説明

レーザ装置

【課題】ファイバ出射端部近傍の過熱を防止可能なレーザ装置を提供する。
【解決手段】本発明を例示する態様は、ダブルクラッド構造の光ファイバ231を有しコアを伝播するレーザ光が増幅されて出射するファイバ光増幅器またはファイバーレーザを備えたレーザ装置である。光ファイバ231の出射端部には、第2クラッド231cが剥離されて第1クラッド231bが露出する第1クラッド露出部51が形成されるとともに、第1クラッド露出部51を覆う外端部材52a,52bが設けられ、この外端部材と第1クラッドの外周面との間に、第1クラッドの屈折率に近似した屈折率の屈折率整合部材55が充填されて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアと第1、第2クラッドとを有する光ファイバにより、コアを伝播するレーザ光を増幅して出射するファイバ光増幅器またはファイバーレーザを備えたレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のようなレーザ装置は、例えば、顕微鏡や形状測定装置、露光装置等の光源として広く用いられている。このようなレーザ装置において、ファイバーレーザやファイバ光増幅器は、一般的に、波長λ=1.0〜1.55μmの基本波を発生し増幅して所定出力の基本波レーザ光を波長変換部に出力する基本波出力部として用いられている。波長変換部では、入力された基本波レーザ光を単数もしくは複数の波長変換光学素子により波長変換し、例えば、波長λ=193nm,355nm等の紫外レーザ光に変換して出力するように構成される(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)。
【0003】
近年では、レーザー加工の適用範囲の拡大や生産性の向上要求等により紫外レーザ光の高出力化が望まれており、これに伴って基本波レーザ光もさらなる高出力化が求められている。基本波レーザ光を高出力化する手段として、ファイバーレーザやファイバ光増幅器における後段の光ファイバにダブルクラッド構造のファイバを用い、第1クラッドに高出力半導体レーザから出射されたマルチモードの励起光を導入して高効率に利用する手法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−200747号公報
【特許文献2】特開2002−50815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、基本波レーザ光の出力が数十〜百Wレベルになり、このような高出力状態で長時間作動させるようになると、ファイバの出射端の近傍において、先端側を剥離除去した樹脂製の第2クラッドの端面や、第1クラッドに接する第2クラッド内面の一部が過熱する現象が見られるようになってきた。また、ファイバから出射する基本波レーザ光のビームポインティングが微少変化する現象が見られることがあった。
【0006】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたものであり、ファイバ出射端部近傍における第2クラッドの過熱を防止し得るレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、まず上記のような現象が何に起因して発生するか鋭意研究を進めた。その結果、以下のような推定をするに至った。図9に示すように、光ファイバ90の出射端部では、カットされたファイバ端面95や外部の光学部材で反射された励起光及び基本波レーザ光が戻り光となり、ファイバ内を基端方向に伝播する。このとき第1クラッド92の外周面に微少な凹凸や傷が存在すると当該部分において戻り光が拡散して漏れ出し、近接する第2クラッド93の端面や内面が加熱される。また、戻り光がファイバ端部を保持する保持部材を加熱し、保持部材が熱変形することにより基本波レーザ光のビームポインティングが微少変化する。このような知見に基づいて発明者らは以下の発明を完成させた。
【0008】
本発明を例示する態様は、レーザ媒質がドープされたコアと、コアの外周を覆い励起光が導入される第1クラッドと、第1クラッドの外周を覆う第2クラッドとを有する光ファイバにより、コアを伝播するレーザ光が光増幅されて出射するファイバ光増幅器またはファイバーレーザを備えたレーザ装置である。このようなレーザ装置において、前記光ファイバの出射端部に、第2クラッドが剥離されて第1クラッドが露出する第1クラッド露出部が形成されるとともに、第1クラッドの外周面と所定間隔を隔てて第1クラッド露出部を覆う外端部材が設けられ、この外端部材と第1クラッドの外周面との間に、第1クラッドの屈折率と略同一の屈折率を有する屈折率整合部材が充填されて構成される。
【0009】
本発明において、前記外端部材は、第1クラッド露出部の一方の外周半面側(例えば上面側)を覆う第1部材と、第1クラッド露出部の他方の外周半面側(例えば下面側)を覆う第2部材とを有し、第1部材及び第2部材の少なくともいずれかは、励起光を透過する透明材料により形成されるように構成することができる。
【0010】
あるいは、前記外端部材は、第1クラッド露出部の一方の外周半面側(例えば上面側)を覆う第1部材と、第1クラッド露出部の他方の外周半面側(例えば下面側)を覆う第2部材とを有し、第1部材及び第2部材の少なくともいずれかは、第1クラッドを挟んで対向する面に励起光を反射する反射面が形成されるように構成することができる。
【0011】
なお、前記第1部材及び前記第2部材の少なくともいずれかに、当該第1、第2部材の温度上昇を抑制する冷却手段を設けて構成してもよい。また、前記屈折率整合部材を、光ファイバの出射端部を外端部材に固着する接着剤とし、光ファイバの出射端部が固定された外端部材がレーザ装置に固定保持されるように構成してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明を例示する態様のレーザ装置においては、光ファイバの出射端部に第1クラッド露出部が形成されるとともに、第1クラッドの外周面と所定間隔を隔てて第1クラッド露出部を覆う外端部材が設けられ、この外端部材と第1クラッドの外周面との間に、第1クラッドの屈折率と略同一の屈折率を有する屈折率整合部材が充填されている。このような構成によれば、出射端から基端側に向かう戻り光は、第1クラッド露出部において外周面から屈折率差がない屈折率整合部材に導出される。従って、第1クラッド露出部よりも基端側に位置する第2クラッドの過熱を防止したレーザ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】レーザ装置の全体構成を例示する概要構成図である。
【図2】上記レーザ装置におけるファイバ光増幅器の概要構成図である。
【図3】ダブルクラッド構造の光ファイバの軸方向に沿った断面図である。
【図4】第1構成形態の戻り光除去構造の平面図である。
【図5】図4中に付記するV−V矢視方向に見た戻り光除去構造の側断面図である。
【図6】上記戻り光除去構造を出射端側から見た正面図である。
【図7】第1構成形態の戻り光除去構造を出射端側から見た正面図である。
【図8】第2構成形態の戻り光除去構造の側断面図である。
【図9】従来の光ファイバの出射端部で生じる現象を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。図1に本発明を適用したレーザ装置LS全体の概要構成を示す。例示するレーザ装置LSは、主として、信号光(シード光)を出射する光源部10と、光源部10から出射された信号光を増幅する増幅部20と、増幅部20により増幅された信号光(基本波レーザ光)を波長変換して出力する波長変換部30と、各部の作動を制御する制御装置40とを備えて構成される。
【0015】
信号光及び出力光の波長や光波形、出力パワー等は、このレーザ装置LSを用いて構成される装置の用途及び機能に応じて適宜に設定可能である。本実施形態では、光源部10から出射される波長λ=1064nm、パワーが数mWレベルの信号光を、増幅部20において数十〜百Wレベルに増幅し、増幅された信号光を波長変換部30において所要波長のレーザ光に変換して出力する場合を例示する。
【0016】
光源部10は、波長λ=1064nmの信号光を発生するレーザ光源11を主体として構成される。レーザ光源11は、例えばDFB(Distributed Feedback)半導体レーザを用いることができる。DFB半導体レーザは、CW発振及びパルス発振させることができるとともに、パルス波形を高速で制御することができ、また温度制御することにより所定の波長範囲で狭帯域化された単一波長の信号光を出力させることができる。
【0017】
図1に示す光源部10は、レーザ光源11からON時間が充分に長いパルス光(あるいはCW光)を出力させ、その一部を電気光学変調素子(EOM)や音響光学変調素子(AOM)等の外部変調器15により切り出して、所要波形のパルス光を出力するようにした構成例を示す。
【0018】
増幅部20は、光源部10から出射された数mWレベルの信号光を数十〜百Wレベルに増幅して波長変換部30に出射する。図では3つのファイバ光増幅器21,22,23を直列に接続し、これら3段のファイバ光増幅器21,22,23によって信号光を順次増幅する構成を示す。本構成例においては、1段目及び2段目のファイバ光増幅器21,22としてシングルクラッドのイッテルビウム(Yb)・ドープ・ファイバ光増幅器(YDFA)が用いられ、3段目のファイバ光増幅器23としてダブルクラッドのYDFAが用いられている。
【0019】
ファイバ光増幅器は、ファイバ光増幅器23の概要構成を図2に示すように、コアにレーザ媒質であるYb(イッテルビウム)がドープされた光ファイバ231と、Ybを励起する励起光源232とを主体として構成される。励起光源232は波長λ=975nmの半導体レーザが好適に用いられる。シングルクラッド構造の光ファイバは、Ybがドープされたコアと、コアの外周を覆うクラッドとからなり、コアに信号光及び励起光が導入される。
【0020】
一方、ダブルクラッド構造の光ファイバ231は、ファイバの軸方向に沿った断面図を図3に示すように、Ybがドープされたコア231aと、コアの外周を覆う第1クラッド231bと、第1クラッドの外周を覆う第2クラッド231cとを有し、コア231aに信号光が導入され、第1クラッド231bに励起光が導入される。
【0021】
具体的には、前段のファイバ光増幅器22から出射した信号光が、WDM(Wavelength Division Multiplex)カプラ233を介して光ファイバ231のコア231aに入射し、励起光源232から出射した励起光が、WDMカプラ233を介して光ファイバ231の第1クラッド231bに入射するように構成される。第1クラッド(ポンピングガイドとも称される)231bは励起光のマルチモード導波路として作用し、複数の励起光源232から出射された高出力のマルチモードレーザ光を軸方向に導波して、コア231aにドープされたYbが効率的に励起されるようになっている。
【0022】
光ファイバ231は、ファイバの生産性や加工性、取り扱いの容易さなどから、一般的に、コア231a及び第1クラッド231bが石英(シリカ)ガラス製の光ファイバ、第2クラッド231cが樹脂製の光ファイバが用いられる。
【0023】
なお、図2にはYDFAを信号光の入射側から励起する前方励起型の構成例を示すが、信号光の出射側から励起する後方励起型や、入射側及び出射側の両方から励起する双方励起型としてもよい。3段目のファイバ光増幅器23により増幅された信号光(基本波レーザ光)は増幅部20から出射し、波長変換部30に入射する。
【0024】
波長変換部30は、増幅部20から出射した基本波レーザ光を所要波長のレーザ光に波長変換して出力する。既に述べたように、出力光の波長はレーザ装置LSを用いて構成される装置の用途及び機能に応じて可視〜紫外領域で適宜に設定可能であり、例えば特許文献1や特許文献2に開示されているような種々の構成を採用することができる。ここでは、波長1064nmの赤外領域の基本波レーザ光を、2つの波長変換光学素子31,32によって波長355nmの紫外レーザ光に波長変換する構成を例示する。
【0025】
図1に例示する波長変換部30は、波長変換光学素子31,32を主体として構成される。増幅部20から波長変換部30に入射した波長λ1=1064nmの基本波レーザ光は、集光レンズを介して波長変換光学素子31に集光入射される。波長変換光学素子31では第2高調波発生が行われ、周波数が基本波周波数ωの2倍(2ω)、波長が基本波波長λ1の半分であるλ2=532nmの2倍波が発生される。波長変換光学素子31として、例えば、PPLN(Periodically Poled LN)結晶や、LBO(LiB35)結晶などを用いることができる。
【0026】
波長変換光学素子31により波長変換されて出射する波長λ2=532nmの2倍波と、波長変換光学素子31を波長変換されずに透過した波長λ1=1064nmの基本波レーザ光は、集光レンズを介して波長変換光学素子32に集光入射される。波長変換光学素子32では和周波発生が行われ、周波数が基本波波長の3倍(3ω)、波長が基本波周波数の1/3であるλ3=355nmの3倍波が発生される。波長変換光学素子32として、例えば、LBO結晶やBBO結晶などを用いることができる。
【0027】
そして、波長変換光学素子32により発生された波長λ3=355nmの3倍波が波長変換部30(レーザ装置LS)から出射される。なお、波長変換光学素子32から出射する光には、波長変換光学素子32を波長変換されずに透過した基本波及び2倍波が含まれるが、波長変換光学素子32の出射端側にダイクロイックミラーまたはプリズム等を配設することにより3倍波以外の成分を除去することができる。
【0028】
以上のように概要構成されるレーザ装置にあって、増幅部20から出射される基本波レーザ光の出力は、動作条件に応じて最大値が数十〜百W(例えば80W)レベルになる。そのため、ファイバ光増幅器23の出射端部では、カットされた光ファイバ231の端面や、波長変換光学素子31,32の入出射端面等で反射された基本波レーザ光及び励起光が高エネルギーの戻り光となってファイバ内を逆流し、既に述べた種々の問題が生じ得る。そこで、レーザ装置LSにおいては、ファイバ光増幅器23の出射端部に戻り光除去構造50を設け、戻り光に起因する問題発生を未然に防止可能としている。
【0029】
以下、戻り光除去構造50について詳細に説明する。第1構成形態の戻り光除去構造50Aの平面図を図4に、図4中に付記するV−V矢視方向に見た側断面図を図5に、出射端側から見た正面図を図6に示す。なお、説明の便宜上から、図6に示す配置姿勢をもって上下・左右と称し、図6における紙面直交の表裏方向を前後と称して説明するが、戻り光除去構造の配置姿勢は自在であり、ファイバ光増幅器23の出射端部の方位や支持構造の構成等に応じて適宜に設定することができる。
【0030】
戻り光除去構造50(50A,50B,50C)では、光ファイバ231の第2クラッド231cが所定長さ(例えば、数mm〜十数mm程度)剥離されて第1クラッド231bが露出する第1クラッド露出部51が形成される。そして、第1クラッド231bの外周面と所定間隔を隔てて第1クラッド露出部51を覆う外端部材52(53,54)が設けられ、この外端部材52と第1クラッド231bの外周面との間に、第1クラッド231bの屈折率と略同一の屈折率を有する(実質的に屈折率の差異がない、または屈折率差が微少な)屈折率整合部材55が充填されて構成される。
【0031】
第1構成形態の戻り光除去構造50Aにおいては、外端部材52は、第1クラッド露出部51の上面側を覆う第1部材52aと、第1クラッド露出部51の下面側を覆う第2部材52bとを有し、第1部材及び第2部材の少なくともいずれかは、励起光及び信号光を透過する透明材料により形成される。図4〜図6には、第1クラッド露出部51の上面側を覆う第1部材52aを透明なガラス材料、下面側を覆う第2部材52bをアルミニウム合金やステンレス等の金属材料により構成した構成例を示す。
【0032】
屈折率整合部材55は、例えば、第1クラッド231bの屈折率に合わせて調製された接着剤やインデックスマッチングオイル等を用いることができる。図示する構成例においては、第2部材52bにファイバの軸方向に伸びるV字状の溝を形成して光ファイバ231を安定的に位置決め保持させるとともに、接着剤を塗布した第1,第2部材52a,52bでファイバ先端部を挟み込んで第1クラッド露出部51の周囲を接着剤で満たし、第1,第2部材52a,52bの左右側縁を板バネ状のクリップ56,56で挟み込んで固定している。
【0033】
このように、ファイバ先端の第2クラッド部231cをV字状の溝と平板で挟み込み、接着剤等の屈折率整合部材55を充満させて、左右のクランプ56,56で固定する構成により、第1クラッド231bに無用な内部応力(屈折率変化)を発生させることなく、光ファイバ231の先端部が機械的に安定保持される。また、第1部材52aや第2部材52bの表面のぬれ性が良好でない場合であっても、第1クラッド露出部51の周囲を接着剤で満たすことができる。戻り光除去構造50Aにおいては、光ファイバ231(第1クラッド231b)の先端部が外端部材52(52a,52b)からわずかに突出するように構成されており、出射端面231eへの屈折率整合部材55の付着を防止するとともに、出射端部のメンテナンスを容易に行えるようになっている。
【0034】
このような構成の戻り光除去構造50Aにおいては、図4中に二点鎖線で示すように、第1クラッド231bを光ファイバの基端側から出射端に向かう励起光が、第1クラッド露出部51において第1クラッド231bから屈折率整合部材55側に入射し、外端部材52から大きな拡がり角で前方及び上方に拡散して出射する。これにより、出射端面231eまで到達する励起光の光量が大きく減少し、出射端面231eや波長変換光学素子31,32等の入出射面での反射による戻り光の励起光成分が大幅に削減される。
【0035】
一方、コア231aを伝播する信号光は出射端面231eに到達し、出射端面231eで反射した光や、波長変換光学素子31,32の入出射面で反射した光が第1クラッド231bに戻り光となって再入射し得る。このように出射端面等で発生した信号光成分(及び微弱な励起光成分)の戻り光は、外端部材52からわずかに突出する第1クラッド露出部51の先端部を伝播して基端方向に向かうが、周囲が屈折率整合部材55で満たされた領域において第1クラッド231bから屈折率整合部材55側に入射し、外端部材52から大きな拡がり角で後方及び上方に拡散して出射する。
【0036】
このように、戻り光除去構造50Aにおいては、戻り光の要因となる励起光が出射端面231eに至る以前に、第1クラッド231bから屈折率整合部材55側に入射して大きな拡がり角で前方及び上方に拡散放射され、残余の励起光及び信号光によって生じた戻り光も、出射端面231eからわずかに基端側の領域で第1クラッド231bから屈折率整合部材55側に入射して大きな拡がり角で後方及び上方に拡散放射される。従って、本構成の戻り光除去構造50Aによれば、屈折率整合部材55が充満された第1クラッド露出部51よりも基端側の第2クラッド231cまで高パワーの戻り光が到達することがなく、戻り光に起因した第2クラッドの過熱等の問題を未然に防止することができる。
【0037】
また、上記のように励起光及び戻り光が大きな拡がり角で前後及び上方に拡散放射されるため、波長変換部30にファイバ端部を固定保持する保持部材に第2部材52bを取り付けても保持部材が熱変形するようなことがなく、波長変換部30に入射する信号光(基本波レーザ光)のビームポインティング変化を抑制することができる。さらに、第2部材52bを固定することにより、出射端面231eの直近で光ファイバ231が機械的に安定保持されるため、振動や衝撃等による光ファイバ先端部のぶれを抑止し、基本波レーザ光のビームポインティングスタビリティを向上させることができる。
【0038】
なお、上記構成例では、第1クラッド露出部51を覆う第1,第2部材52a,52bのうち一方を透明材料により形成した構成を例示したが、両方を透明材料により形成してもよい。また、第2部材52bをアルミニウムやステンレス等の一般的な金属材料で形成した構成を例示したが、スーパーインバー等の低熱膨張係数の金属やセラミックス等を用いて形成してもよい。
【0039】
次に、第2構成形態の戻り光除去構造50Bについて、図7を参照して説明する。図7は、戻り光除去構造50Bを図6と同様に出射端側から見た正面図である。本構成形態の戻り光除去構造50Bは、前述した第1構成形態の戻り光除去構造50Aと外端部材53の構成が異なり、他の構成部分は同様である。そこで、以下では相違する外端部材53の構成を主として説明し、同様部分については同一番号を付して重複説明を省略する。
【0040】
すなわち、戻り光除去構造50Bは、光ファイバ231の先端部に前述同様の第1クラッド露出部51が形成されるとともに、第1クラッド231bの外周面と所定間隔を隔てて第1クラッド露出部51を覆う外端部材53が設けられ、この外端部材53と第1クラッド231bの外周面との間に、第1クラッド231bの屈折率と略同一の屈折率を有する屈折率整合部材55が充填されて構成される。
【0041】
外端部材53は、第1クラッド露出部51の上面側を覆う第1部材53aと、第1クラッド露出部51の下面側を覆う第2部材53bとを有し、第1部材及び第2部材の少なくともいずれかは、第1クラッド231bを挟んで対向する面に、励起光及び信号光を反射する反射面が形成されて構成される。図7には、第1部材53a及び第2部材53bを銅合金やアルミニウム合金等の金属材料により構成し、第1クラッド231bを挟んで対向する第1部材53aの下面及び第2部材53bの上面に反射面53rを形成した構成を示す。反射面53rは、例えば形成対象面を鏡面研磨し、必要に応じて励起光及び信号光の波長帯域について金属蒸着膜等の高反射率の反射膜を形成することにより形成することができる。
【0042】
屈折率整合部材55は、既に述べた構成と同様であり、第2部材53bに形成されたV字状の溝に光ファイバ231を位置決め保持するとともに、接着剤を塗布した第1,第2部材53a,53bでファイバ先端部を挟み込んで第1クラッド露出部51の周囲を接着剤で満たし、第1,第2部材53a,53bの左右側縁をクリップ56,56で挟み込んで固定して構成される。
【0043】
この構成により、第1クラッド231bに無用な内部応力を発生させることなく光ファイバ231の先端部が機械的に安定保持され、第1部材53aや第2部材53bの表面のぬれ性が良好でない場合であっても、第1クラッド露出部51の周囲を接着剤で満たすことができる。光ファイバ231の先端部は外端部材53(53a,53b)からわずかに突出するように構成されており(図4,図5を参照)、出射端面231eへの屈折率整合部材55の付着を防止するとともに、出射端部のメンテナンスを容易に行えるようになっている。
【0044】
このような構成の戻り光除去構造50Bにおいては、光ファイバの基端側から第1クラッド231bを通って出射端に向かう励起光が、第1クラッド231bから屈折率整合部材55が満たされた第1,第2部材間に入射する。第1,第2部材間では屈折率整合部材55を挟んで上下に反射面53rが形成されており、ここに入射した励起光は、上下の反射面53r,53rで反射されながら屈折率整合部材中を伝播し、第1,第2部材53a,53bの隙間から大きな拡がり角で前方に拡散して出射する。これにより、出射端面231eまで到達する励起光の光量が大きく減少し、出射端面231eや波長変換光学素子31,32の入出射面での反射による戻り光の励起光成分が大幅に削減される。
【0045】
一方、コア231aを伝播する信号光は出射端面231eに到達し、出射端面231eで反射した光や、波長変換光学素子31,32の入出射面で反射した光が第1クラッド231bに戻り光となって再入射し得る。このように出射端面等で発生した信号光成分(及び微弱な励起光成分)の戻り光は、外端部材53からわずかに突出する第1クラッド露出部51の先端部を伝播して基端方向に向かうが、周囲が屈折率整合部材55で満たされた領域において第1クラッド231bから屈折率整合部材55側に入射する。ここに入射した戻り光は、上記同様に上下の反射面53r,53rで反射されながら屈折率整合部材中を伝播し、第1,第2部材53a,53bの隙間から大きな拡がり角で後方に拡散して出射する。
【0046】
このように、戻り光除去構造50Bにおいては、戻り光の要因となる励起光が出射端面231eに至る以前に、第1クラッド231bから屈折率整合部材55側に入射して大きな拡がり角で前方に拡散放射され、残余の励起光及び信号光によって生じた戻り光も、出射端面231eからわずかに基端側の領域で第1クラッド231bから屈折率整合部材55側に入射して大きな拡がり角で後方に拡散放射される。従って、本構成の戻り光除去構造50Bによれば、第2クラッド231cまで高パワーの戻り光が到達することがなく、戻り光に起因した第2クラッドの過熱等の問題を未然に防止することができる。
【0047】
また、励起光及び戻り光が大きな拡がり角で前後に拡散放射されるため、第2部材53bを保持部材に取り付けても保持部材が熱変形するようなことがなく、波長変換部30に入射する信号光のビームポインティング変化を抑制することができる。さらに、第2部材53bを固定することにより、出射端面231eの直近で光ファイバ231が機械的に安定保持されるため、振動や衝撃等による光ファイバ先端部のぶれを抑止し、基本波レーザ光のビームポインティングスタビリティを向上させることができる。
【0048】
なお、上記構成例では、第1クラッド露出部51を覆う第1部材53a及び第2部材53bの両方に反射面53rを形成した構成を例示したが、例えば、第1部材53aを透明材料で形成し、反射面53rを第2部材53bの上面側にのみ形成するように構成してもよい。また、図7中に二点鎖線で付記するように、第1,第2部材の少なくともいずれかに第1、第2部材の温度上昇を抑制する冷却手段57を設けて構成してもよい。冷却手段57として、例えばペルチェ素子を利用した電子冷却器や、冷却水を利用した熱交換器、放熱フィンなどが例示される。
【0049】
次に、第3構成形態の戻り光除去構造50Cについて、図8を参照して説明する。図8は、戻り光除去構造50Cにおける図5と同様の側断面図である。本構成形態の戻り光除去構造50Cは、既に述べた第1,第2構成形態の戻り光除去構造50A,50Bと外端部材54の構成が異なり、他の構成部分は同様である。そこで、以下では相違する外端部材54の構成を主として簡潔に説明し、同様部分については同一番号を付して重複説明を省略する。
【0050】
戻り光除去構造50Cは、光ファイバ231の先端部に前述同様の第1クラッド露出部51が形成されるとともに、第1クラッド231bの外周面と所定間隔を隔てて第1クラッド露出部51を覆う外端部材54が設けられ、この外端部材54と第1クラッド231bの外周面との間に、第1クラッド231bの屈折率と略同一の屈折率を有する屈折率整合部材55が充填されて構成される。
【0051】
外端部材54は、円筒状または角筒状に形成されており、その内径または内面間隔が第2クラッド231cの外径よりわずかに大きく、光ファイバ231の先端部に装着したときに第1クラッド231bの外周面と所定間隔を隔てて第1クラッド露出部51を覆うように構成される。図8には、外端部材54を励起光及び信号光に対して透明なガラス材料のパイプで形成した構成を示す。
【0052】
屈折率整合部材55は、既に述べた構成と同様の接着剤であり、光ファイバ231の先端部に外端部材54を装着し、外端部材54の側面に穿設された孔部54hから注入して第1クラッド露出部51の周囲を満たし、接着剤を硬化させることにより構成される。この構成により、第1クラッド231bに内部応力を発生させることなく光ファイバ231の先端部が安定保持され、外端部材54の内面のぬれ性が良好でない場合であっても、第1クラッド露出部51の周囲を接着剤で満たすことができ、かつ接着剤の充填状況や変化を周囲から目視確認することができる。光ファイバ231は先端部が外端部材54からわずかに突出した状態で固定され、出射端面231eへの屈折率整合部材55の付着を防止するとともに、出射端部のメンテナンスを容易に行うことができる。
【0053】
このような構成の戻り光除去構造50Cにおいては、光ファイバの基端側から第1クラッド231bを通って出射端に向かう励起光が、第1クラッド231bから屈折率整合部材55側に入射し、外端部材54から大きな拡がり角で前方に開く円錐状に拡散して出射する。これにより、出射端面231eまで到達する励起光の光量が大きく減少し、出射端面231eや波長変換光学素子31,32の入出射面での反射による戻り光の励起光成分が大幅に削減される。
【0054】
一方、コア231aを伝播する信号光は出射端面231eに到達し、出射端面231eで反射した光や、波長変換光学素子31,32の入出射面で反射した光が第1クラッド231bに戻り光となって再入射し得る。出射端面等で発生した信号光成分(及び微弱な励起光成分)の戻り光は、外端部材54からわずかに突出する第1クラッド露出部51の先端部を伝播して基端方向に向かうが、周囲が屈折率整合部材55で満たされた領域において第1クラッド231bから屈折率整合部材55側に入射し、外端部材52から大きな拡がり角で後方に開く円錐状に拡散して出射する。
【0055】
このように、戻り光除去構造50Cにおいては、戻り光の要因となる励起光が出射端面231eに至る以前に、第1クラッド231bから屈折率整合部材55側に入射して大きな円錐状の拡がり角で前方に拡散放射され、残余の励起光及び信号光によって生じた戻り光も、出射端面231eからわずかに基端側の領域で第1クラッド231bから屈折率整合部材55側に入射して大きな円錐状の拡がり角で後方に拡散放射される。従って、本構成の戻り光除去構造50Cにおいても、第2クラッド231cまで高パワーの戻り光が到達することがなく、戻り光に起因した第2クラッドの過熱等の問題を未然に防止することができる。
【0056】
また、励起光及び戻り光が大きな円錐状の拡がり角で前後に拡散放射されるため、外端部材54を保持部材に取り付けても保持部材が熱変形するようなことがなく、波長変換部30に入射する信号光のビームポインティング変化を抑制することができる。さらに、外端部材54を固定することにより、出射端面231eの直近で光ファイバ231が機械的に安定保持されるため、振動や衝撃等による光ファイバ先端部のぶれを抑止し、基本波レーザ光のビームポインティングスタビリティを向上させることができる。
【0057】
なお、上記構成例では、外端部材54を円筒状とし全体が透明な場合を例示したが、例えば、外端部材54を矩形のパイプ状とし、保持部材が配設される側(例えば下側)の外表面に反射膜を形成して戻り光等を上方に反射するように構成してもよい。
【0058】
以上では、戻り光除去構造50(50A,50B,50C)をファイバ光増幅器における光ファイバの出射端部に設けた構成を例示したが、ファイバーレーザにおける光ファイバの出射端部に設けても同様の効果を得ることができる。また、コアにYb(イッテルビウム)がドープされたYDFAを例示したが、コアにEr(エルビウム)がドープされたEDFや、コアにTm(ツリウム)がドープされたTDFAについても同様に適用し、同様の効果を得ることができる。さらに、波長変換部30を有し、波長変換光学素子により基本波レーザ光を波長355nmの紫外レーザ光に波長変換して出力するレーザ装置を例示したが、レーザ装置から出射するレーザ光の波長は任意であり、波長変換部を備えず基本波レーザ光をそのまま出射するレーザ装置についても、本発明を適用することにより既述した効果を享受することができる。
【符号の説明】
【0059】
LS レーザ装置
10 光源部
20 増幅部(21,22,23 ファイバ光増幅器)
30 波長変換部(31,32 波長変換光学素子)
40 制御装置
50 戻り光除去構造
50A 第1構成形態の戻り光除去構造
50B 第2構成形態の戻り光除去構造
50C 第3構成形態の戻り光除去構造
51 第1クラッド露出部
52 第1構成形態の外端部材(52a:第1部材、52b:第2部材)
53 第2構成形態の外端部材(53a:第1部材、53b:第2部材、53r:反射面)
54 第3構成形態の外端部材(54h:孔部)
55 屈折率整合部材
57 冷却手段
231 光増幅器23の光ファイバ
231a コア
231b 第1クラッド
231c 第2クラッド
231e 出射端面
232 励起光源
233 WDMカプラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ媒質がドープされたコアと、前記コアの外周を覆い励起光が導入される第1クラッドと、前記第1クラッドの外周を覆う第2クラッドとを有する光ファイバにより、前記コアを伝播するレーザ光が光増幅されて出射するファイバ光増幅器またはファイバーレーザを備えたレーザ装置であって、
前記光ファイバの出射端部に、前記第2クラッドが剥離されて前記第1クラッドが露出する第1クラッド露出部が形成されるとともに、前記第1クラッドの外周面と所定間隔を隔てて前記第1クラッド露出部を覆う外端部材が設けられ、
前記外端部材と前記第1クラッドの外周面との間に、前記第1クラッドの屈折率と略同一の屈折率を有する屈折率整合部材が充填されて構成されることを特徴とするレーザ装置。
【請求項2】
前記外端部材は、前記第1クラッド露出部の一方の外周半面側を覆う第1部材と、前記第1クラッド露出部の他方の外周半面側を覆う第2部材とを有し、
前記第1部材及び前記第2部材の少なくともいずれかは、前記励起光を透過する透明材料により形成されることを特徴とする請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項3】
前記外端部材は、前記第1クラッド露出部の一方の外周半面側を覆う第1部材と、前記第1クラッド露出部の他方の外周半面側を覆う第2部材とを有し、
前記第1部材及び前記第2部材の少なくともいずれかは、前記第1クラッドを挟んで対向する面に前記励起光を反射する反射面が形成されて構成されることを特徴とする請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項4】
前記第1部材及び前記第2部材の少なくともいずれかに、当該第1、第2部材の温度上昇を抑制する冷却手段を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のレーザ装置。
【請求項5】
前記屈折率整合部材は、前記光ファイバの出射端部を前記外端部材に固着する接着剤であり、前記光ファイバの出射端部が固定された前記外端部材が前記レーザ装置に固定保持されるように構成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のレーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−222163(P2012−222163A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86784(P2011−86784)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】