説明

レーザ光の光軸方向の測定方法、長さ測定システム、および位置決め精度の検査方法

【課題】ターゲットの位置決め範囲が従来より狭く、かつ、測定光の光軸が固定されたレーザ干渉計であっても、測定光の光軸方向を測定可能な方法を提供すること。
【解決手段】レーザ干渉計104と再帰反射体106とハンドリング装置102を有する測定システム100を用いる。レーザ干渉計104は、測定光を再帰反射体106に照射し、その反射光と参照光との干渉光強度を検出する。ハンドリング装置102は、再帰反射体106を測定位置まで移動して位置座標情報を検出する。まず、レーザ干渉計104が干渉光を検出でき、かつ同一平面上に存在しない少なくとも4つの測定位置pを選ぶ。再帰反射体106を各測定位置pに移動させて、その位置座標情報を検出する。レーザ干渉計104が再帰反射体106までの距離の変化量を測定する。各測定位置の位置座標情報と各距離の変化量に基づき測定光のベクトル情報 a を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ干渉計を用いて移動するターゲットの移動量を測定する測定システム、および、レーザ干渉計からの測定光の光軸方向を測定する方法に関する。また、加工ヘッドやワーク表面性状を測定するプローブなどの位置決めを行う機能を有する各種位置決め装置(3次元座標測定機や3次元加工装置など)における位置決め精度の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(キャリブレーションの必要性)
位置決め装置は、例えば直交3軸移動手段(X、Y、Zの各軸移動手段)を備え、3次元空間内の目標位置にプローブ等を位置決めする装置を示す。この位置決め装置は、プローブなどの位置の3次元座標情報を検出できる。例えば、位置決め装置を用いて接触式プローブをワーク表面の2つの測定点に位置決めし、各点の座標情報を取得すれば、2点間の長さを測定できる。
このような位置決め装置では、定期的な位置決め精度のキャリブレーションが重要となる。一般的なブロックゲージを使った検査は、位置決め装置でブロックゲージの長さを測定し、その測定値をブロックゲージの基準長さと比較することによって、両者の差が所定値以下になるまで、キャリブレーションと検査を繰り返す。しかし、特別なスキルのある検査員が必要になるなど、検査コストが過大になり、採用できない。
【0003】
(レーザ干渉計の利用)
検査コストを抑えるため、レーザ干渉計を利用した位置決め装置の検査が行われるようになっている(特許文献1参照)。
レーザ干渉計は、離れた位置のターゲットをレーザ光で照射し、ターゲットからの反射光を受光する。そして、ターゲットが移動した際に、レーザ干渉計からターゲットまでの距離の変化量を反射光と参照光の干渉を利用して測定することができる。例えば、図1(A)のようにレーザ干渉計22を位置決め装置10のテーブル上に載置して、ターゲット(再帰反射体30)をプローブの保持具などに取付ける。
【0004】
レーザ干渉計22からのレーザ光(測定光)の光軸上の2つの位置(p1、p2)にターゲットを合わせて、位置決め装置10で各位置の座標情報を取得する。座標情報から2つの位置間の長さを算出する。また、ターゲットを位置p1から位置p2まで光軸に沿って移動させて、レーザ干渉計22によってターゲットの移動量を測定する。レーザ干渉計22による測定と位置決め装置10による測定は互いに独立している。従って、2つの測定値を比較することで、位置決め装置10の位置決め精度を判定できる。このようにすれば、従来のブロックゲージの長さ測定値の比較をする必要がない。
【0005】
一般的に用いられるレーザ干渉計22の構造を図2により説明する。
レーザ干渉計22は、マイケルソン型干渉計の構成を有する。光源301からのレーザ光をビームスプリッタ302で測定光と参照光とに分割する。測定光はレーザ干渉計22から離れた位置のターゲットに向けて照射される。ターゲットには再帰反射体30を用いる。レーザ干渉計22は、再帰反射体30からの反射光を受光して、反射光と参照光との干渉光の強度を検出する検出器(PD)306を有する。例えば、ターゲットが測定光の光軸方向に沿って移動すると、反射光と参照光の光路差が変わるため干渉光強度が周期的に変化する。この変化をカウントすることにより、ターゲットの移動量を測定できる。
【0006】
ただし、レーザ干渉計22は位置決め装置10の検査の都度、そのテーブル上に載置されるため、測定光の光軸方向は明らかでない。検査員はレーザ干渉計22の測定光の光軸方向とターゲットの移動方向を一致させるため、検査の都度、測定光の光軸方向の情報を得なければならない。
【0007】
従来、以下の手順で測定光の光軸方向の情報を取得していた。
まず、図1(A)のように測定光のおおよそ光軸上にあると思われる点pの近傍で、ターゲットを任意の方向に移動させながらレーザ干渉計22で検出される干渉光強度が最大となる位置を探す。次に、同じ光軸上の離れた別の点p近傍で同様に干渉光強度が最大となる位置を探す。その得られた2点の座標値に基づき光軸方向の情報を計算する。
【0008】
この方法ではターゲットである再帰反射体30の光学特性を利用している。再帰反射体として用いられている直角三面鏡やコーナキューブプリズム32(図3(A)参照)は、レーザ光で照射される照射面Aと、互いに直交する3つの反射面B〜Dによって構成され、コーナーポイントGと呼ばれる3つの反射面の交点を有する。照射面AはコーナーポイントGを通る中心軸と直交する。また、図3(B)のように、照射側に小径の半球体36を有し、反対側に大径の半球体38を有する光学部材からなる再帰反射体34もある。小径の半球体36の中心軸と大径の半球体38の中心軸は一致しており、この中心軸と各半球体の断面との交点を中心点Hとする。このような再帰反射体はキャッツアイと呼ばれる。
図3(A)、(B)に、再帰反射体32、34の中心軸に平行なレーザ光が入射した場合に、反射光がどのような光路で返されるかを示す。入射光が再帰反射体の中心軸から外れている場合には、反射光の光路は、再帰反射体の中心軸を軸として入射光の光路を反転させた位置になる。入射光の光路が再帰反射体の中心軸と平行でない場合も、反射光の光路は入射光の光路に平行になる。つまり、入射側から再帰反射体を見た場合、再帰反射体は入射光をその中心(コーナーポイントGおよび中心点H)に対して点対称となる位置から返すという性質を有する。
【0009】
前述の図2に示すように、レーザ光が検出器306で検出される際のレーザ光の可干渉範囲をビームスポットとすると、干渉光強度は、光路差が同じであっても、反射光と参照光の各ビートスポットの重なり度合いが異なれば、光強度に差が生じる。
再帰反射体30での入射光と反射光の光路中心のずれが大きいと、重なり度合いが小さくなって干渉光強度が小さくなる。入射光と反射光の光路中心のずれが小さいと、重なり度合いが大きくなって干渉光強度が大きくなる。
図1(A)に示す方法では、反射光と測定光が一致する位置で干渉光強度が最大となることを利用して、ターゲットを測定光の光軸上に正確に位置決めし、その位置の座標情報を読み取りっている。このようにして光軸上の2箇所の座標情報を得て、2箇所の座標情報に基づいて、光軸方向の情報を取得する。
【0010】
別の方法として、ターゲットを光軸方向に合わせて移動させるのではなく、図1(B)のように、予めターゲットの移動方向を決めておいた上で、ターゲットの移動方向に合わせてレーザ干渉計22の位置と測定光の照射方向を決めるという方法もある。この場合もターゲットの移動軸上の2点で干渉光強度が最大となるようにレーザ干渉計の位置、照射方向を決める。そして、ターゲットの移動前後の位置の座標情報に基づき、光軸方向の情報を取得する。
【0011】
しかし、図1(A)、(B)に示す方法には、2つの問題がある。
(1) これらの方法は、手動で行われるため手間がかかる。
(2) 光軸上の2点において、干渉光強度が最大となる位置を探索する事は難しく、自動化が容易では無い。
そのため、特許文献1では、図4に示すように、追尾機能を有するレーザ干渉計22を用いて、測定光の光軸方向の情報を取得している。このレーザ干渉計22は、測定光の光軸の仰角αおよび方位角βを変更でき、測定光を所定の点(レーザ干渉計22の回転中心点M)から任意の方向に出射できる。
例えば干渉光強度が常に最大となるように、測定光の照射方向を変化させることで、このレーザ干渉計22は測定光をターゲットの任意方向への移動に追従させることができる。
【0012】
図4に基づいて、測定光の光軸方向の情報を取得する手順を説明する。
まず、位置決め装置10がターゲットを同一平面上に存在しない4つの位置p(i=1〜4)に順次位置決めし、各位置の座標情報を取得する。この間、レーザ干渉計22がターゲットの移動を追尾し続けて、ターゲットから回転中心点Mまでの距離の変化量を測定する。
【0013】
図4には保持具28に取り付けられた再帰反射体30から回転中心点Mまでの距離をd(i=1〜4) で示す。レーザ干渉計22で測定可能な距離の変化量は、|di+1−d| (i=1〜3) で表され、これをΔdとする。レーザ干渉計22により測定されたΔd(i=1〜3)と、4つの位置p(i=1〜4)の座標情報とに基づき、回転中心点Mの位置座標を推定する。
推定された回転中心点Mの位置座標を使って、回転中心点Mを通る直線を計算すれば、その直線情報を測定光の光軸方向の情報として用いることができる。
【0014】
上記の方法を数式により説明する。レーザ干渉計22の回転中心点Mの位置座標をr = [ x ] 、ターゲットの位置座標をp= [ xpipipi ] とすると、回転中心点Mから位置pまでの距離dは、一般に次式で表される。
【0015】
【数1】

【0016】
距離の変化量Δd (i=1〜3)は次式で表される。
【0017】
【数2】

【0018】
3つ以上の距離の変化量Δd (i=3以上) について式を立て、各測定値(Δd、xpipipi)を使って連立方程式を生成する。この連立方程式を解くことによりレーザ干渉計の回転中心点Mの位置座標r = [ x ] を取得する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】独国特許出願公開第102007004934号明細書
【特許文献2】特開2008−268024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、特許文献1の光軸方向の情報を取得する方法には、次の問題がある。
(1) 測定光の光軸方向が固定であるレーザ干渉計には適用できない。
(2) 測定光の光軸方向を変えることができるレーザ干渉計であっても、精度良く回転中心点を推定するためには、ターゲットを比較的広範囲において移動させてレーザ干渉計による追尾測定を行う必要がある。その理由は、式(2)の連立方程式が非線形であり計算条件が悪く、ターゲットの測定位置p(i=1〜4)を狭い範囲に限定すると、光軸の推定精度が悪くなってしまうからである。
【0021】
そのため、例えば特許文献2のようにミラーなどでレーザ干渉計からの測定光を反射させてから、測定光をターゲットに入射させることにより、ターゲットの移動量を測定する場合など、何らかの制約でターゲットを広範囲に移動させて測定光の光軸方向を推定することが許されない場合には、特許文献1の方法を適用できない。
【0022】
本発明は、前記従来技術に鑑みなされたものであり、その解決すべき課題は、
第一に、自動測定によりレーザ干渉計の光軸方向を測定できる方法およびを提供することにある。
第二に、ターゲットの位置決め範囲を従来よりも狭くして、レーザ干渉計の光軸方向を精度よく測定できる方法を提供することにある。
第三に、測定光の光軸方向が固定であるレーザ干渉計を用いても、レーザ干渉計の光軸方向を測定できる方法を提供することにある。
また、上記のレーザ干渉計の光軸方向を測定する方法を用いて位置決め装置の位置決め精度を検査する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
前記課題を解決するために本発明に係るレーザ光の光軸方向の測定方法は、レーザ干渉計と、再帰反射体と、ハンドリング装置とを有する測定システムを用いる。この測定システムは、ハンドリング装置がターゲットを移動させた際の、レーザ干渉計からターゲットまでの距離の変化量を干渉光強度の変化に基づいて測定できる。
前記レーザ干渉計は、レーザ光を測定光と参照光に分割して、該測定光で外部のターゲットを照射し、ターゲットからの反射光と前記参照光との干渉光強度を検出する。
前記再帰反射体は、前記ターゲットとして用いられ前記レーザ干渉計からの測定光の入射方向によらないで該測定光と平行な反射光を前記レーザ干渉計に返す。
前記ハンドリング装置は、前記再帰反射体を支持して所定空間の任意の測定位置まで移動するとともに、該再帰反射体の位置座標情報を検出する。
すなわち、本発明に係るレーザ光の光軸方向の測定方法は、前記測定システムを用いて、前記レーザ干渉計の測定光の光軸方向を固定するステップと、
固定された測定光を前記再帰反射体が反射できる該再帰反射体の位置範囲から、前記レーザ干渉計が干渉光を検出でき、かつ、同一平面上に存在しない少なくとも4つの測定位置を選ぶステップと、
前記ハンドリング装置が前記再帰反射体を前記少なくとも4つの測定位置に移動させて、各測定位置の位置座標情報を検出するステップと、
前記再帰反射体が各測定位置間を移動する際に、前記レーザ干渉計が前記再帰反射体までの距離の変化量を測定するステップと、
前記ハンドリング装置で検出された各測定位置の位置座標情報、および前記レーザ干渉計で測定された各距離の変化量に基づいて、測定光の光軸方向を示すベクトル情報を算出するステップと、を備えることを特徴とする。
【0024】
また本発明において、前記測定光の光軸方向を示すベクトル情報を算出するステップでは、前記各測定位置の位置座標情報に基づき測定位置間の移動量を算出し、前記レーザ干渉計で測定された各距離の変化量が、前記測定位置間の移動量を前記レーザ干渉計の光軸方向に投影した値と等しいことを条件として立式した連立方程式を解いて、前記ベクトル情報を算出することが好ましい。
【0025】
さらに本発明において、前記測定光の光軸方向を示すベクトル情報を算出するステップでは、前記各測定位置の位置座標情報に基づいて、各測定位置の中の初期位置から他の各測定位置までの移動量( v )を算出し、前記測定光の光軸方向を示す単位ベクトル情報を a = [ a ] として、前記移動量( v )と前記各距離の変化量( m )に基づき次式の連立方程式を解くことにより前記単位ベクトル情報 a を算出することが好ましい。
(数3)
= v・a (k = 1,2,・・・n なお、nは3以上の整数)
ここで、
= [ vkxkykz ]
= L − L
はレーザ干渉計から初期位置までの距離を示し、
はレーザ干渉計から初期位置を除く他の測定位置までの距離を示す。
【0026】
また本発明において、前記少なくとも4つの測定位置を選ぶステップでは、前記干渉光強度の検出位置にて前記反射光のビームスポットと前記参照光のビームスポットとが少なくとも重なるように、前記再帰反射体の各測定位置を選ぶことが好ましい。
ここで、前記レーザ干渉計は、追尾式レーザ干渉計であってもよい。また、前記ハンドリング装置は、工作機械や座標測定機などの産業用機械であることが好適である。
【0027】
本発明に係る長さ測定システムは、前記レーザ干渉計と、前記再帰反射体と、前記ハンドリング装置とを備え、前述の方法で測定された測定光の光軸方向に、前記ハンドリング装置により前記再帰反射体を移動させて、該移動量をレーザ干渉計にて測定することを特徴とする。
【0028】
本発明に係る検査方法は、前記長さ測定システムを用いて測定される前記再帰反射体の移動量と、前記ハンドリング装置にて検出される再帰反射体の移動前後の位置の座標情報に基づく前記再帰反射体の移動量と、を比較することにより、前記ハンドリング装置の位置決め精度を検査することを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
発明者は、測定光のビーム径に応じた微小空間内ではあるが、レーザ干渉計の測定光の光軸が固定されている状態であっても、レーザ干渉計が干渉光を測定し得るターゲットの位置を複数選択できる点に着目した。本発明によれば、干渉光を測定し得るターゲットの測定位置を、同一平面上に存在しない少なくとも4箇所選び、ハンドリング装置を用いて各測定位置にターゲットを順次移動させて、各測定位置の座標情報を取得し、測定位置間の移動量(v)を算出する。また、レーザ干渉計を用いてターゲットまでの距離の変化量(m)を測定する。そして、ターゲットの測定位置間の移動量(v)とターゲットまでの距離の変化量(m)に基づいて、測定光の光軸方向のベクトル情報(a)を取得することができる。従って、測定光の光軸方向が固定であるレーザ干渉計を用いても、そのレーザ干渉計の光軸方向を精度よく測定できる。また、測定された光軸方向の情報を用いれば、光軸方向が固定である汎用のレーザ干渉計を用いてハンドリング装置の位置決め精度の検査が可能になる。
また、特許文献2のように追尾式レーザ干渉計からの測定光をミラーなどで反射させてから、その測定光をターゲットに入射させる方法で、ターゲットの移動量を測定する場合など、ターゲットを大きく動かす事が困難な場合でも、測定光の光軸方向を測定することが可能となる。
また、干渉光強度が最大となる位置を探索する工程を含まないため、測定光の光軸方向の測定作業を容易に自動化できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】レーザ干渉計を利用した位置決め装置の検査において、レーザ干渉計の測定光の光軸方向の情報を取得する従来方法を説明する図である。
【図2】本発明で用いるマイケルソン型干渉計の構造図である。
【図3】本発明で用いる再帰反射体の具体的な形状を示す図である。
【図4】追尾機能を有するレーザ干渉計を用いて測定光の光軸方向の情報を取得する従来方法を説明する図である。
【図5】本発明に係る測定システムの全体構成を示す図である。
【図6】本発明に係るターゲットからの反射光が入射光の光路中心からオフセットした場合の可干渉範囲の変化について説明する図である。
【図7】本発明に係る測定光の光軸方向の情報を取得する方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<レーザ光の光軸方向を測定するシステムの全体構成>
図5は、本発明の一実施形態に係る測定システム100の全体構成図である。
測定システム100は、ハンドリング装置102と、レーザ干渉計104と、再帰反射体106と、測定制御手段200を備える。
【0032】
ハンドリング装置102は、レーザ干渉計104と再帰反射体106とを直交3軸方向に相対的に移動させることができる装置である。ハンドリング装置102は、Y方向に移動可能でレーザ干渉計104を載置するY軸テーブル108と、Z方向に立設するコラム110、コラムに支持固定されX方向に延設したX軸アーム112、X軸アームに案内支持されてX方向に移動するX軸スライダ114、X軸スライダによって案内支持されZ方向に移動するZ軸スピンドル116、Z軸スピンドルの下端に固定された保持具118を有する。
【0033】
本発明では保持具118に再帰反射体106が取付けられており、ハンドリング装置102が、再帰反射体106をレーザ干渉計104に対して所望の相対的な位置に位置決めできる。また、ハンドリング装置102は、Y軸テーブルの絶対位置を検出するY位置検出器、X軸スライダの絶対位置を検出するX位置検出器、Z軸スピンドルの絶対位置を検出するZ位置検出器を有し、再帰反射体106の位置座標情報を検出する。
【0034】
なお、保持具118に測定用プローブ等を取付ければ、Y軸テーブル上のワークの表面性状を測定する測定システム等にもなる。ここで、Y軸テーブル108と固定コラムの代わりに、固定テーブルとY軸方向に移動可能なコラム110とを備えたハンドリング装置でもよい。
【0035】
レーザ干渉計104は、図2に示したようなマイケルソン型干渉計を利用する。以下の説明では、レーザ光の照射方向を変えることができる追尾式のレーザ干渉計を用いるが、通常の(固定式の)レーザ干渉計を用いることも可能である。
【0036】
再帰反射体106は、図3に示したような各種形状の光学素子を利用できる。本実施形態ではプリズム型の再帰反射体を用いる。
測定制御手段200は、ハンドリング装置102に対して再帰反射体106を所望の位置に位置決めさせる指令を行う手段、ハンドリング装置102から再帰反射体106の位置座標情報Pを取得する手段、レーザ干渉計104から再帰反射体106までの距離の変化量を取得する手段、および、レーザ干渉計104からの干渉光強度に基づきレーザ干渉計が干渉光を取得できたかどうかを判定する手段を有する。
【0037】
以上のように構成された測定システム100は、レーザ干渉計104からの測定光の光軸方向120に、ハンドリング装置102により再帰反射体106を移動させて、その移動量をレーザ干渉計104にて測定することができ、再帰反射体106の移動量を高精度に測定する長さ測定システムとしても利用できる。
【0038】
<レーザ光の光軸方向を測定する手順>
次に、測定システム100を用いて、レーザ干渉計104からの測定光の光軸方向120を測定する手順を説明する。
(1) Y軸テーブル108上にレーザ干渉計104を載置する。追尾型のレーザ干渉計104の場合、測定光の出射方向を所望の方向に向けて固定する。これによって、レーザ干渉計104からの測定光の光軸方向が測定中一定に保たれる。以上の手順を測定光の光軸方向を固定するステップと呼ぶ。
【0039】
(2) ターゲット(再帰反射体106)をレーザ光の光軸120上の初期位置pに位置決めする。ここでのターゲットの位置決めは、再帰反射体のほぼ中心を光軸120が通過するように位置決めされることが望ましいが、厳密である必要は無く、レーザ干渉計104が干渉光を測定できる範囲内であればよい。例えば図5中の右側に示すように、再帰反射体106を照射するレーザ光の光軸120が再帰反射体のコーナーポイントGを通らなくても、反射光は入射光と平行に返される。また、図2と同様に、レーザ干渉計104の干渉光強度の検出位置にて反射光のビームスポットと参照光のビームスポットとが少なくとも重なっていれば、レーザ干渉計104は干渉光を測定できる。位置決め完了後、ハンドリング装置102により初期位置pの座標情報を検出する。以上の手順を初期位置に再帰反射体を位置決めするステップと呼ぶ。
【0040】
(3) ハンドリング装置102が再帰反射体106をレーザ光(測定光)のビームスポット122の範囲内で移動させる。例えば、初期位置に位置決めするステップで再帰反射体106のコーナーポイントGの位置を初期位置pに合わせた場合、このコーナーポイントGの位置が、初期位置pから各測定位置p (i = x1〜z2) になるように再帰反射体を順番に位置決めする。レーザ干渉計の測定光の光軸は固定されたままである。ここでは、ハンドリング装置102により各測定位置pの座標情報を検出する。
【0041】
ここで、レーザ光のビームスポット122の範囲内でターゲットの再帰反射体106を移動させるとは、図2と同様に再帰反射体106による反射光と参照光とが干渉する範囲での移動を意味する。再帰反射体106は、その中心に対して点対称となるように入射光を反射して返すため、入射光と反射光の光軸がずれる。レーザ干渉計104のビーム径は有限であるため、入射光と反射光のずれ量が大きくなると、反射光と参照光の重なりが無くなり干渉信号を取ることが出来なくなる。逆に、一部でも重なる部分があれば干渉信号を検出することができる。
以上の手順をハンドリング装置が各測定位置の位置座標情報を検出するステップと呼ぶ。
【0042】
(4) 上記のステップ中には、次に示すレーザ干渉計104から再帰反射体106までの距離の変化量を測定するステップを同時に行う。すなわち、再帰反射体106が各測定位置間を移動する際に、レーザ干渉計が再帰反射体までの距離の変化量を測定する。
なお、予め、レーザ干渉計104が干渉光を検出でき、かつ、同一平面上に存在しない少なくとも4つの測定位置p (i = 0 , x1〜z2) を選択しておくステップを設けてもよい。そうすれば再帰反射体106をスムーズに各測定位置に位置決めできる。
【0043】
(5) 得られた各測定値から連立方程式をたて、これを解くことにより測定光の光軸方向を示すベクトル情報を取得する。
図6に再帰反射体106を移動させた場合の反射光の光軸の変化を示す。再帰反射体を測定光の入射側から観察した場合、反射光は再帰反射体106の中心(コーナープリズム型であればコーナーポイントG)に対して点対称な位置から返ってくる。すると、図6に示すように、再帰反射体106の移動方向が出射光の進行方向に対して直角である場合、同図(A)で示す点A、B間を往復する光路長(AB)と、同図(B)で示す点C、D、E、Fの順番に進むレーザ光の光路長(CDEF)とが一致し、光路長に変化が生じない。
【0044】
従って、再帰反射体106が光軸に対して直角方向に移動しても、レーザ干渉計104が測定する再帰反射体までの距離の変化量は零になる。このことは、レーザ干渉計104の測定値(レーザ干渉計から再帰反射体までの距離の変化量)には再帰反射体106の移動量のうち、光軸方向の成分のみが影響することを意味する。なお、図6では説明を簡単にするため、光学系を2次元的に説明した。
【0045】
図7に基づいて連立方程式の一例を説明すると、再帰反射体106の初期位置p から各測定位置p (i = x1〜z2) の移動量をv = [ vkxkykz ], (k = x,x,・・・z) 、光軸方向を示す単位ベクトルをa = [ a ] で表すと、レーザ干渉計から再帰反射体までの距離の変化量 m = L − L はv を単位ベクトルa方向に投影した値となる。すなわち、移動量vと単位ベクトルaとの内積が、距離の変化量mに等しいという関係(m=v・a)が成立する。なお、L はレーザ干渉計104から初期位置pまでの距離を示し、L はレーザ干渉計104から初期位置を除く他の測定位置pまでの距離を示す。
【0046】
【数4】

【0047】
この連立方程式を解くことにより、光軸方向を示す単位ベクトル情報 a を取得することができる。
本発明で特徴的なことは、光軸が固定されたレーザ光に対して再帰反射体106を移動させた際には、レーザ干渉計104の測定値には再帰反射体106の移動量のうち、光軸方向の成分のみが影響するという特性に着目し、各測定位置の位置座標情報p (i = 0、x1〜z2)に基づき測定位置間の移動量v (k = x,x,・・・z)を算出し、レーザ干渉計104で測定された各距離の変化量 m が、測定位置間の移動量 v をレーザ干渉計104の光軸方向に投影した値と等しいことを条件として上記の連立方程式を立てたことにある。
【0048】
ここでは例として、初期位置および、初期位置に対して上下前後左右の6方向の測定位置に再帰反射体106を移動させて、合計7箇所(p ,px1〜pz2 )の測定位置について測定したが、式(3)の連立方程式が可解となるためには、同一平面上に存在しない少なくとも4箇所の測定位置において測定を行えば良く、また、測定位置は上記の7箇所に限定されるものではない。
【0049】
本実施形態の効果を以下に示す。
(1) この方法は、特許文献1に示されるようなレーザ干渉計の回転中心点の位置座標を推定した上で、測定光の光軸方向を取得する方法とは異なり、レーザ干渉計104の測定光の光軸を固定したままで、必要な測定を行うことができる。従って、レーザ干渉計104による測定時の誤差要因が少なくなり、単位ベクトルaで示す光軸方向の情報を精度良く測定できる。
(2) 特許文献1のように回転中心点を推定する場合には、解かなければならない連立方程式が非線形となるが、本実施形態では連立方程式が線形であるため計算が容易となる。従って、計算条件が良くなり、再帰反射体106の測定位置への位置決め範囲が狭くても、光軸方向のベクトル情報(a)の測定値を精度良く取得できる。
【0050】
(3) また、特許文献2のように追尾式レーザ干渉計からの測定光をミラーなどで反射させてから、その測定光をターゲット(再帰反射体106)に入射させる方法で、ターゲットの移動量を測定する場合など、ターゲットを大きく動かす事が困難な場合でも、本実施形態によれば測定光の光軸方向を測定することが可能となる。
(4) 干渉光強度が最大となる位置を探索する工程を含まないため、測定光の光軸方向の測定作業を容易に自動化できる。
【0051】
<長さ測定システム>
本実施形態の測定システム100を用いて取得された光軸方向の単位ベクトル情報 a を用いて、ハンドリング装置102により再帰反射体106を光軸方向に移動させれば、レーザ干渉計104により再帰反射体106の移動量を精度よく測定することができる。すなわち、本実施形態の測定システム100を用いて高精度の長さ測定システムを構築できる。
【0052】
<位置決め精度の検査方法>
また、長さ測定システムを用いて測定される再帰反射体106の移動量と、ハンドリング装置102にて検出される再帰反射体106の移動前後の位置の座標情報に基づく再帰反射体の移動量と、を比較することにより、ハンドリング装置102の位置決め精度を検査することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のレーザ干渉計の光軸方向の測定方法は、三次元測定機(CMM)や工作機械などの位置決め機能を備えた産業用機械の検査や補正を行う際に利用できる。また、追尾式レーザ干渉計の光軸方向を測定する際にも利用できる。
【符号の説明】
【0054】
100 測定システム
102 ハンドリング装置
104 レーザ干渉計
106 再帰反射体
a 測定光の光軸方向を示す単位ベクトル
レーザ干渉計から再帰反射体までの距離の変化量
測定位置
測定位置間の移動量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を測定光と参照光に分割して、該測定光で外部のターゲットを照射し、ターゲットからの反射光と前記参照光との干渉光強度を検出するレーザ干渉計と、
前記ターゲットとして用いられ前記レーザ干渉計からの測定光の入射方向によらないで該測定光と平行な反射光を前記レーザ干渉計に返す再帰反射体と、
前記再帰反射体を支持して所定空間の任意の測定位置まで移動するとともに、該再帰反射体の位置座標情報を検出するハンドリング装置と、
を有し、前記ハンドリング装置が前記ターゲットを移動させた際の、前記レーザ干渉計からターゲットまでの距離の変化量を前記干渉光強度の変化に基づいて測定する測定システムを用いて、
前記レーザ干渉計の測定光の光軸方向を固定するステップと、
固定された測定光を前記再帰反射体が反射できる該再帰反射体の位置範囲から、前記レーザ干渉計が干渉光を検出でき、かつ、同一平面上に存在しない少なくとも4つの測定位置を選ぶステップと、
前記ハンドリング装置が前記再帰反射体を前記少なくとも4つの測定位置に移動させて、各測定位置の位置座標情報を検出するステップと、
前記再帰反射体が各測定位置間を移動する際に、前記レーザ干渉計が前記再帰反射体までの距離の変化量を測定するステップと、
前記ハンドリング装置で検出された各測定位置の位置座標情報、および前記レーザ干渉計で測定された各距離の変化量に基づいて、測定光の光軸方向を示すベクトル情報を算出するステップと、を備えることを特徴とするレーザ光の光軸方向の測定方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、
前記測定光の光軸方向を示すベクトル情報を算出するステップでは、
前記各測定位置の位置座標情報に基づき測定位置間の移動量を算出し、
前記レーザ干渉計で測定された各距離の変化量が、前記測定位置間の移動量を前記レーザ干渉計の光軸方向に投影した値と等しいことを条件として立式した連立方程式を解いて、前記ベクトル情報を算出することを特徴とするレーザ光の光軸方向の測定方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の方法において、
前記測定光の光軸方向を示すベクトル情報を算出するステップでは、
前記各測定位置の位置座標情報に基づいて、各測定位置の中の初期位置から他の各測定位置までの移動量( v )を算出し、
前記測定光の光軸方向を示す単位ベクトル情報を a = [ a ] として、前記移動量( v )と前記各距離の変化量( m )に基づき次式の連立方程式を解くことにより前記単位ベクトル情報 a を算出することを特徴とするレーザ光の光軸方向の測定方法。
(数1)
= v・a (k = 1,2,・・・n nは3以上の整数)
ここで、
= [ vkxkykz ]
= L − L
はレーザ干渉計から初期位置までの距離を示し、
はレーザ干渉計から初期位置を除く他の測定位置までの距離を示す。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の方法において、
前記少なくとも4つの測定位置を選ぶステップでは、前記干渉光強度の検出位置にて前記反射光のビームスポットと前記参照光のビームスポットとが少なくとも重なるように、前記再帰反射体の各測定位置を選ぶことを特徴とするレーザ光の光軸方向の測定方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の方法において、前記レーザ干渉計が、追尾式レーザ干渉計であることを特徴とするレーザ光の光軸方向の測定方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の方法において、前記ハンドリング装置が、工作機械や座標測定機などの産業用機械であることを特徴とするレーザ光の光軸方向の測定方法。
【請求項7】
レーザ光を測定光と参照光に分割して、該測定光で外部のターゲットを照射し、ターゲットからの反射光と前記参照光との干渉光強度を検出するレーザ干渉計と、
前記ターゲットとして用いられ前記レーザ干渉計からの測定光の入射方向によらないで該測定光と平行な反射光を前記レーザ干渉計に返す再帰反射体と、
前記再帰反射体を支持して所定空間の任意の測定位置まで移動するとともに、該再帰反射体の位置座標情報を検出するハンドリング装置と、を備え、
請求項1に記載の方法で測定された測定光の光軸方向に、前記ハンドリング装置により前記再帰反射体を移動させて、該移動量をレーザ干渉計にて測定することを特徴とする長さ測定システム
【請求項8】
請求項7記載の長さ測定システムを用いて測定される前記再帰反射体の移動量と、前記ハンドリング装置にて検出される再帰反射体の移動前後の位置の座標情報に基づく前記再帰反射体の移動量と、を比較することにより、前記ハンドリング装置の位置決め精度を検査することを特徴とする位置決め精度の検査方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−93105(P2012−93105A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238327(P2010−238327)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】