示した図で、図7は装置要部の側面図、図8はプッシャの斜視図、図9は上面が凹面となっているレンズに対するプッシャ4bの接触状態を示した図である。なお、上面が凸面となっているレンズに対するプッシャ4bの接触状態は、図7に想像線で示している。
【0044】
図のプッシャ4bは、板材54に下方に突出する円筒部55を設けた構造で、円筒部の中空孔と同形の貫通孔が板材54にも設けられて、光学計測器3の光ビーム及び反射光が通過できるようにしてある。プッシャ4bは、図7の左右方向と紙面直角方向との2次元面内で移動するXY移動台56にシリンダ47で昇降する昇降台48を介して装着されている。
【0045】
前記と同様にして光学計測器3でホルダ1上のレンズLの偏芯方向と偏芯量とを計測したら、昇降台48を上昇してXY移動台56を図の左右方向及び紙面直角方向に移動することにより、プッシャ4bの円筒部の中心が計測したレンズ光軸に一致する位置までプッシャ4bを移動し、昇降台48を下降して、円筒部55の下縁をレンズLの上面に押接する。
【0046】
この状態でXY移動台56を図の左右方向と紙面直角方向との2次元面内で移動してプッシャ4bの円筒部の中心をホルダ1の回転中心まで移動することにより、レンズLの芯出しが行われるから、その後、昇降台48を上昇してXY移動台56を後退することにより、レンズの芯出し動作が完了する。なお、例えばプッシャの円筒部55をホルダ1より摩擦係数の大きい材料とするか又はホルダ1に正圧を供給してレンズとホルダ1との間の摩擦を低減することにより、レンズ上面に押接した円筒部55の摩擦力でホルダ1上のレンズを滑り移動させることができる。
【0047】
その後、上軸17を下降してレンズLを保持し、レンズLを回転しながら砥石2でレンズの外周研削を行うことにより芯取りを行うが、砥石2を予め設定された位置まで前進した状態でレンズを回転させて粗加工を行い、その後、砥石2の切り込み量を小さくして仕上げ研削により芯取りを行うようにすれば、外周に突出部のあるレンズに対する芯取りも速やかに行うことができる。
【0048】
以上のようにレンズのレンズ面に接触してレンズを押動する構造のプッシャを用いれば、外周形状がどのような形状のレンズに対しても正確な芯出しを行うことができ、レンズを2次元面内で移動できるから、ホルダを回転してレンズの押動方向をプッシャの移動方向に合わせる動作が不要となり、制御手順も簡易化され、進出時のプッシャの移動も高速で行うことができるので、サイクルタイムも短縮できる。
【符号の説明】
【0049】
1 ホルダ
2 回転砥石
3 光学計測器
4(4a、4b) プッシャ
6 NC制御器
7 外周計測器
31 光ビーム
32 投光器
33 反射光
35 受光素子
42 送りねじ
43 送りモータ
48 昇降台
56 XY移動台
65 位相制御手段
66 ストローク制御手段
67 押動制御手段
a 回転中心
c 円軌跡
o 原点
s 受光点
L レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直軸回りに回転するホルダを備えたレンズ芯取機におけるレンズの芯出し装置において、ホルダ上のレンズ表面に向けて投射された光ビームの反射光又は透過光を受光してその受光位置を出力する光学計測器と、レンズと接触する接触端をレンズより柔らかい材料で形成したプッシャと、このプッシャをホルダの回転中心に向けて移動する送り装置と、NC制御器とを備え、当該NC制御器は、前記光学計測器の計測値に基づいてプッシャをホルダの回転中心に向けて移動させるストローク制御手段を備えている、レンズ芯取機におけるレンズの芯出し装置。
【請求項2】
前記プッシャが1次元方向の進出動作によりレンズを押動するプッシャであり、前記NC制御器が、前記光学計測器の計測値に基づいてレンズの偏芯方向をプッシャの移動方向に向くようにホルダを回転させる位相制御手段を備えている、請求項1記載のレンズの芯出し装置。
【請求項3】
前記ホルダの回転中心から当該ホルダ上のレンズの外周までの距離を計測する外周計測器を備えている、請求項2記載のレンズの芯出し装置。
【請求項4】
前記プッシャが2次元面内の移動動作によりレンズを押動するプッシャである、請求項1記載のレンズの芯出し装置。
【請求項5】
前記NC制御器は、プッシャのレンズ押動動作を制御する押動制御手段を備え、当該押動制御手段は、ステップ送り及び振動送りを含む複数の押動動作から選択された押動動作でプッシャを移動させる、請求項1、2、3又は4記載の芯出し装置。
【請求項6】
光学計測器が、ホルダの上方から投射した光ビームをレンズ表面で光点にして反射させ、その反射光を2次元受光面上に結像させ、その結像位置で投射光に対する反射光の偏芯方向及び偏芯量を検出する、請求項1、2、3、4又は5記載の芯出し装置。
【請求項7】
請求項1、2、3又は4記載の芯出し装置をレンズ芯取機に装着し、ホルダにレンズを搭載した状態でホルダを回転させることにより光学計測器の受光面上に円軌跡を描かせ、その円軌跡の中心とホルダを停止したときの受光点の位置からレンズの偏芯方向を計測し、その円軌跡の径からレンズの偏芯量を計測し、その計測値に基づいて移動するプッシャでレンズを押動してホルダ上でのレンズの芯出しをする、レンズ芯取機におけるレンズの芯出し方法。
【請求項8】
請求項2又は3記載の芯出し装置をレンズ芯取機に装着し、ホルダにレンズを搭載し、光学計測器でホルダ上のレンズの偏芯方向と偏芯量を計測した後、ホルダを偏芯方向に回転させ、次に前記計測した偏芯量だけプッシャをレンズに向けて進出してレンズを押動するとき、光学計測器で受光点を監視し、受光面上で受光点が動き始めた時点でプッシャとレンズとが接触したとして、その時点以降のプッシャの移動量が計測した偏芯量となるようにプッシャのストロークを制御する、レンズ芯取機におけるレンズの芯出し方法。
【請求項9】
請求項1、2、3又は4記載の芯出し装置をレンズ芯取機に装着し、ホルダにレンズを搭載し、光学計測器でホルダ上のレンズの偏芯方向を計測し、当該偏芯方向にプッシャでレンズを押動するとき、光学計測器で受光点を監視し、受光面上の受光点が受光面上のホルダの回転中心に一致したときにプッシャの移動を停止する、レンズ芯取機におけるレンズの芯出し方法。
【請求項10】
請求項3記載の芯出し装置をレンズ芯取機に装着し、ホルダにレンズを搭載し、光学計測器でホルダ上のレンズの偏芯方向と偏芯量とを計測すると共に外周計測器でホルダの軸心からレンズ外周までの距離を計測し、予め設定したしきい値を超える距離が計測されたときにレンズ外周の粗加工を行い、その後ホルダを前記光学計測器で計測された偏芯方向に回転し、次にプッシャをレンズに向けて進出してレンズを押動する、レンズ芯取機におけるレンズの芯出し方法。
【請求項11】
請求項4記載の芯出し装置をレンズ芯取機に装着し、ホルダにレンズを搭載し、光学計測器でホルダ上のレンズの偏芯方向と偏芯量とを計測し、ホルダの回転中心から当該計測した偏芯位置に移動したプッシャをレンズに接触し、次にプッシャをホルダの回転中心に移動する、レンズ芯取機におけるレンズの芯出し方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−107188(P2013−107188A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256470(P2011−256470)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000212566)中村留精密工業株式会社 (120)
【Fターム(参考)】