説明

レーザ照射による樹脂部材の溶融接合方法

【課題】光透過性樹脂部材と光吸収性樹脂部材とをレーザ照射により溶融接合するにあたり、作業効率が良好で且つ溶融接合領域全域に亘って均一な接合状態を確保することができる溶融接合方法を提供することにある。
【解決手段】第1のレーザスキャンヘッド30から発するレーザ光L1によって第1のレーザ走査経路C1を走査照射し、第2のレーザスキャンヘッド35から発するレーザ光L2によって2レーザ走査経路C2を走査照射し、第1のレーザ走査経路C1及び第2レーザ走査経路C2においてレーザ光L1とレーザ光L2がオーバーラップして走査照射する領域A及びBにおける走査照射速度を、レーザ光L1又はレーザ光L2が単独で走査照射する領域における走査照射速度の2倍の速度とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ照射によって樹脂部材同士を溶融接合する方法に関するものであり、詳しくは、光を透過する光透過性樹脂部材と光を吸収する光吸収性樹脂部材をレーザ光の照射により溶融接合する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光を透過する光透過性樹脂部材と光を吸収する光吸収性樹脂部材をレーザ光の照射により溶融接合する方法としては、例えば、図11に示す方法が提案されている。
【0003】
それは、光透過性樹脂部材80と光吸収性樹脂部材81の夫々の溶融接合領域同士を対向配置して当接面を圧力Pで加圧状態に保持し、光透過性樹脂部材80側からレーザ光82を照射して該光透過性樹脂部材80を透過したレーザ光82を溶融接合領域(当接面)83に沿って繰り返し高速走査を行う。
【0004】
すると、光吸収性樹脂部材81の溶融接合領域83がレーザ光82で加熱されて溶融し、その溶融部が熱膨張によって対向配置された光透過性樹脂部材80に到達し、その熱で光透過性樹脂部材80の溶融接合領域83が溶融する。
【0005】
その結果、光吸収性樹脂部材81の溶融部と光透過性樹脂部材80の溶融部とが融合することにより両者間の溶融接合部が形成される(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−277870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年の車両用灯具(特に、前照灯)は、内部に複数の光源を収容して大型化及び異形化が進み、それを実現するために、複数の光源を収容する灯室を形成するハウジング及びカバーレンズも大型化が図られている。
【0008】
そこで、上記光吸収性樹脂部材を車両用灯具を構成するハウジングに用い、光透過性樹脂部材を同様に車両用灯具を構成するカバーレンズに用い、両者を上記溶融接合方法によって接合固定して灯室を形成するものとする。
【0009】
その場合、ハウジングとカバーレンズの夫々の溶融接合領域は、車両用灯具の大型化に伴っていずれも大口径の環状を呈している。そのため、固定された1つのレーザ光源から発せられるレーザ光を走査照射しても、場所によってはレーザ光源から溶融接合領域までの距離の差が大きいために、溶融接合領域の全域に亘って溶融接合に必要な照射エネルギーを付与することが難しい場合がある。
【0010】
そのため、レーザ光源を溶融接合領域に沿って移動させながら、移動するレーザ光源から発せられるレーザ光で溶融接合領域全域に亘って溶融接合部を形成することが考えられる。但し、この場合、レーザ光源の機械的な移動が必要となるため、レーザ光源の移動に係わる機械的な移動機構が装置の複雑化を招くと共に、レーザ光源の移動に要する時間が作業効率の低下を招くことになる。
【0011】
そこで、複数のレーザ光源を所定の位置に配置し、各レーザ光源から発せられるレーザ光が夫々個別に設定された照射領域を走査することにより、溶融接合領域の全域に亘って溶融接合部を形成することが考えられる。但し、この場合、溶融接合領域において、場所によっては2つのレーザ光が重なって照射される領域(オーバーラップ領域)が存在する。すると、そのオーバーラップ領域は他の領域に比べてレーザ光から受けるエネルギーが高くなり、部分的に過剰な加熱状態になる恐れがある。
【0012】
この過剰な加熱は、光吸収性樹脂部材の溶融量を部分的に増大させて突出するバリを発生させると共に、発泡現象を発生させて接合信頼性を損なうことにもなる。
【0013】
そこで、本発明は上記問題に鑑みて創案なされたもので、その目的とするところは、光透過性樹脂部材と光吸収性樹脂部材とをレーザ照射により溶融接合するにあたり、作業効率が良好で且つ溶融接合領域全域に亘って均一な接合状態を確保することができる溶融接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載された発明は、環状の第1の接合面を備えた光吸収性樹脂部材と、環状の第2の接合面を備えた光透過性樹脂部材を、前記第1の接合面と前記第2の接合面が互いに環状の全領域に亘って対面接触して対面接触部を形成するように対向配置し、前記光吸収性樹脂部材と前記光透過性樹脂部材の両側から加圧して前記対面接触部に所定の圧力を加えて保持する工程と、前記光透過性樹脂部材側に配設された複数のレーザスキャンヘッドから発せられた各レーザ光が、前記光透過性樹脂部材を透過して前記対面接触部の予め設定された照射領域を繰り返し走査照射することにより環状の前記対面接触部全域を溶融接合する工程と、を有するレーザ照射による樹脂部材の溶融接合方法であって、前記各レーザ光は、出力パワー、スポット径及び前記繰り返し走査照射の周期が同一であり、且つ、前記対面接触部における各レーザ光の走査照射速度は、互いにオーバーラップして走査照射する領域の速度が夫々単独で走査照射する領域の2倍の速度であると同時に、前記単独で走査照射する領域の速度はいずれも同一であることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の請求項2に記載された発明は、請求項1において、前記各レーザ光は、いずれも前記対面接触部以外の部分も走査し、その走査速度は夫々個別に設定されることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の請求項3に記載された発明は、請求項1又は請求項2において、前記複数のレーザスキャンヘッドは2台であることを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明の請求項4に記載された発明は、請求項1〜請求項3のいずれかにおいて、前記光吸収性樹脂部材は、光源を装着する背面部と該背面部の一方の面から所定の高さに突出形成された環状の支台部を備えた、車両用灯具を構成するハウジングであり、前記光透過性樹脂部材は、光源からの光を透過して前方方向に向かって照射する意匠面部と該意匠面部の一方の面から立ち上がって所定の方向に延設された環状の脚部を備えた、車両用灯具を構成するカバーレンズであり、前記第1の接合面は前記支台部の上端面であり、前記第2の接合面は前記脚部の先端面であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、光吸収性樹脂部材の環状接合面と光透過性樹脂部材の環状接合面を互いに環状の全領域に亘って対面接触させて対面接触部を形成し、複数のレーザ光が環状の対面接触部の、予め設定された照射領域を繰り返し走査照射することにより対面接触部の全領域を溶融接合するようにしたものであり、対面接触部において各レーザ光がオーバーラップして走査照射する領域における走査照射速度を、各レーザ光が単独で走査照射する領域における走査照射速度の2倍の速度とした。
【0019】
これにより、対面接触部の全領域を均一な照射エネルギーで溶融接合することができ、溶融接合部の全領域に亘って均一な接合状態を確保することができ。また、複数のレーザ光を用いて溶融接合するため、溶融接合作業の作業効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係わるカバーレンズの説明図である。
【図2】同じく、本発明の実施形態に係わるハウジングの説明図である。
【図3】同じく、本発明の実施形態に係わる車両用灯具の説明図である。
【図4】カバーレンズとハウジングの接合部に係わる部分説明図である。
【図5】同じく、カバーレンズとハウジングの接合部に係わる部分説明図である。
【図6】レーザ光の走査照射状態を示す説明図である。
【図7】レーザ光の走査照射による温度変化の状態を示すグラフである。
【図8】レーザ光の走査時間と走査位置の関係を示すチャートである。
【図9】レーザ光の走査経路と照射エネルギーとの関係を示すチャートである。
【図10】レーザ光の走査経路と照射エネルギーとの関係を示す模式図である。
【図11】従来例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の好適な実施形態を図1〜図10を参照しながら、詳細に説明する(同一部分については同じ符号を付す)。尚、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの実施形態に限られるものではない。
【0022】
図1〜図10は、レーザ光に対して透過性を有する光透過樹脂で形成された部品とレーザ光に対して吸収性を有する光吸収樹脂で形成された部品との部品同士の固定方法についての具体的な実施形態に係わる説明図である。
【0023】
光透過樹脂及び光吸収樹脂の夫々には種々の種類のものが考えられ、光透過樹脂で形成される部品及び光吸収樹脂で形成される部品の夫々の種類についても多岐に亘っている。
【0024】
そこで、本実施形態においては、部品の具体的な用途例として車両用灯具を想定し、光透過樹脂を例えばPMMA(ポリメチルメタアクリレート)とし、光吸収樹脂を例えばASA(アクリロニトリルスチレンアクリレート)とすると共に、PMMA樹脂で形成される部品を例えばカバーレンズとし、ASA樹脂で形成される部品を例えばハウジングとする。
【0025】
そこで、PMMAからなり車両用灯具1を構成するカバーレンズ10は、図1(カバーレンズの説明図)に示すように、光源からの光を透過して前方方向に向かって照射する意匠面部11と該意匠面部11の一方の面から立ち上がって所定の方向に延設された環状の脚部12を備えている。
【0026】
一方、ASAからなり車両用灯具1を構成するハウジング20は、図2(ハウジングの説明図)に示すように、光源を装着する背面部21と該背面部21の一方の面から所定の高さに突出形成された環状の支台部22を備えている。
【0027】
そして、車両用灯具1は、図3(車両用灯具の説明図)に示すように、光源2が装着されたハウジング20とカバーレンズ10とが気密封止されて閉空間からなる灯室3が形成され、該灯室3内に前記光源2が収容されてなる構成からなる。
【0028】
そこで、以下に、カバーレンズ10とハウジング20とをレーザ光の照射により気密封止して固定する封止固定方法について詳細に説明する。
【0029】
まず、図4(カバーレンズとハウジングの接合部に係わる部分説明図)のように、光透過性のカバーレンズ10と光吸収性のハウジング20とを、カバーレンズ10の脚部12の先端面12aとハウジング20の支台部22の上端面22aとが互いに環状の全領域に亘って対面接触するように対向配置し、カバーレンズ10とハウジング20の両側から圧力Pを印加してその接触面同士に所定の圧力が加わった状態に加圧保持する。
【0030】
その後、図5(カバーレンズとハウジングの接合部に係わる部分説明図)に示すように、対向配置したカバーレンズ10とハウジング20の該カバーレンズ10側の上方に配設されたレーザスキャンヘッド(図示せず)からカバーレンズ10の脚部12に向かってレーザ光Lを照射する。
【0031】
レーザスキャンヘッドからカバーレンズ10の脚部12に向けて出射したレーザ光Lは、光透過樹脂のPMMAからなるカバーレンズ10の意匠面部11及び脚部12を透過して該脚部12の先端面12aから出射し、その出射光が該先端面12aに対面接触した、光吸収樹脂のASAからなるハウジング20の支台部22の上端面22aに到達照射される。
【0032】
すると、ハウジング20の支台部22の上端面22a近傍の、レーザ光Lが照射された部分は該レーザ光Lのエネルギーを吸収して発熱し溶融する。この溶融部22bは、熱膨張により体積が増加し、その体積増加分が対面接触したカバーレンズ10の脚部12の先端面12a側に膨出する。
【0033】
このとき、カバーレンズ10の脚部12の先端面12aとハウジング20の支台部22の上端面22aとは互いに加圧保持状態にある。そのため、カバーレンズ10の脚部12の先端面12a側に膨出した溶融部22bは、該溶融部22bの熱膨張力がそのままカバーレンズ10の脚部12の先端面12aに伝わり、その熱膨張力を受けた脚部12先端面12aの近傍に溶融部22bの熱が伝達されてその部分が加熱溶融し、溶融部12bが形成される。
【0034】
すると、ハウジング20の支台部22の溶融部22bとカバーレンズ10の脚部12の溶融部12bとが相溶融状態となり、その溶融部22b、12b同士が融合して溶融接合部4を形成する。
【0035】
なお、ハウジング20の支台部22とカバーレンズ10の脚部12は、上述したように、いずれも環状に形成されている。そのため、支台部22の溶融部22bと脚部12の溶融部12bとの融合により形成される溶融接合部4も同様に環状に形成される。
【0036】
ところで、車両用灯具は搭載する車種によって大きさが異なり、それに伴って環状の溶融接合部4の大きさも異なるものとなる。一般的には大型車種には大型の灯具が搭載され、それに伴って溶融接合部4の大きさも大きくなる。
【0037】
溶融接合部4の大きさが大きくなると、1台のレーザスキャンヘッドからのレーザ光では、該溶融接合部4を環状全域に亘って形成するために必要な照射エネルギーを付与することが困難となる場合がある。その場合は、適宜な場所に複数のレーザスキャンヘッドを配設して夫々のレーザスキャンヘッドからのレーザ光によって溶融接合部4を環状全域に亘って形成することが考えられる。
【0038】
このとき、各レーザスキャンヘッドは図6(レーザ光の走査照射状態を示す説明図)に示すように、カバーレンズ10の脚部12の先端面12a(図示せず)とハウジング20の支台部22の上端面22aとの環状の対面接触部に沿ってレーザ光を照射する環状のレーザ光走査照射経路(以下、「レーザ走査経路」と略称する)Cに対して、予めレーザ光の走査照射領域が設定されており、全てのレーザスキャンヘッドからのレーザ光によって環状のレーザ走査経路Cの全領域が走査照射されるように設定されている。そのため、配置されるレーザスキャンヘッドの数は、各レーザスキャンヘッドから発せられるレーザ光の出力パワー、各レーザスキャンヘッドから溶融接合部までの距離及び角度、全走査照射領域が位置する広さ、溶融接合作業の作業効率等を考慮して設定される。
【0039】
本実施形態では、第1のレーザスキャンヘッド30と第2のレーザスキャンヘッド35の2台のレーザスキャンヘッドが、対向配置したカバーレンズ10とハウジング20の該カバーレンズ10側の上方の適宜の位置に配設され、第1のレーザスキャンヘッド30からのレーザ光L1が、環状のレーザ走査経路Cに対してP1とP4の間の部分(第1レーザ光走査照射経路(以下、「第1のレーザ走査経路」と略称する)C1)の照射領域を走査し、第2のレーザスキャンヘッド35からのレーザ光L2が、環状のレーザ走査経路Cに対してQ1とQ4の間の部分(第2レーザ光走査照射経路(以下、「第2のレーザ走査経路」と略称する)C2)の照射領域を走査する。
【0040】
また、第1のレーザ走査経路C1と第2のレーザ走査経路C2には、互いにオーバーラップする領域A、Bが2箇所存在する。そのうち領域Aにおいては、第1のレーザ走査経路におけるP1とP2の間の部分の照射領域と第2のレーザ走査経路C2におけるQ1とQ2の間の部分の照射領域とがオーバーラップし、領域Bにおいては、第1のレーザ走査経路におけるP3とP4の間の部分の照射領域と第2のレーザ走査経路C2におけるQ3とQ4の間の部分の照射領域とがオーバーラップしている。
【0041】
そこで、第1のレーザスキャンヘッド30から出射したレーザ光L1は、第1のレーザ走査経路C1をP1の位置から順次走査照射されてP2、P3の位置を経てP4の位置に至り、P4の位置からP1の位置に戻る。そして、このような環状の走査照射が所定の回数繰り返し行われる。同様に、第2のレーザスキャンヘッド35から出射したレーザ光L2は、第2のレーザ走査経路C2をQ1の位置から順次走査照射されてQ2、Q3の位置を経てQ4の位置に至り、Q4の位置からQ1の位置に戻る。そして、このような環状の走査照射が所定の回数繰り返し行われる。
【0042】
図7は、レーザ光が照射されるハウジング20の支台部22の上端面22aにおける、レーザ光の走査照射による温度変化の状態を示すグラフである。
【0043】
第1のレーザスキャンヘッド30からのレーザ光L1が第1のレーザ走査経路C1をP1→P2→P3→P4→P1の順に走査照射する周期(T)においてレーザ光の照射時の照射エネルギーを受けて上昇した温度が次の周期(Tn+1)でレーザ光が照射されるまでは下降する。但し、下降温度は、前回の周期(T)における下降温度になるまでに次の周期(Tn+1)のレーザ光照射が行われるため、前回の周期(T)における下降温度よりも高い温度を維持する。
【0044】
そして、周期(Tn+1)でのレーザ光の照射による温度上昇は、その前の周期(T)におけるレーザ光の照射による温度上昇よりも高くなる。このようなレーザ光の照射周期(T)を繰り返すことにより温度が徐々に上昇し、ハウジング20の支台部22の上端面22aにおけるレーザ光照射部が加熱溶融される。
【0045】
また、第2のレーザスキャンヘッド35からのレーザ光L2においても、上記第1のレーザスキャンヘッド30からのレーザ光L1と同様に、図7の温度上昇履歴を経てハウジング20の支台部22の上端面22aにおけるレーザ光照射部が加熱溶融される。
【0046】
ところで、第1のレーザスキャンヘッド30からのレーザ光L1と、第2のレーザスキャンヘッド35からのレーザ光L2の出力パワー及びスポット径を同一とし、第1のレーザスキャンヘッド30からのレーザ光L1が第1のレーザ走査経路C1上を走査照射する速度と、第2のレーザスキャンヘッド35からのレーザ光L2が第2のレーザ走査経路C2上を走査照射する速度とを同一とした場合、レーザ走査経路Cのオーバーラップ領域A及びBには、第1のレーザスキャンヘッド30からのレーザ光L1と第2のレーザスキャンヘッド35からのレーザ光L2の夫々の1周期の走査照射で、レーザ光L1とレーザ光L2による2回のレーザ光照射が行われ、レーザ走査経路Cのオーバーラップ領域A及び領域Bを除いた領域は、レーザ光L1又はレーザ光L2のいずれかによる1回のレーザ光照射が行われる。
【0047】
そのため、レーザ走査経路Cのオーバーラップ領域A及びBを除いた領域に照射されたレーザ光が到達する、ハウジング20の支台部22の上端面22aにおけるレーザ光照射部が受ける照射エネルギーをE(J/mm)とすると、レーザ走査経路Cのオーバーラップ領域A及びBに照射されたレーザ光が到達する、ハウジング20の支台部22の上端面22aにおけるレーザ光照射部が受ける照射エネルギーは2E(J/mm)となる。
【0048】
その結果、ハウジング20の支台部22の上端面22aにおけるオーバーラップ領域A及びBは他の領域の2倍の照射エネルギー2E(J/mm)を受け、他の領域よりも温度上昇が大きくなって過熱状態となり、部分的に発泡現象が生じて溶融接合の接合強度が低下し、信頼性の低下を招くことになる。
【0049】
また、ハウジング20の支台部22の上端面22aにおける過熱状態の部分は、加熱溶融の溶融量が所定の量よりも多くなり、正規の溶融接合領域からはみ出してバリを発生することになる。
【0050】
そこで、本発明においては、第1のレーザスキャンヘッド30からのレーザ光L1と、第2のレーザスキャンヘッド35からのレーザ光L2の出力パワー及びスポット径を同一とすると共に、レーザ光L1とレーザ光L2がレーザ走査経路Cのオーバーラップ領域A及びBを走査照射する速度を、レーザ走査経路Cのオーバーラップ領域A及びBを除く部分を走査照射する速度の2倍の速度とした。
【0051】
つまり、レーザ光の走査照射速度が2倍になると単位面積当たりの照射エネルギーは1/2となることを利用するものである。
【0052】
これにより、レーザ光L1とレーザ光L2の夫々の1周期の走査照射によって、レーザ光L1とレーザ光L2が重複して照射されるオーバーラップ領域A及びBが受ける照射エネルギーとオーバーラップ領域A及びB以外の部分が受ける照射エネルギーが同じ照射エネルギーとなるようにした。
【0053】
以下に、図8(レーザ光の走査時間と走査位置の関係を示すチャート)を参照して具体的に説明する。この図において、横軸はレーザ光L1とレーザ光L2の夫々の走査時間(周期)を表し、縦軸は走査位置を示している。また、破線はレーザ光L1を示し、実線はレーザ光L2を示している。
【0054】
図8より、破線で示すレーザ光L1は、第1のレーザ走査経路のP1の位置から走査を開始し、P1〜P2の間はVの速度で走査し、P2〜P3の間は(1/2)V(P1〜P2間の速度の1/2の速度)の速度で走査し、P3〜P4の間はV(P1〜P2間の速度と同一の速度)の速度で走査する。
【0055】
一方、実線で示すレーザ光L2は、第2のレーザ走査経路C2のQ1の位置から、レーザ光L1の走査開始と同時に走査を開始し、Q1〜Q2の間はVの速度で走査し、Q2〜Q3の間は(1/2)V(Q1〜Q2間の速度の1/2の速度)の速度で走査し、Q3〜Q4の間はV(Q1〜Q2間の速度と同一の速度)の速度で走査する。
【0056】
この場合、レーザ光L1の走査経路P1〜P4の距離は、レーザ光L2の走査経路Q1〜Q4の距離よりも長い。そのため、レーザ光L1がP4の位置に到達する時間はレーザ光L2がQ4の位置に到達する時間よりも遅れる。
【0057】
そのため、レーザ光L1が走査経路P4〜P1の走査開始位置まで戻る速度と、レーザ光L2が走査経路Q4〜Q1の走査開始位置まで戻る速度とを同一速度とすると、レーザ光L1が走査開始位置P1に戻る時間は、光L2が走査開始位置Q1に戻る時間よりも遅くなる。
【0058】
つまり、レーザ光L1の走査周期がレーザ光L2の走査周期よりも長くなる。すると、一定の時間内にレーザ光L1が第1のレーザ走査経路C1上を走査する走査回数と、レーザ光L2が第2のレーザ走査経路C2上を走査する走査回数とが異なるものとなる。その結果、レーザ光L1が第1のレーザ走査経路C1に照射する照射エネルギーとレーザ光L2が第2のレーザ走査経路C2に照射する照射エネルギーが異なるものとなり、環状の溶融接合部において均一な接合状態を得ることができなくなる。このことは、信頼性の低下に繋がるものとなる。
【0059】
そこで、レーザ光L1が走査経路の、位置P4〜走査開始位置P1まで戻る速度U1を、レーザ光L2が走査経路の、位置Q4〜走査開始位置Q1まで戻る速度U2よりも速くすることにより、レーザ光L1が走査開始位置P1に戻る時間と、レーザ光L2が走査開始位置Q1に戻る時間が同時になるようにした。
【0060】
これにより、レーザ光L1の走査周期とレーザ光L2の走査周期が同一となり、一定の時間内にレーザ光L1が第1のレーザ走査経路C1上を走査する走査回数と、レーザ光L2が第2のレーザ走査経路C2上を走査する走査回数とが同一となる。その結果、レーザ光L1によって第1のレーザ走査経路C1に照射される照射エネルギーとレーザ光L2によって第2のレーザ走査経路C2に照射される照射エネルギーが同一となり、環状の溶融接合部の全域に亘って均一な接合状態を得ることができ、高い信頼性を確保することができる。
【0061】
なお、レーザ光L1の第1のレーザ走査経路C1におけるP1〜P4の間及びレーザ光L2の第2のレーザ走査経路C2におけるQ1〜Q4の間は溶融接合に寄与する領域であり、レーザ光L1の第1のレーザ走査経路C1におけるP4〜P1の間及びレーザ光L2の第2のレーザ走査経路C2におけるQ4〜Q1の間は溶融接合に寄与しない領域である。
【0062】
したがって、レーザ光L1とレーザ光L2の夫々の走査周期を同一にするために、レーザ光L1の第1のレーザ走査経路C1におけるP4〜P1の間の走査速度(U1)及びレーザ光L2の第2のレーザ走査経路C2におけるQ4〜Q1の間の走査速度(U2)を夫々個別に適宜な速度に設定しても溶融接合部の接合状態には何ら関係することはない。
【0063】
図9はレーザ光の走査経路と照射エネルギーとの関係を示すチャート、図10はレーザ光の走査経路と照射エネルギーとの関係を模式的に表した説明図である。
【0064】
まず、図9において、横軸はレーザ走査経路の位置、縦軸はレーザ光による照射エネルギーを表している。また、(a)はレーザ光L1が走査する第1のレーザ走査経路C1上の位置における該レーザ光L1による照射エネルギーを表し、(b)はレーザ光L2が走査する第2のレーザ走査経路C2上の位置における該レーザ光L2による照射エネルギーを表し、(c)は、レーザ走査経路Cの領域におけるレーザ光L1及びレーザ光L2による照射エネルギーを示している。
【0065】
(a)において、レーザ光L1が走査照射する第1のレーザ走査経路C1のP2〜P3の間が受ける照射エネルギーをE(J/mm)とすると、第1のレーザ走査経路C1のP1〜P2及びP3〜P4の間が受ける照射エネルギーは、P2〜P3間が受ける照射エネルギーの半分の(1/2)E(J/mm)となる。
【0066】
同様に、(b)においては、レーザ光L2が走査照射する第2のレーザ走査経路C2のQ2〜Q3の間が受ける照射エネルギーはE(J/mm)となり、第2のレーザ走査経路C2のQ1〜Q2及びQ3〜Q4の間が受ける照射エネルギーは、Q2〜Q3間が受ける照射エネルギーの半分の(1/2)E(J/mm)となる。
【0067】
このとき、(a)の第1のレーザ走査経路C1のP1〜P2の間と、(b)の第2のレーザ走査経路C2のQ1〜Q2の間はレーザ走査経路Cにおいてはオーバーラップ領域Aであり、同様に、(a)の第1のレーザ走査経路C1のP3〜P4の間と、(b)の第2のレーザ走査経路C2のQ3〜Q4の間はレーザ走査経路Cにおいてはオーバーラップ領域Bである。
【0068】
そのため、レーザ走査経路Cのオーバーラップ領域A及びBの夫々は、1周期のレーザ照射の間にレーザ光L1とレーザ光L2による2回のレーザ照射を受ける。その結果、オーバーラップ領域A及びBにおける照射エネルギーは、レーザ光L1による照射エネルギー(1/2)E(J/mm)と、レーザ光L2による照射エネルギー(1/2)E(J/mm)を加算したE(J/mm)となる。
【0069】
その結果、環状のレーザ走査経路Cの全領域における照射エネルギー分布は、(c)に示すように、レーザ走査経路Cの全領域に亘ってE(J/mm)の均一の照射エネルギー分布となる。
【0070】
図10は、レーザ光L1が走査照射する第1のレーザ走査経路C1おける照射エネルギーと、レーザ光L2が走査照射する第2のレーザ走査経路C2における照射エネルギーを走査経路の径の大きさで表したものである。
【0071】
レーザ光L1が走査照射する第1のレーザ走査経路C1のP2〜P3の間が受ける照射エネルギーをD(径)で表すと、第1のレーザ走査経路C1のP1〜P2及びP3〜P4の間が受ける照射エネルギーは、P2〜P3間が受ける照射エネルギーの半分の(1/2)D(径)で表される。
【0072】
同様に、レーザ光L2が走査照射する第2のレーザ走査経路C2のQ2〜Q3の間が受ける照射エネルギーはD(径)となり、第2のレーザ走査経路C2のQ1〜Q2及びQ3〜Q4の間が受ける照射エネルギーは、Q2〜Q3間が受ける照射エネルギーの半分の(1/2)D(径)となる。
【0073】
このとき、第1のレーザ走査経路C1のP1〜P2の間と、第2のレーザ走査経路C2のQ1〜Q2の間はレーザ走査経路Cにおいてはオーバーラップ領域Aであり、同様に、第1のレーザ走査経路C1のP3〜P4の間と、第2のレーザ走査経路C2のQ3〜Q4の間はレーザ走査経路Cにおいてはオーバーラップ領域Bである。
【0074】
そのため、レーザ走査経路Cのオーバーラップ領域A及びBの夫々は、1周期のレーザ照射の間にレーザ光L1とレーザ光L2による2回のレーザ照射を受ける。その結果、オーバーラップ領域A及びBにおける照射エネルギーは、レーザ光L1による照射エネルギー(1/2)D(径)と、レーザ光L2による照射エネルギー(1/2)D(径)を加算したD(径)となる。
【0075】
その結果、環状のレーザ走査経路Cの全領域における照射エネルギー分布は、レーザ走査経路Cの全域に亘ってD(径)の均一の照射エネルギー分布となる。
【0076】
このように本発明では、第1のレーザスキャンヘッド30からのレーザ光L1による照射と第2のレーザスキャンヘッド35からのレーザ光L2による照射により、カバーレンズ10の脚部12の先端面12aとハウジング20の支台部22の上端面22aとの環状の対面接触部の全領域に亘って均一の照射エネルギーを付与することができる。
【0077】
その結果、カバーレンズ10の脚部12の先端面12aとハウジング20の支台部22の上端面22aとの環状の対面接触部の全領域に亘って均一の溶融接合部を形成することができ、信頼性の高い車両用灯具を実現することができる。
【0078】
それと同時に、複数のレーザスキャンヘッドを用いた複数のレーザ光により溶融接合を行うため、接合作業の作業効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0079】
1… 車両用灯具
2… 光源
3… 灯室
4… 溶融接合部
10… カバーレンズ
11… 意匠面部
12… 脚部
12a… 先端面
12b… 溶融部
20… ハウジング
21… 背面部
22… 支台部
22a… 上端面
22b… 溶融部
30… 第1のレーザスキャンヘッド
35… 第2のレーザスキャンヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の第1の接合面を備えた光吸収性樹脂部材と、環状の第2の接合面を備えた光透過性樹脂部材を、前記第1の接合面と前記第2の接合面が互いに環状の全領域に亘って対面接触して対面接触部を形成するように対向配置し、前記光吸収性樹脂部材と前記光透過性樹脂部材の両側から加圧して前記対面接触部に所定の圧力を加えて保持する工程と、
前記光透過性樹脂部材側に配設された複数のレーザスキャンヘッドから発せられた各レーザ光が、前記光透過性樹脂部材を透過して前記対面接触部の予め設定された照射領域を繰り返し走査照射することにより環状の前記対面接触部全域を溶融接合する工程と、を有するレーザ照射による樹脂部材の溶融接合方法であって、
前記各レーザ光は、出力パワー、スポット径及び前記繰り返し走査照射の周期が同一であり、
且つ、前記対面接触部における各レーザ光の走査照射速度は、互いにオーバーラップして走査照射する領域の速度が夫々単独で走査照射する領域の2倍の速度であると同時に、前記単独で走査照射する領域の速度はいずれも同一であることを特徴とするレーザ照射による樹脂部材の溶融接合方法。
【請求項2】
前記各レーザ光は、いずれも前記対面接触部以外の部分も走査し、その走査速度は夫々個別に設定されることを特徴とする請求項1に記載のレーザ照射による樹脂部材の溶融接合方法。
【請求項3】
前記複数のレーザスキャンヘッドは2台であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のレーザ照射による樹脂部材の溶融接合方法。
【請求項4】
前記光吸収性樹脂部材は、光源を装着する背面部と該背面部の一方の面から所定の高さに突出形成された環状の支台部を備えた、車両用灯具を構成するハウジングであり、
前記光透過性樹脂部材は、光源からの光を透過して前方方向に向かって照射する意匠面部と該意匠面部の一方の面から立ち上がって所定の方向に延設された環状の脚部を備えた、車両用灯具を構成するカバーレンズであり、
前記第1の接合面は前記支台部の上端面であり、前記第2の接合面は前記脚部の先端面であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載のレーザ照射による樹脂部材の溶融接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−22922(P2013−22922A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162437(P2011−162437)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】