説明

レーザ加工ロボット

【課題】 大出力のレーザ発振器を用いて高速でかつ高精度でレーザ加工をおこなうことができ、被加工物や治具等との干渉が少ないレーザ加工ロボットを提供する。
【解決手段】 垂直多関節形ロボット1の第3軸J3により駆動されるアーム10の先端部に、第3軸J3の軸線に対して直角方向に延びる第4軸線S4とこの第4軸線に直交する第5軸線S5の回りに2つの回転自由度を有し先端に集光部24をそなえた手首部20であって、第4軸線S4に沿って入射したレーザビームを第5軸線S5上に設けた2つのベンドミラー25,26により第5軸線S5を経て集光部24へ偏向するレーザビーム伝送路を内部にそなえてなる手首部の基部20aを、取付けるとともに、手首部の基部20aに向って第4軸線S4と同軸状にレーザビームを出力するレーザ発振器30を、アーム10に搭載した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーザビームを集束して立体形状の被加工物をレーザ加工するレーザ加工ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば樹脂成形部品などの立体形状の被加工物に対して、穴あけ、切断、加熱、溶融などのレーザ加工をおこなうレーザ加工装置としては、ガントリー型やテーブル移動型などの直交型の三次元レーザ加工機より、ロボットの先端軸に加工ヘッドをそなえたレーザロボットの方がコンパクトで安価であり、複数台による同時加工もできるため、多くの装置が生産現場に導入されている。そしてこのレーザロボットとしては、ロボットとは別置きのレーザ発振装置を用いるものは、設置スペースがかさむものであるため、レーザ発振器をロボット本体に搭載する型式のレーザロボットも提案されている(たとえば特許文献1,2参照。)。
【特許文献1】特許第3617384号公報
【特許文献2】特開2004ー24335号公報
【0003】
しかしながら、上記従来技術のうち先ず特許文献1に記載のものは、図5に示すように、垂直多関節形ロボット61のアーム先端の手首部62に、レーザ発振器63をそなえた加工ヘッド64を取付けたものであり、レーザ加工時にはレーザ発振器63は手首部62と共に手首旋回軸線αの回りに、および手首部62に対して手首回転軸線βの回りに、それぞれ回動するため、大型大出力のレーザ発振器63の場合、大重量の加工ヘッド64が振動して出力レーザビームの軌跡精度が悪化するので加工速度が大巾に制限され、また大型の加工ヘッド64が被加工物やそれを支える治具などと干渉し衝突するなど、大きな問題点を有するものであった。
【0004】
また特許文献2に記載のものは、垂直多関節形ロボットの第3関節部と一体の上部アームに手首旋回軸を、第3関節部の軸線に直交する第4軸線の回りに旋回自在に支持し、この手首旋回転軸の外部側方に、第4軸線と平行にレーザ発振器を取付けたものであるため、レーザ加工時には第4軸線に対して偏心位置にあるレーザ発振器は第4軸線の回りに回動することにより、特許文献1に記載のものと同様に加工ヘッドの振動や軌跡精度の悪化を生じ、大型大出力のレーザ発振器の採用は困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は上記従来の問題点を解決しようとするもので、大出力のレーザ発振器を用いて高速でかつ高精度でレーザ加工をおこなうことができ、被加工物や治具等との干渉が少ないレーザ加工ロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1記載のレーザ加工ロボットは、垂直多関節形ロボットの第3軸により駆動されるアームの先端部に、前記第3軸の軸線に対して直角方向に延びる第4軸線とこの第4軸線に直交する第5軸線の回りに2つの回転自由度を有し先端に集光部をそなえた手首部であって、前記第4軸線に沿って入射したレーザビームを前記第5軸線上に設けた2つのベンドミラーにより前記第5軸線を経て前記集光部へ偏向するレーザビーム伝送路を内部にそなえてなる手首部の基部を、取付けるとともに、前記手首部の基部に向って前記第4軸線と同軸状にレーザビームを出力するレーザ発振器を、前記アームに搭載したことを特徴とする。
【0007】
請求項1記載の発明によれば、レーザ発振器は第3軸により揺動駆動されるアーム上に搭載されており、従来のレーザ加工ロボットのように第4軸線や第5軸線の回りに回転駆動されることはないので、大形大出力のレーザ発振器を用いても振動などによる加工精度の低下を生じることがなく、また被加工物やそれを保持する治具等とレーザ発振器部との干渉も少なくて済み、手首部の基部に第4軸線と同軸状に入射しレーザビーム伝送路を経て集光部から射出されるレーザビームによって、高速でかつ高精度でレーザ加工をおこなうことができる。
【0008】
また請求項2記載のレーザ加工ロボットは、請求項1記載のレーザ加工ロボットにおいて、前記レーザ発振器の出力するレーザビームを前記第4軸線と同軸状に合わせる手段として、前記レーザ発振器の前記アームに対する取付位置調整機構をそなえたことを特徴とする。
【0009】
この請求項2記載の発明によれば、レーザ発振器のアームに対する取付位置の調整により、レーザ発振器の出力するレーザビームのビーム軸を手首部の第4軸線に対して確実・容易に同軸状に調整でき、高精度のレーザ加工をおこなうことができる。
【0010】
また請求項3記載のレーザ加工ロボットは、請求項1記載のレーザ加工ロボットにおいて、前記レーザ発振器の出力するレーザビームを前記第4軸線と同軸状に合わせる手段として、前記レーザ発振器のレーザビーム出口部に、反射角度調整機構をそなえた2枚のベンドミラーをレーザビーム出力軸と交差する交差軸上に配設してなり、両ベンドミラーによるレーザビームの偏向によりレーザビームの軸線の位置および向きを調整するビーム調整機構を設けたことを特徴とする。
【0011】
この請求項3記載の発明によれば、小型軽量のビーム調整機構の2枚のベンドミラーの反射角度調整により、手首部の基部に入射するレーザビームのビーム軸を第4軸線に対して確実・容易に同軸状に調整でき、高精度のレーザ加工をおこなうことができる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したようにこの発明によれば、大出力のレーザ発振器を用いて高速でかつ高精度でレーザ加工をおこなうことができ、被加工物や治具等との干渉が少ないレーザ加工ロボットを得ることができる。
【0013】
また上記の効果に加えて、請求項2記載の発明によれば、レーザ発振器のアームに対する取付位置の調整により、レーザビームを手首部の基部に第4軸線と同軸状に入射させて高精度のレーザ加工をおこなうことができ、また請求項3記載の発明によれば、ビーム調整機構によりレーザビームを手首部の基部に第4軸線と同軸状に入射させて高精度のレーザ加工をおこなうことができるとともに、ビーム調整機構は小型軽量・低コストのもので済み、アーム部を小型軽量化してさらに高精度のレーザ加工をおこなうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下図1〜図3により、この発明の実施の形態の一例を説明する。図1において、1は垂直多関節形ロボットで、基本三軸として第1軸J1,第2軸J2,第3軸J3を有し、第3軸J3により駆動されるアーム10の先端に、第4軸および第5軸に相当する2つの回転自由度を有する手首部20を取付けて、全体として五軸構成のロボットを形成している。
【0015】
基本三軸部の構成としてこの例では、基台2上に支持され略垂直な第1軸線S1の回りに第1軸J1により旋回駆動される下部アーム3の上端部に、略水平な第2軸線S2の回りに第2軸J2により揺動駆動される中間アーム4を連結し、この中間アーム4の上端部に、上記第2軸線S2と平行な第3軸線S3の回りに、第3軸J3により揺動駆動されるアーム(上部アーム)10を揺動可能に連結してなる。
【0016】
アーム10は、図2および図3に示すように、レーザ発振器30の収容・支持部材としてケーシング状を呈するとともに、手首部20の回転支持部材であり、ケーシング前壁部11に、手首部20の基部が、後述する第4軸線S4の回りに回転自在に取付けられている。
【0017】
手首部20は、第3軸J3の回転中心線である前記第3軸線S3に対して直角方向に延びる第4軸線S4と、この第4軸線S4に直交する第5軸線S5の回りに、2つの回転自由度を有するものであり、図2に示すように、第4軸線S4の回りに回転する円筒状の第1手首部材21と、この第1手首部材21の先端側側部に第5軸線S5の回りに回転可能に取付けられ先端部に集光レンズ23を内蔵する集光部24をそなえた中空短筒状の第2手首部材22とからなる。そして第1手首部材21には、第4軸線S4と第5軸線S5の交差部に第1ベンドミラー25を設け、第2手首部材22には、第5軸線S5上に第2ベンドミラー26を設けて、第4軸線S4に沿って入射したレーザビームを第5軸線S5を経て集光部24の集光レンズ23部へ偏向し、第5軸線S5に直交する出力ビーム27として射出するレーザビーム伝送路28を、手首部20の内部に形成してある。
【0018】
そして第1手首部材21の基部は、前記ケーシング前壁部11に第4軸線S4の回りに回転自在に支持され、この例では第1手首部材21はアーム10内に設けた第4軸モータMにより、また第2手首部材22は第1手首部材21に取付けた第5軸モータMにより、それぞれタイミングベルトを介して回転駆動される。
【0019】
一方レーザ発振器30は、前記手首部20(の第1手首部材21)の基部20aに向って、第4軸線S4と同軸状にレーザビームを出力するように、アーム10上に取付けられ、この例では、アーム10のケーシング底板12上に間隔をおいて支持された支持板13上に、レーザ発振器30が取付けられている。そして支持板13(従ってレーザ発振器30)の上下方向および図3に矢印Yで示す左右方向の位置調整用に、支持板13の四隅部に、ケーシング底板12に設けたねじ穴にねじ込まれ上端部が支持板13下面を支持する押上ボルト14と、頭部が支持板13に溶接等により固着され下部がケーシング底板12に設けた左右方向に延びる長穴を貫通してナット16が締付けられるロックボルト15と、ケーシング側壁17に設けたねじ穴にねじ込まれ先端部が支持板13の側端面部に当接する位置決めボルト18とを、それぞれ設けて、これら各ボルト類と支持板13とによって、レーザ発振器30のアーム10に対する取付位置調整機構19を形成してある。
【0020】
上記構成のレーザ加工ロボット40によりレーザ加工をおこなうには、先ずアーム10上のレーザ発振器30を、取付位置調整機構19の各ボルト類の回転操作により、レーザ発振器30の出力するレーザビームのビーム軸を第4軸線S4と同軸状になるように調整後、アーム10に固定する。これによってレーザ発振器30の出力するレーザビームは、第1手首部材21内を第4軸線S4と同軸状に進行し第1ベンドミラー25により90度偏向させられて第5軸線S5上を進行し、第2手首部材22の第2ベンドミラー26により90度偏向させられ、集光レンズ23により集光されて集光部24の先端から出力ビーム27として射出される。
【0021】
そこで垂直多関節形ロボット1の第1軸J1〜第3軸J3によるアーム10の三軸動作と、手首部20の第4軸線S4および第5軸線S5回りの回転動作とを組合わせた五軸自由度のロボット動作を、公知の制御方法によっておこなわせることにより、集光部24の出力ビーム27を立体形状の被加工物の表面に対して垂直に保つよう移行動作させて、三次元の立体レーザ加工をおこなうことができる。
【0022】
このとき前述のようにレーザ発振器30の出力するレーザビームのビーム軸と、手首部20の回転中心である第4軸線S4は同軸状となるように調整してあるので、上記ビーム軸と第4軸線S4のずれがある場合に手首部20の回転動作に伴って集光部24の出力ビーム27が被加工物照射面に対して、みそすり状に回転移動する現象が回避され、また出力ビーム27と、集光部24と同軸状に被加工物に加工ガスを吹付けるガスノズル(図示しない)との干渉も防止されて、精度よくかつ支障なくレーザ加工をおこなうことができる。
【0023】
そしてレーザ発振器30は第3軸J3により揺動駆動されるアーム10上に搭載されており、従来のレーザ加工ロボットのように第4軸線S4や第5軸線S5の回りに回転駆動されることはないので、大形大出力のレーザ発振器30を用いても振動などによる加工精度の低下を生じることがなく、また被加工物やそれを保持する治具等とレーザ発振器30部との干渉も少なくて済み、高速でかつ高精度でレーザ加工をおこなうことができるのである。
【0024】
次に図4は、この発明の実施の形態の他の例を示し、レーザ発振器30のアーム10に対する取付構造が前記の例と異なるものであり、その他の各部構成は前記の例と同じであり、図2と同一部分には同一符号を付して図示し、それらの部分の詳細な説明は省略する。
【0025】
すなわちこの例では、レーザ発振器30は前記の支持板13を介することなくアーム10のケーシング底板12上に直接取付けられているとともに、レーザ発振器30のレーザビーム出力部30aには、屈曲管状の導波管51に反射角度調整機構付きの2枚のベンドミラー52,53を取付けてなるベンドブロック50を取付けてある。2枚のベンドミラーのうち一方のベンドミラー52は、レーザ発振器30の出力するレーザビームのレーザビーム出力軸30b上に設けてあり、このベンドミラー52の反射面部においてレーザビーム出力軸30bに対して交差(この例においては直交)する交差軸線54上に、他方のベンドミラー53が取付けてあり、このベンドブロック50が、手首部20の基部20aに入射するレーザビームの軸線および向きを調整するビーム調整機構を形成している。
【0026】
そしてこのベンドブロック50部においては、レーザ発振器30の出力するレーザビームは、導波管51内に入射してベンドミラー52によりベンドミラー53に向う方向に偏向され、ベンドミラー53により手首部20の基部20aに向うように偏向される。このとき各ベンドミラー52,53の反射角度調整機構によってレーザビームの偏向方向を調整することにより、上記基部20aに入射するレーザビームの軸線の位置および向き(角度)を調整して、レーザ発振器30の出力するレーザビームを第4軸線と同軸状のレーザビームLとして上記基部20aに入射させることができる。
【0027】
これによって、前記の例より小型軽量のベンドブロック50により、前記の例と同様に手首部20の基部20aに入射するレーザビームLのビーム軸と第4軸線S4とのずれをなくして、このずれによる前述の出力ビーム27のみそすり状の回転移動や出力ビーム27とガスノズルとの干渉などの問題点を解消して、精度よくかつ支障なくレーザ加工をおこなうことができるのである。
【0028】
この発明は上記の各例に限定されるものはなく、たとえば垂直多関節形ロボット1,アーム10,手首部20などの具体的構成は上記以外のものとしてもよく、またレーザ発振器30のアーム10への取付構造やその出力するレーザビームを第4軸線と同軸状に合せる機構も、上記以外のものとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明の実施の形態の一例を示すレーザ加工ロボットの概略構造説明図である。
【図2】図1のアームの縦断面(図3のA−A線断面)図である。
【図3】図2のB−B線拡大断面図である。
【図4】この発明の実施の形態の他の例を示すアーム先端部の部分切欠平面図である。
【図5】従来のレーザ加工ロボットの一例を示す概略構造説明図である。
【符号の説明】
【0030】
1…垂直多関節形ロボット、10…アーム、11…ケーシング前壁部、12…ケーシング底板、13…支持板、14…押上ボルト、15…ロックボルト、16…ナット、17…ケーシング側壁、18…位置決めボルト、19…取付位置調整機構、20…手首部、20a…基部、21…第1手首部材、22…第2手首部材、23…集光レンズ、24…集光部、25…第1ベンドミラー、26…第2ベンドミラー、28…レーザビーム伝送路、30…レーザ発振器、40…レーザ加工ロボット、50…ベンドブロック、52…ベンドミラー、53…ベンドミラー、54…交差軸線、J3…第3軸、S3…第3軸線、S4…第4軸線、S5…第5軸線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直多関節形ロボットの第3軸により駆動されるアームの先端部に、前記第3軸の軸線に対して直角方向に延びる第4軸線とこの第4軸線に直交する第5軸線の回りに2つの回転自由度を有し先端に集光部をそなえた手首部であって、前記第4軸線に沿って入射したレーザビームを前記第5軸線上に設けた2つのベンドミラーにより前記第5軸線を経て前記集光部へ偏向するレーザビーム伝送路を内部にそなえてなる手首部の基部を、取付けるとともに、
前記手首部の基部に向って前記第4軸線と同軸状にレーザビームを出力するレーザ発振器を、前記アームに搭載したことを特徴とするレーザ加工ロボット。
【請求項2】
前記レーザ発振器の出力するレーザビームを前記第4軸線と同軸状に合わせる手段として、前記レーザ発振器の前記アームに対する取付位置調整機構をそなえたことを特徴とする請求項1記載のレーザ加工ロボット。
【請求項3】
前記レーザ発振器の出力するレーザビームを前記第4軸線と同軸状に合わせる手段として、前記レーザ発振器のレーザビーム出口部に、反射角度調整機構をそなえた2枚のベンドミラーをレーザビーム出力軸と交差する交差軸上に配設してなり、両ベンドミラーによるレーザビームの偏向によりレーザビームの軸線の位置および向きを調整するビーム調整機構を設けたことを特徴とする請求項1記載のレーザ加工ロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−78288(P2009−78288A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249373(P2007−249373)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(598143745)メルコメカトロシステム株式会社 (7)
【Fターム(参考)】