説明

レース付スラストころ軸受

【課題】各種回転機械装置への組み付け作業が容易で、しかも、レースをバックアップする部分の剛性が低い状態での耐久性確保と、製造コストの低廉化とを両立できる構造を実現する。
【解決手段】ハウジング15の保持凹部16に内嵌するフランジ部7cの円周方向複数個所に、それぞれがこのフランジ部7cの先端縁よりもレース部6b側に凹んだ切り欠き部21aを形成する。そして、これら各切り欠き部21aの円周方向中間部に、径方向に関して各ころ3、3を配置した側と反対側に向け、レース4cを構成する金属板を塑性変形させる事により、レース抜け止め用係止部22aを形成する。このレース抜け止め用係止部22aを、上記保持凹部16の内周面に形成した係止凹溝12bに係止する。この構成により、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車のトランスミッション、カーエアコン用コンプレッサ等の電装部品、或いは、一般産業用の各種機械等の回転支持部分に装着し、この回転支持部分に加わるスラスト荷重を支承する為のレース付スラストころ軸受の改良に関する。尚、本明細書及び特許請求の範囲に記載したスラストころ軸受には、直径に比べて軸方向長さが大きい(アスペクト比が大きい)ころ(ニードル)を使用した、スラストニードル軸受も含む。
【背景技術】
【0002】
自動車用トランスミッション等の各種機械の回転支持部分には、レース付スラストころ軸受を装着する。例えば、自動車用トランスミッションの場合には、回転軸に設けた段部と、この回転軸の周囲に配置した歯車の軸方向端面との間等にレース付スラストころ軸受を装着して、これら回転軸と歯車との間に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これら回転軸と歯車との相対回転を可能としている。この様なレース付スラストころ軸受の組み付け性の向上を図る為、レースを相手部材に対し、係止する構造が、例えば、特許文献1、2に記載されている様に、従来から知られている。図11〜12は、これら特許文献1、2に記載された従来構造を示している。
【0003】
先ず、図11には、従来構造の第1例として、上記特許文献1に記載された構造を示している。レース付スラストころ軸受1は、保持器2と、複数個のころ3、3と、レース4とを備える。このうちの保持器2は、金属板を曲げ形成する事により全体を円輪状としたもので、円周方向複数個所に、それぞれが径方向に向いた(放射方向に配列された)ポケット5、5を設けて成る。又、上記各ころ3、3は、これら各ポケット5、5内に転動自在に保持されている。又、上記レース4は、金属板を曲げ形成する事により造られたもので、上記各ころ3、3の転動面を転がり接触させる為の円輪状のレース部6と、このレース部6の外周縁部から上記各ころ3、3を配置する側に折れ曲がった、円筒状のフランジ部7とを備える。
【0004】
又、このフランジ部7の先端縁を内径側に折り曲げて成る係止部8と上記保持器2の外周縁部との係合に基づき、この保持器2と上記レース4との分離防止を図っている。又、このレース4の内周縁部に、軸方向に関して上記フランジ部7と反対側に折れ曲がった支持筒部9を形成している。更に、この支持筒部9の外周面の円周方向複数個所に、それぞれ係止突部10を形成している。一方、上記レース付スラストころ軸受1を装着すべき相手部材である、中空軸11の端部内周面に、係止凹溝12を、全周に亙って形成している。上記レース付スラストころ軸受1を上記中空軸11に装着するには、上記支持筒部9をこの中空軸11の端部に内嵌すると共に、上記各係止突部10を上記係止凹溝12に係合させる。この状態で、上記レース付スラストころ軸受1が上記中空軸11に、不用意に分離しない状態に組み付けられる。従って、トランスミッション等の回転機械装置の組立作業を容易に行える。
【0005】
次に、図12は、前記特許文献2に記載された、従来構造の第2例を示している。この第2例のレース付スラストころ軸受1aは、保持器2aと、複数個のころ3、3と、1対のレース4a、4bとを備える。そして、上述した第1例の場合と同様に、一方(図12の右方)のレース4aと上記保持器2aとの分離防止を、このレース4aの外周縁部に設けた円筒状のフランジ部7aの先端縁に形成した係止部8により図っている。これに対して、他方(図12の左方)のレース4bの内周縁部に形成したフランジ部7bの内周面の円周方向複数個所に、それぞれ係止突部10aを形成している。一方、上記レース付スラストころ軸受1aを装着すべき相手部材である軸部材13の外周面で段差面14に近い部分に、係止凹溝12aを、全周に亙って形成している。上記レース付スラストころ軸受1aを上記軸部材13に装着するには、上記フランジ部7bをこの軸部材13に外嵌すると共に、上記各係止突部10aを上記係止凹溝12aに係合させる。この状態で、上記レース付スラストころ軸受1aが上記軸部材13に、不用意に分離しない状態に組み付けられて、トランスミッション等の回転機械装置の組立作業を容易に行える。
【0006】
上述の様な、図11〜12に示した従来構造の第1〜2例の場合、レース4a、4bをバックアップする部分の剛性が低い状態での耐久性確保と、製造コストの低廉化とを両立させる事が難しい。この理由は、次の通りである。先ず、図11〜12に示した従来構造の場合、各係止突部10、10aをフランジ部7、7bの軸方向中間部に形成している為、レース4、4bを構成する金属板として、厚さ寸法が大きなものを使用しにくい。即ち、このレース4、4bを構成する金属板は、各ころ3、3から繰り返し加わるスラスト荷重を支承する必要上、炭素鋼、肌焼鋼等の硬い鉄系金属を使用する必要がある。この様な硬い鉄系金属の場合、厚さ寸法が大きくなると、上記各係止突部10、10aの加工が難しくなる。この為、上記レース4、4bを構成する金属板の厚さ寸法を或る程度小さくせざるを得ず、例えば、前記中空軸11や上記軸部材13の材質が軟らかかったり、或いは肉厚が薄い等により、上記レース4a、4bをバックアップする部分の剛性が低い状態での耐久性確保が難しくなる。上記各係止突部10、10aを加工する為の金型の耐久性を考慮せず、しかも、容量の大きなプレス加工機を使用すれば、これら各係止突部10、10aの加工も可能ではあるが、加工コストが嵩み、レース付スラストころ軸受1、1aの低廉化を図る面からは不利になる。更に、上記各係止突部10、10aを形成したフランジ部7、7bが、各ころ3、3を設置した内部空間に潤滑油を流通させる事に対して、或る程度大きな抵抗になる。この為、潤滑性能の面からも、上記レース4a、4bをバックアップする部分の剛性が低い状態での耐久性確保を図りにくい。
【0007】
【特許文献1】独国特許出願公開第10227377号明細書
【特許文献2】米国特許第5647675号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、レースをバックアップする部分の剛性が低い状態での耐久性確保と、製造コストの低廉化とを両立できる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のレース付スラストころ軸受は、前述した従来から知られているレース付スラストころ軸受と同様に、保持器と、複数個のころと、レースとを備える。
このうちの保持器は、円輪状で、円周方向複数個所に、それぞれが径方向に向いたポケットを設けている。
又、上記各ころは、上記各ポケット内に転動自在に保持されている。
又、上記レースは、金属板を曲げ形成する事により造られたもので、上記各ころの転動面を転がり接触させる為の円輪状のレース部と、このレース部の周縁部に、軸方向に関して上記各ころを配置する側に、上記金属板を折り曲げる状態で形成された円筒状のフランジ部とを備える。
【0010】
特に、本発明のレース付スラストころ軸受に於いては、上記フランジ部の円周方向複数個所に、それぞれこのフランジ部の先端縁よりも上記レース部側に凹んだ切り欠き部を形成している。そして、これら各切り欠き部の端縁の円周方向中間部にレース抜け止め用係止部を、径方向に関して上記各ころを配置した側と反対側に上記金属板を、90度未満だけ、折り曲げ、押し潰し等の塑性変形させる事により、形成している。
この様な本発明を実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、上記フランジ部を径方向から見た状態での、上記各切り欠き部の底縁の形状を、上記レース部と平行な直線とする。そして、上記レース抜け止め用係止部を、この底縁の途中部分に形成する。
更には、請求項3に記載した発明の様に、上記フランジ部の先端縁の円周方向複数個所で上記各切り欠き部から円周方向に外れた部分で金属板を、径方向に関して各ころを配置した側に折り曲げる事により、保持器抜け止め用係止部を形成する。
【発明の効果】
【0011】
上述の様に構成する本発明によれば、レースをバックアップする部分の剛性が低い状態での耐久性確保と、製造コストの低廉化とを両立できるレース付スラストころ軸受を実現できる。
即ち、本発明のレース付スラストころ軸受の場合には、レースと相手部材との分離防止を図る為の複数のレース抜け止め用係止部を、フランジ部の軸方向中間部ではなく、このフランジ部の先端縁に形成している為、上記レースを構成する金属板の厚さ寸法が或る程度大きくても、上記各レース抜け止め用係止部の加工を、あまりコストをかけずに行える。即ち、これら各レース抜け止め用係止部を形成する作業を、加工用の金型を上記フランジ部に対し、軸方向に押し付けつつ、このフランジ部の先端縁の一部、即ち、各切り欠き部の端縁の円周方向中間部を径方向に塑性変形させる事で行える。この為、上記金型の耐久性を十分に確保する等により、加工コストを抑えつつ、レースを構成する硬質金属板の厚さを確保できる。更に、上記フランジ部の先端縁で上記各レース抜け止め用係止部を形成した部分は、軸方向に凹んだ切り欠き部としている為、この切り欠き部を通じて、各ころを設置した内部空間に、十分量の潤滑油の流通させられる。この為、レースをバックアップする部分の剛性が低い状態での耐久性確保と、製造コストの低廉化とを両立できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[実施の形態の第1例]
図1〜7は、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例は、レース付スラストころ軸受1bを、相手部材であるハウジング15に設けた保持凹部16内に装着し、且つ、この保持凹部16内から不用意に抜け出る事を防止する構造に、本発明を適用した場合に就いて示している。上記レース付スラストころ軸受1bは、保持器2bと、複数個のころ3、3と、1対のレース4c、4dとを備える。
【0013】
このうちの保持器2bは、円輪状で、円周方向複数個所に、それぞれが径方向に向いたポケット5a、5aを設けている。本例の場合に上記保持器2bは、それぞれが金属板を曲げ形成する事により、断面コ字形とした1対の保持器素子17a、17bを最中状に重ね合わせる事により、中空円輪状として成る。上記各ポケット5a、5aは、上記両保持器素子17a、17bの互いに整合する部分に形成した矩形の透孔18、18の組み合わせにより構成している。上記両保持器素子17a、17bの円周方向に関して、上記各透孔18、18の幅は、上記各ころ3、3の外径よりも少しだけ小さい。そして、上記両保持器素子17a、17bは、それぞれに設けた上記各透孔18、18同士の間に上記各ころ3、3を配置した状態で互いに組み合わせて不離に接合し、上記保持器2bとする。上記両保持器素子17a、17bをこの保持器2bとして組み合わせた状態で、上記各ころ3、3は、上記各ポケット5a、5a内に転動自在に、且つ、これら各ポケット5a、5aから抜け出ない様に保持される。
【0014】
又、上記両レース4c、4dは、炭素鋼、肌焼鋼等の硬質の金属板を曲げ形成する事により造られたもので、それそれがレース部6a、6bとフランジ部7c、7dとを備える。このうちのレース部6a、6bは、上記各ころ3、3の転動面を転がり接触させる為の部分で、円輪状である。又、上記フランジ部7c、7dは、それぞれ上記レース部6a、6bの周縁部に、軸方向に関して上記金属板を上記各ころ3、3を配置する側に折り曲げる状態で形成されたもので、円筒状である。具体的には、一方(図1〜3の下方)のレース4cの外周縁にフランジ部7cを、上記各ころ3、3を配置した側に向け、図1〜3の上方に折り曲げる状態で形成している。これに対して、他方(図1〜3の上方)のレース4dの内周縁にフランジ部7dを、上記各ころ3、3を配置した側に向け、図1〜3の下方に折り曲げる状態で形成している。
【0015】
そして、上記一方のフランジ部7cの内周面と上記他方のフランジ部7dの外周面との間に上記保持器2bを、上記両レース4c、4dに対する相対回転を可能に設置している。この為に、上記一方のフランジ部7cの内径は上記保持器2bの外径よりも少し大きく、上記他方のフランジ部7dの外径はこの保持器2bの内径よりも少し小さくしている。又、図3に示す様に、上記一方のフランジ部7cの先端部の円周方向複数個所に、それぞれ径方向内方に折れ曲がった、それぞれが保持器抜け止め用係止部である外径側係止部19を形成している。これら各外径側係止部19の内接円の直径は、上記保持器2bの外径よりも少し小さい。更に、やはり図3に示す様に、上記他方のフランジ部7dの先端部の円周方向複数個所に、それぞれ径方向外方に折れ曲がった、それぞれが保持器抜け止め用係止部である内径側係止部20を形成している。これら各内径側係止部20の外接円の直径は、上記保持器2bの内径よりも少し大きい。従って、この保持器2bと上記両レース4c、4dとは、互いの相対回転を可能に、且つ、非分離に組み合わされている。
【0016】
更に、上記一方のフランジ部7cの円周方向複数個所に、図4〜5に示す様に、それぞれこのフランジ部7cの先端縁(図4の上端縁)よりも前記レース部6a側に凹んだ、切り欠き部21a、21bを形成している。これら各切り欠き部21a、21bの形状は特に問わない。図5の(A)に示す様な矩形の切り欠き部21aであっても、図5の(B)に示す様な台形の切り欠き部21bであっても良い。何れにしても、これら各切り欠き部21a、21bの円周方向中央部に、図6〜7に示す様なレース抜け止め用係止部22a、22b、22cを形成している。この為に、上記一方のレース4cを構成する金属板の一部で上記各切り欠き部21a、21bの中央部分を、径方向に関して上記各ころ3、3を配置した側と反対側である外径側に90度未満だけ、折り曲げ、或いは押し潰し等、塑性変形させている。
【0017】
好ましくは、図5に示す様に、上記フランジ部7cを径方向から見た状態での、上記各切り欠き部21a、21bの底縁(円周方向中央部)の形状を、上記レース部6aと平行な直線とする。そして、上記レース抜け止め用係止部22a、22b、22cを、上記底縁の途中部分に形成する。この様な構成を採用すれば、このレース抜け止め用係止部22a、22b、22cを形成する位置が、多少円周方向にずれても(底縁に存在する限り)、このレース抜け止め用係止部22a、22b、22cの高さ位置が変わらず、このレース抜け止め用係止部22a、22b、22cと、後述する係止凹溝12bとを確実に係合させられる。
【0018】
上記各レース抜け止め用係止部22a、22b、22cの形状に就いても、特に限定しない。例えば、図6、7の(A)に示す様な、断面形状が略クランク形で全体が略矩形箱形のレース抜け止め用係止部22aを採用できる。或いは、図6、7の(B)に示す様な、断面形状が略三角形で全体が略くさび形のレース抜け止め用係止部22bも採用できる。更には、図7の(C)に示す様な、上記切り欠き部21a、21bの中央部分を軸方向に押し潰しつつ径方向外方に塑性変形させる事で形成した、レース抜け止め用係止部22cも採用できる。
【0019】
上述の様な構成を有するレース付スラストころ軸受1bを組み付ける為、前記ハウジング15に設けた保持凹部16の内周面には、係止凹溝12bを、全周に亙って形成している。上記レース付スラストころ軸受1bを上記ハウジング15に装着するには、上記一方のフランジ部7cを上記保持凹部16に内嵌すると共に、上記各レース抜け止め用係止部22a、22b、22cを上記係止凹溝12bに係合させる。これら各レース抜け止め用係止部22a、22b、22cの曲げ加工量は90度未満であり、従って、これら各レース抜け止め用係止部22a、22b、22cと上記一方のフランジ部7cの外周面との交叉角度は鈍角である。この為、上記一方のフランジ部7cを上記保持凹部16に、このフランジ部7cの基端部側から内嵌すれば、このフランジ部7cの先端寄り部分が径方向内方に弾性変形しつつ、上記各レース抜け止め用係止部22a、22b、22cが上記保持凹部16内に入り込む事を許容する。そして、前記一方のレース4cをこの保持凹部16の奥端にまで押し込んだ状態で、上記各レース抜け止め用係止部22a、22b、22cと上記係止凹溝12bとが整合し、上記一方のフランジ部7cが弾性的に復元して、これら各レース抜け止め用係止部22a、22b、22cと上記係止凹溝12bとが係合する。この状態で、上記レース付スラストころ軸受1bが上記ハウジング15に、不用意に分離しない状態に組み付けられて、トランスミッション等の回転機械装置の組立作業を容易に行える。
【0020】
上述の様に構成する本例の構造によれば、上記レース4cをバックアップする部分の剛性が低い状態での耐久性確保と、製造コストの低廉化とを両立できるレース付スラストころ軸受1bを実現できる。このレース付スラストころ軸受1bは、上記一方のレース4cと上記ハウジング15との分離防止を図る為の複数のレース抜け止め用係止部22a、22b、22cを、上記一方のフランジ部7cの軸方向中間部ではなく、このフランジ部7cの先端縁に形成している為、前記他方のレース4dを構成する金属板だけでなく、上記一方のレース4cを構成する金属板の厚さ寸法を或る程度大きくしても、上記各レース抜け止め用係止部22a、22b、22cの加工を、あまりコストをかけずに行える。即ち、これら各レース抜け止め用係止部22a、22b、22cを形成する作業を、加工用の金型を上記一方のフランジ部7cに対し、軸方向に押し付けつつ、このフランジ部7cの先端縁のうちで前記各切り欠き部21a、21bの円周方向中間部を径方向に塑性変形させる事で行える。又、上記各レース抜け止め用係止部22a、22b、22cの形状の自由度も高く、これら各レース抜け止め用係止部22a、22b、22cの加工の容易化、加工用金型への負担低減の面から有利である。この為、上記金型の耐久性を十分に確保する等により、加工コストを抑えつつ、上記他方のレース4dだけでなく、上記一方のレース4cを構成する硬質金属板の厚さを確保できる。
【0021】
更に、上記一方のフランジ部7cの先端縁で上記各レース抜け止め用係止部22a、22b、22cを形成した部分は、軸方向に凹んだ切り欠き部21a、21bとしている為、これら各切り欠き部21a、21bを通じて、前記各ころ3、3を設置した内部空間に、十分量の潤滑油を流通させられる。この為、上記ハウジング15を構成する材料が軟質であったり、或いはこのハウジング15の肉厚が小さい等により、上記レース4cをバックアップする部分の剛性が低い状態での、或いは、このバックアップする部分に凹溝が存在する等により、このバックアップする部分が周方向或いは径方向の一部で不連続である(バックアップ面が不均一である)状態での耐久性確保と、製造コストの低廉化とを両立できる。又、組み込み作業時に、上記各レース抜け止め用係止部22a、22b、22cを目視し易い為、組み込み作業の容易化の面から有利である。
【0022】
[実施の形態の第2例]
図8は、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、上述した実施の形態の第1例の構造から、他方のレース4d(図1〜3参照)を除いている。この様な構造は、レース付スラストころ軸受1cを組み込む回転機械装置の構成部材のうちでこのレース付スラストころ軸受1cの軸方向両側に存在する部材のうちの何れかが、各ころ3、3を転がり接触させられる程度に十分な硬度を有する場合に採用できる。その他の部分の構成及び作用は、上述した実施の形態の第1例の場合と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0023】
[実施の形態の第3例]
図9は、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合には、一方(図8の下方)のレース4eの内周縁に形成した一方のフランジ部7eの先端縁の円周方向複数個所部分に、切り欠き部22を形成し、これら各切り欠き部22の円周方向中央部に、径方向内方に突出するレース抜け止め用係止部23を形成している。そして、このレース抜け止め用係止部23を、軸部材の13aの外周面で段差面14に近い部分に全周に亙って形成した、係止凹溝12cに係止している。他方(図8の上方)のレース4fの外周縁に形成した他方のフランジ部7fには、レース抜け止め用係止部は設けていない。その他の部分の構成及び作用は、上述した実施の形態の第1例の場合と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0024】
[実施の形態の第4例]
図10は、本発明の実施の形態の第4例を示している。本例の場合には、上述した実施の形態の第3例の構造から、他方のレース4f(図8参照)を除いている。この様な構造は、レース付スラストころ軸受を組み込む回転機械装置の構成部材のうちでこのレース付スラストころ軸受の軸方向両側に存在する部材のうちの何れかが、各ころ3、3を転がり接触させられる程度に十分な硬度を有する場合に採用できる。その他の部分の構成及び作用は、上述した実施の形態の第3例の場合と同様であるから、重複する説明は省略する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す断面図。
【図2】図1の左部拡大図。
【図3】同右部拡大図。
【図4】一方のレースの部分斜視図。
【図5】切り欠きの形状の2例を、レースのフランジ部を図2のイ矢印方向から見た状態で示す図。
【図6】レース抜け止め用係止部の形状の2例を示す部分斜視図。
【図7】同じく断面形状の3例を示す、図2のロ部に相当する部分断面図。
【図8】本発明の実施の形態の第2例を示す断面図。
【図9】同第3例を示す断面図。
【図10】同第4例を示す断面図。
【図11】従来構造の第1例を示す断面図。
【図12】同第2例を示す断面図。
【符号の説明】
【0026】
1、1a、1b、1c レース付スラストころ軸受
2、2a、2b 保持器
3 ころ
4、4a〜4f レース
5、5a ポケット
6、6a、6b レース部
7、7a〜7f フランジ部
8 係止部
9 支持筒部
10、10a 係止突部
11 中空軸
12、12a、12b、12c 係止凹溝
13、13a 軸部材
14、14a 段差面
15 ハウジング
16 保持凹部
17a、17b 保持器素子
18 透孔
19 外径側係止部
20 内径側係止部
21、21a、21b 切り欠き部
22、22a、22b、22c レース抜け止め用係止部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周方向複数個所に、それぞれが径方向に向いたポケットを設けた円輪状の保持器と、これら各ポケット内に転動自在に保持された複数個のころと、金属板を曲げ形成する事により造られたレースとを備え、このレースは、これら各ころの転動面を転がり接触させる為の円輪状のレース部と、このレース部の周縁部に、軸方向に関して上記各ころを配置する側に、上記金属板を折り曲げる状態で形成された円筒状のフランジ部とを備えたものであるレース付スラストころ軸受に於いて、このフランジ部の円周方向複数個所に、それぞれこのフランジ部の先端縁よりも上記レース部側に凹んだ切り欠き部を形成すると共に、これら各切り欠き部の端縁の円周方向中間部に、径方向に関して上記各ころを配置した側と反対側に上記金属板を、90度未満だけ塑性変形させる事により、レース抜け止め用係止部を形成した事を特徴とするレース付スラストころ軸受。
【請求項2】
フランジ部を径方向から見た状態での、各切り欠き部の底縁の形状が、レース部と平行な直線であり、レース抜け止め用係止部がこの底縁の途中部分に形成されている、請求項1に記載したレース付スラストころ軸受。
【請求項3】
フランジ部の先端縁の円周方向複数個所で各切り欠き部から円周方向に外れた部分で金属板を、径方向に関して各ころを配置した側に折り曲げる事により、保持器抜け止め用係止部を形成した、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載したレース付スラストころ軸受。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2009−168222(P2009−168222A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−9538(P2008−9538)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】