レーザ発振素子
【課題】従来にはないナローな発光をする量子ドットを用いて、安定したレーザ発振を可能としたレーザ発振素子を提供する。
【解決手段】レーザ発振素子において、その活性層は、2×1010/cm2〜1×1011/cm2の密度でGaAs(311)A基板上に量子ドットが形成されている。
【解決手段】レーザ発振素子において、その活性層は、2×1010/cm2〜1×1011/cm2の密度でGaAs(311)A基板上に量子ドットが形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に活性層を形成してなるレーザ発振素子に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ発振素子の活性層を構成する量子ドットのサイズ揺らぎと発光の半値幅についての関係は、量子ドットはそのサイズが変化すると、量子閉じ込めエネルギーが変化するため発光する波長(エネルギー)が変化する。そのため、サイズの揺らぎが大きい量子ドット群の発光特性は、幅広い波長(エネルギー)にわたって広がり、その半値幅は広い物となる。量子ドットの半導体レーザ等の応用のためには、なるべくサイズ揺らぎの少ない量子ドットを高密度に作製することが望まれている。
非特許文献1で示されているように従来のGaAs(100)基板を用いたものでは、液滴の密度は最大でも3×1010/cm2であった。この特許文献1及び非特許文献1に示されているように、GaAs(100)基板を用いたものでは、液滴を結晶化する際の砒素分子線強度を低下させると、結晶化後のナノ構造の形状が変化し量子ドットの形成は不可能となる。
これに対し非特許文献1では、量子ドットを作製するために高強度の砒素分子線を液滴に照射して結晶化しているため、量子ドットのサイズの均一性が悪く、半値幅の狭い発光を得ることは不可能であった。
【0003】
【特許文献1】特開2006−060088
【非特許文献1】Jpn. J. Appl. Phys. 39、L79−L81、2000年、2月、K. Watanabe、N.Koguchi、 Y. Gotoh
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような実情に鑑み、従来にはないナローな発光をする量子ドットを用いて、安定したレーザ発振を可能としたレーザ発振素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明1のレーザ発振素子は、その活性層は、2×1010/cm2〜1×1011/cm2の密度、及び5Kにおける発光の半値幅50meV以下でGaAs(311)A基板上に量子ドットが形成してなることを特徴とする。
発明2は、発明1のレーザ発振素子の製造方法であって、前記量子ドットは、液滴エキタピシー法により所定の密度で形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
発明2により、GaAs(311)A基板上に、3×109/cm2〜1×1011/cm2の範囲で量子ドットの密度を制御する事に成功した。
また、発明1により、同基板を用いる事により、量子ドットの均一性に関しても、成長条件により広い範囲で制御可能となった。このような量子ドットをもつ半導体の半値幅は23meV〜100meV超を実現した。
この結果、極めて安定してナローな波長でのレーザ発振が可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図10に示す形態は、光励起による発振を試みたものである。基板上部から、緑色の光を導入すると、活性層上下のクラッド層及び活性層で電子正孔対が形成される。それらは、エネルギーの一番低いGaAs量子ドットへと注入され、それらが再結合する事により量子ドットが発光する。発光した光は、クラッド層と活性層の屈折率の差により、活性層中に閉じ込められて、成長方向と垂直な方向に作製された共振器中に閉じ込められてレーザ発振する。本実施例では、共振器は劈開した端面により形成した。
図10に示す形態の製造手順は以下の通りである。
GaAs(311)A基板上に、400nmの厚さをもつGaAsバッファー層を成長させて表面を平坦化させたのち、1300nmのAlGaAsクラッド層(高Al組成)を成長させた。その後、活性層となる、AlGaAs層(低Al組成)を220nm成長させ、その中に液滴エピタキシー法(図1)により作製したGaAs量子ドットを2層埋め込んだ。続いて、1300nmの上部のAlGaAsクラッド層(高Al組成)を成長させ、最後に表面を保護するため20nmのGaAsを成長させた。
【0008】
液滴エピタキシー法は、上記非特許文献1に記載されているように、InAs/GaAs等の格子不整合な系に於いても適用できる。そのため、本手法が、実施例2のGaAs量子ドットをGaSb、InAs、InP、InSb量子ドットに置き換えたもの、また、実施例2のGaAs(311)A基板をInP(311)A基板に置き換えされに、GaAs量子ドットをInAs、InSb量子ドットに置き換えた場合に於いても、同様の構造の作製が可能である事容易に類推できる。
これらが実現されることにより、可視域から近赤外域まで幅広い範囲のレーザ発振の実現が期待される。
【実施例】
【0009】
液滴エピタキシー法は、化合物半導体の量子ドットを作製する手法で、図1を参照して、ガリウム砒素量子ドットの作製を例として説明すると、基板上にガリウムのみを供給してガリウムの液体金属微粒子を作製し、続いて砒素を供給してその液滴をガリウム砒素に結晶化する事により、量子ドットを作製する。
図2に示すように、従来のGaAs(100)基板上では、200℃から350℃の範囲では、液滴の密度は基板温度と式1(GaAs(100)基板上の液滴密度のフィッティング曲線の式)の関係にあり、密度は最大でも2×1010/cm2程度であった。
【式1】
【0010】
【0011】
これに対して、GaAs(311)A基板を用いることにより、上記の温度範囲の全域で密度が増加し、最大で1×1011/cm2という、高密度の液滴が形成可能となった。なお、図1の説明で述べたように、この液滴は結晶化する事により、一つの液滴が一つの量子ドットとなることから、この密度はそのまま形成される量子ドットの密度と考えることができる。
【0012】
図3は、液滴を量子ドットへ結晶化する際の砒素分子線強度を変化させた際の結晶化後の構造の形状の顕微鏡像であるが、GaAs(100)基板上では、分子線強度の減少に伴い、形状が変化してしまうため、量子ドットの形成には2×10−4Torrの砒素分子線照射が必要である。それに対して、GaAs(311)A基板上では、砒素分子線強度を減少させても形状は保たれており、弱い砒素分子線照射に於いても量子ドット形成が可能である。
GaAs(100)基板上での、ドット構造は(0012段)に示すように発光の半値幅が広いためレーザ発振を実現することは困難である。一方で、量子ドットとは異なる構造(1e-5及び2e-6 Torr)からはレーザ発振を実現したが、これらの構造の電子状態はドットとは異なり固有状態間のエネルギー差が小さいため、量子ドットレーザに於いて期待される優れた温度特性を実現する事は困難である。
【0013】
GaAs量子ドットをAlGaAs層によりサンドイッチした構造を例にして、図4にその発光特性を示す。
図5には、同様な構造のGaAs(100)基板上の量子ドットの例を示すが、前述と同様に非常に高強度の砒素分子線照射を用いることが必須であるため、サイズ揺らぎが大きな量子ドットが形成され、観察される発光の半値幅は100meV以上と非常に大きな値である。
そのため、この量子ドット構造では、レーザ発振に寄与できる実質的な量子ドットの数が少なくなり、レーザ発振を実現することは困難である。また、発振を実現したとても予測されているような優れた特性(閾値電流特性、変調特性)を実現する事は期待できない。実際に我々がGaAs(100)基板上の量子ドットを用いて試作した素子(図10)では、レーザ発振は実現できなかった。
図6−8は本実施例において、GaAs(311)A基板上でも、砒素分子線強度を変えても量子ドットの形成が可能で、弱い強度の砒素を照射した際に均一性の高い量子ドットが形成されることを示している。それにより、半値幅50meV以下の発光が観察される。
GaAs(311)A基板上に高均一な量子ドットを図6、図7の様に高密度に形成することにより、レーザ発振に寄与できる量子ドットの数が増加し、レーザ発振を実現することができる。それにより、量子ドットレーザに於いて期待される優れた特性を発現することも期待される。実際に図6の量子ドットを用いてレーザ素子の試作を行い、図10に示す構造を作製したところ、図11に示すように室温に於いてレーザ発振を実現した。尚、図8に示す量子ドットは均一性に於いては優れているが、ドット密度が低いため(意図的に低くしている)、レーザ発振の実現は困難である。
【0014】
なお、GaAs(311)A基板上でも、高強度の砒素分子線による結晶化を行うと、(100)基板上と同様にサイズ揺らぎの大きな量子ドットが形成され、100meVを超える半値幅の発光が観察される。(図9参照)
図9のようにGaAs(311)A基板上に於いても、低密度でサイズ不均一性の大きな量子ドットを作製すると、レーザ発振に寄与する量子ドットの数が著しく少なくなるため発振を実現することは困難となる。
レーザ発振を実現するために必要な量子ドットの密度とサイズ不均一性の関係は、レーザ素子中の導波路光損失、ミラー反射率などに強く依存するため数値化する事は困難であったが、過去の報告例及び我々の実験結果から経験的に、レーザ発振を実現するためには、半値幅50meV程度以下、密度2×1010/cm2程度以上が必要であることが明らかとなっている。この値は、文献1(応用物理第74巻、第3号、295p、2005年)に記載されているレーザ応用のための理想的な量子ドットの条件(半値幅10〜15meV、密度〜1011/cm2)に比較的近い値となっている。
【産業上の利用可能性】
【0015】
液滴エピタキシー法は、基板と量子ドット材料の格子定数が等しい材料系に適用できる量子ドットの自己形成手法であるが、これまでGaAs(100)基板を用いた液滴エピタキシー法により作成した量子ドットは、最大でも密度が2〜3×1010/cm2で、さらに、大きなサイズ揺らぎに起因する発光の半値幅の広いため、しきい値電流、変調特性等に於いて優れた特性が予測されている量子ドットレーザを実現する事は困難であった。しかしこの技術により、高密度かつ高均一な量子ドットが実現されることにより、従来の技術では実現不可能であったGaAs/AlGaAsなどの格子整合な系において自己形成量子ドットを用いた量子ドットレーザ素子を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】液滴エピタキシー法の模式図
【図2】GaAs(100)及び(311)A基板上のガリウム液滴密度の比較を示すグラフ。
【図3】(100)及び(311)A基板上の液滴を異なる強度の砒素照射により結晶化した後のGaAsナノ構造の形状を示す顕微鏡写真。
【図4】発光特性を測定するために作製した構造の模式図
【図5】(100)基板上に形成した量子ドットの発光特性と顕微鏡像(砒素強度2×10−4torr)
【図6】(311)A基板上に形成した量子ドットの発光特性と顕微鏡像(砒素強度2×10−6torr)
【図7】(311)A基板上に形成した量子ドットの発光特性と顕微鏡像(砒素強度1×10−5torr)
【図8】(311)A基板上に形成した量子ドットの発光特性と顕微鏡像(砒素強度2×10−6torr)
【図9】(311)A基板上に形成した量子ドットの発光特性と顕微鏡像(砒素強度2×10−4torr)
【図10】結晶成長により作製した量子ドットレーザ素子の構造を示す模式図
【図11】室温に於けるレーザ発振特性を示すグラフ。この際図6の量子ドットを用いている。
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に活性層を形成してなるレーザ発振素子に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ発振素子の活性層を構成する量子ドットのサイズ揺らぎと発光の半値幅についての関係は、量子ドットはそのサイズが変化すると、量子閉じ込めエネルギーが変化するため発光する波長(エネルギー)が変化する。そのため、サイズの揺らぎが大きい量子ドット群の発光特性は、幅広い波長(エネルギー)にわたって広がり、その半値幅は広い物となる。量子ドットの半導体レーザ等の応用のためには、なるべくサイズ揺らぎの少ない量子ドットを高密度に作製することが望まれている。
非特許文献1で示されているように従来のGaAs(100)基板を用いたものでは、液滴の密度は最大でも3×1010/cm2であった。この特許文献1及び非特許文献1に示されているように、GaAs(100)基板を用いたものでは、液滴を結晶化する際の砒素分子線強度を低下させると、結晶化後のナノ構造の形状が変化し量子ドットの形成は不可能となる。
これに対し非特許文献1では、量子ドットを作製するために高強度の砒素分子線を液滴に照射して結晶化しているため、量子ドットのサイズの均一性が悪く、半値幅の狭い発光を得ることは不可能であった。
【0003】
【特許文献1】特開2006−060088
【非特許文献1】Jpn. J. Appl. Phys. 39、L79−L81、2000年、2月、K. Watanabe、N.Koguchi、 Y. Gotoh
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような実情に鑑み、従来にはないナローな発光をする量子ドットを用いて、安定したレーザ発振を可能としたレーザ発振素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明1のレーザ発振素子は、その活性層は、2×1010/cm2〜1×1011/cm2の密度、及び5Kにおける発光の半値幅50meV以下でGaAs(311)A基板上に量子ドットが形成してなることを特徴とする。
発明2は、発明1のレーザ発振素子の製造方法であって、前記量子ドットは、液滴エキタピシー法により所定の密度で形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
発明2により、GaAs(311)A基板上に、3×109/cm2〜1×1011/cm2の範囲で量子ドットの密度を制御する事に成功した。
また、発明1により、同基板を用いる事により、量子ドットの均一性に関しても、成長条件により広い範囲で制御可能となった。このような量子ドットをもつ半導体の半値幅は23meV〜100meV超を実現した。
この結果、極めて安定してナローな波長でのレーザ発振が可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図10に示す形態は、光励起による発振を試みたものである。基板上部から、緑色の光を導入すると、活性層上下のクラッド層及び活性層で電子正孔対が形成される。それらは、エネルギーの一番低いGaAs量子ドットへと注入され、それらが再結合する事により量子ドットが発光する。発光した光は、クラッド層と活性層の屈折率の差により、活性層中に閉じ込められて、成長方向と垂直な方向に作製された共振器中に閉じ込められてレーザ発振する。本実施例では、共振器は劈開した端面により形成した。
図10に示す形態の製造手順は以下の通りである。
GaAs(311)A基板上に、400nmの厚さをもつGaAsバッファー層を成長させて表面を平坦化させたのち、1300nmのAlGaAsクラッド層(高Al組成)を成長させた。その後、活性層となる、AlGaAs層(低Al組成)を220nm成長させ、その中に液滴エピタキシー法(図1)により作製したGaAs量子ドットを2層埋め込んだ。続いて、1300nmの上部のAlGaAsクラッド層(高Al組成)を成長させ、最後に表面を保護するため20nmのGaAsを成長させた。
【0008】
液滴エピタキシー法は、上記非特許文献1に記載されているように、InAs/GaAs等の格子不整合な系に於いても適用できる。そのため、本手法が、実施例2のGaAs量子ドットをGaSb、InAs、InP、InSb量子ドットに置き換えたもの、また、実施例2のGaAs(311)A基板をInP(311)A基板に置き換えされに、GaAs量子ドットをInAs、InSb量子ドットに置き換えた場合に於いても、同様の構造の作製が可能である事容易に類推できる。
これらが実現されることにより、可視域から近赤外域まで幅広い範囲のレーザ発振の実現が期待される。
【実施例】
【0009】
液滴エピタキシー法は、化合物半導体の量子ドットを作製する手法で、図1を参照して、ガリウム砒素量子ドットの作製を例として説明すると、基板上にガリウムのみを供給してガリウムの液体金属微粒子を作製し、続いて砒素を供給してその液滴をガリウム砒素に結晶化する事により、量子ドットを作製する。
図2に示すように、従来のGaAs(100)基板上では、200℃から350℃の範囲では、液滴の密度は基板温度と式1(GaAs(100)基板上の液滴密度のフィッティング曲線の式)の関係にあり、密度は最大でも2×1010/cm2程度であった。
【式1】
【0010】
【0011】
これに対して、GaAs(311)A基板を用いることにより、上記の温度範囲の全域で密度が増加し、最大で1×1011/cm2という、高密度の液滴が形成可能となった。なお、図1の説明で述べたように、この液滴は結晶化する事により、一つの液滴が一つの量子ドットとなることから、この密度はそのまま形成される量子ドットの密度と考えることができる。
【0012】
図3は、液滴を量子ドットへ結晶化する際の砒素分子線強度を変化させた際の結晶化後の構造の形状の顕微鏡像であるが、GaAs(100)基板上では、分子線強度の減少に伴い、形状が変化してしまうため、量子ドットの形成には2×10−4Torrの砒素分子線照射が必要である。それに対して、GaAs(311)A基板上では、砒素分子線強度を減少させても形状は保たれており、弱い砒素分子線照射に於いても量子ドット形成が可能である。
GaAs(100)基板上での、ドット構造は(0012段)に示すように発光の半値幅が広いためレーザ発振を実現することは困難である。一方で、量子ドットとは異なる構造(1e-5及び2e-6 Torr)からはレーザ発振を実現したが、これらの構造の電子状態はドットとは異なり固有状態間のエネルギー差が小さいため、量子ドットレーザに於いて期待される優れた温度特性を実現する事は困難である。
【0013】
GaAs量子ドットをAlGaAs層によりサンドイッチした構造を例にして、図4にその発光特性を示す。
図5には、同様な構造のGaAs(100)基板上の量子ドットの例を示すが、前述と同様に非常に高強度の砒素分子線照射を用いることが必須であるため、サイズ揺らぎが大きな量子ドットが形成され、観察される発光の半値幅は100meV以上と非常に大きな値である。
そのため、この量子ドット構造では、レーザ発振に寄与できる実質的な量子ドットの数が少なくなり、レーザ発振を実現することは困難である。また、発振を実現したとても予測されているような優れた特性(閾値電流特性、変調特性)を実現する事は期待できない。実際に我々がGaAs(100)基板上の量子ドットを用いて試作した素子(図10)では、レーザ発振は実現できなかった。
図6−8は本実施例において、GaAs(311)A基板上でも、砒素分子線強度を変えても量子ドットの形成が可能で、弱い強度の砒素を照射した際に均一性の高い量子ドットが形成されることを示している。それにより、半値幅50meV以下の発光が観察される。
GaAs(311)A基板上に高均一な量子ドットを図6、図7の様に高密度に形成することにより、レーザ発振に寄与できる量子ドットの数が増加し、レーザ発振を実現することができる。それにより、量子ドットレーザに於いて期待される優れた特性を発現することも期待される。実際に図6の量子ドットを用いてレーザ素子の試作を行い、図10に示す構造を作製したところ、図11に示すように室温に於いてレーザ発振を実現した。尚、図8に示す量子ドットは均一性に於いては優れているが、ドット密度が低いため(意図的に低くしている)、レーザ発振の実現は困難である。
【0014】
なお、GaAs(311)A基板上でも、高強度の砒素分子線による結晶化を行うと、(100)基板上と同様にサイズ揺らぎの大きな量子ドットが形成され、100meVを超える半値幅の発光が観察される。(図9参照)
図9のようにGaAs(311)A基板上に於いても、低密度でサイズ不均一性の大きな量子ドットを作製すると、レーザ発振に寄与する量子ドットの数が著しく少なくなるため発振を実現することは困難となる。
レーザ発振を実現するために必要な量子ドットの密度とサイズ不均一性の関係は、レーザ素子中の導波路光損失、ミラー反射率などに強く依存するため数値化する事は困難であったが、過去の報告例及び我々の実験結果から経験的に、レーザ発振を実現するためには、半値幅50meV程度以下、密度2×1010/cm2程度以上が必要であることが明らかとなっている。この値は、文献1(応用物理第74巻、第3号、295p、2005年)に記載されているレーザ応用のための理想的な量子ドットの条件(半値幅10〜15meV、密度〜1011/cm2)に比較的近い値となっている。
【産業上の利用可能性】
【0015】
液滴エピタキシー法は、基板と量子ドット材料の格子定数が等しい材料系に適用できる量子ドットの自己形成手法であるが、これまでGaAs(100)基板を用いた液滴エピタキシー法により作成した量子ドットは、最大でも密度が2〜3×1010/cm2で、さらに、大きなサイズ揺らぎに起因する発光の半値幅の広いため、しきい値電流、変調特性等に於いて優れた特性が予測されている量子ドットレーザを実現する事は困難であった。しかしこの技術により、高密度かつ高均一な量子ドットが実現されることにより、従来の技術では実現不可能であったGaAs/AlGaAsなどの格子整合な系において自己形成量子ドットを用いた量子ドットレーザ素子を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】液滴エピタキシー法の模式図
【図2】GaAs(100)及び(311)A基板上のガリウム液滴密度の比較を示すグラフ。
【図3】(100)及び(311)A基板上の液滴を異なる強度の砒素照射により結晶化した後のGaAsナノ構造の形状を示す顕微鏡写真。
【図4】発光特性を測定するために作製した構造の模式図
【図5】(100)基板上に形成した量子ドットの発光特性と顕微鏡像(砒素強度2×10−4torr)
【図6】(311)A基板上に形成した量子ドットの発光特性と顕微鏡像(砒素強度2×10−6torr)
【図7】(311)A基板上に形成した量子ドットの発光特性と顕微鏡像(砒素強度1×10−5torr)
【図8】(311)A基板上に形成した量子ドットの発光特性と顕微鏡像(砒素強度2×10−6torr)
【図9】(311)A基板上に形成した量子ドットの発光特性と顕微鏡像(砒素強度2×10−4torr)
【図10】結晶成長により作製した量子ドットレーザ素子の構造を示す模式図
【図11】室温に於けるレーザ発振特性を示すグラフ。この際図6の量子ドットを用いている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に活性層を形成してなるレーザ発振素子であって、前記活性層は、2×1010/cm2〜1×1011/cm2の密度、5Kにおける発光の半値幅50meV以下でGaAs(311)A基板上に量子ドットが形成してなることを特徴とするレーザ発振素子。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ発振素子の製造方法であって、前記量子ドットは、液滴エキタピシー法により所定の密度で形成したことを特徴とする。
【請求項1】
基板上に活性層を形成してなるレーザ発振素子であって、前記活性層は、2×1010/cm2〜1×1011/cm2の密度、5Kにおける発光の半値幅50meV以下でGaAs(311)A基板上に量子ドットが形成してなることを特徴とするレーザ発振素子。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ発振素子の製造方法であって、前記量子ドットは、液滴エキタピシー法により所定の密度で形成したことを特徴とする。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−16710(P2009−16710A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−179415(P2007−179415)
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
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