説明

レーダ装置

【課題】距離アンビギュィティを解消し高距離分解能化する測距性能を向上できるレーダ装置を得る。
【解決手段】FMレンジング後の距離分解能と、PRI内の距離分解能が高精度になるようなパラメータに基づき複数のPRIに渡って周波数変調されたキャリア信号に対してPRIでパルス変調された送信信号を放射する送信機3と、目標で反射して戻った受信信号に対して、キャリア信号を用いてダウンコンバートし受信ビート信号に変換する受信機8と、受信ビート信号に対しFMレンジングを行い、PRI内の距離−FMレンジング後の距離マップを作成する距離マップ作成手段201と、PRI内の距離−FMレンジング後の距離マップに対し、信号の強度に基づき目標候補を検出する目標候補検出手段220と、目標候補のFMレンジング後の距離を用いて目標との相対距離を算出する目標相対距離算出手段221とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、距離アンビギュィティ(ambiguity:あいまいさ)を解消し目標の距離を測定するレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
距離アンビギュィティを解消し目標の距離を測定する従来のレーダ装置について図41から図43までを参照しながら説明する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図41は、従来のレーダ装置の構成を示すブロック図である。また、図42は、従来のレーダ装置の動作(距離アンビギュィティを解消し目標の距離を算出する方法)を示すフローチャートである。さらに、図43は、従来のレーダ装置の符号変調を示すタイミングチャートである。
【0004】
図41において、従来のレーダ装置は、主に、符号変調データ生成部10と、送信波発生器30と、送信部40と、サーキュレータ50と、送受信アンテナ60と、受信部70と、ドップラーシフト算出部90と、信号遅延部110と、周波数シフタ120と、相関処理部131と、粗距離算出部140とで構成されている。
【0005】
次に、図42を用いて、従来のレーダ装置の距離アンビギュィティを解消し、目標の距離を算出する方法について説明する。
【0006】
このレーダ装置は、まず、符号変調を行わないがFMレンジングを行う高パルス繰り返し周波数信号を送信し、この送信パルスと受信パルスから対象物(目標)の反射波のドップラーシフト量を含む周波数を求めると共に、FMレンジングを行って対象物までの粗距離を求めておく。
【0007】
次に、FMレンジングを行わず、つまり周波数変調を行わず、代わりに符号変調を加えた高パルス繰り返し周波数信号を送信し(図43参照)、この受信パルスについて相関処理を行い、その際、先に求めた粗距離を用いて、距離アンビギュィティを解消し対象物までの距離を求める。
【0008】
このレーダ装置では、距離アンビギュィティを解消することにより、測距性能の改善が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−101997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上述したような従来のレーダ装置では、符号変調を行わないがFMレンジングを行う高パルス繰り返し周波数信号と周波数変調を行わないが符号変調を加えた高パルス繰り返し周波数信号を別々に送受信しており、測距に係わる観測時間が長くなり、測距精度の劣化する可能性があるという問題点があった。また、図43に示すように、1パルスに1つの符合を用いているため、2Tpri/c以下の高距離分解能化ができないという問題点があった。
【0011】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、測距に係わる観測時間を短縮し、距離アンビギュィティを解消し高距離分解能化する測距性能を向上することができるレーダ装置を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係るレーダ装置は、PRI内の距離の距離アンビギュィティを解消できるFMレンジング後の距離分解能と、FMレンジング後の距離分解能よりPRI内の距離分解能が高精度になるようなパラメータに基づき複数のPRIに渡って周波数変調されたキャリア信号に対してPRIでパルス変調された送信信号を放射する送信手段と、目標で反射して戻った前記送信信号を受信信号として受信し、この受信信号に対して、前記送信手段から得られる前記キャリア信号を用いてダウンコンバートし受信ビート信号に変換する受信手段と、前記受信手段から得られる受信ビート信号に対しFMレンジングを行い、目標との相対距離を算出するためのPRI内の距離−FMレンジング後の距離マップを作成するPRI内の距離−FMレンジング後の距離マップ作成手段と、前記PRI内の距離−FMレンジング後の距離マップ作成手段から得られるPRI内の距離−FMレンジング後の距離マップに対し、信号の強度に基づき目標候補を検出する目標候補検出手段と、前記目標候補検出手段から得られる目標候補のFMレンジング後の距離を用いて、PRI内の距離の距離アンビギュィティを解消し目標との相対距離を算出する目標相対距離算出手段とを設けたものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係るレーダ装置は、測距に係わる観測時間を短縮し、距離アンビギュィティを解消し高距離分解能化する測距性能を向上することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】周波数変調とパルス内符号変調した送信信号と受信信号の関係を説明するための図である。
【図3】FMレンジングの送信パルス、受信パルス、送信信号の周波数変化、受信信号の周波数変化、局部発振信号の周波数変化の関係を説明するための図である。
【図4】PRI内の距離−FMレンジング後の距離マップを説明するための図である。
【図5】FMレンジングの信号、相関処理後の信号、PRI間測距結果、PRI内測距結果を説明するための図である。
【図6】4bit Barkerコードを示す図である。
【図7】信号処理器200の受信ビート信号に対する処理を示すブロック図である。
【図8】CFAR処理に関わる注目セル、ガードセル、サンプルセルを説明するための図である。
【図9】CFAR処理の結果、CFAR閾値CFAR_th(k,l)を越えるセルが集合した場合の処理内容を説明するための図である。
【図10】この発明の実施の形態2に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図11】信号処理器200Bの受信ビート信号に対する処理を示すブロック図である。
【図12】目標との相対距離v≠0の場合のPRI内の距離−FMレンジング後の距離マップ上の信号を説明するための図である。
【図13】PRI内の距離方向の信号に対する目標との相対速度の影響を示す図である。
【図14】この発明の実施の形態3に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図15】クラッタの影響を説明するための図である。
【図16】レーダ装置と目標、クラッタの関係を示す図である。
【図17】レーダ装置と送信信号のメインビームの送信方向とビーム幅、クラッタの関係を示す図である。
【図18】目標がクラッタに埋もれる範囲を示す図である。
【図19】この発明の実施の形態4に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図20】信号処理器200Dの受信ビート信号に対する処理を示すブロック図である。
【図21】地上クラッタサイドローブの影響を示す図である。
【図22】目標が地上クラッタサイドローブに埋もれる場合を示す図である。
【図23】フィルタ特性を示す図である。
【図24】フィルタ処理の効果を示す図である。
【図25】この発明の実施の形態5に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図26】信号処理器200Eの受信ビート信号に対する処理を示すブロック図である。
【図27】相関処理の際に窓関数処理を行う効果を示す図である。
【図28】FMレンジングの際に窓関数処理を行う効果を示す図である。
【図29】この発明の実施の形態6に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図30】信号処理器200Fの受信ビート信号に対する処理を示すブロック図である。
【図31】速度補償しない場合のFMレンジングの信号、PRI内の信号、PRI間測距結果、PRI内測距結果を説明するための図である。
【図32】速度補償しない場合の測距結果を示す図である(送信信号周波数掃引時間T間の目標移動を考慮しない場合)。
【図33】速度補償しない場合の測距結果を示す図である(送信信号周波数掃引時間T間の目標移動を考慮した場合)。
【図34】この発明の実施の形態7に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図35】段階的な周波数変調とパルス内符号変調した送信信号と受信信号の関係を示す図である。
【図36】この発明の実施の形態8に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図37】信号処理器200Gの受信ビート信号に対する処理を示すブロック図である。
【図38】PRI内の距離(相関処理前)−FMレンジング後の距離マップを説明するための図である。
【図39】PRI内積分後の信号を説明するための図である。
【図40】PRI内の距離方向の信号に対する周波数変調や目標相対距離の影響を示す図である。
【図41】従来のレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図42】従来のレーダ装置の動作(距離アンビギュィティを解消し目標の距離を算出する方法)を示すフローチャートである。
【図43】従来のレーダ装置の符号変調を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1に係るレーダ装置について図1から図9までを参照しながら説明する。図1は、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。なお、各図中、同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0016】
図1において、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置は、空中線1と、送信手段2と、送受切替器7と、受信機(受信手段)8と、信号処理器200と、表示器9とが設けられている。
【0017】
送信手段2は、送信機3と、パルス内変調信号発生器4と、パルス変調器5と、局部発振器6とから構成されている。
【0018】
信号処理器200は、CPU、RAM、ROM、インターフェース回路などを有するコンピュータから構成され、ROMに記憶されるプログラムに従って、CPUで演算処理が行われる。信号処理器200の処理結果は、RAMなどのメモリに記録される。
【0019】
信号処理器200は、PRI内の距離−FMレンジング後の距離マップ作成手段201と、目標候補検出手段220と、目標相対距離算出手段221とから構成されている。
【0020】
また、この距離マップ作成手段201は、相関手段202と、FMレンジング手段203とから構成されている。
【0021】
つぎに、この実施の形態1に係るレーダ装置の動作について図面を参照しながら説明する。
【0022】
まず、図2及び図3を参照しながら受信ビート信号を生成するまでの動作について説明する。図2は、周波数変調とパルス内符号変調した送信信号と受信信号の関係を説明するための図である。また、図3は、FMレンジングの送信パルス、受信パルス、送信信号の周波数変化、受信信号の周波数変化、局部発振信号の周波数変化の関係を説明するための図である。
【0023】
図2及び図3において、fは送信開始周波数、Tpriはパルス繰り返し周期(PRI:Pulse Repetition Interval)、Tは送信信号周波数掃引時間、Bは送信信号帯域幅、Tはビート信号観測時間、BはTの時間間隔での送信信号帯域幅、Tは送信パルス幅、φは送信信号と局部発振信号の初期位相、R(t)は時刻tの目標との相対距離、Rmaxは最大探知距離、Toffsetは時刻2Rmax/c以上で初めての送信パルス送信開始時刻、cは光速を表す。
【0024】
また、時刻2Rmax/c以上で初めての送信パルス送信開始時刻Toffset、最大探知距離Rmax、送信信号周波数掃引時間T、送信信号帯域幅B、ビート信号観測時間T、Tの時間間隔での送信信号帯域幅Bには、次の式(1)、式(2)、式(3)で示す関係がある。なお、複数のパルス繰り返し周期を送信信号周波数掃引時間Tとしている。ただし、ceil(X)は変数Xの切り上げた整数を表す。また、送信信号周波数掃引時間T内の周波数変調はアップチャープ変調として説明する。
【0025】
【数1】

【0026】
次に、図4及び図5を参照しながら、送信信号に関わるパラメータの設定方法について説明する。図4は、PRI内の距離−FMレンジング後の距離マップを説明するための図である。また、図5は、FMレンジングの信号、相関処理後の信号、PRI間測距結果、PRI内測距結果を説明するための図である。
【0027】
PRI内の距離の距離アンビギュィティの解消と、FMレンジング後の距離分解能より相関処理後の距離分解能が高距離分解能になるような、式(4)と、式(5)と、式(6)を満たすFMレンジング後の距離分解能ΔR’FMとサンプリング間隔ΔRFM、相関処理後の距離分解能ΔR’PC、1PRIの折り返し距離Rpriを算出するパラメータ(ビート信号観測時間T、Tの時間間隔での送信信号帯域幅B、パルス繰り返し周期Tpri、サンプリング周波数Fsamp)が設定される。
【0028】
また、FMレンジング後の距離分解能ΔR’FMは式(7)、FMレンジング後のサンプリング間隔ΔRFMは式(8)、PRI内折返し距離Rpriは式(9)、相関処理後の距離分解能ΔR’PCは式(10)で算出される。ここで、HはFMレンジングのFFT点数を表す。送信手段2は、以上のように設定されたパラメータに基づいて動作する。
【0029】
【数2】

【0030】
局部発振器6は、送信信号周波数掃引時間T、送信信号帯域幅Bで周波数変調された次の式(11)で表される局部発振信号L(t)を生成し、パルス変調器5と受信機8に出力する。
【0031】
【数3】

【0032】
ここで、Aは局部発振信号の振幅である。
【0033】
パルス変調器5は、局部発振器6から入力された局部発振信号L(t)に対しパルス変調を行い、次の式(12)で表されるパルス変調された局部発振信号L’(t)として、送信機3に出力する。
【0034】
【数4】

【0035】
ここで、nは送信信号周波数掃引時間T内のパルス番号、Nは送信信号周波数掃引時間T内のパルス数を表す。
【0036】
パルス内変調信号発生器4は、図6に示す4bit Barkerコードをパルス内変調信号φ(t)として生成し、送信機3に出力する。パルス内変調信号として他のbit Barkerコードを用いても良い。また、パルス内変調信号として他の符号変調や周波数変調を用いても良い。
【0037】
送信機3は、パルス変調器5から入力されたパルス変調された局部発振信号L’(t)に対して、パルス内変調信号発生器4から入力されたパルス内変調信号φ(t)を用いてパルス内変調を行い、次の式(13)で表される送信RF信号Tx(t)を送受切替器7に出力する。
【0038】
【数5】

【0039】
ここで、Aは送信RF信号の振幅、rem(X,Y)は変数Xを変数Yで割った時の剰余、φは送信RF信号の初期位相を示す。
【0040】
送受切替器7は、送信機3から入力された送信RF信号を空中線1に出力する。そして、空中線1から送信RF信号が空中に放射される。
【0041】
空中に放射された送信RF信号は、目標で反射され、反射RF信号として空中線1に入射する。そこで、空中線1は、入射してきた反射RF信号を受信し、受信RF信号として送受切替器7に出力する。
【0042】
送受切替器7は、空中線1から入力された受信RF信号を受信機8に出力する。式(13)で表される送信RF信号Tx(t)が、目標との相対距離R(t)にある目標からの反射RF信号を受信した場合、受信RF信号Rxtgt(n,t)は次の式(14)で表される。
【0043】
【数6】

【0044】
ここで、Atgtは受信RF信号の振幅を表す。また、目標との相対速度がvの場合、目標との相対距離R(t)は次の式(15)で表される。ただし、Rは時刻t=0の目標との初期相対距離を表す。この実施の形態では、以降、目標との相対速度がv=0の場合として説明する。
【0045】
【数7】

【0046】
ビート信号観測時間T内に観測される受信RF信号Rxtgt(n,t)は次の式(16)で表される。
【0047】
【数8】

【0048】
ここで、nはビート信号観測時間T内のパルス番号、Nはビート信号観測時間T内のパルス数を示す。
【0049】
受信機8は、送受切替器7から入力された受信RF信号Rxtgt(n,t)に対し、局部発振器6から入力された局部発振信号L(t)を用いてダウンコンバートした後、増幅、位相検波を行い、次の式(17)で表される受信ビート信号として信号処理器200に出力する。ここで、*は複素共役、Aは受信ビート信号の振幅を表す。
【0050】
【数9】

【0051】
さらに、式(17)を展開すると、次の式(18)のように表される。
【0052】
【数10】

【0053】
以下、mを1PRI内のサンプリング番号、Mを1PRI内のサンプリング点数、Δtを1PRI内のサンプリング時間として、次の式(19)で表される受信ビート信号S(n,m)を用いて、説明を行う。
【0054】
【数11】

【0055】
以降、図7に示す受信ビート信号に対する各手段の処理内容について説明する。
【0056】
PRI内の距離−FMレンジング後の距離マップ作成手段201は、相関手段202とFMレンジング手段203で構成され、受信ビート信号に対して相関処理とFMレンジングを行い、目標との相対距離を算出するためのPRI内の距離−FMレンジング後の距離マップを作成する。
【0057】
相関手段202は、式(19)で表される受信ビート信号S(n,m)と参照信号Ex(mτ)との相関処理、つまりパルス圧縮を行う。ここでは、周波数領域での相関処理について説明する。
【0058】
送信RF信号のパルス内変調成分と同じA/D変換後の参照信号Ex(mτ)は式(20)で表される。ここで、mτはサンプリング番号、Mτは1PRIのサンプリング点数(式(21))、Fsampはサンプリング周波数、floor(X)は変数Xを越えない最大の整数を表す。
【0059】
【数12】

【0060】
相関手段202は、受信ビート信号S(n,m)と参照信号Ex(mτ)を式(22)と式(23)によりそれぞれ高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)した後、乗算する(式(24))。ここで、*は複素共役、lはPRI内サンプリング番号、L’は相関処理のFFT点数を表す。ただし、L’>Mの時にはS(n,m)に0を代入し、L’>Mτの時にはEx(mτ)に0を代入する。
【0061】
【数13】

【0062】
また、相関手段202は、相関処理後の信号を受信ビート信号のサンプリング間隔よりも高精度にサンプリングする場合、式(25)により0を設定する。ここで、Lは相関処理の高速フーリエ逆変換(IFFT:Inverse Fast Fourier Transform)点数であり、式(26)により表される。ただし、qは0以上の整数である。また、q=0の場合は、受信ビート信号のサンプリング間隔と同じサンプリング間隔になる。
【0063】
【数14】

【0064】
最後に、相関手段202は、乗算結果FV・Ex(n,k)に対して、式(27)により高速フーリエ逆変換(IFFT)を行い、相関処理の結果、すなわちパルス圧縮後の信号RV・Ex(n,l)を出力する。また、パルス圧縮後の信号RV・Ex(n,l)のサンプリング番号lに対応するPRI内相対距離RPC(l)は式(28)により表される。
【0065】
【数15】

【0066】
FMレンジング手段203は、式(29)によりパルス圧縮後の信号RV・Ex(n,l)をPRI方向にH点でIFFTすることでPRI内の距離−FMレンジング後の距離マップRFMPC(k,l)を出力する。ただし、H>Nの時にはRV・Ex(n,l)に0埋めを行う。ここで、kはFMレンジング後のサンプリング番号を表す。また、FMレンジング後のサンプリング番号に対応するPRI間相対距離RFM(k)は式(30)により表される。
【0067】
【数16】

【0068】
上記のように、PRI内の距離−FMレンジング後の距離マップ作成手段201は、相関処理としてPRI内パルス圧縮、FMレンジングとしてPRI間FFTを行うことにより、目標との相対距離を算出するための図4に示すPRI内の距離−FMレンジング後の距離マップを目標候補検出手段220に出力する。
【0069】
図8及び図9を参照しながら、CFAR(Constant False Alarm Rate)処理による目標候補検出の処理内容を説明する。図8は、CFAR処理に関わる注目セル、ガードセル、サンプルセルを説明するための図である。また、図9は、CFAR処理の結果、CFAR閾値CFAR_th(k,l)を越えるセルが集合した場合の処理内容を説明するための図である。
【0070】
目標候補検出手段220は、PRI内の距離−FMレンジング後の距離マップ作成手段201から得られるPRI内の距離−FMレンジング後の距離マップRFMPC(k,l)に対し、式(31)によりCFAR処理を行い、目標候補を検出する。ここで、RFMPC,CFAR(k,l)はCFAR処理による目標候補検出結果を表し、目標候補は0が設定される。
【0071】
また、CFAR閾値CFAR_th(k,l)は式(32)により算出する。ここで、CFAR_corはCFAR係数、Samp_cell(k,l)はサンプルセル、ave(Z(p))は配列Z(p)の平均値を表す。ただし、図9のようにCFAR閾値CFAR_th(k,l)を越えるセルが集合した場合は、集合のなかで振幅の最大値を示すセルを目標候補として検出する。
【0072】
【数17】

【0073】
目標相対距離算出手段221は、目標候補検出手段220から入力された目標候補に対し、PRI内相対距離RPC(l)の距離アンビギュィティをPRI間相対距離RFM(k)を用いて式(33)により解き、目標相対距離RFM,PC(k,l)を式(34)により算出する。ここで、Ntgt(k)は受信信号開始パルス番号、ceil(X)は変数Xの切り上げた整数である。
【0074】
【数18】

【0075】
表示器9は、PRI内の距離−FMレンジング後の距離マップと、目標候補がある場合、目標情報として目標相対距離を画面上に表示する。
【0076】
以上のように、この実施の形態によれば、FMレンジングを行うための周波数変調とパルス内パルス圧縮を行うためのパルス内変調を施した送信RF信号を送受信し、受信ビート信号に対し、PRI内はパルス圧縮、PRI間はFMレンジングを行いPRI内の距離−FMレンジング後の距離マップを作成し、PRI内の距離−FMレンジング後の距離マップに対し、CFAR処理により目標候補を算出し、目標候補のPRI内の距離アンビギュィティをPRI間相対距離を用いて解き、目標相対距離を算出する。
【0077】
この結果、高距離分解能であるが、距離アンビギュィティを持つPRI内相対距離を、FMレンジングによるPRI間相対距離を用いて解くことにより、距離アンビギュィティなく高距離分解能のレーダ装置を得ることができる。また、先の特許文献1では、周波数変調とパルス内変調した送信信号を別々に行っているが、この実施の形態は同時に行っており、距離算出するための観測時間が短縮され、測距性能の向上が可能になる。さらに、先の特許文献1では、1パルス内は1つの符号で符号変調を行うが、この実施の形態は1パルス内に複数の符号で符号変調(例えば、1パルス内を4bit barkerコード)することにより、高距離分解能が可能になる。
【0078】
実施の形態2.
この発明の実施の形態2に係るレーダ装置について図10から図13までを参照しながら説明する。図10は、この発明の実施の形態2に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【0079】
図10において、この発明の実施の形態2に係るレーダ装置は、空中線1と、送信手段2と、送受切替器7と、受信機8と、信号処理器200Bと、表示器9とが設けられている。
【0080】
この実施の形態2に係るレーダ装置は、上記の実施の形態1に係るレーダ装置と信号処理器200Bが異なり、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記して説明は省略する。
【0081】
すなわち、信号処理器200Bは、図10に示すように、実施の形態1に係る信号処理器200のPRI内の距離−FMレンジング後の距離マップ作成手段201に速度補償手段204をさらに有することが異なっており、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記して説明は省略する。
【0082】
つぎに、この実施の形態2に係るレーダ装置の動作について図面を参照しながら説明する。
【0083】
信号処理器200Bは、図11に示す処理を受信ビート信号に対して行う。
【0084】
この実施の形態では、目標との相対速度v≠0の場合として説明する。図12に示すように、目標との相対速度がv≠0の場合、目標との相対速度に応じて、PRI内の距離−FMレンジング後の距離マップのFMレンジング後の距離方向に目標が移動する。また、図13に示すように、PRI内の距離−FMレンジング後の距離マップのPRI内の距離方向の信号は、距離分解能の劣化、サイドローブの乱れ(圧縮特性の劣化)、測距性能が劣化する可能性がある。
【0085】
速度補償手段204は、目標との相対速度の影響を抑圧し測距性能の劣化を防ぐことを目的として、予め得られた相対速度vinitを用いて次の式(35)により受信ビート信号S(n,m)に対し速度補償を行い、速度補償後の受信ビート信号Sv,cor(n,m)を出力する。
【0086】
【数19】

【0087】
式(35)では、FMレンジング後の距離方向の目標移動と、PRI内の距離方向の信号の距離分解能の劣化、サイドローブの乱れを同時に補償しているが、PRI内の距離方向の信号の距離分解能の劣化、サイドローブの乱れのみを速度補償する場合は、次の式(36)により受信ビート信号S(n,m)に対し速度補償を行い、PRI内の距離方向に対する速度補償後の受信ビート信号S’v,cor(n,m)を出力する。この場合は、目標相対距離算出時に予め得られた相対速度vinit を用いてFMレンジング後の距離方向の目標移動分を考慮する。
【0088】
【数20】

【0089】
以上のように、この実施の形態2によれば、目標の相対速度v≠0の場合においても、目標との相対速度の影響を抑圧し測距性能の劣化を防ぐ速度補償手段204を備えているので、測距性能の向上を図ったレーダ装置を得ることができる。また、目標の相対速度v=0の場合においても、同様の効果を得る。
【0090】
実施の形態3.
この発明の実施の形態3に係るレーダ装置について図14から図18までを参照しながら説明する。図14は、この発明の実施の形態3に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【0091】
図14において、この発明の実施の形態3に係るレーダ装置は、空中線1と、送信手段2Bと、送受切替器7と、受信機8と、信号処理器200Bと、表示器9とが設けられている。
【0092】
この実施の形態に係るレーダ装置は、上記の実施の形態に係るレーダ装置と送信手段2Bが異なり、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記して説明は省略する。
【0093】
図15に示すように、レーダ装置において、目標より強度の大きいクラッタがある場合、目標がクラッタに埋もれて、目標検出性能の劣化や測距性能の劣化が問題になる。説明のために、2次元ジオメトリーで、クラッタとして送信信号メインビームに対する地上クラッタメインローブを想定し(図16参照)、実施の形態3に係るレーダ装置の目標とクラッタの分離性能の向上方法を説明する。
【0094】
送信信号エレベーションEL、ビーム幅BW、送信信号の最小エレベーションELmin、送信信号の最大エレベーションELmaxの場合(図17参照)、レーダ装置の送信信号の最大エレベーションELmaxの地上クラッタメインローブの相対距離Rclt,ELmax、相対速度vclt,ELmax、ドップラ周波数fdclt,ELmaxは次の式(37)、式(38)、式(39)により算出される。ここで、Altはレーダ装置を搭載した自機の高度、vはレーダ装置を搭載した自機の速度、vは目標の速度、chirpは送信信号周波数掃引時間Tに渡る周波数変調がアップチャープ変調の場合、1が代入され、ダウンチャープ変調の場合、−1が代入される。
【0095】
【数21】

【0096】
また、送信信号エレベーションEL、ビーム幅BW、送信信号の最小エレベーションELmin、送信信号の最大エレベーションELmaxの場合(図17参照)、レーダ装置の送信信号の最小エレベーションELminの地上クラッタメインローブの相対距離Rclt,ELmin、相対速度vclt,ELmin、ドップラ周波数fdclt,ELminは次の式(40)、式(41)、式(42)により算出される。
【0097】
【数22】

【0098】
目標が地上クラッタメインローブに埋もれる範囲は、次の式(43)により算出することができる。
【0099】
【数23】

【0100】
式(43)により算出された目標が地上クラッタメインローブに埋もれる範囲は、図18のようになる。この図18では、ダウンチャープ変調した送信RF信号を送信した場合の地上クラッタメインローブ範囲内に目標が居る場合を示している。
【0101】
目標はアップチャープ変調した送信RF信号を送信した場合の地上クラッタメインローブ範囲外になるため、検出可能になる。そのため、送信手段2Bは、式(4)〜式(6)を満たすFMレンジング後の距離分解能ΔR’FMとサンプリング間隔ΔRFM、相関処理後の距離分解能ΔR’PC、1PRIの折り返し距離Rpriのパラメータに加え、地上クラッタメインローブ範囲を考慮したチャープの符号chirpが設定されたパラメータに基づいて動作する。図18のようにダウンチャープ変調の場合の地上クラッタメインローブ範囲内の目標を検出する場合は、アップチャープ変調させる符号chirp=1が設定される。
【0102】
以上のように、この実施の形態3によれば、目標が地上クラッタメインローブに埋もれないようなパラメータを加えて設定されたパラメータに基づき動作する送信手段2Bを備えているので、クラッタ分離性能の向上を図ったレーダ装置を得ることできる。また、この実施の形態3では速度補償手段204を備えた場合について説明をしたが、速度補償手段204を備えない場合においても同様の効果を得ることができる。
【0103】
実施の形態4.
この発明の実施の形態4に係るレーダ装置について図19から図24までを参照しながら説明する。図19は、この発明の実施の形態4に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【0104】
図19において、この発明の実施の形態4に係るレーダ装置は、空中線1と、送信手段2Bと、送受切替器7と、受信機8と、信号処理器200Dと、表示器9とが設けられている。
【0105】
この実施の形態4に係るレーダ装置は、上記の実施の形態3に係るレーダ装置と信号処理器200Dが異なり、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記して説明は省略する。
【0106】
すなわち、信号処理器200Dは、図19に示すように、実施の形態に係る信号処理器200BのPRI内の距離−FMレンジング後の距離マップ作成手段201Bにフィルタ処理手段205を有することが異なっており、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記して説明は省略する。
【0107】
信号処理器200Dは、図20に示す処理を受信ビート信号に対して行う。
【0108】
この実施の形態では、クラッタとしてさらに地上クラッタサイドローブを想定し、地上クラッタサイドローブの低減を目的として、フィルタ処理を行う。強度の大きい地上クラッタがある場合、図21のように目標が地上クラッタメインローブと異なる距離においても、図22のように目標が地上クラッタサイドローブに埋もれる可能性がある。
【0109】
フィルタ処理手段205は、地上クラッタメインローブを減衰させ、それに伴い地上クラッタサイドローブを減衰させるフィルタのパラメータを次の式(44)、式(45)、式(46)により算出する。ここで、fc1、fc2は阻止域エッジ周波数、fa1、fa2はカットオフ周波数、αは予め設定した阻止域帯域幅に余裕を持たせる帯域幅、βは予め設定した遷移帯域幅、Aは予め設定した通過域リプル量、Aは予め設定した阻止域減衰量である。また、min(X,Y)は変数XとYの最小値、max(X,Y)は変数XとYの最大値を表す。
【0110】
【数24】

【0111】
フィルタ処理手段205は、式(44)〜式(46)により算出されたパラメータと予め設定したフィルタ特性を持つNflt次のフィルタflt(p)を作成する。この実施の形態では、フィルタとしてFIR(Finite Impulse Response)フィルタを用いて説明するが、IIR(Infinite Impulse Response)フィルタを用いた場合も同様の効果を得ることが可能である。
【0112】
図23に示すように、地上クラッタメインローブが減衰するようなフィルタ特性を持たせているため、フィルタ処理後は地上クラッタメインローブと地上クラッタサイドローブを減衰することが可能になる。
【0113】
フィルタ処理手段205は、地上クラッタサイドローブの低減を目的として、パルス圧縮後の信号RV・Ex(n,l)に対して、次の式(48)によりPRI方向にフィルタ処理を行い、フィルタ処理後の信号Rflt(n,l)を出力する。
【0114】
【数25】

【0115】
FMレンジング手段203は、入力されたフィルタ処理後の信号Rflt(n,l)に対し、PRI方向にH点でIFFTすることでPRI内の距離−FMレンジング後の距離マップRFMPC(k,l)を出力する。
【0116】
図24に示すように、フィルタ処理を行うことにより、PRI内の距離−FMレンジング後の距離マップのFMレンジング後の距離方向の地上クラッタメインローブとサイドローブが低減し、目標検出性能が向上する。
【0117】
以上のように、この実施の形態4によれば、目標が地上クラッタサイドローブに埋もれないようにフィルタ処理を加えて行うフィルタ処理手段205を備えているので、クラッタ分離性能の向上、つまり目標検出性能の向上を図ったレーダ装置を得ることできる。また、この実施の形態4では速度補償手段204を備えた場合について説明をしたが、速度補償手段204を備えない場合においても同様の効果を得ることができる。また、送信手段2Bに代えて、送信手段2を用いた場合においても同様の効果を得ることができる。
【0118】
実施の形態5.
この発明の実施の形態5に係るレーダ装置について図25から図28までを参照しながら説明する。図25は、この発明の実施の形態5に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【0119】
図25において、この発明の実施の形態5に係るレーダ装置は、空中線1と、送信手段2Bと、送受切替器7と、受信機8と、信号処理器200Eと、表示器9とが設けられている。
【0120】
この実施の形態に係るレーダ装置は、上記の実施の形態に係るレーダ装置と信号処理器200Eが異なり、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記して説明は省略する。
【0121】
すなわち、信号処理器200Eは、図25に示すように、実施の形態に係る信号処理器200BのPRI内の距離−FMレンジング後の距離マップ作成手段201Bの相関手段202、FMレンジング手段203に代えて、距離−FMレンジング後の距離マップ作成手段201Dの相関手段202B、FMレンジング手段203Bを有することが異なっており、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記して説明は省略する。
【0122】
信号処理器200Eは、図26に示す処理を受信ビート信号に対して行う。
【0123】
相関手段202Bは、パルス圧縮後のクラッタの影響を低減するために、窓関数処理を行う。相関手段202Bは、相関処理のための窓関数windPC(mτ)を次の式(49)により算出する。ここでは、相関処理のための窓関数をハミング窓として説明をするが、他の窓関数を用いた場合も同様の効果を得ることが可能である。
【0124】
【数26】

【0125】
相関手段202Bは、次の式(50)によりA/D変換後の参照信号Ex(mτ)と相関処理のための窓関数windPC(mτ)を乗算し、窓関数処理後の参照信号Ex’(mτ)を算出する。
【0126】
【数27】

【0127】
相関手段202Bは、A/D変換後の参照信号Ex(mτ)に代えて、窓関数処理後の参照信号Ex’(mτ)を用いて、式(22)〜式(28)に従い、窓関数処理を行ったパルス圧縮後の信号R’V・Ex(n,l)を出力する。
【0128】
図27に示すように、相関処理の際に窓関数処理を加えて行うことにより、地上クラッタサイドローブが低減し、目標検出性能が向上する。
【0129】
FMレンジング手段203Bは、FMレンジングのための窓関数windFM(n)を次の式(51)により算出する。ここでは、FMレンジングのための窓関数をハミング窓として説明をするが、他の窓関数を用いた場合も同様の効果を得ることが可能である。
【0130】
【数28】

【0131】
FMレンジング手段203Bは、次の式(52)により窓関数処理を行ったパルス圧縮後の信号R’V・Ex(n,l)とFMレンジングのための窓関数windFM(n)を乗算し、PRI方向に窓関数処理を行ったパルス圧縮後の信号R”V・Ex(n,l)を算出する。
【0132】
【数29】

【0133】
FMレンジング手段203Bは、パルス圧縮後の信号RV・Ex(n,l)に代えて、PRI方向に窓関数処理を行ったパルス圧縮後の信号R”V・Ex(n,l)を式(29)に従いPRI方向にH点でIFFTすることでPRI内の距離−FMレンジング後の距離マップRFMPC(k,l)を出力する。
【0134】
図28に示すように、FMレンジングの際に窓関数処理を加えて行うことにより、地上クラッタサイドローブが低減し、目標検出性能が向上する。
【0135】
以上のように、この実施の形態5によれば、目標が地上クラッタサイドローブに埋もれないように窓関数処理を加えて行う相関手段202B、FMレンジング手段203Bを備えているので、クラッタ分離性能の向上、つまり目標検出性能の向上を図ったレーダ装置を得ることできる。また、実施の形態では、相関処理、FMレンジング共に窓関数処理を加えて行ったが、相関処理あるいはFMレンジングどちらかのみに加えた場合もそれぞれに同様の効果を得る。また、この実施の形態5では速度補償手段204を備えた場合について説明をしたが、速度補償手段204を備えない場合においても同様の効果を得ることができる。また、送信手段2Bに代えて、送信手段2を用いた場合においても同様の効果を得ることができる。
【0136】
実施の形態6.
この発明の実施の形態6に係るレーダ装置について図29から図33までを参照しながら説明する。図29は、この発明の実施の形態6に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【0137】
図29において、この発明の実施の形態6に係るレーダ装置は、空中線1と、送信手段2Bと、送受切替器7と、受信機8と、信号処理器200Fと、表示器9とが設けられている。
【0138】
この実施の形態6に係るレーダ装置は、上記の実施の形態に係るレーダ装置と信号処理器200Fが異なり、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記して説明は省略する。
【0139】
すなわち、信号処理器200Fは、図29に示すように、実施の形態3に係る信号処理器200BのPRI内の距離−FMレンジング後の距離マップ作成手段201Bの速度補償手段204に代えて、距離−FMレンジング後の距離マップ作成手段201Fの速度補償手段204Bを有し、また、目標相対速度算出手段222を有することが異なっており、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記して説明は省略する。
【0140】
信号処理器200Fは、図30に示す処理を受信ビート信号に対して行う。
【0141】
この実施の形態6では、まず送信信号周波数掃引時間Tにアップチャープ変調を行い、次の送信信号周波数掃引時間Tにダウンチャープ変調を行った場合として説明する。
【0142】
速度補償手段204Bは、目標相対速度算出手段222から入力される目標相対速度v’を用いて式(35)により、受信ビート信号S(n,m)に対し速度補償を行い、速度補償後の受信ビート信号Sv,cor(n,m)を出力する。ただし、速度補償手段204Bは、目標相対速度算出手段222から目標相対速度v’が入力されない場合、速度補償を行わず、受信ビート信号S(n,m)を出力する。
【0143】
相関手段202、FMレンジング手段203により、PRI内の距離−FMレンジング後の距離マップが出力される。図31に示すように、速度補償しない場合、目標相対速度の影響によりアップチャープ変調、ダウンチャープ変調で異なる距離に測距される。
【0144】
目標相対距離算出手段221は、速度補償有無にかかわらず目標相対距離を算出する。ここで、アップチャープ変調で速度補償を行わない場合の目標相対距離をR、ダウンチャープ変調で速度補償を行わない場合の目標相対距離をRとする。速度補償せず、アップチャープ変調、ダウンチャープ変調した場合の測距結果は、図32に示すように、異なる距離に測距される。
【0145】
目標相対速度算出手段222は、式(53)の連立方程式を解き、式(54)に従い目標相対速度v’を算出する。ただし、K、Kは式(55)、式(56)により算出する。
【0146】
【数30】

【0147】
また、図33のように送信信号周波数掃引時間T間の目標移動を考慮した式(57)の連立方程式が成り立つ。目標相対速度算出手段222は、送信信号周波数掃引時間T間の目標移動を考慮する場合、式(57)の連立方程式を解き、式(58)に従い目標相対速度v’を算出する。アップチャープ変調とダウンチャープ変調の送信信号周波数掃引時間T間の目標移動を考慮することにより、精度良く目標相対速度を算出することが可能になる。
【0148】
【数31】

【0149】
目標相対速度算出手段222は、算出した目標相対速度v’を速度補償手段204Bに出力する。
【0150】
以上のように、この実施の形態6によれば、速度補償のための目標相対速度を予め得られない場合においても、速度補償せず、アップチャープ変調、ダウンチャープ変調した場合の測距結果から目標相対速度を算出することにより、目標相対距離が算出することが可能なレーダ装置を得ることができる。また、この実施の形態6では送信手段2Bを備えた場合について説明したが、送信手段2Bに代えて、送信手段2を用いた場合においても同様の効果を得ることができる。
【0151】
実施の形態7.
この発明の実施の形態7に係るレーダ装置について図34及び図35を参照しながら説明する。図34は、この発明の実施の形態7に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【0152】
図34において、この発明の実施の形態7に係るレーダ装置は、空中線1と、送信手段2Cと、送受切替器7と、受信機8と、信号処理器200と、表示器9とが設けられている。
【0153】
この実施の形態に係るレーダ装置は、上記の実施の形態1に係るレーダ装置と送信手段2Cが異なり、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記して説明は省略する。
【0154】
すなわち、送信手段2Cは、図34に示すように、実施の形態に係る送信手段2の局部発振器6に代えて、局部発振器6Bを有し、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記して説明は省略する。
【0155】
送信手段2Cは、式(4)〜式(6)を満たすFMレンジング後の距離分解能ΔR’FMとサンプリング間隔ΔRFM、相関処理後の距離分解能ΔR’PC、1PRIの折り返し距離Rpriのパラメータが設定される。
【0156】
以降、図35を参照しながら、局部発振器6Bの動作について説明する。この局部発振器6Bは、送信信号周波数掃引時間T、送信信号帯域幅BでPRI間隔に段階的に周波数変調された次の式(59)で表される局部発振信号L(t)を生成し、パルス変調器5と受信機8に出力する。ここで、PRI間隔の周波数変調幅Δfは次の式(60)により算出する。
【0157】
【数32】

【0158】
局部発振器6Bでは、段階的に周波数変調を行っているが受信ビート信号に対する処理は同じ処理を行うため、信号処理器200は、図7に示す処理を受信ビート信号に対して行う。ただし、段階的に周波数変調しているためFMレンジング後の距離のサンプリング間隔はFMレンジング後の距離分解能ΔR’FMと同じになる。パルス内を周波数変調する必要がなくなり、ハードウェアの規模を小さくすることが可能になる。
【0159】
以上のように、この実施の形態7によれば、パルス内を周波数変調する必要がなくなり、ハードウェアの規模を小さくすることが可能になり、かつ、目標相対距離を精度良く算出することが可能なレーダ装置を得ることができる。
【0160】
実施の形態8.
この発明の実施の形態8に係るレーダ装置について図36から図40までを参照しながら説明する。図36は、この発明の実施の形態8に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【0161】
図36において、この発明の実施の形態8に係るレーダ装置は、空中線1と、送信手段2と、送受切替器7と、受信機8と、信号処理器200Gと、表示器9とが設けられている。
【0162】
この実施の形態8に係るレーダ装置は、上記の実施の形態1に係るレーダ装置と信号処理器200Gが異なり、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記して説明は省略する。
【0163】
すなわち、信号処理器200Gは、図36に示すように、実施の形態1に係る信号処理器200のPRI内の距離−FMレンジング後の距離マップ作成手段201に第2の目標候補検出手段206と距離補償手段207を有することが異なっている。また、実施の形態1に係る信号処理器200のPRI内の距離−FMレンジング後の距離マップ作成手段201は相関手段202とFMレンジング手段203の順番は任意で良いが、この実施の形態8に係る信号処理器200GのPRI内の距離−FMレンジング後の距離マップ作成手段201GはFMレンジングの測距結果を用いて距離補償を行うので、距離補償の前にFMレンジングを行う事が異なる。それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記して説明は省略する。
【0164】
図37に示す受信ビート信号に対する各手段の処理内容について説明する。FMレンジング手段203は、式(29)によりパルス圧縮後の信号RV・Ex(n,l)に代えて、式(19)で表される受信ビート信号S(n,m)をPRI方向にH点でIFFTすることでPRI内の距離(相関処理前)−FMレンジング後の距離マップRFMR'PC(k,l)を第2の目標候補検出手段206に出力する。ただし、PRI内の距離(相関処理前)−FMレンジング後の距離マップRFMR'PC(k,l)は図38に示すようにパルス圧縮を行う前のPRI内の信号となっている。
【0165】
第2の目標候補検出手段206は、PRI内の距離(相関処理前)−FMレンジング後の距離マップRFMR'PC(k,l)に対し、式(31)、式(32)を用いてCFAR処理により目標候補を検出する。また、検出された目標候補のPRI間相対距離はPRI間相対距離RFM(k)を式(30)により算出し、補償用相対距離として距離補償手段207に出力する。また、目標候補の検出確率を向上させる場合は、第2の目標候補検出手段206は、次の式(61)によりPRI内の距離方向に積分する。この場合は、図39に示すPRI内積分後の信号に対して、CFAR処理を行うことで目標候補を検出し、相対距離を算出する。
【0166】
【数33】

【0167】
ここで、距離補償手段207の目的について説明する。式(19)で表される受信ビート信号S(n,m)は、複数のPRI間に渡る周波数変調と、パルス内は符号変調が行われており、次の式(62)に表される項はチャープ率が高い場合や遠距離目標の場合、図40に示すように相関処理に影響を与え、距離分解能やサイドローブを劣化させる事が考えられる。
【0168】
【数34】

【0169】
そのため、距離補償手段207は入力された補償用相対距離を用いて、相関処理に影響を与える項を補償することで、測距性能を向上させる。
【0170】
次に、距離補償手段207の動作について説明する。距離補償手段207は、第2の目標候補検出手段206から入力された目標候補の相対距離RFMを用いて、次の式(63)に従いPRI内の距離(相関処理前)−FMレンジング後の距離マップRFMR'PC(k,l)に対して距離補償を行い、距離補償されたPRI内の距離(相関処理前)−FMレンジング後の距離マップRFMR' ''PC(k,l)を相関手段202に出力する。
【0171】
【数35】

【0172】
この実施の形態8では、補償用相対距離をFMレンジング後の信号から求めたが、予め補償用相対距離が設定された場合は、それを用いても良い。また、実施の形態6の場合は、第2の目標相対距離算出手段(図示せず)が次の式(64)により相対距離を求め、それを用いて距離補償を行うことで同様の効果が得られる。
【0173】
【数36】

【0174】
相関手段202は、式(22)から式(28)までを同様に用いて距離補償されたPRI内の距離(相関処理前)−FMレンジング後の距離マップRFMR'''PC(k,l)と参照信号Ex(mτ)との相関処理、つまりパルス圧縮を行い、PRI内の距離−FMレンジング後の距離マップRFMPC(k,l)を出力する。
【0175】
以上のように、この実施の形態8によれば、相関処理の前にFMレンジングを行うために相関手段202の前にFMレンジング手段203、周波数変調や目標相対距離が相関処理に影響を与える項を補償するためにPRI内の距離(相関処理前)−FMレンジング後の距離マップRFMR'PC(k,l)から目標候補を検出し、相対距離を求める第2の目標候補検出手段206、目標候補の相対距離を用いて相関処理に影響を与える項を補償する距離補償を行う距離補償手段207を備えているので、複数のPRIに渡る周波数変調や、目標相対距離の影響が相関処理の際に圧縮特性、つまり、距離分解能やサイドローブ等を劣化させることなく、高距離分解能のレーダ装置を得る事ができる。
【符号の説明】
【0176】
1 空中線、2、2B、2C 送信手段、3 送信機、4 パルス内変調信号発生器、5 パルス変調器、6、6B 局部発振器、7 送受切替器、8 受信機、9 表示器、200、200B、200D、200E、200F、200G 信号処理器、201、201B、201C、201D、201F、201G 距離マップ作成手段、202、202B 相関手段、203、203B レンジング手段、204、204B 速度補償手段、205 フィルタ処理手段、206 第2の目標候補検出手段、207 距離補償手段、220 目標候補検出手段、221 目標相対距離算出手段、222 目標相対速度算出手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PRI内の距離の距離アンビギュィティを解消できるFMレンジング後の距離分解能と、FMレンジング後の距離分解能よりPRI内の距離分解能が高精度になるようなパラメータに基づき複数のPRIに渡って周波数変調されたキャリア信号に対してPRIでパルス変調された送信信号を放射する送信手段と、
目標で反射して戻った前記送信信号を受信信号として受信し、この受信信号に対して、前記送信手段から得られる前記キャリア信号を用いてダウンコンバートし受信ビート信号に変換する受信手段と、
前記受信手段から得られる受信ビート信号に対しFMレンジングを行い、目標との相対距離を算出するためのPRI内の距離−FMレンジング後の距離マップを作成するPRI内の距離−FMレンジング後の距離マップ作成手段と、
前記PRI内の距離−FMレンジング後の距離マップ作成手段から得られるPRI内の距離−FMレンジング後の距離マップに対し、信号の強度に基づき目標候補を検出する目標候補検出手段と、
前記目標候補検出手段から得られる目標候補のFMレンジング後の距離を用いて、PRI内の距離の距離アンビギュィティを解消し目標との相対距離を算出する目標相対距離算出手段と
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記PRI内の距離−FMレンジング後の距離マップ作成手段は、入力された速度を用いて、目標移動の影響を低減するように速度補償を加える
ことを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記送信手段は、レーダ装置とクラッタの関係に基づき、前記PRI内の距離−FMレンジング後の距離マップ作成手段により作成されたPRI内の距離−FMレンジング後の距離マップ上で目標がクラッタに埋もれないように考慮したパラメータを加える
ことを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記PRI内の距離−FMレンジング後の距離マップ作成手段は、レーダ装置とクラッタの関係に基づき、クラッタの影響を低減するようにフィルタ処理を加える
ことを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記PRI内の距離−FMレンジング後の距離マップ作成手段は、クラッタの影響を低減するように窓関数処理を加える
ことを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項6】
異なる時刻の送信信号が目標で反射して戻った受信信号から得られた目標候補を用いて、目標との相対速度を算出する目標相対速度算出手段をさらに備えた
ことを特徴とする請求項2記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記送信手段に代えて、PRI内の距離の距離アンビギュィティを解消できるFMレンジング後の距離分解能と、FMレンジング後の距離分解能よりPRI内の距離分解能が高精度になるようなパラメータに基づき複数のPRIに渡って段階的に周波数変調したキャリア信号に対してPRIでパルス変調された送信信号を放射する送信手段を備えた
ことを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記送信手段は、前記キャリア信号に対してPRIでパルス内変調を加え、
前記PRI内の距離−FMレンジング後の距離マップ作成手段は、前記受信ビート信号に対しパルス内変調との相関処理を加える
ことを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記PRI内の距離−FMレンジング後の距離マップ作成手段は、前記相関処理の前に、FMレンジングの測距結果に対して、PRI内の距離方向に積分することで目標候補の検出確率を向上させる
ことを特徴とする請求項8記載のレーダ装置。
【請求項10】
前記PRI内の距離−FMレンジング後の距離マップ作成手段は、前記相関処理の前に、FMレンジングの測距結果あるいは予め得られた距離情報を用いて、周波数変調及び目標距離の相関処理への影響を低減するように距離補償を加える
ことを特徴とする請求項8記載のレーダ装置。
【請求項11】
異なる時刻の送信信号が目標で反射して戻った受信信号から得られた目標候補を用いて、目標との相対距離を算出する第2の目標相対距離算出手段をさらに備えた
ことを特徴とする請求項6記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【公開番号】特開2010−169671(P2010−169671A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286446(P2009−286446)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】