説明

レーザ照射装置

【課題】基板の変位に対応して、高精度に焦点の調整およびビーム形状やサイズの調整を行うことを目的とする。
【解決手段】長軸スリット8,短軸スリット9を長軸用と短軸用に区別し、それぞれを個別に可変とすることで、基板の変位に対応して、高精度に焦点の調整およびビーム形状やサイズの調整を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照射対象に照射するレーザ光の形状やサイズを調整可能なレーザ照射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、液晶表示装置や有機EL表示装置などの表示装置は、縦横同一又は異なるピッチに配列された画素トランジスタ(薄膜トランジスタ)のスイッチングにより画像を映し出している。また、画素トランジスタは、ガラスや溶融石英などの基板上に形成されたアモルファスシリコン膜をポリシリコン膜に結晶化して形成している。
【0003】
以下、図6(a),(b)を用いて、従来のレーザ照射装置について説明する。
図6(a),(b)は従来のレーザ照射装置における光学系の構成を示す模式図である。図6(a)は長軸方向でのビーム整形のための構造を示す模式図であり、図6(b)は短軸方向でのビーム整形のための構造を示す模式図である。
【0004】
図6(a),(b)に示す結晶化装置100は、従来の結晶化装置である(例えば、特許文献1参照)。
結晶化装置100は、均一化レンズ103と、シリンドリカルレンズ108と、投影レンズ105とを備える。均一化レンズ103は、レーザ発振器101より発したレーザ光102の強度を長軸(Y)方向に均一化する。シリンドリカルレンズ108は、均一化レンズ103を透過するレーザ光102をスリット104面に短軸(X)方向に集光し、短軸方向に均一な強度分布を有するレーザ強度分布を得る。投影レンズ105は、シリンドリカルレンズ108を透過するレーザ光102を透過させてスリット104面に形成されるマスクパターンを薄膜シリコン106上に投影し、アモルファス−Si(シリコン)からなる薄膜シリコン106を結晶化してp−Si(ポリシリコン)にする。また、107は、レーザ発振器101と均一化レンズ103との間に設ける短軸方向のコリメータレンズである。
【0005】
ここで、スリット104の開口距離をL、スリット104と投影レンズ105間距離をA、投影レンズ105と薄膜シリコン106上との距離をBとした場合、薄膜シリコン106上での長軸ビームサイズはL*B/Aとなる。また、レーザ光照射の際には、薄膜シリコン106等の基板を保持した状態でレーザ光102を照射するため、基板の撓みや反り等により基板表面位置が変位することがある。この様な基板の変位に対応して、基板上でのビームサイズを変えずに焦点を調整するために、従来では、投影レンズ105、薄膜シリコン106等の位置を移動させて、距離AおよびBを変化させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−115841号公報
【特許文献2】特開2007−48794号公報
【特許文献3】特開2006−32843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年の表示装置の大型化と画素の微細化に伴い、基板表面の変位の影響が大きくなり、レーザ光102の焦点の調整のみならず、基板表面に投影されるビームの形状や輪郭,サイズのばらつきの影響が顕著になってきている。
【0008】
そこで、本発明のレーザ照射装置は、基板の変位に対応して、高精度に焦点の調整およびビーム形状やサイズの調整を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のレーザ照射装置は、レーザ光を照射するレーザ発振器と、前記レーザ光を短軸方向において平行光とする短軸方向コリメータレンズと、前記レーザ光を長軸方向において平行光とする長軸方向コリメータレンズと、前記レーザ光を短軸方向に集光する集光レンズと、前記集光レンズと照射対象との間に配置され、前記レーザ光の長軸方向のビーム形状を調整する長軸スリットと、前記集光レンズと前記照射対象との間に配置され、前記レーザ光の短軸方向のビーム形状を調整する短軸スリットと、前記レーザ光を照射対象に照射する投影レンズと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明のレーザ照射装置によれば、スリットを長軸用と短軸用に区別し、それぞれを個別に可変とすることで、高精度に焦点の調整およびビーム形状やサイズの調整を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】一般的な照射方法をパネルに照射する様子を例示する図
【図2】レーザの照射領域であるビーム形状を示す模式図
【図3】(a)、(b)本発明のレーザ照射装置を示す概念図
【図4】本発明の長軸スリットおよび短軸スリットの形状を説明する図
【図5】(a)、(b)本発明の可変スリットの構造を例示する図
【図6】(a)、(b)従来のレーザ照射装置における光学系の構成を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、一般的なレーザ照射方法を、図1,図2を用いて説明する。
図1は一般的な照射方法をパネルに照射する様子を例示する図であり、図2はレーザの照射領域であるビーム形状を示す模式図である。
【0013】
図1、図2に示すように、長軸、短軸方向からなる細長いビーム32に整形したレーザ光を用いて、アモルファスシリコンからなる画素31を形成した基板の一例であるパネル30を順次走査する。ビーム32は、例えば、長軸方向1mm、短軸方向30μmに整形される。このような形状のビーム32をパネル30端部から長軸方向に走査し、パネル30終端まで走査すると短軸方向に移動し、再び長軸方向に走査を行う。この走査をパネル30全域にわたって行うことで、パネル30全面の画素31にレーザ照射して結晶化する。
【0014】
次に、結晶化のために照射するレーザの照射方法および照射装置について、図3(a),(b)、図4、図5(a),(b)を用いて説明する。
図3(a),(b)は本発明のレーザ照射装置を示す概念図である。図3(a)はレーザの長軸方向におけるビーム整形の構成を示し、図3(b)はレーザの短軸方向におけるビーム整形の構成を示す。図3(a),(b)に示すように、本発明のレーザ照射装置は、1本のレーザを長軸方向および短軸方向にそれぞれ整形し、ビームの照射断面が長方形のレーザに整形する構造である。
【0015】
図4は本発明の長軸スリットおよび短軸スリットの形状を説明する図である。
図5(a),(b)は本発明の可変スリットの構造を例示する図である。図5(a)は長軸可変スリットを示し、図5(b)は短軸可変スリットを示す。
【0016】
図3(a),(b)に示す本発明のレーザ照射装置において、まず、レーザ発振器1から照射されたレーザ光20は、短軸方向に平行光線にする短軸方向コリメータレンズ2と、長軸方向に平行光線にする長軸方向コリメータレンズ3を順次通過し、長軸方向および短軸方向に平行なレーザ光に整形される。
【0017】
次に、レーザ光20は、1対のシリンドリカルレンズからなる均一化レンズ4を通過して長軸方向に分割されることで線状の点光源に配列して、コンデンサーレンズ5を通過する。ここで、シリンドリカルレンズとは、長軸方向の断面形状がシリンドリカルレンズ形状(図3(a)参照)で、短軸方向の断面形状が平板形状(図3(b)参照)のシリンドリカルレンズである。なお、本実施の形態では、均一化レンズ4で長軸方向におけるレーザパワーの均一化を図っているが、レーザ光20の特性等に応じて均一化レンズ4およびコンデンサーレンズ5を省略することも可能である。
【0018】
次に、コンデンサーレンズ5を通過したレーザ光20は、短軸方向集光レンズ6により短軸方向にのみ集光される。
次に、集光されたレーザ光20は、フィールドレンズ7に入射する。従来のフィールドレンズ7を用いない光学系では、フィールドレンズ7を用いずに長軸スリット8のみでビームサイズを決定している。この場合、レーザ光20はスリット位置で像を結ぶが、その後のレーザ光20には、厳密には平行光ではなく発散した光も存在している。
【0019】
本実施の形態で用いているフィールドレンズ7は、長軸スリット8位置の近傍に配置されるレンズで、レーザ光20の結像にはほとんど寄与しないが、レーザ光20の進行方向を変える働きがあり、発散光を少なくし指向性を向上させる働きがある。
【0020】
長軸方向に平行光線にされたレーザ光20は、コンデンサーレンズ5によりフィールドレンズ7に隣接して設けられた長軸スリット8位置に結像されている。長軸スリット8に入射したレーザ光は、長軸方向のビーム形状および長さが所定のサイズに整形される。長軸スリット8の通過後、短軸スリット9を通過することにより、短軸方向のビーム形状および長さが所定のサイズに整形される。
【0021】
すなわち、図4に示すように、長軸スリット8は、長軸方向の長さが所望するビームの長軸方向長さに一致するスリットを備え、スリット全面を覆うレーザ光20を入射してスリットと同じ形状にレーザ光20を整形するものである。また、短軸スリット9は、短軸方向の長さが所望するビームの短軸方向長さに一致するスリットを備え、スリット全面を覆い、長軸方向に整形されたレーザ光20を入射してスリットと同じ形状にレーザ光20を整形することにより、長軸スリット8と合わせて照射対象の一例である基板11に照射するビーム形状に整形するものである。
【0022】
最後に、長軸スリット8および短軸スリット9で形状を整えられたレーザ光20は投影レンズ10により基板11上に結像される。本実施の形態では、短軸方向はクリティカル照明系を形成しており、この照明系により短軸スリット9上に投影された像を、投影レンズ10で形成する結像光学系で基板11に投影する。
【0023】
本発明の特徴は、レーザ光を集光する途中の位置に、長軸スリット8および短軸スリット9を分割配置していることである。さらに、本実施の形態では、レーザ光20の焦点調節のために、投影レンズ10をレーザ光20の照射方向に平行な方向に移動可能とすると共に、長軸スリット8および短軸スリット9もそれぞれ独立して移動可能としている。
【0024】
本発明のレーザ照射装置では、投影レンズ10のみならず、長軸スリット8および短軸スリット9の位置をレーザ照射方向に可変とすることにより、基板11の反りや撓みによる焦点距離の変位に対応して焦点調整を行うと同時に、ビーム形状や長軸方向および短軸方向のビーム幅を所定のものに調整することができる。
【0025】
つまり、長軸スリット8または短軸スリット9から投影レンズ10までの距離Aと、投影レンズ10から基板11までの距離Bを、長軸方向および短軸方向について個別に調整することにより、高精度に焦点調整を行うと共に、ビームの形状や幅,輪郭等の少なくとも1つの調整を個別に行うことができるものである。
【0026】
さらに、短軸方向集光レンズ6の位置を可変とすることにより、特に短軸方向にて、より高精度に焦点調整および、ビーム形状や幅の調整を行うことができる。この時、投影レンズ10と基板11との相対位置の測定は、レーザ照射の前、あるいはレーザ照射時に変位センサー13にて行い、実際の基板11の変位量に応じて調整を行うこともできる。
【0027】
以下、本実施の形態の別の形態について、図5(a),(b)を参照しながら説明する。
本実施の形態の別の形態としては、図3(a),(b)に示す長軸スリット8を、スリットの長軸方向の幅を調整できるように、図5(a)に示すような長軸可変スリット14に置き換えることもできる。例えば、長軸可変スリット14にジョイント部分を設け、ジョイント部分でスリットの長軸方向の幅が伸縮可能なように構成することができる。長軸可変スリット14はレーザ照射方向に固定されていても良いが、図3(a)の長軸スリット8のようにレーザ照射方向に移動可能な構成とすることにより、基板の変位に対してより高精度に対応することができる。
【0028】
さらに、図3(a),(b)に示す短軸スリット9についても、スリットの短軸方向の幅を調整できるように、図5(b)に示すような短軸可変スリット15に置き換えることもできる。これは、短軸方向集光レンズ6でレーザ光20を短軸方向に集光した焦点が短軸スリットの位置からずれた場合に、短軸可変スリット15の短軸方向のスリット幅を調整してレーザ光20の焦点位置ずれに対応する場合等に用いることができる。短軸可変スリット15は長軸可変スリット14と共に用いても良いし、単独で用いても良い。また、短軸可変スリット15もレーザ照射方向に固定されていても良いが、図3(b)の短軸スリット9のようにレーザ照射方向に移動可能な構成とすることにより、基板の変位に対してより高精度に対応することができる。
【0029】
長軸スリット8または長軸可変スリット14と投影レンズ10の距離をAとし、投影レンズ10と基板11との距離をBとし、スリット間長さをLとした場合、本発明では、基板11上での長軸方向ビームサイズは、L*B/Aとなる。本発明では、長軸スリット8または長軸可変スリット14,短軸スリット9または短軸可変スリット15、投影レンズ10、場合によっては短軸方向集光レンズ6を、焦点調整時に同時に前後させることにより、L*B/Aは常に一定となるように調整している。
【0030】
また、例えば、レーザ光20による熱レンズ効果が投影レンズ10に起こり、レンズ焦点位置が変化する場合(距離Aが距離A’に変化したとする)がある。この場合、基板11上の長軸方向ビームサイズがL*B/A=L’*B/A’となるように長軸可変スリット14のスリット幅L’を変化させ、基板11上でビームの幅を一定にすることが可能である。
【0031】
以上のように、長軸スリットおよび短軸スリットをレーザ照射方向に移動可能としたり、スリットの幅を伸縮可能とすることにより、基板の変位に対応してビーム形状等を調整することができる。
【0032】
これまで説明してきた実施の形態において、レーザ発振器1の発振形態はパルス波でも連続波であっても良い。また発振波長も限定するものはない。図2においてはビーム幅を1mmとしているが、レーザ発振器1のパワーが許す限り長くすることができる。逆に、ビーム幅は、1画素に存在するトランジスタ部分のみを照射できる長さであってもよい。
【0033】
また、以上の説明では、表示装置の画素トランジスタの結晶化に用いるレーザ光の生成装置を例に説明したが、その他の用途に用いるレーザ光の焦点調整およびビーム形状やサイズの調整に用いることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、高精度に焦点の調整およびビーム形状やサイズの調整を行うことができ、照射対象に照射するレーザ光の形状やサイズを調整可能なレーザ照射装置等に有用である。
【符号の説明】
【0035】
1 レーザ発振器
2 短軸方向コリメータレンズ
3 長軸方向コリメータレンズ
4 均一化レンズ
5 コンデンサーレンズ
6 短軸方向集光レンズ
7 フィールドレンズ
8 長軸スリット
9 短軸スリット
10 投影レンズ
11 基板
13 変位センサー
14 長軸可変スリット
15 短軸可変スリット
20 レーザ光
30 パネル
31 画素
32 ビーム
100 結晶化装置
101 レーザ発振器
102 レーザ光
103 均一化レンズ
104 スリット
105 投影レンズ
106 薄膜シリコン
107 コリメータレンズ
108 シリンドリカルレンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を照射するレーザ発振器と、
前記レーザ光を短軸方向において平行光とする短軸方向コリメータレンズと、
前記レーザ光を長軸方向において平行光とする長軸方向コリメータレンズと、
前記レーザ光を短軸方向に集光する集光レンズと、
前記集光レンズと照射対象との間に配置され、前記レーザ光の長軸方向のビーム形状を調整する長軸スリットと、
前記集光レンズと前記照射対象との間に配置され、前記レーザ光の短軸方向のビーム形状を調整する短軸スリットと、
前記レーザ光を前記照射対象に照射する投影レンズと、を有することを特徴とする
レーザ照射装置。
【請求項2】
前記集光レンズと前記長軸スリットおよび前記短軸スリットとの間に、前記レーザ光の指向性を向上させるフィールドレンズを有することを特徴とする
請求項1に記載のレーザ照射装置。
【請求項3】
前記投影レンズ、前記長軸スリットおよび前記短軸スリットは、それぞれ前記レーザ光の照射方向に移動可能であることを特徴とする
請求項1または2に記載のレーザ照射装置。
【請求項4】
前記投影レンズ,前記長軸スリットおよび前記短軸スリットをそれぞれ個別に移動させることにより、レーザ光の長軸方向および短軸方向の幅,輪郭,形状,ならびに焦点の少なくとも1つの調整を行うことを特徴とする
請求項1〜3のいずれかに記載のレーザ照射装置。
【請求項5】
前記長軸スリットの長軸方向のスリット幅が可変であることを特徴とする
請求項1〜4のいずれかに記載のレーザ照射装置。
【請求項6】
前記短軸スリットの短軸方向のスリット幅が可変であることを特徴とする
請求項1〜5のいずれかに記載のレーザ照射装置。
【請求項7】
前記照射対象が表示装置であり、前記レーザ光の照射により、前記表示装置に形成されたアモルファスシリコン膜をポリシリコン膜に結晶化させることを特徴とする
請求項1〜6のいずれかに記載のレーザ照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−248551(P2012−248551A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116419(P2011−116419)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】