説明

レーザ加工方法およびレーザ加工装置

【課題】基板において不純物が拡散する領域のばらつきを抑えることができるレーザ加工方法およびレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】レーザ加工装置は、被加工物600に照射されるレーザ光Bを発振するレーザ発振器400と、レーザ加工装置の動作を全体的に制御する制御システム100を含む。制御システム100は、被加工物600表面がレーザ光Bのフォーカス位置に位置するように、被加工物600の表面の位置を調整する。また、制御システム100は、必要とされる拡散深さまたは拡散幅に応じて、レーザ発振器400が発振するレーザ光Bの強度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工方法およびレーザ加工装置に関し、特に、レーザ光を利用して基板に不純物をドーピングするためのレーザ加工方法およびレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体製造の際等に行なわれるレーザ光を用いた基板への不純物のドーピングに関し、種々の技術が開示されている。
【0003】
たとえば、特許文献1(特開2004−158564号公報)には、基板上に拡散剤を塗布し、元素濃度や拡散剤濃度の高い部分をエッチングや化学的機械研磨などによって除去することにより、ゲッタリング法を使用することなくゲッタリングを完了し、これにより、作業工程の短縮を図りつつドーピング深さを容易に制御するドーピングの方法が開示されている。また、特許文献2(特開平5−326430号公報)には、気相のドーパントを用いるドーピング方法において、ドーピング効率を高める等の理由から温度制御を行なう技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−158564号公報
【特許文献2】特開平5−326430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のレーザ加工方法では、上記のように作業時間の短縮やドーピング効率の向上については検討がなされていたものの、基板において不純物が拡散される領域のばらつきの抑制については、あまり検討がなされていなかった。
【0006】
本発明は、かかる実情に鑑み考え出されたものであり、その目的は、基板において不純物を拡散させる領域のばらつきを抑えることができるレーザ加工方法およびレーザ加工装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に従ったレーザ加工方法は、レーザ発振器と当該レーザ発振器が発振したレーザ光を被加工物に照射するための光学系とを備え、被加工物に不純物をドーピングするレーザ加工装置が実行するレーザ加工方法であって、レーザ加工装置が、被加工物が光学系のフォーカス位置に位置するように被加工物と光学系の距離を調整するステップと、レーザ発振器が発振するレーザ光の一部の強度を計測するステップと、強度を計測するステップにおいて計測した強度に基づいて、レーザ発振器がレーザ光を発振する強度を制御するステップとを備える。
【0008】
また、本発明のレーザ加工方法では、距離を調整するステップは、レーザ発振器が発振するレーザ光の光軸方向での被加工物の位置を計測するステップと、位置を計測するステップにおいて計測した位置に基づいて、被加工物と光学系の距離を調整するステップとを含むことが好ましい。
【0009】
また、本発明のレーザ加工方法は、レーザ加工装置に、被加工物上における不純物が拡散する深さの指定を受け付けるステップと、被加工物上における不純物が拡散する深さとレーザ発振器がレーザ光を発振する強度とを関連付けて記憶する記憶媒体を参照することにより、指定に基づく深さに対応する強度を取得するステップとをさらに実行させ、強度を制御するステップは、レーザ発振器を、取得するステップにおいて取得された強度でレーザ光を発振するように制御することが好ましい。
【0010】
また、本発明のレーザ加工方法は、レーザ加工装置に、被加工物上における不純物が拡散する幅の指定を受け付けるステップと、被加工物上における不純物が拡散する幅とレーザ発振器がレーザ光を発振する強度とを関連付けて記憶する記憶媒体を参照することにより、指定に基づく幅に対応する強度を取得するステップとをさらに実行させ、強度を制御するステップは、レーザ発振器を、取得するステップにおいて取得された強度でレーザ光を発振するように制御することが好ましい。
【0011】
本発明に従ったレーザ加工装置は、レーザ発振器と、レーザ発振器が発振したレーザ光を被加工物に照射するための光学系と、被加工物が光学系のフォーカス位置に位置するように被加工物と光学系の距離を調整する調整手段と、レーザ発振器が発振するレーザ光の一部の強度を計測する強度計測手段と、強度計測手段が計測した強度に基づいて、レーザ発振器がレーザ光を発振する強度を制御する制御手段とを備える。
【0012】
また、本発明のレーザ加工装置では、調整手段は、レーザ発振器が発振するレーザ光の光軸方向での被加工物の位置を計測し、計測した被加工物の位置に基づいて、被加工物と光学系の距離を調整することが好ましい。
【0013】
また、本発明のレーザ加工装置は、被加工物上における不純物が拡散する深さの指定を受け付ける受付部をさらに備え、制御手段は、被加工物上における不純物が拡散する深さとレーザ発振器がレーザ光を発振する強度とを関連付けて記憶する記憶媒体を参照することにより、指定に基づく深さに対応する強度を取得し、レーザ発振器を、取得した強度でレーザ光を発振するように制御することが好ましい。
【0014】
また、本発明のレーザ加工装置は、被加工物上における不純物が拡散する幅の指定を受け付ける受付部をさらに備え、制御手段は、被加工物上における不純物が拡散する幅とレーザ発振器がレーザ光を発振する強度とを関連付けて記憶する記憶媒体を参照することにより、指定に基づく幅に対応する強度を取得し、レーザ発振器を、取得した強度でレーザ光を発振するように制御することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
上記構成によれば、レーザ加工装置において、被加工物がレーザ発振器の光学系のフォーカス位置に配置されることにより、レーザ光により確実に被加工物表面に不純物を拡散させることができる。
【0016】
また、レーザ発振器が発振するレーザ光の一部についての強度の測定結果に基づいてレーザ発振器が発振するレーザ光の強度が制御される。これにより、レーザ発振器が発振するレーザ光の強度を、正確に制御できる。
【0017】
そして、上記のように被加工物をフォーカス位置に配置し、かつ、レーザ発振器が発振するレーザ光の強度を正確に制御できることにより、被加工物における不純物の拡散の深さや幅のばらつきを抑え、これにより、被加工物において不純物が拡散する領域の大きさのばらつきを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のレーザ加工装置の構成の一実施の形態を模式的に示す図である。
【図2】図1の被加工物拡大図である。
【図3】図2の被加工物の拡散層近傍の端面の拡大図である。
【図4】図1の制御システムのハードウェア構成を模式的に示す図である。
【図5】本実施の形態のレーザ加工装置における集光レンズと被加工物の位置関係を模式的に示す図である。
【図6】本実施の形態のレーザ加工装置における、被加工物表面のレーザ光の光軸上の位置と被加工物において不純物が拡散する深さの関係を示す図である。
【図7】被加工物がフォーカス位置にあるときの、レーザ発振器が発振するレーザ光の強度と拡散の深さの関係を示す図である。
【図8】本実施の形態のレーザ加工装置における、被加工物表面のレーザ光の光軸上の位置と被加工物において不純物が拡散する幅の関係を示す図である。
【図9】被加工物がフォーカス位置にあるときの、レーザ発振器が発振するレーザ光の強度と拡散の深さの関係を示す図である。
【図10】レーザ加工装置において、フォーカス位置を求める場合の処理内容を説明するための図である。
【図11】レーザ加工装置において、被加工物にレーザ光を照射することにより基板内に不純物を拡散させる際に実行される処理のフローチャートである。
【図12】図1のレーザ加工装置の変形例の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に従った情報処理装置の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、各図において、同一の機能を発揮する構成要素については、同一の符号を付し、詳細な説明は繰返さない。
【0020】
[1.レーザ加工装置の概略構成]
図1は、本発明のレーザ加工装置の構成の一実施の形態を模式的に示す図である。
【0021】
図1を参照して、レーザ加工装置は、被加工物600に照射するレーザ光Bを発振するためのレーザ発振器400を含む。
【0022】
レーザ発振器400は、いかなるタイプのレーザ発振装置でも良い。つまり、ルビーレーザやYAGレーザ等の固体レーザであっても良いし、色素レーザ等の液体レーザであっても良いし、炭酸ガスレーザやエキシマレーザ等のガスレーザであって良いし、半導体レーザであっても良いし、自由電子レーザであっても良いし、また、金属蒸気レーザや化学レーザであっても良い。
【0023】
また、レーザ加工装置は、レーザ光Bの一部の光路を分岐する光学素子310と、レーザ光Bを被加工物600に向けて集光する集光レンズ320とを含む。光学素子310は、たとえばビームスプリッタによって実現される。また、レーザ加工装置は、当該レーザ加工装置の動作を全体的に制御する制御システム100と、光学素子310によって分岐されたレーザ光B1を入力される計測装置311と、集光レンズ320のレーザ光Bの光軸上での集光位置を調整するレンズ駆動部321と、距離計測装置201と、被加工物600が載置されるテーブル200とを含む。
【0024】
本実施の形態では、集光レンズ320により、レーザ発振器400が発振したレーザ光を被加工物600に照射するための光学系が構成される。
【0025】
テーブル200は、当該テーブルを図1に示すX軸およびZ軸方向ならびに図2に示すY軸方向に移動させるためのモータ等の機構を含む。
【0026】
光学素子310は、入力されるレーザ光Bを一定の割合で計測装置311へ導入する。計測装置311は、たとえば光パワーメータからなり、入力されたレーザ光の強度を計測し、計測結果を制御システム100に出力する。これにより、制御システム100は、計測装置311から出力されるレーザ光の強度に基づいて、レーザ発振器400が出力するレーザ光の強度を決定する。そして、決定した強度に基づいて、レーザ発振器400が出力するレーザ光の強度を制御する。
【0027】
レーザ発振器400は、所定のビーム強度のレーザ光を連続して出力するタイプと、一定の時間間隔で一定のビーム強度のレーザ光を断続的に出力するタイプがある。いずれのタイプであっても、その出力を時間平均すると、特定のビーム強度が出力されることとなる。制御システム100は、レーザ発振器400が発振するレーザ光の、時間平均された出力強度を制御することにより、レーザ発振器400が出力するレーザ光の強度を制御する。つまり、制御システム100は、レーザ発振器400の、出力するレーザ光の強度を制御しても良いし、単位時間当たりのレーザ光を発振する時間を制御しても良いし、これらの双方を制御しても良い。レーザ光の強度を制御する場合、制御システム100は、たとえば、レーザ加工装置がアッテネータ(減衰器)をさらに備え、当該減衰器によってレーザ発振器400が出力したレーザ光を集光レンズ320に入射する前に減衰させる度合いを制御する。
【0028】
制御システム100は、レンズ駆動部321による集光レンズ320の位置の調整態様を制御する。
【0029】
距離計測装置201は、たとえば光学的手法によって、当該距離計測装置201と被加工物600表面の、レーザ光Bの光軸方向の距離を計測する。そして、計測した当該距離を、制御システム100へ出力する。距離計測装置201は、レーザ加工装置において固定されている。制御システム100は、集光レンズ320の上記光軸上での位置を制御できる。したがって、制御システム100は、集光レンズ320の上記光軸上の位置と距離計測装置201が出力する被加工物600表面までの距離とに基づいて、集光レンズ320の主点と被加工物600の、レーザ光Bの光軸上の距離を決定できる。
【0030】
レーザ加工装置には、レーザ発振器400が発振したレーザ光のビーム径を変換するビームエキスパンダや、当該レーザ光を平行光に変換するコリメータレンズ等がさらに備えられても良い。
【0031】
図2は、図1の被加工物600の拡大図である。
図2をさらに参照して、被加工物600は、基板601と、当該基板601表面に設けられた拡散剤層602とを含む。拡散剤層602は、当該拡散剤層602を構成する液体の材料(基板601内に拡散させたい元素を含む)が、スピンコートやスプレー等によって基板601表面に付着させられ、100℃程度の温度で乾燥されることによって、形成される。
【0032】
なお、本実施の形態のレーザ加工装置の加工対象は、上記のような基板上に拡散層が形成されたものに限定されない。拡散剤を含んだ雰囲気中に設置された基板に対してレーザ光を照射することにより、当該基板内に当該拡散剤を拡散させる場合にも、本実施の形態のレーザ加工装置を利用することができる。
【0033】
本実施の形態のレーザ加工装置は、被加工物の表面をレーザ光により溶融することにより、被加工物の基板内に拡散剤(不純物)を拡散させる。被加工物600表面では、図2に示されるように、レーザ光Bが照射されると、当該レーザ光Bが照射された部分が溶融し、基板601内に拡散剤層602を構成する材料が拡散する。図2では、基板601の厚みがT1で示され、拡散剤層602の厚みがT2で示されている。また、図2では、基板601内の、当該材料が拡散した部分が、拡散層601Aとして示されている。
【0034】
図2には、X軸およびY軸が示されている。被加工物600表面のレーザ光Bの照射位置は、図2のX軸方向およびY軸方向に移動させることができる。照射位置の移動は、テーブル200を移動させることにより実現されても良いし、レーザ発振器400および集光レンズ320を移動させることにより実現されても良い。
【0035】
図2に示された例では、レーザ光Bの照射位置がY軸方向(矢印A1方向)に走査される状態が示されている。本実施の形態では、X軸方向の複数の位置においてレーザ光BをY軸方向に走査させることにより、被加工物600表面において、複数のライン状の拡散層が形成される。
【0036】
図3は、図2の被加工物600の拡散層601A近傍の端面の拡大図である。
図3では、被加工物600における拡散層601Aの深さD1と幅W1が示されている。なお、深さとは、被加工物600表面に照射されるレーザ光の光軸方向の拡散層601Aの寸法である。幅とは、当該レーザ光の光軸方向に交わる方向の拡散層601Aの寸法である。
【0037】
[2.制御システムのハードウェア構成]
図4は、制御システムのハードウェア構成を模式的に示す図である。
【0038】
図4を参照して、制御システム100を構成するコンピュータは、処理装置102、記憶装置103、ROM(Reed Only Memory)104、RAM(Random Access Memory)105、表示装置106、操作パネル107、および、ネットワークインターフェース(I/F)108を備えている。これらの各要素は、バス101によって互いに接続されている。
【0039】
記憶装置103は、被加工物600上に形成される拡散層の深さに関する情報を記憶する拡散深さプロファイル記憶部131と、当該拡散層の幅に関する情報を記憶する拡散幅プロファイル記憶部132と、プログラム記憶部133と、種々のデータを記憶するデータ記憶部134とを含む。
【0040】
処理装置102は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを含む。当該プロセッサ(処理装置102)がプログラム記憶部133に記憶されたプログラムを実行することにより、処理装置102は、本明細書に記載された、レーザ発振器400やテーブル200の動作の制御を実行する。なお、処理装置102が実行するプログラムは、必ずしも記憶装置103に記憶されていなくてもよく、処理装置102を含むコンピュータに着脱可能に構成された記録媒体に記録されていても良く、レーザ加工装置がネットワークに介して通信可能な記憶装置に記憶されていても良い。また、プログラム記憶部133は、レーザ加工装置の出荷時から上記プログラムを記憶していても良いし、ネットワークI/F108を介してネットワーク上の記憶装置からダウンロードされることによって上記プログラムを記憶しても良い。
【0041】
RAM105は、処理装置102のワークエリアとなる。操作パネル107は、キーボードやマウス、タッチパネル等の、情報を入力するための周知の装置である。
【0042】
制御システム100は、ネットワークI/F108を介して、テーブル200(の駆動部)、レーザ発振器400、および、レンズ駆動部321に制御信号を送信する。これにより、テーブル200は、制御システム100から指示されたパターンで、当該テーブル200に載置された被加工物を移動させる。また、レーザ発振器400は、制御システム100から指示されたタイミングで、指示された強度のレーザビームを発振する。また、レンズ駆動部321は、制御システム100から指示されたタイミングで、指示された方向に指示された距離だけ集光レンズ320を移動させる。
【0043】
図5は、本実施の形態のレーザ加工装置における集光レンズ320と被加工物600の位置関係を模式的に示す図である。
【0044】
図5では、レーザ光Bのフォーカス位置が位置Fで示されている。なお、本明細書において、フォーカス位置とは、集光レンズ320を通過したレーザ光Bの焦点位置を言う。
【0045】
そして、被加工物600の表面が、レーザ光Bのフォーカス位置から、レーザ光Bの光軸方向BPにおいて距離L2だけずれた状態が示されている。ここで、距離計測装置201から位置Fまでの光軸方向BPの距離はL1であるとする。そして、図5の状態において距離計測装置201が計測する距離はL3である。L3は、L1とL2の和である。
【0046】
制御システム100は、距離計測装置201の計測距離がL1となるように、つまり、被加工物600表面がレーザ光Bのフォーカス位置に位置するように、被加工物600の表面の位置を調整できる。なお、このような被加工物600の表面の位置の調整は、テーブル200をレーザ光Bの光軸BP方向(図1のZ軸方向)に移動させること、および/または、集光レンズ320を当該光軸方向に移動させることによって、実現される。
【0047】
また、本実施の形態のレーザ加工装置では、後述するように、必要とされる拡散深さまたは拡散幅に応じて、レーザ発振器400が発振するレーザ光Bの強度が制御される。
【0048】
[3.レーザ光の照射位置と拡散深さの関係]
図6は、本実施の形態のレーザ加工装置における、被加工物600表面のレーザ光の光軸上の位置(集光レンズ320と被加工物600の光軸方向の距離)と被加工物600において不純物が拡散する深さの関係を示す図である。
【0049】
図6から理解されるように、拡散する深さは、被加工物600の位置に対して、ある点を境にして左右対称に変化している。本実施の形態では、このような点に対応する被加工物600表面の位置をフォーカス位置とする。なお、拡散する深さは、フォーカス位置から離れると、或る程度一定の値(図6中の「安定領域」)を示した後、値が低下する。そして、フォーカス位置から所定の距離以上離れると、レーザ光が照射されても、被加工物600上に不純物の拡散に必要なエネルギが与えられなくなるため、拡散層は形成されず、拡散する深さが計測できなくなる。
【0050】
上記のように、本実施の形態のレーザ加工装置では、被加工物600の加工が行なわれる前に、被加工物600の試験片を用いて、フォーカス位置が決定される。フォーカス位置の決定は、たとえば、試験片に対して、Z軸方向(図1または図5参照)の位置を変更させながら、光軸上の複数の位置で、レーザ光を照射する。光軸上の複数の位置でレーザ光を照射されることにより、図10に示されるように、試験片600A上に、拡散層T11〜TNが形成される。そして、拡散層T11〜TNについて、図6に示したような被加工物600表面の光軸方向の位置と拡散の深さとの関係をプロットし、これらの関係から、フォーカス位置が決定される。
【0051】
フォーカス位置を決定するために、制御システム100は、被加工物600のZ軸方向の位置を制御しながら、被加工物600の複数のラインに、レーザ光を照射する。その後、被加工物600の複数ラインのそれぞれについて、拡散深さとZ軸方向の位置との入力を受け付ける。拡散深さは、ユーザによる測定結果が入力される。Z軸方向の位置は、たとえば、ユーザが、制御システム100に対してレーザ光の照射の際に指定した位置を記憶しておき、再度入力する。なお、Z軸方向の位置については、制御システム100に記憶されていても良い。この場合、ユーザは、各位置に対応する拡散深さの測定結果を入力する。そして、制御システム100は、入力された測定結果に基づいて、図6に示すようなプロットを作成し、フォーカス位置を決定する。
【0052】
なお、拡散深さは、簡易的には、拡散させた元素を選択的にエッチングする溶剤を用いてエッチングされた深さを測定することによって、計測される。また、詳細に計測する場合には、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometer:2次イオン質量分析計)が利用される。SIMSを利用すれば、拡散深さと、拡散層における不純物元素濃度分布の両方を、精度よく計測することができる。
【0053】
なお、レーザ加工装置において、被加工物600の照射面(レーザ光を照射される面)が理想的な平面、もしくは理想的な平面とみなしてよい場合は、その面上の3点の距離計測装置201との距離を計測することにより、照射面上の座標(X座標およびY座標)が一義的に決まる。一方、照射面が理想的な平面として扱えない場合は、必要に応じて4点以上の点についての上記距離を計測し、照射面の形状を求める。被照射物の板厚分布を測定する場合、照射面を測定する測定手段(例えばレーザ変位計など)の位置はレーザのジャストフォーカス位置Fとの位置関係が明確である必要がある。そうすることによって、レーザのジャストフォーカス位置Fと被照射物上の照射位置の高さ(集光レンズ320との光軸方向の距離)が一義的に決まる。
【0054】
[4.レーザ光の強度と拡散深さの関係]
被加工物600における不純物の拡散の深さは、上記したように、被加工物600表面の光軸方向に位置によって変化する。なお、当該拡散の深さは、レーザ発振器400が発振するレーザ光の強度に応じても変化する。図7は、被加工物600がフォーカス位置にあるときの、レーザ発振器400が発振するレーザ光の強度と拡散の深さの関係を示す図である。
【0055】
図7を参照して、レーザ光の強度が一定の値以下である場合には、レーザ光が照射されても被加工物が溶融されず、拡散深さは0である。そして、当該一定の値を超えると、上記強度の上昇に従って、拡散の深さが深くなる。
【0056】
レーザ加工装置では、レーザ光の強度を調整することにより、被加工物600内の不純物の拡散の深さを調整できる。
【0057】
なお、図7に示された関係は、拡散深さプロファイル記憶部131に記憶されている。
[5.レーザ光の照射位置と拡散幅の関係]
図8は、本実施の形態のレーザ加工装置における、被加工物600表面のレーザ光の光軸上の位置(集光レンズ320と被加工物600の光軸方向の距離)と被加工物600において不純物が拡散する幅の関係を示す図である。
【0058】
図8から理解されるように、拡散する幅は、被加工物600の位置に対して、ある点を境にして左右対称に変化している。本実施の形態では、このような点に対応する被加工物600表面の位置をフォーカス位置とする。
【0059】
図8から理解されるように、フォーカス位置F近傍では、フォーカス位置Fに近づくほど拡散の幅は狭く、オフフォーカスするにしたがって徐々に拡散の幅が広くなる。さらにオフフォーカスすると、広がった拡散の幅は再度狭くなる。そして、ある程度以上フォーカス位置Fから離れると、レーザ光を照射されても被加工物600表面は溶融されず、不純物の拡散がなくなる。
【0060】
各フォーカス位置における拡散の幅は、照射されるビーム径とエネルギ密度とによって決まる。ジャストフォーカス位置Fでは、照射ビーム径は小さく照射エネルギ密度は大きい。したがって、狭い領域にエネルギが集中されるため、そのビーム径に応じた表面が溶融され、不純物元素が拡散される。被加工物600表面の位置が、ジャストフォーカス位置Fから外れていくと、ビーム径は大きくなりエネルギ密度はその面積の増加率に応じて低下する。さらに外れていくと、エネルギ密度が被加工物600表面を溶融できない程度にまで低下し、拡散の幅が測定できなくなる。
【0061】
さらに詳細に考えると、ガウス分布のビームプロファイルのレーザ光を、ある照射エネルギEをある面積Sに照射したとする。一方、距離計測装置201と被加工物600との距離が、図5のL3に示すような状態でも、レーザ光を照射したとする。フォーカス位置Fでの照射エネルギ密度のピーク値を1としたときに、L3での照射のエネルギ密度が仮にその半分であるとすると、L3での照射エネルギは、オフフォーカスしていることにより1よりは小さくなる。しかしながら、L3での照射では、フォーカス位置Fでの照射に比べて、ビーム径は大きくなる。そして、さらにオフフォーカスしていくと、拡散の幅は極大値をとった後、低下する。さらにオフフォーカスし、照射エネルギ密度が低下すると、レーザ光が照射されても被加工物600表面は溶融せず、不純物元素が拡散しなくなる。
【0062】
本実施の形態のレーザ加工装置では、被加工物600の加工が行なわれる前に、被加工物600の試験片を用いて、フォーカス位置が決定される。フォーカス位置の決定は、図10を参照して説明したように、試験片600A上に、光軸上の複数の位置でレーザ光を照射された際に形成された拡散層T11〜TNを形成し、そして、拡散層T11〜TNについて、図8に示したような被加工物600表面の光軸方向の位置と拡散の幅との関係をプロットする。そして、これらの関係から、フォーカス位置が決定される。
【0063】
フォーカス位置を決定するために、制御システム100は、被加工物600のZ軸方向の位置を制御しながら、被加工物600の複数のラインに、レーザ光を照射する。その後、被加工物600の複数ラインのそれぞれについて、拡散の幅とZ軸方向の位置との入力を受け付ける。拡散の幅は、ユーザによる測定結果が入力される。Z軸方向の位置は、たとえば、ユーザが、制御システム100に対してレーザ光の照射の際に指定した位置を記憶しておき、再度入力する。なお、Z軸方向の位置については、制御システム100に記憶されていても良い。この場合、ユーザは、各位置に対応する拡散深さの測定結果を入力する。そして、制御システム100は、入力された測定結果に基づいて、図8に示すようなプロットを作成し、フォーカス位置を決定する。
【0064】
なお、制御システム100は、上記したような拡散深さのプロファイル(図6)からフォーカス位置を求めても良いし、拡散幅のプロファイル(図8)からフォーカス位置を求めて良い。また、このような2種類のフォーカス位置を求め、これらの平均値等、2種類のフォーカス位置を用いて、最終的なフォーカス位置を求めても良い。また、上記2種類のプロファイルを用い、これらの双方について適切な値が得られるようなフォーカス位置が求められても良い。具体的には、たとえば、拡散深さが図6中の安定領域内にあり、かつ、拡散幅が図8のオフフォーカス位置の左右の極大値の中にあるような場合の位置が、フォーカス位置として決定される。
【0065】
[6.レーザ光の強度と拡散幅の関係]
被加工物600における不純物の拡散の幅は、上記したように、被加工物600表面の光軸方向に位置によって変化する。なお、当該拡散の幅は、レーザ発振器400が発振するレーザ光の強度に応じても変化する。図9は、被加工物600がフォーカス位置にあるときの、レーザ発振器400が発振するレーザ光の強度と拡散の深さの関係を示す図である。
【0066】
図9を参照して、レーザ光の強度が一定の値以下である場合には、レーザ光が照射されても被加工物が溶融されず、拡散幅は0である。そして、当該一定の値を超えると、上記強度の上昇に従って、拡散の幅が広くなる。
【0067】
レーザ加工装置では、レーザ光の強度を調整することにより、被加工物600内の不純物の拡散の幅を調整できる。
【0068】
なお、図9に示された関係は、拡散幅プロファイル記憶部132に記憶されている。
[7.レーザ光照射処理]
図6および図8〜図10を参照して説明されたように求められたフォーカス位置は、データ記憶部134に記憶される。そして、本実施の形態では、このように求められたフォーカス位置(または、予め定められたフォーカス位置)を用いて、レーザ光照射のための制御が実行される。
【0069】
図11は、レーザ加工装置において、被加工物600にレーザ光を照射することにより基板601内に拡散剤層602(不純物)を拡散させる際に実行される処理(レーザ光照射処理)のフローチャートである。処理装置102は、たとえば操作パネル107に対してレーザ光の照射を開始する指示が入力されると、レーザ光照射処理を実行する。
【0070】
図11を参照して、レーザ光照射処理では、処理装置102は、まずステップS10で、距離計測装置201に被加工物600の光軸方向の位置を計測させて、ステップS20へ処理を進める。
【0071】
ステップS20では、処理装置102は、ステップS10において計測された位置に基づいて、被加工物600と集光レンズ320の距離を調整して、ステップS30へ処理を進める。なお、ステップS20では、被加工物600表面がフォーカス位置に位置するように、調整がなされる。
【0072】
ステップS30では、処理装置102は、被加工物600に対する拡散条件に基づいてレーザ発振器400が出力するレーザ光の強度を調整して、ステップS40へ処理を進める。拡散条件において拡散深さが指定されている場合には、当該拡散深さに対応した強度が取得される。対応した強度は、拡散深さプロファイル記憶部131に記憶された情報、つまり、図6に示される情報に基づいて、取得される。また、拡散条件において拡散幅が指定されている場合には、当該拡散幅に対応した強度が取得される。対応した強度は、拡散幅プロファイル記憶部132に記憶された情報、つまり、図8に示される情報に基づいて、取得される。
【0073】
そして、ステップS40では、ステップS30で調整された強度でレーザ発振器400にレーザ光を発振させて、被加工物600に対してレーザ光を照射する。なお、被加工物600は、集光レンズ320等に対して、被加工物600上のレーザ光の照射パターンに応じて、X軸方向およびY軸方向(図2参照)に移動される。
【0074】
[8.変形例等]
以上説明した本実施の形態では、被加工物600表面がフォーカス位置に移動され(ステップS20)、そして、レーザ光の照射強度が指定された拡散深さまたは拡散幅に応じて調整されて(ステップS30)、被加工物600にレーザ光が照射される。これにより、図6を参照して説明したデフォーカスによる拡散深さの変動や、図8を参照して説明したデフォーカスによる拡散幅の変動を抑えることができる。
【0075】
したがって、被加工物600において、拡散深さおよび拡散幅のばらつきを抑えたレーザドーピングを実現できる。
【0076】
また、拡散の深さまたは幅に応じたレーザ光を照射できるため、レーザドーピングにおいて拡散の深さまたは幅を所望のものに制御することができる。
【0077】
なお、以上説明した本実施の形態では、レーザ発振器400のビームプロファイルがガウス分布を有する場合について説明がなされたが、トップハットなど、ガウス分布のビームプロファイル以外のビームプロファイルを有する場合についても、本発明は適用することができる。
【0078】
また、本実施の形態では、制御システム100が、計測装置311および距離計測装置201の計測結果を入力され、また、レーザ発振器400、レンズ駆動部321、および、テーブル200を制御したが、複数の制御装置によって制御が分担されても良い。
【0079】
図12は、図1のレーザ加工装置の変形例の構成を模式的に示す図である。
図12を参照して、制御システム100は、その機能を、制御装置100Aと、制御装置100Bに分担されても良い。制御装置100Aは、計測装置311の計測結果を入力され、また、レーザ発振器400を制御する。制御装置100Bは、距離計測装置201の計測結果を入力され、また、レンズ駆動部321、および、テーブル200を制御する。
【0080】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0081】
100 制御システム、100A,100B 制御装置、102 処理装置、131 拡散深さプロファイル記憶部、132 拡散幅プロファイル記憶部、133 プログラム記憶部、134 データ記憶部、200 テーブル、201 距離計測装置、310 光学素子、311 計測装置、321 レンズ駆動部、400 レーザ発振器、600 被加工物、600A 試験片、601 基板、601A,T11〜TN 拡散層、602 拡散剤層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ発振器と当該レーザ発振器が発振したレーザ光を被加工物に照射するための光学系とを備え、被加工物に不純物をドーピングするレーザ加工装置が実行するレーザ加工方法であって、
前記レーザ加工装置が、
前記被加工物が前記光学系のフォーカス位置に位置するように前記被加工物と前記光学系の距離を調整するステップと、
前記レーザ発振器が発振するレーザ光の一部の強度を計測するステップと、
前記強度を計測するステップにおいて計測した強度に基づいて、前記レーザ発振器がレーザ光を発振する強度を制御するステップとを備える、レーザ加工方法。
【請求項2】
前記距離を調整するステップは、
前記レーザ発振器が発振するレーザ光の光軸方向での前記被加工物の位置を計測するステップと、
前記位置を計測するステップにおいて計測した位置に基づいて、前記被加工物と前記光学系の距離を調整するステップとを含む、請求項1に記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
前記レーザ加工装置に、
前記被加工物上における不純物が拡散する深さの指定を受け付けるステップと、
前記被加工物上における不純物が拡散する深さと前記レーザ発振器がレーザ光を発振する強度とを関連付けて記憶する記憶媒体を参照することにより、前記指定に基づく深さに対応する強度を取得するステップとをさらに実行させ、
前記強度を制御するステップは、前記レーザ発振器を、前記取得するステップにおいて取得された強度でレーザ光を発振するように制御する、請求項1または請求項2に記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
前記レーザ加工装置に、
前記被加工物上における不純物が拡散する幅の指定を受け付けるステップと、
前記被加工物上における不純物が拡散する幅と前記レーザ発振器がレーザ光を発振する強度とを関連付けて記憶する記憶媒体を参照することにより、前記指定に基づく幅に対応する強度を取得するステップとをさらに実行させ、
前記強度を制御するステップは、前記レーザ発振器を、前記取得するステップにおいて取得された強度でレーザ光を発振するように制御する、請求項1または請求項2に記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
レーザ発振器と、
前記レーザ発振器が発振したレーザ光を被加工物に照射するための光学系と、
前記被加工物が前記光学系のフォーカス位置に位置するように前記被加工物と前記光学系の距離を調整する調整手段と、
前記レーザ発振器が発振するレーザ光の一部の強度を計測する強度計測手段と、
前記強度計測手段が計測した強度に基づいて、前記レーザ発振器がレーザ光を発振する強度を制御する制御手段とを備える、レーザ加工装置。
【請求項6】
前記調整手段は、
前記レーザ発振器が発振するレーザ光の光軸方向での前記被加工物の位置を計測し、
計測した前記被加工物の位置に基づいて、前記被加工物と前記光学系の距離を調整する、請求項5に記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記被加工物上における不純物が拡散する深さの指定を受け付ける受付部をさらに備え、
前記制御手段は、
前記被加工物上における不純物が拡散する深さと前記レーザ発振器がレーザ光を発振する強度とを関連付けて記憶する記憶媒体を参照することにより、前記指定に基づく深さに対応する強度を取得し、
前記レーザ発振器を、取得した前記強度でレーザ光を発振するように制御する、請求項5または請求項6に記載のレーザ加工装置。
【請求項8】
前記被加工物上における不純物が拡散する幅の指定を受け付ける受付部をさらに備え、
前記制御手段は、
前記被加工物上における不純物が拡散する幅と前記レーザ発振器がレーザ光を発振する強度とを関連付けて記憶する記憶媒体を参照することにより、前記指定に基づく幅に対応する強度を取得し、
前記レーザ発振器を、取得した前記強度でレーザ光を発振するように制御する、請求項5または請求項6に記載のレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−64697(P2012−64697A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206666(P2010−206666)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】